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この問題を解決できる理論として,超弦理論が提唱された

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Academic year: 2021

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(1)

重力子の質量の起源

~高次元重力理論からのアプローチ~

The origin of the mass of gravitons

~ An approach from higher-dimensional theory of gravity ~

物理学専攻 西山悌生 Department of Physics,Tomoki Nishiyama 1. 研究背景と研究目的

① 統一理論

素粒子論の最大のテーマとして,力の統一がある。物質間に働く力には,電磁気力,弱い力,

強い力,重力の4つの力があるとされている。

4 つの力のうち,電磁気力と弱い力は 1967 年に Weinberg と Salam によって提唱された

「Weinberg-Salam 理論」で理論的に示され,その後実験的にも検証が行われ統一された。これ に,強い力を加えた「大統一理論」がGeorgi-Glashowによって提唱された(1974年)。大統一理 論は理論を確立するような実験事実は未だ確認されていない。

残る重力を大統一理論と統一することができれば,1つの理論で万物を記述できるような究極の理 論が完成する。しかし,大統一理論が提唱されてから約40年がたとうとする現在,統一すること ができていない。これは,重力を古典的に扱う一般相対性理論に量子的な効果を取り入れると,

物理量が無限大に発散してしまうからである。

この問題を解決できる理論として,超弦理論が提唱された。この理論の発端は,場の理論にお いて発散が生じるのは点粒子を扱ったことにあると考えたからである。そのため,基本要素であ る素粒子を点ではなく,1次元的に広がりをもつ弦として扱おうと考えたのである。超弦理論は,

重力を量子化するときの発散問題を解決できるとともに重力を含めた統一理論の有力な候補とな っている。また,超弦理論の型には5種類あることが知られている。近年の研究では,この5種 類の型をも統一する理論,M理論が注目されている。このM理論は基本要素は点や弦ではなく,

2 次元の膜として扱われる。超弦理論・M 理論にはまだ解決すべき問題があるが,もしこれらの 理論が完成すれば究極の理論になるだろうと期待されている。

古典的に重力を扱う一般相対性理論は,我々が住んでいる世界を空間3次元と時間1次元を合 わせた4次元時空として記述される。一方,超弦理論は矛盾なく弦が存在できる時空は10次元で あると示されている。また,M理論は超弦理論を統一するには時空が11次元であることを要求す る。もし,超弦理論やM理論が正しいとするならばこの理論的事実は,我々が住む世界は4次元 時空ではなくもっと高い次元の中に存在していることを示唆する。

② 高次元理論

4 次元時空を超える時空の存在は実験的には確かめられていない。高次元時空(4 次元より高い 時空)は,どのように存在しているのだろうか。主に2種類の方法があると考えられている。1つ は高次元の中に4 次元の膜が存在し,物質を構成している素粒子がその膜に張り付いていると考 える方法である。これは,図1のように,5次元時空の中に4次元時空の膜が埋め込まれている

(2)

と考える。この理論は,Brane理論と呼ばれ素粒子だけでなく超弦理論やM理論からも自然に導 かれる[1]。

もう1つの方法は,図2 (5次元の例)のように5次元以上の余剰次元方向は,観測できないほど 非常に小さくcompact化されていると考える方法である。

図1:brane

図2:コンパクト化

③ gravitonと宇宙項問題

物質間にはたらく重力は,graviton(重力子)が相互作用することによって伝わる。graviton は

massless(質量をもっていない)粒子であるとされている。それは,宇宙を記述するEinstein 方程

式が一般座標変換不変性を持っていることからの帰結である。逆を考えれば一般座標変換不変性 を破ることができれば,gravitonはmassive(質量をもっている)粒子であることが許される。もし,

graviton が massive な粒子ならば宇宙における諸問題を解決できるかもしれない[2]。massive

gravitonは,以前から行われていた研究である[3]。また,粒子にmassをもたせる仕組みとして,

Higgs 機構があげられるがそれとは違う機構を用いてgravitonのmassを説明しようとする研究

もある[4]。

(3)

未だ解決できていない素粒子論・宇宙論の問題の1 つに,宇宙項問題というものがある。ここ で宇宙項について簡単に述べておく。EinsteinがEinstein方程式を導いた当時,宇宙は一様で変 化しないと考えられていた。その事実と合わせるために,Einstein 方程式の中に宇宙の変化を相 殺するような項を加えた。それが宇宙項である。しかし,近年の観測結果で宇宙は加速膨張して いることがわかった[5][6]。そのため,宇宙項は変化を相殺するような項ではなく,加速膨張を記 述する項を表しているとして注目をあびている。

話を宇宙項問題にもどす。宇宙項は,真空エネルギーを表すものとしている。理論的に量子揺 らぎの真空のエネルギーへの寄与を計算すると,宇宙が誕生した瞬間と現在の観測されている宇 宙項の値との間におよそ120桁ものずれがあることが知られている。これを宇宙項問題とよぶ。

この問題を解決する候補として,ダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)の 存在がある。近年の観測からこの2つは,宇宙が加速膨張をするために必要な"見えない何か"であ ると考えられている。しかし,宇宙の 9割以上占めている,ダークマターやダークエネルギーは 正体がなんなのかわかっていない。最近では宇宙項とダークエネルギーは同じものではないかと されている。

一方,ダークエネルギーとダークマターを導入する代わりに,長距離において一般相対論を変 更することができれば宇宙項問題を解決できるのではないかと考えられている。そこで,graviton にごく小さなmassを与えることができれば無限遠方(過去)で重力の効果を中性化することができ るのではないかと考えた。それにより,宇宙項のずれを打ち消すことができるのかもしれない。

本論文では,高次元重力理論でのHiggs 機構を考える。その結果,gravitonにmassをもたせ ることができるかを議論する。

2.本論文の内容と成果

本論文ではgravitonに質量をもたせるために,高次元重力理論でのHiggs 機構の議論を行った。

まず,3章で't Hooftが行った4次元重力理論でのHiggs 機構をみた。Einstein-Hilbert 重力理 論にスカラー場を加えて,重力理論がもつ一般座標変換を破るかを議論した。

スカラー場の真空期待値と一般座標の真空期待値が等価であるものとしてゲージ固定を課した。

その際,1 成分だけ複素数とした。その結果,graviton に質量を持たせることはできたがラグラ ンジアンのユニタリティーが破れてしまった。

この問題は,真空からの揺らぎを考えると必ず現れることが知られている。これを解決するた めに4章で5次元重力理論を考察した。5次元重力理論を4次元理論に還元するコンパクト化の 方法を用いて,4次元での有効理論を導出し重力理論がもつ一般座標変換を破るかを議論した。

しかし,4 次元で用いたゲージ固定を5 次元に適用することはできなかった。それは,余剰次元 のスカラー場が足りないためである。そこで,スカラー場ではなくゲージ場の真空期待値と一般 座標の真空期待値が等価であると考えたが一般座標変換不変性を破ることはかなわなかった。

そのため,5章ではスカラー場の数を満たすために,次元をあげて8次元時空における4次元有 効理論を考察した。4 次元のときと同じゲージ固定を用いて,余剰次元のスカラー場と 4 次元時 空の一般座標に関わりをもたせた。しかし,結果は4 次元と同様にユニタリティーを破ってしま った。この問題は't Hooftが用いたゲージ固定とする限り,高次元に拡張をしても解決できなかっ た。

(4)

3.まとめと展望

4次元重力理論のHiggs 機構の問題点を解決するために高次元に拡張をした。だが,依然とし てラグランジアンのユニタリティーの問題が残ってしまった。

しかし,4 次元の場合,対称性を破るためにはEinstein-Hilbert 重力理論に,スカラー場を手 で入れることが必要である。そもそも,理論の中に"手で項を加える"こと自体が不自然なことであ る。一方,高次元重力は計量テンソルの余剰次元成分をスカラー場とみなすことで,理論の中に もともとスカラー場が入っていると考えることができる。この点が高次元重力理論を考えること の最大の魅力であり最大の利点なのである。

本論文では,一貫して't Hooftが用いたゲージ固定で対称性の破れをみてきた。しかし,ラグラ ンジアンのユニタリティーの破れはこのゲージ固定を用いることに起因している。そのために,

重力理論がもつ一般座標変換不変性を破り且つラグランジアンのユニタリティーを保つようなゲ ージ固定を導入する必要がある。そのようなゲージ固定を見つけるのは困難を極めるであろう。

だが,それが重力理論の大きな謎であるとともに,興味がわく理論であることは間違いない。

参考文献

[1] R. Sundrum, arXiv:hep-th/0508134.

[2] G. ‘t Hooft, arXiv:0708.3184 [hep-th].

[3] H. van Dam and M. J. G. Veltman, Nucl. Phys. B 22, 397 (1970).

[4] N. Arkani-Hamed, H. C. Cheng, M. A. Luty and S. Mukohyama, JHEP 0405,074 (2004) [arXiv:hep-th/0312099].

[5] A. G. Riess et al. [Supernova Search Team Collaboration], Astron. J. 116, 1009 (1998) [arXiv:astro-ph/9805201].

[6] A. G. Riess, P. Nugent, A. V. Filippenko, R. P. Kirshner and S.

Perlmutter,arXiv:astro-ph/9804065.

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