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カナダにおける非居住信託の課税

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(1)

は じ め に

 課税ベースの浸食が問題となる中で,各国の国際課税ルールは試行錯誤 を繰り返している。本稿では,1999年に,最初に提案された時から14年を 経て2013年に可決されたカナダの非居住信託に係る課税ルールについて紹 介する。まず,カナダにおける信託課税の概要を説明したのち,改正が提 案された背景と改正前の制度の問題をとりあげ,改正後の非居住信託課税 がどのように変化したのかを述べる。

1.カナダにおける信託の課税

⑴ 信託の所得課税

 所得税法の目的上,信託は信託財産について,個人とみなされる

1)

。こ

1) Subsection 104 ( 2 ).

 23 商学論纂(中央大学)第

59

巻第5・

6号( 2018

年3月)

カナダにおける非居住信託の課税

漆   さ  き

   目   次  は じ め に

1.カナダにおける信託の課税

2.判例法と改正前の非居住信託の課税ルール

3.改正後の制定法上のみなし居住信託判定ルール

 結びにかえて

(2)

のことに基づき,信託はその総所得と課税所得を計算し,その課税所得      について税を支払う。信託がカナダに実際に居住するか,またはカナ      ダ居住とみなされれば,その全世界所得についてカナダの課税に服する一

方,非居住であれば,カナダ源泉の所得についてのみカナダ課税がなされ る。

 ア.信託の租税上の住所

 信託の租税上の住所は,所得税法上の条文ではなく判例法と,

CRA

が 判例法に基づいて公表している運営指針によって判断される。最近まで,

Thibodeau Family

事件判決

2)

に基づき,信託の住所は受託者の多数派の居

住地によって判断されるものと考えられてきた。しかし,より最近の判例

である

Garron Family Trust

事件

3)

でアプローチが変更され,カナダ最高

裁では,受託者の居住地はつねに信託の居住地と一致するわけではなく,

法人のように,その実際の事業が行われる場所,管理支配の中心が実際に 行われる場所が租税上の住所であるとされた。外国信託についてのみなら ず,国内で信託の居住する州を判断する際にも,管理支配の中心テストが 使用されている

4)

。

 イ.課税年度

 2016年から,累進税率適用遺産を除くすべての信託は暦年で課税され る

5)

。2016年より以前には,遺言信託は暦年以外の課税年度が適用される

2

) Dill v. R. [

1978 ] C.T.C. 539 , 3 E.T.R. 168

(この事件は一般に

Thibodeau Family

事件と呼ばれる)

.

3

) Garron Trust Family v. R. [

2009 ] TCC 450 , affirmed 61 E.T.R. ( 3 d) 168 , affirmed 2012 SCC 14 (S.C.C.).

4

) 国内の信託の居住する州が争点となった

Discovery Trust v. M.N.R. [ 2015 ] 5 C.T.C. 13 (N.L.T.D.).,Boettger v. Quebec, 2015 QCCS 7517においても,こ

のテストが信託の居住地の判断基準として用いられた。

5) Paragraphs 249 ( 1 ) (b) and 249 ( 1 ) (c).

(3)

可能性があったが,すべての遺言信託は2015年12月31日に年度末を迎える ものとみなされ,それ以降は暦年ベースを用いることとなる

6)

。例えば,

5月31日に年度末を迎える配偶者信託は,2015年には2回年度末を迎えた

のち,2016年から暦年での事業年度を用いる。累進税率適用遺産の条件に 当てはまる場合には,12か月を超えない範囲で,死亡日以降,暦年ベース でない課税年度を選択することができる

7)

。累進税率適用遺産は,その存 在から36か月が経過したときにみなし課税年度終了時を迎え,その後は暦 年ベースを受け入れる必要がある

8)

。例えば,納税者の死亡の日である

2016年5月10日に形成された累進税率適用遺産であれば,2019年5月10日

にみなし課税年度終了日となり,2019年12月31日にもう一度課税年度の終 了を迎える。その後は遺産の終了まで,暦年ベースで課税年度を迎えるこ ととなる。

 ウ.ミニマムタックス

 信託は,別段の定めがない限り,所得税法パートⅠの

Division E

に定め られるミニマムタックスに服することとなる

9)

。しかし,ミニマムタックス は,以下の種類の信託には,以下のような状況においては適用されない。

ミニマムタックスが適用されない状況

① 配偶者信託は,生前信託であれ遺言信託であれ,信託の受益者である配 偶者が死亡した年度にはミニマムタックスには服さない。受託者の死亡 は,信託に保有される財産の譲渡及び再取得をみなすことを引き起こす。

その他のすべての年度においては,ミニマムタックスが適用される

10)

。

6) Subsection 249 ( 4 . 1 ).

7

) Paragraph

249 . 1 ( 1 ) (d).

8) Subsection 249 ( 4 . 1 ).

9

) たとえば,M.N.R., Technical Interpretation

9903747 ,

“Minimum Tax and

Health amd Welfare Trust” ( June 14 , 1999 ).

(4)

②

Alter-ego

信託は,設定者の死亡の年度にはミニマムタックスに服さない。

設定者の死亡は,信託に保有される財産の譲渡及び再取得をみなすこと を引き起こす。その他のすべての年度においては,ミニマムタックスが 適用される。

③ ジョイント配偶者信託又はコモンローパートナー信託は,二番目の配偶 者又はコモンローパートナーの死亡の年度にはミニマムタックスには服 さない。死亡により,信託に保有される財産の譲渡及び再取得をみなす こととなる。その他のすべての年度においては,ミニマムタックスが適 用される。

10)

 エ.信託の所得

 信託は一般に,個人と同様に自身の所得を申告納付することを求められ る

11 )

。しかし,信託によって稼得された所得が,その年中に受益者に支払 われるか,あるいは支払われるべき(

payable

)ものである場合には,信託 はその額を所得計算の際に控除することができる

12 )

。配分された所得はそ れを受け取った受益者において課税される

13 )

。

 所得が信託によって留保される場合は,当該所得は,信託が累進税率適 用遺産又は適格障碍者信託に該当しなければ,個人に適用される一番高い 限界税率が一律に適用され,課税される

14 )

。特殊な信託にはその所得の算 入や控除についても特別なルールが適用される。例えば,

Subsection 104 ( 13 . 1 )

又は

( 13 . 2 )

の下で指定された所得は,受益者に支払われた又は支払

10

) Subsection

127 . 55 € and Subparagraph 104 ( 4 ) (a) (iii).

11) Grace Chow and Ian Pryor, “ Taxation of Trusts and Estates, A Practitionerʼs Guide 2017

” ( Thomson Reuters,

2016 ), p. 93 .

12) ただし,Subsection 104 ( 6 )

は,一定の場合には控除がなされないことを 定めている。

13) Paragraph 104 ( 13 ) (a).

14

) Subsection

122 ( 1 ). 2016

年より前には,遺言信託には累進税率が適用され た。

(5)

われるべきものとされたとしても,信託の所得とされる

15)

。しかし,この 指定は,信託のその年の課税所得が,指定されたものと合わせて「なし

(

nil

)」よりも大きい場合には無効となる

16)

。つまり,指定された所得が繰 越損失によってゼロまで減らされる場合に限って,指定の利用を認めると いうことである。そのほか,年少者のために留保される所得

17)

等,一部 のものは,信託に留保されても受益者の手において課税されることとな る。

 また,信託によって実現された損失は,信託によってのみ利用でき,通 常の繰越ルールに服する

18)

。一般に,信託にある資産は,一定期間(通常 は21年)をこえて蓄積されないよう,みなし譲渡ルールが規定されてい る

19)

。当該規定に従い,信託は,21年ごとに,資本資産や事業の棚卸資産 に含まれる土地を,市場価格で譲渡したものとして課税される。

⑵ 受益者課税

 ア.信託からの所得の分配

 一般的には,信託の所得は,受益者に「支払われるべき(

payable

)」場 合には受益者において課税される

20)

。所得税法上,所得は,受益者に実際 に支払われるか,受益者が所得の支払いを強制する権利を持つ場合にの み,「支払われるべき」であるとみなされる。受益者は実際に支払いを強 制する必要はなく,支払いの強制を試みる必要もない。判断要素には,受 益者の所得に対する絶対的権利,その所得を処分し消費し,享受すること

15

) Subsection

104 ( 13 . 1 ), 104 ( 13 . 2 ).

16) Subsection 104 ( 13 . 3 ).

17

) Subsection

104 ( 18 ).

18) Subsection 111 ( 1 ).

19

) Para.

104 ( 4 ).

20) Grace Chow and Ian Pryor, supra note 11 , p. 159 .

(6)

についての契約上又はその他の制限のなさである

21)

。信託所得がその受益 者に対して「支払われるべき」状態になったかどうかを判断するには,所 得の配分が裁量である場合と,義務である場合を区別することができる。

 信託の条項で,信託の所得が分配されることや差し引かれることが強制 されておらず,代わりに,何者か(通常は受託者)に分配を行う権限が授 与されている場合,所得の分配は裁量的であるとされる。裁量的な所得分 配の場合は,信託の議事録等で裁量が執行されたことが証明されれば,受 益者において当該所得が課税される

22)

。一方,受託者が明示的に,信託の 条文によって,何らかの方法で所得を配分し又は差し引くことを義務付け られている場合に,所得分配は非裁量的であるとされる

23)

。信託が,信託 の所得は受益者に支払われねばならないと定めている場合,所得は,支払 いがされなければならないときに「支払われるべき」であるとされ,受益 者が実際には支払いに失敗したとしても,受託者が控除を主張することを 断ったとしても,関係がない

24)

。

 信託が納税者にその年中に授与する金銭以外の便益も,一定の状況下で は納税者の所得に含められる。このルールの基本的な考え方は,信託から 納税者に受け取られ,享受された便益は,資本分配でない限り,納税者の 所得に含められるべきだということである

25)

。

 イ.信託持分の処分

 信託の受益者持分は,信託契約に従って,⑴受益者持分を第三者に割 り当てること,⑵持分の対価として信託資産を受益者に譲渡すること,

21

) Hall v. R.,

2003 TCC 410 .

22) M.N.R, Technical Interpretation 9606229 . 23

) Grace Chow and Ian Pryor, supra note

11 , p. 161 . 24) Brown v. R. ( 1979 ) C.T.C. 2190 .

25

) M.N.R., Department of Finance Commentary (Consolidated Explanatory

Notes), “Benefits Under A Trust”.

(7)

によって処分される可能性がある

26)

。信託持分の処分が課税上どのような 結果になるかは,処分する持分が信託の「所得持分」なのか「資本持分」

なのかによって異なる

27)

。所得持分と資本持分は,所得税法の定義規定に その定義が規定される

28)

。所得持分は,基本的には「個人信託における納 税者の受益者としての権利で,信託の所得を一部または全部を受け取るも の」

29)

と規定され,資本持分は,「信託における受益者の権利すべて」と 規定される

30)

。

 信託からの資産の受領に伴って,所得持分が信託に譲渡される場合に は,受益者にとっては所得に算入されるものは生じない

31)

。所得持分の処 分で,信託における資産の受領を伴わないものは,譲渡利益に等しい所得 を生じさせる

32)

。対価に金銭以外の,定義規定の「資産」に含まれない資 産が含まれる場合には,納税者が受け取った各資産の対価としての価格 は,処分時における時価とされる

33)

。一般に,信託によって受益者に対し て信託資産が移転される場合には,当該移転は譲渡である。信託資産の分 配が,所得持分を満たすために行われる場合には,当該資産は市場価格で 譲渡されたものとみなす

34)

。

 信託の資本持分は,信託において受益者として享受する,所得持分以外

26) Norman C. Tobias, Taxation of Corporations, Partnerships and Trusts 4 th ed., Carswell, 2013 , p. 163 .

27) 所得持分が処分されれば Section 106,資本持分が処分されれば Section 107

が適用される。

28) ITA Subsection 248 ( 1 ), 108 ( 1 ).

29

) Subsection

108 ( 1 ).

30) Ibid.

31

) Para.

106 ( 2 ) (a) and subs. 106 ( 3 ).

32) Para. 106 ( 2 ) (a).

33

) Para.

106 ( 2 ) (c).

34) Subsection 106 ( 3 ).

(8)

のすべての権利を意味する。個人信託・指定された信託における資本持分 の譲渡は,譲渡益が,当該資本持分の調整されたコストベースと「コスト の額」の両方を超えないかぎりはキャピタルゲインを発生させない

35)

。た だし,その場合には,持分のいかなる部分も報酬として取得されたのでは ないこと,譲渡の時点において,信託が非居住者でないことが条件であ る。これにより,個人信託又は指定された信託が資産をその資本受益者に 配分した際には,受益者レベルでの課税は発生しない

36)

。

2.判例法と改正前の非居住信託の課税ルール

⑴ 判例法上の信託の居住判定ルール

 カナダは居住ベースで課税を行うため,居住者には全世界所得課税が,

非居住者には国内源泉所得課税がされる。信託の租税上の住所は,所得税 法上の条文ではなく判例法と,カナダ歳入庁が判例法に基づいて公表して いる運営指針によって判断される

37)

。最近まで,

Thibodeau Family Trust

事件判決

38)

に基づき,信託の住所は受託者の多数派の居住地によって判 断されるものと考えられてきた。しかし,より最近の判例である

Garron

Family Trust

事件

39)

でアプローチが変更され,カナダ最高裁は,受託者の

居住地はつねに信託の居住地と一致するわけではなく,法人のように,そ

の実際の事業が行われる場所,管理支配の中心が実際に行われる場所が      租税上の住所であるとした。外国信託についてのみならず,国内で信託      の居住する州を判断する際にも,管理支配の中心テストが使用されてい

35

) Para.

107 ( 1 ) (a).

36) Tobin, supra note 26 , p. 170 .

37

) Dill v. R. (

1978 ) CTC 539

(一般に

Thibodeau Family

事件と称される)

. 38) Ibid.

39

) Garron Trust Family V. R. (

2009 ) TCC 450 , ( 2011 ) 2 C.T.C. 7 (FCA), ( 2012 )

SCC 14 .

(9)

る

40)

。

 この管理支配地ルールに加えて,判例法によってカナダ非居住者とされ る信託でも,所得税法によってみなしカナダ居住信託となる可能性があ る

41)

。

⑵ 改正前の制定法上の居住者判定ルール

 1999年に改正提案が提出される以前,非居住信託とオフショア投資ファ ンドの課税に関する

Section 94と94 . 1のルールは,様々な点で不十分な繰

延防止規定であると考えられていた

42)

。1999年の連邦予算とともに公表さ れた,非居住信託の課税と国外投資事業体ルール(

FIE

ルール)に影響す る提案は,「税制をより公平なものにし,資産をオフショアの信託やファ ンドに移転させる納税者による租税回避を防止する」ことを意図してい た。1999年に最初に改正提案が行われた非居住信託ルールの改正プロセス は延期され,その後,法案は2001年8月に公表され,詳細な

Notice of

Ways and Means

は2003年10月に議論の俎上に載せられた。改訂された法

案は2005年7月に公表され,2006年11月,提案された新しい法案は下院の 第一読会に付された。2007年10月に再度導入され,下院から上院に送られ たが,2008年10月に一般選挙のために議会が解散され,法案は無効となっ た。その後,2010年予算案において再度提案され,ようやく2013年に法案 が可決され,2014年から,2007年にさかのぼって適用されることとなっ

40) Discovery Trust v. M.N.R. ( 2015 ) 5 C.T.C. 13 (N.L.T.D.)., Boettger v. Quebec (Agence du revenu), 2015 QCCS 7517 .

41) Section 94 .

42

) Canada, Examination of Requirement to report Specified Foreign Property

under Section 233 . 3 of Income Tax Act :  Report of the Auditor General of

Canada to the House of Commons and to the Ministry of Finance and National

Revenue.

(10)

た

43)

。

 1974年以降,

Section 94は一般に,カナダに居住する受益者を伴う非居

住 裁 量 信 託 に つ い て, 課 税 目 的 上, 居 住 者 と み な す も の で あ っ た。

Section 94が適用されて居住者とみなされるには,条文に規定される二つ

の条件を満たす必要があった

44)

。これらの要件は,「受益者テスト」「資産 移転テスト」とされた。

 ア.受益者テスト

 受益者テストは,

Section 94がなければカナダの非居住者である信託の,

課税年度中のいずれかにおいて,①カナダに居住する者,②法人又は信 託(どこに居住しているかを問わず)で,カナダ居住者と独立企業間でない もの,またはカナダに居住する者の支配外国子会社であるものが,当該信 託に受益権を有する場合に,満たされる

45)

。「受益権を有する」の意味は,

Subsection 248 ( 25 )

に拡大的に定義されており,そこには,以下の二つを

満たすものが含まれる。①現在または将来において,絶対的なものであ れ条件付きのものであれ,どのような者またはパートナーシップの裁量の 執行に服するものであれ,権利を有する者,またはパートナーシップであ ること。②その信託の下で,その特定の信託の所得又は資本を,直接ま たは間接に,複数の信託やパートナーシップを介して受け取る受益者であ ること

46)

。

 この定義の効果は,受託者が信託の所得や資本を,信託に指名された者

43) Mary Anne Bueschkens and Rae Rechtman, “Recent changes in Canada in the areas of trust and estate law” Trust and Trustee, vol. 21 , No. 1 & 2 , 2015 p.

117 .

44

) Vern Krishna, The Fundamentals pf Canadian Income Tax,

9 th ed., (Toronto, 2002 ), p. 1456 .

45

) Para.

94 ( 1 ) (a).

46) Subsection 248 ( 25 ).

(11)

のグループの間に配分する裁量を有している場合に,このような指定をさ れた者もまた,受益者に含められるということである。私法上は,このよ うな者は,受託者がその者に利益のあるように裁量を執行したのちにの み,受益者と考えられる可能性がある。その上,「受益権を有する」とい う語の定義は,1998年の改正によってかなり拡大された

47)

。特定の信託ま た は 特 定 の 合 意 の 契 約 の 文 言 に お い て, そ の よ う な 合 意 が

Letter of

wishes

によって証明されれば,いかなる者かの裁量の執行によって,そ

の者は信託における受益者になり得る

48)

。ただし,それは,当該信託が,

直接または間接にその者と独立企業間でない者から資産を取得している か,そういった者が信託のために保証を行っている,又はその他の財政的 な支援を行っている場合に限る

49)

。

 イ.資産移転(

Contribution

)テスト

 資産移転テストは,信託又は非居住法人のどちらかが(信託がカナダ居住 であり,非居住法人が信託の関連外国子会社であれば)以下の三つの条件のそ れぞれに当たる者から直接または間接に資産を取得した場合に充足され る

50)

。

1 .その者が,前項に規定する受益者テストに該当する受益者であり,そ

の受益者に関連する者,おじ,おば,姪,甥である。

2 .信託の関係する課税年度の終了前18か月以内にカナダ居住者であった

(その者が故人であるまたは存在をやめた場合には,亡くなる前18か月のいずれ かの時点でカナダ居住者であった)。

47) Roth, Canadian Taxation of Non-Resident Trust :  A Critical Review of Section 94 of the Income Tax Act, Can. Tax J. ( 2004 ) vol. 52 , no. 2 , 329 , 340 . 48) Subclause 248 ( 25 ) (b) (iii) (A).

49

) Subclause

248 ( 25 ) (b) (iii) (B).

50) Clause 94 ( 1 ) (b) (i) (A).

(12)

3 .自然人である場合には,その者は信託の関連する課税年度の終了前ま

でに,累計60か月以上カナダに居住している。

 資産移転テストはまた,その資産が信託又は法人から取得され,その取 得が上記3要件を満たす者から非独立企業間で取得されたものである場合 にも充足される

51)

。資産取得テストは,信託における受益権のいかなる部 分でも,直接または間接に,受益者によって購入されるか,贈与される か,遺言や相続を受けるか

52)

,前述の要件に当たる者の指名を執行されて あたえられた場合にも,充足される

53)

。資産移転テストの目的上,信託又 は非居住法人は,その者の代わりに保証を受けたり,なんらかの財政的支 援を受けたりした者から資産を取得したものとみなされる

54)

。

⑶ 制定法上の居住者判定ルール適用の効果

 

Section 94が適用され,信託が裁量信託である場合, Paragraph 94 ( 1 ) (c)

は所得税法パート

I

の目的上,信託をカナダ居住者とみなし,その年 度における課税所得は,別段の定めがなければ,課税所得の合計(その年 のカナダで営まれた事業から生じた所得,課税カナダ資産の処分から生じたキャピ タルゲイン),その年の

FAPI

(

Foreign Accrual Property Income

:タックスヘイ ブン対策税制における特定外国子会社等の所得のようなもの),そして関係外国 子会社の

FAPI

である

55)

。信託は,その課税所得から,受益者に対してし た支払いについて控除することができ,信託と関係外国子会社の統合され た所得については

Section 126の下で外税控除を主張することができる。

51) Clause 94 ( 1 ) (b) (i) (B).

52

) Clause

94 ( 1 ) (b) (ii) (A).

53) Clause 94 ( 1 ) (b) (ii) (B), (C).

54

) Subsection

94 ( 6 ).

55) Section 115 .

(13)

 非裁量信託の場合には,

Paragraph 94 ( 1 ) (d)

が,信託を非居住法人と みなし,その受益権が信託の受益権の市場価格の全体の少なくとも10%で ある,各受益者の関係外国子会社であるとみなす。信託は一つの種類の,

持ち分を100の発行済み株式に分割した資本ストックを有しているものと みなされ,信託の各受益者は,信託の受益権すべての市場価格全体を100 とした時の受益持分の比率に等しい発行済み株式を所有するものとみなさ れる。各カナダ受益者は,信託の

FAPI

を比例持ち分に応じて所得に含め ることが求められる。特別な調整が,信託の資本受益者で,

Paragraph 94

( 1 ) (d)

が適用される者に対して行われ,

FAPI

ルールの下で含められる額,

控除される額に反映される。

 

Subsection 94 ( 1 )

を非裁量信託に適用することは,カナダの税が信託

においてカナダ人が国外に受益権を有する限度で,比例ベースで課され,

裁量信託はその配当していないすべての

FAPI

につき,カナダ居住受益者 が信託にどの程度受益権を有しているかにかかわらず,課税される。その ため,非裁量信託の各カナダ居住受益者は

Paragraph 94 ( 1 ) (d)

に服し,

信託の

FAPI

を比例的に所得に算入することが求められ,裁量信託は,

Paragraph 94 ( 1 ) (c)

に服し,信託自体がカナダ居住者とみなされ,信託

の

FAPI

はすべて所得税法パート

I

の下で課税対象となり,その関係外国 子会社の

FAPI

もまた課税対象となる。したがって,条文上,裁量信託に 課される税が非居住非裁量信託より負担の重いものであるばかりでなく,

非居住法人をとおして同じ額を稼得した際よりも負担は重くなる

56)

。

 

Section 94の規定の執行を可能にし,コンプライアンスを向上させるた

めに,

Subsection 94 ( 2 )

は,信託の各受益者は,共同で,連帯して信託の

権利義務に関して納税義務を負うことを定める。税,罰則,コストの額に

56) Roth, supra note 47 , 343 .

(14)

関しては,信託から受益者に支払われる配当その他の額,信託受益権を処 分して得た金額を限度としてのみ求償できる。そのため,受益者は,信託 によって負担される税,罰金,利子の全額につき,義務を負う。たとえそ のような額が,特定の受益者がそうでなければ担うはずの額を超えていて も,そのような額が,当該受益者が信託から所得又は資本の配当として受 けられる限度,信託の資本持分を処分して得られる限度でのみ回復される としても,それは変わらないとされる

57)

。

⑷ 改正前の制定法上の居住者判定ルールの問題

 ア

.みなし居住者ルールの適用されない状況──資産移転テストの不充

足

 改正前には,

Section 94が適用されない状況,または適用を意図されて

いなかった多くの状況が生じていた

58)

。

Section 94の適用されない状況の   

一つ目は,グラニー信託と呼ばれる信託である

59)

。グラニー信託は,非居 住者によって設立され,カナダ居住者を受益者とするものであるが,資産 移転テストの要件に当たらない場合には,

Section 94の適用はない。受益

者テストが

Section 94の適用を受けるかどうかの判断に用いられるのは年

に一回であるため,その年についてのみ判断される一方,資産移転者テス トは,居住資産移転者からその信託の課税年度中,またはそれ以前に資産 が取得されていれば充足される。非居住であった資産移転者が後にカナダ 居住者となった場合にも

Section 94の適用対象となる。 Section 94は,資

57

) Martin Day, “Offshore Tax Planning : 

The Fifth Year and Beyond” ( 1995 ) Can. Tax J. vol. 41 , no. 5 , 979 .

58

) Wolfe D. Goodman, “Offshore Tax Planning : 

Beyond the Basics” in Report of Proceedings of the Forty-Eighth Tax Conference, 1996 Conference Report, Vol. 2 , 57 :  1

‑

12 .

59) Roth, supra note 47 , 344 .

(15)

産移転者テストが充足し,受益者テストを充足しない場合には適用されな いので,カナダ居住者によって設立され,カナダ非居住者のみを受益者と した場合には適用されない。

 同様に,いわゆるイミグレーション信託も,

Section 94の適用を外れる

場合がある

60)

。イミグレーション信託とは,カナダに住んだことのない個 人が,カナダ居住を確立する前に,非居住信託を設定すると,受動投資所 得を5年間はカナダの免税ベースで累積することができる,というもので ある。信託に対する個人の資産移転者は,資産移転テストを充足するに は,信託の関係する課税年度の終了時までに累計60か月以上カナダに居住 していなければならないためである。

 最後に,

Section 94は,「エミグレーション信託」というカナダを出国し

た者によって,カナダに居住する親戚のために設定される信託にも適用さ れない。なぜなら,資産移転者テストは,信託の関係する課税年度の終了 時から18か月前までにカナダ非居住者になれば,充足しない。また,特定 の条文で,1960年より前に設定された生前信託で,信託設定時にカナダ非 居住者によって設定された者

61)

,1976年より以前の個人の死亡の結果生じ た遺言信託は

62)

,

Subsection 248 ( 1 )

に定義される国外退職協定の観点から 免税される。

 

Section 94の適用に関する欠点は,一般に,資産移転者テストまたは受

益者テストを満たさないために条文が適用されない状況に関連するもので ある。資産移転者テストは,一定の間接的な資産移転者で,テストによれ

60

) Goodman, “Canadian Trust with Non-Resident Beneficiaries and Non-

Resident Trusts with Canadian Residents Beneficiaries” in Report of the Proceedings of the Fortieth Tax Conference, 1998 Conference report, 39 :  1‑11 .

61

) Clauses

94 ( 1 ) (b) (i) (C) and (D).

62) Clauses 94 ( 1 ) (b) (i) (E).

(16)

ば信託による資産の取得を構成しないものを介すことで充足を免れること ができる可能性がある。実際に,カナダ居住者を受益者とする信託の繁栄 は,現在の非居住ルールの実効性を財務省に検証させることとなった

63)

。  また,多くの納税者は,

Section 94は一定のオフショアエステートフリ

ーズには適用されない,という立場を取った

64)

。オフショアエステートフ リーズでは,カナダの法人の将来の成長価値を表す名目的な価値の一般株 式が非居住株主に発行され,その非居住株主は,その後カナダに居住する 受益者のために信託に当該株式を設定する。この立場は,信託という非居 住株主による株式の購入予約は,カナダ法人からのものでも,カナダのフ リーザーからでも,

Section 94の資産移転テストを充足する間接的な資産

の取得にあたらない,という見解に基づいている。

 イ.みなし居住者ルールの適用されない状況──受益者テストの不充足  また,改正前の

Section 94で最も重大な欠陥だと受け止められていたの

は,受益者テストを満たさないために適用を回避される可能性である

65)

。 多くの租税の専門家が,受益者が信託証書において指名を受けていること は,あきらかに

Subsection 248 ( 25 )

の意味において「受益持分を有する」

ものと扱われるべきだという見解を示していた

66)

。たとえそれが,条件付 きのものであっても,裁量によるものであっても,そのような拡大をした

63

) Maureen Berry, “Canadian Tax Review : 

New Nonresident Trust Rules To Become Effective January 2003” ( 2002 ) Vol. 28 , no. 11 , Tax Notes International 1111

‑

13 .

64) Ibid.

65

) Roth, supra note

47 , 347 .

66) Cadesky and Chow, Michael Cadesky and Grace Chow, “Amendments to

Taxation of Non-Resident Trusts”, in Report of Proceedings of Fifty-Second

Tax Conference, 2000 Conference Report ( 2001 ),34 :  1‑79 , 34 :  8‑14 at 34 : 

8

‑

9 , Krishna, “ Trusts and preservation of Wealth” in Ontario Tax Conference

(Toronto, 1996 ) tab. 10など。

(17)

としても,それは証書に名前のないものにまで,受託者がカナダ居住者を 潜在的な受益者として指名できる状態で定義を拡大することにはならな い

67)

。

 1999年の「受益持分を有する」という定義の改正前,

Section 94の適用

は,カナダ居住者の受益者を,のちの課税年度あるいはカナダ居住者でな くなったあとに指名することで,それに該当することを回避させることが できた。それによって,実際にはカナダ居住を継続したとしても,その暫 定的に居住者でなくなった受益者の便益のために,投資所得を課税なしで 累積させることができるようになる。しかし,前述のように,248

( 25 )

の

「受益所有者」の定義は1999年に改正され,資産移転者と,資産移転者と 独立企業間でない者で,信託と協定を持つものを含むこととなった。信託 と協定を持つものには,遺言に従って,受益者がのちに受益者に加えられ ることとなるものが含まれる。受託者がのちに追加的にカナダ居住者を受 益者として加える裁量を持ち,信託に受益権を持つ現在のカナダ居住者が 生じ得るからである。

 しかし,1999年の改正後も,信託証書もおいて,自然人でないものをの ちに受益者に加えること,それによって非居住信託がのちに受益者として 追加されることができるように書くことで,

Section 94の適用を避けるこ

とができることが提案された

68)

。非居住信託そのものは,受益者を後から 追加する権限を持つ。最初の信託は所得を蓄積させ,のちの課税年度にお いて,その信託受益者に資本を分配する。そのことは,のちに指名された カナダ居住受益者への資本分配となる。

Section 94は協定

(

arrangement

) には適用されない。なぜなら最初の信託は,カナダ居住受益者を有さない ため,課税されず,そのような人間を加える権力もない。二つ目の信託

67

) Michael Cadesky and Grace Chow, supra note

66 , 34 :  10 .

68) Ibid.

(18)

は,所得がないという理由で課税されない,というのである。しかし,

248 ( 25 )

「受益持分を有する者」の定義は,二番目の信託の受益者に適用 され,一番目の信託につき,受益持分を有する者とみなされる可能性があ る。そのような受益者は「特定の信託から直接に,あるいは複数の信託を 通して間接に,特定の信託の所得や資本」を受け取る権利を有すると考え られるためである

69)

。

Section 94は,受益者を追加する権限のない信託を作

り,のちに受益者を追加できるよう信託の文言を変更することでその適用 を避けることができる

70)

。「受益持分を有する」の定義は,まだ生まれて いない受益者や,確認されていない受益者にまで拡大しておらず,当該定 義はすべての潜在的な受益者がカナダ非居住者に間違いない場合のその集 団の受益持分には適用されない

71)

。これらの懸念は特に1999年の予算案の 際に参照され,そこでは,財務大臣は以下のように述べた。

 「カナダ居住者は,現在の租税回避防止ルールの適用を回避するよう 調整された状況で非居住信託に資金を移転することができる。いくつか のタックスヘイブン管轄において,信託税制は,あきらかにカナダ人に 租税回避防止ルールに当たらない状況を許すよう,特に変更されてい る。そういったスキームの特徴は,非居住信託がカナダ居住受益者を有 することを隠すことである。数々のタックスヘイブンが,その信託制度 を,受益者を指定する必要のないように変更し,カナダ人がタックスプ ランニングしやすいようにして,非居住信託に累積した所得の課税を繰 り延べさせている。カナダ人の資産移転者と,受託者の間の契約は,カ

69

) Roth, supra note

47 , 348 . 70) Cadesky and Chow, supra note 66 .

71

) Brown and Radu, Taxation and Estate Planning ( Toronto,

1996 ) paragraph

9 . 2 . 1 ( 4 ).

(19)

ナダ人資産移転者が,信託の実質的支配を保持するものか,誰が究極       的に,累積した所得を含む信託資本を受け取るか指定できるものであ

る。」

72)

3.改正後の制定法上のみなし居住信託判定ルール

⑴ 概   要

 新しいルールでは,判例法上の非居住信託が居住信託とみなされるため には,後述するカナダ居住の資産移転者(

Contributor

)がいること,また はカナダ居住受益者と関係する資産移転者がいることが必要である

73)

。  信託は,課税所得を判定するためにみなしカナダ居住者となるが,すべ ての目的上カナダ居住者となるわけではない。例えば,一定の手続目的上 はカナダ居住者とはならず,課税カナダ資産を売却するときにはコンプラ イアンス証明を得なければならない

74)

。

 非居住信託が要件に当てはまっても,カナダ居住信託とみなされない場 合もある(免税国外信託と呼ばれる)。それは,ほとんどの場合において,

婚姻が破綻した状況,または虚弱な受益者が存在する状況において,非居 住者に便益を与える信託が含まれる

75)

。カナダ居住とみなされないのは信 託に資産移転した額が限度とされ,その他にも厳しい制限があるので,タ ックスプランニング目的での興味を持たれることはほとんどない

76)

。  カナダ居住者が非居住信託に,独立企業間価格で資産移転をした場合に は,免除がある。独立企業間価格で移転をすると,それは「資産移転

72

) Canada, Department of Finance,

1999 Budget, Budget Plan, February 16 , 1999 , 196‑197 .

73

) “Resident Contributor” というのは

Section 94

に定義された語である。

74) Paragraph 94 ( 3 ) (a).

75

) Subsection

94 ( 3 ).

76) Grace Chow and lan Pryor, supra note 11 , p. 399 .

(20)

(

contribution

)の定義から除かれ,その結果,信託はカナダ居住者とはみ なされない

77)

。また,みなし居住信託から非居住受益者に対して支払われ る配当の控除には制限がある。結果として,カナダ課税目的上は信託所得 が存在するが,実際にはすべての所得は受益者に支払われているという状 況が生じ得る

78)

。

 信託がカナダ居住資産移転者又はカナダ居住受益者をやめるときには

(資産移転者が死亡する場合,又はカナダ居住者であることをやめる場合のどちら でも)信託は,年度末を迎えることとみなされ,その直前に,そのすべて の資産を市場価格で譲渡したものとみなされる

79)

。

⑵ 居住資産移転者

 

Section 94は,後述する「特定の期間」,信託が居住資産移転者を有して

いれば,非居住信託をカナダ居住とみなす。信託に対する居住資産移転者 は,いずれかの時にでも,その者が,その時に,カナダの居住者であり,

かつ信託の資産移転者

80)

であるということである。

 期間についての定義を参照すると,明らかに,居住資産移転者は,ある 特定の時にそうであっても,のちにそうでなくなることがあり得る。居住 資産移転者であったものが,カナダ非居住者になるか,または存在しなく なれば,その者は居住資産移転者ではなくなる。このことは,信託がカナ ダ居住者とみなされなくなる場合を定める94

( 5 )

との関係で重要である。

 いずれかの時における信託に対する資産移転者とは,「ちょうどその時,

77

) Subsection

94 ( 1 )

の定義を参照。

78) Subsection 104 ( 7 . 01 ).

79

) Subsection

94 ( 5 ).

80) 「資産移転者(“Contributor”)」の語は,Section 94 ( 3 )

に定義あり。居住 資産移転者は,

1960

年より以前に信託に資産移転をし,信託設定時に非居住 者であったものを除く。

(21)

又はその前に(

at or before that time

)」信託に資産移転をしたものである

81)

。

「ちょうどその時,又はその前に」信託に資産移転がなされたかどうかは,

非居住者である者が資産移転をし,のちに居住者になった場合にも「居住 資産移転者」になるということである。その場合,カナダへの移動の年に 居住資産移転者となる。結果として,新しい移民がカナダに異動してくる 前に設定された信託において,実際に居住者になる前の,移動の年の1月

1日から,その者は居住資産移転者となる 82)

。

⑶ 居住受益者

 非居住信託は,特定の課税年度の特定の期間に居住受益者を有する場合 にも,みなし居住信託として,カナダ課税を受ける。居住受益者の有無 は,カナダ居住資産移転者が不在の場合のみ,判断が必要となる

83)

。特定 の信託のカナダ居住受益者とは,カナダに居住し,かつ関連資産移転者の ある信託において受益者である者をいう。ここでいう「受益者」は,法人 受益者の株主や,間接的に信託の所得や資本を受け取る可能性のある者ま たはパートナーシップなど,受益利害関係者を含む

84)

。

 また,関係資産移転者とは,信託に資産移転をした者である。そこに は,非居住期間以外に信託に資産を移転した者をすべて含む。非居住期間 に信託に資産を移転したものとは,信託に資産を移転したもののうち,前

5年間

(60か月)にカナダ居住者であったことがなく,5年以内にカナダ 居住者にならない者である。信託が人の死亡によって設定される場合は,

81) Grace Chow and Ian Pryor, supra note 11 , p. 404 .

82

) M.N.R., Technical Interpretation

2014

‑

0529831 C 6 ,

“STEP-Q

11 -Immigration trust exemption-Section 94 ( 3 ) (a), 128 . 1 ( 1 )”.

83

) Grace Chow and Ian Pryor, supra note

11 , p. 418 .

84) Subsection 248 ( 25 ).

(22)

非居住期間は資産移転の前18か月まで短縮される。そのため,居住受益者 が存在し,非居住期間でないときに,資産移転者によって非居住信託に資 産移転がなされていれば,カナダ居住者とみなされることとなる。関係資 産移転者には,存在しなくなった者も含まれる。ただし,後継受益者

(

Successor Beneficiary

)は,居住受益者の範囲から除かれる。

⑷ 特定の期間

 94

( 3 )

における適用可能性テストは,信託の特定の課税年度における特 定の時期によって判断される。信託が存在しなくなる場合に年度末がある のかどうか定かでないが,特定の時期という文言は以下の意味と定義され る。

・年度末に信託が存在していれば,信託の課税年度の終わり

・年度末に信託が存在しない場合には,信託が存在しなくなる直前  生前信託については,これは双方とも暦年の終了時になる。もし信託に 資産を資産移転した個人が,暦年中にカナダ居住者になれば,その課税年 度すべてについて,信託はカナダ居住者とみなされることとなる。

⑸ 資 産 移 転

 「資産移転(

contribution

)」の意義は,条文上最も難しく,そして基本的 な概念の一つである。特定の者またはパートナーシップから信託へのいず れかの時点での資産移転は,特定の者又はパートナーシップによる,信託 への資産の移転又は貸付(独立第三者価格での移転を除く)と定義される。

ある者またはパートナーシップによりなされる特定の資産の移転又は貸付 は,それが一連の取引の一部として行われた場合や,他の移転や貸付を含 む出来事として行われた場合には,合理的に認定される範囲で,その者ま たはパートナーシップによってなされる特例の資産の移転又は貸付がなさ

(23)

れたものと考えられる。これは,例えば,

A

が信託に関して第三者であ り,カナダ居住者でない

B

を介して信託に資産を移転又は貸付を行った 場合にも,

A

からの資産の移転又は貸付であり,資産移転であると考えら れる,ということである。

 より間接的な取引についても,資産移転に含まれる。特定の者又はパー トナーシップが,特定の資産の移転又は貸付を,一連の取引の一部として 義務付けられ,その一連の取引に他の者またはパートナーシップからの資 産の移転又は貸付が含まれている場合,その義務について合理的と考えら れる範囲で,第三者によってなされた資産の移転又は貸付も「資産移転」

に含まれる可能性がある。また,カナダの判例上,「移転(

transfer

)」とい う文言はかなり広い意味を持つため,注意が必要である。

⑹ みなし居住信託の課税

 みなし居住信託の資産は,二つの部分に分けられる。一つは居住部分と 定義されるカナダで課税される部分であり,もう一つは非居住部分と定義 されるカナダで課税されない部分である

85)

。一般的に,居住部分には,関 係資産移転者または居住資産移転者によって拠出され,みなし居住信託に よって取得された資産のすべてが含まれる。要するに,みなし居住信託に 対する資産の資産移転は,現在の又はかつてのカナダ居住者によってなさ れた場合,居住部分を構成する

86)

。加えて,所得税法94

( 10 )

の適用により,

非居住者がカナダ居住者になって60か月以内に資産移転をすれば,その資 産移転は資産移転の日から居住部分を構成することとなる。また,みなし

85

) Subsection

94 ( 1 ).

86) Mary Anne Bueschkens and Rae Rechtman, “Recent changes in Canada in the areas of trust and estate law” Trust and Trustee, vol. 21 , No. 1 & 2 , 2015 p.

117 , 125 .

(24)

居住信託が資産を購入し,それが居住部分を構成しないとしても,当該資 産の購入に当たってみなし居住信託が債務を発生させていれば,みなし居 住信託ルールは当該資産の市場価格をみなし居住信託の居住部分に配分す る式を適用する

87)

。

 みなし居住信託の所得がその受益者に配分されないときは,関係する課 税年度の所得の累積額はみなし居住信託の居住部分を構成し,カナダ課税 に服する

88)

。非居住部分には,居住部分以外の非居住信託によって所有さ れるすべての資産が含まれる

89)

。非居住部分には,カナダ源泉のものを除 き,カナダ課税はなされない。

 みなし居住信託の所得計算の際には,みなし居住信託は所得税法104

( 6 )

に従い,受益者に支払われた,又は支払われるべき額を控除すること ができ

90)

,また,選択された資産移転者の所得に含められた額を控除する ことができる。選択された資産移転者とは,信託に資産を移転したカナダ 居住者で,みなし居住信託の所得が自身の手において課税されることを選 択された者である。また,カナダ居住資産移転者について,厳しいジョイ ントルールといくつかの納税義務ルールが導入されている。信託に資産を 移転した者で,カナダに居住する者は,彼らが信託所得についてその手で 課税されることを選択しなくても,信託の課税について納税義務を負う可 能性がある

91)

。選択を行うと,納税義務は選択資産移転者によって移転さ れた資産にかかる所得に限定される。選択資産移転者がジョイント資産移 転者である場合,各ジョイント資産移転者は共同で,各自,他のジョイン

87) Ibid.

88

) Para

94 ( 1 ) (d).

89) Subsection 94 ( 3 ).

90

) Subsection

94 ( 3 ).

91) Subsection 94 ( 17 ).

(25)

ト資産移転者によって支払われていない限度で,資産移転に係る所得につ いて納税義務を負う

92)

。

 みなし居住信託ルールでは,みなし居住信託の下での居住資産移転者と 居住受益者は,共同でそれぞれみなし居住信託が支払うべき税について納 税義務を負う

93)

。このことは,みなし居住信託の居住部分を構成する資産 から生じた所得につき,居住資産移転者と居住受益者のそれぞれに帰属さ せるという効果をもたらす

94)

。所得税法

Sec. 94は,居住資産移転者に対し,

その所得の帰属を,「すべての居住資産移転者及び関係資産移転者によっ てなされた資産移転のうち,その者がなした資産移転の市場価格ベースで の割合」までに限定することを許している。そのため,居住資産移転者 は,非居住信託の所得のうち,自身の資産移転の割合部分について帰属さ せられるということになる。

 信託の所得は,

Subsection 104 ( 4 )

の下で認められた控除を考慮した上 で判断される。選択された資産移転者に帰属させられる額は,みなし居住 信託によって前年度に負担され,当該年度に主張された損失によっても減 少させられる

95)

。選択された資産移転者として認められるためには,歳入 庁に所定の届け出をしなければならない。居住受益者にはこの選択は利用 できないので,居住受益者は帰属ルールに服することとなる。

 カナダ居住受益者は,非居住信託またはみなし居住信託から配分された いかなる所得についても,カナダにおいて納税義務を負うが,資本の配分 について課税されない

96)

。また,みなしカナダ居住信託については,所定

92) Subsection 94 ( 17 ).

93

) Mary Anne Bueschkens and Rae Rechtman, supra note

103 , p. 126 . 94) Subsection 94 ( 16 ).

95

) Paragraph

94 ( 16 ) (a) and s. 111 .

96) Grace Chow and Ian Pryor, supra note 11 , p. 425 .

(26)

の免税額以外の所得の配分につき,カナダの源泉課税に服するため

97)

,そ の部分については,カナダ非居住の受益者についても影響がある可能性が ある。

結びにかえて

 おそらく,

Section 94の改正の最も重要な側面は,当該条文の適用範囲

を,非居住受益者の便益のための非居住信託へのカナダ居住者による資産 の移転へと拡大したことだろう。

Section 94が改正される以前には,その

ような資産の移転は,関連するカナダ居住受益者が存在する範囲でのみ,

または居住資産移転者と独立企業間でないとされた場合のみ,カナダでの 租税上の結果を生んでいた。そのため,改正の結果は,条文の適用範囲を かなり拡大したこととなる。

97) Paragraph 212 ( 1 ) (c).

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