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非自明な固定点を持つ場の理論と新しい素粒子現象

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Academic year: 2021

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(1)

非自明な固定点を持つ場の理論と新しい素粒子現象

The field theory with a nontrivial fixed point

& new particle phenomenon

      物理学専攻 猪田健一朗      

Kenichiroh Ida

1

序論

およそ

1

年前、

Georgi

によって

unparticle

と呼 ばれる奇妙な場が登場する新しい素粒子現象が提 唱された

[1, 2]

Unparticle

とは簡単には、スケー ル変換に対する不変性から生じる物質のことであ る。年内の稼動が予定されている

LHC

の高エネ ルギー衝突実験で、

unparticle

の存在が証明され る可能性があり話題を呼んでいる。

Georgi

が提唱した理論には、標準理論とスケー

ル不変性を持った理論の

2

種類が登場する。スケー ル不変なセクターと普通の粒子のセクターの間の 相互作用を仮定して、それが低エネルギースケー ルの物理としてどのような現象を生じさせるのか を考えようというものである。相互作用のある理 論にスケール不変性を要求すると粒子としての解 釈が破綻するため、そのスケール不変な物質を便 宜上

unparticle

と呼ぶ。

Georgi

の主張は、赤外固定点を持った理論の場

と標準理論の場が相互作用をしていた場合、スケー ル不変の性質から面白い現象が起きるというもの である。ではそもそも、そのような現象が起きる ことを許す赤外固定点を持った理論など存在する のであろうか。実は、

Georgi

unparticle physics

を論文で発表するずっと以前、

1982

年に

Banks

Zaks

によって、非自明な赤外固定点を持つ理論が 提唱されており

[3]

、それが

Georgi

unparticle

physics

を考える動機の一端になっている。

研究の目的は、新しい素粒子現象である

unpar- ticle physics

の内容を理解することである。その ために、

unparticle physics

の基本となる標準理論 の内容をまとめ、

Banks-Zaks(BZ)

理論に存在す る非自明な赤外固定点について調べる。その後、

具体的に

unparticle physics

の現象を研究する。

2

標準理論

自然界にはミクロなレベルで

4

種類の基本的な 力があることが知られている。古くから知られて いる力として「重力相互作用」と「電磁相互作用」

があり、原子核の反応や崩壊を通じて発見された 力として「強い相互作用」と「弱い相互作用」が ある。重力相互作用と電磁相互作用が古くから知 られている理由は、力の到達距離が無限遠だから である。

4

種類の基本的な力のうち、ミクロな世界では 極端に微弱となる重力相互作用を除いた

3

つの力 はゲージ場の量子論の枠組みで統一的に理解でき る。ゲージ理論では、力はゲージ粒子を交換する ことによって伝搬されると考える。電磁相互作用 のゲージ理論を

QED

(量子電磁力学)と呼ぶ。電 磁相互作用と弱い相互作用を統一した電・弱相互 作用のゲージ理論を

Weinberg-Salam

理論(ある いは電弱統一理論)、強い相互作用のゲージ理論

QCD

(量子色力学)と呼ぶ。両者を合わせた

1

(2)

理論が標準理論であり、高エネルギー実験で確立 している。

3 Banks-Zaks

理論

1982

年、

Banks

Zaks

により

On the phase structure of vector - like gauge theories with massless fermions

というタイトルの論文が発表 されている

[3]

摂動論で得られる

β

関数と非摂動的な手法によ り得られる

β

関数の

2

つが滑らかに接続されると し、

Banks

Zaks

はこの論文中で

3

つの固定点 を持っている模型を示している。すなわち、漸近 的自由性を与える原点の固定点と、摂動的に得ら れる赤外固定点、非摂動的に得られる紫外固定点

3

つである。この

3

つの固定点を持ったゲージ 理論を

BZ

理論と呼ぶことにする。

BZ

理論の紫外固定点は、非摂動的手法である格 子ゲージ理論

[4]

を用いて得られることが

Kogut

等によって示されている

[5]

赤外固定点については、連続のゲージ理論で高 次のループを含んだ

β

関数を考慮することで得ら れる。例えば、

QCD

β

関数は

3-loop

まで計算 されている。

2-loop

までは繰り込みの処方に依ら

N

F を表現

R

に属するフレーバー数として、

β(g) = (

β

0

g

3

16π

2

+ β

1

g

5

(16π

2

)

2

+ β

2

g

7

(16π

2

)

3

)

(1) β

0

= 11 4

3 T (R)N

F

(2)

β

1

= 102 (20 + 4C

2

(R))T (R)N

F

(3)

である。この

β

関数は

2-loop

まででフレーバー数

N

F

= N

F

= N

(1

111

ϵ)

として、

g

2

/16π

2

= 0

という解の他に、

g

2

16π

2

= ϵ

63 + 33C

2

(R) (15 + 3C

2

(R))ϵ (4)

という解を持っている。これが、

1-loop

だけを考 慮した

β

関数からは見つからない非自明な赤外固 定点である。

この赤外固定点を持った理論の弱結合領域と、

Kogut

が格子化の手法を使って示した紫外固定点

を持った理論の強結合領域が滑らかに接続される と考えると、その

β

関数は図

1

のように振る舞う ことがわかる。図

1

BZ

理論の

β

関数であり、

g

Gerogi

unparticle physics

を考える動機付 けとなった赤外固定点である。

β

g

g

g

c

0

1: BZ

理論の

β

関数

4 Unparticle Physics

Unparticle

について議論するのに、有効場の理

論を使う

[6]

。適切な極限を取った有効場の理論に

よって、

unparticle

と普通の物質の間の相互作用

がどういうものかを理解することができる。

高エネルギーで標準理論の場と赤外固定点を持 つ理論の場、すなわち

BZ

場を含む理論を考える。

この

2

つの場が、重い質量

M

Uを持つ粒子の交換 を通じて相互作用をしているとしよう。有効場の 理論の観点から、スケール

M

U 以下では標準理論 の場と

BZ

場は繰り込み不可能な相互作用として 次の形で書けるはずだ。

C

U

M

Uk

O

sm

O

BZ

(5)

ここで

O

smは質量次元

d

smを持つ標準理論の場か らなる演算子、

O

BZは質量次元

d

BZを持つ

BZ

2

(3)

からなる演算子をさしている。

k = d

BZ

+ d

sm

4

であり

C

Uは係数関数だ。

BZ

理論は赤外固定点を 持っているので、ある低エネルギースケール

Λ

U でスケール不変になり次元転移を引き起こすと考 えられる。スケール不変となった

O

BZ演算子を

unparticle

演算子と呼ぶことにして、式

(4.8)

の相 互作用はスケール

Λ

U 以下で次の形であらわされ ることになる。

C

U

Λ

dUBZdU

M

Uk

O

sm

O

U

(6) d

U

unparticle

演算子

O

Uのスケール次元である。

エネルギースケール

Λ

U以下の低エネルギーで、

unparticle

はどのような物理を形成するのであろ

うか。

Unparticle

生成の結果は消失エネルギーとして

あらわれるだろう。消失エネルギー発生過程の確 率分布を計算するために、

unparticle

のスペクト ラル関数を知る必要がある。

Unparticle

の伝播関数を考える。

h 0 | O

U

(x)O

U

(0) | 0 i

= h0|e

ipxˆ

O

U

(0)e

px

O

U

(0)|0i

=

d

4

p

(2π)

4

e

ipx

|h 0 | O

U

(0) | p i|

2

ρ(p

2

) (7) ρ(p

2

)

は状態密度だ。スペクトラル関数は、

|h0|O

U

(0)|pi|

2

ρ(p

2

)

=

d

4

xe

ipx

h0|O

U

(x)O

U

(0)|0i

= A

dU

θ(p

0

)θ(p

2

)(p

2

)

n

(8)

という形であるべきだ。

n

はスケール不変性によ り決定される。

x sx

とスケール変換するとき、

unparticle

O

U

(x) 7−→ O

U

(sx) = s

dU

O

U

(x) (9)

と変換されるので、スペクトラル関数は

A

dU

θ(p

0

)θ(p

2

)(p

2

)

n

=

d

4

xe

ipx

h 0 | O

U

(x)O

U

(0) | 0 i

d

4

(sx)e

ip(sx)

h 0 | s

2dU

O

U

(x)O

U

(0) | 0 i

= s

2(dU2)

A

dU

θ(p

0

)θ(p

2

)(s

2

p

2

)

n

(10)

となりスケール不変であるためには、

n = d

U

2

でなければならない。よって

unparticle

の伝播関 数は最終的に、

h 0 | O

U

(x)O

U

(0) | 0 i

=

d

4

p

(2π)

4

e

ipx

A

dU

θ(p

0

)θ(p

2

)(p

2

)

dU2

(11)

である。この結果は

unparticle

のスケール次元

d

U に依存しており、

unparticle

の伝播関数は必ずし も極を持たない。伝播関数の極が粒子を表してい たのだからこれはもはや粒子を表すものではない と言える。

さて、

unparticle

生成の例として、トップクォー クのアップクォークと

unparticle

への崩壊(

t u + U

)を考える。相互作用のラグラジアンを

L = i λ

Λ

dU

¯

µ

(1 γ

5

) t ∂

µ

O

U

+ h.c. (12)

とする。結合定数

λ

は、

λ = C

U

Λ

dUBZ

M

Uk

(13)

である。トップクォークに比べて極端に微小なアッ プクォークの質量は無視できて、終状態密度は、

u

(p

u

) = 2πθ(p

0u

)δ(p

2u

) (14)

U

(p

U

) = A

dU

θ(p

0U

)θ(p

2U

)(p

2U

)

dU−2

(15)

となり崩壊幅は、

1 Γ

dE

u

= 4d

U

(d

2U

1) (

1 2 E

u

m

t

)

dU2

E

2u

m

2t

(16)

となる。

これをプロットすると結果は図

2

のようになる。

このグラフは例えば、

E

U

/m

t

= 0.1

のときは、

d ln Λ/dE

U の値が小さいので、

E

U

/m

t

= 0.1

3

(4)

2: d ln Λ/dE

U

E

U

/m

t依存の様子。dU

= j/3

して、j

4

から

9

の整数をとる。jが増えるほどダッ シュを長くしてプロットしている。

崩壊する確率が小さいことを示している。すなわ ちアップクォークが小さなエネルギーを得て、残 りの大きなエネルギーを

unparticle

が得るように 崩壊する可能性が小さいということだ。また、

d

U

1

に近づけば近づくほど

E

U

/m

t

= 0.5

になる確 率が高くなるから、

d

U

' 1

のとき、

1

つのトップ クォークが持っていたエネルギーが、アップクォー

クと

unparticle

で半分ずつに崩壊する可能性が高

いことがわかる。

Unparticle

は観測にかからない

から

unparticle

が持ち去ったエネルギーは消失し

たように見える。もし高エネルギー実験で消失エ ネルギーが測定されれば、それは

unparticle

が生 成されたことを意味していると言える。

5 Unparticle

の持つ可能性

本研究では

unparticle

が持つ具体的な物理的 可能性までは踏み込むことができなかったが、ど うやら世界的に

unparticle

についての様々な議論 が活発になされているようである。

“Unparticle Physics”

hep-ph

2008

2

月現在、引用回

128

回を数えている。

2007

3

月に発表された ことを考えれば、

1

年足らずでこの回数は他の論文 の引用回数を見ても相当の回数であることがわか る。それだけ多くの素粒子論研究者が、

unparticle

physics

に大きな可能性を感じているのであろう。

可能性の一つに、例えば

unparticle

がダークマ ターの候補になり得るという話がある

[7]

。内容 はどうやら

unparticle

をダークマターとして考え て化学平衡から取り残された残存量(

relic abun-

dance

)を計算すると、それが

WMAP

による観

測結果と一致するというもののようだ。もしそれ が確かならば、ダークマターの候補が見当たらな いという標準理論の欠陥を、

unparticle

は補完す る可能性が高いと言える。

参考文献

[1] H. Georgi , “ Unparticle physics ” , hep- ph/0703260

[2] H.Georgi, “Another odd thing about unpar- ticle physics”, arXiv:0704.2457[hep-ph].

[3] T.Banks and A.Zaks,“On the phase structure of vector - like gauge theories with massless- fermions”,Nucl. Phys. B196 (1982) 189.

[4]

青木 慎也

,

『格子上の場の理論』

,

シュプリン ガー・フェアラーク東京株式会社

(2005) [5] J.Kogut, R.Pearson and J.Shigemitsu, Phys.

Rev. Lett.43 (1979) 484

[6] H.Georgi,“Effective field theory,”Ann. Rev.

Nucl. Part. Sci.43 (1993) 209-252.

[7] T.Kikuchi and N.Okada,“Unparticle Dark Matter”, arXiv:0711.1506[hep-ph].

4

図 2: d ln Λ/dE U の E U /m t 依存の様子。d U = j/3 と して、j は 4 から 9 の整数をとる。j が増えるほどダッ シュを長くしてプロットしている。 崩壊する確率が小さいことを示している。すなわ ちアップクォークが小さなエネルギーを得て、残 りの大きなエネルギーを unparticle が得るように 崩壊する可能性が小さいということだ。また、 d U が 1 に近づけば近づくほど E U /m t = 0.5 になる確 率が高くなるから、 d U ' 1 のとき、 1

参照

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