地域の国際交流での学びとは? : 赤井川村での留学生ホームステイにおけるホストと留学生の反応から

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(1)Title. 地域の国際交流での学びとは? : 赤井川村での留学生ホームステイにお けるホストと留学生の反応から. Author(s). 鈴木, 潤吉. Citation. 僻地教育研究, 55: 115-124. Issue Date. 2000-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1693. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである. Hokkaido University of Education.

(2) No.55. 地域の国際交流での学びとは?. 2000.12. 地域の国際交流での学びとは? 一赤井川村での留学生ホームステイにおけるホストと留学生の反応から一. 鈴 木 潤 吉 (北海道教育大学札幌校). Participants’LearningattheRuralInternationalExchange: AnalysisofResponsesfromtheHostsandtheForeignStudents intheAkaigawaHomestayProgram Junkichi SUZUKI. ホームステイにおける外国人留学生と受け入れ側のホス. 1.は じめに. トの各々の学びに注目し,彼等の学びの特質を明らかに するものである。そのためにここでは,赤井川村におい. 筆者が従事している外国人に対する日本語教育分野で. はコミュニケーション能力の育成のために,従来のコ. て留学生のホームステイを実施した際に行った意識調査. ミュニカティブな教室活動に加えて,体験学習,プロジェ. の回答を手がかりに考察を進めたい。. クトワーク,ビジター・セッション,イマーション・プ ログラムなど実際に日本人と接触し,相互作用を及ぼす. 2.「学びのドーナッツ論」. 学習活動に取り組むことが多くなった。特に近年では,. 状況論的な学習観では,「文化的実践(culturalprac−. 地域や社会への参加を主体にしたインタラクティブな活 動が,学習者に自己変容を促し,コミュニケーション能. tice)」に参加すること,つまり社会的集団において文. 力を含めた総合的な異文化適応能力の育成するものとし. 化を創造・継承していく日々の営みに参加することが学. て高く評価されるようになってきた(安場他1991,山. 習であると考えられている(レイヴ他1993)。学校教. 田1996,西口1999参照)。. 育での学習というものも,学校という特殊な状況の中で. このような流れに立てば,留学生の参加する国際交流. 学外での文化的実践への参加を可能とするような準備で. 活動も,単なる言語獲得や異文化理解の場ではなく,さ. あり,模擬演習である。しかし,そこでの学習が社会の. らに自己変容や自己実現の可能性がある学びの場として. 文化的実践と遊離したものとなりやすい点をブラウンら. とらえ直すことができる。そして,交流がなんらかの刺. (前掲書)は指摘し,学習内容が現実の文化的実践のた. 激を相互に与えるものであれば,変容の可能性は外国人. めにどのように役立っているのかを示す工夫が必要であ. の側ばかりではなく,接触している日本人の側にも等し. ることを説く。. くあるはずであり,「学ぶ者」「学ばれる者」という固定. 佐伯(1995)はこのような学習の文化実践との関わり. 的な役割区分はあまり意味をなさなくなるであろう。で. を学習を行う個々人の視点に立ってとらえ直し,「学び. は,日本人と外国人が相互作用の中で体験するそこでの. 学び(注1)とはいったいどのようなものであろうか。 ブラウン他(1991)が主張するように「知識というも のが部分的に社会的物理的世界に埋め込まれている」. (p.63)ものであるとすれば,習慣や価値観などの文 化的意味や地域の固有性も各人の置かれた個々の場面の. 中に見い出されるものであり,おしなべて共通の一義的 な「文化」としては把握されえないであろう。本箱では このような状況論的な観点から,特に佐伯(1995)の学. 第一横面. 習モデルに依拠しながら,国際交流の参加者,特に短期. 図1学びのドーナッツ輪(佐伯1995,P66より). −115−.

(3) 鈴 木 潤 吉. 深まる可能性が十分にある(手塚1991,山本1996)。. のドーナッツ論」を提唱した。. 前頁の図において「Ⅰ(私)」は学び手であり,「YOU」. つまり,たとえ一時的・短期的な滞在といえどもマイノ. は「二人称的世界」,つまり学び手が直接に接している. リティーの立場にある留学生をその文化(地域や家族). 環境である。学び手は二人称的世界を仲介して「THEY」. に「外国人」や「お客様」としてではなく「個人」とし. という「三人称的世界」,つまり現実の社会的文化的実 践の場に関わっていく。ここでの「YOU」的世界とい. 信頼関係を築き上げ,学びやすくすることができるとい. うのは,例えば教師という他者のほかに言語や教材とい. える。. て受容する態度と実質的なコミュニケーションがあれば. うような道具(「YOU」的道具)で構成される環境を指. 「ドー. ナッツ論」の第二接面において,佐伯は現実世. している。学習はこのような「YOU」的世界との関わ. 界の諸側面を「YOU」的世界としての教師や教材を「介. りと「YOU」を介した「THEY」的世界との関わりとい. して」見ていくという学校教育での学習のあり方を示し. う二重の相互作用から生じると仮定されている。. ている。しかし,ホームステイの環境においては,留学. 佐伯が重視しているのは,それぞれの接面での相互作 用である。「I」と「YOU」の第一接面は「YOU」的な. 化的実践者としてのホストファミリーに直接的に対時す. 生である「I」は教師や教材という仲介者の代わりに文. 他者との個人的な交流関係を築く場であり,自己のアイ デンティティーが発展する契機となる。「YOU」と. るという点で学校とは本質的に異なるといえる。つまり,. ホストファミリーの一挙一動や日々の営みが「THEY」. 「THEY」の第二接面は,「YOU」的な他者を媒介とし て世界への認識が拡大する場であるが,この接面が強調. 的世界を直接体現したものとして把握され,「YOU」的 世界を「介して」ではなく,文字通り「通して」実感で. され過ぎると学びが文化的実践から遊離してしまうとい. きるものであろう。. う。「自分たちはただそれを「観客」としてながめるか,. さらに,教育現場においてはあくまで学びの新参者で. もしくは「覚える」ことしかできない」(同書,p72). ある生徒がドーナッツの核となる「I」として,そして. 対象として知識や概念が伝達されるような場合である。. 教師もしくは教材は「THEY」的世界の代弁者として常. そこで佐伯は教育の理想的なあり方として「I」と「YOU」. に「YOU」的世界に身を置き,生徒の自己変容を働き. の対峠を越えて,共に「THEY」をみつめていく関係を. かけるものとして位置付けられている。それに対して,. 作っていくこと,そして,そのような関係作りが教師の. それぞれの「THEY」的世界を背負っている者が出会う. 役割であることを主張している。. 国際交流の場では,ともに相手の文化的実践になんらか の形で関与を試みるという点において,「I」と「YOU」. 2−2.異文化交流とドーナッツ論. は共に学びの主体であり,第一と第二接面も共に双方向. 前節で見た学びの構図は「文化的な所産を「創り出す」. 的であるといえるであろう。. 人々の営みに,自らも「創り出す」立場で,いわば生成 的に関係をつくっていくこと」(佐伯1995,p83)によっ. ただし,「THEY」的世界への関わりの度合いは交流. の目的,形態,期間等に応じて大きな幅があると考えら. て文化の継承が図られるとする学習モデルである。つま. れる。そもそも交流活動は一方の文化的実践の根拠地に. り,ある文化での新参者(例えば子供)が学びを通して. おいて実施されるものである。従って,訪問者にとって. 自己変容を遂げつつその文化の実践者として「十全に」. は目前の環境がそこでの文化的営みの実現形であること. 参加できることを目指している。では,異なる文化の者. を感得できるが,受入れ側にとっては訪問者の「THEY」. が接する国際交流の場にこのモデルはどのように適用で. 的世界は見えにくい。施設や史跡の見学を主体とした交. きるのであろうか。留学生を始め,多くの短期滞在の外. 流であれば,訪問者の「THEY」的世界はほとんど見え. 国人は将来的に日本社会の一貞としての参加を目的とし. てこないであろう. 。しかし,スポーツ交流や音楽交流な. ていない,あるいは,期待されていないという自明の前. ど特色ある交流活動であれば,双方の専門技能(「YOU」. 提があるが,これが今まで述べたような学びを得難くす. 的道具)を通して各々の「THEY」的世界を知る可能性. る理由となるのだろうか。. が高まるかもしれない(注2)。. 「ドーナッツ論」の第一接面のレベルで見た場合,異. ホームステイの場合も,第二接面での「THEY」的世. 文化を訪れた者と現地の人間が「親密」な関係を築けな. 界への参加は圧倒的に訪問者にとって有利な状況である. い場合の多くは行動規範,認知構造の違い,異文化の者. ことは明らかであるが,期間が長いほどホストが訪問者. に対する偏見や特別な態度などに起因することが知られ. の「THEY」的世界を知り,ホスト自身も自己変容を遂. ている。しかし,日本に滞在する外国人に対してルール. げる姿が多く体験談から窺える(注3)。. を明示化し,日本的な遠慮や「察し」を前提としないよ うな対応があれば,誤解やトラブルを乗り越えて関係が. では,数日から1週間程度の短期のホームステイの場 合はどうであろうか。お互いに「THEY」的世界を知る. −116一.

(4) 地域の国際交流での学びとは?. NO.55. 時間的余裕が極度に少ないという状況でどのような学び. 2000.12. れた結果を分析した。. がありうるのか,次節で赤井川村でのホームステイの場. このアンケートは筆者が作成したもので,交流事業に. 合を見ていこう。. ついて参加者の評価を知るためにホストファミリー(世. 帯主とその配偶者)双方に対して事業終了後,2∼3週 間の期間内に実施したものである。留学生22名のうち回. 3.赤井川村での交流事業. 収できたのは15名,ファミリー13世帯のうち回収できた. 人口1415人(平成11年3月現在)の後志庁赤井川村で. のは12世帯であった。本稿では,回答者の属性に関する. は平成6年にアラスカ州立大学の留学生訪問を受け入れ. 貸間や交流事業の全体的な企画に関する質問項目を除い. て以来,学校訪問とホームステイを中心に北海道教育大. て,ホームステイ自体に関する項目に絞って分析する。. 学札幌校に在籍する留学生との交流を毎年続けている。. アンケートのほかに,留学生の学びについての考察で. は,留学生の書いた感想文を補足的な資料として利用す. ここでは特に平成11年度の冬季交流事業での交流を対. 象にする。これは,今回初めて事業の方法・意義につい. る。. 分析の視点としては,すでに前節2で述べた「ドーナッ. てファミリー及び留学生に対して意識調査を行い,その. 結果を本稿の資料として利用できると考えたからであ. ツ論」の枠組みに沿って,特に相手を通してどのような. 「THEY」的世界に接したのかを中心に見ていく。. る。 3−1.平成11年度交流事業の概略. 4.アンケートに見るホストの学び. 平成12年1月28日から3泊4日の短期のホームステイ. で,留学生は22名(国籍7カ国),ホストファミリーは13. 「今回よかったとすればどんなことか」(質問6−2). 世帯であった。なお,2名の留学生を同時に受け入れた. に対する選択肢回答項目では,のべ回答57件のうち選択. ファミリーは9世帯あった。ホストの職業は,農業,乳. の多かった上位3項目は「家族ぐるみ,あるいは家族の. 製品製造,建築,公務員,サービス等,多岐にわたって いる。留学生のほとんどは前年10月に来日し,教育大. だれかと仲良くなり,深い交流だった」(12件),「いろ いろな面で子供のためになった」(12件),「外国の文化・. 札幌校で学び,本年9月に帰国する。. 習慣・考え方などを理解できた」(11件)であった。留. 主な日程と公式の交流活動は次の通りであった。. 学生との接触が異文化理解につながるという意識を必ず. しもホストの全点が抱いた訳ではなく,同じような割合 でホストが留学生と関係を持てたこと自体に意義を感じ. 1月28日. 午後 赤井川村到着後,老人のためのデイサービス・セ. ている。. ンター訪問,僻地保育所訪問,ヒムロース見学(雪. その関係の中でホストはなんらかの手応えを見い出し. を利用した冷蔵倉庫),郷土資料館訪問,体育館. ていることが自由回答欄での記述からわかる。記述が. にて歓迎会,ホームステイ泊. あったのは,「深い交流であった」を選択した世帯のう ち3世帯の配偶者からのもので次のような感想であった. 1月29日. (原文のまま。()内は通し番号)。 (1)最初考えていたほど難しくなかったが,簡単に3. 午前 小学校・中学校訪問(留学生は3つのグループに. 分けられ,都小学校,赤井川小学校,赤井川中学 校のうち,指定された学校を訪問). 日間が過ぎていくわけでもなく,いい勉強になった。. (2)言葉はある程度必要だが,お互いわかろうと努力. 午後 スポーツ活動(国際ルールに基づいた雪合戦)後,. していい経験になった。. ホームステイファミリーとの交流,ホームステイ. (3)料理を作ってもらい,よかった。作り方を教えて. 泊. もらい,自分でも作ってみた。. 1月30日. 午前・午後 ホームステイファミリーとの交流,ホーム. 共通してホームステイへの自分の取り組みそのものが. 意義あるものとしてとらえられており,そこからなんら. ステイ泊. かの学びを得ているというホスト自身の実感が示されて. 1月31日. 午前 終了式後,赤井川村出発. いる。. (3)において,「料理の作り方を教えてもらう」とい うことは,異文化の食生活という文化的実践の基本的な 事柄に参加するということであり,「THEY」的世界を. 3−2.分析の資料. この異文化交流における学びを知る上で,本稿では交. 部分的にせよ体験することである。「よかった」という. 流事業の改善に資するためのアンケート意識調査で得ら. ー117−.

(5) 鈴 木 潤 吉. 感想から,この料理の共有が第一接面での関係を深め,. ㈹ 励ましながら接してくれた。疲れているときも いっしょに遊んでくれた。信頼できるお兄さん。. さらに「自分でも作ってみた」という行動面の変化が表. ㈹ 外国が近くに感じ,行ってみたいという気持ちに. れるほどプラスの刺激になったことがわかる。 「留学生を受け入れて,あなたがちょっとでも困った. なった。. り,とまどったりしたようなことはどんなことか」(質. 仏罰 生まれて初めて自分の国以外の人と話す機会が子. 供にあったのはとてもいい経験だと思う。. 問6−3)に対して選択肢回答では「日本語による意思 疎通の不十分」と「食習慣の違い」の2項目に回答が集. ㈹ 子供のコミュニケーション能力,意欲の向上。生. 中したが,各4件で,無回答が多かった。日本語の問題. 活習慣の違い,共通点など子供の視野が広がった。. は留学生の中で入門程度の日本語力しかない者も若干い. (1功 幼い時から色々な国の人と接するのは観光より勉. たので予想された回答である。自由回答の記述部分では. 強になる。. 2世帯の世帯主及び6世帯の配偶者から以下のような回. 錮 外国人と接する機会が機会が少ないのでよかっ. 答が見られた(原文のまま)。. た。. (4)起床について。朝シャワーの習慣で不便さを感じ. 釦 個人対個人の交流は異文化理解に重要だ。. た。. 鋤 子供が小さいので子供がどのようなことになって. (5)まじめな人はしんどい。. いるのか留学生はわからなかったようだ。. (6)大変意欲的で謙虚。好感が持てた。. 留学生と子供の交流を見ての親の感想には,留学生の. (7)礼儀正しい。もう少し英語が私たちにできたらと. 人柄・態度への評価,子供への影響についての評価,さ らにはこうした交流自体への評価が表れている。. 思った。. 興味深いのは,留学生の子供への対応は積極的意欲的. (8)偏食が多いのにとまどった。. (9)菜食主義。食習慣の違いがよくわかった。. なように親には受け止められたことであり,その対応ぶ. ㈹ 遠慮深い。もう少し気楽にすごしてほしい。. りから留学生に親近感を感じ,外国人と接することの意 義を認めていることである。「外国が近くに感じる」「観. (叫 家族の方が態度や礼儀に失礼なところがあったの ではと気になった。. 光より勉強になる」「個人対個人の交流は重要」という. (1功 礼儀や態度は今の日本の若者より特によい。. 表現から,子供の反応を通して国際的な交流という自分. ここでは,習慣や噂好の違いに対する認識,人柄への. 達の文化的実践について認識が促進されたことがわか. 評価等,第一接面での留学生自身に関する思いが多く表. る。. れている。「朝シャワー」や異なった食習慣に直面し,. 質問8は活動面について今後の工夫や留学生への要望. 自分たちと異なった生活習慣(=文化的実践)があるこ. を自由回答で記述してもらうものであった。主な回答を. とが実感されただけでなく,(4)や(8)で「不便さ」. 列挙してみる。 (8−1.ファミリーがやってみたいこと). や「とまどい」が表明されたように,自分たちの生活習 慣について不本意な変更を余儀なくされたことが推測さ. 鋤 いっしょに料理を作ってみたい。. れる。 (11)(12)では,普段意識されないでいる家族の対. (袖 季節の行事を感じさせるものを見せたい。 鍋 ホームパーティーのようなことをやりたい。. 人行動や日本の若者の態度が「THEY」的なものとして. 鍋 いろいろ村のおいしいものを食べさせたい。. 対象化され,それらに対する認識になんらかの変化をも. 餉 春秋には山菜やきのこ取りに行けたらいい。 (8−2.留学生にやってもらいたいこと). たらしたことを示している。 「お子さんへの影響について」(質問7)では受け入. 卵 村に来てどんなことをしたいのか具体的に考えて. れ13世帯のうち,子供がいる8世帯に対してどんな点が. きてほしい。自国について紹介できるようにしてほ. 子供によかったのか自由回答してもらった。記述があっ. しい。. たのは,世帯主5世帯,配偶者6世帯であった。以下が. (姻 自分のことがわかるような物を持ってくる。家族 の写真など。. その記述の要約である。. をしてくれたこと。自分の国と日本の違いについて. 幽 実家の写真やビデオ,家庭や大学の写真など。 錮 体験したいことを知らせてほしい。. 子供に教えてくれたこと。. ホストとしては活動を充実させたいという意識がある. 仏領 子供とコミュニケーションをとろうと一生懸命話. 一方,「写真」等を介して留学生のことをもっと知りた. ㈹ 若い世帯では知らない客を迎えないのでいい経験 になった。どういうふうに迎えるかという親の姿を. いという思いが読み取れる。いわば,学びへの期待とい. 見ていたと思う。. うものが表されている。 −118−.

(6) NO.55. 地域の国際交流での学びとは?. 2000.12. 式(複数選択可)の質問(6−3)では,赤井川村のこ. ここで注目したいのは,「写真」などの資料が相手の 文化的実践を知るためのきっかけとして期待されたこと. と,ホストの仕事のこと,子供のこと,日本やあなたの. や,「料理をいっしょに作る」などの活動を通して「季. 文化のことなど,挙げられた項目のすべてがほほ等しい. 節の行事」「村のいろいろな料理」という自分側の文化. 割合で選択されていた。特に興味深いものとして記述さ. 的実践に相手が触れることが期待されていることであ. れたのは「料理の作り方」と「焼き物」の2件であった。. る。つまり,これらの資料や活動が「YOU」的道具と. ホームステイのよかった点を問う多肢選択の質問(6. して大きな役割を持ちうることがホスト連に予感されて. −4)では「家族と友だちになって,深い交流ができた. いる。. こと」(10名)と「家族や赤井川村についていい印象や. 最後に「来年も留学生を受け入れてもいいか」(質問9). 楽しい思い出を持つことができた」(10名)が一番が多く,. という問いに対する自由記述には,事業企画への要望に. 「外国の文化習慣などを家族に理解してもらうことがで. 関するものや今までと重複するものを除いて以下のもの. きた」(6名)「日本の文化習慣などをあなたが理解する. があった。. ことができた」(6名)はむしろ少なかった。異文化理. 釦 転勤族のため,村ならではの体験が難しい。. 解という認知面での意義を感じてはいるが,前節で見た. ¢功トイレ・浴室などの設備が外国の習慣に合わず,. ホストの反応以上に親密感や全体的な充足感といった情. つらい思いをさせるのでは。. 意的な側面が強く意識されている。それを裏付けるよう. 幽 言葉に苦労なく,親子みたいな感覚。余市に娘夫. に同じ質問の自由回答欄には,. 婦と行って寿司屋に行ったのがよかったようだ。. 糾 友だちになったこと. ホームステイ全体を通して(31)では村の固有の体験と. ㈹ 久しぶりに家族の雰囲気. いう交流の可能性について,(32)では自分連の文化的. という2件の記述があり,第一接面での家族との個人的. 実践の環境のありかたについて新たな認識が生まれたこ. な関わりとその置かれた環境が特に強く印象に残ったこ. とがわかる。(33)では第一接面での心的交流の深まり. とが窺える。. が表明されており,さらに第三者との活動が留学生との. ホームステイで困ったことや理解できなかったことに. 関係強化に役立っているという交流に対する認識の拡大. ついて(質問6−5)は,「日本語」(4名)と「食事」(2. である。. 名)が回答され,自由記述式では次の2件が挙げられた。 鯛 夜,疲れているのに話したがっているのは困った。 郎)英語の練習をしようとしたのはよくない。. 5.アンケートに見る留学生の学び. 食事については,日本食に慣れていない者や菜食主義の. 留学生に対するアンケート項目においても,ホームス. 学生が実際おり,ホストも当然ながら学生の方にも困惑. テイに関する質問のみを見ていく。. があったであろう。(36)(37)のような接し方について. まず,ホームステイについての全体的な評価(質問6. の感想は,前節でホストが奉げた習慣の違い等の文化面. −1)では,15名のうち6名が「非常によかった」9名. に焦点を当てた感想と対照的である。ホスト側の積極的. が「よかった」と肯定的にとらえていた。家族と共に行っ. に関わろうとする態度が逆に当惑の種として否定的に受. た活動(質問6−2)は以下のものであった。. け止められている。. ・スキー ・スノーモービル ・赤井川温泉. 留学生と家族の子供との関わりについては,子供との. ・小樽訪問 ・余市に買い物に行った. 話の内容や活動として「ガールフレンド」「学枚のこと」 「遊びや趣味」「折り紙」「赤井川村での生活」などが挙. ・寿司屋・歩くスキー ・焼き物. ・乳牛の乳搾り ・焼肉パーティー ・ゲーム. げられ(質問7−3),子供といっしょにいて勉強になっ. ・海へ行った ・料理・折り紙・たこ焼き. たこととして,. ・ビデオで日本の昔話を見た ・話した. ㈱ いろいろなことば. ・そばを作った ・山中牧場・ひな人形作り. 錮 子供の日常のことば. この中で「特に楽しかったもの」して,スキーやスノー. ㈹ 会話の練習になった. モービル,そばを作ったり,餃子の料理をすることのほ. ㈱ 子供が気が利くのに感心した. か,「いっしょに話した」ことが15名のうち4名が挙げ. が挙げられた(質問7−4)。子供との会話を通して種々. ている。つまり,ホストファミリーと「話す」ことにな. のことが話題となったが,「勉強になったこと」という. んらかの意味を見い出し,それを「活動」として意識し. 点ではその会話の内容より日本語そのものを強く意識し. ている留学生がいたことに留意したい。. ていることがわかる。「勉強」という貸間の意図が把握. ファミリーとどのような話をしたのかを問う多肢選択. されなかったことも考えられるが,日本語の学習の途上. ー119−.

(7) 鈴 木 潤 吉. 留学生のアンケートから多くの話題についてホストと. にある留学生にとっては子供の日本譜に初めて接したこ. とでもあり,興味の焦点になったとも考えられる。. 会話がなされたことが窺えるが,むろんホストによって. は写真などがなくとも会話のみを通して留学生の. 最後の質問(8−1)は「もう一度赤井ノけ村にホーム. ステイをするとすれば,家族とどのような活動をしたい. 「THEY」的世界を発見する場面が少なからずあったと. か」である。次のような回答があった(原文のまま)。. 推測される。 一方,回答(3)のように外国の料理を作るというよ. ㈹ たくさん話したい ㈹ もっと多く話したい. うな体験的な活動は日本語をそれほど意識せず,情動. 掴 スキーに行きたかった. 面・行動面も刺激しながら「THEY」的世界を知ること. ㈹ またスキーに行きたい. ができる点で学びの充実感は大きかったといえるかもし. ㈹ 農家の仕事を見たい. れない。仮に,その異文化の料理が今後家族のメニュー. ㈲ 夏に山を登ったり,川に行きたい. に加わるとすれば,まさにホストの「THEY」的世界に. ㈹ 夏に行って家族と山へのぼりたい. 留学生の「THEY」的世界が取り込まれ,家族の文化的 実践が変化したということになろう。しかし,必ずしも. キロロスキー場が村内にあり,スキーに連れて行って もらえなかった留学生の中には体験してみたかったとい. 留学生全員が料理が得意という訳ではないことから,留. う思いが素直に出ている。「農家の仕事」の見学という. 学生の「THEY」的世界を反映した活動で,なおかつ日. 地域の社会面への関心,「山登り」など地域の自然に触 れたいという欲求も出ており,それらの活動を通した学. 本人と共有できるものは何であるかが企画上の課題とし. て残るであろう(注4)。 留学生との3日間にわたる関わりそのものが「役に. びへの期待を抱いた学生がいることがわかる。. 先の(36)のように疲労のため会話をするのがつらい. 立った」「勉強になった」という意識を持ったホストが. という学生もいる反面,(42)(43)のようにもっと話し. いる。その関わりについてどのような学びが生じていた. たいという意識は,質問6−1で「家族といっしょに話. のであろうか。. したこと」が楽しかったと数名挙げたことも考慮すると,. まず,コミュニケーションの過程自体から学びが生じ. 会話することがホームステイでの有意義な活動として認. た場合があることが考えられる。日本語が不十分な訪問. 識している学生がいることを改めて示している。. 者に対して相手をわかろうと努力する過程において(回. 答(2)(7)(27)),種々の方策をとったものと推測され,. 6.考. 「困ったこと」として挙がっているようにそれが必ずし 察. も成功したとは言えない時もあったであろう。つまり,. 6−1.ホストの学び. コミュニケーション上の苦労を通して,日本語の使い方. 今回のアンケート調査から,ホストの中には留学生か. を含めた異文化接触時のコミュニケーション行動という. らの情報が不足していると感じている者がおり,留学生. 新たな文化的実践について,ホストの学びが生じた可能. をよく知ることができる状況にあったとは必ずしも言え. 性が十分ある。. ないことがわかった。これは,留学生を受け入れての全. 次に行動面から,例えば留学生の「朝シャワー」や食. 体的な感想として,ホームステイが異文化理解のために. 習慣等から,きわめて端的に双方の文化的実践の違いが. よかったという回答が全ホストの半分弱と意外と少な. 認識されたはずである(回答(4)(8)(9)(32))。一時. かったことを裏付けている。. 的にせよそれらがホストの生活習慣に変更をにもたらし. その要因としては,日本語による意志疎通が不十分で. たものであれば,それは単に認知レベルでの学びではな. あったり,留学生が控えめで受け身的であったり,ある. く,行動面においても大きな影響を与えるような学びで. いは逆にホスト側の期待が高すぎたということも考えら. あったと考えられる。ただし,留学生に合わせて習慣を. れる。総じて言えば,コミュニケーションの不足という. 変更することが強い負担になりストレスが増大すると,. ことになるが,これは第一接面での人間的な関わりを少. 第一接面での関係がくずれ,ホームステイ全体の学びに. なくし,ひいては留学生の「THEY」的世界を知る機会. 悪影響をもたらす危険性もある(注5)。 留学生の態度からは,逆に日本の若者や家族の態度と. を少なくしてしまうことにつながるであろう。 このことは逆に,学びへの期待の中で表明されたこと. いうホスト側の「THEY」的世界への内省から学びが生. からもわかるように,写真のような「YOU」的な道具. じる可能性がある反面,遠慮深かったたり,積極性に欠. さえあれば,コミュニケーションが促進され,第一接面. けると先に述べたようにコミュニケーションがうまく成. が深められると同時に「THEY」的世界についての学び. 立せず,意味ある学びにつながりにくいこともあるであ. が十分に広がる可能性があることを示唆している。. ろう。 −120−.

(8) NO.55. 地域の国際交流での学びとは?. 最後に,子供のある家庭では,留学生と子供の交わり. 2000.12. Aに対してホストが懸命に指導したのであろう。. を見て,親自身にも間接的に学びが起きていることが窺. 「私は立っては転び,転んではたちながら頑張ってやっ. えた。つまり,「I」である親にとって学びを生じさせる. た結果,ついに成功しました。お父さんの疲れた顔を見. 「YOU」的世界は必ずしも留学生本人であるとは限らず,. ると,ありがたい気持ちより,申し訳なく思いました。. 留学生と接触のある第三者(この場合は子供)の場合も. 感謝の気持ちを表すために,その夜,鮫子を作りました」. あるということである。そこでの学びが,留学生の. (抜粋は原文のまま。以下,同様). 「THEY」的世界に関する知識だけでなく,異文化交流. スキーというレジャー活動が単に「楽しい」ものだけで. という営み(回答(17)∼(21))や訪問者への対応(回. なく,留学生によってはそれによってホストに親近感を. 答(14))といった自分連の文化的実践,つまりここで. 感じる「YOU」的道具として作用し,第一接面でのつ. もホスト自身の「THEY」的世界に対する認識の変化を. ながりを深めることができる。最後の別れでは「親しく. 含むといえるであろう。. なった人と別れるのがつらかったです」「色々片付けて 準備をする中で言葉では言えない悲しさがありました」. という記述もあるように三日間の滞在であっても,家族. 6−2.留学生の学び アンケートからは,全体的に留学生の意識としてはホ. と密な心的交流ができることを示している。. 次は,「THEY」的な世界に触れてその驚きを綴った. スト以上に異文化理解よりも家族との交流そのものに意. 学生B(イギリス,女子)の文章である。村民同士の つきあいの広がりについて,単に聞き知ったのではなく,. 義を感じ取っていたことが窺える。 スキー,スノーモービル,大きな町への旅行などを通. 実際に行動を共にすることで実感された様子がわかる。 (原文のまま,かっこ内は筆者注). して第一接面での交わりが深まったことも推測されると. 同時に,焼き物,乳搾り,たこ焼き,折り紙やひな人形 作り,そぼ作りなどの具体的な活動や,ホストや子供と. 「赤井川では皆が村の人口(=村民)をよく知ってい. の会話を通して,家族,村,日本人の「THEY」的世界. る。例えば,隣の家でもお乳をしぼった。スノ・モビー. を部分的にも知ることができたであろう。. ルをした後でも,別のホームステイ家族と留学生が私の ホームステイ家でコーヒーを飲みに行ったり,話しに. 困ったこととして「日本語」を挙げた学生がいたこと や,ホストの回答に「自分の国について紹介できるよう. 行ったりした。皆さんが友達だったので,気持ちがよかっ. にしてほしい」というコメントが出てくることからわか. たんだ」. るように自分の文化的実践を言語化することが必ずしも. 家族についての観察から学びが生じたとして学生C. (中国,女子)の文章がある。. 容易でない場合もあり,日本語能力の問題のほかに,テー マによっては自分の経験に裏打ちされていない文化的実. 「この家族は私が思っていた日本の伝統的な家族と. 践について語ることの困難さもあったと考えられる。し. ちょっと違う。日本では礼儀を大切にするから,親子な. かし,このような困難に直面して,日本語によるコミュ. のにみずくさすぎると感じる。しかし,このホストファ. ニケーションという,留学生にとっては新たに獲得しつ. ミリーでは,親子の関係はとても親しいと思う」. つある文化的実践について,特に初心者にとっては多く. ステレオタイプの「日本の家族」観が多少なりとも修. 正を余儀なくされたことが窺える。同様の家族に対する コメントとして学生D(中国,女子)は次のように書. の学びがあったと推測される。 一方,会話という活動から学びを期待していた学生が 数名いたということは,それだけホストの言葉が他の具. いている。. 「とても幸せそうな家族は,日本の伝統的な「夫は外,. 体的な活動と同等の重みを持って,他の活動では見えて こない村の文化的実践を如実に伝えていることが学生に. 妻は内」と違っていました。家族の分業もだんだん変わっ. 了解されていることを示しているであろう(注6)。. ていくのかなとうれしく思いました」. 先の感想と同様に,現実の日本の夫婦を前にして,そ の多様性に気付かされたことがわかる。. しかし,第一接面での交わりがどのようなものであっ. たのか,そこを通してどのように「THEY」的世界を見. 本国で日本の伝統文化について勉強した学生E(ロ. たのか,日本語の問題もあり,ホストに比べて記述式の 回答が極端に少なかったことから,具体的な内容がアン. シア,女子)は,茶道の先生でもあるホストの発言を引. ケートからは明らかにされない。そこで,留学生22名の. 用している。. うち,7名のクラスで後日書いてもらった感想文の中か. 「(ホストの言葉)昔,茶道の規則はむずかしかった です。今残念ながらこの規則が若い世代に忘れられまし. ら二,三例を引いてその学びの一端を見てみたい。 第一接面での交わりについて描写されているものに学. た」. この引用に対してコメントが付されていなかったが,. 生A(中国,女子)の文章がある。スキーが初心者の −121−.

(9) 鈴 木 潤 吉. 実感のこもったホストの意見を聞いて,おそらく若者の. ら」といった一般化されたレベルの見直しではありえな. 伝統離れについて認識が広がったものと想像される。. い。. 以上のことから,ホームステイでの文化の学びについ. 学生の感想文にはこのような「THEY」的世界への気 付きが随所に出てくる。しかも,上の例のように学生C. て,その特質の一端が示されたと思う。総じて言えば,. にとっては夫婦のありかた,Dにとっては親子関係と. 自分もしくは相手の文化的実践の発見と見直しの,きわ. いうように,同じ日本人の家族と接してもその意味付け が各々異なっていることがわかる。つまり,「YOU」を. めて個人的な作業であり,しかも相互作用的な作業であ るということである。これは,文化的実践への「参加」 の一つのありようであるととらえたい。. 通しての「THEY」的世界についての学びは多様であり,. この観点に立てば,留学生(あるいはホスト)にとっ て「地域に特有の学び」があるのだろうか。個々の学び. きわめて個人的なものである。 短期間でも第一接面での交流が深く,第二接面での認. 識が深ければ,認知的な変化にとどまらず,より大きな. は「いま,ここで」という個々の場面(「YOU」)から. 自己変容を伴うこともあることが十分予想される。先の. 感得される訳であるから,仮に「赤井川村特有の」文化. 学生E(ロシア,女子)は,いみじくも次のように表. 的実践(例えば村をあげての行事)に接したとしても,. 明している。. その接し方次第でその実践の意味付けが各人異なるであ. ろう。留学生同士で見物した場合,その由来を聞きなが. 「ホストファミリーと別れたので私は泣きました。赤. ら家族と見物した場合,家族の誰かが参加している場合,. 井川村のホストファミリーのおかげで日本人について私 の観念が変わりました」. さらに留学生自身がそれに参加した場合とでは明らかに. そこでの学びの質が異なってくるはずである。. その意味で,都会では体験できないことを行うのは学. 6−3.まとめ. ホスト,留学生ともに観察を通して,また,関わりの. びのきっかけとして意味があるといえる。都会での経験. 中で相手の「THEY」的世界について各人独自の学びを. や本国での経験の対比の上で意味付けされる可能性があ. していることが確認されたと同時に,その学びの手がか. るからである。しかし,その活動を単にレジャー気分で. りの一つとして種々の活動を含めた「YOU」的道具の. 「体験した」だけで終わるのか,「THEY」的世界の一. 重要性が示唆された。特にホストにあっては,相手の. 部として認識されるのかは第一節面での関わりに左右さ. 「THEY」的世界と同時に自分たちの「THEY」的世界. れるであろう。学びへの期待として表明された「山菜摘. を内省するという形での学びがあり,また,子供という. み」であれば,山菜の見分け方から料理の共有を通して. 第三者を通しての学びの可能性が示されたといえる。. 都会では想像ができないような村人の自然との共生の一. 留学生から見れば,教科書的な知識獲得と異なり,ホ. 端について学びが起きるかもしれない。しかし,心的交. ストを代表とする「YOU」的世界は日々の文化的実践. 流の介在がなければ,それも現象の表面的な理解のレベ. を体現した実体の世界であり,いわば「本物」の世界で. ルにとどまるであろう。たとえホストがその活動の日々. ある。それだけに既成の「THEY」的世界のイメージを. の実践者でなくとも,第一接面での関わりが深ければ,. 壊して更新させていくという強い説得性を持っている。. 共に学ぶ「WE」的な世界が築かれるかもしれない。山. つまりこれは,今までの経験から抽象された異文化もし. 菜摘みでなくとも,今回のそば作り,焼き物,ひな人形. くは白文化の意味付け,イメージや既成観念,教科書の. 作り等の中からも独自の学びのきっかけをつかんだ学生. 知識などを検証していく過程であるともいえよう。. がいたはずである。「村ならではの」体験をさせたいと. これは留学生の学びだけでなく,ホストの学びについ. いう思いを表明したホストがいたが,それがどのような. ても言える。特定の留学生を迎えて,ホストの資料から. ものであれ,意味ある学びにつながるのは「YOU」で. は,たとえば「アメリカ人は」「中国人は」というとら. あるホストを通してであるという点には変わりがない。. えかたをしている者は皆無である。すでに見てきたよう に,個々の留学生に直面して留学生のそれぞれが持つ固. 7.おわりに. 有な「THEY」的世界に対する学びが表明されている。. 同時に,留学生に触発されて自分自身の「THEY」的世 界,つまりその家庭の文化的実践,自分の関わる村人た. ホームステイでの学びを考察するに当たり,今回は家 族の一貞であった子供について,その留学生に接しての. ちの文化的実践についての内省と期待が表明されてお. 学びや留学生が学校に訪問した際の学びについて述べる. り,その個別的な実践の修正もありえるということだろ. ことができず,課題として残った。また,「YOU」的道. う。ここから発して「私たち日本の家族はこうだから」. 具を含めた学びを起こさせる環境作りという企画面から. あるいは「赤井川村のホームステイというのはこうだか. の考察も課題として浮かび上がっきた。別の機会に追究 −122−.

(10) NO.55. 地域の国際交流での学びとは?. したいと思う。. 2000.12. 通して示している。ホームステイでの会話は当然そ. 赤井川村の自然について,夏場の自然を体験したい,. のような制度化された儀式ではありえないが,例え. あるいは見せたいという回答があり,線の自然に触れら. ばお年寄りから村の成り立ちやありさまを聞くこと. れないという残念さが窺えた。しかし,留学生たちは積. は,教師から説明されるのとは異なり,長い経験で. 雪の大きさに驚くとともに,冬場の雪に囲まれた中での. 育まれた独特の認知の仕方を学ぶことでもあり,通. 三日間の交流だけでも,そこから得られた学びの重みを. 常の会話からは得られない知識を得ることでもある. 実感している。. と思われる。. 「大都市のネオンサインもにぎやかな声もない村です が,村の人々の暖かい心と静かで和やかな生活を思うと. 参考文献. 今もまた行きたい気持ちになります」(中国,女子). 1)安場淳・池上摩希子・佐藤恵美子(1991)『体験学. 最後にこの場を借りて,アンケートに御協力いただい たホストの方々,交流事業の企画実施に奔走された赤井. 習法の試み』凡人社. 川村役場の皆様に心からお礼を申し上げたい。. 2)外国人留学生問題研究会編(1990)『留学生と異文. 化コミュニケーション』(第8回JAFSA夏期研究集 会報告書)凡人社 注. 3)佐伯膵((1995)『「学ぶ」ということの意味』岩波. (注1)知識獲得あるいは認知的な発展のみだけなく,. 書店. 4)佐々木ひとみ・水野治久(1999)『ホームステイハ. 全人的な関わりとしての学習を強調して本稿では. 「学び」を使う。. ンドブック』アルク. (注2)『足元からの国際化レポート』(北海道市町村振. 5)清水頼子・大竹敏子(1994)『ホームステイin日本』. 興協会1993)や『地域の国際化推進状況に関する調. 窓社. 査』(自治大臣官房国際室編1996)には多くの特色. 6)高井次郎(1994)「日本人との交流と在日留学生の. ある交流事業が紹介されている。. 異文化適応」『異文化間教育』第8号. (注3)清水・大竹(1994),野田(1997),橋本(1998) 参照。. 7)田中共子(1991)「在日留学生の文化適応とソーシャ. (注4)田中(1996)は,日本に滞在する外国人に対し. 8)坪井健(1994)『国際化時代の日本の学生』学文社. ルスキル」『異文化間教育』第5号. 9)手塚千鶴子(1991)「ホームステイと異文化間コミュ. て日本人側が言葉の優位性を理由に常に「教える」 側に立つ偏った力関係が存在することを指摘し,そ. ニケーション」『異文化間教育』第5号. 10)西口光一(1999)「状況的学習論と新しい日本語教. れが共生の障害になっているという。そこで,種々 の作業を中心とした「言語に依存しない」コミュニ. 育の実践」『日本語教育』第100号. ケーション・スペースを増やし,日本人側が自分た. 11)野田豊子・野田四郎(1997)『小さな国際交流−ホー. ちの優位性を意識的に削いでいくことを説く。ホー. ムステイ3年』共同文化社. 12)橋本博子(1998)『オーストラリアの大学生と見た. ムステイにおいても留学生が得意とする活動を持ち 込み,学びの関係が一方通行的にならないように企. ニッポン』平原社. 13)ブラウン,].S.,コリンズ,A.,ダグイッド,P.. 画しなければならないであろう。 (注5)この問題は種々のトラブルを乗り越えて相互理. (1991)「状況的認知と学習の文化」(道又爾訳)『現. 解を深めていく異文化適応過程としてとらえられ. 代思想』6月号. る。この過程は留学生に限らずホスト側にも起きて. 14)北海道市町村振興会編(1995)『足元からの国際化. おり,ホスト側がカルチャーショックを起こし,関. レポート』北海道市町村振興会. 係が破綻する例は外国人留学生問題研究会(1990). 15)北海道総務部知事室国際課編『北海道の国際化の現. や佐々木・水野(1999)に示されている。トラブル. 状』北海道総務部知事室国際課. は乗り越えられれば積極的な学びに転化していくも. 16)山田泉(1996)『社会派日本語教育のすすめ』凡人. のであり,そのためには,ホスト,留学生双方に対. 社. する事前のオリエンテーションやカウンセリングな. 15)山本直美(1996)「ホームステイにおける異文化間. どの支援体制が必要となる。. コミュニケーション一日本人ホストマザーの対人意. (注6)レイヴ他(1993)は「語り」という形での対話. 識の分析から」『日本語教育・異文化間コミュニケー. が文化的実践への参加の第一歩であることを事例を. ション』(鎌田修・山内博之編)(財)北海道国際交. −123−.

(11) 鈴 木 潤 吉. 流センター 17)横田雅弘(1991)「留学生と日本人の親密化に関す る研究」『異文化間教育』第5号. 18)レイヴ,J.,ウェンガー,E.(1993)『状況に埋め 込まれた学習一正当的周辺参加』(佐伯鮮・福島真. 人共訳)産業図書(Lave,].&Wenger,E.(1991) SituatedLearning.Cambridge:CambridgeUniversi−. typress). −124−.

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