上告許容性の裁判における理由付け義務
片野
B 良
二
三
四
五 はじめに
上告不受理の場合における理由付け義務
憲法異議の受理手続における理由付け義務
上告許可・不許可の裁判における理由付け義務
結語
一はじあに
ドイッ(当時は西ドイッ)における一九七五年の民事上告法改正法律には︑上告不受理の決定に理由付けが必
要であるか否かに関する規定は存在しなかった︒もっとも法務委員会の報告において︑上告不受理の裁判の理由
付けは明規されていないが︑上告許容性の要件を明確にするために理由を付すことが期待されると述べられてい
ア ヲ た︒改正後当初の学説においては︑理由付け義務を否定する見解が通説であり︑連邦通常裁判所の実務において
もそのような取扱いがなされていたところ︑①連邦憲法裁判所(第二部)一九七八年八月九日決定[しU<㊦罵O国おゆ
上告許容性の裁判における理由付け義務( )
二(2)
148(167)]は︑理由が付されていない上告不受理の決定について︑当該民事部が上告受理を拒絶するについて
上告奏功の見込みだけを考慮したのか︑あるいは上訴奏功の見込みがあるにもかかわらず当該民事部の負担量を
ヨ 決定的な観点としたのか︑確定されえないと判示して︑連邦通常裁判所の取扱いを非難した︒もっともその後︑
②連邦憲法裁判所(第二部)一九七九年二月二八日決定[切く①属Ω国こηρb︒87=NJW1979,1161]は︑上告不受理
の決定における理由付けは形式的なもの︑すなわち﹁連邦憲法裁判所(bu︒ω︒匡⊆むD<oヨ㊤.8.197°︒‑卜︒bu<即831/76)
る の解釈におけるZPO五五四b条一項により﹂という理由付けだけでよいと判示した︒しかし︑学説上は現在も
争いがある︒
上告許可の裁判に理由を付すべきかについても︑学説上一致はみられない︒他方︑上告不許可の裁判の場合︑
連邦補償法二一九条三項は理由付けを義務付けているが︑その他の訴訟法においては︑許可の場合と同様争われ
ている︒
裁判の理由付けに関しては︑一般手続法上および憲法上の議論︑さらに法学方法論上の議論がみられる︒法学
方法論上の議論は本稿の範囲外にある︒また︑憲法上の理由付け義務の問題も︑非常に狭い範囲について言及し
たにとどまり︑最終的な結論は留保したままである︒本稿では︑上告許容性の裁判における理由付け義務に関す
る解釈論上の問題(特に一般手続法上の問題)を中心に検討した︒なお︑狭義の上訴ではないが︑憲法異議不受
な ぞ 理の裁判における理由付け義務についても簡単にふれた︒憲法上の理由付け義務および憲法異議の受理手続の詳
細については︑次の課題としたい︒
'1 ( )ErsterBerichtandAntragdesRechtsausschusses(6.AusschuB)zudemvonderBundesregierung
eingebrachtenEntwurfeinesGesetzeszur nderungdesRechtsderRevisioninZivilsachenandin
VerfarenvorGerichtenderVerwaltungs‑undFinanzgerichtsbarkeit,BT‑Dr7/3596,S.8.
( )Rosenberg/Schwab,ZPR,12.Aufl.1977,ァ143I3b ;Thomas/Putzo,ZPO,10.Aufl.1978,ァ554b
Anm.3b°
(3)連邦憲法裁判所(第二部)一九七九年一月一六日決定[じd<①鳶O国αρ115(123)]も同趣旨︒
(4)ただし︑その後︑連邦憲法裁判所(第二部)一九八五年一1月五m決定[BVerfGE71,122(135)]は︑法
.規の明白な文言から外れ︑かつ︑そのことの理由が︑関係人に知られている︑あるいは即座に知ることが可
能であるような事件の特殊性から明白にならないような場合︑GG三条一項の恣意的扱いの禁止は︑法律と
法に対する裁判官の拘束の原則(GG二〇条三項)の考慮から︑最終審の裁判にも理由付け義務を要求する
と判示し︑②の連邦憲法裁判所決定の内容を制限している︒
(5)一九九三年八月二日の連邦憲法裁判所法第五改正法律(じuΩ切d一.I.S.1442)により︑憲法異議の受理手続
における不受理の裁判の理由付け義務が削除された︒
(6)憲法上の理由付け義務が肯定される場合︑一般法が法政策上理由付け義務を免除している場合に︑かかる
規定を違憲とする可能性を有しているし︑かかる規定がない場合︑憲法異議による不服申立てがなされうる
ことになるので︑憲法上の理由付け義務の存否の問題は︑重要な意義を有する︒また︑憲法上の理由付け義
務が存在する場合︑法政策上の要請(裁判所︑特に最上級裁判所の負担軽減など)と憲法上の要請(法的審
問請求権の保護など)との調整が考慮されなければならない︒
上告許容性の裁判における理由付け義務三(3)
四(4)
二上告不受理の場合における理由付け義務
ω真正の理由付け義務
連邦憲法裁判所の②決定以後︑上告不受理の裁判には形式的な文言を付せばよいとする判旨に賛成する見解が
ハユ 多数説となった︒グルンスキーは︑②決定以前は単に上告不受理の裁判には理由が付されねばならないと解して
いたが︑②決定が下された後は︑連邦憲法裁判所の見解と同じく︑理由付けは必要であるが︑形式的に連邦憲法
ヨ 裁判所の判例を引用すればよいとしている︒また︑②決定以前︑理由付け義務を否定していた見解も︑②決定以
る 後︑形式的な文言を必要と解するものが多くなっている︒もっとも︑連邦憲法裁判所が要求している﹁連邦憲法
1 (Beschlul3vom9.8.197°︒‑鱒bu<国゜︒°︒く♂)の解釈におけるZPO五五四b条一項により﹂という文言が裁
判﹁理由﹂になるのか否かについては︑多数説の中で一致は見られない︒例えば︑グルンスキーは右文言を﹁理な ぞ 由﹂と解しているが︑ヴァルクスヘェーファは理由付け義務を否定し︑かつ右文言を要求している︒すなわち︑
グルンスキーは︑形式的な理由が付されていれば理由付け義務として十分であると解するのであり︑他方ヴァル
クスヘェーファは︑理由付け義務は存在せず︑単に形式的な理由(文言)のみが要求されていると解しているの
である︒上告不受理の裁判に理由付けが必要であるか否かを検討するに際して︑このような文言が真正な裁判理
由であるかは重要な前提問題となる︒
法規や連邦憲法裁判所判例の指摘(Hinweis)は真正の裁判理由とはいえない︒なぜなら︑このような文言は︑
ア なにゆえ当該裁判を支えうるのか︑を示すことができないからである︒すなわち真正な理由付けというためには︑
なにゆえ上告受理の要件(原則的意義および上告奏功の見込み)が存在しないかを具体的に示す必要がある︒グ
ルンスキーのように︑形式的な理由のみで憲法上の理由付け義務が果たされていると解することは︑理由付け義
務の本来の趣旨に反する︒
連邦憲法裁判所が右のような形式的な文言を求めたのは︑連邦通常裁判所が上告受理の判断において事件の原
則的意義と裁判所の負担の状況のみを考慮し︑上告奏功の見込みを考慮に入れないことを防止するためである
(連邦憲法裁判所決定①②)︒当事者は︑上告奏功の見込みも検討されたということを知らされるかぎりでは︑満
足しうるであろうが︑なにゆえ事件の原則的意義あるいは上告奏功の見込みが欠如しているとされたのかを知る
ことはできない︒
もっとも︑真正の理由付け義務を問題とするときに︑常に詳細な理由付けを要求すべきであるとすることもい
きすぎである︒従来の議論は︑一定の場合に理由付け義務を認めるべきか否かという形で行なわれてきたが︑理
由付け義務を認ある場合であっても︑その具体的内容は種々のバリエーションがありうる︒すなわち︑①詳細な
理由付けが求められる場合︑②簡単な理由付けでよいとされる場合︑③本来理由付けが要請されるが︑理由付け
の代わりになんらかの手当て(例えば︑事件の担当裁判官による簡単な通知など)がなされれば十分とされる場
合などである︒
この点で参考となるのが︑上告不許抗告の裁判における理由付けに関する諸規定である︒社会裁判所法一六〇
a条四項三文は︑﹁決定には短い理由が付されるべきである"ただし︑上告許可の要件を解明するのに適当でな
ぱ いときは︑理由を省略することができる﹂と規定している︒同種の規定として︑労働裁判所法七二a条五項四文︑
五文︑行政裁判所法=二一二条五項二文がある︒行政裁判所法旧一三二条五項二文は︑﹁抗告を全員一致でもって
上告許容性の裁判における理由付け義務五(5)
六(6)
却下または棄却するときは︑理由を付す必要はない"この場合︑抗告人にはあらかじめ︑通知の送達後一ヶ月以
内に抗告人が意見を表明しうる旨の指摘でもって︑抗告の適法性または理由具備性についての疑念が通知されな
ければならない﹂と規定していた︒さらに︑連邦財政裁判所負担軽減法第一章第六項は︑﹁上告不許抗告に関す
る財政裁判所法=五条五項による連邦財政裁判所の決定は理由を付す必要がない﹂と規定しているが︑まった
り く理由付けを必要としないとすることは疑問である︒
②理由付け義務否定説
連邦憲法裁判所の決定に従う見解は︑主にBGHの負担軽減を重視する立場をとっている︒理由付け義務を否
定するヴァルクスヘェーファは︑上告不受理の決定に理由を付すこととなれば︑それは判決を作成することに相
け 応し︑法規が目的としている負担軽減は達成されないであろうと述べている︒特にドイッ法では︑上告受理・不
受理を決定する際に︑事件の原則的意義のほか上告奏功の見込みまでも考慮すべきであるとされていることも負
ゆ 担を増加させる要因となっている︒けだし︑簡略な審理といえども︑上告奏功の見込みを審理しかつ具体的な裁
判理由を付すこととなれば︑負担軽減策の効果は著しく害されることになるからである︒上告奏功の見込みを上
告受理の要件からはずし︑事件の原則的意義だけを上告受理の要件とする場合でも︑上告不受理の裁判に理由付
け義務を要求するとき︑上告審の負担軽減効果は相当減少することになる︒(高等裁判所が上告許容性を判断す
る許可上告制であれば︑理由付けはそれほど負担にならない︒許可上告制の長所はこの点にある︒)
理由付け義務を否定する見解のもう一つの特徴として︑上告許容性に関する裁判は本案の裁判と異なるもの︑
お すなわち理由付け義務において重要度が低いものと位置付ける考え方を指摘することができる︒この点において︑