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―ピアノ学習経験者を対象とした指導の課題と可能性―

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はじめに

 昨年,2016(平成28)年11月に学校教育関係職員の 資質の向上を図るため,「教育公務員特例法等の一部を 改正する法律」が国会において公布された.同年12月,

この改正の内容に関して中央教育審議会は「幼稚園,

小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指 導要領の改善,及び必要な方策等について(答申)」を 取りまとめ,本年2017(平成29)年3月,新保育所保 育指針 ・ 幼稚園教育要領,学習指導要領が公示された.

 前回,2008(平成20)年に改訂された学習指導要領 等は,2006(平成18)年の教育基本法改正により,知 識基盤社会において重要になる子どもの「生きる力」

をバランスよく育んでいく観点から見直されたもので あった.今回の改訂では,「主体的 ・ 対話的で深い学 び」の実現がひとつの大きな課題として挙げられてお り,子どもたちの資質 ・ 能力を育むことができるよう,

子どもたちが「何ができるようになるのか」を明確化 することを求めている1).これは,子どもの学びの内容 とその過程の組み立てを重要視するものであり,教師 の指導のあり方の変化を求めるものでもある.この各 改訂版では育むべき資質 ・ 能力について,①「知識及 び技能」の習得,②「思考力,判断力,表現力等」の 育成,③「学びの向かう力,人間性等」の涵養,の三 つの柱に基づき,教育課程の枠組みを再整理すること を掲げている.保育所や幼稚園等では2018(平成30)

年4月1日の施行に向け,保育士や幼稚園教諭の研修 会が各機関において現在行われており,小学校では周

知,教科書の作成及び検定 ・ 採択等を経て2020(平成 32)年から実施予定である.

 今回の改訂された保育所や幼稚園等の「表現」領域 における音楽活動,及び小学校の「音楽科」教育の目 標の在り方についても,上記に示された趣旨を踏まえ たものである.以下,本稿では新しい保育所保育指針,

幼稚園教育要領,学習指導要領等の背景を探りながら 改訂点を整理し,保育者養成課程の音楽に関わる活動,

及び教科指導と照らし合わせて検討していくこととす る.

1 .本研究の目的と既往の研究との位置 づけ

 現在本学では,保育士,幼稚園教諭,小学校教諭養 成における「音楽Ⅰ」と「音楽Ⅱ」の教科科目があり,

2年間で保育 ・ 教育の現場で活用することができる音 楽の基礎知識と技術(ピアノと弾き歌い)の習得,及 び表現力の育成に取り組んでいる.保育 ・ 教育の現場 において,ピアノ技術の習得や「弾き歌い」の実力を つけていくことは,さまざまな歌に表現やハーモニー を添え音楽を豊かにすることや,子どもの動きに合わ せて協働すること等,子どもの表現や音楽の楽しさを 味わうための強力な手段の獲得に繋がるものと考える.

しかし,歌や動きに対応するピアノ技術と弾き歌いの 習得には課題が山積している.磯部(20142))は保育現 場で保育者に求められる音楽能力は,読譜力,リズム 感,初見力,コードネームを用いた伴奏のアレンジ力 であるとし,初心者に向けた楽典やソルフェージュを

新保育所保育指針・幼稚園教育要領・学習指導要領等に 基づいた保育者養成における音楽指導

―ピアノ学習経験者を対象とした指導の課題と可能性―

細 川 匡 美

立正大学社会福祉学部非常勤講師

キーワード:保育者養成,音楽指導,ピアノ学習経験者,ジャック=ダルクローズ

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用いた授業の取り組みによって,応用力やアレンジ力 を養う重要性について述べている.また,奥(20113) はピアノ初心者の入学前の取り組みについて,学生の ピアノ習熟度調査によって入学前に指導を行う「ピア ノ初心者講座」の試みについて述べている.このよう に,ピアノ未経験者や初心者を対象とするピアノ実技 の指導法に関する研究は少なくない.これは保育者養 成に関わる指導者にとって大きな関心事であり課題の ひとつだからである.しかし,他方ではピアノ学習経 験者に対するフォローは十分に行われているのか,と いう疑問が生じてくる.課題と方法,指導の工夫はピ アノ初心者のために多く向けられ,弾くことに支障の ない,または上手に弾くことができる学生には「この ままで大丈夫」という教師の安堵感からくる指導の緩 みや,学生が「自主的に練習をするだろう」という勝 手な憶測をもって我々は対応していないだろうか.林

(20174))は同様の疑問を投げかけており,ピアノ学習経 験者による6手連弾の取り組み,つまり学内のアンサ ンブル ・ コンサートの経験を通して,相手の存在を知 り,保育現場での音楽活動をより実のあるものにする ことを推奨している.さらに,吉村 ・ 芝崎(20155))は,

ピアノ未経験者と経験者の自己効力感の差異に着目し,

学生が意欲を持って取り組める授業を目指す指導者の 意識改革,学習レベルに応じた採点基準の確立の必要 性を強調している.しかし,学生のための学内演奏会 が開催される条件を満たしていない場合,限られた授 業回数の中でピアノ連弾やアンサンブルを指導するこ とは,カリキュラムを根本的に見直さなければ実施は 困難である.また,吉村 ・ 芝崎(2015)の考察は,ピ アノ初心者に対する指導に重点がおかれている.

 そこで本稿では新学習指導要領等の改訂点を踏まえ,

ピアノ学習経験者を対象とした音楽指導について考察 することを目的とする.方法は,まず新学習指導要領 等の改訂点を整理した上で,次にスイスの作曲家で音 楽教育法リトミックの創案者であるジャック=ダルク ローズ(Jaques-Dalcroze,Émile1865-1950,以下,J=

ダルクローズと表記)の論文『音楽院と音楽学校でア マチュアに対してなされている教育(1905)6)』の見解に ついて検討し,ピアノ学習経験者への指導法の課題と 可能性を探っていく.

 ピアノ学習経験者に対する指導のあり方を検討する ことは,現在抱えている課題とともに,保育 ・ 教育者 としての資質向上への可能性を示す一助になると考え

る.また,これはピアノを上手に弾きこなす学生のみ を厚遇するものではなく,初心者に好影響をもたらす ことにも配慮し検討するものである.第2節では,新 しい保育者保育指針 ・ 幼稚園教育要領等,小学校学習 指導要領に焦点をあて「表現」,および「音楽科」の改 訂点について整理する.

2 .保育所保育指針・幼稚園教育要領,

小学校学習指導要領改訂の趣旨

2 .1 .改訂の背景と趣旨の概要

 近年,我々を取り巻く社会は大きな変化を迎え,そ の対応が求められている.ICT(情報通信技術)の発 達によりさまざまな情報がデータ化され,インターネッ ト等を通して解析 ・ 活用することで新たな経済的価値 が生まれている.学校ではタブレットによる学習や ICT を活用した授業展開も実施されており,人工知能(AI)

が一定の判断を行うなどの時代の到来が身近な生活に も変化を及ぼしている.いわゆる第4次産業革命であ る.知らないうちに,幼い子どもが親のスマートフォ ンを器用に操作する光景を見るのも最近では珍しくな い.ロボット掃除機や介護 ・ 会話ロボットなど,工業 だけではなく我々の生活の中にすでに AI は入り込ん でいる.しかし一方では,蛇口を捻ることができない,

トイレの水を流すことを知らない子どもたちを目にす ることも少なくない.最近では小学校の男子トイレは 自動洗浄機能付きが設置されているところも多いので ある.また,新学習指導要領等には,自然環境におい ても,世界情勢においても不測の事態に備え,2030年 頃の社会までを見据えながら,将来を担う子どもたち の姿を考えることの重要性が明記されている.これら は,子どもたちが社会の変化を人間としての感性を働 かせて,より豊かなものにすることを期待して示され ている記述である.

 豊かな心や人間性を育んでいく観点からは,子ども たちが様々な体験活動を通して,生命の有限性や自然 の大切さ,自分の価値を認識しつつ他者と協働するこ との重要性などを実感し理解できるようにする機会や,

文化芸術を体験して感性を高めたりする機会が限られ ているとの指摘に応じ,従来の活動の中で「主体的 ・ 対話的で深い学び(「アクティブ ・ ラーニング」の定義 としての表記)の視点をもって実施することが求めら れている.「育みたい資質 ・ 能力」に示されている①

「知識及び技能」は,主体的で協働的な問題発見 ・ 解決

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の場面において活用することで定着し構造化され,②

「思考力,判断力,表現力等」は,あらゆる経験や体験 を通して養われていき,実生活に関連した課題などを 通して,③「学びの向かう力 ・ 人間性等」が喚起され る.つまり,子どもたちが主体的 ・ 対話的に深く学ん でいくことにより,学習内容を人生や社会の在り方と 結びつけて深く理解し,将来に必要な資質 ・ 能力を身 につけ,生涯に亘り能動的に学び続けることができる 学びの質に着目して,授業改善の取り組みを活性化さ せていくことが今回の改訂の目指すところである.そ して,この一連の学びの流れが「主体的 ・ 対話的で深 い学び」に期待されていることであろう.

 また,この改訂においては,指導の目的を「何を知っ ているか」にとどまらず「何ができるようになるのか」

に置いている.つまり,子どもが知っていることや新 しく知り得たことを使いどのように社会や世界と関わ り,より良い人生を送るかを重視している.そのため に教師は「何を学ぶか」を考え,そして「どのように 学ぶのか」「実施するためには何が必要か」を工夫して いく「カリキュラム ・ マネージメント」を充実させ実 施することが示されている.では,音楽的活動に関し てはどのように改訂されているのだろうか.

2 .2 .幼稚園教育要領と保育所保育指針「表現」の改 訂点

 今回改訂された保育所保育指針,幼稚園教育要領等 には「乳幼児の終わりまでに育ってほしい姿」が明確 化されている.これに関して保育所保育指針では,「乳 児 ・ 1歳以上3歳未満児の保育の記載の充実」「保育所 保育における幼児教育の積極的な位置づけ」「職員の資 質 ・ 専門性の向上」などの方向性が打ち出されている7) 今回の改訂において,1歳以上3歳未満児の「(イ)内 容」については,「音楽,リズムやそれに合わせた体の 動きを楽しむ」,「歌を歌ったり,簡単な手遊びや全身 を使う遊びを楽しんだりする」ことが記されており,

3歳児以上の「(イ)内容」と「(ウ)内容の取扱い」

に関しては「感じたこと,考えたことなどを音や動き などで表現(後略)」,「音楽に親しみ,歌を歌ったり,

簡単なリズム楽器を使ったりする楽しさを味わう」な ど,前回同様に幼稚園教育要領と同じ項目が記載され ている.つまり,保育所と幼稚園との差異なく,子ど もの年齢 ・ 発達に応じた「表現」活動をすることが謳 われており,保育士にもより豊かな表現活動における ピアノの技術の習得が求められる動向にあるといえる

だろう.

 幼稚園教育要領「表現」領域の「1ねらい」と「2 内容」に関しては,今までとの変更事項はない.しか し,改訂版の「3内容の取扱い」には,具体的な内容 が加筆されている.現行の教育要領には「⑴豊かな感 性は,自然などの身近な環境と十分にかかわる中で美 しいもの,優れたもの,心を動かす出来事などに出会 い,そこから得た感動を他の幼児や教師と共有し,様々 に表現することなどを通して養われるようにすること」

と記されている.これに対し,改訂版による上記の下 線部分は,「その際,風の音や雨の音,身近にある草や 花の形や色など自然の中にある音,形,色などに気付 くようにすること」と改正されている.さらに「内容 の取扱い」の⑶では,自ら様々な表現を楽しみ,表現 する意欲を十分に発揮させるために「遊具や用具など を整える」だけでなく,「様々な素材や表現の仕方に親 しむ」(上記の下線は筆者の加筆)ことが付け加えられ ている.これらは,身近な生活の中にあるモノや自然 を介して気づきや興味を促す活動や,子どもが興味を 惹くようなさまざまな表現方法を創意工夫していくこ とが求められていると考えられる.保育所保育指針や 幼稚園教育要領に「感じたこと,考えたことなどを音 や動きなどで表現する」,「音楽,リズムやそれに合わ せた体の動きを楽しむ」とあるように,音楽やリズム による身体の動きを通して,子どもの興味を引き出す,

または子ども自身が発見し,個々に感じる表現を共有 していくことの楽しさを味わう工夫を,常に保育の中 で考え実施していくことが肝要であろう.

 また,「風の音や雨の音,身近にある草や花の形や色 など自然の中にある音」に耳を傾けることは,身近な

「音」への関心を促し,音楽への興味や表現に繋がる第 一歩であり,カナダの作曲家マリー ・ シェーファー

(Schafer,RaymondMurray1933-)によって提唱され たサウンドスケープ(soundscape 音の風景8))の概念に 通じるところがある.傾聴する活動には,人の話を聞 き理解しようとすることや,静粛(静かに集中する時 間)する心地よさなどを感じて行なえるようにする有 用性もある.これらの内容は,音楽を通してあらゆる 楽しい活動の多様性を含んでいるものと思われる.

2 .3 .小学校学習指導要領「音楽科」の改訂の概要  前述したが,音楽科の育成すべき資質 ・ 能力につい ては「知識及び技能」「思考力,判断力,表現力等」

「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱を相互に関連

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させ,一体化させて実施することが示されている.ま た,資質 ・ 能力の育成には「音楽的な見方 ・ 考え方」

を働かせて学習活動に取り組めるようにする必要性が 明示されている.このことにより,新学習指導要領で は,児童が教科としての音楽を学ぶ意味が明確化され ている.今回の目標では以下のように改訂されている.

 ①表現及び鑑賞の活動を通して,②音楽的な見方 ・ 考え方を働かせ,③生活や社会の中の音や音楽と豊 かに関わる資質 ・ 能力を次のとおり育成することを 目指す(①-③,下線は筆者の加筆).

 ⑴ 曲想と音楽の構造などとの関わりについて理解 するとともに,表したい音楽表現をするために必 要な技能を身に付けるようにする.

 ⑵ 音楽表現を工夫することや,音楽を味わって聴 くことができるようにする.

 ⑶ 音楽活動の楽しさを体験することを通して,音 楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育むとと もに,音楽に親しむ態度を養い,豊かな情操を培 う.

 上記の目標の冒頭にある「①表現及び鑑賞の活動を 通して」の意味するところは,児童が生活や社会の中 の音や音楽と豊かに関わる資質 ・ 能力を育成するため に,多様な音楽活動を幅広く体験することの大切さに ある.多様な音楽活動は,歌唱,器楽,音楽づくり,

鑑賞などによって実施される.新学習指導要領では,

このうち歌唱,器楽,音楽づくりは「表現」としてま とめ,「表現」と「鑑賞」の2領域及び〔共通事項〕で 構成されている.

 「②音楽的な見方 ・ 考え方」とは,「音楽に対する感 性を働かせ,音や音楽を形づくっている要素とその働 きの視点で捉え,自己のイメージや感情,生活や文化 などと関連付けること」である.これらは,音楽科の 特質に応じた,物事を捉える視点や考え方であり,音 楽科で学ぶ本質的な意義の中核をなすものと示されて いる.

 また,「③生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる 資質 ・ 能力」を育成することは,児童が音や音楽との 関わりを自ら築き,生活を豊かにしていくことに繫が る音楽科の重要な役割のひとつと規定されている.音 楽科ではこの目標を実現することにより生活や社会の 中で音楽と豊かに関わり,それにより心豊かな生活を 営むことのできる人を育てることを目指しているので ある.さらに,現行の音楽科の成果と課題を踏まえた

小学校音楽科の改訂の基本的な考え方は以下の三点で ある.

・音楽に対する感性を働かせ,他者と協働しながら,

音楽表現を生み出したり音楽を聴いてそのよさなど を見出したりすることができるよう,内容の改善を 図る.

・音や音楽と自分との関わりを築いていけるよう,生 活や社会の中の音や音楽の働きについての意識を深 める学習の充実を図る.

・我が国や郷土の音楽に親しみ,よさを一層味わうこ とができるよう,和楽器を含む我が国や郷土の音楽 の学習の充実を図る.

 これらを踏まえ,学習内容,学習指導の改善 ・ 充実 については,中央教育審議会答申において,①「知識」

及び「技能」に関する指導内容の明確化,②〔共通事 項〕の指導内容の改善,③言語活動の充実,④「我が 国や郷土の音楽」に関する学習の充実,の4つに纏め られている.

 今回の示す「知識」とは,音符や記号等の知識のみ を指すのもではなく,児童が身体を動かす活動などを 含むような学習過程において,音楽に対する感性を働 かせて感じ取り,理解することを踏まえ,「曲想と音楽 の構造などとの関わりなどを理解する」ことを意味し ている.また,「技能」に関しては,歌唱,器楽,音楽 づくりに伴う技能であり,例えば,自然で無理のない 歌い方や声を合わせて歌う技能を指している.これら の技能は,「思いや意図に合った表現などをする」ため に必要となるものとして位置付けられている.これは,

音楽科における技能が「思考力,判断力,表現力等」

の育成と関わらせて習得できるようにすべき内容であ ることを示している.

 これまで改訂の要点を述べてきたが,新学習指導要 領等における保育士や幼稚園教諭,小学校教諭に求め られるピアノ技能に関する記載はない.ピアノの技術 があることは好ましいが,とりわけ高度な技術は求め られていないのである.しかし,就学前施設では歌は 日々の保育の中で表現領域の重要な部分を担っており,

小学校においても,歌唱や器楽,音楽づくりにおいて,

歌の伴奏,身体表現,アンサンブル等に活用できるよ う最低限のピアノの技術の習得が必要であると考えら れる.そのために,ピアノを上手に弾くことができる 学生には,どのような技能 ・ 能力を求めていけばよい のか,その方向性を導き出したい.

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 そこで,第3節ではリトミックの創始者である J=

ダルクローズの著書から,アマチュアに対する音楽教 育についての見解を通して検討する.J=ダルクローズ は,当時のピアノメソードにおける技術に偏重した伝 統的教育に対して新しいアイデアの視点を持っており,

自身のメソードにもその考えを採り込んでいる.J=ダ ルクローズの音楽教育,ピアノ教育の学習に関する見 解は,現在の保育者養成課程におけるピアノ学習,お よびその指導への手掛かりとなると考えられる.

3 .J =ダルクローズの音楽教育の見解 とピアノ学習経験者に対する課題

3 .1 .J =ダルクローズのアマチュア音楽家に対する 音楽教育の見解

 J=ダルクローズは19世紀後期から20世紀初期にかけ て国際的に活躍したスイスの作曲家 ・ 音楽教育家であ り,音楽を伴った身体運動を通して心身の調和を目指 す音楽教育法リトミックを創案した人物である.リト ミックは,約100年前に考案されたにもかかわらず,現 在もなお我が国において,幼児教育や初等教育に関わ る音楽的活動に表現力や音楽的能力の育成,集中力,

協調性,社会性など広義の教育的有用性をもつ教育法 として,さまざまな教育機関に取り入れられている.

身体を動かす活動等を含むような音楽的活動を行うこ とは,新保育所保育指針や学習指導要領等でも示され ている.以下,J=ダルクローズのピアノ教育に対する 見解をもとに,ピアノ学習経験者が保育 ・ 教育現場に おいて表現や音楽活動の幅を広げていくための学習に ついて検討する.

 J=ダルクローズは当時の技術を偏重する古い音楽教 育を指摘し,公教育における新しい音楽教育の在り方 について論じている9).彼の『音楽院と音楽学校でアマ チュアに対してなされている教育(1905)』の中には,

音楽の専門家(ピアニスト)を目指してはいないが,

ピアノの学習経験が長く,難しい楽曲も弾くことがで きる某氏の子女について,某氏との対話形式の中でそ の見解が示されている(pp.50-67).

 先ず,J=ダルクローズは音楽院(conservatoire)に おけるアマチュアのためのクラスを創設するためには,

才能のある音楽家に使用される従来の指導法ではなく,

アマチュアのための特別な教育を考えるべきであると 考えている.この「アマチュア」という語彙を,現在 の保育士 ・ 幼稚園教諭,小学校教諭を目指す学生と置

き換えて考えることもできるだろう.保育 ・ 教育に関 わる者は,ピアノ技能を含めた音楽的知識や能力に対 して素人であるべきではないが,ピアニストを目指し ているわけでもないからである.彼は,アマチュア音 楽家とは,アマチュアの語源であるラテン語アマタ―

(amator)の動詞アマレ(amare)に由来し,「音楽を 愛する人間」という意味であると述べた上で,将来の アマチュア音楽家は「彼らが愛したいと願う音楽を知 ることが重要である10)」と記している.また,J=ダルク ローズは「アマチュアは先ず音楽を学び,その後続け て専らピアノの演奏を学ぶこと11)」,そして「アマチュア に与えられる教育の基礎は表現法の練習ではなく,考 えを表現する練習でなくてはならない12)」と主張してい る.この記述は我々保育者養成に携わる者に,学習の 方向性の履き違えを気付かせてくれる.我々は,学生 に高度な技巧ではなく「表現」に繋がるような指導方 法を日々苦慮しながら授業を行っている.しかし,ピ アノ実技や弾き歌いの「表現法」を学生に追い求めて いく場合,それは音楽全てに関わるテクニックの熟達 を押し付けていくことになる.これが困難であると,

教師は「模倣」という早道の方法で教授し始める.そ れが問題であろう.保育者 ・ 教育者を目指す学生には,

自主的に「考えを表現する練習」を促していくことが,

今後の指導における重要な課題になると考える.

 J=ダルクローズは,器楽の練習は少なくとも3,4 年はソルフェージュ13)とリズムの教育に先行されるべき であり,その後その教育は器楽の教育と並行して続け ていくこと,つまり,ソルフェージュを徹底的に学ぶ ことの方が,器楽しか練習していない場合より高い技 術が身に付くと記している14).これは彼自身がジュネー ヴの音楽院の学生に試みた結果に基づく記述であろう.

このことに関しては,ピアノ初心者であっても,経験 者であっても変わりはない.上手にピアノが弾ける学 生でも,ソルフェージュの能力が不足していることは 少なくないのである.単に読譜ができ指を動かして満 足しているだけでは,自動演奏ピアノと変わらないこ とが解らない学生もいる.また,ピアノの学習経験が 長いほど,師事した指導者の考え方に支配され易い.

彼は,「何が弾けるのか」に始終し「どう弾くのか」を 詳細に教え込まれた学生は,「音楽を知る」ことや「知 ろうとすること」に意識が至っていないケースも多々 見受けられるとしている.

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3 .2 .J =ダルクローズのピアノ教育に関する見解か らみるピアノ学習経験者への課題

 J=ダルクローズの著書に登場する某氏の子女エレオ ノーレも,約12年間のピアノ学習経験者であり,リス トのラプソディー2番[ハンガリー狂詩曲第2番,

S.244/2]を上手に弾きこなす,音楽院で学ぶ学生であ る.そこで,保育養成におけるピアノ学習経験者の問 題点を検討する手掛かりとして,J=ダルクローズが某 氏に問いかけたエレオノーレの学習経験に関する主な 質問を以下に示す.

 ① 彼女は練習中の作品について,その曲の計画や 構造についても理解して弾いているか.

 ② その曲の転調を理解しているか.彼女の先生は,

そのことを彼女に尋ねたか.

 ③ リストの前に練習していたベートーヴェンのソ ナタ「別れ」は今も弾いているか.

   そして,勉強したベートーヴェンのソナタ以外 の彼の作品を知っているか.

 ④ バスーンとクラリネット,オーボエとフルート の音色の違いを認識できるか.

 ⑤ 家庭の中で,シューマンやグリーグの美しい曲 を迷うことなく初見で演奏できるか.

 ⑥ 合奏による音楽を演奏することはあるか.

 ⑦ 友人の家でピアノを弾く時に,幾つかの和音を 連ねて即興演奏することがあるか.

 ⑧ 友人が歌曲を歌う時に伴奏をすることがあるか.

その時に友人の希望に応じて,好きなように移 調できるか.

 ⑨ 楽譜を所有していない好きなポピュラーソング の旋律を,小さな兄弟のために楽譜を書くこと ができるか.

 ⑩ ダンス音楽(友人を踊らせるためのピアノ)を 演奏する習慣を身に付けているか.

 この質問の最後に上記の質問のまとめとして,J=ダ ルクローズはエレオノーレの父親に次のように問いか けている.

   美しいメロディーを初見で演奏しようと考えな いこと,それを聴き取って伴奏を付けようとしな いこと,去年流行した歌を聴き取って伴奏を付け ようとしないこと,しっかりと練習した曲以外の 曲を弾いて心と耳をリフレッシュしようとしない こと,は残念ではありませんか? 結局,私が今 あなたにお話した,その他のことは全て簡単そう

に見えて,エレオノーレさんにはできないことで はありませんか? 一方では彼女は(中略)リス トのラプソディーを実に難しい曲であるにも関わ らず,上手に演奏することができるのです15)  この問いかけは,彼女のピアノの学習が音楽につい て考えることや,作曲家や作曲のスタイル,作品につ いて理解すること無しに行われてきたことを問題視し ている記述である.この見解は,新学習指導要領の目 標である「⑴曲想と音楽の構造などとの関わりについ て理解するとともに,表したい音楽表現をするために 必要な技能を身に付けるようにする」ことと重なって くる.これは小学生の音楽科に関する目標であるが,

学習を助ける立場の教師はこの目標を理解し習得して いなければならない.逆説的に言えば,これは保育者 養成における学習目標であるともいえよう.また,J=

ダルクローズはエレオノーレに対する歌の伴奏やそれ に伴う即興演奏,アンサンブルの経験の少なさを指摘 している.彼は,学校の仲間とアンサンブルをする機 会を自主的につくることや「歌」を学ぶべきであり,

美しい歌曲などの素敵な音楽を多く聴くことで,本当 の音楽の喜びを知ることが大切であると助言している.

この見解に関しても,新学習指導要領の「⑵音楽表現 を工夫することや,音楽を味わって聴くことができる ようにする」,「⑶音楽活動の楽しさを体験することを 通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育 むとともに,音楽に親しむ態度を養い,豊かな情操を 培う」ことに通じるものと思われる.

 J=ダルクローズは,アマチュアに対する音楽教育改 革はピアノだけではなく,声楽を含むすべての楽器に 適用されるとし,「その改革とはいくつかの練習を含む カリキュラムが組み込まれたもので,その全ての練習 は生徒たちの聴覚と好みを形成し,精神と個人的な感 情を高揚させることを可能にする16)」と述べている.そ の改革のために彼は,以下の学習の提案をしている.

   ほどほどに難しい曲を間違うことなく初見で演 奏することが可能となる楽器の構造に関する知識 を彼らに提供し,同様に演奏技術と作品を解釈す るために必要な,感傷ではなく「感性」を,神経 過敏ではなく「感動」を,ものを打つ音ではなく リズムを与えてくれる技術的で審美的な知識を提 供することです17)

 これまでの見解を,ピアノ学習経験者への保育者養 成課程に関する学習に照合させ総括すると,①「歌」

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を学ぶこと,②仲間とアンサンブルをすること(グルー プによる学習,歌や合唱曲の伴奏,合奏等の学習),③ 初見奏や即興的な演奏の経験,④簡単な歌の伴奏づけ や移調の学習,⑤ダンス音楽(遊戯や身体表現等に対 する)の演奏,⑥さまざまな音楽ジャンルへの興味と 知識,が挙げられる.そして,「ほどほどに難しい曲を 間違うことなく」という上記の J=ダルクローズの記 述は,保育者養成課程におけるピアノ指導は,上手に 弾くことのできる学生に対して「より難しい曲」を練 習させることよりも,「ほどほどに難しい曲」を初見で 弾くことができるよう指導することの大切さを示唆し ている.

 現在筆者が担当するクラスで感じていることは,ピ アノを弾くことを得意とする学生が全員「弾き歌い」

が上手であるとは限らないことである.学生が童謡や 唱歌等を人前で「歌う」ことに慣れていないことや,

恥ずかしさもあると思われるが,「歌う」ことへの自信 のなさが見受けられる.また,内面の感情を外側に表 現することが苦手な気質をもつ学生もいる.それぞれ の気質を理解した上で,学生が「歌」を学び,楽しみ,

心の中で曲想をイメージしながら,ピアノを上手く活 用できるようにする学習のプロセスが重要となるだろ う.また,童謡などの伴奏づけや,子どもの声に合わ せた移調などの学習も,ピアノを上手に弾きこなせる 学生への課題であると思われる.そして,重要と思わ れるのは「ダンス音楽の演奏」の学習である.これは,

保育現場で子どもの表現を援助するために,踊りや遊 戯などにおけるピアノ伴奏の習得の重要性を示してい る.その他,身体運動を含む表現活動は保育の中で行 われる機会が多い.子どもの動きに合わせる音楽的活 動には,保育者が弾くピアノの能力が大きく左右され るものと考えられる.

 さらに,弾き歌いにおける創意工夫のひとつとして,

曲のアレンジ力をつけることは,幼稚園などで行われ ることが多いアンサンブルの音楽活動に役立つものと 思われる.実際に保育士試験における「弾き歌い」の 課題では,市販の楽譜によるものだけではなく,添付 楽譜のコードネームを参照して編曲したもの,あるい は移調したものを演奏してもよいことになっている.

これは初心者向けの対応とも考えられるが,凝った編 曲でなくとも自分で考えた伴奏で「弾き歌い」できる ことは,保育 ・ 教育実践で役立つ技能である.保育士 や教師が「ねらい」とする表現活動の中で,自分で子

どもに合った簡単な伴奏や合奏のスコアをつくり,子 どもたちと一緒に音楽を創っていく活動に展開できる ならば,さらに「表現領域」や「音楽科」の時間は楽 しくなるに違いない.これらの実践における自分のス キルの習得については,まだ入学時の学生たちはイメー ジしきれないでおり,気付かずにいる.上記の課題は,

子どもと応対し実施していくイメージや気付きを促し,

関心を抱かせていくように導きをする教師への課題で もある.

4 .ピアノ学習経験者を対象とした学習 法の提案

4 .1 .保育・教育現場の音楽活動における現状と課題  公立の保育所,民間の保育園,幼稚園等で実施され ている音楽的活動は,「表現」領域の中でそれぞれのス タイルで実施されている.保育 ・ 教育の現場で求めら れていることや,その課題を知ることは,保育者養成 課程での学習内容の検討において不可欠であろう.

 音楽的活動における「歌う」ことに関しては,わら べうたや,童謡,手遊び歌などをすること,「音」に関 しては,音や音楽を聴くこと,楽器の演奏や合奏,身 体運動を伴った活動などその範囲は広い.その他には,

劇や読み聞かせ,パネルシアター等で保育者や子ども たちが歌や器楽を用いて参加する場面もある.あらゆ る場面で,ピアノが活用されていることは言うまでも ない.しかし,筆者が居住する地域の公立保育所では,

無伴奏で歌を模唱で子どもに伝え,歌っていることが 今回の聞き取りでわかった.発表会などで合唱や合奏 をする際に限り,ピアノの得意な先生が電子ピアノを 活用しているとのことである.勿論,楽器を使用しな いことには利点がある.先生と子どもが向き合って対 話をしながら,顔を見ながら,先生の声や自分の声を よく聴きながら歌うことができることである.それは 表情やコミュニケーション,傾聴において大切な活動 である.ある保育士からは,前奏も口三味線でテンポ を取り,歌を子どもたちと一緒に歌うのだと聞く.古 い童謡も多いがリズムや歌詞が難しい曲もこなしてお り,全く CD 等は活用していないという.しかし,メ ロディーやリズムをとることが苦手な保育士はいった いどのように歌を伝えているのだろうか.子どもの吸 収力は乾いたスポンジのようであるが故に,保育者養 成における歌および器楽等の音楽的基礎能力の学習や,

保育士に対する継続的な研修の重要性を痛感する.こ

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れは,ピアノを上手に弾くことのできる保育士であっ ても,保育実践にその能力が活かされていない事例で あり,ピアノ学習経験者が更に大学等でピアノを学ぶ 上で,指導者がその学習内容を改めて再考すべき課題 である.

 一方,幼稚園や民間の保育園などでは,身体表現を 含めたさまざまな音楽活動を取り入れているところも 少なくない.近年の少子化の影響もあり,幼稚園では 保護者のニーズに応じてさまざまなサービスが提供さ れており,幼児教育の充実もそのひとつである.音楽 的活動に関しては,リトミックや和太鼓の課内活動,

就学に向けて年長クラスでは鍵盤ハーモニカの指導が 行われている園も多い.このような音楽的活動は担任 ではなく,非常勤講師による「表現」領域のオプショ ンとしてなされている場合がほとんどである.また,

CD による歌の伴奏や家で伴奏を録音した音源を頻繁 に活用しているところもある.このような園では,ピ アノが得意な保育者が常勤していたとしても,学年全 体のバランスを考えて,日常の保育で発揮されていな い現場の実状もあり,他方ではピアノの得意な先生に 行事ごとに,子どもと保護者にピアノ演奏を聴いても らい好評を得ている園もある.つまり,どのような職 場であっても,子どもの豊かな生活に沿って自分の役 割を考え,より良い実践をしていく必要がある.

 榎内 ・ 立本ほか(201018))は,保育現場における音楽 実践の調査において「どのような音楽活動を最も行う か」の質問に対しては「歌唱」という回答が49.7%で 最も多く,続いて「手遊び」24.6%,「ダンス ・ リト ミック」が4.7%であったことを記している.また「最 近の保育現場で子どもが好んでいる曲」の調査では162 曲が挙げられた内,最も多かった曲は「さんぽ」,また

「ぼくのミックスジュース」「にじ」「世界中の子どもた ちが」等のほか,「アンパンマンのマーチ」「勇気100%」

等に代表されるテレビアニメの音楽をはじめ,「ホ!

ホ!ホ!」など,乳幼児の気持ちに密着した曲が子ど もたちに好まれていることを検証している.また,長 野(200919))は,唱歌や「ぞうさん」「世界中の子どもた ちが」などの創作童謡に加え,テレビや映画のアニメ 主題歌,CMソング,Jポップなどの歌謡曲,英語の 歌詞の歌なども今日では当たり前のように歌われてお り,CD やテレビの子ども番組等のメディアを通じて 直接子どもに伝えられていると同時に,保育士,幼稚 園教諭,あるいは両者の養成課程のための教材として

編纂,編曲された楽譜を通じて,歌唱教育の現場に取 り入れられているのが一般的であると述べている.

 このように,最近では発表会や卒園式などではさま ざまな歌や合奏を行っており,また年々行事で歌う曲 も変化をみせている.某幼稚園ではクリスマス会に

『ウィンターワンダーランド(winter Wonderland)』

を歌い,某保育園の学芸会ではエルガーの『威風堂々』

を難しい冒頭から合奏を行っている.最近の卒園式で は『にじ』,『ね』,『ありがとうの花』など,在学中の 学生があまり歌ったことのない曲も主流化している.

長野(2009)は,保育士であった中川ひろたかと新沢 としひことの共作による「世界中の子どもたちが」を 子どもの好む曲として挙げているが,作詞をした新沢 としひこ自身,「僕の一番の代表作は,長らく『世界中 の子どもたちが』でした.けれど近年は,この歌『に じ』になりつつあります20)」と述べている.現場での選 曲は年ごとに,また流行をもって変化し続けると思わ れるが,日常の保育の中では童謡等の定番曲(例えば

『かえるのうた』等)を歌う一方で,行事では新しい曲 や時代に合った曲,保護者と子どもに馴染みのある曲,

感動を呼ぶような曲などが選曲されている.

 これらの新しい曲の伴奏を常に練習していくことは,

多忙な保育者には容易なことではなく,CD を活用す ればピアノ伴奏は不要になる.しかし,保育者がピア ノ伴奏して歌を歌い,さまざまな曲を聴かせることは,

子どもにとって音や音楽への大きな関心に繋がるもの と思われる.また,先生は子どもたちの身近な憧れの 存在であり,彼らは,家庭で歌を歌い,ピアノを演奏 する真似をし,自分で歌いながら踊って見せたりする こともある.ピアノを得意とする保育者が,園全体と 協調しながら,子どもたちの活動に時には陰の力にな り,時にはその能力を発揮して,よりよい表現活動を 実践できるように保育者養成のための学習方法を考え ていく必要がある.とりわけ,ピアノが得意な保育者 にとって「陰の力」となることは,子どもに対しても,

園の同僚や園全体においても有益なことであろう.そ れは,前述した J=ダルクローズの見解にあったよう に,保育者が歌や合奏,踊り,劇などに使用する曲の 選曲やその曲に付けるさまざまな伴奏の編曲やアレン ジ,移調などができるようにすることであると考える.

 一方,小学校では第3学年,または第1学年から音 楽専科の講師が音楽科の授業を受け持つ地域もあり,

教員養成における「音楽科」や「ピアノ実技 ・ 弾き歌

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い」の習得に関心をもたない,あるいは必要を感じて いない学生も少なくない.しかし,とりわけ低学年の

「音楽」では,日々担任を務める教師が「音楽」の授業 を行う意味は大きい.それは,共に体験することで児 童と教師のコミュニケーションを図ることや,他教科 との横断的な学習を把握することができるからである.

ピアノが得意な教師であっても,その職務の忙しさか ら「今月の歌(学活等で歌う)」の伴奏に CD を活用し ている現状がある.歌の小冊子に付いているコードネー ムを初見で簡単に弾くことや即興的な伴奏付けができ れば教師自身の負担軽減にもなり,子どもの音楽への 関心を促すことや,ライブ感の楽しさを味わうことが できるのではないだろうか.

 小学校の「音楽」は新学習指導要領に示されている ように,「主体的 ・ 対話的で深い学び」つまり,体験に より考えたり感じたりすることに重きを置いている.

現行の教科書にも,既にリズム音符(ドン ・ カカ,わっ しょい,みこしだ,等のオノマトペ付きリズムパター ン)を組み合わせて,自分たちで好きなリズムをつく ることや,続きのメロディーをつくって歌うことなど,

簡単な創作が盛り込まれている.また,2年生の教科 書には「歌詞に合う身振りを考えてからだを動かしな がら拍にのって歌いましょう」という身振りを考えて 歌うことも取り入れられている.子どもたちの考えに 共感し,そのオリジナルのリズム,メロディー,動き に合わせた授業展開をするには,教師自身がメロディー 楽器(ピアノ)で追従することも必要であろう.ピア ノが苦手な教師には他の方法による創意工夫があって 然るべきであるが,ピアノが上手い教師であっても,

即興的にピアノでフォローするには,さまざまな経験 や練習が必要である.

 ピアノ学習経験者の学生には音楽経験の豊かな保育 者 ・ 教師を目指して,子どもたちと一緒に自分たちで 考えて行う面白さ,美しいと感じる聴く耳を養うこと ができる学習内容をどのように指導者が提供していく かが課題であり,また,その学習を授業内で,ピアノ 初心者とともに行っていく重要性があると考える.ク ラスの学生が共に学び合うことは,それぞれの知識や 技術を共有し,意見を交換し認め合う中で,子どもの 保育 ・ 教育について研究していく意識改革の第一歩に なると思われる.次節では,ピアノ学習経験者の学生 に対する学習内容の提案と,ピアノを活用した音楽活 動の有効性を考えたい.

4 .2 .ピアノ学習経験者を対象とした指導の提案:

保育現場でピアノの活用場面をつくる

 ピアノ学習経験者とは,ピアノを習った,または独 学で学んだことのある者を指しているが,本学におい て,保育者養成課程で学ぶ学生の入学時のピアノ未経 験者,およびピアノ初心者の人数は約70%以上,入学 年度によってはその大部分を占めることもある.その 内,ピアノ初心者はピアノの経験者であるともいえる が,そのほとんどは数年間のピアノ学習経験があるだ けで,長期間弾いていない学生の場合,ピアノの技術 や音楽に関する知識は不正確である.従って,ピアノ 学習経験者は,非常に優れたピアノの知識 ・ 技術を持 つ学生から,未経験者と同じレベルである学生まで,

その習熟度は一定していない.入学時からピアノを習 い始めた学生や,ピアノは未経験であるが吹奏楽部や 合唱部に入部していた学生が,その熱意や音楽の基礎 力によって上達していく場合もある.つまり,経験年 数では計り知れないのである.

 本稿では「ピアノ学習経験者」を対象に進めてきた が,ショパンやベートーヴェンを弾く学生でも,音楽 全般の知識 ・ 能力が初心者と変わらない場合があるこ とは既に前述した通りである.これらの実状を踏まえ て,ピアノの学習経験がある学生,ある程度上手に弾 くことのできる学生への問題点を補足する課題への対 策,およびその可能性を見据えた学習方法を考えたい.

その具体的な学習については,第3節で示した J=ダ ルクローズのアマチュア音楽家に対する音楽教育の見 解から導き出された課題をもとに検討する.それは以 下の6つの課題である.

 ①歌を学ぶこと,②仲間とアンサンブルをすること

(グループによる学習,歌や合唱曲の伴奏,合奏等の学 習),③初見奏や即興的な演奏の経験,④簡単な歌の伴 奏づけや移調の学習,⑤ダンス音楽(遊戯や身体表現 等に対する)の演奏,⑥さまざまな音楽ジャンルへの 興味と知識.

 ①「歌を学ぶこと」は,J=ダルクローズが述べてい るように,先ず学ぶべき重要な課題である.それはソ ルフェージュの能力を習得する上で基礎となるもので あり,保育 ・ 教育の実践に直結する音楽的活動に欠か せないものだからである.矢内 ・ 古市(201521))は,保 育者養成におけるソルフェージュ教育は音楽力を育成 する基盤であるが,多様な音楽的世界を考慮した上で,

子どもの生活の中で育まれなければならないとし,拍

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や言葉を根幹においたリズム教育の重要性について述 べている.このように,ソルフェージュの学習は,歌 う ・ 読譜 ・ 聴取力 ・ リズム ・ 表現など総合的な音楽の 基礎訓練であるが,専門家が習得するための学習過程 をそのまま「弾き歌い ・ ピアノ実技」に関する授業で 行うには,学生に学習の負担を感じさせるとともに,

授業時間も十分ではない.そこで,本稿では実践で用 いられる歌を活用し,その中で重要かつ必要な知識 ・ 能力を学生が習得できるように学習を進めていくこと を提案するものである.このような「歌う」ことを学 習する際には,次のような学習要素が含まれている.

 1)読譜の正確性,観察力の学習  2)拍子,リズム,音程の把握

 3)歌詞の意味やメロディーとの関係についての学

 4)発声と表現についての学習(順番と重要性との 関係はない)

 「1)読譜の正確性,観察力の学習」は,丁寧によく 楽譜を観察することである.譜読みが早い者ほど,曖 昧な見方をすることで間違いを起こすこともあり,曲 の記憶に基づいて音やリズム,歌詞等を勘違いするこ とも少なくない.とくに休符を正しく読み取ることは,

幼児や低学年生がまだ息が長く続かないことに対する 息継ぎへの考慮や,フレーズに注視することにおいて 大切である.音が見えない部分ほど,大事な部分であ る.

 「2)拍子,リズム,音程の把握」については,歌う 際に拍子やリズム,音程をしっかりと意識できるよう に学習することである.例えば,第1学年の歌唱共通 教材に指定されている『うみ』は3拍子,『かたつむ り』は2拍子の曲であり,両曲の拍子の違いを2人組 で手合わせしながら歌うことも,その差異の感覚を把 握するための練習として効果的である.とくに2拍子 は,次の1拍目がすぐ来るためにテンポが速くなり易 いので,『かたつむり』のもつ長閑さが損なわれないよ う留意したい.また,歌のリズムは歌詞を伴っている ために,単に機械的な正確さで歌うだけでは不十分で ある.ニュアンスや抑揚をつけて歌うことで,ピアノ 伴奏にも表現力がつくのである.子どもとの指導を想 定して,『うみ』をゆっくり平泳ぎしながら歌うのと,

速くクロールしながら歌うのとではどちらが曲に合っ ているか,歌い易いかなど,動きを伴って歌う試みは 実践的であり,学生自身が実感できる方法のひとつで

あろう.そして,歌唱のみを学習することは,自分の 声のコントロール(音程やリズム等)を自身で調整さ せていくためのよい練習になる.現在の学生はスマー トフォン等を所持していることも多いので,その録音 ・ 録画機能を使用した学習および自習も有用性がある.

自分の歌を客観的に聴くことは,教師からの指摘より 効果的なこともある.

 「3)歌詞の意味やメロディーとの関係についての学 習」は重要な学習である.歌詞は歌の根幹をなす要素 だからである.歌詞の意味を理解することは,メロ ディーの構造や曲想を理解することであり,曲想に合っ た歌い方やニュアンスの付け方を考える大切な学習で もある.これは「4)発声と表現についての学習」と 関連付けた学習が考えられる.正しい発声法の指導も なされるべきではあるが,幼児や児童に歌詞の内容が はっきりと伝わるような発音や,曲想に合った美しい 声を出すことを心掛けることが肝要であろう.

 学生が歌うことが好きにならなければ,子どもたち に歌う楽しさは伝わらない.J=ダルクローズが「演奏 技術と作品を解釈するために必要な,感傷ではなく「感 性」を,神経過敏ではなく「感動」を,ものを打つ音 ではなくリズムを,与えてくれる技術的で審美的な知 識を提供すること22)」と述べている通り,豊かな感性や 感動,リズム感をもって「歌う」ことから「音楽を知 る」ことへの関心を呼び起す学習を指導者は知るべき である.

 ②「仲間とアンサンブルをすること(グループによ る学習,歌や合唱曲の伴奏,合奏等の学習)」,③「初 見奏や即興的な演奏の経験」,④「簡単な歌の伴奏づけ や移調の学習」に関しては,学生の自主的な学習への 導きや,保育 ・ 教育実践での活用に対応するものであ る.

 中村(201423))は,ピアノ実技授業においてグループ レッスンすることにより,曲想の変化に伴った表現の 工夫が構築されたことや,他者との対話をすることで 他者の歌詞に対する気づきを取り入れた表現の工夫に 意識が向いたと述べている.このように,グループ活 動することにより,弾き歌いする教師と歌を歌う生徒 になり,実践さながらの授業をすることは効果的な学 習方法である.詳細にイメージと曲想について理解が でき,自分のペースで弾くことができないことや,歌 の流れを止めないこと,仲間と一緒に学ぶことの楽し さなどの経験が,実践で活かされるからである.ピア

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