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北東北3県の産業構造の変化と地域企業の経営戦略に関する研究

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(1)

1.はじめに

 青森県,岩手県,秋田県で構成される北東北3県は,

地理的に近接していることから,古くから人的,文化的,

さらには経済的に緊密な交流が行われてきた。

 例えば,広範な田園地帯を抱えることから農林水産業,

その農林水産品を原材料とする飲食料品産業や,地域内 に多くの生産拠点が立地している電子産業などは,北東 北が持つ一般的なイメージとして当該地域に共通する産 業とみなされてきた。

 しかし,リーマンショックに端を発した世界的な経済 停滞,貿易の自由化,為替相場の不安定化,中国をはじ めとするアジア諸国との競争激化はわが国にも深刻な影 響を与え,その結果,域内のさまざまな産業が生産額の 縮小,生産拠点の海外移転を余儀なくされている。

 本稿では,このような現状をふまえ,筆者の一人であ る臼木が以前に行った,岩手県,宮城県における主要産 業の牽引力に関する研究(臼木[2017])を先行研究と して,私たち秋田の産業との関係が深い北東北3県の産 業構造を分析した。

 特に当該地域の経済を牽引する主要産業として,飲食

料品産業,電子産業,情報通信産業(以下主要3産業)

の3つの産業に注目し,その現状と課題を検証し,今後 の当該域の企業がとるべき戦略について提案を行う。

 具体的には,青森県,岩手県,秋田県を対象に,北東 北3県の産業連関表を用いて,主要3産業の牽引力を分 析するとともに,当該分野の地域企業がとるべき戦略に ついて検討を行った。

2.北東北3県の主要産業の現状とこれまでの議論  平成 27(2015)年度県民経済計算により,北東北3 県の産業別生産額(名目)の構成比をみると,食料品製 造業(飲食料品産業)では,青森県 2.5%,岩手県 2.5%,

秋田県 1.5%,電子部品・デバイス製造業(電子部品産業)

では,青森県 0.9%,岩手県 1.5%,秋田県 4.0%,情報 通信産業では,青森県 2.6%,岩手県 2.6%,秋田県 2.6% となっている。

 これら3つの産業で県内総生産の約1割を構成してお り,数字の上からも他の産業よりも優位な占有率である ことから,本稿ではこの3産業を当該地域の主要産業と 位置付ける。1)

北東北3県の産業構造の変化と地域企業の経営戦略に関する研究

臼 木 智 昭 伊 藤 慎 一

A Study on Changing Industrial Structure and Management Strategy of Regional Companies in Northern area of Tohoku Japan

USUKI, Tomoaki ITO, Shinich

Abstract

  The main industries of Northern area of Tohoku Japan are agriculture and electronic components. However, the regional economy suffered from a Lehman shock problem and the economy went bad. In this paper, we studied on the industrial structure in Northern area of Tohoku Japan with Input-Output analysis. We also propose a strategy to restore the economy. The main industries of Northern area of Tohoku Japan were food, electronic parts, and information communication. For these industries to continue to grow, a correct strategy are necessary. For the food industry to grow, it is necessary to brand it and raise added value more. For the electronic components industry to grow, it is necessary not to leave the decision only to enterprises but to support the prefecture administration. For the information and communications industry to grow, it is necessary to cultivate specialized human resources. In the future, it is important that Northern area of Tohoku Japan acquire demand outside the region. Northern area of Tohoku Japan must actively enter the fields where growth can be expected, and the regional economy will be revitalized through strategic efforts.

Key Words : Regional companies. Management strategy. Input-Output Analysis. Northern area of Tohoku Japan.

(2)

 当該地域の飲食料品産業は,当該地域内で産出される 農林水産品の加工や特産品の製造など,「地場産業」と して,長期にわたり地域経済を支えてきた産業といえる。

 一方,電子部品産業は,当該地域においてその集積は 高く,大手メーカーの生産拠点に加えて,それらとの取 引を行う地域企業が数多く立地している。

 しかし,近年の動向を見ると生産拠点の海外移転に見 舞われ,当該地域内の生産拠点が縮小・閉鎖される事態 も生じており,各県とも産業構造が変化しつつあると考 えられる。2)

 このように特定産業が地域経済に及ぼす影響を把握す るには,産業連関表の活用が有効である。東北において も例外ではなく,産業連関表から地域経済の変化を把握 する取り組みが行われている。

 例えば,山家(1992)は,東北地域が食品工業,電気 機械,自動車関連と産業集積が多様化する状況について,

東北地域産業連関表を用いて,自動車関連産業の設備投 資が地域経済へ及ぼす影響について分析を行っている。

 また,七十七銀行(2009)は,セントラル自動車株式 会社(現トヨタ自動車東日本株式会社)とパナソニック EVエナジー株式会社(現プライムアースEVエナジー 株式会社)が相次いで宮城県に生産拠点を建設すること 受けて,宮城県産業連関表を用いた分析を行っている。

 東北活性化研究センター(2012)は,東北地域県間産 業連関表を用いて,東北地域内における産業ネットワー クを分析している。

 それによれば,「東北を代表する牽引産業は「電気機 械」」,「波及が大きいのは「飲食料品」」と指摘している

(東北活性化研究センター[2012],p.3)。3)

 さらに,日本銀行秋田支店(2017)は,秋田県産業連 関表による分析により,地域の人口減少進む状況におい ては,域外市場産業である製造業の育成・強化の重要性 を指摘し,秋田県では「電子部品を中心とした産業群」

と「1次産品加工業種群」を対象とすべきであると提言 している。4)

 以前臼木(2017)は,これらの先行研究の成果を踏ま えて,自動車関連産業の集積が進んでいる,宮城県と岩 手県を対象に,両県の産業連関表を用いて,主要産業の 牽引力を分析するとともに,両県の地域企業がとるべき 戦略について研究を行った。

 それによれば,岩手県,宮城県において飲食料品産業,

電気・電子産業,輸送機械産業は,地域経済に対して牽 引力を有していることが明らかになった。

3.産業連関表から見た北東北3県の主要産業の状況  そこで本稿では,地理的にも近接し,産業構造も類似 している,北東北3県の産業連関表を用いて,主要産業

が地域経済に及ぼす影響について分析を行う。

 本稿で用いるデータは,「平成 23(2011)年青森県産 業連関表(40 部門)」及び「平成 17(2005)年青森県産 業連関表(37 部門)」,「平成 23(2011)年岩手県産業連 関表(36 部門)」及び「平成 17(2005)年岩手県産業連 関表(35 部門)」,「平成 23(2011)年秋田県産業連関表

(39 部門)」及び「平成 17(2005)年秋田県産業連関表(36 部門)」である。5)

 各県の平成 23(2011)年産業連関表を用いて,それ ぞれ飲食料品産業,電子部品産業,情報通信産業をピッ クアップし,産業別の生産額を比較する(図表1)。

 まず,青森県の飲食料品産業は 391,829 百万円(県内 生産額に占める構成比 5.1%),電子部品産業は 81,407 百万円(同 1.1%),情報通信産業は 253,109 百万円(同 3.3%)となっている。

 一方,岩手県では,飲食料品産業は 336,125 百万円(県 内 生 産 額 に 占 め る 構 成 比 4.3%), 電 子 部 品 産 業 は 242,149 百万円(同 3.1%),情報通信産業 221,365 百万 円(同 2.8%)となっている。

 また,秋田県では,飲食料品産業は 162,060 百万円(県 内 生 産 額 に 占 め る 構 成 比 2.8%), 電 子 部 品 産 業 は 図表1 産業連関表でみた秋田県の主要産業の状況

(3)

291,609 百万円(同 5.1%),情報通信産業 175,457 百万 円(同 3.1%)となっている。

 各県ともに主要3産業は,いずれも生産額の上位を占 めはているが,全般的にみると対平成 17(2005)年対 比で減少傾向にあることがわかる。

 とりわけ,電子部品産業の減少幅が極端に大きい状況 にあり,青森県では-28.6%,岩手県では-27.8%と 30% 近い減少,秋田県では-44.9%とほぼ半減している状況 にあり,産業構造の大きな変化に見舞われたことを示唆 している。

 続いて,中間投入率と粗付加価値率に注目する。

 中間投入とは「各産業の生産過程で原材料などの経費 として投入される費用」のことで,中間投入率は「生産 額における中間投入の割合」を示している。

 また,粗付加価値とは「各産業の生産活動によって,

新たに生み出された価値」のことで,雇用者所得や営業 余剰・家計外消費支出などで構成されており,粗付加価 値率は「生産額における粗付加価値の割合」を示してい る。

 つまり,「粗付加価値率=1−中間投入率」という関 係にあり,中間投入率(当該産業の総生産額に占める製 造過程での原材料投入などの経費割合)が大きければ,

粗付加価値率が低下するという関係になる。

 青森県の飲食料品産業は中間投入率 76.9%,粗付加価 値率 23.1%,電子部品産業は中間投入率 59.6%,粗付加 価値率 40.4%,情報通信産業は中間投入率 42.1%,粗付 加価値率 57.9%である。

 岩手県の飲食料品産業は中間投入率 68.3%,粗付加価 値率 31.7%,電子部品産業は中間投入率 71.4%,粗付加 価値率 28.6%,情報通信産業は中間投入率 47.6%,粗付 加価値率 52.4%である。

 秋田県の飲食料品産業は中間投入率 74.3%,粗付加価 値率 25.7%,電子部品産業は中間投入率 67.7%,粗付加 価値率 32.3%,情報通信産業は中間投入率 45.8%,粗付 加価値率 54.2%である。

 各県ともに情報通信産業の粗付加価値率が高いこと,

逆に飲食料品産業及び電子部品産業では中間投入率が高 く粗付加価値率が低いことが注目される。

 続いて,県際収支に注目する。

 県際収支とは「各産業の移輸出額と移輸入額の差額」

であり,これがプラスであれば当該産業における域外取 引はプラスということになる。

 青森県の飲食料品産業は -23,882 百万円,電子部品産 業は 28,236 百万円,情報通信産業は -112,212 百万円と なっている。

 岩手県の飲食料品産業は -55,206 百万円,電子部品産 業は 129,693 百万円,情報通信産業は -131,062 百万円で

ある。

 秋田県の飲食料品産業は -123,292 百万円,電子部品産 業は 183,427 百万円,情報通信産業は -145,194 百万円と なっている。

 各両県ともに飲食料品産業及び情報通信産業の県際収 支はマイナス,電子部品産業はプラスとなっている。

 これまでの分析から,以下のような点を指摘できる。

①  飲食料品産業は,粗付加価値率が高く(中間投入率 が低く)なっている。これは,農林水産品やその加 工品を原材料としており,その多くを地元や近隣県 から廉価に購入することが可能であるためと推察さ れる。よって地域経済(雇用者所得・営業余剰)へ の寄与が高いと考えられる。

②  電子部品産業は,過去の産業集積が反映され,県際 収支が総じて大幅なプラスとなっていることから,

域外取引の面で地域経済に大きく貢献していると判 断できる。

③  情報通信産業は,移輸入が大きいものの,粗付加価 値率が相対的に高く,地域経済に対する寄与は大き いと推測される。

4.主要3産業の牽引力に関する分析

 前節では,北東北3県における主要3産業の産業構造 上の位置付けについて,産業連関表により概観した。

 続いて本節では,主要3産業の「牽引力」について,

産業連関表により検証を行う。

 財団法人東北活性化研究センター(2012)は,牽引産 業とは「域外に対して競争力があり,かつ域内産業に対 して裾野の広い波及をもたらす産業」と定義しており,

本稿でもそれにならうこととしたい(財団法人東北活性 化研究センター[2012],p.2)。6)

 まず,「域内産業に対して裾野の広い波及をもたらす 産業」であることを検証するため,逆行列係数を確認す る。

 逆行列係数とは,「ある産業の生産が1単位増加した 場合の波及効果(生産誘発効果)」を表したもので,本 稿では当該産業の生産波及効果をみるため「逆行列係数 の列和」を用いる。

 当該産業の逆行列係数の列和が,全産業の平均値(各 県ともに 1.3)を超える産業は,生産波及効果が高いと みることができる(日本銀秋田支店[2017],p.8)。

 飲食料品産業は青森県 1.5,岩手県 1.6,秋田県 1.6,

電子部品産業は青森県 1.3,岩手県 1.3,秋田県 1.4,情 報通信産業は青森県 1.3,岩手県 1.5,秋田県 1.4 と,各 県で平均以上となっている(図表1)。

 さらに「域外に対する競争力」を検証するため,移輸 出率を確認する。

(4)

 移輸出とは,「県内で生産された財やサービスが,国 外や県外でどのくらいの需要(販売)があったのかを示 すもの」であり,移輸出率とは当該部門の移輸出額を県 内生産額で割ったもので,「50%を超えていれば競争力 が高い」と判断できる(日本銀行秋田支店[2017],p.8)。

 飲食料品産業は青森県 67.4%,岩手県 69.2%,秋田県 53.5%,電子部品産業は青森県 77.9%,岩手県 96.6%,秋 田県 85.5% と,各県で 50%を超過している(図表1)。

 一方,情報通信産業は青森県 20.5%,岩手県 0.5%,秋 田県 0.2% で,各県ともに極めて低い値を示している。(図 表1)

 平成 17 年と平成 23 年の逆行列係数の列和を横軸に,

移輸出率を横軸にとり,各県の主要3産業の状況をプ ロットしてみると,各産業の特徴が明確になる。(図表2)

 図表2の上方には域外市場での競争力(移輸出率)が 高い産業として,各県の電子部品産業が位置しており,

これらは「域外市場志向の産業」といえよう。

 さらに,図表2の右上方には,競争力と生産波及がと もに大きい産業として,各県の飲食料品産業が位置して おり,これらは「地域経済への寄与が大きい産業」とし て,地域経済の牽引産業の理想形といえよう。

 他方,図表2の下方には,域外市場での競争力(移輸 出率)は低いものの,生産波及効果が高い水準にある産 業として,各県の情報通信産業が位置している。これら はいわば「域内波及の大きい産業」とみることができる。

 平成 17(2005)年と比較すると,電子部品産業の生

産波及効果の値が総じて縮小傾向にある一方で,情報通 信産業の生産波及効果の値は増加傾向にある状況が明確 となっている。

 先に見たように,各県における電子部品産業の県内生 産額の対平成 17 年増減率が大幅な減少となっている状 況を踏まえれば,北東北3県における電子部品産業の 基幹産業としての地位は低下していると思われる。

 一方で,情報通信産業の県内生産額の対平成 17 年増 減率は,各県でバラつきがみられるものの,生産波及効 果は拡大傾向にあり,当該地域における牽引産業として の地位を強固なものとしつつあると考えられる。

 産業の牽引力をみる際には,生産波及効果に加えて,

その効果が域内にどの程度留まるのか,という点も考慮 する必要がある。

 その点を分析するため,域内歩留率を確認してみたい

(図表3)。

 域内歩留率とは,生産波及効果が当該域内にどの程度 とどまるかを示す割合で,「開放型([I-(I-M)A]-1) 逆行列係数の列和」を「閉鎖型((I-A)-1)逆行列係数 の列和」で割ることにより求められる。

 青森県では飲食料品産業 55.6%,電子部品産業 59.4%,

情報通信産業 76.4%,岩手県では飲食料品産業 61.5%,

電子部品産業 50.1%,情報通信産業 76.7%,秋田県では 飲食料品産業 61.9%,電子部品 55.9%,情報通信産業 74.1% となっている。

 各県ともに,情報通信産業が 70%以上と域内歩留率 図表2 主要産業の牽引力

(5)

と突出しているほか,飲食料品産業,電子部品産業とも に 50% 以上となっており,主要3産業ともに域内にそ の生産波及効果の過半が留まっていると考えられる。

 そこで,生産波及効果の伸長が大きい情報通信産業が,

域内のどの産業に影響を及ぼすかを確認するため,生産 波及効果の内訳をみた。(図表4)

 各県ともに対事業所サービス,運輸・郵便,教育・研 究,不動産,商業などの産業に対して生産波及効果をも たらしていることがわかる。7)

 これらの分析から,以下のような点を指摘できる。

①  北東北3県ともに,飲食料品産業,電子部品産業,

情報通信産業は,地域経済を牽引する力があること が,産業連関表による分析から検証された。

②  飲食料品産業は,粗付加価値率が高いことに加え,

生産波及効果や域内歩留率が大きく,「地域経済へ の寄与が大きい産業」といえる。

③  各県にともに電子部品械産業は,域外市場での競争 力(移輸出率)が高い状況にあり,「域外市場志向 の産業」と位置付けられる。

④  電子部品産業は,県内生産額の大幅な減少に加えて,

粗付加価値率が低く,生産波及効果も低下傾向にあ ることから,基幹産業としての地位が揺らいでいる。

⑤  情報通信産業は生産波及効果が大きく,特に域内歩 留率が高いことから,「域内波及の大きい産業」と 位置付けられる。

⑥  情報通信産業は,生産波及効果が各県ともに対平成 17 年対比で増加し,域内歩留率は7割を上回って おり,その波及効果はサービス産業全般に及んでい ることから,当該産業が新たな基幹産業へと発展す ることが期待される。

5.北東北3県の地域企業がとるべき経営戦略

 これまでみたように,北東北3県において主要3産業 は,地域経済を牽引する基幹産業であることを確認した。

 そこで以下では,主要産業の牽引力を効果的に活かす ために,地域企業はどのような戦略をとるべきかを検討 したい。

 まず飲食料品産業は,生産額構成比,生産波及効果,

域内歩留率は高いものの,粗付加価値率は低く,県際収 支が大幅なマイナスとなっていることから,原材料の域 外調達,域内需要に依存した産業構造となっている。

 今後東北地域では人口減少が予想されており,域内市 場の縮小は避けられないと見込まれることから,地域企 業にとっては域外需要の獲得が喫緊の課題であると考え られる。

 一方,平成 24(2012)年度県民経済計算及び平成 24 年(2012)経済センサスにより,労働生産性(従業者1 人当たりの産業別県内生産額)をみると,飲食料品製造 業(飲食料品産業)は青森県 4,378 千円/人,岩手県 5,330 千円/人,秋田県 4,599 千円/人だが,情報通信産業で は青森県 18,371 千円/人,岩手県 19,717 千円/人,秋 田県 24,153 千円/人と大きな開きがあり,生産性の向 上が課題といえる。

 こうした課題を克服するため,当該産業の地域企業に は,地域独自の資源を活用し,域外市場において競争力 のある商品や,地域ブランドを開発することで,域外需 要の獲得を図る必要がある。

 もちろん,東京をはじめとする大都市圏における事業 展開に際しては,競争力の高い商品の開発に加えて,イ ンターネットによる販売や物流を考慮した,トータルで のマーケティング戦略が重要である。

 北東北3県の地域企業は中小企業が多く,独力での新 規商品の開発やマーケティング活動には限界があると想 定されることから,行政による支援が重要な要素となる と考えられる。

 これらの課題を踏まえれば,地域企業には「域外需要 の獲得」と「高付加価値化」をキーワードに自社の経営 図表3 経済波及効果の域内歩留率

図表4 情報通信産業の経済波及効果の内訳

(6)

資源を見直し,域外市場へ打って出るための経営戦略が 求められる。

 続いて電子部品産業については,各県ともに企業の集 積は高いことから,生産額,粗付加価値率,県際収支額,

生産波及効果は高く,これまで主要産業として地域経済 を牽引してきた。

 特に域外市場での競争力(移輸出率)は極めて高く,

県際収支は大幅なプラスとなっており,「域外需要の獲 得」の面で地域経済に大きく寄与している。

 一方,スマートフォンやタブレットなどの情報通信端 末,ネット家電,コネクテッド・カーなどにみられる自 動車の電装化,次世代自動車の急速な普及により,今後 は電子部品の用途が拡大し,新たなニーズが高まるもの と予想される。

 こうした環境変化に対応するため,地域企業には,高 度なレベルでの製品や技術の開発が求められる。

 しかし,当該産業分野においても,北東北3県の地域 企業は中小企業が多く,独力での新製品・新技術の開発 には限界があることから,大学からの技術移転や行政に よる支援が必要であると考えられる。

 伊藤(2018)は,北東北3県の大学と地方銀行が連携 して地域企業への経営支援を展開する「ネットビックス プラス」の取り組みを取り上げ,地域企業の新商品・新 技術の開発には,地方版 TLO(Technology Licensing Organization,技術移転機関)の役割が重要である点を 指摘している。

 今後関連市場の伸長が期待される電子部品産業におい ては,絶え間なく新技術や新製品の開発が求められると 見込まれることから,学官金の連携による地域一体での 支援は,地域企業の技術開発の上で必要不可欠の要素で あると考えられる。

 これらの課題を踏まえれば,地域企業には「成長が期 待される分野への積極的な展開」をキーワードに経営資 源を見直し,新製品・技術開発に取り組むための経営戦 略が求められる。

 情報通信産業は,移輸出率,生産波及効果,域内歩留 率は高く,対事業所サービス,商業などのサービス業へ の影響力を拡大しながら,当該地域における新たな主要 産業へと発展していくことが期待される。

 しかし,当該産業については,域外市場での競争力(移 輸出率),粗付加価値率はともに低く,県際収支はマイ ナスの状況にある。

 情報産業の内訳(細分類)は,通信,放送,情報サー ビス,インターネット附随サービス,映像・音声・文字 情報制作によって構成されている。

 通信業は,携帯電話事業が包含されており,各県とも にウエイトが大きく,青森県 69.4%,岩手県 55.8%,秋

田県 66.0% となっている。

 一方,情報産業の中核ともいえるソフト開発・販売,

情報処理などを担う情報サービスは,青森県 8.6%,岩 手県 21.7%,秋田県 7.4% とウエイトは低い状況にある。

 同様に,ポータルサイト運営,サーバー管理,アプリ・

音楽配信などを担うインターネット附随サービスは,青 森県 1.9%,岩手県 1.3%,秋田県 2.2% と極めて低いウエ イトとなっている。

 EC(電子商取引)の急速な普及に伴い,企業のマー ケティングや営業戦略の上で,ビックデータの活用が必 須となるなか,それを担う IT 人材の不足が顕在化しつ つある。(経済産業省[2016])

 こうしたボトルネックを回避しつつ,地方圏において 情報産業の振興を図るためには,女性や高齢者の積極な 活用に加えて,大都市圏 IT 企業のサテライトオフィス の誘致や IT ベンチャーの起業支援といった,IT 産業の 育成支援を学官金一体となって戦略的に強化する必要が あると考えられる。

 例えば,北東北3県の大学の知的資源を積極的に活用 しつつ,データサイエンスなどの分野で,高度な IT ス キルを有した人材の育成を強化していくことが求められ るであろう。

 こうした取り組みを推進することで,情報関連産業の 県際収支が改善し,当該産業の牽引力が強化されること が期待される。

むすび

 北東北3県の主要産業である,飲食料品産業,電子部 品産業,情報通信産業は,地域経済に対して牽引力を有 していることが,産業連関表による分析で明らかになっ た。

 しかし,これまで当該地域の基幹産業といわれてきた 電子部品産業は,域外競争力や生産波及効果は高いもの の,域内生産額に占めるシェアが急減しており,その牽 引力に陰りが見える。

 一方,従前より地場産業として当該地域の経済を牽引 してきた飲食料品産業は,域外競争力が高い反面,県際 収支がマイナスで,付加価値率も低い状況にあり,生産 性の向上が課題となっている。

 情報通信産業は,生産波及効果やその域内歩留率が高 く,域内のサービス産業への影響力が大きいが,情報サー ビスやインターネット付随サービスなど,今後成長が期 待される分野での集積を強化することが課題である。

 北東北3県は少子・高齢化により急速に人口減少が進 行すると予想されており,それに伴い域内市場も縮小し ていくものと考えられる。

 北東北3県において主要3産業分野の地域企業が,本

(7)

稿で指摘した課題を改善し,競争力を強化し域外需要の 獲得を図るほか,成長が期待できる分野への積極的な参 入を目指し,戦略的な取組を展開することで,その牽引 力が強化され,地域経済が活性されていくものと期待さ れる。

1)各県の平成 27(2015)年県民経済計算によれば,各県 の県内総生産額(名目)は,青森県 45,402 億円,岩手 県 47,229 億円,秋田県 33,669 億円となっている。

2)例えば,平成 29(2017)年製造業の事業所数の対前年 増加率は,青森県△ 10.4%,岩手県△ 8.8%,秋田県△ 3.7%

と,各県とも減少傾向にある(東北経済産業局[2018],

p.36)。

3)財団法人東北活性化研究センター(2012)では,牽引 産業とは「域外市場で競争優位性を持ち」かつ「域内 での影響力が強く,裾野の広い波及をもたらす産業」

としている(財団法人東北活性化研究センター[2012],

p.2)。

4)日本銀行秋田支店(2017)では,「生産波及効果が高く,

他地域に対して競争力(域外需要)の高い」産業群を その候補としている(日本銀行秋田支店[2017],pp.7- 8)。

5)産業連関表は概ね5年おきに作成されており,先に全 国表が作成された後に,各都道府県表や政令指定都市 表が作成されている。近年の作成年次は,平成 17(2005)

年表,平成 23(2011)年表となっている。

6)東北活性化研究センター(2012)では,域外市場での 競争優位性を示す指標として「東北域外競争力指数(=

(東北域外移輸出−東北域外移輸入)÷生産額× 100)」

を,域内での生産波及力を示す指標として「影響力指数」

を用い,「東北域外競争力指数> 0」でかつ「影響力指 数≧ 1」の産業を「牽引産業」と定義している(東北 活性化研究センター[2012],p.11)。

7)生産波及効果は当該産業に初期時点でもたらされる効 果(直接効果)を含んでいることから,他産業への生 産波及効果を導出する際には直接効果を除く必要があ る。本稿では,「逆行列係数の当該産業の列における各 係数」を,「当該産業の行と列との交点(自交点)を除 いた列和」で割った数値を用いている。

参考文献

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東北経済産業局(2018)『東北経済のポイント 平成 30 年 度版』。

日本銀行秋田支店(2017)「秋田県の労働生産性向上に向け た課題」『金融経済調査シリーズ』。

山家一郎(1992)「東北地域における自動車関連産業 :―設 備投資の動向とその経済波及効果−」『産業連関』第3 巻第2号,pp.59-65。

参考資料

青森県(2010)『平成 17 年青森県産業連関表』。

青森県(2017)『平成 23 年青森県産業連関表』。

秋田県(2010)『平成 17 年秋田県産業連関表』。

秋田県(2018)『平成 23 年秋田県産業連関表』。

岩手県(2010)『平成 17 年岩手県産業連関表』。

岩手県(2016)『平成 23 年岩手県産業連関表』。

参照

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