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Fig. IV-1は0 TにおけるAQおよびDPBFの空気飽和SDS溶液中における 光照射反応の紫外可視吸収スペクトル変化を示した。320 nmおよび410 nmの 吸収は各々AQおよびDPBFに帰属される。313 nmの光照射に対してAQおよ びDPBFは徐々に減衰していた。0.1 Tの磁場中においてDPBFの減衰は印加 磁場がない場合に比べて明らかに加速しており、一方、AQの減衰はわずかに遅 くなっていた(Fig. IV-1b)。本結果は以前に報告されたものと同じであった[25]。

Fig. IV-1 Magnetic field effect on the UV spectral change of aerated SDS micellar solution of DPBF and AQ: (a) 0 T. (b) 0.1 T.

36 紫外可視吸収スペクトルは磁場が光化学反応にどのような影響を与えるかを 確認する為には便利な方法である。しかしながら、Fig. IV-1における紫外可視 吸収スペクトルから得られる値は、ある波長範囲において幾分かの割合で少な くとも二つの吸収帯が重なっていることからあまり正確とは言えない。さらに、

Fig. IV-1で示した紫外可視吸収スペクトルでは光生成物であるDBB について

の情報は得られなかった。光生成物であるDBB、 反応物であるDPBFおよび 増感剤である AQ に対する磁場効果を詳細に調べるために、光照射後の試料を HPLCにより定量的に分析した。AQ、DBB、およびDPBF のピークの保持時 間は各々、3.5、3.8、および18分であった。これらの濃度は標準物質のピーク 面積から比較して求められた。

Fig. IV-2にHPLC分析から得られた60秒間光照射後のDPBF、AQ、および

DBBの物質量に対する磁場依存性について結果を示した。減衰および生成収量 に対する磁場の影響、R(B)は式(1)を用いて計算した。

R(B)=100×{ΔC(B)-ΔC(0)}/ΔC(0) (1)

ここで、ΔC(B)およびΔC(0)は外部磁場B (T)存在下または零磁場下における光 照射後のDPBF および AQの減衰の物質量、または DBB の生成の物質量を示 した。DPBFおよびAQの減衰のR(0.2 T)、またはDBBの生成のR(0.2 T)の値 は各々56.9±9 %、-18.2±2 %および65±13 %であった。DPBFの分解の収量 とDBBの生成の収量は印加磁場0.2 Tにより増加していたが、AQの分解の収 量は減少していた。DBBの収量に対する磁場効果はDPBFのものと実験誤差範 囲内でよく一致しており、DPBFの酸化反応が定量的であることが分かった。

mBPによるDPBFの光増感酸化反応についても検討した。結果をFig. IV-3 に示した。DPBF、mBP、およびDBBのR(0.2 T)の値は各々79.9±17.2%、-

31.5±7.1%、および97.9±22.8%であった。DPBFとDBBのR(B)値はお互い

に一致していた。磁場効果は AQ による光増感反応の場合とほぼ平行関係にあ った。

37 Fig. IV-2 Magnetic field dependence of photodegradation yield of DPBF and AQ and formation yield of DBB. ΔC(0) and ΔC(B) denote concentrations of compounds degraded or formed respectively after 60-s photoirradiation in the absence and presence of magnetic field B.

Fig. IV-3 Magnetic field dependence of photodegradation yield of DPBF and mBP and formation yield of DBB. ΔC(0) and ΔC(B) denote concentrations of compounds degraded or formed respectively after 60-s photoirradiation in the absence and presence of magnetic field B.

Anthraquinone(AQ)

1,3-Diphenylisobenzofuran(DPBF)

o- Dibenzoylbenzene(DBB)

o- Dibenzoylbenzene(DBB) 1,3-Diphenylisobenzofuran(DPBF) p-Methylbenzophenone(mBP)

38 今回の実験条件下では0T において AQ の存在下におけるDPBF の光減衰速 度はAQがない場合の3.8倍速く、現在の光化学反応は主にAQの励起により開 始されていることを示している。この減衰は脱気した AQおよびDPBFのSDS 溶液中では起こらず、AQおよび酸素がこの酸化反応に関与していることを示し ていた。AQの脱気SDS ミセル溶液中の光化学反応については以前の論文で報 告されている[49-51]。上記に述べられた結果を AQ の光化学反応の結果と考え あわせて、我々はDPBFの光増感酸化反応の反応機序を以下のように考えた。

(I)増感剤AQの反応:

AQ + hν → 1AQ* → 3AQ* (2)

3AQ* + HS → 3(AQH∙ ∙S) (3)

3(AQH∙ ∙S) ⇌ 1(AQH∙ ∙S) (4)

3(AQH∙ ∙S) → AQH ∙+ ∙S (5)

AQH ∙, ∙S →AQH–AQH, AQH–S, S–S (6)

AQH ∙ + AQH ∙ →AQ + AQH2 (7)

1(AQH∙ ∙S) →AQH–S (8)

1(AQH∙ ∙S) →AQH ∙ + ∙S (9)

(II) フリーラジカルの反応:

AQH∙ + O2 →AQHO2∙ → AQ + HOO∙ (10)

S∙ + O2 → SO2 ∙ (11)

AQHO2∙ (and/or HOO∙) + DPBF → → → DBB (12)

SO2 ∙ + DPBF → → → DBB (13)

光照射によりAQは励起一重項AQ、1AQ*を経て励起三重項AQ、3AQ*、に なる(2)。3AQ*はドデシル硫酸イオン(HS)から水素を引き抜き、アントラセミ キノンラジカル(AQH·)およびドデシル硫酸ラジカル(S·)からなる三重項ラジカ

ル対、3(AQH··S)を生成する(3)。三重項ラジカル対は散逸してフリーラジカルと

なり(5)散逸生成物である AQH-AQH、AQH-S、および S-S を生成する(6)と ともに、項間交差を経て一重項ラジカル対、1(AQH··S)を生成する(4)。おそらく、

AQH·の不均一反応によりAQが生成する(7)。一重項ラジカル対は再結合し、か

ご内生成物であるAQH-Sを生成し(8)、一部フリーラジカルに分かれる(9)。フ リーラジカルは溶媒中に溶けている酸素と反応し、過酸化ラジカルを生成する

(10、11)。過酸化ラジカルはDPBFをDBBへと酸化する。

観察された空気飽和SDSミセル溶液中のAQの光反応に対する磁場効果は主 としてラジカル対機構における超微細相互作用(hfc)により説明できる。ラジカ ル対(AQH··S)において、一重項(S) と三重項(T)の副準位(T+、T0、T-)間の

MFE

39 項間交差は印加磁場のないところで電子スピン-核スピンの超微細相互作用

(hfc)で起こる。磁場を印加するとT→S間の項間交差は二つの三重項副準位(T+

T-)のゼーマン分裂によって抑制され、AQの減衰収量が磁場印加により抑制され

るという事実から明白なように、酸化反応の開始剤であるフリーラジカルの収 量が増加する。それゆえフリーラジカル濃度の増加により DPBF の減衰収量お よびDBBの生成収量は磁場中において増加する。おそらくスピンの副準位のス ピン-格子緩和による緩和機構は磁場の印加と関係し、0.2 T近くの比較的高い 磁場の範囲で作用しているが、磁場の印加により項間交差が加速するΔg機構は 本実験のような低い磁場では作用していない[43 ,52]。

AQの光反応に対する磁場効果についても0.4 mol dm-3空気飽和SDS溶液中で 調べた。DPBF が存在しない場合の AQ の減衰に対する R(0.1T)は約-15%であ った。この値はDPBFとともに反応させた場合と同じ(約-15%)であり、フリー ラジカルのすべてではなく一部が酸化反応の開始剤として利用されていること を示していた。生成物収量について HPLC を用いて定量的に分析した。本実験 では 60 秒の光照射により、AQ および DPBF は各々約 9.5×10-8 mol および約 2.4×10-8 mol分解しており、一方、DBBは約2.6×10-8 mol生成していたことから、

AQ からできたフリーラジカルの一部が酸化反応の開始剤として使われている ことが示唆された。

Benzophenoneの脱気SDSミセル溶液中の光化学反応に対する磁場効果は式(2)

-(9)と同様の機構で説明される[53,54]。したがって、mBPによるDPBFの光増 感酸化反応に対する磁場効果についても同様の機構で説明できる。mBP による 増感反応のDPBF および DBBの R(0.2T)は AQによる増感反応の値よりもわず かに大きい。この違いについて一因は光生成したラジカルの反応性の違いであ ると説明できる。

実際、シアノ置換したイソプロピルラジカルを生成する AIBN はラジカル反 応 を 開 始 す る[55]。AIBN の 光 分 解 は 励 起 一 重 項 状 態 で 起 こ り 、 二 つ の

(1-cyano-1-methyl)ethylラジカルでできた一重項ラジカル対を生成する。AIBN による DPBF の光増感酸化反応を調べた。結果として予想通り AIBN の光照射 により、DPBFはDBBに酸化された。DPBFの減衰およびDBBの生成収量に対 する磁場効果は各々R(0.2T)=-7.9±1.5 %および-7.7±5.0 %と得られた。どち

らも磁場0.2 Tの印加により減少した。一般にラジカル対の分裂は寿命の長い三

重項ラジカル対で主に起こるため、一重項ラジカル対の場合フリーラジカルの 収量は磁場により減少する。この結果はラジカル対が一重項状態であったとい うことに一致する。しかしながら磁場効果の値は小さかった。(1-cyano-1-methyl)

ethyl ラジカルは小さくそして極性が高い。(1-cyano-1-methyl)ethyl ラジカルは

より極性の低いanthrasemiquinoneラジカルや4-methylbenzophenone ketylラジカ

40 ルよりも水中で安定であり、ラジカル対の分裂が速いことが推察される。結果 として、AQ由来または mBP 由来のラジカル対よりも早くに一重項ラジカル対 がフリーラジカルに分裂するため磁場効果が小さくなった。

本結果は、永久磁石で印加出来るような弱い磁場でも有機光反応の反応機構 解明のためのプローブとして極めて有用なことを示している。

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