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論文審査の結果の要旨
氏名:金 子 竜 二
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:Dopant-Free Organic and Inorganic Hole Transport Materials for Perovskite Solar Cells (ペロブスカイト太陽電池のための添加剤フリー有機・無機正孔輸送材料)
審査委員: (主査) 教授 大 月 穣
(副査) 教授 大 内 秋比古 教授 鈴 木 薫
文明社会を持続させるためのエネルギー源として最も望ましいのは太陽エネルギーである.しかし現 状では,人類が年間で生産しているエネルギー5.9×1020 J のうち,太陽電池によって生産されている エネルギーは 0.3%に満たない(Key World Energy Statistics (IEA)).地上に降り注ぐ太陽エネルギ ーは年間 3×1024 J におよび,このうち 0.02%を利用できるだけで,全エネルギーが賄える計算なのに である.これは,現存の太陽電池が高コストであることを示しており,したがって,次世代太陽電池の 研究が活発に行われている.ペロブスカイト太陽電池は,その中の有望株の一つである.「ペロブスカ イト」というのは,ある種の物質の総称であるが,ペロブスカイトの一つを光吸収材料として用いた太 陽電池が 2009 年に初めて報告された.当初の光電変換効率は 3.8%と低かったものの,その後の 10 年 足らずで 20%を超える効率が達成されている.基本構造は,光を吸収するペロブスカイト層を正孔輸送 層と電子輸送層で挟んだものである.正孔輸送層には spiro-OMeTAD という有機材料が標準的に用いら れるが,正孔移動度が小さい,つまり電流を流しにくいためにドーパントと呼ばれる微量成分を添加し て使用に供される.ところがこのドーパントは,ペロブスカイトに悪影響を及ぼすなど,いくつかの問 題を抱えている.本研究において金子竜二氏は,ドーパントフリー(ドーパントを用いない)で機能す る正孔輸送材料を新たに開発するための検討を,有機物質,無機物質の両方について行い,材料設計の ための新たな指針を見出している.
第1章では,太陽電池の概要,特にペロブスカイト太陽電池の概要と機構をまとめ,太陽電池の特性 評価法について解説している.そして,正孔輸送材料に用いられるドーパントの問題点を挙げ,本研究 の目的および本論文の構成を記している.
第2章と第3章では,有機物質を用いたドーパントフリーの正孔輸送材料候補として,TTF(テトラチ アフルバレン)と呼ばれる基本構造を持つ分子に着目し検討した結果が記されている.TTF は結晶状態 で有機伝導体になることで知られる分子であり,電子のエネルギーが比較的高く,電子を他の分子に渡 して陽イオンになりやすい.第2章には,TTF 分子を自己集合させる研究が記されている.TTF 分子を 規則的に配列させると電子を受け渡して,陽イオンとなる場所が次々に移動する——正孔が移動する——
材料になるであろうと推察し,TTF 分子が自己集合的に配列するように水素結合部位を化学的に導入し た分子をいくつか合成した.そのうちの一つが混合原子価状態と呼ばれる陽イオンと中性の分子が強く 相互作用した状態を形成することを見出し,電子的な相互作用の大きい材料の設計にあたって自己集合 を用いる超分子化学的アプローチが有用であることを示した.第3章ではこの分子の正孔輸送層として の特性を評価している.マイクロメートルスケールでは,この分子はファイバーを形成することを明ら かにし,このファイバーからなる層を正孔輸送層として利用する検討を行っている.この材料の伝導度 は,1.3×10-5 S cm-1でありドーパントを添加した Spiro-OMeTAD よりも大きいことを見出し,また,こ の正孔輸送層を用いたペロブスカイト太陽電池は,ドーパント添加の Spiro-OMeTAD と比べ,短絡電流 は劣るものの,開放電圧はむしろ優っていた.
第4章と第5章では,正孔輸送材料として,無機材料を検討している.無機材料を用いる場合でも,
コスト等の観点から有利な溶液プロセスで作成できる正孔輸送層が望ましい.この点から,伝導特性に 優れたことが知られている酸化ニッケルナノ粒子の利用を検討した.第4章には,ナノ粒子の分散特性 を向上させた研究が記されている.ナノ粒子を溶液として分散し,ペロブスカイト層の上に薄膜化でき ればいいのであるが,酸化ニッケルナノ粒子が良く分散する水は,ペロブスカイトを分解してしまう.
そこで,ナノ粒子表面を小さな有機分子で覆い,ペロブスカイトが影響を受けない有機溶媒中に分散す
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ることを検討した.有機分子としてヘキサン酸を用いた場合に,ペロブスカイト層の上に均一な薄膜を 形成できることを示し,薄膜の伝導度は 1.2×10-5 S cm-1とドーパントを含む spiro-OMeTAD よりも大 きかった.さらに,ヘキサン酸を用いない場合に比べてペロブスカイト太陽電池の効率が 5.5%から 13.1%まで上昇することを見出している.第5章では,酸化ニッケルへコバルトを混合させる効果につ いて検討している.ニッケルに少量のコバルトを混合することによって,生成する酸化コバルトのエネ ルギー準位をコントロールできることを示した.コバルト混合割合が系統的に異なる酸化ニッケルを正 孔輸送層に用いて,それぞれペロブスカイト太陽電池を作成し,コバルトの割合が太陽電池特性に与え る影響を明らかにした.このコバルト混合酸化ニッケルを用いた太陽電池の仕事は,最近2年間に雑誌 Solar Energy に発表された論文のうち最も優れた 5 報に授与された Best Papers Award 2019 を受賞し ている.
第6章では以上の研究が要約され,得られた結果が今後の材料開発に有用であることが記されている.
以上,本論文に記されている研究は,本論文の執筆者である金子竜二氏が主体となって行ったもの である.このことは,金子竜二氏が自立して研究活動を行い,又はその他の高度な専門的業務に従事 するに必要な能力及びその基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである。
よって本論文は,博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
令和2年2月20日