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Ⅱ 更生保護事業(施設)の役割

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(1)

《論 説》

更生保護施設の社会的機能の パラダイムチェンジは可能か

―司法領域における民間社会資源の機能的な変容―

Is it possible to change paradigms of social functions of Off enders  Rehabilitation Facilities?

Functional transformation of private social resources in the judicial domain

鷲 野   薫

【目次】

Ⅰ 我が国の更生保護制度の歴史  248

Ⅱ 更生保護事業(施設)の役割

  1 司法保護事業法の成立  251

  2 議会における司法行政と福祉行政の考え  252

  3 更生保護事業法の成立  255

  4 有識者会議等が打ち出す方向性  257

Ⅲ 更生保護施設の将来像 ― あるべき姿 ―

  1 更生保護施設の課題  263

  2 今後の更生保護施設のあるべき姿 

  (1)示された方向性    268

  (2)更生保護施設の支援機能の強化    270

  (3)更生保護施設のガバナンスの確立    272

(2)

更生保護施設の社会的機能のパラダイムチェンジは可能か

― 司法領域における民間社会資源の機能的な変容 ―

Ⅰ 我が国の更生保護制度の歴史

更生保護の淵源をたどれば、江戸時代の人足寄場等にさかのぼるとさ れるが、人足寄場は、1790 年老中松平定信が犯罪者や無宿人に対して、

農業や手工業などの仕事を身に付けさせる授産的性格を有するものとし て設置した(1)

現在の更生保護施設の先駆となったのは、明治時代に静岡県において 誕生した出獄人保護会社であると言われている(2)。この出獄人保護会社 は、刑務所を出所した囚人が、社会の中に戻る場所を見つけることがで きず、再び犯罪に手を染めることを避けて自ら死を選んだことに心を痛 めた刑務所の所長が、県下の有力者に依頼して設立し、刑務所出所者に 衣食住を提供するなどしたものであり、現在の更生保護施設の先駆であ るとともに、全県下に 1,700 人を超える保護委員を委嘱するなど、現行 の保護司制度の前身でもあったといわれている(3)。この出獄人保護会社 の設立を契機とし、各地に釈放者保護団体が設立され、これらの団体は 主として出獄人に衣食住の提供や就労支援を行った。出獄人をその居所 においたまま、訪問指導・通信指導をする間接的保護や、旅費・衣料等 を給貸与する一時保護を行う保護団体も設立され、これらは現在の保護 観察の先駆的取組として紹介されている(4)

このようにして始まった日本の更生保護事業は、その後も民間の活力 によって拡大していったが、国は、やがてこうした更生保護事業を刑事 政策の中に組み込んでいくこととした。先ず、大正 12 年施行の旧少年法 において、対象少年について国の機関により保護観察を実施することと し、少年審判所に置かれた少年保護司(常勤の国家公務員である少年保 護司と民間篤志家である嘱託少年保護司からなる。)を実施主体とした。

昭和 14 年に制定された司法保護事業法(昭和 14 年法律第 42 号)は、成

(3)

人の起訴猶予者・執行猶予者及び仮釈放者等について、民間団体や民間 篤志家が担っていた司法保護事業について、国の制度として位置付け、

国の監督に服させた。その実施主体は依然として、民間団体である司法 保護団体と民間篤志家である司法保護委員(保護司制度の前身)であっ た。

なお、この間の昭和 11 年には、思想犯保護観察法(昭和 11 年法律第 29 号)が制定・施行され、治安維持法違反の罪を犯し、起訴猶予・刑の執 行猶予及び仮出獄又は刑の執行終了となった者を対象に、本人を保護し て再犯を防止するため、保護観察所による思想犯保護観察が開始された。

その実施主体は、常勤の国家公務員である保護司(保護観察官に相当)と 嘱託保護司(保護司制度の前身)であった。この法律施行により第二次世 界大戦前において、成人を対象とした国の機関が実施する保護観察が制 度化された(5)

終戦後、刑事司法の分野において刑事訴訟法、少年法等が全面的に改 正されるなどの大きな改革が行われ、更生保護に関しても昭和 24 年に犯 罪者予防更生法(昭和 24 年法律 142 号)が制定されて、新たな国家の制度 としての更生保護制度が成立した。

その法案策定過程では、民間篤志家である司法保護委員に保護観察を 行わせようとする日本側に対し、連合国軍総司令部(GHQ)は、保護観察 をボランティアに委ねるべきではないとして譲らず、最終的に、「保護 観察官が充分でないときは、司法保護委員が補う」、「保護観察において 行う指導監督及び補導援護は、保護観察官又は司法保護委員をして行わ せる」とされ、現在の官民協働態勢が形成されたといわれている(6)

さらに、犯罪者予防更生法の制定・施行に当たっては、先に成立して いた新少年法と少年院法の施行時期が前倒しされたため、更生保護官署 のために予算措置等を講ずる間がなく、極めて不十分な人的・物的体制 のままで発足せざるを得なかったという事情もあったようである。また、

犯罪者予防更生法案の原案には、当初、少年に加え、成人の仮釈放者と

(4)

執行猶予者に対する保護観察も盛り込まれていたものの、国会の法案審 議の過程で、執行猶予者保護観察制度は削除された(7)。執行猶予者保護 観察制度の導入が見送られたため、政府は、昭和 28 年に刑法等の一部を 改正する法律案として、執行猶予者保護観察制度の導入を内容とする法 案を国会に提出したが、執行猶予者に対する保護観察は犯罪者予防更生 法ではなく、別法で行うべきであるとの国会の附帯決議を受け、昭和 29 年に新たな刑法改正案とともに執行猶予者保護観察法案を提出し、その 成立(昭和 29 年法律第 58 号)により、ようやく執行猶予者に対する保護 観察制度の立法が実現された(8)

このような審議経過をたどった背景には、戦前の思想犯保護観察制度 があったことなどにより、保護観察に対する不信感があったといわれて いるが、いずれにせよ、執行猶予者保護観察制度は、仮釈放者等の保護 観察等を規定する犯罪者予防更生法とは別の法律で規定され、その中身 も、仮釈放者等の保護観察に比べ、指導監督面がはるかに緩やかな制度 として設けられた。また、昭和 25 年には更生緊急保護法(昭和 25 年法律  203 号)及び保護司法(昭和 25 年法律第 204 号)が、昭和 31 年には売春防 止法(昭和 31 年法律第 118 号)が、平成7年には更生保護事業法(平成7 年法律第 86 号)が制定された。

その後、平成 17 年2月に愛知県安城市で発生した仮出獄者による乳児 殺人事件等が契機となり、同年7月に民間の有識者からなる「更生保護 のあり方を考える有識者会議」(以下「有識者会議」という。)が立ち上げら れ、平成 18 年6月に提言がなされた(9)。これに基づいて , 運用上の改革 と共に法改正の作業も進められ、平成 19 年6月更生保護法(平成 19 年法 律第 88 号)が成立、翌年6月から施行され、それまで制度の根幹をなし ていた犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法は廃止された。

(5)

Ⅱ 更生保護事業(施設)の役割

1 司法保護事業法の成立

昭和8年に司法省保護課から提出された「司法保護事業法案」は、成人 の一般犯罪者に対する「保護観察」について、財政難へ配慮した内容と なった。同法案においては、刑務所からの満期釈放者・仮出獄者・刑の 執行停止を受けた者、及び起訴猶予・微罪釈放・執行猶予を受けた者に ついて、「本人が更に罪を犯すの危険を防止しこれを進んで臣民の本分 を恪守せしむる為」の活動を「司法保護事業」と呼び、それに従事する保 護団体の経営や認可、監督、「司法保護委員」の任命や任務に関する規定 を設けた。

法案はその後、同 10 年までの間に計3回提出されたが、いずれも審議 未了のまま廃案となった。しかしながら、成人の一般犯罪者に対する民 間による保護の法的基盤の整備と「保護観察」制度の確立を求める各方面 からの熱意は衰えることなく、少年法や思想犯保護観察法の成立を受け てさらに盛り上がった。

同法の中の「司法保護委員」は、旧制度の「保護委員」の制度の広がりを 受けて、昭和 13 年、全日本司法保護事業連盟の指導の下、全国に置かれ た委員であり、地域の住民を指名するものであった。この点から、公務 員たる「少年保護司」、「保護司」を置く少年法や思想犯保護観察法とは異 なり、同法案が成人の一般犯罪者に対する「司法保護事業」の大半を保護 団体や司法保護委員など民間に委ねる意図であったことが見て取れる。

帝国議会の委員会では、保護団体の経営に関与する者を含む多数の議 員が、司法保護事業の経費、実践の両面について国が責任を持つべきで あるとの観点から、同法における国の責任や位置づけについて司法省保 護課の森山武市郎に説明を求めた。とりわけ、保護団体から寄付を求め られた経験を持つという一松定吉議員は、社会の理解や支援を得にくい 犯罪者保護を民間の力で行うことの限界を指摘し、同法案の予定する財

(6)

政的助成の不十分さや、保護団体自身に金策を求めるような寄付金募集 の規定を批判した。

同法案は、昭和 14 年3月 24 日に賛成多数で可決された。保護の具体 的態様については、同年9月の「司法保護事業法施行規則」で「収容保護」

「一時保護」及び「観察保護」の方法と手続が規定された。司法保護委員や 保護団体に更生保護制度の第一線で犯罪者や非行少年と接する役割を委 ねることについて、公務員の業務の単なる肩代わりにとどまらない積極 的な意義が強調されるようになる。

2 議会における司法行政と福祉行政の考え

GHQ は昭和 21 年に「社会救済に関する覚書」(SCAPIN775 号)を発表 (10)、新しい社会福祉制度について「国家責任、公私分離、無差別平等、

必要十分」の4原則を掲げた。昭和 20 年 12 月の「救済ならびに福祉計画 に関する覚書(SCAPIN404 号)」に対する厚生省の「救済福祉に関する件」

に盛り込まれていた民間の福祉団体の創設や方面委員の拡充といった提 案について GHQ は、「公私分離」の原則に反するとして不受理にした。

また、昭和 21 年6月には GHQ から、釈放者保護事業の主務官庁を厚生 省とすることが打診されている(11)

司法省は、釈放者保護事業を厚生事業と別に行う必要があることを三 点に分け説明した。第一に、釈放者保護は「釈放者の社会との融合」を目 的としており、「社会に融合した者への援助」を目的とする厚生事業に比 べ、「教育的指導」や「環境の調整」といった専門的な活動が付加される。

既にこうした活動に従事してきた者がおり、彼らの知識や経験を活かす べきである。第二に、「釈放者保護」の対象者は、仮釈放中の者や、途中 で仮釈放が終了し完全釈放者へと切り替わる者もおり、厚生省所管にす ることには理論上・実際上の難点がある。第三に、釈放者保護は犯罪者 を善良な市民に戻し再犯を防止する意義があり、裁判所や刑務所との協 力の下に司法省が責任を持つ必要があるとした。同時に、犯罪者保護は、

(7)

対象者の自由や幸福を減殺するものではなく、健全に発達を遂げてきた ことを強調した(12)

厚生省も GHQ に回答を提出し、釈放者保護事業の厚生省への移管に は利点があることを指摘した。満期釈放者に対して司法省が関わること には社会からの排除の懸念があり、対象者の心情にもマイナスである、

再犯防止の点から重視される居住や就労の支援は一般の厚生事業でも行 いうるというのである。しかしながら、厚生省は回答の結論において、

司法省による釈放者保護の伝統と厚生省の多忙な状況に触れ、釈放者保 護の厚生省移管には慎重を期すべきだとした。

昭和 25 年の更生緊急保護法の成立により、釈放者保護は司法省の管轄 下に残された。同年4月4日の衆議院法務委員会で、法務政務次官牧野 寛索が提案理由を次ように述べている。「国の施策といたしましては、

わずかに今日すでに無力に近い状況に陥っている司法保護事業法(昭和 14 年法律第42 号)が存するに過ぎません。またこの犯罪者予防更生法も、

国の財政等を考慮して、専用の收容保護施設に関する規定が設けられて おりませんため、同法による保護観察中の者に対する応急の救護の措置 に万全を欠くうらみがあるのであります。そこでこの法案は犯罪者予防 更生法の適用を受けないいわゆる満期釈放者、起訴猶予者等のうち再犯 率の最も高いと認められる状況にある、すなわち刑事上の手続によつて 身体の拘束を解かれた後一定の期間内の者に対しまして、強制力を伴わ ない緊急適切な更生保護の措置を講じて、その再犯防止に遺漏なからし めることを期し、あわせて犯罪者予防更生法の規定する保護観察中の者 に対する応急の救護を円滑に実施するとともに、さらにこれらの更生保 護に関する事業の健全な育成発達をはかりますために、現行司法保護事 業法を廃止いたしまして、新たに生活保護法、職業安定法その他の関係 法令とも十分に調和し、また実効の期待できる法律を制定しようとする ものであります。」とし、「更生保護及び更生保護事業の定義、更生保護 の責任と範囲、事業経営の許可と届出、国の委託費支弁とその他の費用

(8)

補助及び附則等にわたりまして規定を設け、更生保護措置の内容及びそ の措置に対する国の責任と範囲を明らかにし、…更生保護事業の経営の 認可と認可事項の変更、変止、更生保護会または地方公共団体の営む事 業の監督、事業経営の制限停止、認可の取消し、事業の運営監督に関す る重要事項審議のための更生保護事業審議会、寄付金の募集の監督及び 罰則等について詳細な規定を設けておりますが、これらはただいま申し 述べましたこの事業の本質及び今日の経済その他各般の事情にかんがみ まして、従来比較的ゆるやかな監督のもとに置かれてきた司法保護団体 運営の方式を一擲いたしまして、新たなる構想のもとに、この法案によ る更正保護事業が真に社会の信頼にこたえ、また治安の確保に寄與でき ますように事業の認可その他各般の監督を適正に行い、もつて国がみず から直接この事業を全面的に行う場合と実質上ほとんど異ならない支配 のもとにおいてこれを管理しようとする」ものであると説明した(13)。つま り言語の定義や事業の認可及び国庫支弁を明確化し、民間事業の基盤強 化を目指した。しかしながら、内容的には、『国が自ら行う事業と実質 上ほとんど異ならない』ものではなく、民間の献身と努力に安住するも のであった。

その後、昭和 25 年4月 21 日参議院本会議において宮城タマヨ委員か ら「更生保護事業の育成発達につきましては、一定の基準を定めて、こ れが事業を営む者を更生保護会として認可を與え、中央委員会の適切な る監督指導の下に置きますると同時に、前述のように事業の発展のため 国において更生保護会に委託したものの費用を支併し補助金を交付する 等いたしまして、その財政的基礎を強固にせんことを意図して」おり、

国の関与を強めた法案になっていると説明され(14)、可決した。衆議院本 会議は同年4月 27 日押谷富三郎法務員会理事から「国または地方公共団 体もしくは認可を受けた更生保護会が、国の監督のもとに、帰住のあつ せん、金品の給與あるいは貸與等の一時保護または宿泊所の供與、就職 のあつせん等の継続保護を行い、もつて犯罪前歴者の更生をはかり、あ

(9)

わせて犯罪者予防更生法により保護観察中の者に対する応急の救護を円 滑に実施するとともに、更生保護に関する事業の健全なる育成発達をは かろうとするもの」であると説明し(15)、可決した。

更生緊急保護法は、保護観察所は対象者の保護を自ら行うか、「又は 地方公共団体若しくは第五条第一項の認可を受けて更生保護事業を営む 者(以下「更生保護会」という。)に委託して行うものとする」と規定するも のであった。

3 更生保護事業法の成立

平成7年に成立した更生保護事業法は、更生保護施設について法務大 臣に施設設置の許認可権を与え、民間及び地方公共団体が、法務大臣の 認可を受けて運営することとしている。現在全国に 103 か所の施設があ り、その法人内訳は、更生保護法人 100、社会福祉法人1、NPO 法人1、

一般社団法人1となっている。総利用定員は、2,369 人で、男子 2,192 人、

女子 177 人である。

更生保護事業法制定以前の施設は、「保護会」と称し、帰住困難者への 宿泊所の用意、食事の提供や就労の支援を行ってきた。更生保護はあく までもの本人の任意の意思に基づく支援事業であり、本人の自立更生に 必要かつ相当な範囲における支援である。しかしながら、保護会の多く は、定員 20 人以下の小規模施設がほとんどであり、かつ、緊急更生保護 法による国費の支弁は、刑事手続から解放された後6か月という短い期 間となっている。従い、財政的脆弱性は払拭できないでいた。更生保護 事業法が議論された大きな理由が、この財政的基盤強化にあったことは 国会審議の中でも明らかになっている。

平成7年2月7日の衆議院法務員会において、法務大臣前田勲男から、

「犯罪者や非行少年の再犯を防止しつつその社会復帰を図ることが刑事 政策上極めて重要な意義を持つ…特に更生保護事業につきましては、そ の充実強化のための基盤整備を図る必要がありますので、第百二十九回

(10)

国会における衆参両院の法務委員会での附帯決議の趣旨を踏まえ、更生 保護事業法案とその関連法案を今国会に提出することといたしたい」と 説明した(16)。また、2月9日参議院でも同様の説明を行っている(17)。更 に、3月 14 日参議院法務員会では、法務大臣から「第一に…更生保護事 業に関する国の責務を明らかにするとともに地方公共団体の協力に関す る規定…第二に…更生保護事業を、継続保護事業、一時保護事業及び連 絡助成事業の三種類と定め、…第三に…法務大臣の認可を受けて設立さ れる法人を更生保護法人とし、第四に…地方公共団体も更生保護事業を 営むことができることを定め」と法案の概要を説明している(18)。3月 16 日参法務委員会で、下稲葉耕吉議員から「附帯決議で「社会福祉事業との 均衡にも留意し」と、この文言を入れ…保護施設の改善について計画的 かつ早期の実現を図る…地方公共団体との関連…その地域において行わ れる更生保護事業に対して必要な協力をすることができる。地方公共団 体は、更生保護事業を営むことができる。」の2本立てと解して良いかと 質問し、本間達三保護局長から「結論的に申し上げますと、そのとおり でございます。」と答弁している(19)。3月 17 日参議院本会議で可決し、衆 議院へ回付している(20)。4月26 日衆法務委員会で中島楊次郎議員は、「今 回の…改正は、更生保護会が他の社会福祉法人並みにきちんと優遇措置 が受けられるようにというのが趣旨であったわけでございます。ただ、

この更生保護事業は国の責任において行うということが規定されており ますが、果たして国の責任を十分に果たしているのか」疑問であるとし、

さらに「補助率は二分の一である。…施設整備もできない。それに対し まして他の社会福祉法人は、地方と国が四分の三、ほとんどを補助する という状況になっておる。」その財政基盤の脆弱性を指摘するとともに、

国のあり様について疑義を表明している。同様に正森成二議員からも「基 本的には現在の国の委託費並びに施設整備補助金が、こう言ってはあれ ですが、余りにも低額で、更生保護施設関係者の犠牲的努力によって辛 うじて経営が維持されているという点に大きな問題」を看過してはなら

(11)

ないと警鐘を鳴らしている(21)

次いで、保護期間の6ケ月延伸の法改正が平成 14 年に行われたが、同 年5月 17 日の衆法務委員会で松島みどり議員から「更生保護施設の運営 ですが、篤志家が家族経営に近い形で運営しているケースが多くて、金 銭的に、若い職員、働き盛りの職員を雇うことが非常に難しい…今回の 改正で、社会適応を促すための専門的な処遇、そういうこともやってい こうということになったんですけれども、これが加わりますと、総支給 額、つまり、今一日五千数百円の支給ですね、補導費と宿泊費と委託事 務費合わせて。これが、その社会適応を促すための専門的な処遇という のを加えると、保護事業施設に払われるお金というのはカウントされて ふえるんでしょうか。」と質問したのに対して、横田尤孝保護局長は「処 遇そのものに対する予算措置ということではございませんけれども、…

各施設に職員を一名増員という形で予算措置」をしたと説明した。横内 正明副大臣からは「更生保護施設では、収容能力が二十人以下の保護施 設の場合には、基準の職員さんの定員が三人、二十人以上の場合には四 人というふうになっておりましたが、これは一人ずつプラス」したとし、

「今回から少年院の満期の退院者もこの更生緊急保護事業の対象」とした ことから、更生保護施設の経営強化に資するよう工夫したと答弁してい (22)。いみじくも国会審議の中で、『家族経営』と称され、また、基準職 員数が社会福祉事業でいう『常勤換算数』に対応できていないことなどを 承知しておく必要がある。

4 有識者会議等が打ち出す方向性

平成 17 年7月から翌 18 年6月まで 17 回に渡って議論された有識者会 議では、更生保護制度全般について検討され、更生保護制度に関する国 民や地域社会の理解が不十分であること、民間に依存した脆弱な保護観 察制度の問題あるいは、指導監督・補導援護の両面で機能していない保 護観察等の指摘がなされた(23)

(12)

本提言の中で、更生保護施設に関するものとしては、「国は、自ら保 護観察対象者等に宿泊所の提供等をすることなく、専ら民間の更生保護 施設に保護を委託することで対処してきた。」とし、「民間の更生保護施 設への連携や支援を必ずしも十分に行ってきておらず、更生保護施設に 対する財政的措置についても、現状では十分とはいえない。」と厳しく指 摘している(24)。これは、更生保護事業法制定時にも国会審議の中で取り 上げられているものであり、法務当局(特に保護局)の怠慢が継続してき ているものと言える。同提言は、「保護司・更生保護施設への支援の充 実など、民間側の基盤を整備し、その処遇能力を高めることも肝要」とし、

具体策として、「住居指定制度」の導入や、更生保護施設の「処遇施設機能」

の向上を要請している。更には、更生保護施設基盤強化のため「経営基 盤確立に必要な予算措置」を行うとともに、地方公共団体に対しても民 間更生保護施設経営支援のための予算措置を講ずるよう働き掛けるべき とした上で、現状の民間更生保護施設では対応が困難な対象者に対する 受皿を用意することも必要としている(25)

本提言を受ける形で、平成 30 年4月に更生保護事業全般について、そ の在り方を検討するため、実務家を構成員とする「更生保護事業の在り 方に関する意見交換会」(以下「意見交換会」という。)及び外部有識者を主 な構成員とする「これからの更生保護事業に関する有識者検討会」(以下

「検討会」という。)が設置された。

検討会は平成 31 年3月に「これからの更生保護事業に関する提言」をま とめ、更生保護施設への帰住者について、累犯者の増加、高齢化及び薬 物事犯者の高率化を確認し、対象者の社会適応のための処遇が可能な施 設への変貌を求めている(26)。これまでにも、平成 21 年以降の「福祉専門 職員」の配置、薬物処遇重点施設の指定及び更生保護施設を退会(退所)

した保護観察対象者等への支援である「フォローアップ事業」が行われて いる。しかしながら、薬物重点施設は 25 施設に止まることや、恒常的 に相当数を占める高齢常習窃盗者への未対応など十分な機能強化が図ら

(13)

れたとは言い難い。

更に、平成 21 年からは、地域生活定着支援センターが出所後の福祉サー ビス提供事業者等への帰住調整を行う「特別調整」のシステムが整備さ れ、矯正施設から「福祉施設」への帰住が可能となっている。加えて、平 成 23 年には、「緊急的住居確保・自立支援対策」の導入により、更生保護 施設以外の宿泊場所(いわゆる「自立準備ホーム」)も用意された。つまり、

刑事施設出所者等の受け皿にバリエーション化が始まっており、更生保 護施設の経営基盤を脅かしているとも言える。

このような状況の中、検討会では、「更生保護事業は、その役割を広 げることによって社会からのより大きな期待に応えることができる。」と した上で、その方策として、拠点作り・再犯防止施策上の重点施設化等 を提言しているが、ネットワーク形成のコーディネートはどの組織が担 うのか、また、財政的担保をどうするのかについては多くを語らない。

従来の国会審議と同様、問題提起はされるものの具体的な方法論が乏し く、総論提起的な提言であり、実効性や実現性には大いに疑問が残る。

実務家を中心とする意見交換会では、未だ報告書は公開されていない が、更生保護事業の理念や役割に関する代表施設の意見が提出されたよ うである。意見交換会においても組織体制や財政基盤について議論され ている。現行委託費は、宿泊保護業務を中核とした構造であり、処遇専 門性を要請しながら委託費構造にメスを入れていないことから、実際に 事業を展開する更生保護施設では、処遇化を図ろうにも身動きできない 現状がある。また、多くの更生保護施設は定員 20 人程度であり、職員数 も5名程度の確保が限界である。更に、更生保護施設での各種処遇は、

原則的にはその利用者の同意や納得が必要なものである。保護観察中の 被保護者といえども、自立に向け就業し、社会生活を営む経過の中で、

各種のプログラムを受講しようとすれば、時間的な制約や身体的な疲労 度の問題など、避けて通れない隘路が多く存在する。その中で、処遇化・

拠点化と標榜されても「ムリ」と言わざるを得ない現状がある。ある程度

(14)

のプログラム実施時間の確保を万全とするならば、就労時間を抑制する ことが必用であり、例えば、生活保護費を受給しながら、短時間就労を 行うなどの手法が導入されなくてはならない。 再犯の防止等の推進に関 する法律(平成 28 年法律第 104 号)第 16 条には、国の責務として、更生 保護施設の整備及び運営に関し、財政上の措置、情報の提供等必要な施 策を講ずるものとしている。同法第 24 条には、地方公共団体に対して、

国との適切な役割分担を踏まえて、各種施策を講ずるよう要請している ことからも、国及び地方公共団体の一層の支援策が必要である(27)

また、薬物等の指導プログラム導入に遅れ、旧態依然とした住居と食 事の提供及び就労による自立資金の蓄えに示される『本来業務』という固 定観念に囚われている施設もあるように見受けられる。更生保護行政自 体が民間活力に大きく依存してきたように、更生保護施設自体も法務省 の支援に安住し、更には、保護司・更生保護女性会あるいは近隣の大学 教員等社会資源のボランタリーな支援を当然の如く受け止めているので はないか。種々の支援を受けて、施設の特色化を図ってきた実情にある が、将来的には、財務基盤の脆弱性や施設規模の要因から、処遇拠点化 はお題目に終わる恐れが強い。

障害を有する触法者への支援では、更生保護施設以外にも、地域生活 定着支援センターのコーディネートによる福祉施設への帰住、アパリ(ダ ルク)による司法サポートプログラムの利用、各地の弁護士活動による 依存症治療クリニック等の引受を条件とした起訴猶予等のダイバージョ ンプログラム等選択肢が豊富になった現状も認識しなくてはならな (28)

利用者側に寄り添う弁護士会の意見は、平成 18 年1月 19 日に示され ている。日本弁護士連合会会長梶谷剛「更生保護制度の改革についての 意見」では、『更生保護における再犯防止は、結果であって目的ではない。

中間報告が更生保護の再犯防止機能を前面に出すのは唐突であり、更生 保護制度についての認識を誤っている』、『保護観察官の人数の圧倒的な

(15)

不足、保護観察期間が短いこと、満期出所者について十分な施策がない こと』に加え、『現状の更生保護施設の機能に問題があること』などを指 摘する(29)。特に、経営は不安定であり、この結果、更生保護施設は地域 的な偏在がある。また、性犯罪者や凶悪犯罪者の受け入れを行うところ がほとんどない等の問題については、国の主体的な取組が必要であると している。

現在保護局では、「自立更生促進センター」及び「就業支援センター」を 計4か所運営している。これは、更生保護施設では円滑な社会復帰のた めに必要な環境を提供することが困難な被保護者を対象として、国が設 置した一時的な宿泊場所を提供するとともに、保護観察官が直接、濃密 な指導監督及び就労支援を行うことにより、被保護者の改善更生を助け、

再犯を防止し、安全・安心な国や地域づくりを推進することを目的とし ている。この自立更生促進センター等と更生保護施設との住み分けや連 携の在り方については、議論は深まっていない。

法制審議会で議論された更生保護施設の新たな枠組みは、下図のとお りである(30)

法制審の審議では、①更生保護施設で実施するプログラム(一定の水 準を有するもの)を特別遵守事項で義務付ける。②特別遵守事項により

(16)

更生保護施設への宿泊を義務付ける。③更生保護施設から一定の時間帯 の外出を禁止する。との3事項につて議論されている。

プログラムについては、保護観察所で実施するような厳格性を要する か、保護観察官と施設職員の役割分担を如何に規定するかなどの整理が 必要であること。宿泊義務については、実施者はあくまでも保護観察官 であることから、対象者の選定を整理する必要があること。外出禁止に ついては、該当者のその時間帯の行動をどのように把握するのかといっ た問題点があることを併記している。法制審での審議は、今後どのよう に推移するかは全く予断を許さないが、遵守事項として指定プログラム を実施すことや、種々の行動制限を付与することは、処遇等の実行上の 利点があることは間違いないが、施設職員の処遇・指導スキルの向上や、

施設の物的管理体制の整備等これまでにない企業努力が必要となる。現 行においてすら経営基盤の脆弱性や利用減による収入の低下が見込まれ る実情からは、大胆な公的支援が必要となる。

更生保護施設へ渡される委託費の区分は下表のとおりである(31)(平成 31 年度法務省所管一般会計予算書から筆者作成)

更生保護委託費明細

食事付宿泊費 4~10月 2,011円/日 フォローアップ事業 SMARP 1,273円/日

11~3月 2,072円/日 G・M 1,273円/日

宿泊費 4~10月 745円/日 生活支援 146円/日

11~3月 806円/日 生活介助 108時間 1,069円/時

補導援護費 一般分 146円/日

加算分 126円/日 福祉・薬物職員 1人あて 545,509円 薬物加算 1,273円/日

委託事務費 6条 4,240円

6条の2 4,840円 自立困難者加算 30日まで 2,300円/日 31~41日まで 1,150円/日

更生保護施設の経営面からは、施設利用率が 75% 以上あることが必 要である。地方の施設では、利用率の低下傾向が続いており、被保護者 の確保が難しくなってきている。

次表は、過去 20 年間の受刑者一日平均人員、保護観察新受人員、緊急 更生保護受理人員及び更生保護委託人員の推移をグラフ化したものであ

(17)

る。保護観察新受人員及び受刑者数の減少傾向が見て取れる。つまり更 生保護施設の利用可能者が減少してきているのである。平成 29 年のそれ ぞれの数値は、ピーク時に比較し受刑者で 32%、保護観察新受人員で 58%、更生緊急保護で 31% の減少である。更生保護委託人員は 13% の 減少に留まっており、対象者の多寡にかかわらず一定数の利用必要者の 存在を証明しているが、高齢者、各種障害を有する者等の処遇や支援に 困難を伴う者の増加が予測され、現状の更生保護施設で対応できるか否 か早急に検討を要するものと思われる。

Ⅲ 更生保護施設の将来像 ― あるべき姿 ―

まとめに替え、更生保護施設の進むべき道を検討したい。

1 更生保護施設の課題

現在、更生保護施設は大きな変革期にあると言える。平成 12 年「更生 保護施設の処遇機能の充実強化のための基本計画」による再犯防止を主 とする刑事政策上の要請、平成 14 年犯罪者予防更生法・更生保護法の改 正による被保護者に対する各種指導の充実化要請(集団処遇を中心とし た教育的な指導に対する法的根拠の付与)等を受けて、業務の見直しや 福祉施設等との連携方策が取られたはずであるが、実態は日々の業務に 追われ、また、監督官庁等の実効性ある支援が手薄であったことから、

(18)

大きな変化が見られていない。少数の施設では、SST 訓練や酒害教育或 いは薬物離脱指導等を企業努力によって行ってきたが、人的・物的及び 財政的な困難を克服する事は容易ではなかった。

また、平成 18 年の有識者会議では、更生保護施設の処遇専門施設化が 要請され、平成 25 年 12 月の犯罪対策閣僚会議では、『「世界一安全な日 本」 創造戦略について』を閣議決定し、具体的施策の一つとして、 刑務所 出所者等への各種支援について例示され、更生保護施設の機能強化が必 要とされた(32)。更に、平成 21 年度から、法務省と厚生労働省の連携によ る、高齢又は障害により直ちに自立が困難である刑務所出所者等に対し 適切な福祉サービスを提供する地域生活定着支援事業(平成 24  年度以降 は「地域生活定着促進事業」に名称変更。)を開始するなど、司法と福祉の 連携による更生支援を実施している(33)

再犯防止推進計画においても、更生保護施設の機能として、「一時的 な居場所の提供だけではなく、犯罪をした者等の処遇の専門施設として、

高齢者又は障害のある者、薬物依存症者に対する専門的支援や地域にお ける刑務所出所者等の支援の中核的存在としての機能が求められる。」と し、その機能の多様化・高度化を求めている(34)

今日の更生保護制度は、犯罪や非行をした者に対して、職業に就き安 定した生活を送るよう一方向的な処遇・指導を所与のものとして構成し ている。触法者の「立ち直り」とは一体どのように理解すべきものなのか。

職業と住居を提供し、支援者側の意に沿った生き方を演じることが再犯 防止なのであろうか。病気や怪我の後遺症を抱える者等の「生活再建」や

「回復」に際してもしばしば問題視されている「治療者・支援者側のセオ リー」と同じ一種の教条主義に陥っていないか。本来あるべき「ナラティ ブセラピー」は、患者や被支援者の側の「立ち直り物語」であるべきはず である。その物語に沿った生き方が社会的に是認されるものか、当人が 目指すべきものなのかを、モニタリング、アセスメントすることが支援 者側に求められるスキルであると考えるが、現状の更生保護施設におけ

(19)

る生活支援や各種の処遇は、パターナリスティックであり職員から対象 者への伝達方式による手法が多い。

更生保護領域は、触法者を対象とする法制度に規定された存在である ことから、本人の意向や意識に関わらず、別の誰かが本人のあり方を規 制していくことを全面否定するものではない。更生保護の本旨は、「裁 判所の判決・命令」、「保護観察の遵守事項」などを通して、当人に「再犯 防止」のための活動として半ば強制されたものでもある。しかしながら、

この考え方は、果たして犯罪や非行から脱却しようとする者を支えるこ とになっているのだろうか。強制性が当然視される矯正施設と異なり、

保護観察は自主性を可能な限り尊重し、社会生活を無理なく遂行しなが ら、犯罪親和性や累犯性を除去せしめることが目的とされなくてはなら ない。  昨今、注目を集める手法として、「ナラティブ理論」や「長所基盤 モデル」とそれらに基づく実践がある。これは「援助される者」「立ち直 ろうとする者」等、「当事者」の意思(Intention)や長所(strength)、能力

(ability)に注目し、それらを拾い集め伸ばすことにより、回復や復帰に 繋げていくものである(35)

総務省の行政評価においては、現在全国に 103 か所ある更生保護施設 における平均収容率は、平成 24 年度の 79.4% から平成 29 年度は 68.8%

へ低下しており、平均値を下回る収容率の施設が 47 施設に及ぶこと。

また、収容率低下の分析をしていない保護観察所が数か所あると報告さ れている(36)。この指摘に対して、法務省の分析は、①自立困難者や高齢 者又は障害を有する特別処遇対象者の受入れについては、更生保護施設 の負担が大きいことなどにより消極的であること、②職員の受入体制が 不十分であること、③更生保護施設退所後の住居が確保できず、新たな 受入れが進まないことなどを上げている(37)。対策として、保護観察官の 更生保護施設での処遇関与、住居確保支援業への賃金職員の配置等を 行ったとしている。しかしながら、性犯罪者や薬物依存症者の受け入れ については、地域社会との合意形成の問題があること、職員の養成スキ

(20)

ルアップについては施設の自主性に任されていることを鑑みると、抜本 的な対策としては不十分と言わざるを得ない。

更生保護施設利用対象者の減少傾向は、今後とも続くものと思われる。

加えて、対象者の高齢化や障害者率は増嵩していくことが予測される。

下表は昭和 53 年からの更生保護施設への委託人員(更生緊急保護を除 く)の推移を見たものであり、次表は最近 10 年程度の保護援護と更生緊 急保護に区分した推移を現したものである。委託人員は保護援護で 6,000 人前後、更生緊急保護で 4,000 人程度の推移であるが、漸減傾向にある。

(21)

更生保護施設の利用定員は 20 人前後であることが多く、利用率(居室 稼働率)の多寡が直接的に経営状況を左右する。更生保護施設の多くは 借入金比率が、2% 以下と相対的に低く、健全な経営をしているとされ ているが、利用率(居室稼働率)が、70% を切ると赤字に転落すると評価 されている。現在は多くの施設で 70% 前後を維持しているようであるが、

昨今の保護観察開始人員等の動向からは、利用率(居室稼働率)の低下が 現実のものとなる可能性が高い。

また、法制審議会少年法・刑事法部会による「若年者に対する新たな 処分の仕組み」による保護観察対象者への指導が実施されることとなる 場合、各種処遇プログラムを如何に導入し、実施していくかを早急に検 討する必要がある(38)

再犯防止推進法の一翼を担う更生保護施設においては、法的身分関係 が終了した後のフォローアップ支援も欠かせないものとなる。同法の施 行が必要とされた前提条件は、検挙人員に占める再犯者の割合である「再 犯者率」が増嵩していること、罪を犯した者等の円滑な社会復帰を促進 し、再犯の防止を図ることが犯罪対策において重要であることに依拠し ていることは論を俟たない。再犯防止等の施策に関し、基本理念を定め、

国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、再犯の防止等に関 する施策の基本となる事項を定めたことは画期的な出来事と言える。同 法7条では、「犯罪をした者等の社会における職業・住居の確保、保健 医療・福祉サービスの利用に係る支援に関する事項」の規定があり、更 生保護施設は、住居の確保に関する事項を引き受けることとなるが、福 祉への引継ぎを始めとし、更生保護施設の処遇・支援が他機関へ明示的 かつ効果的に受け継がれなければならない。

(22)

2 今後の更生保護施設のあるべき姿

(1) 示された方向性

これからの更生保護事業について、検討会は、平成 31 年3月に「これ からの更生保護事業に関する有識者検討会報告書」(以下「報告書」)を発 表し、第1に、「更生保護施設における処遇や支援の充実強化」として、

①各種処遇や支援の充実強化と明確化、②フォローアップの充実が提言 されている。第2に、「更生保護事業の新たな展開」の必要性について示 され、提言としては、①「支援ネットワークの「拠点」の設置」、②「再犯 防止・社会復帰促進に向けた更生保護施設の積極的活用」が挙げられた。

更に、第3には、「更生保護事業の持続的発展」が必要とされ、①「継続 保護事業の経営の強化・安定化」、②「法人の監督」の重要性を指摘して いる。また、第4として、「更生保護施設における職員体制の在り方、

人材の確保及び育成」に改善すべき点があるとし、各種研修等による職 員のスキルアップと労働環境の適正化が必要であるとしている。

《上図は、検討会第4回会議資料「地域における更生保護事業の展開に 必要となる関係機関との連携強化について」から引用》

(23)

政府は、平成 26 年 12 月犯罪対策閣僚会議宣言「犯罪に戻らない・戻さ ない」、及び平成 28 年7月閣議決定「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防 止緊急対策」において、立ち直りに多くの困難を抱える薬物依存者や犯 罪をした高齢者・障害者等の再犯防止のため、刑事司法と地域社会をシー ムレスに繋いでいくことを目指した。更生保護施設では、これらの決定 を受け、薬物離脱指導を全国25 の施設で実施している(2019 年1月現在)。

また、高齢者や各種の障害を有する対象者への特別調整を実施し、地域 生活定着支援センターを経由した者を引き受ける事業も行っている。

しかしながら、更生保護施設の全施設が、薬物依存症者への離脱指導 が行えるわけではなく、実施施設は全体の 24% でしかない。特別調整対 象者の場合は、更生保護施設退去後の居宅確保時の『保証人』の不在、病 院での手術時の『身元引受人』問題及び福祉施設へ移行する場合の『身元 引受人』の問題等があり、更生保護施設単体での解決は困難な実情にあ る。

一方、更生保護施設在所中に障害者手帳及び障害者福祉サービス受給 者証の取得は、その在会期間の実情から極めて困難である。

処遇力の向上及びフォローアップに関して、報告書では個別の問題に 対応可能な各種処遇メニューを更に広く取り入れ、その内容を充実させ ていくことが望まれるとするが、職員の多くが年金受給の高齢者である ことから、各種の研修やスキルアップトレーニングを克服できるとは思 えない。また、心理学等の専門家や福祉・医療・教育等機関の関係者の 協力を得ることを盛り込んでいるが、裏付となる予算の確保は困難であ り、かつ、種々の専門家を各施設が単独で発掘することは容易ではない。

下表は、最近 10 年間の保護観察開始人員を区分に分けてグラフ化した ものであるが、1号、3号ともに減少傾向を示していることから、当然 の帰結として更生保護施設への帰住も減少することとなる。

(24)

これらの諸要素から、今後更生保護施設が活性化していくためには、

以下の事項が検討されるべきであると考える。

(2) 更生保護施設の支援機能の強化

法制審議会において議論されている、「受講者を特別遵守事項で義務 付けて行う処遇」について、更生保護施設の「補導」業務が指導性を帯び ることとなる。そのためには、処遇プログラムの実施で終了するもので はない。当然、開始前の個別指導(支援)計画書の策定と、計画の進捗モ ニタリング及び計画終了時等のカンファレンスがセットで用意されなく てはならない。福祉施設では、既に導入されている相談事業所、行政、

医療及び福祉提供実施事業所間で行われている作業である。

現在、更生保護施設の一部では、個別保護計画(名称は雑多)が策定さ れている施設も散見されるが、用意されていない施設が圧倒的に多い実 状にある。

特に、薬物関係指導は矯正施設で実施されている指導との連携や継続 性が求められることから、プログラムの連結性が必要となろう。また、

同時に更生保護施設退去後には、対象者へのフォローアップ、福祉施設

(25)

等への入居になった場合は、モニタリング・カンファレンス情報の提供 等が円滑に行えるシステム設計が求められる。

下表は、筆者が考える今後更生保護施設が導入しなければならいない と思われるスキームである。

更生保護施設における触法者への、社会性再生機能のための指導・支 援は、100 年の経験と実績があり、再犯防止や社会安全の具現化等に極 めて有効なツールである。しかしながら、対象者の質的変容や高齢化に よる認知機能の低下が著しい昨今、社会福祉法人等の施設運営をも参考 としなければならない。上表は、更生保護施設の業務手法について、福 祉法人システムを導入した場合のスキームである。更生保護施設を基幹 事業所とサービス提供事業所に区分し、基幹事業所では、インテーク、

アセスメント、指導(支援)計画策定及びサービス提供の各業務を担当し、

サービス提供事業所は、実際の指導(支援)業務、モニタリング等を実施 すことで役割分担を明確化し、更生保護施設稼働の安定化を図ることか ができる。

(26)

(3) 更生保護施設のガバナンスの確立

報告書によると、①更生保護施設における処遇や支援の充実強化、② 更生保護事業の新たな展開、③更生保護事業の持続的発展及び④更生保 護施設における職員体制の在り方、人材の確保及び育成について検討が 必要とされている。これらは、いずれも喫緊に整備する必要のある事項 と言える。しかしながら、いずれも、人的及び財政的な担保がなければ 完遂できるものではない。処遇力や指導力のある人材をどう発掘するか、

または既存の職員のスキルアップを如何に行うかの具体的提言は見られ ない。さらには、財政的に公的支援(委託費等の増額)が可能になったと 仮定した場合の、内部監査や法務省監査の万全な実施が社会的に求めら れることとなる。加えて、被保護者の苦情申立や救済制度の実施も急務 であろう。検討会においても、集団処遇をする必要上、一定程度の行動 規制も必要であるとか、データに基づいた検討が必要、更生保護施設が 準国営的なものにならざるを得ない等の意見が提出されている。多くの 実務家は、処遇施設化への移行や処遇の遵守事項化による再犯防止に貢 献する必要性を認識している。そのためには、被保護者側視点による人 権保障機能もワンセットで用意されなくてはならない。

現在、福祉施設において実施されている「第三者評価」システムの導入 や苦情受付機関と同等の機関等の整備が必要である(39)。いずれも問題を 分析し、評価し、何らかの方針を決定することにより、事業の運営の適 正化を図るものである。更生保護法人が、処遇機能の強化を目指しつつ、

人権確保に適った事業遂行のためには、組織運営の可視化が不可欠であ り、同様の制度設計が必要であると言える。百数十年の歴史と実績を有 する更生保護施設ではあるが、既存の制度のまま将来展望が開けるもの ではない。各種福祉施設や民間会社等も触法者の受入施設化していく実 情の中、施設淘汰も必至である。今後予想される被保護者の国際化によ る多文化受入れ、また、急増する高齢触法者への処遇・指導の充実化策 等用意しなければならないツールは多岐に及ぶ。有識者会議等の現状分

(27)

 

(1) 三浦周行「現代史観」古今書院 1922 年 483P   

(2) http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo̲hogo02.html 法務省「司法保 護事業の時代」 

 

(3) 法務省更生保護の歴史 http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo̲hogo02.

html   

(4) 細野ゆり「保護司制度の成立過程 〜 新制度論のアプローチから 〜 」横浜 国立大学 成長戦略研究センター Discussion Paper 平成 27 年 11P 

 

(5) 「保護観察」の制度を規定した法律であった。同法は治安維持法上の罪に より、起訴猶予、執行猶予、仮釈放、満期釈放となった者を対象とし、同 種再犯を防止するため、「観察」や環境調整を通して思想の「転向」を図るも のであった。同法は日本の歴史上初めて「保護観察所」を置き、司法部内の 高等官と学識経験者らからなる「保護観察審査会」が保護観察の要否やそ の期間を判断し、「保護観察所」所属の公務員たる「保護司」、民間人たる「嘱 託保護司」、民間の「保護団体」や寺院、教会などに対象者の「保護観察」を 行わせるという体制を整えた。「保護司」「嘱託保護司」が「視察」により、

対象者の生活状況や交友関係、条件遵守の状況や思想の推移など、同法の 目的を達するのに必要な事項を把握し、「保護観察所」に報告した。さらに、

これらについて委託を受ける保護団体や「嘱託保護司」には経費の一部が 支給された。 

析や問題点の掘り起こしも大切であるが、民間施設のノウハウや経験を 集積するため、社会福祉法人や福祉支援事業を行う民間団体等を交えた、

広範囲な事例検討や研究実践をとおし、真に被保護者への更生支援に適 合する施設形態の創出や処遇・支援プログラムの具現化を図る必要があ ると思料する。今一度、多くの関係者に再度更生保護事業の将来に関す る全般的な検討・考察を期待したい。

(28)

 

(6) 高橋有紀「日本と英国における更生保護制度の担い手の歴史と将来 :「デ ジスタンスの物語」を支える更生保護に向けて」一橋法学第 12 巻第 3 号平 成 25 年 43P 

 

(7) 参議院本会議第 5 回昭和 24 年 5 月 23 日議事録第 32 号 780P〜 

 

(8) 衆議院本会議第 19 回昭和 29 年 3 月 27 日議事録第 28 号 383P   

(9) 「更生保護のあり方を考える有識者会議」報告書」平成 18 年 6 月 7 日   

(1 0) SCAPIN-7 7 5:  PUBLIC  ASSISTANCE  1 9 4 6/0 2/2 7 Supreme  Commander for the Allied Powers Directives to the Japanese Government 

(SCAPINs)= 対日指令集   

(11) 増山道康「占領下日本における社会保障制度への GHQ 指令受容の態度 について」青森保健大雑誌 2005 年 6-3 号 349P 〜 

 

(12) 高橋有紀 前掲 44P   

(13) 衆議院第 7 回法務委員会議事録第 19 号 11P   

(14) 参議院第 7 回本会議議事録第 43 号 790P   

(15) 衆議院第 7 回本会議議事録第 43 号 1141P   

(16) 衆議院第 132 回法務委員会議録第 1 号 2P   

(17) 参議院第 132 回法務委員会会議録第 1 号 2P   

(18) 参議院第 132 回法務委員会会議録第 5 号 1P   

(19) 参議院第 132 回法務委員会会議録第 6 号 2P   

(20) 参議院第 132 回会議録第 12 号(その 1)7P   

(21) 衆議院第 132 回法務委員会議録第 7 号 2P,11P   

(22) 衆議院第 154 回法務委員会議録第 14 号 2P   

(23) 平成 18 年 6 月 27 日「更生保護制度改革の提言」更生保護のあり方を考え る有識者会議 6P〜 

 

(24) 20 同 8P   

(25) 20 同 24P   

(26) 平成 31 年 3 月「これからの更生保護事業に関する提言」これからの更生 保護事業に関する有識者検討会 4P 

 

(27) 金澤真理「更生保護施設の機能に関する一考察」法政論叢第 37・38 合併 号平成 19 年 21P では、更生保護施設の事業は、民間の主体性を尊重しつつ、

国の責務として実施すべきであると指摘している。 

 

(28) www.mhlw.go.jp 厚生労働省地域生活定着促進事業、http://www.apari.

jp/sihou̲suport.html NPO 法人アジア太平洋地域アディクション研究所

参照

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