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柴田昇 (昭和41年9月30日受理)

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(1)

貝殻結晶成長機構の研究 I.

見穀内部表面附着結晶粒子の研究

柴田昇

(昭和41年9月30日受理)

Studies on the Growth Mechanism of Shell Crystals I.

Crystal Particles Deposited on the Inner Shell Surface

Noboru SHIBATA

Abstract

Crystal particles deposited on the inner shell surface of Pinctada Martensii were studied by X‑ray diffraction, electron microscopy and electron diffraction. These particles were identified as calcite or aragonite as they were deposited on the prismatic layer or on the nacreous layer of the shell. The appearance of these parti‑

cles in electron micrograph showed no regularity. Thick crystals were calcite crystals oriented with their basal plane nearly parallel to the shell surface. Thin crystals which seemed to be responsible for the crystal growth of calcite in the early stage were frequently found, but they were not identified as calcite.

I.緒論

一般に結晶成長についてはかなりの知識がえられてきているが,問題の本質はまだ解明され ているとはいいがたいO貝殻結晶のように生物体が結晶成長に関与する場合は,問題は更に 複雑であり,普通の結晶成長の場合には明白にされていると考えられている物質輸送の問題す ら殆ど解明されていないのが現状である。しかしこのように複雑な場合でも,結晶成長の歴史 の一断面としての結晶表面を研究することは結晶成長機構を考えていくために重要であり,光 学顕微鏡や電子顕微鏡を用いての貝殻表面の研究1)はかなりよく行われてきている。しかも貝 殻表面をレプリカ法によって電子顕微鏡で研究する場合,普通の結晶表面の場合と異って,表 面に附着している結晶粒子や有機物が貝殻表面からほくりしてレプリカに附着してくる。この

*調和41年10月160,日本物理学会秋の分科会で発表。

(2)

ような附着結晶粒子は貝殻結晶成長に関係があると思われ,和田2)はまがき等の貝殻の附着結 晶についで電子顕微的研究を行っており,我々も前報3)においてあこや貝の附着結晶について 簡単にふれておいたが,その後得られた結果を報告する。

冗.附着結晶粒子のⅩ線による研究

我々はあこや貝について貝殻の内部表面附着結晶粒子の研究を行った。貝殻表面に無機質, 有機質の附着物が存在することは光学顕微鏡によっても充分観察される。その多寡は貝殻個体 によって,又季節的にも変化がある。真珠層表面では附着粒子が多い場合には,アセチ‑ルセ ルローズ,フィルミ‑レプリカをとることによってこの粒子ほとりのぞかれ,判然とした光沢 面がえられる。このような場合にはアセチ‑ル,セルローズを酢酸アミルに溶解することによ ってレプリカに附着した粒子を分離して, Ⅹ線による同定をすることができる。このようにし て同定を行った結果,真珠層表面に附着した結晶粒子はaragonite構造をもつことが確かめ られ,それ以外の回折線はⅩ線写真中に存在しないO一方稜柱層表面附着結晶は,この方法 で固定できる程粒子を集めることができないので,稜柱層表面から附着粒子をけずり落してⅩ

線で同定を行った。従ってこの場合には附着粒子のみでなく,稜柱層物質がわずかながら混 入することはさけられないであろう。このようにして同定を行った結栄,附着粒子はcalcite 構造をもつことがわかったが, calcite以外に面問距離3.34士0.02Åの回折線がえられ,同

じ回折線は稜柱層のDebye写真中にも見られるので,これは不純物によるものと推察され る。このように稜柱層表面の附着結晶はcalcite構造,真珠層表面のそれはaragomte構造 をもつという点から考えて,この種の附着結晶は貝殻結晶成長に密接に関係していると推論さ れる。

m.附着結晶粒子の電子顕微鏡による研究

我々は上述のような附着結晶を,稜柱層の場合を主に電子顕微鏡を用いてその附着状態,鰭 晶組織等を研究した。レプリカに附着してくる結晶粒子は第1図に示してあるように,稜柱層 隔壁には殆ど附着せず,稜柱層chamber中にのみ附着するが, chamber周辺部(隔壁近く) に厚く,中央にいくに従って厚さを減じるように附着している場合が多くみられる。附着物の 厚さの変化はこの写真からわかるように連続的でなく,不連続変化を示す場合が多く,このこ とは稜柱層がIayerをつくって成長することと関係づけられる。又隔壁をつくるconchiolm 中には無機質が殆ど含まれていないことは前報3)に報告した通りであるが,この種conchiolin は外套膜細胞から分泌されるときに無機質を含まないとともに,その上に無根質の沈着をさま たげる要因があるのでないかと考えられる。第2図は第1図の附着物の少ない場所の拡大であ るが,この写真に見られるように結晶粒子は不規則な形をしていて,特別な結晶学的面が発達 したもの,球状のようなきまった形をもつものも殆ど見受けられず,又textureをもつよう

(3)

にも見受けられない。この点和田がまがきの附着粒子に見出した規則正しい外形をもったもの やtextureをもつ結晶粒子の場合と異っているが,これは貝の種類による差や,種々の附着 状態があるためであろう。

このような附着結晶からの電子線回折像は,決して単純なものではない。加速電圧60KVの 電子線では,厚い附着結晶からほ充分な回折像はえられず,数個の回折点のみしか得られない 場合が多い。しかし時には第3図のようなきれいなnetwork patternがえられることがあ るOこの回折像ぼ電子線がcalciteの〔1101〕方向から入射した場合のものであり,この外

〔1102〕方向から入射した場合の回折像等もえられるO 〔0001〕方向から入射した場合の回折 像は一度もえられていないが,上記のような回折像がえられることは,稜柱層を形成している calcite結晶がわずかながらC軸を貝殻表面に垂直にしたtextureをもつことと関係があると 思われるO

第2図のような領域からしばしば第4図(a), (b), (c)のような回折像かえられる。これは 第1表CaO型同折橡の面Fl那巨離

dhkl Q順牲dhkl (ASTM)

\∴∴「∴Lノ̲̲̲̲

2.79 2.778 2.41 2.405

I

1.70.701 1.451 1.390 .199 1.203 .104 1.075

I

百1暦数!

‑‑̲̲ I

0. 982 422

典型的な面心立方型の回折像であり,第1表に 示したようにCaOの面問距舵と1%程度の誤 差内で一致し,その強度も大体CaOの回折線 のと一致する(この種の回折像をCaO型と呼 ぶことにする) O海水中でCaOが安定に存在 することはありえないので, CaCOgが真空中 でi釣二線衝撃によってCaOに変化したと考え なければならない。実際厚い結晶の周辺等には 小さな結晶粒子が多く附着しているのが見ら れ,そのような場合にはCaO型回折像を与えringの状態は小さな粒子が存在して‑様な rmgになる場合Ca),結晶粒子がある程度成長してringが小さなspotの集りからなってい る場合Cb),結晶がtextureをもちring上に4回或は6回の対称性を有するspotが存在す る場合cc)等がある。従ってこれらぼ'ill'鋸中で生じたCaOが種々の結晶成長を行った結果と 解せられるO第4図cc)の6回対称をもつ回折像は和IHの報告にあるものと非常に似た形をし ているが,和田の場合にはringはcalciteの(0112) , (1345)面からのものであり,我々 の場合のものとは別のものであろう。第4図(a)は稜柱層表面レプリカに附着している微結晶 からの回折像で,これはcalciteの回折像である。このような回折像が得られる場合は非常に まれであり, CaO型回折像が数多くえられることから考えて,良)凱吉品を電子線回折法でし

らべる場合には電跡fコでのCaC03の変化ということを充分に注意しなければならない。

第5図(a)に示したような稜柱層表面に附着した不規則な輸かくをもつ非常に薄いフィルム 状結晶からほ(b)のようなきれいなN‑patternかえられ(このpatternをN型と呼ぶ) ,こ

(4)

のような結晶はしばしば見出される。これは前報3)においてcalciteのC軸に電子線が入射 した場合の回折像であると報告したが,詳しく調べた結果は第2表のような面間距離になって いて, calciteのそれより4%大きく,実験誤差内に入るとは思われない。しかもCaCO;の 異形であるaragonite, vateriteの回折像とも一致しない。第5図(a)からわかるようにこの

フイルム状結晶の内部にはレプリカから連続し た模様が見られるので,レプリカ表面に附着し たcontaminationでないかというおそれもあ る。しかしこのN型の回折像を与える結晶は 稜柱層や真珠層のレプリカ上のみでなく, CaCO.をエポン中に包埋した切片中からも, 銅メッシ,モリブデンメッシ上に水溶液から CaC03を沈着した場合にも存在するので,普

第2表N型回折像の面問距離

N 型 c a lc ite

d h k l d h kl 面 指 数

2 .2 5 2 ,160 200

12

通のcontaminationとは考えられない。むしろフイルム状結晶中にみられるレプリカ模様と

°

の関係は,この結晶が数百Aという非常に薄い結晶であるために,貝殻表面の模様を忠実に複 写していると考えるべきであろう。

この結晶からの回折像はN型以外は第5図cc)のように,小さなフイルム状結晶が電子線の 入射方向を軸としてそのまわりに回転しているようなtextureをもつものが大部分である。

従ってこの種結晶は稜柱層表面上でepitaxial growthをしたか,フイルム状で析出した結晶 が下地の上に附着したかのいずれかであろうが,メッシ上にCaC03を沈着させた場合にも 同じようにフィルム状結晶が存在することから,フイルム状で析出したものが下地上に沈着し たと解すべきであろう。 N型回折像や上記のtextureをもつ回折像のみしかえられない場合 には,この結晶が立方晶系か六方晶系に属するということ以外結晶構造についての知識はえら れない。しかし第6図(a)のように薄い結晶の上に厚みをもった結晶が成長してくると,その 境界からの回折像にはCb)のようにN型の回折点から外側に向って斑点群からなると思われる streakがのびているものがえられるようになる。この斑点群からなるstreakはN型を与え る結晶が六方晶系に属し,軸比がかなり大きいとき,大体〔11ラo〕方向を軸として結晶を回転 したときにえられるものと考えることができるが,現在までえられた回折像からは満足な軸比 はえられない。第6図Cb)のような回折像はN型回折像を与える結晶上にcalciteがepitaxial growthをした結果生じたと解することもできるが,電子線の加速電圧が低いため,厚い結 晶からの回折像がえられず,上述のような考えを確かめることはできなかった。この結晶は CaCO,中の不純物として考えられる燐酸カルシュウム, MgC03, SiOo, dolomite等とは 異っている。更にN型回折像とcalcite回折像が共存する場合や,すぐ祈りあった領域から それぞれの回折像がえられることから考えて,この結晶はカルシュウムを含んでいるのでない かと推測され, CaCO3結晶成長に無関係とは思われないので,今後もこの結晶について研究

(5)

を続けていきたい。

文献

1)桧井佳‑ :真珠の事典(北隆館,昭和40年).

K. Wada : Bull. Natl. Pearl Res. Lab. 7 (1961 ) 703 2) K. ada : ibid. 12 (1963) 224‑

3)柴田昇:長崎大学教養部紀要,白魚科学7C1966)3.

(6)

第1図あこや貝稜柱層表面附着結晶粒子の附第2図第1図の中央部分の附着粒子。

着状態。下の白い部分が稜柱層隔壁。

第3図附着粒子からの回折像O

CO Cd)

第4図(a), (b), (c), CaO型回折像(d) calcite微結 晶からの回折像。

(7)

(C) (a)

第5図(a), N型回折像を与える薄い結晶(b), C<0,薄い結晶からの回折像O

(b)

第6図(a),厚みをました結晶(b), (a)?

厚い部分と薄い部分の境界からの回影 像。

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