Cl. welchiiの血清学的型判定法と毒素型判定法の比較
1.人糞より分離したC1. welchiiの凝集西
金沢大学医学部微生物学教室(主任 西田尚紀教授)
吉 沢 潤
(昭和41年3月3日受付)
Clostridiaの分騒ではその血清学的分類はいろい ろ試みられているが1)2),species或いは型判定の規 準或いは補助として殆んど用いられていない.その最 大の理由は,凝集反応の値がその病原性と最も関係深 いと考えられる毒素の強さ或いは性質を必ずしも指示
しないことにあると思われる3),CI, welchiiの凝集反応についてはすべての教科書 4)5)はstrain−specificityであると記載し,型別を 凝集反応によって行なうことは不可能であると述べて いるが,これは自然界に存在するCl. welchiiの殆 んどを占めるA型菌についてのことであって,B.C.D.
E.F.型に型別の共通抗原が存在することについては既 にHenderson 6), Bergmann 7)が述べている.しか しながら.これらの研究はいずれも毒素判定をして型 を決められたものについての抗原分析であって,実際 のB.C.D.E.F各藩の分離同定にどの程度に役立ちう るかについて試みた入はいないように思える.勿論,
型同定には毒素判定法が現行の基準であるから8)9),
常に毒素と照合して凝集反応法の価値をきめるべきで あるが,毒素判定法そのものも必ずしも完全なもので なく現在止むを得ざるもの10)として用いられているこ とから之にかわる方法が望まれていることも実際であ る.かかる意味において私はB.C.D.R型の各型の凝 集抗原が実際に供されるか否かを検討したいと考えて
この実験を計画したが,これに先だち,凝集反応が不 可能とされているA型菌についてこの事実を確かめる べく実験を行なった成績について述べたい.
実 験 方 法
(1)使用菌株:
A菌型として,PB 6 K, SR−12, H:obbsのNo.1 からNo.11(但しNo.4を欠く),人糞よりの分離
株183株.B型菌はL5,3110. C型菌は3182,3227.
D型菌はL8, Lgを用いた.但しPB 6 Kは教室保存
の;標準株,SR−12, L5, L8, Lgは英国Leeds大学の所蔵株を分与されたもの,Hobbsの株は北海道干網 の飯田広夫氏より分与され,分離株183株中115株は入 糞の70。10分加熱分離株41株及び100。10分加熱分離株 74株で残り68株は時期を異にレ入糖から70。10分分離 株37株,90。10分の14株,100。60翻し17株よりなる.
その他は英国のNCTCから得たものである.
(2) 抗血清の作製法:
初めZeissler平板で15時間培養の菌を用いたが,
Henderson, Mandia及び多くの著者は加熱抗原より ホルマリン抗原を推奨しているので後にPope消化 培地或いは3%プロテオーゼペプトン(大五もしくは Difcoのいずれでもよい)にglucoseを1%に加え たもので9時間培養の菌を用いた.悪用された菌は生 食水で1回洗瀞するにとどめ元培養液量の5分の1の 濃度にしたものを用いた.この際用いた菌の稀釈液は 0,5%ホルマリン加生食水であった.その免疫術式は,
3日間隔で0.5,1.0,1.0,1.5,2.0,2.0,2.0,
3.0,3.0,3.Om1をウサギの耳静脈に注射した.菌 液は古くなると塊状の外観を示すことがあったので2 週間ごとに新しく作り直した.上記の注射終了後,試 験採血を行ない充分な凝集価を示すとき,最終の注射 から7〜10日目に全採血を行ない,血清を分離し,56
。C水浴中30分加温し非働化し,これに1%マーゾニ ン溶液を1/100容加え冷蔵庫に保存した.
(3)凝集反応の方法:
抗原液の作製:Zeissler平板の菌を用いる場合,
Zeissler平板で24時間嫌気培養した菌を集め,液体 培地の菌を用いる場合15m1入りの中試験管に10%
肉カス加クックドミートブロースで12時間培養した上
AComparison of a Serological Typeing with the Routine Toxin Typing Methodfor C1. Welchii I. Agglutinability of Cl・welchii Strains Isolated from H:uman Feces・
Jun Yoshizawa, Department of Bacteriology(Director:Prof. S. Nishida)School of
Medicine, Kanazawa University.
液1mlを移植し9時間培養し,その遠心沈渣を洗う ことなく0.5%ホルマリン加生食水で均等な浮遊液と
した.
凝集反応の手技:前記の方法で作製保存した抗血清 を生理食塩水で12.5倍に希釈し,これより倍々希釈血 清列各0.5mlを小試験管に作り,これに前述の保存 菌液(0.5%ホルマリン加生食水に浮遊し氷室に一夜 入れて置いたもの)を使用に際しMcFarland No.5 11)相当の菌濃度になるまで更に0.5%ホルマリン加生 食水を加え,これを抗原液として各倍々希釈血清列に 0.5mlずつ加える.判定に際しては従って第1本目 が25倍で始まる数値となる.但し別法として,前記の 5倍濃度の菌液を各血清列に1〜2滴滴下する方法も あるが判定には殆んど差がなかった.但しこの際の凝 集価は血清そのものの希釈数値で判定した.判定は37
。C艀卵器中4時間後に一応の値を見,更にこれを冬 なら室内に夏なら氷室に翌日まで置いて判定した.判 定の基準は,まず肉眼で明らかな凝集を見,疑わしい 凝集に対して凝集鏡を用い最終判定をした.
吸収血清の作製法:Zeissler平板で24時間培養し た菌または液体培地で9時間培養した菌を遠心し集菌 しこれを原血清にそれがドロドロになるまで加え,37
。C艀卵器に2時間入れ作用させた後遠心し,その上 清に更に同じ菌を追加し37。C 2時間作用させた後氷 室に一夜放置し,その遠心上清を吸収血清とした.
実 験 結 果
(1)PB6K, SR−12,生理,各菌株相互の関係 A型標準株PB6K,及びSR−12の2株と,人糞より 100。60分加熱分離株 生理 の1株に対する抗血清を 作製し,抗原として各Zeissler平板24時間培養の菌 を0.5%ホルマリン生食水に浮遊させたものを用い,
相互の関係を交差凝集反応によって検討した.結果は 表1の如くであり,二二いずれも株特異性を示した.
それで抗原を加熱処理(80。30分,80。60分,100。30 分,100e60分加熱)し加熱抗原での交差凝集反応を行 なったが,やはり他の株と凝集することはなかった.
また,PB6K及び生理は80。30分以上の加熱により抗 原性状が変化して被凝集性の消失しているのに対し SR−12のみは80。60分までの加熱処理に対し被凝集性 が保たれていることがわかった.
(2)PB6K, SR−12,生理と他の分離菌との関係 先ず人糞由来の分離株6株を用いてPB 6 K, SR−
12,生理の抗血清と凝集反応を試みた結果,生理抗血 清によく凝集する1菌株No.41(凝集価800)を偶然 発見したので,更に入糞由来の分離菌115株を全部
Zeissler平板に24時間嫌気培養しその菌を用い.先
ず生理抗血清(15倍),PB6K(10倍), SR−12(10倍)の三者混合抗血清でタメシ凝集反応を行ない凝集した ものについて定量的凝集反応を行なった.その結果は 表2の如くで,人由来の分離菌の殆んどはこれら各抗 血清に対し凝集しないものであった.恥く小数の凝集 を認めたものに限っていえばLaboratory strainの PB6K, SR−12よりも教室で分離した生理株に対し凝 集しやすい傾向が見られた.
(3)Hobbsの各菌株相互の関係
Hobbs 12)が食中毒から分離した株について血清型 を樹立しているので,この菌を用いて我々の分離した 菌との血清学的関係について検討した.先ずHobbs の各菌相互について交差凝集反応を行なうと,表3の 如く,かなりの弘仁相互の共通性が認められた.また これらの抗血清はB.C.DL各型の菌とも低凝集価で反 応を起した.しかし各型に一番よく共通性を示した No.6またはNo.9で各抗血清を吸収し,次いでこ の吸収血清について凝集反応を行なうと表4(No.6 で吸収した場合)の如く吸収後の各抗血清はそれ自体 の抗原のみと凝集するものとなった.この吸収血清を 用いて前述の分離株115株で凝集反応を試みたが殆ん どすべての株は凝集することなく3株だけ25倍の凝集
表1 C1. welchii PB6K, SR−12,
生理株相互の交差凝集価 抗血清
PB5コ
口R−12
生 理
使用抗原
PB6K
SR−12 生 理
PB6K
SR−12 生 理
PB6K
SP−12 生 理
抗原作製の条件
非鰍§謝18劉1謝翻
25600 0 0 0 800 0
0 0
1600
︵U︵UO
0 400 0
000 ︵UOO0 100 0
00︵U
OAUO
000︵UOO ︵UOO0ハUO000表2 C1. welchii PB6K, SR12,
生理株と入由来分離株の関係
抗血清
生 理
PB6K
SR−12
下記凝集価を示す株数
800 200 100 50〜25 0 3 2 1 5 104 0 0 0 2 113 0 0 0 1 114
表3 Hobbsの各株相互米の交差凝集反応
Hobbs
三型株
123567891011各 型 の 抗 血 清
1 2
3 67 8
9 10 111600 50 25 25
0
50
0
100 50
0
100−
1600
一一
Q5
−50
50
0
25 100 50 25
25 50 800
10050 0 0 50 25 0
50
10050 50 3200 50
10050 25
100100
0 0
50 50 1600
10050 50 50
0
100
0
25
100 1003200
1000
25
50 5050
0
50 50
1001600 50 100
50 50 25 50
25 50
0
50 1600 50
0
50
0 0
50 50 25 50 50 3200 米但し抗血清でNo.4, No.5は欠.抗原ではNo.4を欠く.
表4 Hobbsの各型菌の被吸収抗血清と各Hobbs株の関係
(各抗血清をHobbsの6型菌で吸収した場合**)
Hobbs
の潮型株
123567891011抗
血清 (吸収 血清)
・一6・ P2−613−616−617−618−61g−6「・・一6L11−6
1600†
0 0 0 0 0
0 0 0 00
1600
0 0 0 0 0 0 0 0
0 0 800 0 0 0 0 0 0 0
0000000000 0
0 0 0 0
1600
0 0 0 0
0 0 0
0 0 0 800 0 0 0
0
0 0 0 0 0 0 800 0 0
0 0 0 0 0 0 0 0
1600
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
3200 来…1型の原抗血清を6型の薗で吸雨後の抗血清を意味する.以下これに準ずる.
**…9型で吸収した場合もこれと殆んど同じ成績を示した.
†…凝集価を示す.
価を示したにすぎなかった.
(4)分離A型菌の各菌株との関係
我々が更に時;期を異にし入糞より分離した68株のう ち70。10分加熱分離の4株,90。10分加熱分離の1株,
100。60分加熱分離の4株を選んでそれぞれ前述の手技 により抗血清を作製し,これに対し各菌68株で交差凝 集反応を行なった.その結果,凝集価が認められたす べては表5に示す如くであって,自己の株とは1600〜
400の値を示すが,他の株との間には殆んど凝集反応 は認められないか或いは凝集することがあってもその
値は低かった.一方,この分離株の抗血清9種類に対するB。C.D 型菌との凝集反応を検討したが,いずれの間にも凝集
は認められなかった.
(5)B.C.D型抗血清に対するA型菌の関係 先ずPB6K, SR−12及びHobbsの各型との関係 を検討したが,いずれもB.C. D型抗血清との間には
凝集は認められなかった.次に入由来の分離菌115株でこの各型抗血清に対し 凝集反応を試みたが,凝集を認め得たのは11株であっ
た,
しかし,青山らのC1. welchii食中毒例13)からの
分離菌20株のうち13株のS型株は1株だけを例外とし
すべてがD型血清に50の凝集価を示したのは通常見る
ことのできぬ現象であり興味深かった(但し他のR型
株7過すべては凝集しなかった).
表5 分離株来相互凝集反応(凝集価を示したもののみを示す)
分離株
(記号)
㎜飛球㎜筋枷脇㎜畿撒罐儲
○ ○
○
71・117・・2171・3171・41g1・2巨6・・116・51・6・6116・7
800*米
400 0 0 0
0 050
0 0 2000000005
50
g00500500050000000000 噌1 8000000000000000000000
4 0000050000000005000000爾b 爾b2 0000000000050000000
0
8
0000000000000000000
0 80000000000000000000
0 8*…70。分10分分離株37株,90。10分分離株14株,100。60分分離株17株計68株
*来…凝集価
考 察
自然界の土壌14)或いは人糞エ5)から分離されるC1.
welchiiの殆んどはA型に属すると思われるが,我々 は入糞から分離した合計183株の菌について凝集反応 を試み,いずれも従来の記載通りstrain−specificity
を肯定する成績を得た.しかしながら最近Hobbsらは食中毒の際の起炎菌 としての耐熱性のA型菌について凝集反応によって Typingが可能であるとし12),またこれを支持する
ものとして沢山の食中毒に際し,Hobbsの血清型の
いずれかに属する菌型が報告されている16)17)18)19)20)21)
22)23).
一方,これに対しHa11ら24)はアメリカにおける C1. welchii食中毒の43%の株がHobbsの型血清に よって凝集するにすぎなかったと述べている.しかし これらの菌はHa11らも述べる如く耐熱性において Hobbsらの株とかなり異なるように思われる.三舟 25)は正常人の糞便を100。C10分加熱して得た471株の 内41株(8.7%)がHobbsの型血清に凝集したと報 告しているのに対し,飯田ら26)は正常人601名の糞便 を100。C60分加熱して得た147株のうち58株(39.4株)
がH:obbsの型血清に凝集すると述べた.赤真27)は ノーマルクローラーとしてのCL welchiiのうち極 めて一部のものだけがHobbsの型血清に凝集するこ とを示した.ノーマルフローラとしてのCl. welchii は殆んど耐熱性のない菌群であること28)を考え合わせ ると,耐熱性の菌特に食中毒の際に現われる群熱性菌 が抗的に共通因子を持つように思える.これは将来の
検討にゆだねたい.Cl. welchii菌のstrain−specificityを示す原因
の一つとして,培養条件があると思われる.Hobbs
らはその型抗血清は8型のうち3,4,5型を除いて
共通抗原が全くないと述べたのに対し,我々は各型間
にかなりの共通抗原を認め得たしまた,B. C. D型菌
とも低値ながらも共通抗原があることが判った.三舟
はHobbsの3型と4型,7型と9型の間にのみ共通抗原があると述べていていくらかHobbsらの成績と
異なるにすぎないが,我々の成績はこの二者から大き
く異なっている.私はこの差が用いられた培養条件の
差によるものであると考え検討中であり(第2報での
べる),培養条件によって凝集価が著しく影響をうけ
ることについては三舟がすでに述べている.
結 論
C1. welchii A型菌相互の凝集反応においては,殆 んどは株特異性が強く,これを血清学的に分類するこ
とは不可能であるという従来の事実を全く肯定する結 果を得た.他方Hobbsの耐熱性菌の各型相互の間及 びこ.れらの菌とB.C. D型菌相互の間には低値ながら 交差凝集反応が認められた. ゴ
(稿を終るに臨み,終始御懇篤なる御指導ならびに御校閲を賜 った恩師西田尚紀教授に深謝致します.またHobbs株の分与を
うけた北海道衛研の飯田広男博士に感謝致します)
文 献
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Abstract