生徒の学ぶ意欲を高める学校ぐるみの取組―小・中 連携の視点から
著者 冨山 敦史
雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要
巻 22
ページ 131‑138
発行年 2013‑03‑31
その他のタイトル Aming to rise Students′ Motivation for study by the Whole school approach From the
viewpoint of cooperation of an elementary school and a junior high school
URL http://hdl.handle.net/10105/9309
1.はじめに
昨今の教育を取り巻く状況は頓に厳しく、混迷を窮め ている。学力低下、いじめ、不登校などの事象が社会 問題として話題になるものの、その本質を見極めた議論 はまだまだ本格化してはいないと考えられる。本稿では、
中学校の立場から、児童生徒の学ぶ意欲を高める学校 ぐるみの取組として、奈良県下のA中学校の実践を挙 げながら考察し、手だてを提案することによって、教育 関係者諸氏の対話の礎としたい。
1.1.問題の所在
「小中連携、一貫教育に関する主な意見等の整理」(平 成24年7月13日 中央教育審議会初等中等教育分科会 学校段階間の連携・接続等に関する作業部会)は、小・
中学校間には、学習指導面、生徒指導面に関して、「各 児童生徒の小学校時点における学習上の問題を中学校 と十分共有されていない(学習上の問題の共有)」「各 児童生徒の小学校時点における生徒指導上の問題が中 学校と十分に共有されていない(生徒指導上の問題の 共有)」と、円滑な接続が確保されていない可能性があ
るものと考えられると指摘している。
筆者が在籍(2001.4.-2012.3.)したA中学校では、入 学直後の新1年生に小学校1年から6年までの教育漢 字の書き取りテスト(基礎学力実態調査)を行ってい る。その結果は、1、2年はほぼ満点であるが、3年頃 から間違いが増えだし、4年では習得率40%を前後する 状況となり、5、6年では30%台の生徒も出てくるよう になる。習得率が急激に下がる3・4年の配当漢字は、
これまでの具体的な意味を表す漢字を発展させた抽象 的な概念を表す漢字である。生徒たちの解答を分析し てみると、一字一字の漢字は書けるのだが、二字以上 の抽象的概念を表す漢字の組み合わせ(熟語)になる と、途端に書けなくなる傾向があった。
中学校の学びの対象や課題は、このような抽象的な 概念の習得にあるので、当然ながら、中学校の教科書 に使われている漢字は、小学校の教育漢字は習得済み という前提で使用されているので、各教科の特性はある ものの、抽象的な概念を表す漢字が多く使われていると いう実態がある。生徒の教育漢字習得の実態を鑑みる に、低学力傾向を持つ生徒にとっては、入学当初の意 気込みも授業が始まるや否やたちまち萎縮せざるを得 冨山 敦史
(奈良教育大学 附属中学校)
Aming to rise Students′Motivation for study by the Whole school approach From the viewpoint of cooperation of an elementary school and a junior high school
Atsushi TOMIYAMA
(Nara University of Education Junior High School)
要旨:本研究では、A中学校が行った学校ぐるみの実践(基礎学力実態調査、学力向上タイム、「心が動く」授業、
小中連絡会の設定等)を考察することにより、生徒の学ぶ意欲を高めるための中学校における「学校ぐるみ」の取組 の意義や「小中連携」の有効性や課題について検討することを目的とした。その結果、基礎学力実態調査が、小学校 の課題習得状況(9,10歳の節目)をも含む生徒の実態把握に資するものであり、学力向上を図る授業づくりの資料と なると同時に、小学校との連携を図るための重要な資料となること、学力向上タイムや「心が動く」授業などの取組 が、生徒自らが課題を把握し、見通しを持って学ぶことに対する意欲を喚起することがわかった。また、校区内の児 童生徒の将来の姿を見据えた小中連携体制づくりを具体的に進めていくのが、義務教育最終段階を受け持つ中学校側 の役割であることを提案した。
キーワード: 学力向上 improvement in academic ability、基礎学力実態調査 basic scholarship survey 9,10歳の節目 The turning point of 9 or 10 years old、学ぶ意欲 students′motivation for study 学校ぐるみ the whole school approach
小中連携 cooperation of an elementary school and a junior high school
ないと考えられる。もし、中学校入学前にこのような生 徒の具体的な実態が中学校側に把握されていれば、もっ とスムーズな形で、中学校生活をスタートさせることが できるのではないだろうか。
1.2.「9,10歳の節目」の存在
子どもの思考が、具体的思考から抽象的思考へと移 行する時期が、年齢において、9,10歳(小学校3,4 年生)であることはよく知られている。教育実践の現場 においても、授業についていけない子どもの数が目立っ て拡大する節目がこの時期に存在するということも経験 的に知られ、「9,10歳の節目」などと呼ばれるように なった。この発達の質的転換期をいかに乗り越えていく のか、また、乗り越えさせるために教育はどのような手 だてを講じればよいのだろうか。就中、年齢的にこの時 期を過ぎた中学校段階において、この「9,10歳の節目」
を乗り越えられていない生徒をどのようにつかみ、どの ように指導していけばよいのだろうか。
2.研究目的
2.1.学校、学年ぐるみの「学力づくり」
中学校は教科担任制のため各教科の指導は教科に任 されており、学級担任は生徒の生活背景を知っていて も、個々の教科における学力の実態はつかみにくい。中 学校の学級担任がクラスの実態に応じて独自に学力づ くりの取組を進めることは、時に生徒の反発や同僚の反 対を招くことなど、弊害が目立ちやすい半面、短期間で は成果が見えにくいので、小学校に較べて取り組みにく い傾向もある。これらの問題を払拭し、教科担任制の中 学校において「学力づくり」で効果を出すためには、小 学校の学習内容を補完、定着させることと中学校での 学習を同時に行うことが必須である。これを可能にする ためには、教育課程の中に「学力づくり」を明確に位置 づけ、全校ぐるみの体制で臨むことが重要である。そし て、常に生徒の状態を把握しながらモチベーションを高 め、維持させていく取組を3年間という見通しを具体的 に持ちつつ展開していく必要がある。
A中学校では、2008年度から個々の生徒の基礎学力 の実態を把握し、発達の質的転換を図りながら学ぶ意 欲を高める取組を中学3年間での生徒の成長を見通し て学校ぐるみで実施する研究を始めた。具体的には以 下の4つの取組が行われた。
(1)基礎学力実態調査を通年悉皆調査で実施し、生徒 一人一人の課題を具体化すること。
(2)小学校の「積み残し」の解消と中学校での基礎基 本の習熟を学力向上タイム等で行うなど、学力づ くりの取組を教育課程の中に明確に位置づけるこ と。
(3)生徒の学ぶ意欲を喚起し、持続させる「心が動く」
授業を構築すること。
(4)校区内の教職員が「児童生徒の客観的事実を交流 し合う」小中連絡会の設定。
本研究では、筆者が現場の教員として、実践に関わっ たA中学校における具体的な取組を検討することによ り、生徒の学ぶ意欲を高めるための中学校における「学 校ぐるみ」の取組の意義やそれを支える「小中連携」
の有効性や課題について検討することを目的とする。
3.研究方法 3.1.対象
奈良県内公立A中学校全生徒353人(2010年度)。実 践計画の企画・立案は、企画委員会(校長・教頭・教 務主任・研究主任・生徒指導主任・人権教育主任・学 年主任・事務主査で構成され、週一回1校時を充てて 定例開催)において提案・検討され、職員会議を経て、
全校体制で実践した。実践の振り返りや検証は、当時 研究主任であった筆者を中心に、各学年主任および教 務主任で行った。
3.2.時期と考察方法
本研究で考察の対象とした取組は、2010年4月から 2011年3月末までのものとした。ただし、この学校ぐる みの取組自体は2008年度から継続的に行われているも のである。期間中、生徒や教員に対して、面接やアンケー ト調査を行うとともに、定期考査や小テスト、全国学力 生活状況調査などの結果も考慮して、結果を考察した。
4.A中学校の実践内容 4.1.社会で生きる学力づくり
A中学校では、「社会で生きる学力」を「社会で生き 抜く力」と捉え、「現状を把握し、未来を創造する力」
と定義し、社会で生き抜くための基礎学力(例、高校 中退しない能力→「読み・書き・計算」)、規範意識(ルー ル・マナー)、自己統制力(自分をコントロールする力)、
コミュニケーション力(人と関わる力)、自分や社会の 未来を描く力(ライフデザイン力)であると具体化し た。A中学校が進める学力づくりの取組は、ただ単にテ ストの点数や成績評定を上げればいいというものではな く、眼前の生徒たちが次世代の親となり子どもを育てる という見通しを常に念頭に置き、暖かい家庭の姿や言 葉づかい等、親から子へ引き継ぐべき事柄を日々の実践 の中で大切にする「世代間の負の連鎖を裁つ取組」で ありたいという共通認識を前提として進められた。学力 づくりの方針としては、子どもの思考が具体的思考から 抽象的思考へと移行する発達の質的転換期(「9,10歳 の節目」)の存在を踏まえながら、それぞれの教科指導 の根幹となる基礎・基本的事項を確実に定着させる「基 礎学力づくり」と小学校中学年以降(思春期)の発達
課題となる抽象的思考(科学的思考)へ思考形態を移 行させるための「概念づくり」を、学力づくりの根幹と して同時進行で行った。「基礎学力づくり」は教科指導 のみならず、「朝の読書」や「学力向上タイム」など学 校・学年体制で取り組み、「概念づくり」は、各教科の 基礎と基本を意識した意図的な語彙指導や映像提示等 の取り組みにより、生徒の思考形態を具体的思考から 抽象的思考(科学的思考)へと発展させることを目的と した。
4.2.基礎学力実態調査
単なる実力テストでは、生徒の基礎学力の実態はつ かめない。A中学校では、生徒の基礎学力の実態を小 学校の既習内容の問題を使い、悉皆調査(3学年同一 問題、同一日に実施)によって把握した。定期的に悉皆 実施することによって、具体的な生徒の伸びを確認しな がら学力向上策構築の足掛かりにしている。基礎学力 実態調査(国・数・社)は、4月当初(本格的な授業 が始まる前)に1回目を行い、2回目を2学期末(一部 学年閉鎖のため3学期初め)に実施した。調査問題の 内容は、国語と数学は「学力低下を克服する本」(文藝 春秋 2003)に依り、社会(地理・歴史)は自作問題を 使用した。調査結果は生徒に直接返さず、教科担任の 指導資料(3年間の見通しをもった個の実態に即した習 得プランの立案)とした。学級担任が採点を担うため、
その時点でのクラスの生徒の学力の実態(小学校内容 の習得状況)を直接把握することができ、調査結果は、
入学後に行われる小中連絡会の際の資料にも使用した。
4.3.学力向上タイム
生徒の学習意欲を喚起するには、学習方法の具体的 提示と成果が目に見えることが必須である。学力向上タ イムは毎週1時間(月曜1限目)に全学年で実施し、学 習理解のポイントとなる小学校の学習課題の解消と習 熟支援、中学校の授業内容の整理および発展的学習を 行った。学年担当教師全員がクラスに入り、問題の解き 方や考え方を指導(個別・一斉)し、中学校の教科書 理解の礎となる小学校の漢字力と計算力を習熟、定着 させ、生徒の自尊心の尊重と学習意欲の喚起を図った。
この際、小学校漢字を単発で練習させるのではなく、
熟語の形で語彙として習熟させることが、ことばの概念 化を促進すると考え指導した。取組にあたる教師は、
小学校5、6年の漢字が読めないと中学校の各教科の 教科書は理解できない現状をしっかりと認識し、指導す ることを共通理解した。
計算力については、小学校の問題をそのまま演習す るよりも、入試に出た計算問題(公立高校の過去問題)
を活用するほうが、生徒の自尊心の高揚と意欲喚起に つながる。入試数学は過去問題の大問1の「計算問題」
を満点にする指導からはじめると効果的であった。また、
入試に直結した問題演習は学習能力の高い生徒にも有 効で、自学自習への発展が期待される。
さらに、学力向上タイムでは、中学校各教科の基礎 的基本的内容と小学校の既習内容とリンクさせていく取 組も大切にした。これを放置すると積み残しがさらに増 えていくので、中学校の学習内容にも意欲的に取り組ま せることが重要である。その際、各教科の基礎と基本 を意識した意図的な語彙指導や映像提示等の取り組み により、生徒の思考形態を具体的思考から抽象的思考
(科学的思考)へと発展させ、概念の一般化を図った。
【各教科での指導例】
国語…文章の論理的読み方指導、表現技法の意味と実 例(特に比喩的表現)の提示、古典の暗唱。
社会…語彙指導(言葉の意味)だけではなく、常に地 図と結びつけて位置や時代背景を説明し、概念 化を図る。地図(記号)は世界共通。歴史にお いても空間軸、時間軸(同時代性)を意識させ るなど、歴史地理的アプローチの実施。
数学…数学的言語表現(垂心・垂線)の指導、数学用 語の解説(英文字の略称)。接点(接線):何と 接する点(線)なのか、図と言葉(数式)のリ ンク。和文数訳←→数文和訳
理科…漢字指導(漢字の意味)から科学的思考へ移行 させる語彙指導(雌雄、裸子と被子、中和【反応】
と中性【性質】の違いなど)。
英語…「フォニクス」を意識した音韻的アプローチ。暗 唱や類似性を意識させる。
また、学力向上タイムで習熟した問題を定期テストに 出題することが、目に見える形で生徒に努力の結果を示 すことになり、「これだけ頑張ればこれくらいは得点で きる」という目安を生徒が実感できることが学習意欲の 喚起につながると考え、実践した。
【学年ごとの学力向上タイムの内容 2010年度】
・1年 …小学校の学習内容「漢字」と「計算」の復習
…社会の都道府県名、国名、地理的知識
…定期テスト対策プリント
・2年 …市販プリントの利用(小学校の「漢字」「計算」
の復習)
…2年5教科単元の復習
・3年 …生徒の実態に応じた教科時数の増加(学期ご との弾力的運用)
…前週の5教科(国社数英理)の学習内容の確認 プリント
※確認プリントから定期考査への出題
生徒が、椅子にきちんと座れないと姿勢が崩れ、長 時間座ることができない。鉛筆が正しく持てないと疲れ やすく、長時間の学習に耐えられない。A中学校ではこ うした「座学の基礎」を再点検しつつ、生徒と根気くら べをしながらも「学力向上タイム」で楽しい雰囲気づく
表2「学校生活における約束事」
1. 自転車は駐輪場(クラス枠内のコンクリート上)に、
先に登校したものからつめて停める 2. 通学鞄は机のフックにかける
3. 朝の会や読書タイム・終わりの会は指示があるもの以 外机上に何も置かない
4. 授業終了後、すぐに次の授業準備を行う 5. 特別教室への移動は、休憩時間内に終える
6.教室を使用しない場合は必ず施錠し、鍵は職員室に戻 す
7. 体育の更衣は自教室で行う(外授業 男子→1・3学 期 女子→2学期)
8. 3限目終了後の5分間はトイレ・手洗いを認めるが、
全員で給食準備を行う給食終了チャイムまでは退室で きない
9. 清掃は清掃終了時刻まで行う
10. 翌日の時間割確認と教科係の黒板記入は清掃後~4限 開始時に行う
11. 終わりの会後の教室美化及び施錠は、学級で責任を持 つ
12. 机やロッカーの中は、いつも整頓しておく 13. ロッカーやヒーターの上には、私物を置かない 14. 部活動がなければ、すみやかに下校する 15. 登校・下校時の交通マナーを厳守する りを忘れない指導を心がけた。
4.4.「心が動く」授業づくり
心が動いてこそ行動できる、学ぶことができる、学び が身に付く。教師は「何とかしてこの1時間の授業の中 で心を動かす感動体験を生徒にさせたい」と願ってい る。A中学校では、生徒があと少し頑張ることで解決で きる課題を授業の中に仕掛け、生徒が小さなハードルを 越えたときの感動をすぐに伝え、共感することを授業づ くりの基本に据えた。
4.4.1.授業規律の確立
授業前後の「起立」「礼」の挨拶をはじめとした学習 規律を確立することが、授業に対する生徒の構えを作 るととらえ、「授業ルール」(表1)と「学校生活におけ る約束事」(表2)とを作成し、拡大印刷して教室に掲 示するとともに、折に触れて、これらを振り返らせる指 導を行った。当たり前のことでも「形に表す指導」をす ることで、どの生徒にもどの教員にもわかりやすく指導 の意図を伝えることができるという共通認識のもとに取 り組んだ。
4.4.2.「朝の読書」(毎朝20分間)の実施
A中学校では、10年前から「朝の読書」タイムを実 施している。当初は毎朝10分程度で、読書とドリル学 習(漢字・計算・英単語)を交互に実施していたが効 果は出ず、次年度から「読書活動は、読解力、思考力、
集中力等の学力向上への眼目である。」と全校で共通理 解を図り、毎朝20分間の読書を教育課程に位置づけ た。2010年度は、一人ひとりの読書の実態をつかみ、
読書の質の向上を目指すため、市立図書館が作成した
「ブックリスト」を活用した読書紹介を生徒会図書委員 会と連携し、実施した。
4.4.3.整理(ファイリング)の習慣づけ
配布プリントには、必ずパンチ穴を空け、ファイルへ の綴じ込みとノートへの貼付の時間を確保した。このこ とで、生徒は資料を整理することの達成感と学んだ証 が手元にあることの安心感が得られた。また、プリント の貼り方、プリント回収の仕方、ノートの書き方などの 丁寧な指導を何度も繰り返し定着を図った。
4.4.4.成功体験の積み上げ
生徒が意欲を出すのは、まず「わかるということが実 感できる」ことが前提となる。そのためにA中学校では、
まず、「できることをさせる」(できると実感させる)→
「ちょっと頑張らせる」(ちょっと頑張ってできたらほ める)→「自信を持つ」→「やる気がでる」という成功 体験の積み上げ(自己肯定感の向上)を授業づくりの 中に位置づけ、それに資する課題の工夫を教師間で共 有する機会を日常の中で意識した。
表1「授業ルール」
お互いの『学ぶ権利』を守り合い、自己の課題や目標を自 覚して、授業を中心とした学習生活を充実させよう!
*授業準備*
1. 連絡帳の記入を徹底し、準備物は前日に確認しておく 2. 個人の持ち物にはすべて記名し、責任をもって管理する 3. 準備物や宿題忘れは事前に教科担任に申し出て指示を
もらう
4. 準備物や宿題忘れが続く場合は、家庭への連絡や放課 後学習を行う
5. 学校・授業に不要なものを持参した場合は、学校預か りとする
6. 授業前の黒板清掃や机・椅子の整頓は、学級で責任を 持つ
7. 授業開始1分前のチャイムが鳴り終わる時点で、机上 に教科書・ノート等を準備し、着席しておく
*授業中*
1. 授業始まり・終わりの挨拶は、しっかり声を出して行う 2. 聞く姿勢を正す
3. ミスを恐れず、積極的に発言する 4. 間違った答えに対するからかいは許されない 5. 意見・質問があるときは挙手をし、勝手に発 言しない
6. 授業に遅れた場合は前のドアから入り、教科担任に理 由を述べる
7. 授業中のトイレ利用は、原則として認めない 8. 授業中の保健室利用は、教科担任の許可を得る 9. 授業中の勝手な私語・立ち歩きや、だらしない態度、
暴言などは厳しい注意を受ける
10. 授業を乱す行為が続く場合は別室で学習しなければな らない
4.4.5.基礎と基本を意識した授業構成
基礎と基本を区別すると、教える内容が明確になるの と同時に評価基準も明確になる。A中学校では、生徒 の心を耕し追究に耐えられる教材の発掘、教材をいか す指導過程の探究と個に応じた分かりやすい発問・指 示の整理(スモールステップ)を日々の授業構築の支柱 とした。この前提には、専門教科担当教員としての絶対 的な専門性(専門だからこそできる分かりやすさと学術 的裏付け)を追究する姿勢が不可欠である。また、少 人数制授業のメリットを活かし、教師と生徒、生徒同士 の対話を構築することで、教師が生徒の 反応(やる気)
に触発され、さらに授業に工夫・発展が生まれ、それ が職員室の話題の中心になるような授業づくりの雰囲気 を維持することに心を砕いた。
4.4.6.学ぶ目的を持たせる進路指導
生徒の学習意欲を高めるには「学ぶ目的」を持たせ ることが重要である。A中学校では生徒の発達段階を 考慮し3年間を見通した人格形成のための進路指導を 通して、中学卒業後の「生き方」「未来」を提示し、将 来の姿を描かせて、生徒の自己肯定感を高め、学ぶこ との意味をつかませて、高校での学びに対するイメージ を具体的化させることをねらいとした。
1年生では「職業インタビュー」(仕事調べ→職業講 演会→職業インタビュー)を実施し、2年生では「5日 間の職場体験学習」に取り組んだ。その際各事業所と 連携し、生徒の実態や課題を交流し、不登校傾向にあ る生徒の課題解決の端緒となるよう努めた。3年生では 1学期7月に2つの「進路講演会」(ハローワークのジョ ブサポーターと高校教師による講演)、 2学期10月に
「親子高校説明会」(高校教師による出張高校説明会)、
11月に「高校教師による出前授業」(生徒アンケート により高校・学科を決定し、第1希望の授業に参加する ことで意欲が高まる)、12月には、A中学校卒業生に よる「先輩による進路講演会」(講師は高校3年生)を 実施した。また、総合的な学習の時間において「ようこ そ先輩」(講師はA中学校卒業生及び関係者の社会人・
大学生)を継続的に実施し、生徒のビジョンの拡大に 努めた。
4.5.小中連絡会の設定
校区の中で生徒は生活し成長していくので、校区内 の教職員が、生徒一人ひとりの背景や発達の実態を把 握しながら、その課題を支援していくことが学力向上へ の礎となる。このことを共通理解したうえでの中学校区 内校園間の実質的な情報の共有が必要であるが、現状 は時間的制約も厳しく連携は進まない。小学校との連携 は、6年生の「中学校部活動体験」への参加や中学校 教師の小学校への「出前授業」などへの参加はあって も、児童生徒の実質的な情報共有を前提とした小中連
携は難しい。かつて、同和教育推進教員が配置されて いたときは、各校園の世話役となって定例の連絡会が あり、情報交流や公開授業も定期的に行われていたが、
「同対法」終了後は、加配も縮小された。
この現状を打開するために、A中学校が中心となり、
校区内3小学校と実質的な連携をめざした「小中連絡 会」を立ち上げ、A中学校の特別支援教育委員会と人 権教育推進委員会の担当教員がコーディネーターを務 め、各校の児童生徒の実態と課題について定期的に交 流を始めた。1学期は入学した1年生を中心とした情報 共有(第1学年担任団の参加)、2学期は中学校での公 開授業(小学校の元担任を招待)、3学期は小学校の授 業参観と出前授業、入学予定の子どもたちの実態を丁 寧に聞き取る小中連絡会(次期担当予定学年担任団と 特別支援教育コーディネーターの参加)を実施した。こ の連絡会の中学校側の合い言葉は「教師の思いではな く、児童生徒の客観的事実を交流し合う」とした。
5.結果
5.1.指導の指針となる基礎学力実態調査 新1年生だけでなく、毎年同時期に同一問題で調査 をすることにより、様々な問題点が明らかになった。
新1年生にとっては、小学校での学習の実態が浮き 彫りになった。例えば、ある生徒は、算数の特定の学年 の分野の得点が著しく低かった。漢字においても同様 の結果であった。本人と面談してみるといじめなどによ り、一定期間不登校の状態にあって、その間の学習が できていなかったことがわかった。また、算数、国語の 結果を学年・学級別に分析してみると、ある小学校の ある学級に所属していた生徒たちの点数が一様に低い という結果が出てきた。この理由は、後日、中学校での 三者懇談会の折に、当時の学級が崩壊状態にあり、そ の間の学習が保障されていなかったことによるものであ ることが、本人や保護者の訴えから明らかになった。こ のようなマイナスの要因を含む小学校当時の情報は、通 常の小中連絡会では、中学校側には積極的に提供しに くいものであるという認識を得た。
在校生の結果は、教員にとっては、生徒個々の基礎 学力の習得状況に合わせた課題(家庭学習)の提示や 小学校の課題をどの程度復習させるかの目安の把握に 大きく役立ち、生徒にとっては、高校進学のためにどの 程度の学力をどれくらいまでに習得しなければならない かを生徒自身が具体的に知るきっかけともなった。また、
基礎学力実態調査の結果から、学級生徒の小学校6年 漢字の習得率が50パーセントを超えると、その学級、
学年は落ち着いてくるという実態が確認できた。この調 査結果は入学後に行われる小中連絡会の際にも用いら れ、入学前の連絡会では得られなかった具体的な情報 交流を進める上での大切な客観的資料となった。
5.2.学力向上タイムのあり方
週1回50分間の学力向上タイムをどのように使うか によって、成果に差が出ることが明らかになった。ただ 単に問題演習と解答、解説をさせるだけでは生徒のモ チベーションは維持できない。そのため、基礎学力実態 調査の結果を踏まえながら、週1回の学力向上タイムの 有効な使い方を各学年担当者で考えるとともに生徒か らの意見を定期的に集約して、内容改善に心掛けた。
例えば、一人で取り組む課題とグループで対話しなが ら取り組む課題の設定や課題に取り組む前に復習タイ ムを設定することなど、生徒の前向きな意見ができるだ け内容に反映するようにした。その結果、以前にはほと んど見聞きしなかった成績に対する前向きな言葉や態度 を示す生徒を見かけることが多くなった。勉強の仕方が わからない、効果的な勉強方法を教えて欲しいという生 徒からの意見を承けて、生徒の学習意欲を喚起し、そ れを自信と自己肯定感の向上につなげていくためには、
具体的な学習方法の提示とその成果を目に見える形に することが重要だと考え、各教科の勉強方法をまとめた
「A中学校版勉強ガイド」の作成と学力向上タイムで の学習内容を定期テストに直接出題することに取り組ん だ。これにより、生徒自身が具体的な課題をもって努力 することで成功体験の積み上げが可能となり、授業に 臨む姿勢や態度も集中度が増し、学習意欲の向上につ ながった。
5.3.「心が動く」授業の成果
「授業規律」の確立を目指し、授業に向かわせる心の 構えをつくることを目的にした「予鈴チャイム」は、予 想外の効果を収めた。授業開始1分前に予鈴チャイム を鳴らすことによって、生徒の動きはもとより、教員の 動きが変わり、本鈴の際には、生徒の入室が完了して いることが当たり前になった。また、当たり前のことで も「形に表す指導」を継続していくこと(言葉を音声の みに留めず文字に示すこと)で、生徒のするべきことが 明確になった。教師にとっても曖昧な点が解消され明確 に指導できるようになった。
「朝の読書」タイム実施から9年に亘る取組の成果が、
徐々に生徒たちの間に浸透し、生徒の心は落ち着いてき たといえる。授業への取組、集中の度合いが高まり、エ スケープや暴力行為は皆無となった。もちろん生徒個々 の読書に対する意識の高さには違いがあるなど課題は 多いが、中学校における毎朝20分間の「朝の読書」
の設定の有効性は高いといえよう。
テストやプリント類の保管指導をすることで、生徒の 授業への取り掛かりが早くなり、予習・復習の教材とし て活用しやすくなった。また、テストのやり直しや宿題 等の課題の提出状況が向上した。
基礎と基本を意識した概念化を図る語彙指導を進め
る上で、小学校漢字の習得は、中学校教科書の読解と 理解に直接反映するということを教員間で共通理解し、
各教科の根幹となる語彙の指導を重点的に行った。概 念を表す言葉の意味を重層的に理解させることを続け ることで、文章の読解力や多方面から物事を考える力 が少しずつ向上してきた。
生徒の3年間の発達段階を見通した進路指導を実施 することで、生徒は、社会で必要な学力や「学ぶ目的」
を具体的に見いだし、「高校での学び」に積極的で具体 的なイメージを持った生徒も多くなってきた。例えば、
高校体験入学に参加する生徒の増加や自分の長所短所 を把握し、課題克服に具体的な努力を惜しまない姿勢 やそれを支える生徒たちの雰囲気の醸成などが挙げら れる。これらのことは、A中学校卒業生の高校中退率の 減少にも大きく関係していると思われる。
5.4.小中連絡会の取組の成果
「児童生徒の客観的事実を交流し合う」ことを根幹に 据えた小中連絡会の開催は、小中間ともに存在する日頃 の指導の困難さを認め合い、互いの状況を思い合える 契機となった。客観的事実を資料とすることで、教師の 思いだけが先行する交流ではなく、現状の厳しさ、苦し さをいかに改善していくかについて、小中の教師同士が お互いの胸の内を少しずつ語れるようになってきた。そ こから、日々の実態をそのままを見せ合おうという実質 的な交流計画が提案された。具体的交流の時間確保は、
極めて難しいが、まず、授業時間変更の都合がつきや すい中学校の教師が小学校の授業を参観することから 始めた。
中学校側においては、小学校の授業に参加すること で、様々な背景を持つ子どもたちの小学校における実 態を知り、この子たちを将来中学校で預かり育てていく という具体的視点を得ることができた。研究授業だけで なく普段の授業にも参加させてもらうことで、小学校の 大変さを身をもって学ぶことができた。授業の様子を見 せてもらうことで、中学校ではそれを見通した授業構成 や受け入れ準備ができ、教科の指導についても、例えば、
どのような系統指導を経て、中学校に入学してくるのか ということがわかってきた。
小学校側からは、日頃の実態を中学校側に知ってもら えることで、困難さを共有でき、理解し合える共通の基 盤ができたと感じられ、小学校の取組を批判されるので はないかと身構えてしまう必要がなくなったという感想 も寄せられた。
これまでお互いの実態を知らずに批判的にとらえてい た小中の交流が実質的なものに変わっていった。夏期 休業中に開催されたA中学校区の小中連携の研修会で は、中学校側から「中学校で落ち着いた取組ができる のも小学校での日々の真摯な取組のおかげである」とい う小学校側への感謝の気持ちも表明された。「児童生徒
の客観的事実を交流し合う」という取組が校区内に少 しずつ広がってきた。
6.考察
6.1.学校ぐるみの意義
ある課題の克服について、教職員間で共通理解を図 り、取組を実行していくことは自明のことではあるが、
教科担任制の中学校において、特に「学力づくり」に 関しては、それぞれの教科の専門性が壁となり共通理 解が図られることが難しい。その中で、A中学校の全校 体制での取組には、一貫して「生徒の実態からはじめ る」という理念があった。見えないものは形に表す、目 に見えるからやるべきことが明確になる。すぐに効果が 出ないことも見越した上で、それぞれの生徒の変化を 見極めながら、柔軟に、かつ、進路保障という中学校 教育の本質を見逃さない指導を教育課程に具体的に位 置づけ、全教職員で取り組んでいくことが実践を考える ときの指針となろう。また、成果を出すためには、教員 側のモチベーションの維持が不可欠であるが、A中学 校には、長年指導困難校としてのレッテルを貼られ続け ながらも、生徒に資するものならば、前向きに実践して みようという教師たちの意気込みと進取の気性が感じ取 られた。また、少しの前進を喜びとして、教師間で共有 できる同僚性の構築への努力が不可欠であった。
教育課程の中に「学力づくり」を明確に位置づけ、
学校ぐるみの体制で臨み、常に生徒の状態を把握しな がらモチベーションを高めて維持させていく柔軟でしな やかな取組を3年間という見通しを具体的に持ちつつ展 開していくことが重要である。
6.2.基礎学力実態調査の意義
基礎学力実態調査の結果から、発達の質的転換期で ある「9,10歳の節目」にあたる小学校3、4年生の 教育がどのような目的と意図とを持ってなされているの かということに疑問を持った。一般に小学3,4年生は、
体力的情緒的にも安定しており、規範意識に富み、高 学年などに較べ扱いやすい時期と考えられているが、
実は発達論的には大きな発達の節目を抱えている。こ の時期を担当する教師がどれくらいこのことを自覚して いるのであろうか。また、小学校運営の方針として明確 に位置づけられているのだろうか。統計的な調査は実 施していないので、あくまで現場教師の経験に基づく推 論となるが、A中学校の基礎学力実態調査の結果に表 れた小学校3,4年における学習の困難さが、その後の 中学校生活での学習に大きな影響を及ぼしていること は明らかであろう。中学年で増えてきている学級崩壊や 指導困難などは、小学校の当該時期のみならず、子ど もたちの将来に悪影響を及ばすということを十分考えた 上で、細心の注意を払って指導にあたることが肝要だと
思われる。教員養成の急務が叫ばれる今、このことは、
早急に調査研究されなければならないことだと考えられ た。
6.3.小中連絡会の意義
A中学校が掲げた「世代間の負の連鎖を断ち切る取 組」としての「社会で生きる学力」づくりを推進してい くには、中学校だけの取組では不可能である。そのため にも、A中学校が合い言葉とした「教師の思いではなく、
児童生徒の客観的事実を交流し合う」実質的な小中連 絡会が必要なのである。形式的な小中連絡会において は、小学校当時のいじめや不登校、学級崩壊、関係機 関(警察・児童相談所・裁判所など)との関わりなど は、小学校側にとっては話題にしたくないことかもしれ ない。また、中学校側に余計なレッテルを貼られては子 どもにとっては不利益だと考えているのかもしれない。
しかし、子どもの「事実」を共有してこそ、実質的な支 援体制を組むことができるのだと考える。「事実」は軽々 しく語れない。「事実」を語るにはその基盤として、両 者の信頼関係の樹立が前提となる。では、いかにして 小学校と中学校の教師の間に信頼関係を作っていけば よいのだろうか。
4.1.で述べた「社会で生きる学力」を地域、校区 内校園で共通理解するとともに、教職員が「子どもたち の現状を把握し、未来を創造する力」(想像力:思い遣 る力)を鍛える必要性を感じる。例えば、高校中退に 到る生徒には、それに到る萌芽がすでに保育所や幼稚 園段階で現れていることに教師は気づいていることだろ う。「気づいている」けれども、多忙な日々の中でそれ を見過ごしていることも多いかと思われる。幼保、小中 そして高校への連携の在り方は、この「気づき」の共 有と継承こそが大切ではないだろうか。中学校にとって は、各教科の指導内容に留まらず、小学校の指導内容 との共通部分を考察し、指導内容の系統性を図る指導 を行うことが、生徒の既習内容の定着に大きく資すると 考える。それを具体化するものとして、A中学校が取り 組んだ「基礎学力実態調査」(国語・算数(数学)・社会)
の結果をデーターとして使えるようにし、このデーター を見ながら生徒の学力の実態を具体的に把握し、指導 計画を見直したり、恒常的に小学校と連携していくこと が必要だと考える。教育の専門職である教師として、児 童生徒がどのように育ち学んでいくかの道筋に興味と関 心を持ち、長いスパンでその成長を見守っていくという 姿勢が問い直されるべきではないだろうか。
中学校単独の学力向上の取組には限界がある。中学 校区の中で、子どもは生活し成長していくという視点を 持ち、生徒一人ひとりの背景や発達の実態を把握しな がら、その課題を支援していくことが学力向上への礎と なる。保幼、小中そして高校へと成長していく子どもた ちの発達における問題点や気づきを共有、継承していく
取組が求められているといえよう。これに応えるために は、A中学校が実践している校区内の学校、保育所、
幼稚園とこの気づきを共有した共通理解と情報(事実)
の共有と蓄積を図る姿勢が有効であると思われる。
7.おわりに
小中連携のあり方は容易ではないが、これを克服す る手がかりとして、実社会で生きる学力の育成を目指し た校区内の子どもたちの学びの連続性(眼前の子ども たちの将来像に思いを馳せること)を教師が自覚するこ とを共通基盤にした教職員間の信頼関係づくりを進める ことが、昨今の教育問題を解決に向かわせる鍵だと考 える。このことを進めていく役割を担うのが、義務教育 最終段階を受け持つ中学校ではないだろうか。さまざま な背景を持つ子どもたちの進路保障に日々努力している 中学校教師であるからこそ担える役割ではなかろうか。
多忙に追われる現状ではあるが、中学校教師の持つ幅 広いネットワークとフットワークを駆使すれば、学校や 子どもたちがおかれている厳しい現状の改善も少しは 図られるのではないだろうか。社会における現場教師の 役割の復権を求めて実践を積み重ねていきたいもので ある。
8.参考文献
「小中連携、一貫教育に関する主な意見等の整理」
平成24年7月13日 中央教育審議会初等中等教育分科 会 学校段階間の連携・接続等に関する作業部会
(2011)
『学力低下を克服する本』陰山英男・小河 勝(2003)
文藝春秋
『VIEW21[中学版]2010.vol.1』「学力下位層を伸ば す3か年のストーリー 自己肯定感と基礎学力の向 上を3年間を通して図る」(2010)ベネッセ教育開 発センター
『2009年度 天理市立北中学校研究のまとめ』奈良県天 理市立北中学校(2009)
『2010年度 天理市立北中学校研究のまとめ』奈良県天 理市立北中学校(2010)