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ムニンヒサカキの新規個体群発見とその周辺環境

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Academic year: 2021

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(1)

ムニンヒサカキの新規個体群発見とその周辺環境

本 間 裕 子(東京都自然保護員 小笠原諸島母島担当)

川 口 大 朗(東京都自然保護員 小笠原諸島母島担当)

向   哲 嗣(東京都自然保護員 小笠原諸島母島担当)

大 野 恭 子(元東京都自然保護員 小笠原諸島母島担当)

要   約

ムニンヒサカキは小笠原諸島の父島と兄島、母島に分布する小笠原諸島固有種である。

これまで母島では長浜地区の集団が知られるのみだったが、2009 年に庚申塚地区において ムニンヒサカキの新たな自生地を発見した。庚申塚と長浜の個体群・植生調査の結果、庚 申塚個体群は様々なサイズの個体から構成され、成木に偏っていた長浜個体群に比べて更 新状態が良好であることが確認された。

Ⅰ.はじめに

小笠原諸島は日本の南 1000 km に位置する海洋島であり、固有種率が高い島である。植 物においても同様で、分布域が限定され個体数も極めて少ないために、絶滅危惧種に指定 されているものが数多くある。絶滅危惧種の保全を図るためには、各種の個体群における 個体サイズや空間的配置、繁殖状況(開花・結実)や生育環境などの状況を具体的に把握 する必要があるが、そのような調査が十分になされていない種も少なくない。

小笠原固有種のムニンヒサカキ Eurya japonica Thunb.var.boninensis Tuyama は、環境省

レッドデータブックにより絶滅危惧 IA 類(EN)に指定され、かつては父島の東平と兄島

にのみ生育しているとされていた(大井ほか、1998)。しかし、2004 年 7 月に小笠原野生

生物研究会の調査によって、母島の長浜地区にも生育していることが明らかとなった(豊

田、2004) 。さらに筆者らは、2009 年 11 月に母島の庚申塚地区にて新たな個体群を発見し

た。今後の保全対策に必要な基礎情報を提供することを目的として、2010 年に庚申塚と長

浜の両地域において、ムニンヒサカキの個体群および植生調査を実施したので、その結果

を報告する。

(2)

Ⅱ.調査方法

本調査は小笠原諸島母島の北部、庚申塚と長浜地域において、2010 年 10 月から 2011 年 1 月にかけて行った(図 1) 。庚申塚個体群は東向きの谷であり、長浜個体群は西向きの谷に 生育している。

調査方法は両地域の個体群サイズを把握するため、各個体の位置をGPS により記録して、

樹高と幹回りを測定後、結実の有無を確認した。また、個体群の中で離れている 3 個体を 選定し、100 本法により周辺植生の確認を行った。100 本法とは地形や方形区の大きさにと らわれず、林冠構成種の平均的な組成(個体数%)を調べる簡便法であり、均一的な組 成・構造をもつと考えられる林分内を自由に歩き回り、出会う林冠構成個体を重複しない ように合計 100 個体になるまで記録するものである(清水、1994) 。また林冠構成樹種に加 えて、林床植生を把握するため、草本やつる性植物も記録した。

150

30m

幹回り 0〜10cm 幹回り 10.1〜39.9cm 幹回り 40cm以上 100本法対象個体

30m 100

図 1 調査区域とムニンヒサカキ分布状況

(3)

Ⅲ.結果と考察

庚申塚個体群では 60 個体のムニンヒサカキが確認され、その内 3 個体が結実し、稚樹も 2 個体見つかった。60 個体の中で樹高が最も低い個体は 25 cm、最も高い個体は 750 cm で あり、幹回りが最も小さい個体は 0.5 cm、最も大きい個体は 72.5 cmであった(表 1) 。多 くの個体は沢周辺に生育しており、結実個体は斜面中腹部に集中していた(図 1) 。

長浜個体群では 19 個体を確認し、その内 6 個体が結実していたが、実生や稚樹を確認す

樹高 幹回り 樹高 幹回り

(cm) (cm) (cm) (cm)

MH001 400 19.4 MH031 600 38.7

MH002 500 24.4 MH032 450 36.5

MH003 300 13.1 MH033 750 54.0

MH004 120 6.8 MH034 700 35.2

MH005 250 7.8 MH035 750 46.6

MH006 700 34.8 MH036 40 2.5 稚樹

MH007 600 42.3 MH037 150 6.8

MH008 600 35.4 MH038 500 68.9 結実

MH009 500 19.2 MH039 450 55.0 結実

MH010 700 40.8 MH040 650 27.6

MH011 400 26.8 MH041 180 10.4

MH012 500 15.0 MH042 750 45.5 結実

MH013 500 29.8 MH043 25 0.5 稚樹

MH014 700 15.9 MH044 600 40.3

MH015 400 39.4 MH045 600 42.0

MH016 350 8.7 MH046 600 41.1

MH017 350 9.8 MH047 750 67.1

MH018 600 20.8 MH048 600 42.6

MH019 450 18.7 MH049 750 69.3

MH020 500 19.8 MH050 180 44.6

MH021 400 17.2 MH051 750 72.5

MH022 350 12.5 MH052 600 39.2

MH023 500 20.4 MH053 600 33.8

MH024 400 17.8 MH054 450 15.2

MH025 350 14.5 MH055 200 12.0

MH026 500 26.4 MH056 500 34.5

MH027 500 38.1 MH057 650 59.5

MH028 600 34.1 MH058 700 49.5

MH029 600 20.9 MH059 500 9.6

MH030 700 52.5 MH060 550 26.2

備考

個体番号 備考 個体番号

表 1 庚申塚で確認されたムニンヒサカキの個体サイズ

(4)

ることはできなかった。19 個体の中で樹高が最も低い個体は 170 cm 、最も高い個体は 750 cm であり、幹回りが最も小さい個体は 9 cm、最も大きい個体は 203 cm であった(表 2) 。 尾根部に多く生育しており、結実個体も尾根沿いで多く確認することができた(図 1) 。

庚申塚個体群と長浜個体群を比較すると、庚申塚個体群は稚樹から成木まで様々なサイ

樹高 幹回り

(cm) (cm)

MH061 600 69.0

MH062 600 62.0

MH063 700 115.0 結実

MH064 700 203.0

MH065 800 57.0

MH066 350 11.0

MH067 400 16.5

MH068 700 62.0

MH069 700 68.0

MH070 700 51.0 結実

MH071 700 31.0

MH072 650 27.0

MH073 700 81.0 結実

MH074 600 54.0 結実

MH075 600 46.0 結実

MH076 500 29.0

MH077 500 39.5 結実

MH078 350 17.0

MH079 350 9.0

個体番号 備考

表 2 長浜で確認されたムニンヒサカキの個体サイズ

250 200 150 100 50 0

0 200

幹回り(cm)

400 樹高(cm)

600 800 1000

長浜 庚申塚

図 2 ムニンヒサカキのサイズ分布

(5)

個体番号 MH033  MH039  MH059  MH064 MH070 MH077

個体群 庚申塚 庚申塚 庚申塚 長浜 長浜 長浜

海抜(m) 110.0 109.0 151.0 212.0 228.0 237.0

幹回り(cm) 54.0 40.8 9.6 203.0 51.0 39.5

樹高(cm) 750.0 600.0 500.0 700.0 700.0 500.0

林冠被度(%) 0.0 0.0 0.0 30.0 0.0 70.0

調査個体数 101.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

種名(樹木)

ムニンヒサカキ 9% 1% 2% 5% 5% 2%

モクタチバナ 36% 33% 26% 31% 11% 15%

シャリンバイ 6% 14% 10% 5% 13% 7%

シマギョクシンカ 8% 1% 3% 6%

アカギ 10% 1% 4% 5% 1%

ヒメツバキ 7% 8% 9% 4% 18% 11%

シマグワ 2% 7%

ムニンイヌグス 2% 4% 6% 6%

シマモチ 2% 3% 1%

マルハチ 8% 2% 1% 1%

タコノキ 2% 3% 8% 1% 1% 5%

アデクモドキ 2% 9% 7% 5% 7% 10%

アカテツ 3% 1% 1% 7% 1% 4%

オガサワラクチナシ 1% 1% 3%

シマホルトノキ 1% 2% 4% 6% 11%

アコウザンショウ 1% 1% 1%

オガサワラビロウ 6% 8% 3%

ムニンネズミモチ 1% 15% 5% 4%

オオバシロテツ 1% 4%

ヤロード 6% 12% 6% 4% 6%

テリハハマボウ 6% 2% 2%

ハツバキ 2% 2% 2%

オオバシマムラサキ 13% 3%

コブガシ 3% 1%

シロトベラ 1% 5%

シマタイミンタチバナ 1%

オガサワラモクレイシ 1%

タコヅル + + + + + +

トキワサルトリイバラ + +

スゲ属 + + +

ムニンシュスラン + + +

ケホシダ + +

キンモウイノデ + +

タマシダ + + +

 出現頻度

 確認の有無 種名(草本・ツル植物)

表 3 ムニンヒサカキの周辺における群落組成(100 本法に基づく)

(6)

ズの個体が生育していたが、長浜個体群は主に樹高 350 cm以上、幹回り 20 cm 以上の成木 から構成されていた(図 2) 。このことから、庚申塚個体群は長浜個体群よりも順調に更新 がおこなわれていると推察される。長浜個体群では 6 個体の結実が確認されたにもかかわ らず、実生や稚樹が見つからなかったことから、個体の更新が妨げられている可能性があ るが、原因は不明である。

100 本法による周辺樹種調査の結果、モクタチバナやシャリンバイ、ヒメツバキなどの 樹種が庚申塚と長浜の両個体群で多く確認され、長浜ではさらにシダやスゲ類などの草本 が多い傾向が認められた(表 3) 。また、庚申塚には侵略的外来生物であるアカギやシマグ ワが確認され(表 3) 、今後これらの外来樹が拡大することで周囲の樹木組成が変化し、ム ニンヒサカキの生育に影響を及ぼす可能性がある。今回得られた調査結果をもとに、これ らの群落の継続的なモニタリングをおこなう必要がある。

謝辞

本件の調査を行うにあたり、母島の長浜においてのムニンヒサカキ分布状況をご教授頂 きました星善男氏、調査手法に関してご教授頂きました首都大学東京大学院理工学研究科 の可知直毅教授、また本稿作成に関して情報やご意見を頂きました首都大学東京大学院理 工学研究科の加藤英寿助教授に感謝いたします。

文  献

大井哲雄・加藤英寿・邑田仁(1998)小笠原稀産植物(ナガバキブシ、ハザクラキブシ、

ムニンヒサカキ)の分布状況の報告. 小笠原研究年報 22: 51-55.

清水善和(1994)小笠原諸島母島列島属島の植生−乾性低木林の分布・組成・構造を中心 に−. 駒沢地理 30: 17-54.

豊田武司(2004)ムニンヒサカキ,母島長浜谷上流域に新分布. 小笠原野生生物研究会会

報 23: 1.

参照

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