︿論説﹀
世 界 の 男 女 雇 用 平 等 法
高橋保
世界 の男女雇用 平等 法
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はしがき
一︑世界の男女雇用平等法の社会的意義
二︑世界の男女雇用平等法の成立の経緯
三︑世界の男女雇用平等法の特異性
四︑世界の男女雇用平等法の比較検討
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6五︑世界の男女雇用平等法の立法的課題
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4 5
アメリカー雇用機会平等法イギリスー性差別禁止法
イタリアー男女同一待遇法
西ドイツー男女均等待遇法
フランスー男女平等法
カナダーカナダ人権法
差別行為
差別主体救済機関
救済措置実効性の確保
お わ り に
以上はしがき
本稿は︑一九八三年十二月十五日に行われた創価大学法学部学術講演会﹁男女雇用平等法の今日的状況﹂
世界の男女雇用平等法をピック・アップし︑それに加筆︑補正し発表したものである︒
ここでとりあげた世界の男女雇用平等法は︑
‑ ︑
2 ︑
3 ︑
4 ︑
5 ︑
6 ︑
アメリカ⊥雇用機会平等法イギリスー性差別禁止法
イタリアー男女同一待遇法
西ドイツー男女均等待遇法
フランスー男女平等法
カナダーカナダ人権法
の う ち ︑
である︒
本稿は︑右の世界各国の男女雇用平等法をめぐって︑この法律の社会的意義︑成立の経緯︑特異性︑具体的内容︑
立法的課題などを比較法的に考察したものである︒
ところで︑わが国でも近く国会で男女雇用平等法が制定されようとしている︒この法律がいかなる内容のものとし
て制定されるか︑まことに興味深々である︒本稿は︑日本の男女雇用平等法と世界の男女雇用平等法とを比較検討す
る場合︑便宜を提供することになるであろう︒
一︑世界の男女雇用平等法の社会的意義
世 界 の男 女雇用 平 等法
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一九八〇年代の国際社会において︑世界の主要先進国は︑﹁男子雇用平等法﹂(芸Φ国ρ轟一国ヨ筈団日①三〇b宕き巳蔓
︾8(以下雇用平等法という)を制定している︒雇用平等法とは︑雇用分野において募集・採用・労働関係の存続中︑
解雇︑退職にいたるまでのあらゆる性差別を禁止し︑救済する法律である︒
このような雇用平等法が対象としている具体的な差別行為については︑各国の国内事情に応じて多少の差異がみら
れるが︑一般には﹁募集・採用︑賃金︑職種︑職務内容︑配置︑教育・訓練︑昇進昇格︑職業紹介︑職業訓練︑解
雇︑退職﹂等である︒
世界の雇用平等法は︑雇用分野における﹁性﹂差別を禁止し︑救済することにおいて土ハ通している︒しかし︑かな
らずしも性差別に限定していない︒たとえば︑アメリカの雇用機会平等法やカナダの人権法のように︑﹁人種︑皮膚
の色︑宗教︑出身地﹂などについての差別を対象としているところもある︒
しかし︑歴史的にみて︑世界の雇用平等法は︑基本的には︑雇用における男女の性差別を撤廃し︑女性の就業の機
会の均等を確保し︑それによる実質的男女平等を実現するものとして発展してきた︒そのことは︑世界のほとんどの
国の雇用平等法が︑雇用における性差別を禁止していることで理解される︒
世界の雇用平等法の全体をとおして︑この法律のもつ社会的意義はなにか︒
第一に︑世界の雇用平等法は︑国際的レベルでは︑一九四八年の﹁世界人権宣言﹂︑一九六六年の﹁国際人権規約﹂︑
なかでもA規約といわれる﹁経済的︑社会的及び文化的権利に関する国際規約﹂︑一九七五年の国際婦人年世界会議
( 1 )
の﹁世界行動計画﹂︑一九七九年の﹁婦人差別撤廃条約﹂︑さらに一九四四年のILO﹁国際労働機関の目的に関する宣言﹂︑いわゆる﹁フィラデルフィァ宣言﹂などを具体化する立法である︒
世界人権宣言は︑一九四八年一月一〇目︑国連第三回総回において︑過去の悲惨な第二次世界大戦に対する反省に
たって採択されたものである︒それは︑二つの歴史的な宣言をしている︒第一は︑戦争を招来する根本的な原因は︑
なによりも基本的人権の無視にあること︑したがって︑戦争をなくし︑民主主義と世界平和を実現するためには基本
的人権の尊重こそが大切であるとを確認していることである︒第二は︑アメリカ独立宣言︑フランス人権宣言︑日本
国憲法などと同じ考え方にたって︑人間は生れながらにして自由・平等であり︑これは永久不可侵の自然権として国
家によって守らなければならないことを確認していることである︒これらの歴史的な宣言は︑世界人権宣言の前文の
冒頭において︑﹁人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と︑平等で譲ることのできない権利とを承認することは︑
世界における自由正義及び平和の基礎であるので自⁝‑この宣言を布告する︒﹂と表明されている︒雇用平等法は︑根
本的にはこの世界人権宣言に由来し︑これを具体化する歴史的使命を担って登場してきたものである︒ここに︑この
法律の重要な社会的意義を見出すことができる︒
国際人権規約のA規約は︑右の世界人権宣言を具体化するもので︑男女平等思想を強く打ちだしている︒雇用平等
法は︑この人権規約にも由来している︒
つぎに︑一九七五年国際婦人年世界会議で採択された世界行動計画は︑﹁国際社会は︑性別に基づく差別を︑基本的
に不正なもの︑人間の尊厳に対する罪︑及び人権の侵害であることを非難している︒﹂という現状認識に立って︑婦人
の経済的︑社会的︑政治的地位の向上のための国内行動に指針を与えたものである︒それによると︑﹁政府は︑男女平
等を促進するため︑法の下の男女平等︑教育と訓練の機会均等を目的とした設備の供与︑報酬及び適切な社会保障を
含む雇用条件の平等を確保すべきである︒﹂としている︒雇用平等法の成立には︑この世界行動計画が大きく寄与し
てきたことを忘れてはならない︒
婦人差別撤廃条約は︑条約締結国に対して︑法律から慣行に至るまでのあらゆる分野における差別を撤廃する立法
世界 の男女雇用 平 等法
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その他の措置をとることを宣言しているぴ
また︑ILOのブイラデルフィア宣言は︑﹁すべての人間は︑人格︑人種︑信条または性別にかかわりなく︑人間
としての自由及び尊厳に基づいて経済的条件と機会の均等が保障され︑物質的福祉と精神的発展を追求する権利を有
する︒﹂とうたっている︒
第二に︑雇用平等法は︑国内的レベルにおいては︑憲法その他の法律における抽象的な男女平等原則を具体化する
ものである︒雇用平等法が成立してくる国際的経緯をみても︑この法律は︑各国の憲法その他の法律における抽象的
な男女平等原則への批判的反省として発展してきた︒すなわち︑現在︑世界各国は憲法その他の法律で男女平等原則
を規定しているが︑その規定方式が抽象的であるため︑実際にはあらゆる分野のなかでおおくの女性差別が行われて
きた︒しかし︑男女平等原則は︑これらの差別行為に対して︑なんら実効性を有しなかった︒このことは︑男女平等
原則をもつ世界各国の共通したことがらであった︒ここに︑世界各国はそれぞれの国内事情を背景にしながら︑男女
平等原則をさらに具体化するものとして︑雇用平等法が強く要請されてきたのである︒
第三は︑雇用平等法の本質的意義にかかわる︒雇用平等法は︑その対象として性差別をとりあげ︑さらにアメリカ
やカナダのように人種︑皮膚の色︑宗教︑国籍に対する差別をも対象としているところもある︒これらの性︑人種︑
皮膚の色︑宗教︑国籍等は︑﹁人間の尊厳﹂に深くかかわる問題である︒雇用平等法は︑この﹁人間の尊厳﹂に直接
迫る本質的意義を有し︑またこれを基点にした重要な歴史的な役割を担っている︒
二︑世界の男女雇用平等法の成立の経緯
世界の雇用平等法が成立してくる経緯をみることは︑この法律の立法的背景を知ることになる︒ところで︑
等法が︑国際的なレベルにまで高められてくる経緯をみると︑世界各国に共通した二つの要因がみられる︒ 雇用平
第一は︑世界各国は憲法その他の法律のなかで男女平等原則を規定しているが︑その規定方式がきわめて抽象的
で︑実際の性差別的慣行に対して︑実効性がなかったこと︑こうしたなかであらためて性差別の撤廃︑実質的男女平
等の実現のための運動が展開されてきたことである︒たとえば︑フランス土ハ和国憲法は前文で﹁法律は︑女子に対
し︑すべての分野において男子と平等の権利を保障する︒﹂としている︒西ドイッでは︑ドイッ連邦共和国基本法第
三条で︑﹁およそ人は︑法律の前に平等である︒男女は同権である︒何人も︑性別︑門地︑人種︑言語︑生国および
素姓︑信仰︑宗教的または政治的意見のために︑不利益を与えらまたは優遇されることは許されない︒﹂と宣言して
いる︒さらに︑イタリァ共和国憲法第三条も︑﹁すべての市民は︑性︑人種︑言語︑宗教︑政治的の見解︑人的およ
び社会的条件によって差別されることなしに︑同等の社会的尊厳を有し︑法律の前に平等である︒﹂と規定している︒
しかし︑これらの崇高な男女平等原則のもとで︑実際には女性への差別やあるいは差別的慣行がおおく存在し︑そ
のため一般に女性の政治的︑経済的︑社会的地位は低かった︒しかも︑ここで重要なことは︑これらの男女平等原則
が︑抽象的宣言に止まったがために︑実際に女性に対する差別を是正することについて実効性がなかったことであ
る︒このことが︑世界各国で雇用平等法を生みだす重要な要因となっている︒
第二は︑一九六〇年代に入って︑世界各国は一様に経済の高度成長に突入し︑その過程で女子労働者の急激な増大
をもたらしたことである︒おおくの女性の職場への進出は︑必然的に女性の職業意識や権利意識を昂揚させ︑実際の
差別的行為を強く認識させ︑やがて実質的男女平等の実現へと向かわせたといえよう︒むしろ︑この実践的運動こ
そ︑雇用平等法成立の主体的動因をなすものであったといえる︒
以上の世界各国に共通した二つの要因は︑やがて国連︑ILO・ECなどを動かし︑国際的レベルでの雇用平等法
が生成してくるのである︒以下において︑その国際的経緯について概観してみよう︒
ω国連