︿資料﹀
介 護 保 険 法 の 成 立 過 程
その年表的経緯‑
宮下輝雄
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介護保険法は一九九六年一二月一三日の衆議院本会議(第=二九回国会)において内閣提出法案として主旨説明さ
れたが厚生省の汚職が発覚したため︑一九九七年の通常国会(第一四〇回国会)で継続審議として実質審議が開始さ
れ︑同年五月二二日の衆議院本会議を通過して参議院に送付され︑継続審議となっていたものを一九九七年一二月三
日参議院本会議(第一四一回国会)で修正可決され︑衆議院に回付され同年=一月九日衆議院銀本会議で可決されて
た︒以上のように介護保険法は衆議院から参議院へ︑そしてまた参議院から衆議院へと継続審議に継ぐ継続審議とい
う異例の審議過程を経て成立しながらも︑議会においても︑また世論においても︑ましてやその運営主体である市町
村においてさえも十分な理解と同意が得られなかったし︑今だなお多くの課題を抱えながら形成の途にある法律であ
る︒当然のことながら法案提出以前から政府・与党の強いリーダーシップにもかかわらず︑市町村はじめ関係諸機関︑
諸団体から様々な論議と批判が巻き起こっていた︒それらの議論や批判・運動の経過を辿ってこの法律のはらむ課題
をうきぼりにしてみたい︒
それは介護保険法が国民全体に関わる重要な法律であるためにその内容の如何を明らかにするためであり︑またそ
がゆえに政治学の立場からは日本の政策決定過程を吟味し︑様々に論じられている日本政治の類型化のために一つ
材料を提供してくれるかもしれないからである︒しかしながら本稿においは紙数の制約からそのための分析は後日
回さなければならない︒だだこのような作業は第一次的な作業として目的のために必要なもである︒前もって現段
で概括的に言えることは︑本資料の経過を見る限り日本政治のパタンは決して︑言われるところの官僚主導の政治
けでもなく︑反面政党政治や議会政治中心でもない︒地方自治体︑諸機関・諸団体もそれぞれかなりの影響力を行
している︒世論.マスコミの役割も大きい︒言うならば多元的様相を強める傾向にあるように思われる︒それにし
も介護保険法の内容は﹁保険あって︑介護なし﹂という不安を拭えきれない︑むしろ今後何年もの歳月をかけて介
当事者を始め︑市民参加によって形成し続けなければならない法律であると思われる︒単に政省令や条例に任しき
ない性質のものである︒
主要な諸経緯
1︑国会提出以前の諸経緯
九九四.二.三厚生省の﹁高齢者介護・自立システム研究会﹂(座長・大森弥東大教授︑学識経験者一〇
人で構成)は社会保険方式による公的介護保険を創設することを目的にした報告書を同省の高
齢者介護対策本部に提出︒報告書の柱は︑ω被保険者︑受給者は基本的に六五歳以上の高齢者
とし︑現役世代からも保険料を徴収する︒ω高齢者自身が介護サービスを選択し︑サービス提
供機関と契約することを原則とする︒㈹介護サービスは医療︑福祉の縦割りの仕組みを統合し︑
介護保険法の成立過程
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一九九五・
〃 ・
〃〃 一元化の方向を目指す︒㈲ケア担当者が高齢者や家族を支援する﹁ケアマネージメント﹂の仕
組みを創設する︒
七・四社会保障制度審議会(首相の諮問機関︑会長・隅谷三喜男東大教授)は高齢化の進展によっ
て増大する費用を︑公的介護保険の保険料で賄うべきだとする︑﹁社会保障体制の再構築に関
する勧告﹂をまとめ︑村山富市首相に提出︒導入の利点は︑ω負担と給付の対応関係が分かり
やすく︑国民の合意が得られやすい︑②利用者にとってサービスの選択が可能となり︑介護サー
ビスを供給する側の競争で量・質の向上が期待できる︑㈲民間保険と違って一定の用件を満た
せば誰でも自動的に加入する仕組みのため︑介護が必要なすべての人にサービスを提供できる︒
七・一〇老人福祉や女性問題の専門家らでつくる﹁高齢社会をよくする女性の会﹂(代表・樋口恵子
東京家政大教授)は︑老人保健福祉審議会に対し︑ω介護保険を導入する場合は︑世帯単位で
はなく個人単位とすべきだ︑働家族が介護する場合には現金を支給する制度は︑家族︑特に介
護にあたっての女性の役割を固定する恐れがあり︑緊急避難措置と位置づけるべきだとする要
望書を提出︒
七・一四自民党の加藤紘一政調会長は京都での記者会見で︑高齢者介護保険制度の法案をまとめ来年
の通常国会に提出し一九九七年度にも施行したいと述べ︑自民党として積極的に取り組む考え
を示す︒
七・二六老人保健福祉審議会(厚相の諮問機関)は高齢者介護の仕組みについて社会保険方式による
公的介護保険の導入が必要とする中間報告を井出正一厚相に提出︒しかし介護サ!ビスの内容
や負担のあり方には触れず︒
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〃 七・三〇日本医療労働組合連合会(医労連・江尻尚子委員長︑一七万五千人)の第四五回定期大会に
おいて(三〇日から三日間熱海市)︑厚生省が創設を検討している社会保険方式による公的介
護保険は医療費抑制策の一環でるとして批判し︑国の責任による介護の拡充を求めて宣伝行動
や国会請願などに取り組むとする︒
八・七全国老人医療問題研究会(同事務局・〇三‑三五七九‑八七二一)は社会保障制度審議会か
ら出された勧告︑老人保健福祉審議会から出された介護保険についての中間報告の内容と問題
点を検討︒講師・金沢大学法学部井上英夫教授︒
九・七連合は中央執行委員会で公的介護保険について︑ω高齢者の利用者負担も含む総費用の半分
以上は公費で負担する︑②財源は間接税を中心にする︑㈹企業の事業主も保険料を負担する︑
㈲ホームヘルパーを一九九九年度までに三〇万人に増員することを柱とした要求方針を決める︒
九・一八老人保健福祉審議会は年内の最終報告のとりまとめを目指して三つの小委員会を設けて対応
すること確認︒小委員会は︑ω家族介護に対する現金給付の是非を含むサービス内容︑②保険
料の水準や被保険者・受給者の範囲などの社会保障制度の内容︑㈲ホームヘルパーの確保など
の体制整備である︒
九・二九日経連は老人保健福祉審議会に公的介護保険の導入に慎重な考えをまとめた﹁報告者﹂を提
出︒報告では︑高齢者は基本的には自助(自立)努力が重要で介護は応益負担を原則とする︒
財源は社会保険方式ではなく︑行財政改革の徹底による経費削減と年金や医療費全体の見直し
を前提として税金でまかなうべきであるとする︒
・九老人保健福祉審議会は九日初めての地方公聴会を札幌市で開く︒﹁高齢者介護制度は根本的
介護保険法の成立過程
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〃 にリフォームする必要がある︒保険制度導入で介護の専門家を育てていくべきだ﹂との積極論
が出る一方︑﹁保険料負担を企業に求めると︑企業の国際競争力を弱め︑中小の地場産業の低
迷に拍車がかかる﹂などの慎重論も出る︒
一・二四厚生省は︑老人保健福祉審議会の介護給付分科会に公的介護保険で行うサービスのうち︑在
宅サービスのモデル案を示す︒
一・二八厚生省は二八日の与党福祉プロジェクト会議で︑公的介護保険について議論している老人保
健福祉審議会の答申の時期が︑高齢者を介護している家族への現金給付の是非を含むサービス
の内容や保険を国が運営するか市町村が運営するかなどをめぐって各界の意見の隔たりが大き
いために︑当初の年内に最終答申を示すという目標から︑来年二月以降にずれ込むとともに︑
一月に中間報告を出すとの見通しを明らかにする︒
二・一〇医療・福祉の専門家や財界人らでつくる民間の研究会﹁ヘルス・フォーラム21﹂(会長ー1加
藤寛・政府税制調査会長)が二一世紀の社会保障についての提言を発表︒公的な高齢者介護
保険の導入︑所得や資産のある高齢者の自己負担増を柱にした老人医療制度の創設︑医療分野
の一部に企業の条件付き参入を認める規制緩和などを盛り込む︒介護保険の財源については国
や自治体が税金で半分以上負担したうえで企業と保険加入者が負担するのが望ましいと提言︒
二・=総理府が=日に﹁高齢者介護に関する世論調査﹂を発表︒調査は八月から九月にかけて︑
全国の二〇歳以上の五千人を対象に実施︒有効回収率は七二%︒公的介護保険制度について
﹁創設が検討されていることを知っているか﹂との質問に対し︑﹁知らない﹂が七一%であっ
たが︑制度の説明を行ったうえで重ねて導入の賛否を尋ねたところ︑﹁賛成﹂﹁どちらかといえ
〃
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一九九五・二・二〇 ば賛成﹂が合わせて八二%︒賛成の理由(複数回答)としては︑六六%が﹁介護問題は社会全
体で対応していく必要がある﹂︑六〇%が﹁本人や家族だけで介護費用を出すのは大変だ﹂︒反
対の理由は︑﹁経済的負担が増える﹂六八%︑﹁自分で備えておけばいい﹂三二%︒在宅で介護
を行う家族への現金支給については︑五八%が賛成しているものの︑﹁介護を金銭で評価する
ことは不適切だ﹂などの理由から︑反対も二八%ある︒
二・=二老人保健福祉審議会は一三日の総会で病後の高齢者が寝たきりにならないためのリハビリテー
ションを介護保険のサービス給付対象にするとの基盤整備分科会の報告書を了承︒
二・二〇厚生省は二〇日の老人保健福祉審議会に︑公的介護保険を導入した場合の月額の保険料がい
くらになるかの試算を初めて示す︒保険料を高齢者を含む二〇歳以上から徴収した場合︑制度
導入当初の段階的施行期の二〇〇〇年度には︑一人月額三七〇〇円から三九〇〇円︑サービス
体制が完全に整い︑要介護の高齢者が三百九十万人に増えるとみられる二〇一〇年度には八五
〇〇円になると見込む︒老人保健福祉審議会では︑利用者からも費用の一割程度の利用料を徴
収したうえで︑残りの半分は国・自治体が税金で負担するという方向で論議を進めており︑そ
の場合には︑個人の保険料負担は︑二〇〇〇年度で月額一七〇〇円程度︑二〇一〇年度には三
八〇〇円程度になる︒
厚生省は︑介護の基盤整備の進展の目標も示し︑特別養護老人ホーム建設や一般病院の高齢
者介護施設への転換など︑施設サービスの整備は二〇〇〇年度までに終え︑特別養護老人ホー
ムなどの入所待ちなどを解消するとする︒
厚生省は老人保健福祉審議会に二〇日公的介護保険でまかなう介護サービスを整備するため