原 著 253
ニホンナシにおける果皮のクロロフィル含量の非破壊計測
山根崇嘉
1*・原田昌幸
2・羽山裕子
1・三谷宣仁
1・中村ゆり
1・草塲新之助
1 1国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門生産・流通研究領域 305-8605 茨城県つくば市藤本 2千代田電子工業株式会社 442-8511 愛知県豊川市穂ノ原Non-destructive Measurement of Chlorophyll Concentration of Fruit Skin in Japanese Pear
Takayoshi Yamane
1*, Masayuki Harata
2, Hiroko Hayama
1, Nobuhito Mitani
1,
Yuri Nakamura
1and Shinnosuke Kusaba
11Division of Fruit Production and Post harvest Science, Institute of Fruit Tree and Tea Science, NARO, Tsukuba, Ibaraki 305-8605 2Chiyoda Electronics Co., Ltd., Honohara, Toyokawa, Aichi 442-8511
Abstract
In order to develop a non-destructive method to measure the chlorophyll concentration of fruit skin in Japanese pear (Pyrus
pyrifolia), reflectance of diffused light through the skin of fruit over a cork layer was measured using a portable spectrometer.
Reflectance was acquired in the 650–740 nm wavelength range to establish a model to predict chlorophyll a and b concentrations using partial least squares regression. The chlorophyll concentration was precisely predicted by each model (r2 = 0.962–0.974)
in ‘Kosui’, ‘Hosui’, and ‘Akizuki’ in 2016. Chlorophyll concentrations of these three cultivars in 2016 were also estimated with small errors using the prediction model of ‘Kosui’ in 2017. The chlorophyll concentration showed a high correlation with the ground color index (r2 = 0.937–0.953) in all cultivars. The prediction model was affected by the temperature of fruit. However,
the error decreased with the prediction model established based on mixed fruit with various temperatures. The chlorophyll con-centration measured in the field exposed to sunshine showed almost the same value as that measured under room conditions. From these results, the chlorophyll concentration could be non-destructively, precisely, and rapidly estimated over a cork layer either in a room or field using the portable spectrometer, and this can be used to confirm the maturity of Japanese pear.
Key Words:cork layer, ground color, maturity
キーワード:地色,熟度,コルク層
緒 言
ニホンナシ(Pyrus pyrifolia)の収穫時期の判定には,果 皮表面色および地色のカラーチャートが広く利用されてい る(Kajiura ら, 1975; 山崎・鈴木, 1980).表面色は品種に より異なるため,品種ごとにカラーチャートが作成されて おり,新たな品種に対しては新たなカラーチャートが作成 されてきた(半田ら,2001; 北口ら,1996).一方,地色は 成熟の進行に伴う果皮の緑色から黄色への変化を評価する ため品種による差が小さく,品種横断的に利用が可能であ る.また,同一の地色の果実でも収穫時期により表面色が 異なる場合があること(松浦・坂本, 1980),表面色は日 照に影響を受けると考えられること(西元・澤邊,1981) などから,地色は表面色よりも果実の熟度をより正確に判 定できることが報告されている(奥野ら, 1983).このよ うに地色は熟度の判定基準として汎用性が高い.しかし, 果皮表面がコルク層で覆われた赤ナシの場合,コルク層を はぎ取り表皮を露出させ地色の判定を行う必要があるた め,判定に用いた果実は商品価値を失う.また,露出した 表皮は時間とともに褐変し易く,露出後直ぐに地色判定を 行う必要がある.さらに,表面色および地色のいずれにお いても,カラーチャートは連続的な色調の変化を代表的な 色票に置き換えた階級評価であること,また目視による官 能評価であることから,調査者や光環境による誤差が含ま れることは避けられない.機械を用いた果皮色の評価方法 としては,ニホンナシの表面色について,近赤外分光分析 装置(西川ら, 2003)や特定波長の果実表面からの反射率 に基づく測定方法(工藤ら, 2006)が報告されている.し かし,赤ナシの地色をコルク層の外側から非破壊で評価す る方法は報告されていない.そこで,本研究では,計測波 長を変更した市販の携帯型分光計を用い,コルク層の上か ら果皮のクロロフィル含量を非破壊で計測し,地色を簡便 で高精度に評価する方法を開発したので報告する. doi: 10.2503/hrj.18.253 2018 年 8 月 19 日 受付.2018 年 12 月 3 日 受理. * Corresponding author. E-mail: [email protected]材料および方法
1.携帯型分光計によるクロロフィル含量の推定について の検討 実験は2016 年および 2017 年に実施した.材料には,農 研機構果樹茶業研究部門(茨城県つくば市)で栽培したニ ホンナシ ‘幸水’, ‘豊水’, ‘あきづき’ 各々 2~4 樹(2016 年時点で各々16 年生,41 年生,7 年生)の果実を用いた. 果実は無袋栽培とし,一般的な栽培管理とした.収穫期に 成熟程度の異なる果実を,2016 年は ‘幸水’ 40 果, ‘豊水’ 30 果, および‘あきづき’ 35 果,2017 年は‘幸水’ 30 果を 採取した.採取した果実は室内において,赤道部を中心 に各果2~3 箇所の測定部位を予め決定して印をつけ, 650~740 nm の波長域を計測できるように変更した携帯型 分光計(おいし果,千代田電子工業(株))を用いて,採取 日または採取翌日に,各部位の拡散反射光の反射率を測定 した.なお,印は赤い油性ペンで果皮に携帯型分光計の計 測部より一回り大きい円を描くことによって行い,測定値 に影響がないことを予め確認した.その後,当該部位のコ ルク層をセロファンテープでやや強く押し付けた後に剥が すことを繰り返し完全に除去することにより,露出面を 傷つけないようにし,カラーチャート (ニホンナシ地色, 富士平工業(株))により地色を判定した.なお, カラー チャートの区分として, ‘幸水’ は中間色用の色票 a, ‘豊 水’ および‘あきづき’は赤ナシ用の色票 b を使用した. クロロフィル含量はPorra ら(1989)の方法に基づき測定 した.地色判定後の測定部位の果皮(コルク層除去済み) をセラミック製のピーラー(CP-99,京セラ(株))で一定 の厚さ(1.7~1.8 mm)に剥ぎ取り,直径 12 mm のコルク ボーラーで切り抜いた果皮ディスクを作成した.その後, 果皮ディスクの中央部に切れ目を1 か所入れ,1 mL の N,N-ジメチルホルムアミドに浸漬し,約4°C の冷暗所で 24 時 間抽出した.抽出液から果皮を取り出した後, 5000 × g で 3 分間遠心分離(CF15RX, (株)日立製作所) し,得られた 上澄み液について,分光光度計(Bio Spec-1600, (株)島津 製作所)で646.8,663.8 nm,および懸濁度のベースライン としてクロロフィル吸光のない750.0 nm の吸光度を計測 した.クロロフィル含量は,計算式;クロロフィル(a + b) 含量(μg・mL–1) = 17.67(A646.8 – A750.0) + 7.12(A663.8 – A750.0) (A は各波長の吸光度を示す)により求めた.なお,コル ク層の除去後は果皮の褐変を防ぐため,一連の作業はでき る限り速やかに実施するとともに,クロロフィルが光によ り分解しないよう抽出液は遮光箱に入れ,計測が終了する まで保管した. このようにして得られたクロロフィル含量の実測値と携 帯型分光計の反射率を用いて,クロロフィル含量推定モデ ルを作成した.すなわち,クロロフィル含量実測値を従属 変数 (Y) として,各波長における拡散反射光の反射率を 独立変数 (X) として,部分的最小二乗回帰分析を行い, クロロフィル含量推定モデルを作成した.また,モデルの 回帰式の年次間および品種間差については,共分散分析に より有意差を検定した.なお統計解析は統計ソフトウェア R (ver. 3.2.3) (R Development Core Team, 2015)を用いた. 2.果実温や測定環境が携帯型分光計の計測値に与える影 響の検討 果実温が携帯型分光計の計測値に与える影響を評価する ため,2016 年の ‘幸水’ 40 果については,地色などの測定 の前に,予め印をつけた同一部位について,果実温を変 え,携帯型分光計による測定を計5 回行った.すなわち, 収穫後に野外に置き果実温を上昇させた果実(測定時果実 温36.4°C), 室 内 に 約 2 時 間 静 置 し た 果 実(同 28.0°C), 5°C で一晩冷却後の果実(同 8.1°C),再度室温に約 1 時間 静置した果実(同15.9°C),続けて室温に約 2 時間静置し た果実(同22.9°C)を順次測定した.始め 4 回の測定は果 実温の影響の解析に,最後の測定はクロロフィル含量推定 モデルの作成に用いた.測定はすべて室内で実施した.果 実温は代表4 果について,熱電対を約 5 mm 深で果実に挿 し込み測定し,その平均値を測定時の果実温とした.冷蔵 からの昇温過程では測定中に果実温が1~2°C 上昇したた め,測定直前と直後の果実温の平均値を示した. 野外での測定方法が計測に与える影響については,2016 年に上述の調査果実とは異なる ‘幸水’ 12 果を用いて実験 を行った.室内で携帯型分光計により赤道部を2 箇所測定 した後,果実を野外に持ち出し,同じ箇所を測定した.す なわち,圃場での測定を想定して,ナシ棚の下において, 棚下の日陰または葉に遮られていない日向で,果実を手に 持ち,横向き(南および北向き),または,上向きで測定 した(第5 図).また,日向で北向きに測定する場合に携 帯型分光計の中央の受光部を果実から少しずらし,東方向 または上方向に隙間ができた状態でも測定した.なお,測 定は午前10 時前後に行い,太陽は南東方向にあった.結果および考察
1.果皮クロロフィル含量推定モデルの品種,年次間差異 2016 年産果実における果皮クロロフィル含量の実測値 と携帯型分光計の各波長における拡散反射光の反射率から クロロフィル含量推定モデルを作成したところ,‘幸水’, ‘豊水’ および ‘あきづき’ で, それぞれ決定係数r2 = 0.974, 0.973 および 0.962 と危険率 0.1%以下で有意な高い相関が 得られ,高精度にクロロフィル含量を推定できるモデルを 作成することができた(第1 図).コルク層の程度は品種 によって異なり,中間色の‘幸水’は,コルク層の少ない 部分では表皮が見えるが,赤ナシである‘豊水’および ‘あきづき’はほぼ完全にコルク層に覆われていた.2016 年のデータで作成したクロロフィル含量推定モデルでは, 3 品種ともに高い相関を示したことから,コルク層の程度 にかかわらず携帯型分光計によりクロロフィル含量が測定 できると考えられた.2017 年産の‘幸水’ のクロロフィル含量の実測値と携帯 型分光計の各波長における拡散反射光の反射率から新たに 作成したクロロフィル含量推定モデルを用いて,2016 年 産の ‘幸水’, ‘豊水’ および ‘あきづき’ のクロロフィル含 量の実測値との関係について解析したところ,それぞれ決 定係数r2 = 0.974, 0.971 および 0.956 と危険率 0.1%以下で 有意な高い相関が得られた(第2 図).このとき‘幸水’ および‘豊水’では回帰係数が有意(それぞれ危険率0.1 および5%以下)に増加し, ‘あきづき’ では回帰係数に有 意な差はなかった.また,3 品種間では‘幸水’が他の 2 品種によりも回帰係数が有意に大きくなった(危険率 0.1%以下).回帰係数の増加が最も大きかった ‘幸水’ の 誤差については,差の大きい高濃度域(6~8 μg・cm–2) でクロロフィル含量が0.45~0.67 μg・cm–2高く計算され た.これは同濃度帯のカラーチャート値の判定値で0.08~ 0.13 とわずかであり, ‘豊水’ では ‘幸水’ よりも誤差が小 さいことから,生産現場での実用レベルでは問題とならな いと考えられる.これらの結果から,2017 年産‘幸水’ のクロロフィル含量推定モデルを用いて,2016 年産‘幸 水’,‘豊水’および‘あきづき’のクロロフィル含量を推 定することが可能と考えられた. 2.クロロフィル含量と地色カラーチャート値との関係 2016 年産 ‘幸水’, ‘豊水’ および ‘あきづき’ のクロロ フィル含量の実測値と地色カラーチャート値との関係につ いては,3 品種で同様の傾向を示し,クロロフィル含量が 約10 μg・cm–2未満の範囲では,二次関数による近似で, それぞれ決定係数r2 = 0.937, 0.953 および 0.949 と危険率 0.1%以下で有意な高い相関が得られた(第 3 図).同一の 地色判定値でのクロロフィル含量の幅は,カラーチャート 値3 では品種により 0.94~1.74 μg・cm–2であった.この 誤差はカラーチャート値が階級値であることと,目視によ 第1 図 果皮のクロロフィル含量の実測値と計算値との関係 (2016 年産) 第2 図 2017 年産 ‘幸水’ の推定モデルを用いた 2016 年産の 各品種のクロロフィル含量の検証
る判定にはばらつきがあることが主な原因と考えられる. しかし,3 品種でほぼ同様の相関関係を示したことから, 相関関係は安定しており,クロロフィル含量をカラー チャート値に変換できると考えられる.この場合,3 品種 混合の関係式を用いて変換しても良いと考えられる(第 3 図).一方で,カラーチャート値 1 でのクロロフィル含 量の幅はカラーチャート値3 の場合よりも大きくなった. これは,カラーチャート値1 の色票より緑が濃い,すなわ ちクロロフィル含量が多い果実がすべてここに分類された 結果と考えられる.カラーチャート値1 はいずれの品種で も可食期に達していない未成熟果であり,一般的な収穫で は収穫期の判定に使用することはない.また,カラー チャート値5 以上では緑色はほとんどなくなる.特に地色 カラーチャートの赤ナシ用の色票b では,カラーチャート 値5 と 6 の違いには黄色の濃さの影響が大きい.この範囲 はクロロフィル含量が少ないことから,クロロフィル含量 からカラーチャート値に変換することは困難と考えられ る.なお,奥野ら(1983)によると, ‘新水’, ‘幸水’ およ び ‘豊水’ では,いずれの品種でもカラーチャート値 5 は 収穫初期では適熟であり,収穫盛期以降はやや過熟ないし 過熟となり,カラーチャート値6 では常に過熟となり,心 腐れ症なども発生するとされている.そのため,一般的な 収穫ではカラーチャート値6 を待って収穫することはな い.収穫時期の判定に関しては,カラーチャート値2~5 までの範囲を測定することができれば実用上の問題はない と考えられる. 2016 年の ‘幸水’ のクロロフィル含量推定モデルの標準 誤差は0.407 であり,クロロフィル含量 ±0.5 μg・cm–2の範 囲に80.8%,同 ±1.0 μg・cm–2の範囲に100%のデータが含 まれた.クロロフィル含量±0.5 μg・cm–2は,カラーチャー ト値では地色3~4 の範囲において ±0.33 に相当した(第 3 図).なお, ‘豊水’ および ‘あきづき’ のクロロフィル推定 モデルの標準誤差は,それぞれ0.281 および 0.277 と ‘幸 水’ 同様に小さかった.一方,予備的にカラーチャート値 の判定における評価者によるばらつきをみたところ,ある 評価者がカラーチャート値3 と判定した果実は,他の 2 名 の評価者では2.5~4 と判定され,3 と判定されたのは全 体の40%であり,残りの 60%の果実では ±0.5 以上の差が 生じた.これらのことから,ナシの地色について,コルク 層を剥がして室内で目視によりカラーチャートを用いて判 定するよりも,携帯型分光計による測定値を用いてクロロ フィル含量を推定して非破壊で判定する方が,より高精度 に地色の緑色程度を評価できると考えられた. 3.果実温がクロロフィル含量推定値に及ぼす影響 果実温がクロロフィル含量推定値に及ぼす影響について は,低い温度(8.1°C)で値が高く,高い温度(36.4°C)で 値が低く計算される傾向があった(第4 図 A).その差は 低濃度域で大きかった.近赤外光を用いた果実糖度の非破 壊計測では,果肉中の水分子による吸光量が温度により異 なることが報告されており(Kawano ら, 1995),同様の現 第3 図 クロロフィル含量と地色との関係(2016 年産) クロロフィル含量と地色の関係式は,3 品種混合 (太実 線)y = 0.0383 (x – 11.8825)2 + 0.4274 (r2 = 0.944), ‘幸水’ (実線)y = 0.0364 (x – 12.2582)2 + 0.2770(r2 = 0.937), ‘豊 水’(短破線)y = 0.0369 (x – 11.8198)2 + 0.5599 (r2 = 0.953) お よ び ‘あきづき’ (長 破 線) y = 0.0345 (x – 13.1957)2 – 0.0587 (r2 = 0.949) 第4 図 果実温がクロロフィル含量計測値に及ぼす影響 2016 年産 ‘幸水’,(A) 単温度 (果実温 22.9°C) のデー タから作成した検量線を使用,(B) 異なる果実温度 (8.1~36.4°C) のデータを混合し作成した検量線を使用
象が考えられる.果実温8.1, 15.9, 28.0 および 36.4°C の データを合わせてモデルを作成した結果,測定値の果実温 による変動が小さくなった(第4 図 B).この温度混合モ デルによるクロロフィル含量推定値は,差の大きい低濃度 域 (1~3 μg・cm–2) では低温 (8.1°C) で 0.3 μg・cm–2程度 高く,高温(36.4°C)で 0.3 μg・cm–2程度低く計算された. これはカラーチャート値3~5 のときの判定値で 0.20~ 0.23 の違いであり,生産現場での実用レベルでは問題とな らないと考えられる. 室内で測定したクロロフィル含量推定値と野外で測定し たクロロフィル含量推定値との関係をみたところ,ナシ棚 の下において,葉の下の影または葉に遮られていない日向 で測定した値と,室内で測定した値がほぼ一致し,上向 き,横向き,方位の違いといった測定方向による影響もみ られなかった(第5 図).また,受光部が果実に密着せず, 隙間ができた場合も概ね正確に測定できたが,日向で北向 きに測定し,太陽の方向に隙間ができたときや東向きに測 定し上側に隙間ができたときに,外れた値を示した果実が あった.これらのことから,携帯型分光計を用いて野外で クロロフィル含量を測定することができ,測定部位がず れるなどした場合でも,概ね正しい値が得られるが,隙間 に日射が入ると外れ値が生じる場合あることが明らかと なった. 以上のことから,650~740 nm の波長域を測定できる携 帯型分光計により,果皮のクロロフィル含量を高精度で測 定できること,クロロフィル含量と地色との相関関係に基 づき,コルク層を剥がさずに非破壊で地色を推定できるこ とが明らかとなった.2017 年産 ‘幸水’ の推定モデルを用 いて2016 年産の 3 品種のクロロフィル含量をわずかな誤 差で測定でき,推定モデルは汎用性が高かった.推定モデ ルは果実温の影響を受けたが,異なる温度の果実から得ら れたデータを含めて推定モデルを作成することにより,誤 差が小さくなった. ニホンナシは果皮の地色が黄化するにつれて,果実重と 糖度が増加し,果肉硬度が低下する(鈴木ら, 1981).収 穫直後の食味および日持ち性から ‘幸水’ や ‘豊水’ などで は地色のカラーチャート値3~4 が収穫適期とされている (長門ら, 1982; 奥野ら, 1983).また, ‘豊水’ ではカラー チャート値4 以上でみつ症発生の危険が高まることも報告 されており(梶浦ら, 1981; 長門ら, 1982),適期での収穫 が重要となる.このように,現在カラーチャートに基づく 熟度の判定は,生産現場での収穫基準として重要な役割を 果たしている.本研究における携帯型分光計によるクロロ フィル含量の測定により精密に地色の緑色程度を評価で き,また,地色カラーチャート値に変換することも可能で あり,これまでの知見に合わせた活用が可能である.ま た,非破壊で野外においても迅速な計測が可能であり,高 精度で簡便な熟度の判定方法として活用することができる と考えられる.
摘 要
ニホンナシの果皮のクロロフィル含量を非破壊で計測す るために,携帯型分光計を用い,コルク層の上から果皮を 透過した650~740 nm の波長域の拡散反射光の反射率を 非破壊で測定し,部分的最小二乗回帰分析を行いクロロ フィル含量の推定モデルを作成した.その結果,2016 年 産の‘幸水’,‘豊水’および‘あきづき’において,決定 係数r2 = 0.962~0.974 と高精度にクロロフィル含量を推定 することができた.2017 年産の‘幸水’で作成した同推定 モデルで,2016 年の上記 3 品種のクロロフィル含量の検 証を行ったところ,決定係数がr2 = 0.956~0.974 と高く, 誤差も小さく推定できた.また,すべての品種でクロロ フィル含量と地色との間に高い相関がみられ(r2 = 0.937~ 0.953),クロロフィル含量を地色に変換することが可能で あった.推定モデルは果実温の影響を受けたが,温度の異 なる果実を用いて推定モデルを作成することにより,果実 第5 図 室内で計測したクロロフィル含量計算値と野外(ナ シ棚下,方向別)で計測したクロロフィル計算値との 関係 品種は‘幸水’,凡例中のカッコ内は携帯型分光計の計 測部の方向を示し,上向き以外は横向きでの計測.(A) 葉の下の影部位で横向き,(B) 同上向き,(C) 日向で 横向き,(D) 横向きで受光部に隙間あり温の影響は小さくなった.晴天の野外条件と室内の測定で ほぼ同じ測定値を示し,野外での測定が可能であった.以 上のことから携帯型分光計を用い,コルク層の上から果皮 のクロロフィル含量および地色を迅速かつ高精度に測定で き,ニホンナシの熟度判定に活用できると考えられた.
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