症例報告
高 ア ンモニ ア血 症 を伴 った敗 血 症 剖検 症 例
柴 山 惟1)2), 柳 内 充1), 原 田 太 以 佑3), 柳 田 雄 一 郎2), 伊 丹 弘 恵1),
辻 隆 裕1), 臼 渕 浩 明3), 牧 瀬 博2), 深 澤 雄 一 郎1)
要 旨
高 ア ン モ ニ ア 血 症 を 伴 っ た 重 症 敗 血 症 の 剖 検 例 を 報 告 す る 。 症 例 は72才 女 性 。 当 院 搬 入4日 前 か ら悪 寒 と微 熱 、2日 前 か ら膝 の 痛 み が 出 現 し た 。 搬 入 当 日 は 呼 吸 窮 迫 、 意 識 消 失 で 当 院 に 救 急 搬 送 され た 。 搬 入 時JCS 100RI、 血 圧110/68mmHg、 左 共 同 偏 視 を 認 め た 。DICの 状 態 で 、 ア ン モ ニ ア 、 エ ン ド トキ シ ン も 著 明 高 値 で あ っ た 。 血 液 培 養 か ら H.influenzaeが 検 出 され た 。 搬 入 後 、 脳 腫 脹 が 進 行 し搬 入3日 目 に 死 亡 確 認 さ れ 、 死 亡 6時 間 後 に 剖 検 が 行 わ れ た 。 両 側 膝 関 節 か らH.influenzaeが 検 出 さ れ 、 組 織 学 的 に は 肺 膿 瘍 、 壊 死 性 筋 膜 炎 が 認 め ら れ た 。 気 道 感 染 か ら 菌 血 症 と な り両 膝 関 節 炎 、 壊 死 性 筋 膜 炎 を 来 た し 、 敗 血 症 性 シ ョ ッ ク か ら 循 環 不 全 、 肝 壊 死 を 来 し た と 考 え ら れ た 。 著 し い 高 ア ン モ ニ ア 血 症 の 原 因 は 、 肝 機 能 障 害 に よ る 尿 素 回 路 を 介 し た ア ン モ ニ ア 分 解 能 障 害 、 シ ョ ッ ク に よ る肝 グ ル タ ミ ン シ ン テ タ ー ゼ 活 性 低 下 、 腎 前 性 腎 不 全 よ る ア ン モ ニ ア 排 出 能 低 下 の3点 か ら な る ア ン モ ニ ア 除 去 能 の 低 下 に 加 え 、 壊 死 性 筋 膜 炎 に よ る 筋 壊 死 と H.influenzaeが 産 生 す る ウ レ ア ー ゼ に よ り ア ン モ ニ ア 合 成 が亢進 した た め と 考 え られ た 。 通 常 敗 血 症 の 病 態 で は ア ン モ ニ ア は 採 血 さ れ な い こ とが 多 い が 、 本 症 例 の よ う に 異 常 高 値 を 示 す こ と も あ り病 態 把 握 な ら び に 予 後 予 測 に 有 用 で あ る 可 能 性 が あ る 。
キ ー ワ ー ド:高 ア ン モ ニ ア 血 症 、 敗 血 症 性 シ ョ ッ ク 、H.influenzae
は じめ に 症 例
敗 血 症 患 者 の 診 療 に お い て ア ンモ ニ ア値 が 測 定 され る こ とは一 般 的 で は な く、 測 定 され て も肝 機 能 障害 で 病 態 の 説 明 が 可能 で あ る症 例 が 多 い 。 今 回我 々 は ア ン モ ニ ア 値 が3987μg/dlと 肝 機 能 障 害 のみ で 説 明 しが た い 高 ア ン モ ニ ア血 症 を呈 した 敗 血 症 症 例 に病 理 解 剖 を 行 っ た症 例 を経 験 した 。 得 られ た 所 見 に若 干 の 文献 的考 察 を加 え報 告 す る。
市 立 札 幌 病 院 1)病 理 診 断 科 2)救 命 救 急 セ ン ター 3)放 射 線 診 断 科
72才 女 性
主 訴:両 膝 痛 ・意 識 消 失
既 往 歴:胃 癌(他 院 で1991年 幽 門 側 胃切 除 術 、 Billroth I再 建 術 を施 行 後 再 発 な し)、 橋 本病 、 高血 圧 、高 脂 血 症 、 高 尿 酸血 症(他 院 通 院 中) 家族 歴:特 記 事 項 な し
現 病 歴:当 院 搬 入4日 前 か ら悪寒 と微 熱 が あ った 。 搬 入3日 前 、 近 医 を受 診 した と ころ感 冒 と して 感 冒 薬 を処 方 され た 。 搬 入2日 前 に は膝 の痛 み が 強 く朝 か ら立 て な くな った 。 搬 入1日 前 は食 事 摂 取 も困難 に な り、 他 院 に救 急搬 送 され た。 膝 の 痛 み に対 して解 熱 鎮 痛 薬 を処 方 され経 過 観 察 とな った が 、 そ の後 も両 膝 の 痛 み は続 い て い た。 搬 入 当 日、
札 病 誌 第72巻 第1号(OCT.2012) 87
WBC
..
Hb Ht MCV MCH MCHC RDW PIt
1100/オ1 427万/μ1
11.7g/dl 35.90%
84.1f1 27.4Pg 32.6g/dl 15.30%
41000/オ1
T‑Bil AST ALT LDH TP Na K CI Ca BUN Cre AMY CK
ア ン モ ニ ァ
表1 血液生化学検査所見
1.1mg/dl 591U/L 261U/L 3831U/L 5.89/dl 14?mEq/L 3.6mEq/L 109mEq/L 8.4mg/dl 84mg/dl 4.9mg/dl 91U/L 8071U/L 3987オg/dI
エ ン ド トキ シ ン415オg/d【
CRP 43.8mg/dl PT PT‑INR APTT
Fib FDP D‑Dimer AT一 皿
47% pH ユ.4 PaCO2 34sec PaO2 760mg/dl Glu 20.2オg/ml Lac 6フ μg/ml BE 42% HCO3 AG
7.31 22mmHg 166mmHg 121mg/dl 7.2mEq/L
‑13mEq/L 11.Ommol/L 22.4mmol/L
(リ ザ ー バ ー0210L)
図1 頭 部CT
a:搬 入 当 日。b:搬 入2日 目。2日 目に 脳 浮 腫 を み る 。
一
高 ア ンモ ニ ア血 症 を伴 っ た敗 血 症 剖 検 症 例
b
墜 夢 ∴"戴讐 、
C d
藩.
郵 膳
寧 .箋讐 噌
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・、 概
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0
a b C d
図2 胸 腹 骨 盤 造 影CT(搬 入 当 日) 右S6の 壁 肥 厚 を 伴 う空 洞性 病 変(矢 印)。
肝 造 影 効 果 は保 た れ る 。 腎 は 萎 縮 し造 影 効 果 不 良 で あ る。
右 大 腿 中間 広 筋 か ら内 側 直 筋 に か け て 腫 大 と内部 の低 吸 収 域 。
家 人 が 様 子 を 見 に 行 く と咳 き 込 ん で お り便 失 禁 し て い る 状 態 だ っ た 。 次 第 に 呼 吸 が 荒 くな り、 反 応 も 悪 くな っ た た め 当 院 に 救 急 搬 送 さ れ た 。 搬 入 時 現 症:JCS100RI GCS EIVIM4、 体 温 35.7°C、 呼 吸 数34/分 、SpO299%(リ ザ ー バ ー マ ス ク 酸 素10L/分)、 呼 吸 音 は 清 明 だ っ た 。 心 拍 数122bpm、 血 圧110/68mmHg。 高 度 の 肥 満 を 認 め た 。 瞳 孔 は 左/右5mm/4mm(+/+)、 左 共 同 偏 視 を 認 め た 。 両 膝 関 節 に 発 赤 や 腫 脹 は 認 め ら れ な か っ た 。 四 肢 末 端 で 末 梢 血 管 補 充 時 間 は5秒 と延 長 し て い た 。
血 液 生 化 学 的 検 査 所 見(表1):自 血 球 数 減 少 、 血 小 板 数 減 少 、CRP上 昇 が 認 め ら れ た 。 BUN 84mg/d1、 Cr 4.9mg/dlと 上 昇 し 腎 機 能 障 害 が 示 唆 さ れ た 。T‑Bi11.1mg/dl、 AST 591U/L、 ALT 261U/L、 PT 47%と 肝 機 能 障 害 と 凝 固 能 低 ドが 認 め ら れ た 。CK 8071U/Lと 上 昇 し て い た 。 ア ン モ ニ ア3987μg/d1、 エ ン ド トキ シ ン415μg/d1と 異
常 高 値 だ っ た 。 急 性 期DIC診 断 基 準 でDIC score は6点 と 診 断 基 準 を 満 た し て い た(SIRSの 診 断 基 準 ≧3項 目:1点 、iflL小板 く8万:3点 、 FDP 10≦<25:1点 、PT比1.2≦:1点)。 血 液 ガ ス 検 査 で は 、pH 7.314、 pCO222.3mmHg、 pO21 64mmHg、 BE‑13.4mmo1/1、 AG 22.4mmol/1と
代 謝 性 ア シ ドー シ ス を 呼 吸 性 に 代 償 し て い る 状 態 で あ っ た 。
画 像 所 見:全 身CTを 施 行 し た 。 頭 部 で 脳 腫 脹 は 明 ら か で は な か っ た(図1a)。 肺 に 両 側 下 葉 優 位 に す り ガ ラ ス 像 とconsolidationが 認 め ら れ 、 右S6で は 壁 肥 厚 を 伴 っ た 空 洞 性 病 変 が 認 め ら れ た(図2a)。 左 肺S'†2、 S1°に 石 灰 化 結 節 が 認 め ら れ 、 左 肺 門 部 リ ン パ 節 に 石 灰 化 が あ り陳 旧 性 結 核 が 疑 わ れ た 。 肝 臓 の 造 影 効 果 は 保 た れ て い た (図2b)。 門 脈 本 幹 が10mmと 狭 小 化 し て お り上 腸 間 膜 静 脈 も 著 明 に 狭 小 化 し て い た が 、 腸 管 の 造 影 効 果 は 保 た れ 腸 管 浮 腫 も 認 め ら れ な か っ た 。 ま
一札 病 誌 第72巻 第1号
OCT.2012 1
89た肝 内 門脈 にガ ス 像 は な く腸 管 壊死 を疑 う所 見 は 認 め られ なか った 。 脾 臓 の 造 影 効果 は不 良 で 虚血 が疑 わ れ た。 両 側 腎 も造 影 効 果 が 不 良 で 、萎 縮 を 示 した(図2c)。 右 大 腿 中間広 筋 か ら内側 直 筋 に か け て腫 大 して お り内 部 に低 吸 収域 が認 め られ 、 炎 症性 変 化 が疑 わ れ た(図2d)。
臨 床 経 過(図3)
以 上 よ り重 症 敗 血 症 、DICと 診 断 し て 治 療 を 開 始 した 。ICU入 室 の 上 、 人 工 呼 吸 管 理 下 にCHDF・
エ ン ド トキ シ ン 吸 着 療 法 を 開 始 し た 。 そ の 後 、 循 環 動 態 を 保 て な く な り ノ ル ア ド レナ リ ン と ドパ ミ ン 投 与 も 開 始 し た 。 抗 菌 薬 を 投 与 し 、DICに 対 し
図3 臨床経過
て は リ コ ン ビ ナ ン ト トロ ン ボ モ ジ ュ リ ン 、 ア ン チ ト ロ ン ビ ン 皿 、 ダ ナ パ ロ イ ド投 与 を 開 始 し た 。 敗 血 症 性 シ ョ ッ ク に 対 し 副 腎 皮 質 ス テ ロ イ ドも 投 与 した 。 そ の 後 も 状 態 は 悪 化 し 散 瞳 と対 光 反 射 の 消 失 が 確 認 さ れ た 。 搬 入2日 目 のCTで 脳 腫 脹 の 増 悪 が 確 認 さ れ た(図1b)。 AST 1025U/1、 ALT 342U/1と 肝 逸 脱 酵 素 は 増 加 し 、 CTで 肝 臓 は 造 影 効 果 不 良 と肝 壊 死 を 示 す 所 見 だ っ た 。CTで 両 側 下 葉 のconsolidationは 顕 著 に な り 、 肺 炎 ま た は 肺 出 血 が 疑 わ れ た 。 ま た 、 右 肺S6の 空 洞 内 に 液 面 形 成 が 認 め ら れ 、 肺 膿 瘍 が 疑 わ れ た 。CT上 、 腸 管 の 造 影 効 果 は 不 良 で 肝 内 に ガ ス 像 が 認 め ら れ 、 腸 管 虚 血 ま た は 腸 管 壊 死 が 疑 わ れ た 。 救 命 困 難 と
判 断 し 、 家 族 と相 談 の 上 さ ら な る 積 極 的 治 療 は 中 止 し た 。 搬 入3日 目(症 状 発 現 か ら7日 目)に 永 眠 さ れ た 。
臨床 上 の 問 題 点
① 著 しい 高 ア ンモ ニ ア 血 症 の 原 因
② 腎 機能 低 下 の 原 因
病理解剖所見
死 亡6時 間 後 に病 理 解 剖 を施 行 した 。 眼 球 結 膜 に は軽 度 黄 疸 を認 め 、 口唇 は黒 色 だ っ た。 右 上 下 肢 を 中心 と して 紫 斑 、 皮 膚 剥 脱 、 お よび 水庖 形 成 を認 めた 。 胸 水 はな く、 腹 水 は黄 色 清 、少 量 を認
縫
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麟 懸
b
図4 a:両 膝 関節 液 両側 とも膿 性 だ っ た。
b:グ ラム 染 色 像 。 グ ラム 陰 性 桿 菌 の 貧 食 され る像 。
90 5 ( G r
高 ア ン モ ニ ア血 症 を伴 った 敗 血 症 剖 検 症 例
め た。
両 下 腿 は紫 色 で 両膝 関節 は腫 脹 して い た。 両 膝 関節 穿刺 を施 行 す る と、 関 節 液 は い ず れ も膿 血 性 だ っ た(図4a)。 グ ラ ム 染 色 す る と グ ラ ム 陰 性 桿 菌 が 貧 食 され る像 を 確 認 し(図4b)、 培 養 の 結 果H.influenzaeと 同定 され た。 肉眼 的 に右 前 脛 骨 筋 の色 調 が悪 く、 組 織 学 的 には 筋 細 胞 間 ・結 合 組 織 間 お よび脂 肪 細 胞 周 囲 に炎 症 細 胞 が 高 度 に浸 潤 して い た(図5)。
肺 は 肉 眼 的 に右 下 葉 に空 洞 が あ り、 内部 に は膿 瘍 形 成 を認 め た(図6a)。 右 中葉 に も既 存 の 構 造 を破 壊 した 小 膿 瘍 腔 が あ っ た(図6b)。 組 織 学 的 に も空 洞 内 に は膿 瘍 形 成 を認 め 、 右 中葉 で も 膿 瘍 を認 め た。 右 下 葉 、 中葉 と も に膿 瘍 周 囲 で は
図5 前 脛 骨 筋 内 に 多 核 球 優 位 の 炎 症 細 胞 浸 潤 が 認 め られ 、 壊 死性 筋 膜 炎 の 所 見 だ った 。
肺 胞 破壊 が顕 著 で 好 中球 を主 体 とす る炎 症 細 胞 浸 潤 を認 め た。 組 織 学 的 な病 原 体 の 同定 には 至 らな か った 。 この ほ か全 肺 野 にわ た り肺 胞 破 壊 、 胞 隔 肥 厚 お よび 炎症 細 胞 浸 潤 が あ り、 上 皮 の 脱 落 、 ご くわ ず か な 硝 子 膜 形 成 が み られ 、diffuse alveo‑
lar damageの 早 期 像 をみ て い る と考 え られ た 。 この 他 、 肺 水腫 を呈 す 部 分 も認 めた 。
脾 臓 は 重 量140gと 増 加 して お り、 肉 眼 的 に は うっ血 を認 め 固 定後 の割 面 で は膨 隆 を示 して い た 。 組 織 学 的 には 、 白脾 髄 の拡 大 お よ び赤 脾髄 へ の 単 核 球 浸 潤 もあ り感 染脾 の所 見 だ っ た。
肝 臓 は 肉 眼 的 に は うっ血 してお り辺 縁 は鈍 化 し 内部 に壊 死 を 認 め た。 組 織 学 的 に は、 中心 静 脈 周 囲を 中心 とした壊 死 を認 め、類 洞 の拡張 と胆 汁 うっ 滞 を認 め た 。 部 分 的 に肝 小 葉 内 に好 中球 を主 体 と す る炎 症 細胞 浸 潤 の 集蕨 を認 め、 肝 実 質 に炎 症 が 波 及 して い た 。
腎 臓 は 左190g、 右185gと 増 加 し て い た 。 組 織 学 的 に は うっ 血 の ほ か 、 近 位 尿 細 管 は 膨 化 や brush borderの 消 失 が み られ 、 急 性 尿 細 管 障 害 の 所 見 で あ っ た。 糸球 体 は肥 大 を示 す が 形 態 はお お む ね 保 た れ 、 全節 性 硬 化 も5%程 度 で あ った 。 糸 球 体 腎 炎 の 像 は み られ な か っ た。 弓状 動 脈 、 小 葉 間 動 脈 に は 内膜 層 状 肥 厚 が み られ 、 間 質 に は focalに線 維 化 と萎 縮 を認 め た。
この ほか 副 所 見 と して心 の 求心 性 肥 大 、 散 在 す る腸 管 の 虚血 壊死 、胆 嚢 の コ レステ ロー シ ス を認 め た 。 胃癌 の 再 発所 見 は 見 られ な か った 。
a b
⇔
図6
a:右 肺 下 葉 に 空 洞 が あ り内部 に 膿 瘍 貯 留 が 認 め られ た(矢 印)。
b:右 肺 中 葉 の 膿 瘍 腔 が 認 め られ た(矢 印)。
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剖検診断
主病 変:
敗 血 症 肺 膿 瘍 、 び ま ん性 肺 胞 障 害 、 両膝 か ら前 脛 骨 筋 に か けて の 関 節 炎 お よび 筋膜 炎 、肝 、脾 肝 虚 血 壊 死
副 病 変:
心 求 心 性 肥 大
胃癌 Billroth I法 再建 術 後 状 態 、 再 発 な し 胆 嚢 コ レス テ ロー シス
腎臓 近 位 尿 細 管 障 害 腸 管 虚 血 壊 死 腹 水 少 量
考 案
H.influenzaeが 血 液 培 養 な らび に膝 関 節 液 か ら 同 定 され て お り、H.influenzaeに よ る重 症 敗 血 症 と考 え られ た 症 例 で あ った 。H..influenzaeは 市 中 肺 炎 の起 炎 菌 と して は あ りふ れ た もの で あ るが 、 そ の 一 方H.influenzaeに よ る壊死 性筋 膜 炎 の 報 告 は な され て い る も の の症 例 は 限 られ て お り1)2)、
65歳 以 上 、 糖 尿 病 の既 往1)、 膝 疾 患 や 筋 疾 患 の 既 往 、 膝 関 節 注 射 の既 往2)に よ り罹 患 しや す い と さ れ て い る。 本 症 例 で は65歳 以 上 で あ るが 、 糖 尿病 や 壊死 性 筋 膜 炎 の契 機 とな る よ うな膝 関節 や 筋疾 患 の既 往 は な か った こ とを考 慮 す る と、 当院搬 入 4日 前 の悪 寒 、 発 熱 は剖 検 所 見 にあ っ た肺 膿 瘍 、 も し くは肺 炎が 存 在 して お り、 菌 血症 へ と進 行 し て い っ た もの と考 え られ る。 当院 搬 入2日 前 に は 膝 痛 を訴 え てい たが 、 これ は 敗 血 症へ と進 行 し膝 関節 炎 を発 症 した時 期 と合 致 す る と推 察 され る。
そ の後 、 脾 臓 や 肝 臓 に も炎 症 が広 が り肝 細 胞 壊 死 を来 た し肝 機 能 が 低 下 した と考 え られ た。
本 症 例 で 特 徴 的 な の は著 しい 高 ア ンモ ニ ア血 症 で あ る。 血 清 ア ンモ ニ ア 値 の 上 昇 は 神経 毒 性 ひ い て は脳 ヘ ル ニ ア を引 き起 こす た め 、速 や か な診 断 と治 療 が 必 要 とな る。 一 般 的 にみ られ る高 ア ンモ ニ ア血 症 は肝 機 能 障 害 で 病 態 の説 明 が 可能 で あ る 場 合 が 多 い が 、 本 症 例 は初 診 時 に3987μg/dlと 異 常 な 高 値 で あ り、 肝 機 能 障 害 単独 で は説 明 の 出来 ない 値 で あ った 。
ア ンモ ニ ア合 成 は 全 て の臓 器 で 行わ れ る が主 に 5つ の 臓 器 、 す な わ ち消 化 管 、 腎臓 、 骨 格 筋 、 肝
92 1S C G H
臓 、脳 で 行 わ れ る3)4)5)。 大 半 は 消 化 管 に よ り食 事 中 か ら吸 収 した グル タ ミン を グル タ ミナ ーゼ に よ る異 化 で 合 成 され るが 、 消 化管 で は細 菌 の代 謝 に よ って も合 成 され る。 腎 臓 で は主 に グ ル タ ミン 異 化 で 合 成 され 、 酸 塩 基 平 衡 の調 節 に用 い られ て い る。 骨 格 筋 で も グル タ ミン異 化 で 合 成 され 、 エ ネ ル ギ ー を得 て い る。 各 臓 器 で 合 成 され た ア ンモ ニ ア は 速 や か に グル タ ミン シ ンテ タ ーゼ に よ り無 害 な グル タ ミン に同 化 され 小 腸 へ 運 ばれ る。 小 腸 で は グル タ ミン異 化 を担 うグル タ ミナ ー ゼ 合 成 量 が グル タ ミン同 化 を 担 うグル タ ミン シ ンテ ター ゼ 合 成 量 よ りもは るか に多 い 為 、 グル タ ミン異 化 で 合 成 され た ア ン モ ニ ア は 門脈 経 由 で肝 臓 へ 運 搬 さ れ る 。肝 臓 で ア ンモ ニ ア は尿 素 サ イ クル を経 て 尿 素 とな る。
尿 素 サ イ クル は ア ン モ ニ ア排 出 の 主 な 経 路 だ が 、 ア ン モ ニ ア が異 常 高値 に な る と腎臓 、 筋 肉 、脳 で 代 謝 し代 償す る。 代 償 機 構 と して 最 初 に機 能 す る の は 腎 で 、尿 中へ の ア ン モ ニ ア排 出 を 促 進 す る と 共 に ア ン モ ニ ア の再 吸 収 を抑 制 す る。 最 大 の 代 償 器 官 は骨 格 筋 で、 グル タ ミン 同 化 に よ りア ン モ ニ ア を除 去 す る。 これ らで代 償 しきれ な か っ た ア ン モ ニ アが 脳 に入 る と、 ア ス トロサ イ トに よる グル タ ミン 同化 で ア ンモ ニ ア代 謝 が行 わ れ る が 、解 毒 能 は 限定 的 で あ る。 脳 内 の ア ンモ ニ ア濃 度 が 上昇 す る と、 ア ス トロサ イ トか らTNF一 α、 IL‑1、 IL‑
6等 の 炎 症 性 サ イ トカ イ ンが 分 泌 され る と と も に グル タ ミン に よ り細 胞 内浸 透 圧 が 上 昇 す る。 さ ら に は ピル ビ ン酸 代 謝 も阻 害 され 脳 実 質 内 で 乳酸 が 増 加 し、 脳 浮 腫 、 脳 ヘ ル ニ アへ と進 行 す る。
高 ア ンモ ニ ア血 症 の 原 因 として 、 ア ンモ ニ ア分 解 能 低 下 と ア ンモ ニ ア 合 成 充 進 が 考 え られ る。 本 症 例 で は 、 ア ンモ ニ ア 分 解 能 低 下 の原 因 と して肝 機 能 障 害 、 腎 機 能 障 害 、 シ ョッ クが 挙 げ られ る。
肝 機 能 障 害 につ い て は 組 織 学 的 に 中心 静 脈 周 囲 を 中心 と した 広 範 な 壊 死 が 確 認 され 、 尿 素 回 路 を介 した ア ンモ ニ ア分 解 能 が 著 し く障 害 され て い た と 考 え られ る。 シ ョッ ク に よ る肝 臓 へ の 血 流 低 下 は 尿 素 サ イ クル を障 害 す るの み な らず 、 グル タ ミン 同 化 を担 うグル タ ミン シ ンテ ター ゼ 作 用 を阻 害 す る6)。 グル タ ミン シ ンテ タ ー ゼ は 尿 素 サ イ クル で 処 理 し きれ な か った ア ンモ ニ ア を 除 去 す る働 き を 有 して お り、 シ ョッ ク に よ る活 性 低 下 で 更 な る高 ア ンモ ニ ア 血 症 を来 した と考 え られ る。 腎 機 能 に
つ い て は組 織 学 的 に概 ね 糸球 体 お よび 尿細 管 構 造 は 維持 され てい た が 、 急 性 尿 細 管 障 害 を 示唆 す る 所 見 で あ っ た。 糸 球 体 腎 炎 な ど組 織 学 的 に背景 に 腎 疾 患 の既 往 を 示唆 す る所 見 は 得 られ ず 、肝 機 能 障 害 に よ る肝 腎 症候 群 、 お よび 急 性 尿 細 管 障 害 に よ る腎 性 腎 不 全 の要 素 に加 えて 敗 血 症 性 シ ョッ ク に よる循 環不 良 による腎前 性 腎不全 の要 素 が加わ っ た こ とが ア ンモ ニ ア の排 出 がで きず 高 値 とな った 一 因で あ る と考 え られ た。
一 方 、 ア ンモ ニ ア 合 成̲,̲.IL進の原 因 と して 、 壊 死 性 筋 膜 炎 に よる筋 壊 死 とH.influenzaeに よ る ウ レ ア ー ゼ 産 生 が 考 え られ る 。 搬 入 時 血 液 検 査 で も CK 8071UILと 高 値 で あ りCTで も 右 大 腿 中 間 広 筋 か ら内側 直 筋 にか けて腫 大 して お り内部 に低 吸 収 域 を 認 め 炎 症 性 変 化 が 疑 わ れ て お り(図2d)、
搬 入2日 目 にはCK 2117U/1、 LDH 1696U/1と い ずれ も上 昇 し筋 壊 死 の進 行 が 疑 わ れ た。 剖 検 所 見 で も膝 関節 を 中心 として 関 節 炎 お よび筋 膜 炎、 筋 壊 死 が み られ 、 検 査 所 見 お よび 画 像 所 見 か ら想 定 され た経 過 を反 映 して い た 。骨 格 筋 は体 内最 大 の ア ミノ酸 の貯 蔵 器 官 で あ り、 体 内 の 遊 離 ア ミノ酸 プ ー ル の50%以 上 を 有 す る5)。筋 壊 死 に よ り、 筋 内 の グ ル タ ミン が グル タ ミナ ー ゼ に よ り分 解 され 多 量 の ア ン モ ニ アが 産 生 され た と考 え られ る。 ま た 、H.influenzaeが ウ レア ー ゼ を産 生 す る7)と報 告 され て い る。 ウ レアー ゼ に よ り尿 素 を ア ン モ ニ ア と二 酸 化 炭 素 に分 解 し、 周 辺 環 境 のpHを 上 昇
させ 酸性 環境 で も生 存 で き る よ うにす る と と もに 、 窒 素 源 と し て ア ン モ ニ ア を 利 用 す る 。 H.influenzaeは 栄 養 源 が 限 られ て い て増 殖 しに く い 気 管 にお い て増 殖 す るた め に、 ウ レア ー ゼ作 用
を有 して い る7)と考 え られ て い る。 本 症 例 で は肺 化 膿 症 、 壊 死 性 筋 膜 炎 の 原 因 菌 と し て H.influenzaeが 同 定 され て お り、 双 方 の感 染 にお い て ウ レア ー ゼ に よる ア ンモ ニ ア産 生 が あ っ た 可 能 性 が 考 え られ た。
以 上 、 本症 例 に お いて は ア ンモ ニ ア合 成 充進 、 除 去 能 低 下 、 いず れ もが 考 え られ る複 合 的 な要 因 を有 して い た こ とが著 しい高 値 の 原 因 と推察 され た 。 一 般 に敗 血 症 診 療 にお い て ア ンモ ニ ア は 測 定 され な い こ とが 多 い が、 軟 部 組 織 の炎 症 な ど合成 充 進 が 疑 わ れ る場 合 や 除 去 能 低 下 が 想 定 され る場 合 は 積極 的 に採血 をす る こ とで 病 態 を把 握 し脳 ヘ ル ニ アへ の進 行 を予 防 で き うる可 能 性 が あ る と思
高 ア ンモ ニ ア 血 症 を伴 っ た敗 血 症 剖 検 症 例
わ れ た 。 ま た、 残 念 なが ら本 症 例 の よ うな 著 しい 高 値 の 場 合 に は 、 当初 よ り救 命 困難 で あ る可 能性 が あ り、 ア ン モ ニ ア値 が予 後 予 測 因子 や 積 極 的加 療 の 適 応 を決 め る 因子 とな り うる。 そ の 点 か ら も 測 定 す る意 義 が あ る と考 え られ た。
ま と め
高 ア ンモ ニ ア血 症 を伴 っ た敗 血 症 症 例 の剖 検 例 を経 験 した 。 重 症 敗 血 症 を背景 に ア ンモ ニ アの 合 成 充 進 な らび に除 去 能 の 低 下 とい う複 合 的 要 因 で
著 しい高 ア ンモ ニ ア血 症 を来 た した と考 え られ た 。 重症 敗 血 症 で も高 値 で あ る可能 性 が あ り測 定 意 義 が あ る と考 え られ た 。
参考文献
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札 病 誌 第72巻 第1号(OCT.2012) 93
Hyperammonemia accompanied with severe sepsis:An autopsy case report
Yui Shibayama 1)2), Mitsuru Yanai1), Taisuke Harada3), Yuichiro Yanagida2),
Hiroe Itami1), Takahiro Tsuji1), Hiroaki Usubuchi3), Hiroshi Makise2), and Yuichiro Fukasawa1)
1)Department of Pathology, Sapporo City General Hospital
2)Emergency and Critical Care Center, Sapporo City General Hospital 3)Department of Medical Imaging, Sapporo City General Hospital
Summary
Severe symptomatic hyperammonemia is primarily due to liver disease. We ex‑
perienced a case of hyperammonemia accompanied with severe sepsis, its con‑
centration of ammonia was excessive just for liver failure. We made an autopsy and considered about the cause of hyperammonemia.
A 72‑year‑old woman who had complained of chill and gonalgia a few days
before admission was discovered to be unconscious. Laboratory data showed hyperammonemia (3987 μg/dl), liver failure (AST 59IU/L, ALT 26IU/L, PT 47%) and DIC. H.influenzae was detected from blood culture. Significant inflammation focus or swelling on knees were not found. Despite treatment, cerebral swelling had progressed. The patient died three days after admission.
We considered that hyperammonemia for this patient had composite causes, such as increasing ammonia production and decreasing ammonia elimination.
Acute hyperammonemia has significant morbidity and mortality. Early diagno‑
sis of it for severe sepsis patients is probably useful for estimation of prognosis.
Keywords:hyperammonemia, septic shock, H.influenzae
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