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教育評価における二つのパラダイム転換と参加型評価の概要

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

教育評価における二つのパラダイム転換と参加型評 価の概要

著者 北川 剛司

雑誌名 奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研

究」

巻 6

ページ 67‑70

発行年 2014‑03‑28

URL http://hdl.handle.net/10105/9880

(2)

1. はじめに

わが国における「教育評価」という用語は、戦後

evaluation

が邦訳されて登場したものである。だ が、もちろんそれ以前からわが国において、学習の 実態を把握するという行為は存在していた。

明治初期に成立する近代学校においては「試験」

という制度があり、進級はこの「試験」で及第をとれ るか否かで判断されていた。また、

1900

(明治

33

年には、第三次小学校令によって、進学・卒業の判 定を「試験」によらずに平常の成績の「考査」によっ て行うことと改められ、「試験」の出来(知識面)の みによらず、品性や道徳といった情意や行動の面に まで拡大した子どもの実態把握システムもこの頃に は存在していた。だが、この「考査」はきわめて主 観性の強いものであり、現代の意味においての「教 育評価」にはなりえていない部分があった。つまり、

この「考査」は指導法の改善にはそぐわない、到底 合理的とは言えない主観的な行為にとどまっていた。

1920

年頃より、人材選抜の原理として学歴が重 視されてきたことに伴って、中学校への進学希望者 が急速に増加した。そこで、入学者を効率的にかつ 客観的に判断するための方法が必要とされた。こう したことを契機として、日本にも、

1910

年代のアメ リカでもっとも盛んとなったメジャメント運動の考 え方がこの時紹介された。しかしながら、当時の日 本では、教師による人物重視の判断(「考査」)の考 え方が支配的であったことや、メジャメントが用い た素質決定論的な精神測定の方法や「正規分布」を 前提とすることへの疑問や批判から、十分に定着し なかった。

こうした歴史的な経緯とそれに対する反省を踏ま えて、戦後に登場したのが教育評価である。教育評 価という日本語の原語となった

evaluation

はタイ ラー(

Tyler, R. W.

)が用いた用語である。価値を 査定するという意味合いの

valuation

に対して、対 象を改善することを主目的とした実態把握行為とい う意味合いの用語として

evaluation

は用いられた。

しかし厳密には、「戦後初期の『教育評価』概念 には、『メジャメント』運動やあるいは戦前の『絶 対評価』との関連でみた場合に、『連続性』が存在 するといってよい弱点を内包していた」(田中

2008

207

頁)とされるように、わが国の戦後初期におい ては、「教育評価」がタイラーの提唱した

evaluation

という概念に完全に対応していたわけではなく、タ イラーの

evaluation

に近い「教育評価」概念の成立

1970

年代に盛んとなった到達度評価運動を待た なければならなかった。また、教育評価の制度も含 めた完全な転換となると、指導要録の「評定」が、従 来の「集団に準拠した評価(いわゆる相対評価)」に 代わり「目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)」

となった

2001

(平成

14

)年ということになる。

このように、「教育評価」概念をめぐっては、そ の意味合いや成立の時期に多様な解釈が入り込む余 地があるものの、元来、タイラーの

evaluation

が戦 後に邦訳されたものであるという一つの事実に鑑み て、本稿においては「教育評価」を次のようにとら えたい。まず、タイラーが

1930

年代にアメリカで

evaluation

として提唱した際の意味合いで「教育評

価」を使用するものとする。また、そうした意味合 いは、わが国においては、教育測定批判を踏まえた 到達度評価運動が盛んとなった

1970

年代以降に成 立したものとする。すなわち、本稿では、

1970

代以降の、「改善」のための実態把握行為のことを 指して「教育評価」とする。そして、その「教育評 価」において起こった、あるいは、起こりつつある 二つのパラダイム転換について整理する。なかでも、

二つ目のパラダイム転換といえる、専門家の判定ア プローチから構成主義的なアプローチへの転換の結 果に登場した「参加型評価」と称される後者のアプ ローチについて紹介したい。

2. 一つ目のパラダイム転換

本章では教育評価における一つ目のパラダイム転 換について述べる。

北川剛司

Takeshi Kitagawa

奈良教育大学大学院教育学研究科

School of Professional Development in Education, Nara University of Education

(3)

わが国の教育評価における一つ目のパラダイム転 換の起源はアメリカにある。タイラーが

1930

年代 に定式化した行動目標を用いた目標準拠(ゴール・

ベイスド)のアプローチに対してなされた、

1950

代後半からの批判がそのきっかけにあたる。

1957

年のスプートニク・ショックで科学力にお ける国際競争でソ連に負けることを危惧したアメリ カは、

1964

年の「経済機会法」によるヘッドスター ト計画、

1965

年の初等中等教育法などを成立させ た。その結果として多くの資金が教育のためのプロ グラムに注がれたため、その効果を評価する必要に 迫られた。だが、それまでの主流であった目標準拠 のアプローチでは、これら多くのプログラムを評価 することは困難であった。というのも、目標準拠の アプローチは高いコストがかかったからである。目 標準拠のアプローチでは、予め目標となる指針を設 定し、さらに目標ごとに達成の状態を記述していく ことが必要であり、そのためには評価のための多く の時間と費用を必要とした。こうして、目標準拠の アプローチの限界が自覚されるようになり、それに 対する批判点なども整理され、その代替の(オルタ ナティブ)アプローチがいくつも生み出されていっ た。

日本においては、

1974

年の「カリキュラム開発に 関する国際セミナー」において、アトキン(

Atkin,

J. M.

)が、カリキュラム開発のためのアプローチと

して、「工学的アプローチ」と「羅生門的アプロー チ」に言及したことが有名である。すなわち、アト キンは、目標準拠のアプローチの役割を明確化する とともに、目標準拠のアプローチだけがカリキュラ ム開発のアプローチではないことを明示した。

このセミナーが開かれた

1970

年代といえば、東 京や京都を中心に到達度評価運動が盛り上がった時 代であるが、ここにおいて、目標準拠のアプローチ が教育評価のアプローチの一つとして相対化され、

目標準拠アプローチの限界とともに、目標準拠のア プローチに依らないアプローチの存在が日本でも広 く知られるようになった。これが教育評価における 第一のパラダイム転換である。

その後、日本においては、代替のアプローチとし て、スクリヴァン(

Scriven, M. S.

)の「ゴール・

フリー(

goal free

)評価」や、アイズナー(

Eisner, E. W.

)の「教育的鑑識眼(

connoisseurship

)」に もとづく評価などが紹介され、その考え方は広く知 られている。タイラーが定式化した伝統的な評価の パラダイムとそのオルタナティブにあたる評価のパ ラダイムのそれぞれの特徴は、グーバとリンカーン

Guba, E. G. & Lincoln, Y. S.

)によって、表1の ように整理される(

Guba & Lincoln 1981, p.65

)。

彼らは、前者を「科学的パラダイム」、後者を「自然

~についての姿勢 パラダイム

科学的 自然主義的

一 般 的 特 性 好まれる手法

質の規準 理論の拠り所 因果関係の問い 用いられる知識の典型 立場目的

量的厳密性 ア・プリオリ

X

Y

を引き起こすことができ るか?計画的なもの

還元主義者的 立証

質的妥当性

グラウンデッド

X

Y

を自然な設定において引 き起こすか?

計画的なものと暗黙のもの 拡張論者的

発見 方 法 論 的 特 性

道具

データ収集と分析規則を詳述 するタイミング

デザインスタイル 環境論じ方 分析の単位 文脈的要素

紙とペン/身体的装置(注

1

探求前

予め規則正しく配列された 介入

実験室一定の 変数統制

探求者(しばしば)

探求中と探求後 不意の選択

自然不定の

傾向要請された介入

(注1)うそ発見器など

表 1 科学的パラダイムと自然主義的パラダイムから引き出される考え方

北川 剛司

(4)

主義的パラダイム」と称する。

3. 二つ目のパラダイム転換

本章では教育評価における二つ目のパラダイム転 換について述べる。

二つ目のパラダイム転換は、構成主義を契機とす る。構成主義においては、事実はある価値体系の中 で解釈されて意味をもつと考える。ゆえに解釈の過 程には、教師だけではなく、他の人々を巻き込むべ きだと考えられる。巻き込むべきとされるのは、ス テイクホルダー(利害関係者)である。日本におい ても、近年、ステイクホルダーという概念が盛んに 紹介され、教育評価の主体(誰が評価を行うのか)

について、教師だけでなく、子ども、保護者や地域 住民、教育行政機関、第三者機関などがステイクホ ルダーとして教育評価の主体とみなされている(田

2008

84-85

頁参照)だが、ここでいわれている ように、評価主体をステイクホルダーに開くという のは、参加型評価の特徴の一部を示しているにすぎ ない。すなわち、評価の主体を教師以外にも開くこ とが第二のパラダイム転換ということではない。

そもそも、今日、参加型評価と称されるものは、ア メリカにおいて

1970

年頃より盛んとなったもので ある。一言で参加型評価と言っても、評価作業の権 限のあり方や、評価の判断を行う主体が誰にあたる かということ、および、その程度によって、さまざ まな参加型評価の理論や方法論が存在する(表2)

(源

2008

99

頁)。

さまざまなものが存在する参加型評価であるが、

「あえて共通の定義をすれば、『利害関係者が評価活 動に関わる評価』であり、『評価プロセスを活用し て改善・変革を促す評価』と言えるであろう」(同 上)とまとめられる。このように、参加型評価は主 に二つの性質によって特徴づけられていることが分 かる。よって、教育評価にステイクホルダーを巻き 込むというだけでは、参加型評価とは言えない(利 害関係者が単なる情報源となる場合は従来型評価と なる)か、言えたとしても表2における「利害関係 者評価」という位置づけとなる。参加型評価といわ れる多くは、利害関係者を評価に巻き込むだけでは

なく、評価の権限においても評価専門家と利害関係 者を対等もしくは利害関係者のほうに強い権限を与 えている。

参加型評価の一つ目の目的は、従来型の評価と 違って、利害関係者に強い権限を与えることで、利 害関係者の評価に対する強い当事者意識を生み出し、

結果として評価の活用度を高めることである。そこ には、従来型評価が、学習者に対して、「所詮、他人 が行った評価にすぎない」という意識をもたらして いたことの反省がある。パットン(

Patton, M. Q.

の「実用重視評価」などはこの反省から出発する。

参加型評価のもう一つの目的(タイプ)は、従来 の評価が評価者―被評価者という関係を前提として おり、被評価者に評価の権限・機会を与えず被評価 者の評価的態度や評価能力の向上を不問にしてきた ことの反省から、被評価者をはじめとする利害関係 者の評価的態度や評価能力を育てることである。こ のような評価においては、評価の影響は、評価結果

(報告書等)によってもたらされるものではなく、評 価の過程そのものによってもたらされるという位置 づけとなっている。フェッターマン(

Fetterman, D.

M.

)の提唱する「エンパワーメント評価」などはこ れにあたる。

4. おわりに

以上、「教育評価」において、二度のパラダイム転 換が起きていることを述べた。現在、日本では依然 として目標準拠評価の影響力が強いが、徐々にそれ の限界や課題などにも着目されつつある。目標から 解放された評価の普及は、第一のパラダイム転換が すでに起きていることの証左である。

だが、評価の主体をステイクホルダーに拡大する ことのみでは第二のパラダイム転換が起こっている とは言えない。参加型評価の主要な目的は、関係者 を評価に巻き込むことで、①関係者の評価に対する オーナーシップを引き出すこと、および、②関係者 をエンパワーメントして評価能力を向上させること の二点にある。だが、日本における教育評価の主体 拡大の議論では、この二点の目的について、あまり 語られていない。評価に巻き込むステイクホルダー

評価作業の権限 評価の判断を行う主体 利害関係者評価 評価専門家>利害関係者 どちらかというと評価専門家

協働型評価 評価専門家=利害関係者 協働作業

実用重視評価 評価専門家=利害関係者 協働作業

エンパワーメント評価 評価専門家<利害関係者 利害関係者 従来型評価 評価専門家(利害関係者は情報源) 評価専門家

表 2 参加型評価における評価専門家と利害関係者の関係(従来型評価との比較を含む)

(5)

従来型教育評価 参加型教育評価

評価資金提供者 国民(納税者) 国民(納税者)

評価目的 資金提供者へのアカウンタビリティ(説明 責任)の確保

授業の改善および継続に必要な情報の確保

評価参加者の評価能力の向上

教員および教育関係者のオーナーシップと実 施能力の向上

子ども(学習者)のオーナーシップと実施能 力の向上

知識の共有化 評価の影響資源(影

響を与えるソース)

評価結果

・評価報告書(フィードバック、通知表、指 導要録)

・評価報告会

・データベース 主な対象者

・国民(納税者)

・教員/子ども 教員等への間接的影響

・教育計画改善

・マニュアル・ガイドライン改善

・予算・事業形態の改善

評価の過程

・ワークショップ

・ダイアローグ(対話)

・インタビュー 主な対象者

・教員および教育関係者

・子ども(学習者)

参加者への直接的影響

・教師自身の授業力向上

・子ども自身の学力向上

評価の実施時期 事後/中間/事前 中間/事前/終了時 評価者の位置づけ 評価者・評価チーム

・評価専門家および評価対象分野の専門家 としての教師

中立性・独立性

外部的立ち位置からの評価 評価者の独自判断

評価期間の設定

評価グループ

・教員および教育関係者

・子ども(学習者)

・ファシリテーター 自己評価

内部評価

コンセンサスの重視 継続的な評価が可能 評価参加者(評価の

主な検討者)の範囲

ステイクホルダー(情報提供が中心) ステイクホルダー(評価の役割を担当)

評価の設問・基準 設問

・授業の効果はあったか

・授業はどのように実施されたか 基準

・客観性を重視

・効率性、目的達成度、効果、妥当性、自 立発展性

設問

・授業の目的は何か

・実施の優先度

・将来、どう行動するか 基準

・評価参加者による設定

・評価過程で決定 評価手法 評価者による評価手法の選択/設問にあっ

た種々の手法(定量・定性)/分析の重視

/説明性の重視

簡易な手法/ワークショップ/対話/簡単な 調査/コンセンサスの重視

(出所)三好皓一・田中弥生200167頁を参照し作成

表 3 教育評価における従来型教育評価と参加型教育評価の概念比較 を単なる情報提供者としてではなく、評価の権限を

持った主体とすることで、日本の教育評価が真の意 味で二度目のパラダイム転換をすることになるであ ろう。参加型評価が提唱する効果について、わが国 でも教育評価のあり方を再検討する必要がある。

5. 参考文献

Guba, E. G. & Lincoln, Y. S.

1981

Effective

Evaluation. Jossey-Bass Inc., Publishers

源由理子(

2008

)「参加型評価の理論と実践」三好

皓一編『評価論を学ぶ人のために』世界思想社 三好皓一・田中弥生(

2001

)「参加型評価の将来性

―参加型評価の概念と実践についての一考察

―」日本評価学会編『日本評価研究』

田中耕治(

2008

)『教育評価』岩波書店

北川 剛司

参照

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