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ィツモーリス報告書における条約義務の類型
―― 国際義務類型の祖型に関する一考察 ――
長 谷 川 正 国 *
目次
1. はじめに
2. 留保論文と条約義務の類型
3. フィツモーリス報告書の関連条文とコメンタリー 4. フィツモーリス報告書の要点とその意義
1. はじめに
2001 年に国際法委員会で採択され国連総会によってテイク・ノートされ た国家責任条文は、従来不明確であった国際法の基本問題に対して直接また は間接に解答を与える重要な示唆を数多く含んでいる。その疑いを差し挟む 余地がない成果の 1 つは第二次規則の整理と体系化を通じて第一次規則の 実際的な機能が明確にされ、これによって国際法全体の見通しが格段に良く なったことである。そのような論点の 1 つとして国際義務の構造に基づく 国際義務の類型化がある。国家責任条文第 40 条の一般国際法の強行規範に 基づく義務と第 42 条と第 48 条が規定する義務の類型は国際義務の類型に
* 福岡大学法学部教授
関する錯綜する議論に一定の指針を与えると思われる*1。これまでに学説の 積み重ねとかなりの先例が存在したにせよ、これらの条文の定式化に当たっ て特に重要な役割を果たしたのは、特別報告者のクロフォードが認めるよう に*2、バルセロナ・トラクション事件の傍論*3を巡る議論と条約法の法典化 を巡る議論である。前者の傍論を巡る議論はその表現自体がかなり曖昧であ
*1 次の諸論文を参照せよ、長谷川正国「条約違反に対する対抗措置―条約法と国家責 任法の交錯―(1)(2)(3・完)」『福岡大学法学論叢』第 32 巻(1988 年)459-493 頁、
第 34 巻(1990 年)373-407 頁、第 35 巻(1990 年)173-226 頁、同著者「人権条約義務 違反に対する人権条約義務の停止不可能性―条約法条約第 60 条第 5 項の一考察―」『福 岡大学法学論叢』第 37 巻(1993 年)601-654 頁、同著者「国際法における国家の責任
―現代国際法の機能分化傾向に関する一考察」国際法学会編『国際社会の法と政治』
(日本と国際法の百年第 1 巻)(三省堂、2001 年)123-155 頁、川崎恭治「国家の国際 責任法における『被害国概念』について―国連国際法委員会国家責任第二部暫定草案 第 5 条の分析(1)(2)(3・完)」『修道法学』第 11 巻(1889 年)329-353 頁、第 12 巻
(1990 年)95-120 頁、225-262 頁、萬歳寛之「対世的義務違反に関する責任追及―『被 害国』概念の変質―」『早稲田法学会誌』第 52 巻(2002 年)251-294 頁、岩沢雄司「国 際義務の多様性―対世的義務を中心に―」、中川淳司 / 寺谷広司編『国際法学の地平』
(東信堂、2008 年)、123-170 頁、K. Sachariew, “State Responsibility for Multilateral Treaty Violation: Identifying the ‘Injured State’and Legal Status”,Netherland ILR, Vol. 35(1988), pp. 273-289, B. Simma,“From Bilateralism to Community Interest in International Law”, Recueil des Cours, Vol. 250 (1994), pp. 285-376, C. Dominice, “The International Responsibility of States for Breach of Multilateral Obligations”, EIJL, Vol 10(1999), pp, 353-363, M. Spinedi, “From One Codification to Another:Bilateralism and Multilateralism in the Genesis of the Codification of the Law of Treaties and the Law of State Responsibility”, EJIL Vol. 13(2002), pp. 1099-1125, L-A, Sicilianos,
“The Classification of Obligations and the Multilateral Dimension of the Relations of International Responsibility”, ibid., pp. 1127-1145, J. Pauwelyn, “A Typology of Multilateral Treaty Obligations: Are WTO Obligations Bilateral or Collective in Nature”, EJIL Vol 14(2003), 907-951, J. Crawford, “Multilateral Rights and Obligations in International Law”, Recueil des Cours, Vol. 319 (2006), pp. 329-478.
*2 J. Crawford, The International Law Commission's Articles on State Responsibility Introductions, Text and Commentaries, Cambridge 2002, pp. 35-46.
*3 ICJ Reports, 1970, p. 32, para. 33.
るために多数の見解が時間を経て収斂する傾向があるのに対し、後者の議論 は最初にフィツモーリスがある意味で完成された条約義務の類型を提示し、
ウォルドックによる部分的な修正を経て、条約法条約第 60 条として採用さ れ、今度はまた国家責任条文がその基本的なアイディアを受け入れ、これを 国際義務一般の類型として発展させたと言うことができる。ウォルドックに よる草案準備とその成功を可能にしたのはフィツモーリスの研究であったと 評価される*4が、国際義務の類型に関する限りクロフォードによる草案準備 と成功を可能にしたのはやはりフィツモーリスの研究であったと述べること は許されるのではないかと思われる。
周知の通り、フィツモーリスは、イギリス外務省の卓越した法律顧問であっ てしかも実定国際法に真に精通する「プロ中のプロ*5」と評される学究的法 律家としての確信から、条約法の法典化に関して「条約法それ自体が条約の 形式をとることは不適切であり、また、条約法の多くは条約の形式で表現す るに適さない*6」という立場を堅持し、法規の解説的なリステイトメントの 形式をとる草案を提出した。草案は規範的というよりも説明的・推論的であ り、またその分析の深さにおいて透徹している。報告書全体がそうであるよ うに条約義務の構造に関する規定もこの方式をとることによって一層の説得 力を獲得したということができる。以下の検討が明らかにするであろうよう に、条約義務の構造を反映する条約義務の類型はフィツモーリス報告書全体 を貫く柱の 1 つである。
*4 R. Jennings, “Gerald Grey Fitzmaurice”, BYIL Vol 54(1985), p. 57. なお、フィツ モーリス草案からウォルドック草案への発展の厳密な分析は、萩原一樹「条約法条約 第 60 条における重大な違反原則の法典化と多数国間条約への適用―Fitzmaurice 草案 と Waldock 草案の分析を中心として―」『横浜国立大学社会科学研究』第 9 巻 3 号(2004 年)、326-344 頁を参照せよ。
*5 Ibid., p. 4.
*6 Yearbook of International Law Commission, 1956, Vol. II, p. 107.
本稿では、まず、フィツモーリスが国際法委員会の特別報告者に任命され る以前にイギリス外務省法律顧問として 1950 年のジェノサイドに対する留 保事件に関連して条約義務の構造について深く考える機会を持ったことを指 摘する。次に、フィツモーリス草案の関連条文とそのコメンタリーを検討し て、条約義務の類型がそれらの条文の鍵となっていることを解明する。最後 に、それらの要点を分析・評価して、フィツモーリスが練り上げた条約義務 の類型とその合理的な解釈はその類型が国際義務一般の類型の祖型たりうる ことを示唆していることを明らかにしたい。
*7 フィツモーリスはいわゆる汎米方式批判の文脈で 2 国間条約の束である商事的、技 術的および一般的種類の条約とそれとは異なる社会的、立法的地位・制度・システム 創設的な条約の相違を強調する。Pleadings, Oral Arguments, Document, Reservations to the Convention on the Prevention and Punishment of Crime of Genocide, pp. 62-64.
この場合に注目されるのは、フィツモーリスは要点に関して国連事務総長が寄託者 と多数国間条約の最大限の有効性という観点から 1950 年 9 月 20 日に提出した報告
(Document A/1372)に依拠したことである。同報告は、多数国間条約はその性質に応 じて 2 種類に分けられるとする。1 つは、「その本質的性質がある国家集団で単なる契 約的な約束の交換を促進する条約である。そうした条約は形式の点では多辺的である が、作用の点で 2 辺的条約の複合体である」。これに対し、国際連合の主催下でかつ全 加盟国の加入のために作成される条約は、「その性質上国々が非常に異なる事情の下で 拘束されることに合意し、すべての他の当事国と同様の内容の交換によって拘束され ることに合意するであろう通常は世界的性質の条約である。それらは立法的な性質を 持ち、契約的な性質を持たない。それらは遵守の方法および形式のみならず、その目 的および本質的効果の点で多辺的である」。「ジェノサイドの防止のための条約を当事 国中の他の一対ではなくて、ある一対の間での発効のために適合可能な取引と見なす ことは妥当とは思われない。むしろ、ジェノサイド条約は、それを採用する異なる国 家間で同一の作用のための法規を創造する目的を持つ、実際には『単に程度ばかりで なく、本質的に国家間の通常の合意を超える公法』を確立する真の立法的種類の条約 を表す」。pp. 12-13, paras 31-31.
2. 留保論文と条約義務の類型
国連総会が勧告的意見を要請したジェノサイド条約の留保事件でフィツ モーリスはイギリス政府代表として注目すべき陳述を行った*7。そこでは条 約義務の構造に関する本格的な議論が展開されていた。彼はその後間もなく この陳述を有名な留保論文*8にまとめ上げた。この論文で彼はいわゆる汎米 方式批判の文脈で 2 種類の条約義務の類型が存在することを示唆する。
フィツモーリスは、まず、汎米方式が本質的に特定の一般的な枠組内で 2 当事国の(または 3 もしくは 4 当事国等の)関係を形成するのであって、真 の多辺的な関係に顕著な特徴、すなわち、平等を基礎とした共通の義務の、
共通の引受を欠くことを指摘する。その上で、汎米方式は契約的なまたは相 互主義的に作用する条約に関して実際上機能しうるとする。契約的にまたは 相互主義的に作用する条約とは、その本質と作用が、当事国が相互間で付与 しまたは受け取る多数の相互主義的な権利、利益または特権の各当事国によ る他の各当事国に対する付与を含む条約である。言い換えれば、各当事国が それに基づいて抽象的に何かを行いまたは差し控えるよう義務づけられるの ではなくて、各当事国が他の当事国に対してあるいは他の当事国のために、
または他の当事国との関係において、他の当事国から同じ待遇を受けること と引き換えに何かを行いまたは何かを差し控えることを義務づけられる条約 である。明らかに、たとえば、相互的な関税の譲許またはその他の通商上の 利益を規定する条約はこの種類に属するであろう。特定の紛争を解決するた めに仲裁裁判を利用する条約もこの種類に属するであろう。もしある当事国
*8 G. Fitzmaurice, “Reservations to Multilateral Convention”, ICLQ, Vol. 2(1953), pp.
1-26.
*9 Ibid., pp. 13-14.
が他の当事国に特定の利益を与えない権利を留保しながら通商条約の当事国 になるならば、当該他の当事国は少なくとも留保国に対して相応する利益を 差し控えることができる*9。
これに対し、ジェノサイド罪を犯さない、強制労働を行わない、または刑 事犯にある種の刑罰を科さないという約束を含む条約およびその他の類似の 了解は異なる類型を構成する。この種の条約の場合には、当該義務は一般的 かつ絶対的であり、当事国になるという単なる事実から生じる。それは、他 の当事国との関係で作用するという理由でそれらの参加に依存するものでも なければ、いずれかの 1 の当事国による適用の範囲に関して同じく当事国で ある他国の国民または利益に限定されるものでもない。たとえば、強制労働 の使用を禁止する条約の当事国になった国は、強制労働のために他の当事国 の国民を徴用することを差し控えるよう義務づけられるばかりでなく、強制 労働を用いることを絶対的に義務づけられるであろう。この義務は他国の参 加・不参加によって伸縮しないであろう*10。
この「規範的」(normative)条約の特性は次のようなものである。それ らはいわば絶対的に機能し、他の当事国に対して相対的に機能するのではな い。それらは各当事国のためにそれ自体として作用するのであって、各当事 国間で内部的に作用するのではない。それらは主として義務の引受を含むの であって、国としての当事国に直接的な権利義務を付与するのではない。こ れらの特性は規範的条約に特殊な法的性格を与え、同条約に対する汎米方式 の適用を不適切なものにする*11。
ここでの我々の関心はフィツモーリスの留保理論ではなくて、彼が留保理 論の再検討の文脈で示した条約義務の構造に関する議論である。この関心か
*10 Ibid., pp. 14-15.
*11 Ibid., p. 15.
ら確認しておきたいのは彼が相互主義的義務を含む条約と絶対的義務を含む 条約(規範的条約)の相違を明確に認識していることである。
3. フィツモーリス報告書の関連条文とコメンタリー
フィツモーリスは国際法委員会の特別報告者として 1956 年から 1960 年ま で 5 つの報告書を提出した*12。これらの報告書で条約義務の構造に基づき条 約義務を類型化し、この区別を維持することの重要性に対する彼の認識は、
第 1 報告書とそれ以後の報告書では明らかに異なることに注意しなければ ならない。我々が条約義務の類型という観点から取り上げる項目は条約の分 類、留保、目的の合法性(
jus cogens
および前後する条約の無効に係わる問 題)、条約の根本的違反の文脈での終了または停止、復仇と相互主義に基づ く不履行、である。*12 フィツモーリス草案の条文構成は以下の通りである。
序章 範囲及び一般原則(9 カ条)
第 1 章 条約の有効性(全 87 カ条)
序部(3 カ条)
第 1 部 形式的有効性(条約の作成と締結、30 カ条)(以上、第 1 報告書、1956 年)
第 2 部 本質的有効性(条約の内在的合法性と作用力、23 カ条)(第 3 報告書、1958 年)
第 3 部 時間的有効性(条約の存続期間、終了、改正及び変更、31 カ条)(第 2 報告書、
1957 年)
第 2 章 条約の効果(全 69 カ条)
第 1 部 当事国間における条約の効果(作用、実施及び執行、39 カ条)(第 4 報告書、
1959 年)
第 2 部 第 3 国との関係における条約の効果(30 カ条)(第 5 報告書、1960 年)
これに解釈に関する条文が付け加わることが予定されていた。
小川芳彦、「条約の無効及び終了原因としてのjus cogens との牴触(1)」『法と政治』
19 巻(1968)、173 頁参照。
I 条約の分類
第 1 報告書は、序章第 8 条で次のような条約の分類を提案する。
第 8 条 条約の分類
条約は、実際的便宜を理由として、また一定の手続的目的上、その形 式、主題又は目的に従い、かつ、それが 2 辺的、少数的又は多辺契約的 であるか(traités-contracts)、あるいは、立法的又は「規範的」である か(traités-lois)に従ってさまざまに分類される。
しかしながら、本法典の諸規定に従うことを条件として、その有効性、
解釈及び効果に関して条約に関するこれらの分類のいずれの間にも実質 的な相違は存在しない。それらはすべて合意に基礎づけられ、法的効力 をその存在から引き出すからである*13。
これは一見して、契約条約と立法条約の二分法*14に従っているようであ るが、必ずしもそうではない。なぜなら、同条のコメンタリーで、フィツ モーリスは、その分類はもっぱら実際的な便宜に由来することを強調して、
それらの間に基本的な法的区別が存在することを否定するからである*15。し かしながら、1959 年に第 8 条を審議した際に、彼は、条約の終了と効果を 扱うに至り(したがって、第 2 報告書以降)、契約的種類の多数国間条約と 一定の「規範的」多数国間条約の間の真の区別に気付いたと述べる。後者の
*13 Supra note 6, p. 107.
*14 条約を契約条約と立法条約に分類する方法は、理論的にはトリーペルによって法源 論との係わりで「契約的合意」(Vertrag)と「共通意思形成的合意」(Vereinbarung)
のカテゴリーとして体系化された。オッペンハイムはこれをアングロサクソンの国際 法学界に導入した。マックネアー等の学者はこれを更に発展させたと言うことができ る。この理論的発展に関しては、長谷川正国「適用論の観点から見た多数国間条約義 務の構造(2)」『福岡大学法学論叢』第 39 巻(1995 年)317-358 頁を参照せよ。フィツモー リスの条約義務類型論は根底においてこれらの理論的な発展と無縁でないことに注意 する必要がある。
*15 Ibid., p. 118, para. 18.
種類の条約は人権や労働条件や安全措置のように現代的な「社会的」条約で ある。これらの条約により当事国は何一つ権利を取得せず、人類一般を利す る方法で行動することを約束する。条約の受益者は国というよりも個人であ る。規範的条約と契約的な条約の真の区別は終了または不遵守の効果が前者 の場合には具体化しないことである。相互的な利益を規定する通常の多数国 間条約の場合には、一方の当事国が他方の当事国に利益を拡大しなかったと きには、その結果は、相互主義の原則に従って他方の当事国を不履行国に対 して利益を与える義務から免除することである。しかし、この原則は社会的 または人道的な条約に当てはまらない。こうして、フィツモーリスは条約を 分類する意義を認めながら、第 8 条を維持することに疑問を提起する*16。
この発言は、第 8 条の形式での分類の必要性に疑念を示しながら、フィツ モーリスが条約義務の構造に基づく条約の分類は可能であることに気付いた ことを意味する。しかし、この認識の原型はすでにジェノサイドに対する留 保事件の際にかなり明確な形で存在していたことを忘れてはならない。とも あれ、これは、そうした観点からの条約義務の類型をどのように法典中に導 入するかの問題と第 8 条の条約分類がまったく意味がないかの問題を提起す る。
II 留保
上述したように、汎米方式を強く批判するフィツモーリスには留保の許容 性に関していわゆる条約目的との両立性の基準を受け入れる用意はない。彼 は「全会一致原則」に基づく条文を提案した。第 1 報告書は草案第 1 章第 1 部第 37 条で留保の定義と留保に係わる基本原則について規定する。そして、
第 38 条は以下のように規定する。
*16 Yearbook of International Law Commission, 1959, Vol. I., p. 14, para. 23.
第 38 条 2 国間条約及び参加が限定されたその他の条約に対する留保 2 国間条約又は限定された数の国家間で当該国の特別な利益のために 締結された少数国間条約の場合には、条約が条文でそれを許容するか又 はすべての他の当事国が同意しない限りいかなる留保を付することも許 されない*17。
また、第 39 条は全会一致原則に基づき一般多数国間条約に対し留保を付 する手続的要件について規定する。
第 38 条のコメンタリーによれば、一般多数国間条約と 2 国間条約または ある共通の利益もしくは目的を持つ限定された数の国家間で締結された単 なる「少数国間条約」(plurilateral treaties)を区別しなければならない。
一般多数国間条約の場合には、その性質および当該条約が作成された事情 から、2 国間条約や少数国間条約と異なり、留保に関しかなり自由な慣行が 求められる根拠がある。2 国間条約と少数国間条約はほとんどいつでも各条 文、実際には各 1 節に至るまで交渉国の全会一致の同意を伴うプロセスで作 成される。つまり、条約中の一言一句は慎重な熟考の所産であり、したがっ て、達成可能な合意の極限を構成する。契約と合意の要素が強固であるため、
(条約がそのように規定しない限り、あるいはそのように合意されない限 り)留保を認めることは、交渉の精神と条約自体の基礎および均衡に反す る*18。
フィツモーリスは特に明言していないが、しかし、少数国間条約の場合に はコメンタリーが「ある共通の利益もしくは目的」に言及することにより、
それが彼の示唆するある種の条約義務に関係すると推論することは不合理で はないと思われる。
*17 Supra note 6, p. 115.
*18 Ibid., p. 127, para. 97.
ちなみに、少数国間条約は法典化の過程で明確な定義としては姿を消した が、しかしその種の条約は暗黙裏に個別的条文中に残存し続けた。1968 年 の外交会議でフランスは、条約の定義に少数国間条約と同義の「制限的多数 国間条約*19」を付け加えるよう提案したが果さなかった。シンクレアーによ れば、制限的多数国間条約の本質的特徴は、それらの条約が全関係国による 全体的な履行が当該条約に規定された目的に向けての段階的発展の前提条件 である明らかに相互に依存する権利義務の集合体を組み入れていることであ る*20。この事情は最終草案 17 条 2 項をそのまま採用した条約法条約第 20 条 2 項*21が想定する条約義務の類型を暗示しているように思われる。この出発 点はフィツモーリス報告書の条約の定義である。
しかしながら、本稿の主題の観点からフィツモーリス報告書の留保に関する 条文およびコメンタリーを読んで奇異に感じるのは、汎米方式に対する批判の 文脈でかなり厳密に論じられた条約義務の類型に関する議論がその条文におい てもまたそのコメンタリーにおいても完全に欠落していることである*22。その 理由はいくつかあると考えられるが、本当の理由は、多分、フィツモーリス 自身が率直に述べているように、第 1 報告書準備の段階では条約義務の類型
*19 フランスは最終草案第 2 条 1 項にサブパラグラフとして以下のような「制限的多数 国間条約」(restricted multilateral treaty)の用語の定義を採用するよう提案した。
「制限的多数国間条約」とは条約中に言及された国家のみを拘束することを意図し、
全交渉国に対するその全体としての発効が条約に拘束されることについての各当事国 の同意の不可欠の条件である条約をいう。A/CONF.39/C.1/L.24
*20 I. Sinclair, The Vienna Convention on the Law of Treaties, 2nd ed, Manchester 1884, p.
34.
*21 ド・ヴィシェールが第 20 条 2 項の重要性に特に言及することは注目される。シャルル・
ド・ヴィシェール著(長谷川正国訳)『国際法における理論と現実』(成文堂、2007 年)
246 頁を参照せよ。
*22 フィツモーリスは報告書において自己の留保論文を引用しているが、それは留保一 般に関する文献として掲げられているにすぎない。supra note 6, p. 126, para. 92.
化が留保の許容性に関連して持ちうる真の重要性にまだ気付いていなかった ためではないかと推察される。フィツモーリスによる条約義務の類型化を確 認した上で、改めてこの点に言及する。
III 目的の合法性
フィツモーリスは第 3 報告書第 1 章第 2 部の「本質的有効性(条約の内在 的合法性と作用力)」に関連する諸条文で条約が
jus cogens
に抵触する場合 と条約が前の条約に抵触する場合について規定する。本稿の観点から注目さ れるのは以下の規定である。第 16 条 目的の合法性(総則)
1 条約の目的は合法的でなければならない。しかし、条約の無効 は当事国関係において当該条約が国際法の規則を変更し又は修正 するという事実から必ずしも生じることもなければその規定が前 の条約の規定と矛盾するという単なる事実から生じることもない。
2 条約が
jus cogens
の性質を有する国際法の原則及び規則に一致 し、それらに違背してはならないこと又はその履行がそれらの原 則及び規則の違反を含んではならないことは条約の有効性にとっ て不可欠である。3 前の条約との非両立性は必然的に条約の無効というよりは一見 したところ明白に義務の抵触を生み出す。そのような抵触は以下 の第 18 条の規定に従って解決されることになる*23。
4 省略
第 17 条 目的の合法性(国際法との抵触)
相互間での適用上、いずれの 2 又はそれ以上の国も、一見したとこ
*23 Yearbook of International Law Commission, 1958, Vol. II, pp. 26-27.
ろ、任意法規(
jus dispositivum)の性質を有する慣習法規則を変更し又
はそれから逸脱する規則又は制度に関していつでも合意できるのである から、かかる合意を具体化する条約はそれを理由に無効とされえない。したがって、無効原因が発生しうるのは、条約が
jus cogens
の性質を有 する絶対的かつ命令的な規則若しくは禁止から逸脱し又はそれと抵触す る場合だけである。条約は、いかなる場合にも、第三者間の作業物(resinter alios acta)であり、非当事国に対して効力を持たないのであるから、
条約自体の無効は、その当事国関係に直接影響を与えるにすぎず、した がっていずれの又はいかなる当事国も、他の当事国の 1 又は 2 以上に対 してその遵守を主張できないことを意味する*24。
第 18 条 目的の合法性(前の条約との抵触の場合―通常の場合)
1 条約が
jus cogens
の性質を有する国際法規則を具体化する又は含 むものと一般に認められる前の条約と抵触する場合には、条約の 無効は、上記第 17 条の規定に従いその根拠に基づいて生じるであ ろう。2 上記 1 項の一般原則に従うことを条件として、本条は、2 国間条 約、及び、当事国間で利益の相互的な交換を規定し、他の当事国の それぞれによる又はそれぞれに対する個別的な取扱いを含むそれ ぞれのための権利義務を伴う相互主義的な種類の少数国間条約又 は多数国間条約に適用される。他の種類の少数国間又は多数国間条 約の事例は以下の第 19 条の主題を構成する*25。
3 (前後関係に関する詳細な規定)省略
*24 Ibid., p. 27.
*25 Id.
第 19 条 目的の合法性(前の条約との抵触―一定の多数国間条約の特 別な場合)
その権利義務が相互交換的な種類ではなくて、(a) 1 の当事国による 条約義務の 1 つの根本的な違反が不履行国との関係での不履行ばかりで なく、他の当事国による相応する不履行を一般に正当化する相互依存的 種類の、又は、(b) 条約の効力が各当事国にとって自立的、絶対的かつ 固有的であって、他の当事国による相応する履行に依存しない一体的種 類の、多数国間条約の場合には、当事国の中のいずれかの 2 又は 3 以上 により当事国だけで又は第 3 国と共同で締結された、前の条約と特に重 大かつ直接に抵触する条約は抵触する範囲で無効である*26。
本稿の目的上、ここでの論点は、第 1 に、jus cogensの機能とそもそも
jus
cogens
はどのような義務の構造をしているのか、第 2 に、前後する条約が抵触する場合に、前の条約が含む条約義務の構造が後の条約に何らかの効果を 有するか、に関係する。
フィツモーリスは、第 16 条を前提とした上で、第 17 条の規定の大部分は 自明であるとする。この文脈において国際法規則は強行法規(
jus cogens)
と任意法規(
jus dispositivum)に二分される。前者はいかなる事情において
も絶対的かつ命令的な法規であり、後者は、他のいかなる合意された制度も 存在しない場合に、より正確には、第三国の地位および権利が影響を受けな い限り、その合意された制度に基づく変形または修正が許容される法規であ る。具体的に説明すると、任意法規の場合には、たとえば、2 国が外交使節 団と職員の特権および免除に係わる何らかの要求の相互的な停止に合意する ことを妨げるものは何もない。ただし、当然ながら、両国は、他の諸国の代*26 Ibid., p. 27-28.
表に完全な特権および免除を付与し続けることを義務づけられるであろう。
また、一般国際法上の領海の限界が x カイリである場合に、2 国は、第 3 国 の船舶または国民に対して適用しない限り、x + y カイリ限界を両国間で適 用することに合意することを妨げるものはない*27。これに対し、それと一 致しない条約の違法性または無効の問題が生じる(いかなる選択の余地もな い)絶対的でかつ拒否できない強行法規に関しては、大きく 3 つの種類の例 を挙げることができる。第 1 は、個人の地位に関係し、違反された規則が 個人の保護のために定められる場合である。2 国が将来の両国間の紛争にお いて捕らえた者に捕虜の待遇を与えず、すべて死刑に処すことに合意すると すれば、その合意は、当事国間での適用のみを意図し、両国のいずれかと敵 対行為に従事することがありうる他の国家に対する適用を意図しないとして も、違法であり無効であろう。第 2 は、侵略戦争の計画は違法であることを 根拠とするものである。2 国が侵略を構成する事情の下で、第三国を攻撃す ることに合意するならば、その合意は、当該第三国に対しいかなる権利も付 与しえない事実は別として、それ自体違法であり、無効であろう。第 3 は、
オッペンハイムの例示をそのまま採用する。すなわち、「1 国が他国と当該 他国が自国船舶に公海上で海賊行為を行うことを命じた場合にこれに介入し ない条約を締結するならば、そのような条約は無効であろう。なぜなら、公 海上で海賊行為を行うことを自国船舶に禁じるのは各国の義務であるという のは国際法の原則であるからである*28」。もっとも、フィツモーリスは、こ の場合は厳密には海賊でなく特許私船であると指摘しながら、そうした義務 が存在することに疑問を提起しつつ、現実の海賊行為を鎮圧することに協力
*27 Ibid., p. 40, para. 76.
*28 L. Oppenheim, International Law: A Treatise, Vol. I, Peace, 8th ed., H. Lauterpacht(ed.), p. 897.
する義務はたぶん存在する。また、いかなる国も、たとえ公海上であれ、自 国民による海賊行為を他国の船舶が鎮圧することに異議をとなえることはで きないとする*29。彼は、jus cogensの性質を有する国際法規をすべて列挙す るのは不可能であり、目下のところ不必要であるとしながら、そのすべてに 共通するまたはその大多数に共通する特徴として同時に法規範以外の国際的 な道徳的または倫理的な諸規範を含むことであるとする。しかし、法規範と 倫理的な規範を峻別する観点から、第 20 条でフィツモーリスは、条約の反 倫理的な性質はそれ自体で条約の無効の根拠たりえないとする。ただし、そ れは裁判所が条約の反倫理性を判断することを妨げるものではない*30。
フィツモーリスは一般国際規則は
jus cogens
と任意法規に二分され、一 般国際法規則であるjus cogens または jus cogens
を含む条約に抵触する条約 は無効であるとする。しかし、コメンタリーには一般国際法規則がなぜjus cogens と任意法規に二分されるかの説明はない。これは明らかに国内法か
らの類推であるが、おそらく実定国際法学者のフィツモーリスにとって国際 法はすでにこの二分法を可能ならしめるものとして存在しているということ であろう。ともあれ、上述の関連する条文の範囲内では、jus cogensはそれ に抵触する条約を無効にする以上の働きを求められていない。彼の方法によ*29 Supra note 23, p. 40, para. 76, notes 57, 58.
*30 第 20 条は以下のように規定する。
第 20 条 目的の倫理性
上記 10 条から 19 条の規定によって現実に無効とされない条約の反倫理的な性質は それを締結した当事国間においてそれ自体で無効の根拠とされることはできない(ま た、それはいずれのせよ非当事国に対していかなる効力も持たない)。それにもかかわ らず、国際裁判所は、条約が、人間性、善良な道徳又は国際的な善良の秩序若しくは 承認され国際行動の倫理に明白に反する場合には(たとえ当事国間であっても、また、
たとえその無効が主張されなかったとしても)、その条約の承認又は適用を拒むことが できる。ibid., p. 28.
れば、目的の合法性の観点から前後する条約の抵触を問題にする場合には、
すぐ後で検討するように、関係条約がどのような構造の義務を含むかが決定 的重要性を持つが、jus cogensはそれ以上の説明を要しない。しかし、「jus
cogens
の性質を有する国際法の絶対的かつ命令的な規則若しくは禁止」という記述や強行法規の具体例として挙げられる 2、 3 の規則は当該法規が含む 義務の構造を暗示していると思われる。この問題は後に改めて検討する。
次に、前後する条約が抵触する場合に、前の条約が含む条約義務の構造が 後の条約に及ぼす効果に関して、まず、第 18 条 2 項は相互主義的な義務に ついて規定する。同項のコメンタリーによれば、 同項はもっぱら 2 国間条約 と相互主義的な少数国間条約と多数国間条約に関係する*31。この場合、少数 国間条約と多数国間条約は 2 国間条約の束をなすような条約を意味すると言 えるであろう。この種の条約間の衝突は、義務の抵触を必ずしも導かない。
なぜなら、一連の規定は、1 の当事国によりある 1 国との関係で、また(非 常に異なる)他の一連の規定は別の 1 国との関係で適用されるからである。
したがって、抵触する条約の無効は生じない*32。
これに対し、第 19 条は、相互主義的な条約とは異なる相互依存的なまた は一体的な多数国間条約を対象とする。特別報告者は、同条のコメンタリー で、本論文の次節で検討される第 2 報告書の草案第 1 章第 3 部第 19 条と第 20 条(条約の根本的な違反)においてこの種の条約につきすでに指摘した と述べる*33。それは本第 19 条で行われる区別と同じである。すなわち、個 別的な相互主義的基礎に基づく利益の交換と履行を伴わない条約が存在す
*31 Ibid., p. 41, para. 78.
*32 Ibid., p. 44, para. 93.
*33 フィツモーリスは、報告書準備の都合上、草案第 1 章第 3 部を 1957 年の第 2 報告書 で扱い、草案第 1 章第 2 部を 1958 年の第 3 報告書で扱った。全体構成からすると提出 順序が逆になっていることに注意する必要がある。前掲注 12 を参照せよ。
る。これらの条約は、より多くの絶対的な種類の義務を含むために、各当事 国によって単に他の各当事国との関係において適用されると述べることは実 際上不可能である。こうした条約の 1 種類は、軍縮条約のように、各当事国 の義務が全当事国による相応する履行に依存する。このため、1 の当事国に よる根本的な違反があった場合には、他の当事国の義務は当該当事国に対し て終止するばかりでなく、全体的にかつ全当事国に対して終止しがちであろ う。もう 1 種類は、ジェノサイド条約のような人道的条約であって、各当事 国の義務は他のいずれの履行とも完全に独立し、他の当事国による不履行が 生じた場合でさえ、各当事国に対して存続する*34。これらの 2 種類の条約義 務の性質は、(これに)直接的に抵触する条約は、もし履行されるならば、
前の条約の違反を必ず引き起こすと思われる。したがって、いずれにせよ抵 触する範囲において、当該条約の完全な無効は、たぶん合理的に予想されな ければならない*35。
IV 条約の根本的な違反
フィツモーリス報告書で条約義務の構造が関連法規の核心に据えられるの は条約違反の規定に関連してである。彼が採用した法規の解説的リステイト メントの形式をとる草案というアプローチが真価を発揮したのはこの部分に 関してであると述べるのは過言でない。彼は、第 2 報告書の草案第 1 章第 3 部時間的有効性の第 18 条、第 19 条および第 20 条で、条約義務の類型化を 前提として緻密に構成された一貫性のある条文を提示した。
第 18 条 法の作用による終了又は停止 条約の根本的な違反の場合(一 般的な法的性質及び効果)
*34 Supra note 23, p. 44, para. 91.
*35 Ibid., p. 44, para. 93.
1 一方の当事国により行われる(以下で定義されるような)条約 の根本的な違反、すなわち、条約に基づく本質的義務の違反は、2 国間条約の場合には、他方の当事国が当該条約を終了したと見な しかつそのように宣言することを正当化する。また、多数国間条 約の場合には、他の当事国が、(a) 不履行国との関係において、
当事国間での利益又は譲歩の相互的な及び相互主義的な交換から なる条約のあらゆる義務の履行を拒否し、又は、(b) 条約の性質 上、すべての他の当事国の相応する履行に必然的に依存する義務、
また、絶対的で一体的な履行を要求する一般的な公的性質を持た ない義務の履行を差し控えることを正当化する。
2 根本的な違反の場合は、一方当事国による条約のある義務の違 反が他方の当事国による厳密に相応する不遵守を正当化する、又 は、返報的措置として条約の他の規定の不履行を正当化する場合 と区別されなければならない。それらの場合には、条約の問題、
すなわち、それ自体として終了する条約義務の問題は存在しない のであって、事情に応じて正当化され又は正当化されないことが あるが、しかし条約自体の継続的存在に影響を与えない部分的違 反及び対抗的違反又は不遵守の問題が存在するにすぎない。
3 根本的な違反による終了の原則は以下の 19 条で述べられる 3 点、すなわち、(a) それが援用される条約の種類、(b) それを正当 化する違反の種類、及び、(c) 当事国によるその援用を妨げる一 定の特別な事情の存在、に関して制限される。さらに、この権利 を援用する当事国は、以下の第 20 条で指示される方法に従いかつ 結果を伴ってそれを行いうるにすぎない*36。
*36 Yearbook of International Law Commission, 1957, Vol. II, p. 30.
学説的には他方の当事者に契約を終了させる権利を与える根本的違反の原 則は大多数の国際法の権威達によって承認されている。しかし、フィツモー リスによれば、国際的平面ではこの原則は自動的効果を持たず、また他方の 当事国に条約を終了させる能力を与えるにすぎないと解するとしても、きわ めて危険である。このため、この原則に対する多くの制限と限定が主張され てきた。また、ハーバード・リサーチも、権限ある国際裁判所または当局に よる決定までの間、履行の暫定的停止を正当化する根拠としてのみこの原則 を容認する*37。
フィツモーリスによれば、いずれにせよ、この原則は、主にたとえ全面的 にではないとしても、2 国間条約の分野に限定されるであろう。多数国間条 約の場合には 1 の当事国による違反は、それがいかに重大であろうとも、
それ自体で条約全体を終了させる権利を与えないことは明白である。もっと も、それはその当事国の立場および不履行国との関係で他の当事国の義務に 影響を与え、また、一定種類の条約の場合には条約の最終的な終了をもたら すであろう。他方、条約が一体的に(integrally)適用されなければならない、
一般法、制度またはレジームを創造するような、あるいは「社会的な」カテ ゴリーの他の種類の条約が存在する。それらの条約の場合には、根本的違反 は、いかなる終了権も与えないばかりでなく、不履行国との関係でその適用 を拒否する権利さえ与えないのである*38。
諸困難にもかかわらず、フィツモーリスは、この法理は、なんらかの形で 条約法体系の中に位置づけられなければならないと考慮する。それに直面し て条約関係をほとんど維持し難い当該条約の否認を構成するような重大な条 約違反がありうることを争うのは原則として困難である。現に発生している
*37 Ibid., pp. 52-53, paras 113-114..
*38 Ibid., p. 53, para. 115.
そうした事例は、他方の当事国に対して当該事態に対処するにはまったく不 十分な対抗行動(counter-action)をとる単なる能力以上のより広範な何ら かの権利を付与しなければならないと解される。そこで、(a) そうした権利 が生じる事例、(b) その行使を制限する条件、(c) その権利を主張する以前 に踏むべき手順を注意深く定義する必要がある*39。
第 18 条 1 項は、2 国間条約と多数国間条約を区別するが、多数国間条約 の場合には、その区別は義務の類型によって必然的にもたらされる。1 の当 事国による違反は、いかに重大かつ根本的であろうと、それだけで条約を自 動的に終了させない。それは終了を宣言しまたは主張する能力を与えるにす ぎない。(a) ・・・当事国間での利益又は譲歩の相互的及び相互主義的交換 からなる条約のあらゆる義務・・・ (b)・・・すべての他の当事国の相応す る履行に必然的に依存する義務、また、絶対的で一体的な履行を要求する一 般的な公的性質を持たない義務・・・について言えば、多数国間条約の場合、
一方で、各当事国が他の各当事国に一定の待遇を与え、他の各当事国からそ れを受け取る当事国間の相互的交換からなる契約的相互主義に基礎づけられ る義務、あるいは、1 の当事国による履行が必然的に全当事国による履行に 依存する性質の義務、他方で、一体的に適用されなければならない、さもな ければまったく適用されない(たとえば、ある地域に一定の状態を維持する)
義務がある。この問題は、第 19 条 1 項でさらに検討される*40。
何が根本的な違反かは第 19 条 2 項で定義される。同項の意味は、根本的 な違反はその性質のみならず、その潜在的効果により「通常の」違反と区別 されるということである。通常の違反は条約の継続的存在にいかなる影響も 与えず、いずれにせよ、多少とも重要な種類の対抗行動を正当化するにすぎ
*39 Ibid., para. 117.
*40 Ibid., para. 120.
ない。この問題は、条約違反に関する救済手段という一般問題に関係し、終 了問題には関係しない*41。
第 19 条 法の作用による終了又は停止 条約の根本的な違反の場合(適 用の条件及び制限)
1 条約の種類に関する制限
(i) 他方の当事国に対して条約の終了を宣言する権利を与える根拠 としての根本的な違反は、原則として 2 国間条約の場合にのみ適 用され、多数国間条約の場合には適用されない。
(ii) 以下のサブパラグラフ(iii)で言及される特別な事例に従うこ とを条件として、いかに重大であろうとも、1 の当事国による多 数国間条約の違反は、他の当事国に条約を終了させる権利を与え るものではない。ただし、相互主義的な又は相互依存的な種類の 義務の場合には、根本的な違反は、他の当事国が以下の行動をと ることを正当化する。
(a) 不履行国との関係において、権利、利益、特権又は便宜、
若しくはある分野における特定事項に関する特別待遇の権利 を当事国間で相互的に付与し又は交換する条約義務を当該不 履行国のために履行することを拒否すること。
(b) 違反の主題となった、また、条約の性質上、いずれかの当 事国によるその履行がすべての他の当事国による一様かつ相 応する履行に必然的に依存する種類の条約義務の履行を中止 すること。
(iii) 上記のサブパラグラフ(ii)(b)により意図される条約に関して、
条約の履行拒絶を構成するような方法で条約全体の一般的な違反 又は履行拒絶に等しいほど極めて重大な特別の違反を行ったなら ば、他の当事国は、それを終了したものと見なすか又は他の当事
国のいずれもさらなる参加を撤回することができる。
(iv) 立法条約(traités-lois)、制度又はレジームを形成する条約(た とえば、一定の区域、地域又は場所に関係する)、一定の基準及 び条件に従う約束を含む条約、又は、その義務の法的効力が固有 であって、上記サブパラグラフ(ii)の(a)及び(b)で意図さ れる場合のように他の条約当事国の相応する履行に依存しない、
したがって、その義務が自立的であり、あらゆる条件の下で絶対 的かつ一体的な適用及び履行を要求するすべての他の条約の場合 には、(いかに重大であろうと)1 の当事国による違反は、
(a) 他の当事国による終了又は脱退の根拠を決して構成しない。
(b) (別の状況であれば関連する又は実施可能な範囲で)不履行 国又はその国民、船舶等に関して条約義務の不履行を正当化 することさえできない。
2 終了の申立てを正当化する違反の性質が黙示される制限
(i) 違反は、必須的な点に関して当事国間の条約関係の根底又は基 礎に達し、かつ、条約が対象とする特定分野における当該関係の 継続的な価値又は可能性を疑わせる条約の根本的な違反でなけれ ばならない。
(ii) したがって、違反は、条約義務の拒否又は否認に等しいもので なければならず、またそのようなものとして、(a) 他方の条約当 事国に対して条約の価値を破壊し、(b) 違反当事国による条約の 適切な履行はもはや期待されえない、又は、(c) 条約の目的を失 わせる、のいずれかでなければならない*42。
*41 Ibid., para. 121.
第 19 条 1 項の一般的な意味は、第 18 条のコメンタリーから明白であると 思われる。第 19 条のコメンタリーはかなり複雑な構成をとっている。そこ で、少し構成を整えて以下で解説することにする。
条約は、2 国間条約と多数国間条約に大別される。次に、多数国間条約は、
それが含む義務の構造により 2 種類に大別される。第 1 の種類の多数国間条 約は第 1 項のサブパラグラフ(ii)で扱われ、第 2 の種類の多数国間条約は サブパラグラフ(iv)で扱われる。そこで、前者の多数国間条約であるが、
フィツモーリスによれば、サブパラグラフ(ii)は、正確には「相互主義的 な又は相互依存的な種類の義務」を規定する 2 種類の多数国間条約を対象と する。「相互主義的な種類の義務」の根本的な違反があった場合には、共同 で行動するすべての国がその終了を宣言できなければならないとの主張もあ るが、しかしフィツモーリスによれば、それは疑問である。条約が相互主義 的な利益を持つ、互譲的な種類のものである場合に、理論上、そうした権利 は存在しうるかもしれない。しかし、それを行使することはまったく不必要 で、不完全であろう。なぜなら、他の当事国は、違反当事国に対してだけ条 約の利益と履行を差し控えることで十分であるからである。(ii)(a)はそう した趣旨を規定する*43。
次に「相互依存的な種類の義務」の根本的な違反があった場合には、他の 当事国は(ii)(b)が規定する不履行措置をとることを正当化される。そう した義務を含む条約は、たとえば軍縮条約である*44。そうした条約では、反 対の規定が明記されない限り、軍縮を行う、一定レベルの軍備を超えないま
*42 Ibid., p. 31.
*43 Ibid., p. 54, para. 124.
*44 フィツモーリスによれば、それ以外の相互依存的な義務を規定する条約には、一定 の兵器または戦闘方法を用いない義務、一定区域で敵対行為をとらない義務、一定の 水域でまたは一定の理由で漁獲を差し控える義務等がある。ibid., p. 54, para. 126, note 73.
たは一定種類の兵器を製造または保有しない各当事国の義務は、必然的に他 のすべての当事国による同一義務の履行に依存する。というのは、各当事国 の約束が他の当事国による同様の約束に対して順次行われるところにそうし た条約の本質があるからである。したがって、個別的当事国による特別な違 反は、他の当事国による相応する不遵守を正当化するであろう。また、1 の 当事国による履行拒絶に等しい一般的なまたは真に根本的な違反は、すべて の実際的な目的上、条約の終了を確実にもたらすであろう。(iii)はこの趣 旨を規定する。しかし、これは、条約の終了を正式に宣言する当事国の法的 行為というよりは事情の効果から生じるであろう。したがって、この場合は、
*45 第 30 条と第 31 条の関連規定は次のようなものである。
第 30 条 意図的な又は無効な終了(性質及び方法)
2 履行拒絶とは一方の当事国がもはや条約により又はその特定の義務により拘束さ れない意思を宣言し又は証明することにより、当該条約又は義務の履行を拒絶する 完全な拒否行為である。履行拒絶は明示的に行われるか又は行為により生じるが、
後者の場合には、当該行為が条約義務の性質と甚だしく相違するか又は両立しない ためにその拒否に等しいか又は拘束される意思ともはや両立しない場合にのみ正当 に推定される。それは一方的廃棄又は通告の方法で行われるが、当該当事国が当該 条約又は特定義務が終了する若しくはその終了権又はそれからの脱退権が発生した といういかなる有効な法的理由も主張できないことが履行拒絶の本質である。した がって、一般に、1 の当事国が条約自体又は他の適用可能な協定に基づく何らかの 廃棄権が存在しない場合に要求されるいかなる廃棄理由を示さずに単に条約を廃棄 するならば、又は提出された理由がその性質上圧倒的に非法律的であるならば、履 行拒絶の一応の推定が存在する。
第 31 条 無効な若しくは不正規な行為又は履行拒絶による意図的終了の効果 1(ii) 他方の当事国又は他の当事国は、そうした場合には、終了又は脱退を受諾し、
条約又は当該条約に基づく廃棄し若しくは履行拒絶する当事国の義務を終了したと 見なす選択権を有する。また、その場合、当該条約又は義務は受諾の日から終了す るであろう。ただし、これは、廃棄し若しくは脱退する当事国の責任、又は、被っ た損失、損害又は侵害につき金銭賠償若しくはその他の賠償を請求しなければなら ないる他方の当事国若しくは他の当事国のいかなる権利にも影響を与えない。ibid., p. 36.
ある点で、第 30 条と第 31 条*45が規定する 1 の当事国の履行拒絶を他の当 事国が黙示的に受諾する事例に類似するであろう*46。ただし、結局、フィツ モーリスはこの解説を支持しない。なぜなら、終了の根拠として重大な違反 を主張することは、他の当事国の権利であって、履行拒絶の受諾ではないか らである*47。
最後に、絶対的なまたは一体的な履行を要求する義務を含む条約である が、その性質は、他の当事国の集合体によって行使されるにせよ、そうした 原因での一般的な終了の何らかの能力の存在と両立しないであろう*48。これ は、第 19 条 1 項サブパラグラフ(iv)をいくつかの実例と共に最初に解説 するのが適切である。これらの条約の場合、1 の当事国による根本的な違反 は、他の当事国に条約を終了させるいかなる権利も与えないのに加え、当該 違反国に対して条約の適用を拒否することさえ認めない。たとえば、人権条 約の 1 の当事国による根本的な違反は、条約の終了を正当化もしなければ、
当該違反当事国の国民に対してさえ相応する条約の違反を正当化しない。同 じことは、国際労働機関の諸条約の結果として一定の労働条件を維持するま たは一定の慣行を禁止する、あるいは、海洋での安全基準に関する海洋条約 に基づくあらゆる当事国の義務に当てはまるであろう。同じ原則は、捕虜お よびその他の事項に関する 1949 年 8 月 12 日のジュネーヴ条約に明確に規定 されている*49。他の種類は、所与の区域に一定のレジームまたは制度を維持 する国際義務を定める条約である*50。これらの諸事例の鍵は、法的にもまた 実際的な観点からも、他の当事国の相応する履行に依存するいずれかの当事
*46 Ibid., p. 54, para. 126.
*47 Ibid., p. 56, para. 139.
*48 Ibid., p. 54, para. 124.
*49 特に、各ジュネーヴ条約の第 2 条と導入部の条項を参照せよ。