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奈良県吉野郡川上村高原川流域のマンガン鉱床
著者 梅田 甲子郎
雑誌名 奈良学芸大学紀要. 自然科学
巻 14
ページ 41‑46
発行年 1966‑02‑28
その他のタイトル Studies on the Manganese Ore Deposits in the Takahara River Valley of the Kawakami Village, Nara prefecture
URL http://hdl.handle.net/10105/3358
奈良県吉野郡川上村高原川流域のマンガン鉱床
梅 田 甲 子 郎 (奈良学芸大学地学教室) (昭和40年9月30日受理)
Studies on the Manganese Ore Deposits in the Takahara River Valley of the Kawakami Village, Nara prefecture
Koshiro UMEDA
(Department of Earth Science, Nara Gakugei Univ. , Nara, Japan) (Received Sept. 30, 1965)
The manganese ore deposits distributed along the Takahara river are concordantly con‑
tained as bed veins in chert of the paleozoic system, and repeat frequently small foldings with the country rock.
The hanging wall of the deposits is fresh massive chert and the foot wall is mainly meta‑
morphosed stratified chert. The metamorphism of the counry rock is hydrothermal sencitization.
緒 言
紀伊半島の申古生層中には,小規模なマンガン鉱床が,所々に散在している.中生層の鉱床は 輝線凝灰岩に伴う不規則な塊状鉱体であり,古生層の鉱床はチャート内で層状を呈する.今回奈 良県吉野郡川上村高原川流域に分布する古生層型のマンガン鉱床を調査したので,それらの鉱床 の状態,とくに母岩の変質についてのべる.
1この調査研究に関し,種々御指導賜った奈良学芸大学島倉巳三郎教授・京都大学理学部上田健 夫教授・名古屋大学教養部志井田功教授,化学分析に関して御懇切な卸教導を賜った京都大学理 学部鉱物学教室田窪宏氏,現地踏査に便宜を与えて下さった大阪通産局鉱業課宗森一郎係長,盟
隆鉱山経営者山谷豊太郎氏に対し深甚な謝意を表する.
高原川付近の地質の概要
高原川は紀伊山地大峰山塊の北方にある大天井為訣・四寸岩山に源を発し,東北方に流れて,秦 良県川上村役場の位置する迫で吉野川に合流する(罪‑図参照).当吉野川流域の地質は,すでに 名古屋大学教養部志井田功教授により調査されている.
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高原川流域は,大部分は秩父古生層が分布し,一部 に時代未詳中生層が存在している.古生層を構成する 岩石は,砂岩・粘板岩・チャート・輝緑凝灰岩・石灰 岩である.砂岩は細粒無層理のGreywacke型の砂 岩であり,粘板岩は一般に微弱な層理を有する黒色岩 であるが,多少,凝灰質となって,灰緑色を呈するも
のもある.チャ‑トは塊状岩と,数cmの間隔の明瞭 な層理を示す層状岩(いわゆる千枚珪岩)があり,い づれも不純物の極く少ない,石英の徽品の集合体であ って,純白に近い.なお,所々に,酸化鉄を含み,や や歩土質の赤色チャートが散見されるが,白色チャー トと共存することはなく,主として輝線凝灰岩に伴わ
れる.輝緑凝灰岩は濃緑色の塊状岩であり,他の地層 第1図 高原川の位置 に整合ではあるが,膨縮著しい.輝線凝灰岩に伴われ
て,不規則な石灰岩塊が散在している.石灰岩は炭酸石灰の純度が高く,白色であり,化石を産 することは極めてまれである.川上村一帯の古生層においては,輝緑凝灰岩と石灰岩および赤色 チャートの随伴関係は非常に密接であるが,輝線凝灰岩.石灰岩.赤色チャートの分布地帯と白 色チャートのそれとは全般的に異なり
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第2図 高原川上流の地質とマンガン鉱床 (仏像線より以北が中生層の地窓である)
マンガン鉱床はそのうちチャートの分 布する地帯に存在する.中生層を構成 する岩石は,砂岩・粘板岩・輝線凝灰 岩・チャートなどであるが,古生層の 岩石と酷似しているため,古生層の岩 石との区別が困難である.ただし,中 生層は大部分が砂岩・粘板岩または その互層が多く,白色チャートは少な い.また,輝緑凝灰岩中には石灰岩が 非常に少なくなり,赤色チャートが多
く伴われている.
川上村地方の古生層は南の未詳中生 層に低角衝上したものであるから,見 掛上,上位に古生層,下位に中生層が 存在する.その衝上線であるいわゆる 仏像線は,四寸岩山および大天井減の 西斜面付近を通過すると推定されてい るが,中生層と古生層との岩相が類似 しているため,その絶対位置が判然と しない.しかも,高原川の上流,すな わち,四寸岩山および大天井舟の東方
で,志井田功授授が中生代のStromatopora sp.を発見したため,仏像線が高原用上流まで迂回;
しているのか,あるいは高原用上流が地窓になっているのか,判定困難である.しかし,化石産二 地よりさらに上流に古生層特有の厚いチャートがあるから,筆者は,地窓と推定すべきだと考え̲
ている.当地方の中古生層は振幅の小さいゆるやかな波状摺曲が多いためI走向傾斜は所によっ, て変化が激しいが,全般的にみると,水平に近い状態で,僅かに東々北に傾斜している.
鉱 床 の 形 態
当地方のマンガン鉱床は,第2図に示すように,高原用上流の厚いチャート内のいくっかの暦 準に点在している.鉱床の規模は一般に小さく,最も大きいのが,最近発見され,現在稼行中の, 豊隆鉱山であり,その走向延長70m,傾斜延長50m,平均脈巾40cmである.他はいづれも品位・
規模ともに貧弱であって採掘の段階に達したものはない.したがって,今回の調査は豊隆鉱山を 中心に行った.
各鉱床はいづれも母岩に整合的な鉱層であって,母岩が波状摺曲をしている場合は,それに従 って摺曲している.高原鉱山二号坑で「‑ナウチ」とよばれる鉱層の分岐脈が現れて,探鉱者を 面喰わせたが,これは波状摺曲と断層のため,同一の鉱層が重複して現れたにすぎない.
豊隆鉱山の坑内図を第3図に示す.鉱層の走向傾斜は,全体的にみれば, N60。W, 10。NEであ るが,母岩とともに波状摺曲をしているため,傾斜の変化が激しい.坑仁一はり西西北10m前後の
貰
io 20 , .
第3図 豊隆鉱山坑内図と槽曲軸 mms
所に向斜,それより約30m西西北に 背斜,さらに20m進んだ所に向斜が 認められる.このように,波長約 50m,振幅約7m程度の波状摺曲を 示し,その摺曲軸の方向は,大体走
向と直交し, N5‑‑30。Eである,紘 層の膨綿は著しく,摺曲の背斜部と 向斜部は層厚大で品位も良く,傾斜
部は脈巾・品位ともに貧弱であ る.また,背斜部と向斜部は母岩, 鉱層が破砕されていることがある.
鉱層はふつうは一枚のみであるが, レンズ状の平行な小鉱層を伴うこと
鉱 石
鉱石は黒色泥状の二酸化マンガンと,桃色の硬い炭酸マンガンがある.一般に地表浅部では二 酸化マンガンが多く,地下深部は炭マンが多い.また,両者は漸移し,混在し.炭マンの割れE]
にそって二酸化マンガンが網状に溶み込んでいて,炭マンが酸化して二酸化マンガンに変化した ことを示している.
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Ⅹ線粉末法で回折した結果,炭マンはほとんどが,菱マンガン鉱であり,二酸化マンガンは非晶 質であった.
なお,両者の化学組成を第1表に示す.
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母岩と その変質
当地方の鉱床の母岩は粘板岩を伴うこともあるが,一般にチャ‑トである.豊隆鉱山の坑内で も,母岩はすべてチャートである.チャートは前述のごとく,石英の微晶よりなる硬い白色岩で あり,塊状と層状がある.
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表邑粘土
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sample NO.3
Sanple NO.4
第4図 二号坑口より30mの地点の側盤 試料の間隔は約30cm
盟隆鉱山内においては,鉱体の上盤は塊状チャートが多く,下盤は層状チャートが多い.上盤 の塊状チャ‑トは新鮮で,ほとんど変質していないが,下盤のチャートは変質が激しく,鉱層に 接した部分などは変質して赤色粘土となっている.坑内至る所に変質した層状チャートが目につ く.鉱層から遠ざかるに従い,変質度も下る.その変質の具体的な状況を知るために,二号坑の 坑口より30mの点における側盤の鉱層と新鮮な母岩までの問を第4図のごとくにほぼ等間隔にサ ンプリングし,その試料について, Ⅹ線回折と化学分析を行った.
母岩のⅩ線回折図を第5図に示す.石英と絹うんものみのピークが現れて,他の粘土鉱物は認め られなかった.図の×印が絹うんもで,残りは全部石英のピ‑クである.石英のピークの強度も
X メ
X x
王0 20‑ 30 40
第5図 母岩のⅩ線回折図
鉱層に近いものはど小となり,変質による結晶度の低下を示している.
つぎに各母岩の化学分析値を第2表に示す.
第2表 母 岩 の 化 学 組 成
Fe203 TiO2
No. 1
No. 2
No. 3 No. 4
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3.77i ll.12
r
[
1
66.84i 10.24
∴ ・
6.05 竺竺
主要元素の増減を第6図に示す.化学組成よりみて,当然のことながら,鉱層から離れるに従 い Si02が増加し, MnOは減少する.しかし,変質帯内ではAhO3 ・Fe203+FeO・K2O などはあまり変化しない.とくにK20は各試料中に5%という多量で一定した割合を保って
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いる.
以上の点より,当鉱床の母岩の変質は,低温のK20の多いアルカリ性溶液によるものであっ て主として絹うんも化作用であると推定される.
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姐款 的.1 HO.2 サ0.3 No.4 急 第6図 SiO2・A1203・MnO・K2Oの変化
結 論
(1)川上村高原川流域のマンガン鉱床は,秩父古生層中のチャートに整合的に肪胎される.
(2)母岩とともに波状摺曲をなし,その背斜部と向斜部が富鉱部であり,傾斜部が劣勢な鞍状 鉱床状を呈する.
(3)母岩は上盤が新鮮な塊状チャートであり,下盤は層状チャ‑トが多く,下盤のみが熱水変 質を受けている.いわゆる=逆盤"である.
(4)母岩の変質は絹うんも化作用を中心とした低温熱水変質である.
参 考 文 献
(i)志井田 功(1962) :紀伊山地中央部における秩父累帯および日高(四万十)累帯の層位学的構造地 質学的研究.名古屋大学教養部紀要第6集別冊)
(2)吉村豊文(1952) :日本のマンガン鉱床