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超分子形成物質の添加および 外部磁場の印加による

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(1)

超分子形成物質の添加および外部磁場の印加による 光誘起ラジカル反応の制御

著者 宇田川 周子

雑誌名 金沢大学大学院自然科学研究科博士学位論文 p.46

発行年 2013‑03‑26

URL http://hdl.handle.net/2297/34621

(2)

1

博士論文

超分子形成物質の添加および 外部磁場の印加による

光誘起ラジカル反応の制御

宇田川 周子

2013 年 3 月

(3)

2

博士論文

超分子形成物質の添加および 外部磁場の印加による

光誘起ラジカル反応の制御

金沢大学自然科学研究科 生命科学専攻 生理活性物質化学講座

学籍番号 1023032502

氏名 宇田川 周子

主任指導教員 中垣 良一

(4)

3

目次

I.

序論 ... 4

II.

理論 ... 7

II-1

ラジカル対機構 ... 7

II-2

超微細相互作用機構(hfc機構:Hyperfine Coupling Mechanism) .. 9

II-3 Δg

機構 ... 12

II-4 S-T

-

Level Crossing ... 13

II-5

緩和機構 ... 14

II-6

超分子 ... 14

III.

様々な溶媒中における

Flutamide

の光化学: ... 18

III-1

序 ... 18

III-2

試薬および方法 ... 19

III-2-1

試薬 ... 19

III-2-2

実験機器 ... 19

III-2-3

光照射条件... 20

III-2-4 Flutamide

の光化学に対する磁場効果 ... 20

III-2-5

光生成物の合成および同定... 20

III-3

結果と考察 ... 22

III-3-1

種々の溶媒中における光反応 ... 22

III-3-2

様々な溶媒中における光反応性 ... 24

III-3-3 Flutamide

の光反応に対する磁場効果 ... 26

III-4

結論 ... 33

IV. 1,3-Diphenylisobenzofuran

SDS

ミセル溶液中の光増感酸化反応に対 する磁場効果 ... 34

IV-1

序 ... 34

IV-2

実験 ... 34

IV-3

結果と考察 ... 35

IV-4

結論 ... 40

V.

終わりに ... 41

VI.

謝辞 ... 41

VII.

参考文献 ... 42

(5)

4 I.

序論

磁場は化学者・物理学者および生物学者にとって非常に興味深い物理的環境で ある。

磁石の発見は紀元前十数世紀であるといわれており、人類との関わりは数千 年の歴史を持っている。哲学者、戯曲作家など様々な人たちが磁場に興味を示 していた。

近代科学史で

1847

年、英国の

Michel Faraday

による“On the diamagnetic

conditions of flame and glass”[1]、イタリアの Zantedeschi

による“On the

motions presented by flame when under the electro-magnetic influence”[2]が

同時に

Philosophical Magazine

に発表された。その後、磁場の物理的効果につ

いては種々の研究がおこなわれてきたがその応用は限られていた。磁場の化学 的効果については

1881

年に

I. Remsen

が銅の析出反応に対する磁場効果をアメ リカ化学会誌に発表している[3]。時代はさらに新しくなるが、我が国において

1964

年に田畑らによるホルムアルデヒドの放射線固相重合の磁場効果に関 する論文[4]、

1968

年には藤原らによるポーラログラフィティーに及ぼす静磁場 の影響[5]が発表されている。また、磁場の生物学的影響については

1964、 1969

年に出版された“Bioligical Effects of Magnetic Fields, Vol. 1&2”において、磁 場が多数の生物現象に大きな影響を与えることが報告されている[6]。 しかし ながらそれらの大部分は再現されておらず、当時、磁場効果を説明する適切な 理論もなかった。

磁場により起こる分子のエネルギー変化は、常磁性体である有機ラジカルを

1 T

の磁場中においた場合でも電子スピンのゼーマン分裂により変化するエネル

ギーは

0.01 kJmol

-1であり、このエネルギーは一般の化学反応の活性化エネル

ギー(数十から数百

kJmol

-1)はもとより、室温における熱エネルギー(2.5

kJmol

-1)と比べてもはるかに小さい。さらに、有機化合物のような反磁性体の

磁場によるエネルギー変化は、常磁性体よりもさらに

3

桁小さく、このような 熱力学的考察から磁場が化学反応に影響する可能性は極めて少ないといわれ、

「化学反応の磁場効果」は疑わしいものとされていた。

しかしながら、1960 年代末にはいり、化学誘発動的核スピン分極(CIDNP、

Chemically induced dynamic nuclear polarization)および、化学誘発動的電子

スピン分極(CIDEP、Chemically induced dynamic electron polarization)が 発見され、そのメカニズムの解明が進むにつれ、電子スピンおよび核スピンと 反応の関わり合いが明らかになった[7]。

1976

年に日本の研究グループ[8]および ドイツの

2

つの研究グループ[9,10]がそれぞれ独立に光化学反応の磁場効果の研 究を発表し、さらにラジカル対機構という全く同一の機構により磁場効果を説 明したことから、サイエンスとしての磁場効果の研究が一気に進んだ。

(6)

5

化学反応の反応速度や生成物収量に対する磁場効果は、CIDNP

CIDEP

共通のメカニズム-ラジカル対機構-で理論づけられることから、これらの研 究分野は、“スピン化学”と呼ばれるようになった。現在では、広く化学・物理・

生物現象に対する磁場の影響を研究する研究分野は“磁気科学”と呼ばれるま でに発展してきている。

光化学反応や熱化学反応において、ラジカル対を経由する反応は数多く知ら れている。植物や細菌の光合成の初期過程には光電子移動反応のようなイオン ラジカル対が生成することや、その他の生体反応や化学工業における反応にも ラジカル対を経由する反応が数多く登場することから、ラジカル対は極めて重 要な短寿命反応中間体である。反応速度や反応収量に対する磁場効果はラジカ ル対機構で説明できる。ラジカル対は二つのラジカルで構成されており、ラジ カル対として一重項または三重項と呼ばれる違った電子スピン状態をとってい る。磁場がかからない場合、一重項と三重項の縮重した三つのサブエネルギー 準位が一致するときラジカル対は後述の電子スピン‐核スピン間の超微細相互 作用機構(hfc機構)により項間交差が起こる。一重項ラジカル対はさらに再結 合することにより「かご内生成物」を生成し、一方、三重項ラジカル対はその ままでは再結合できず散逸してフリーラジカルとなり、それらフリーラジカル 同士が出会うことにより、「散逸生成物」を生成する。磁場はラジカル対のスピ ン状態に影響を及ぼし、項間交差に働く。たとえば、

1 T

未満の低い磁場が存在 するとき、三重項の三つのサブエネルギー準位はゼーマン分裂によりエネルギ ー準位の縮重がとけ、一重項-三重項間の項間交差が抑制される。その結果、

磁場は反応速度や反応生成物収量に大きな影響を及ぼす。

ラジカル対のスピン多重度はその前駆体の多重度に一致する。例えば、前駆 体が励起三重項であった場合、

hfc

機構による三重項-一重項間の項間交差は抑 制され、かご内生成物の収量は減少する。かご内生成物の減少は、同時に磁場 印加による散逸生成物の増加に関係する。このように磁場効果をプローブとし て用いることにより簡単にラジカル対前駆体のスピン多重度を決定することが できる。また、ラジカル対の寿命は粘度などのミクロ環境の特性に左右される。

低粘度な均一溶媒系ではラジカル対の寿命は短く、磁場効果はみられない。一 方、ラジカル対の寿命は不均一溶媒中で長く、顕著な磁場効果が見られる。磁 場効果を解析することにより分子のミクロ環境の状態を類推することができる。

すなわち、反応速度や反応生成物の収量に対する磁場効果は、反応機構を解明 するにあたり、シンプルかつ有用な道具となる。最近は数テスラ以上の強磁場 影響の研究が多数報告されているが(1 テスラ(T)=10,000 ガウス(G))、磁 場効果をプローブとした反応機構研究の汎用性・有用性を意識し、本研究では、

どこの研究室でも入手可能な永久磁石を磁場の発生源として用い、有機光化学

(7)

6

反応機構の解明をおこなった。

Flutamide

2-methyl-N-[4-nitro-3-(trifluoromethyl)phenyl]propanamide

は 前 立 腺 が ん に 用 い ら れ る 非 ス テ ロ イ ド 性 の 抗 が ん 剤 で あ る

[11-13]

Flutamide

は副作用として光過敏性があることが報告されている[14-19]。この

ことから

Flutamide

の光反応については、様々な溶媒における

Flutamide

の光

反応およびその生成物が報告されている[20-24]。しかしながら、いずれの報告 も生成物の解析は様々であり、反応機構の詳細について完全に証明できてはい ない。第

III

章では、光過敏性副作用の作用機序解明のための一助として、超分

子中の

Flutamide

の光化学反応の磁場効果の研究を行った。Flutamideの光化

学反応の溶媒としては、均一溶媒である

pH7.4

のリン酸緩衝液から、より生体 内環境を模すために不均一溶媒系である

β‐シクロデキストリン(β-CD)およ

びミセル溶液であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS) 溶液およびポリオキシエ チレン(23)ラウリルエーテル(Brij35) 溶液中での磁場効果、さらに生体内分 子である牛血清アルブミン中(BSA)溶液中における光反応に対する磁場効果 を調べ、反応機構を詳細に検討した。その結果、磁場効果をプローブに用いる ことにより、その光反応機構について新しい知見を得ることができた。

磁場効果は反応機構の解明に非常に有用な道具となりうる。しかしながら、

磁場は誰でも簡単に利用できることから、逆に未だに再現性の不確かな研究が 報告されていることもあるようである。よって、磁場効果の研究において再現 性の有無を検討することは非常に重要な研究である。光酸化反応は生体系でも 観られる重要な化学反応の一つである。1,3-Diphenylisobenzofuran(DPBF)

Anthraquinone

(AQ)を増感剤に用いた光増感酸化反応の磁場効果について

は谷本らによって既に報告がなされている[25]。磁場効果は

DPBF

および

AQ

UV

吸 収 に 対 し て の み 検 討 さ れ た だ け で 、 酸 化 生 成 物 で あ る

o-Dibenzoylbenzene(DBB)の収量については未検討であった。また、類似し

た光反応の磁場効果の報告は他にないようである。そこで、第

IV

章では、この 光酸化反応について反応物のみならず生成物を分離しそれらの収量を解析する ことにより、その磁場効果の再現性を検討し、詳細な反応機構の解明を行った。

さらに

AQ

以外の増感剤についてその磁場効果を検討し、光酸化反応の磁場効 果の普遍性を明らかにした。

以上の研究により、磁場効果をプローブに用いて、

Flutamide

の光反応の反応 初期過程・DPBF の光増感酸化反応機構の解明を行うことができた。併せて、

永久磁石を利用した磁場のプローブとしての有用性について実証することがで きた。これらの研究により今後光化学反応機構の解明に、磁場効果が一層利用 されるものと期待される。

(8)

7 II.

理論

II-1

ラジカル対機構

磁気的に相関関係を持つ二つの電子を持つラジカルの対をラジカル対と呼ぶ。

磁場はラジカル対のスピン状態に作用することにより、ラジカル対を経由する 反応に対し顕著に影響を与える。短寿命反応中間体であるラジカル対を生成す る反応としては、(1)結合開裂、(2)電子移動、および(3)水素原子引抜き反 応がある。

(1)結合開裂反応

R

1-R2

R

1・・R2

(2)電子移動反応

R

1+R2

R

1・・R2

(3)水素引抜き反応

R

1+HR2

R

1

H・・R

2

(1)では、光や熱により分子

R

1-R2の結合のホモリシスが起こり、ラジカ ル対

R

1・・R2を生成する。(2)では、光や熱により分子

R

1から分子

R

2への電 子の移動によりラジカルイオン対が生成する。(3)では、光や熱により分子

R

2

H

から分子

R

1へ水素原子の移動によりラジカル対が生成する。

ラジカル対の関与する反応機構を

Fig. II-1

に示す。ラジカル対は一重項

(Singlet、S)と三重項(Triplet、T)の

2

つの電子スピン状態を持つ。三重項

T

+、T0、および

T

-の三つのエネルギー準位を持っている。生成したラジカル 対のスピン状態は、スピン保存則により、前駆体のスピン状態に依存する。す なわち、例えば一重項励起状態分子が前駆体の場合、生成したラジカル対は一 重項ラジカル対であり、前駆体が三重項の場合、生成したラジカル対は三重項 ラジカル対である。一重項ラジカル対からは、項間交差により三重項へ移る過 程、再結合によりかご内生成物(基底一重項状態、cage products)を生成する 過程、および散逸によりフリーラジカルを経て散逸生成物を生成する過程があ る。三重項ラジカル対からは、項間交差により一重項へ移る過程、散逸により フリーラジカルを経て散逸生成物を生成する過程がある。なお、スピン禁制則 により、三重項のスピン状態から直接スピン多重度の異なる一重項かご内生成 物へ遷移することはできない。

(9)

8 Fig. II-1 Radial pair model

ラジカル対の一重項-三重項項間交差はどのようにして起こるか、その際磁 場はどのような影響を与えるのかについて説明する。ラジカル対の一重項-三 重項項間交差の理論は、伊藤公一らの

X

線照射固体内にトラップされたラジカ ル対の固体中のラジカル対の磁気的相互作用の理論[26]をもとに

Kaptein

によ り作られた[27]。その理論により、例えば、三重項ラジカル対を前駆体としたと きの、S

T

0の混合が起こる場合について考える。この場合ラジカル対の時間

t

における三重項成分|CT

(t)|

2は、次式で与えられる。

|C

T

(t)|

2

= 1 − (Q

N

⁄ ω

N

)

2

sin ω

N2

t (1)

ここで、

ω

N2

=Q

N2

+ (2πJ/h)

2

(2)

Q

N

= [Δgβ B/2 + (∑ A

ai i

M

i

− ∑ A

bk k

M

k

)]2π/2h (3)

である。

J, h, g, , B, A

i

, M

i

, A

j

, M

jはそれぞれ交換相互作用の大きさ、プラン ク定数、2つのラジカルの

g

値の差、ボーア磁子(定数)、外部磁場強度、ラジ カル1の核スピン

i

の超微細相互作用定数とその磁気量子数、ラジカル2の核ス ピン

j

の超微細相互作用定数とその磁気量子数である。

Singlet precursor Triplet precursor

Triplet radical pair Singlet radical pair

Escape radicals (Free radicals)

Cage products R

1

R

2

Escape products

Escape Escape

Intersystem crossing

Radical pair model

Magnetic field effects R1 ・・ R2

3

R1 ・・ R2

1

(10)

9

すなわち、ラジカル対は、(1)式より一重項状態と三重項状態の間を周期的に 角周波数

ω

Nで行き来すること、その角周波数は(2)式に示すように、2つの項に 依存することが分かる。(2)の第一項は、(3)に示すように、さらに2つのラジカ ルの

g

値の差(g)と印加磁場の大きさの積に比例する項と、電子スピン-核スピ ンの超微細相互作用に依存する項から出来ている。(2)の第二項は、2つの電子 の交換相互作用による項である。また、(1)の振動の振幅は、(QN

⁄ ω

N

)

2に比例す る。

(2πJ/h)

2

>> Q

N2のとき、言い換えると2つのラジカルが近づき、交換相互 作用

J

が大きいところでは、一重項-三重項間の項間交差がおこらず、2つの ラジカルが拡散し

J ≈ 0

のところで、項間交差が起こることを示している。(3) 式の第一項による磁場効果をg機構、第二項による磁場効果を

hfc

機構という。

II-2

超微細相互作用機構(hfc機構:Hyperfine Coupling Mechanism)

まず、ラジカル対機構による磁場効果の中の

hfc

機構による磁場効果について、

ベクトルモデルを使って説明する。

ラジカル対のスピン状態をベクトルモデルにより表わすと

Fig. II-2 (a)のよう

になる。電子スピンには

α

β

の2つのスピン状態があり、ラジカル対を構成 するラジカル1とラジカル2の電子スピンは、それぞれ磁場中で角周波数

ω

1

= g

1

β(B

1

+ B)と ω

2

= g

2

β(B

2

+ B)でラーモア歳差運動を行っている。 B

1

B

2 は(3) 式第二項の中のラジカル

1

2

のそれぞれの核スピンによる内部磁場(超微細 相互作用(hfc)による磁場)である。図に示すように、ラジカル対の取りうる スピン状態は

4

つある。T0では、2つのスピンが同位相で歳差運動しているが、

S

では逆位相で歳差運動している。磁気モーメントをもつ状態が

T

+

T

0、T

3

つあり、三重項状態(T)という。一方、磁気モーメントをもたない状態が

1

あり、一重項状態(S)という。

(11)

10

ほとんどの有機ラジカルは水素原子をもち、内部磁場はゼロにはならない。

ここでは簡単のため、ラジカル対を作っている2つのラジカルの

g

値は等しく

(g1

= g

2

= g)

、ラジカル対1は

B

1

≠ 0、ラジカル2は B

2

= 0

の場合を考えてみ る(Fig. II-2 (b))。この場合、2つのスピンの角速度の差

Δω

は、外部磁場がない とき、

Δω = ω

1

– ω

2

= gβB

1となる。ラジカル1のスピンは、ラジカル対2より速 い速度で歳差運動し、時間とともに2つのラジカルの歳差運動の位相にずれが 生じる。例えば、初めに

S

であったラジカル対は時間の経過とともに

T

0に移り、

さらに時間が経過するとまた

S

にもどる。このような内部磁場による項間交差

S

T

+、Tの間でも起こる。すなわち、

Fig. II-3(a)に示すように、磁場

がないとき

S

と3つの三重項(T+、T0、T)の間で項間交差が起こる。磁場を 印加すると、T+

T

のゼーマン分裂により

S

T

+ 、Tの間の縮重がとけ、S

-T+、S-T項間交差が抑制される(Fig. II-3 (b))

その結果、例えば、励起三重項状態から反応した場合、Fig. II-4 に示すよう に、磁場の印加によりかご生成物の収量は減少し、逆に散逸生成物の収量が増 加することになる。前駆体のスピン多重度が一重項のときは、 三重項の場合 と逆の関係になる(Table II-1)

Fig. II-2 Vector model of radical pair (a) spin states of radical pair

(b) S−T0 intersystem crossing of a radical pair

(⇑: Local magnetic field by nuclear spin of a radical-1 )

(12)

11 Fig. II-3 Energy levels of radical pair

Fig. II-4 Formation and decay processes from triplet radical pair.

Table II-1 Magnetic field effect on yield of products by hfc mechanism

一重項前駆体 三重項前駆体

かご生成物 増加 減少

散逸生成物 減少 増加

S T

+ ,

T

0 ,

T

-

S

T

+

T

-

T

0

ISC ISC

hfc hfc

(a)B = 0 (b)B = B ex Zeeman

splitting

S; Singlet radical pair T; Triplet radical pair

Energy levels of radical pair

S T + , T 0 , T - S

T +

T - T 0

ISC ISC

hfc hfc

B = 0 B = B ex

Zeeman splitting

Energy levels of radical pair

(13)

12 hfc

機構は、外部磁場が数百

mT

までの弱い磁場中で主に作用する機構であ り、その本質はラジカルの電子スピンと核スピンの双極子-双極子モーメント の相互作用である。すなわち、ラジカルが核スピンをもつとき、電子スピンに かかる実効磁場は外部磁場と核スピンによる内部磁場の和となる。そこで磁場 がない時、核スピンに帰因する内部磁場により一重項と3つの三重項の間に項 間交差が起こっているが、磁場の印加により

S-T

+

S-T

-項間交差が起こらなく なるということである。

hfc

機構による項間交差の速度定数を

k

isc

(hfc)とすると、 k

isc

(hfc)は以下の式で

あらわされる。局部磁場を示す

B

avはラジカル対を構成するラジカルの

hfc

相互 作用の平均であらわされる。

k

isc

(hfc) = 2gβB

av

/ h g :

電子スピンの

g

β :

ボーア磁子

B

av

:

内部磁場

B

av

= (𝐵

12

+ 𝐵

22

)/(𝐵

1

+ 𝐵

2

)

B

1

B

2はそれぞれラジカル

1

2

の平均内部磁場である。有機ラジカルの場 合、Bav

0.001-0.01 T

であり

k

isc

(hfc)は 10

8-109

s

-1となる。外部磁場が約

0.1 T

以上の磁場(B>>Bav)では、T+

-S

および

T

-

-S

間交差はほとんど起こらな い。

II-3 Δg

機構

(3)式第一項による磁場効果である。磁場中でラジカル対を形成しているそ れぞれのラジカルは、それぞれの角周波数でラーモア歳差運動を行う。今簡単 のために

2

つのラジカルが核スピンをもたない(B1

=B

2

=0)場合を考えてみる。

一般に有機ラジカルの

g

値は、その磁気的環境の違いにより自由電子の

g

値と は少しではあるが異なった値をとり、その値はラジカルによって異なる。ラジ カル1の

g

値を

g

1、ラジカル2の

g

値を

g

2とすると

2

つのラジカルのラーモア 歳差運動の角周波数の差は、 = (g1

–g

2

)B=gB

となる。すなわち、磁場 がない時項間交差は起こらないが、磁場の印加により項間交差が引き起こされ ることになる。

この場合の

S-T

0項間交差の速度定数

k

isc

(Δg)は以下の式であらわされる。

k

isc

(Δg)=ΔgβhB

磁場がかかっていない場合(B=0)kisc

(Δg)=0

であるが、B の増大とともに項 間交差速度は増大する。有機ラジカルの場合、

Δg=0.001

程度で

S―T

0間の項間 交差速度は

1 T

の時おおよそ

10

8

s

-1である。また既に説明したように、数百

mT

以上の磁場中ではゼーマン分裂のため

S-T

+と S-T- 項間交差は起こらない。この

(14)

13

機構は、S-T0項間交差のみが強磁場により促進されることとなる。

II-4 S-T

-

Level Crossing

一重項―三重項間のエネルギーギャップ

2 J

は、2 J=2 J0

exp(-aR)で表わさ

れる(Fig. II-5)。ここで、

J

0

,a, R,はそれぞれ交換相互作用の大きさ、臨界距離、

ラジカル間距離である。ラジカル対が生成した直後は一重項―三重項間のエネ ルギーギャップは大きいため項間交差は起こらないが、拡散が起こりある距離 になったとき

2J≈0

となり、項間交差が可能となる。

2つのラジカルが鎖によりつながれたメチレン鎖両端ビラジカルなどラジカ ル間距離に制限がある場合、交換相互作用のため

2J≈0

とならず、

T

S

のエネ ルギー準位の間には

2J

の差が生じる。言い換えると、ゼロ磁場で

2

つのスピン 状態は非縮重となる。この場合、磁場を加えるとゼーマン分裂(Fig. II-5 中青 破線)により

T

(または-

T

+

S

に近づき、

T

-

S

との縮重が起こる(S-T-

level

crossing)

。そのためゼロ磁場に比べ、磁場の印加により項間交差速度が増大し、

T

-

(または T

+)と

S

が縮重した特定の磁場のとき最大になる。さらに磁場を増

大すると再び二つのエネルギー準位は離れ縮重がとけ、項間交差速度は再び遅 くなる。メチレン鎖連結ビラジカルなどでまれに観られることのある磁場効果 である。

Fig. II-5 Energies of singlet and triplet states of RPs and their pathways in solution.

2J < 0 is assumed.

S-T- level crossing Triplet RP

Singlet RP S‐T transition

Magnetic Field Effect

(15)

14 II-5

緩和機構

これまでの磁場効果は、2つのラジカルの直接的な磁気的相互作用による磁 場効果であったが、それ以外にラジカルのスピン状態の間の緩和に由来する磁 場効果がある。スピン緩和は分子運動により引き起こされるスピン状態間の遷 移である。すなわち、100 mTを超える高磁場においてはラジカル対のスピン格 子緩和(SLR; spin-lattice relaxation )がラジカル対のスピン状態間の遷移に重要 な過程となる。Δg機構および

hfc

機構は時間に依存しない相互作用による項間 交差であるのに対し、緩和過程は時間に依存する異方性を持った磁気的相互作 用によるスピン状態の変換過程(緩和過程)である。緩和過程は分子の回転運 動による相互作用の時間的揺らぎの結果おこる。たとえば電子と核スピンの双 極子相互作用によるスピンの縦緩和速度

k

τは以下の式で表され、磁場(H)の印 加により緩和速度が遅くなったり、場合によっては速くなったりする。

k

τ

= 2W/(1+γ

2

τ

02

H

2

) γ;電子の磁気回転比

τ

0;ラジカルの回転の相関時間

W;定数

緩和時間(1/ kτ)はおおよそ

μs

のオーダーと見積もられており、ラジカル対の 寿命が長いとき、緩和機構による磁場効果が重要となる。

外部磁場は一重項-三重項間の項間交差や緩和に作用し、ラジカル対の寿命 や散逸ラジカルの収量に大きな影響を与える。ラジカル対を形成しているラジ カルのスピンの相互関係こそが光化学反応における磁場効果の本質である。ま た磁場効果発現のためには、ラジカル対は一重項-三重項間の項間交差のため に十分な少なくとも数ナノ秒以上の寿命を持たなければならない。磁場効果が 励起状態のスピン状態に依存すること、磁場効果の大きさがラジカル対のおか れた環境(溶媒の粘度など)に依存することから、磁場効果をプローブとして 用い、反応機構を解明したり、ラジカル対のおかれているミクロ環境を調べた りすることもできる[28,29]。 また、渡り鳥のナビゲーションにラジカル対機構 による磁場効果が使われているという説があり、現在盛んに研究がおこなわれ ている[30]。

II-6

超分子

大きな磁場効果が起こるためには、項間交差の起こる

2J ≈ 0

の遠隔ラジカル 対の状態にラジカル対を長時間留めておくことが重要である。その方法として

(16)

15

は、ミセルにラジカル対を閉じ込める方法、ラジカルをメチレン鎖両末端につ なぎとめる方法などがある。

本研究では、短寿命反応中間体であるラジカル対の寿命を十分長くするために 様々な超分子反応系を用いた。超分子(supramolecule)とは、複数の分子が共 有結合以外の結合(配位結合、水素結合など)や比較的弱い相互作用により秩 序だった構造を持つ分子集合体や化合物のことである。本研究に用いた超分子 系の一つであるミセルを

Fig. II-6

に示す。

Fig. II-6 Micelle as supramolecule and radical pair (R

1・・R2

)

界面活性剤を水に溶かすとある濃度(critical micelle concentration: cmc)以上 で界面活性剤分子の会合体であるミセルが生じる。ミセルのサイズやその性質 は界面活性剤の種類により異なるが、Fig. II-6 のような構造をしているものと 考えられている[31]。本研究に用いたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の場合、

およそ

60

個の

SDS

分子が会合し直径

1-4 nm

のサイズの分子会合体であるミ セルを形成する。ミセルは疎水性のメチレン鎖をコアにもち、親水性の硫酸基 を外側にした構造を取っているものと考えられている。

ミセル水溶液は極性溶媒である水の中に疎水性のミセルが分散された微視的 に不均一な溶液である。ミセル水溶液中に有機物を溶かすと疎水性の有機物は 主としてミセル内部に取り込まれる。通常の有機溶媒の粘度が

0.5 cP

程度なの に比べ、ミセル内部の粘度は

10~20 cP

と高い。さらに、ミセル相と水相との 異相界面が疎水性有機分子の水への散逸を防ぐため、大きな溶媒かご効果(ミセ ル効果)を示す。これにより、光反応に顕著な磁場効果を引き起こすのに最適な 微視的環境を提供することになる。本研究においては、他に非イオン界面活性 剤である ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij35)を用いたミ

R1・・R2

1-4 nm

(17)

16

セルについても検討した。

Brij35

で形成されたミセルは会合数約

40

個の分子会 合体となっており、ミセルコアの構造は

SDS

ミセルと同様であるが、ミセル外 側に親水基であるポリオキシエチレン鎖をもつ。親水基部分の構造の違いによ り、有機ラジカル対の反応性が変化することが分かった。

また、シクロデキストリンのようなマクロ環分子も超分子として検討した(Fig.

II-7。シクロデキストリンは数分子の

D-グルコースが α(1→4)グルコシド結合に

よって結合し環状構造を取った環状オリゴ糖の一種である。 一般に、グルコ ースは

6~8

個結合しており、

6

個のものが

α-シクロデキストリン(シクロヘキ

サアミロース)、7 個のものが

β-シクロデキストリン(シクロヘプタアミロー

ス、

βCD)

8

個のものが

γ‐シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)と

呼ばれる。本研究においては

β-CD

を用いており、内部の空孔は

0.6-0.8 nm

度であると考えられる。シクロデキストリンの

OH

基はこの空孔の外にあるた め、空孔内部は疎水性となっており、有機物を抱合する。

Fig. II-7

β-Cyclodextrin

0.6~0.8 nm

(18)

17

生体内分子であり高次構造を持つポリペプチドであるアルブミンは

Fig. II-8

に示すように脂肪酸をその分子内に抱合する。

Flutamide

BSA

(牛血清アルブミン:BSA)と有機ラジカル対との抱合体についても磁場効果か

らその反応機構を調べた。

Fig. II-8 Structure of serum albumin (fatty acids bind to the protein )[32]

Serum albmin

Fatty acid

(19)

18

III.

様々な溶媒中における

Flutamide

の光化学:

反応生成物に対する磁場効果による反応機序の解明

III-1

Flutamide

2-Methyl-N-[4-nitro-3-(trifluoromethyl)phenyl]propanamide

は非ステロイド系の抗がん剤であり、進行した前立腺がんに使用される[11-13]。

Flutamide

は光過敏性の副作用を持つことがいくつかの文献で報告されている

[14-19]。この副作用の作用機序解明のために Flutamide

の光物理化学的および

光化学的性質を解明することは重要である。いくつかの先行論文では様々な溶 媒中における

Flutamide

の光化学について報告されている[20-24]。Flutamide はリン酸緩衝液のような均一溶媒中および、かごを形成する化合物を含む、例 えば、

β-CD

や小胞体のような不均一溶媒中において、ニトロ-ニトリト転位を 経て

O-N

結合が切断されフェノール誘導体を生成し、不均一溶媒中でのみ光還 元生成物を生成すると報告されている[20,22-24]。

磁場効果(MFEs)はラジカル対を含む反応機構解明および反応の微小環境の 解明にシンプルかつ有用な道具となりうる[28]。反応速度および反応生成物に関 する磁場効果は化学誘発動的核スピン分極(

CIDNP、Chemically induced dynamic electron polarization)に基づくラジカル対機構により理論づけられる [33,34]。また、ビラジカルに関する磁場効果も同様の理論により説明される[33]。

ラジカル対は二つのラジカルで構成されており、一重項(S)および三重項(T)

の二つの違ったスピン状態を持つ。印加磁場がない場合、ラジカル対の一重項 と三重項の三つのエネルギー副準位(T-、T0、T+)は縮重しており、一重項と 三重項の三つのエネルギー副準位間の項間交差が超微細相互作用機構(hfc機構)

により誘導される。一重項ラジカル対は再結合し、「かご内生成物」を生成し、

一方、三重項ラジカル対はそのままでは基底状態の分子に再結合することがで きない。ほとんどすべての有機化合物は基底状態において一重項であり、三重 項ラジカル対は基底状態化合物になることができず、ふたつのフリーラジカル に分かれて散逸生成物を生成する。磁場が存在するときゼーマン分裂によりエ ネルギー副準位の縮重が溶けることにより項間交差速度は減少する。結果とし て、反応生成物の収量は印加磁場の影響を受けることになる。

例えば励起一重項または励起三重項などのラジカル対のスピン多重度は各々 その前駆体と同じである。もし前駆体が励起三重項状態である場合、

hfc

機構に より三重項-一重項間の項間交差が抑制されることによってかご内生成物の収 量は減少する。かご内生成物の減少は磁場印加による散逸生成物の増加に付随 して起こる。ゆえに、我々は磁場効果を観察し分析することによってラジカル 対前駆体のスピン多重度を容易に決定することができる。

(20)

19

また、磁場効果の分析から我々は溶解している分子が囲まれている微小環境 の特性について類推することができる。ラジカル対の寿命は例えば溶媒の粘度 などのラジカル対が置かれた環境の性質に左右される。ラジカル対の寿命は低 粘度な均一溶媒中では短く、反応速度や反応収量に対する磁場効果はみられな いか、見られたとしても極わずかである。一方、不均一溶媒中において、ラジ カル対の寿命は長く、それ故に顕著な磁場効果が観察される。

反応機構を詳細に明らかにするために、様々な超分子を含む溶媒中における

Flutamide

の光化学反応を比較した。pH7.4 リン酸緩衝液、ミセル溶液として

ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル

(Brij 35)

β-シクロデキストリン(β-CD)

、そしてウシ血清アルブミン(BSA)

溶液中の光反応について、約

0.1 T

の磁場中での磁場効果を調べた。

III-2

試薬および方法

III-2-1

試薬

Flutamide

は東京化成(株)から購入したものをそのまま用いた。

0.01 M

ン酸緩衝液(pH7.4)は特級試薬を用いて調製し、ガラス電極で

pH

調整を行い調 製した。10-2

M β-シクロデキストリン(β-CD)、10

-1

M

ドデシル硫酸ナトリウム

(SDS)、 1.6×10

-2

M

ポリオキシエチレン(23) ラウリルエーテル (Brij 35)、および

1 mg/mL

牛血清アルブミン (BSA)は各々試薬を上記のリン酸緩衝液に溶解して

調製した(1 M = 1 mol/L)。高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid

chromatography

;HPLC)の移動相溶媒は

HPLC

用を用いた。

III-2-2

実験機器

紫外可視吸収スペクトルは

Ocean Optics Inc.の USB4000

および

DT-NIMI-2-GS

を用いて測定した。核磁気共鳴(

H-NMR)スペクトルは JEOL ECS-400、ガスク

ロ マ ト グ ラ フ ィ ー ‐ 質 量 分 析

(GC-MS)

ス ペ ク ト ル は

Hewlett-Packard

HP6890/HP5973

を用いて測定した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は島津

製作所

LC-20

シリーズを用いて測定した。HPLC を用いての定量分析はカラム

として

Hiber LiChrosorb RP-18

を用い、移動相はアセトニトリル:10-2

M

リン酸 緩衝液(pH7.2) =5:5 を用いた。分取用

HPLC

はカラムとして

Wakosil-Ⅱ5C18

HG-Prep

を用い、移動相はアセトニトリル:水=5

5

を用いた。保持時間は各々、

Flutamide

12

分、生成物

1

(N- [4-hydroxy-3-(trifluoromethyl) phenyl] isobutylamine)

4.8

分、生成物

2

(N- [4-nitroso-3-(trifluoromethyl) phenyl] isobutylamine)が

13.5

分であった。これら主な保持時間は

Flutamide

を溶解した各種溶媒中どれも同じ であった。

(21)

20 III-2-3

光照射条件

Flutamide

の光照射は光源としてキセノンランプ(Ushio Optical Modulex

UXL-300SX)

、フィルターとしてガラスフィルターUTVAF-50S-34U(Shigma-Koki) と溶液フィルター7.15mg/mL二クロム酸カリウム溶液(光路長

2 cm)を用いて

中心波長

313 nm

の光を照射した。

2.2 mL

石英セル中の光量はトリオキサラト鉄

(Ⅲ)カリウム光量計を用いて測定した結果、約

1×10

16

quanta s

-1 であった

[35,36]。様々な溶媒中に溶解した 10

-4

M Flutamide

溶液は凍結融解法により脱気 したのちに光照射を行った。光照射は溶媒ごとに一定時間間隔で行った。光照 射ののち、反応液は

HPLC

にて分析した。

313 nm

の光照射による

Flutamide

の光分解および光生成物(開始時から

15

反応終了時)の量子収量は式(1)で計算した[20]。

Φ = (d[X] / dt) ν / FI (1)

d[X] / dt

Flutamide

の減衰の初期速度または生成物の生成速度を示し、ν

光照射試料の体積を示し、F = 1−10−Aは励起波長において

Flutamide

が吸収した 光量の割合を示し、Iは光源の光量(mol of photons min-1)を示している。F

313 nm

での吸光度から計算される。

III-2-4 Flutamide

の光化学に対する磁場効果

2

個の永久磁石(30 mm × 20 mm × 8 mm、Tokin LM-30)で挟むことにより磁 場を印加した。セルホルダー内部の磁場は

0.1 T

となった。

III-2-5

光生成物の合成および同定

光照射の後、光照射後の試料(2 mL×3)をジエチルエーテルで抽出した。抽 出後の液を移動相に溶解して分取用

HPLC

を用いて分取し、生成物

1

および生 成物

2

を得た。別に、生成物

1

および生成物

2

を下述の方法で合成した。HPLC にて分取した生成物

1

および生成物

2

を紫外可視吸収スペクトル、

HPLC

保持時 間、および

GC-MS

のフラグメントパターンを別途合成した標品と比較すること で生成物

1

および生成物

2

の同定を行った。

生成物

1:N-[4-hydroxy-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutylamide 4-nitro-2-(trifluoromethyl)phenol

の合成

4-nitro-2-(trifluoromethyl)aniline (502 mg, 2.43 mmol)の濃硫酸溶液に sodium

nitrate

溶液(190 mg /濃硫酸

1.3 mL)を徐々に添加し、 1

時間撹拌した。反応液を氷

冷水に注ぎ

5

分間激しく撹拌した。溶液を徐々に加温し

1

時間で

100

度にした。

室温に戻したのち、アンモニア水を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した。抽 出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させたのち蒸発させて橙色の固体である目的

(22)

21

とするフェノール化合物(46.5 mg, 収率

9 %)を得た。

1

H-NMR (400 MHz, CDCl

3

) δ: 8.49 (d, J=2.56 Hz, 1H), 8.34 (dd, J=2.7, 7.92 Hz, 1H), 7.26 (brs, 1H), 7.09 (d, J=9.0 Hz, 1H)

4-amino-2-(trifluoromethyl)phenol

の合成

4-nitro-2-(trifluoromethyl)phenol (25 mg, 0.12 mmol)

ammonium chloride (50 mg, 0.94 mg)のメタノール/水 1:1

混合溶液に

zinc powder (933 mg, 14.3 mmol)を

加えて

1

時間撹拌した。混合液をろ過し、熱水で洗浄し酢酸エチルで

3

回抽出 した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させたのち濃縮して橙色の固体であ る目的のアミン化合物を得た(18.2 mg, 85 %)。

N-[4-hydroxy-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutylamide

アミンである

4-amino-2-(trifluoromethyl)phenol(5.7 mg, 32.2 μmol)

と過剰の

isobutyl chloride (27.5 μL, 177 μmol)とピリジン中で室温 19

時間撹拌した。反応混 合液を酢酸エチルで抽出し硫酸銅溶液で洗浄した。濃縮後、粗生成物(9.9 mg)を カラム(Al2

O

3

,

ヘキサン‐酢酸エチル=3:2)にて精製し、白色結晶として目的の ヒドロキシ体を得た。

HR-MS (EI) m/z: 247.0819 (Calcd for C

11

H

13

F

3

NO

2

: 247.0820).

1

H-NMR (400 MHz, CD

3

OD) δ: 7.63 (d, J=2.44 Hz, 1H), 7.44 (dd, J=8.8 Hz, 1H), 6.79 (d, J=8.76 Hz, 1H), 2.52(m, J=6.8 Hz, 1H), 1.09 (d, J=6.84 Hz, 9H)

生成物

2:N-[4-nitroso-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutylamide N-[4-amino-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutyramide

の合成

Flutamide(100.7 mg,365 μmol)と ammonium chloride (0.15g, 2.80 mmoL)

のメタノール/水

1:1

混合溶液に

zinc powder (3.76 g, 57.43 mmol)を加えて 1.5

間撹拌した。混合液をろ過し、熱水で洗浄し、酢酸エチルにて

3

回抽出した。

抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水したのち濃縮し、橙黄固体として目的とす るアミン(79.9 mg, 84 %)を得た。

N-(4-nitroso-3-(trifluoromethyl)phenyl)isobutyramide

の合成

N-[4-amino-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutyramide(40.2 mg, 0.163 mmol)の氷冷ジクロロメタン溶液に 2

当量分の

m-chloroperoxybenzoic acid

(56.4 mg)の同溶液を撹拌しながら滴下した。 1

0℃で撹拌したのち、反応液を

炭酸ナトリウム水溶液で振とう混合し、酸を取り除いた。有機層を無水硫酸ナ トリウムで脱水し、溶媒を瑠去した。租生成物をカラム(SiO2;酢酸エチル‐ヘ キサン=4:6)にて精製し、緑黄結晶として目的のニトロソ化合物(21.4 mg, 50 %)

(23)

22

を得た。

HR-MS (EI) m/z: 260.07726 (Calcd for C

11

H

11

F

3

N

2

O

2

: 260.07726).

1

H-NMR (400 MHz, CDCl

3

) δ: 8.25 (d, J = 2.04 Hz, 1H), 7.77 (dd, J = 2.18, 8.86 Hz, 1H), 7.62 (brs, 1H), 6.38 (d, J = 8.84 Hz, 1H), 2.61 (m, J = 6.84 Hz, 1H), 1.30 (d, J = 6.88 Hz, 6H)

III-3

結果と考察

III-3-1

種々の溶媒中における光反応

SDS

および

Brij35

のリン酸緩衝液中での臨界ミセル濃度は各々4.5×10-3

M

よび

4×10

-5

M

であり、0.1 M SDSおよび

1.6×10

-2

M Brij35

溶液中ではミセル を形成している。

SDS

お よび

Brij35

溶液中の

Flutamide

の溶解度から

Flutamide

SDS

および

Brij35

に対する結合定数は各々約

1.9×10

4

M

-1 およ

5.8×10

4

M

-1と計算された[37]。ミセル中

Flutamide

と水中

Flutamide

の比 は今回の実験条件下では

30:1

となり、

Flutamide

の光反応は緩衝液中でなくほ ぼミセル溶液中で起こっていることが示される。

10

-2

M β-CD

溶液中の場合は報 告されている結合定数から

β-CD

に結合している

Flutamide

と水中

Flutamide

の比は

3:1

となり、光反応は主に

β-CD

中の

Flutamide

で起こっていると考え られた。生体内環境モデルである

BSA

溶液中では

Flutamide

は一部が

BSA

結合していると推測された。

Fig. III-1

10

-4

M Flutamide

リン酸緩衝溶液(pH7.4)に対し、中心波長

313 nm

の光照射を行った場合の紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。300 nm 近の広い吸収帯はリン酸緩衝溶液中の

Flutamide

の吸収であると帰属される。

光照射時間に従って

300nm

付近の吸収は減少し、一方、260nm 付近の吸収は 増大していた。

Fig. III-2

は、0.1 M SDS溶液中における

Flutamide

の紫外可視吸収スペクト ル変化を示している。SDS 溶液について光照射により誘導される紫外可視吸収 スペクトルの変化はリン酸緩衝液中で観察されたものとは違った。

SDS、 Brij35、

β-CD

および

BSA

を含む溶液中で観察されたスペクトルの変化は

350 nm~370

nm

付近に等吸収点が観察され、360nm 付近に吸収極大を持つ物質の生成が示 唆された。

(24)

23 Fig. III-1 Spectral changes observed for degassed 10

-4

M flutamide solution in phosphate buffer (pH7.4) upon regular irradiation time intervals of 60 min.

Fig. III-2 Spectral changes observed for degassed 10

-4

M flutamide solution in phosphate buffer (pH7.4) in the presence of 10

-1

M SDS upon regular irradiation time intervals of 30 min.

Flutamide

の光照射後の反応液を検出波長

254nm

HPLC

分析したところ、

リン酸緩衝液、SDS、Brij35、β-CD および

BSA

のすべての溶媒中で保持時間

4.8

分に継時的に増加するピークが観察された。このピークは紫外可視吸収スペ クトルおよび

HPLC

チャート、および

GC-MS

のフラグメントパターンを別途

1

(N-[4-hydroxy-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutylamide)であると同定された。リ

(25)

24

ン酸緩衝液以外の反応液については、検出波長

360 nm

で保持時間

13.5

分に光照 射時間に従って増加するピークが観察された。このピークは紫外可視吸収スペ クトルおよび

HPLC

チャート、および

GC-MS

のフラグメントパターンを別途

2

(N-[4-nitroso-3-(trifluoromethyl)phenyl]isobutylamide)であると同定された。

均一溶媒および不均一溶媒の両溶媒中で

Flutamide

の光照射において、光誘導 されたニトロ-ニトリト転位によりフェノール体である生成物

1

を生成した。

一方、

Flutamide

SDS、 Brij35、 β-CD

および

BSA

溶液中において光還元され、

生成物

2

を生成した。

III-3-2

様々な溶媒中における光反応性

Flutamide

の光分解(Φ-FM、光転位(Φ1)および光還元(Φ2)の量子収量を

HPLC

分析により求めた(Table III-1)

Table III-1

様々な溶媒中における

Flutamide

の光減衰およびその光生成物の生成の量子収

Φ

-FM

Φ

1

Φ

2

PB

a)

1.1 × 10

-4

4.0 × 10

-5

0

0.01M βCD / PB 6.0 × 10

-4

2.5 × 10

-4

7.6 × 10

-5

0.1M SDS / PB 5.5 × 10

-4

2.0 × 10

-4

7.0 × 10

-5

0.016M Brij35 / PB 5.1 × 10

-3

5.8 × 10

-4

2.1 × 10

-3

1mg BSA / mL PB 1.0 × 10

-3

8.8 × 10

-5

8.8 × 10

-5

a) PB ; Phosphate buffer solution (pH7.4)

リン酸緩衝液中の

Flutamide

の光照射では独占的に生成物

1

を生成した。

HPLC

では他の生成物は観察されなかった。Flutamide の減衰の量子収量は

Φ

-FM=1.1×10-4 であり、生成物

1

および生成物

2

の生成の量子収量は各々

Φ

1

=4.0×10

-5、Φ2

=0

であった。0.1 M SDS溶液中では

Flutamide

の光減衰の量 子収量は

Φ

-FM=5.5×10-4であり、生成物

1

および生成物

2

の生成の量子収量は 各々Φ1

=2.0×10

-4、Φ2

=7.0×10

-5であった。SDS 中での

Φ

-FMはリン酸緩衝液中

5

倍であった。ニトロ‐ニトリト転位は

SDS

溶液中でリン酸緩衝液中よりも 加速されていた。加えて

SDS

溶液中では光還元も起こっていた。光還元の量子 収量

Φ

2は光転位の量子収量

Φ

1

3

分の

1

であり、

SDS

溶液中では光還元より も光転位が優先的に起こっていることが分かった。SDS ミセルは光転位に有利 な疎水的な環境を提供していると考えられた。

Fig. II-2 Vector model of radical pair  (a) spin states of radical pair
Fig. II-4  Formation and decay processes from triplet radical pair.
Fig. II-5  Energies of singlet and triplet states of RPs and their pathways in  solution
Fig. II-6  Micelle as supramolecule and radical pair (R 1 ・・R 2 )
+7

参照

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