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物理における環境教育を視野に入れた教材化に関する実践的研究

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(1)物理における環境教育を視野に入れた. 教材化に関する実践的研究. 2004年. 兵庫教育大学大学院 連合学校教育学研究科. 桐山信一・.

(2) 物理における環境教育を視野に入れた教材化に関する実践的研究 目. 次. ページ. 第1章 本研究の背景と概要…・…………・…・・……………・…・…・………・……1 1,1 本研究の背景・・………・・…・…… …・…・…・……・・……・…・…・・…… …1. 1.1,1物理学習の実態………………… …・・…………… …・………・……・・1 1.1.2物理学習の再構築に向けて一子どもの探究的な態度を育むために一…・…・………4 1.1.3 物理学習における環境教育的教材化の重要性……・………・・…………・……6 1,1.4環境教育における物理の位置付け・・………………・………・……・…・…・・8 1,1,5 熱力学法則の理解から進める環境教育・……………・…・…………・…・…・11. 1,1.6物理教育をテーマにした総合化における環境教育・………………・…………15. 1ワ2 本研究の概要……………・…… ……・…………・・…・……………・…16 1,2,1本研究の目的と方法…・………・……・……………・・…・………・……16 1,2,2 本研究と先行研究との関連及び本研究の独自性…………・……・・…・………18. 第2章 テーマ「紫外線」に関する教材研究・・……・…・……・・……・…………… …26. 2,1 紫外線と光電効果…9……・………・・……………・…・・………・………27 2,1.1理科における「光」の学習状況…・…・…………… ………………・……27 2,1,2紫外線の光電効果を箔検電器で観察する方法………・……………………・27 2,1,3 箔が閉じるのに要する時間と紫外線量の関係の提案と実験的検証………………31 2,1,4箔が閉じるのに要する時間と太陽講中の紫外線量の関係の提案と実験的検証・・……33. 2.2 環境教育に利用できる実験法とデータ例・・………………・………・……・…・37 2。2,1・半導体UVセンサーを使った紫外線の測定方法………………………………37. 2.2,2直射紫外線の測定・…・……………・…・……………・・………………40 2.2,3直射紫外線強度の1日における時間変化…・…………・…・・………………41 2,2,4 ガラスの紫外線透過率測定実験…・………9……・……………・…・・……41 2,2,5 身近な生活物質による紫外線透過率測定例・………………… ……………・42 第3章 テーマ「紫外線」に関する教育実践…・…………・…・…・……………・・…・・45 3,1 紫外線の光電効果を箔検電器で観察する方法による教育実践……・…………・…・46 3.1,1紫外線を教材にした光電効果の理解……・………・…………………・・…46 3。1,2 教育実践の評価一受講者の学習状況の分析一・………………・・……………47 3,1.3光電効果の理解を通した学習者の探究的な態度の育成・……………・…・…・…48 3,2 半導体UVセンサーを使った紫外線の測定に関する教育実践・………………・・…・51 3,2,1学校周辺と葛城山頂の紫外線量の高度比較……一…………・…・…………・51 3,2,2奈良県上空のオゾン全量の計算プログラム作成・………・………・・…………54 3,2,3紫外線測定に関する展示活動を通した表現指導……・…………・…………・・56 3,2,4 教育実践の評価一成果と課題一・………………・………・…・……・……・56 第4章 テーマ「エネルギー」に関する教材研究……・……・……・…・…………・…・・60 4.1 エネルギー保存則を理解するための教材としての「熱の仕事当量」………………61 4,1,1落下法における金属粒の熱流失を考慮した温度上昇モデルの提案………………61 4,1.2 温度上昇モデルの実験的検証に基づく教材研究・……・…………・…・…・…・・64 4.2 熱力学法則を理解するための教材としての水スターリング熱機関………・・…・・…67. 4。2,1スターリング熱機関の歴史と水スターリング熱機関の作動原理……………・…・67 42.2教材例(1)一H字管で作る水スターリング熱機関の作動特性一……………・…・・69 4.2,3教材例(2)一身近な素材で作る水スターリング熱機関の作動特性一…………・…・72 4.3 熱力学第2則の学びに向けて一クラウジウスの変換の当量概念一………………・75 4.3,1高校物理教科書における熱力学第2則の記載状況…・…………・…・……・…・75 4.3,2 クラウジウスの変換の当量概念を用いた熱力学第2則の理解のための教材化の試み…76.

(3) 第5章テーマ「エネルギー」に関する教育実践…………・・……・……・…・………・・81 5.1 落下法における教育実践……………・・…・・…・……………・…………・82 一エネルギー保存則(熱力学第1則)の理解のために一. 5.1.1落下法の指導例・……・…………・…………・…・…・………・………・82 5,1,2落下法における教育実践の評価一成果と課題一………………・・…・………・84・ 5,2 熱機関の体験的理解のための教育実践・………………・・………・・………・・88 5,2,1生徒による水スターリング熱機関の製作とその教育的意味………・・………◎…88 5,2,2 熱機関の概念とは何か…………・…・…・………・………・・…・・………90 5,2,3 熱機関の概念(周期的動作)の理解に向けて……………・…・・……………92 5,2.4熱機関の概念(熱の仕事への変換)の理解に向けて…・……………・・………93. 5.2,5教育実践の評価一成果と課題一………………・・………………………・95 5.3 熱機i関の概念を定着させるための教育実践……・…………・・…………・・…100 5,3,1単元「熱とエネルギー」の指導観と学習過程・…………・……・・…………・100 5,3,2単元「熱とエネルギー」の学習過程における時間配分及び指導上の留意事項一提案一・・100. 5,3,3 理念型の学習による熱機関の概念(周期的動作)の理解………………・……101 5,3,4理念型の学習による熱機関の概念(熱の仕事への変換)の理解…・……………105. 5,3.5教育実践の評価一成果と課題一…・……………・…………・……・・……107 5.4 クラウジウスの変換の当量概念から熱力学第2則を理解させる教育実践…………U3 5,4,1熱力学第2則を導くための教材の設定……・・…………9…………・……・113 5.4.2環境理解を踏まえながら熱力学第2則を理解するための授業の実際・………・…・115 5,4,3環境理解を踏まえながら熱力学第2則を理解するための授業の評価一成果と課題一…I18. 第6章 理科教育・物理教育をテーマにした総合化の実現に向けて………………・・……122 6,1 「総合的な学習の時間」新設の背景一総合的な学習は今なぜ必要なのか一……・…123 6,2 環境教育クロスカリキュラムの教育実践と分析………………………一…、・125 6,2,1 クロスカリキュラムの特徴・……・…………・・………・………・…・・…・125 6,2,2環境教育クロスカリキュラムの設計……………・…・……………・一・…126 6,2,3科学クラブの活動の連携した環境教育クロスカリキュラム教材の作成…………・129 6.2,4物理を核にした環境教育クロスカリキュラム「大気と環境の問題」の実践と評価…132. 第7章 おわりに一総括的結論一………・………・……・・…………・……………140 7,1 環境教育的教材化による物理学習の教育的有効性・…………・……・…・…・…140 7,1,1第2・3章の概要と結論……・…・………・…………・…・…・……・・…141. 7.1.2第4・5章の概要と結論……………………・…・……………………144 7,1,3第6章の概要と結論・…・……………・……9……・……・……………152 7.2 本研究の総括的結論と課題・…・…………、……・……・……・………・・…155. 7,2.1総括的結論…・………………9………………・………・…・………155 7,2,2残された課題……・・…・………………………・………・………・…156 資料編…・…・…………・………・・………・……・…・………・…・・…………158 資料1 水スターリング熱機関の動作の観察(1)…………………・・……………・159 資料2 水スターリング熱機関の動作の観察(2)・………………………………・・160 資i料3−1熱機i関の学習プリントー周期的動作一…………・……・………………・・161 資料3−2熱機関の学習プリントー熱効率一………………・…………・……・・…・162 資料3−3学習プリント「熱機関と環;境の問題」 ・・……………・・……・………・…・163 資料4 物理教育セミナー「技術は物理法則を越えられるか」 ・・………………・・…・165 一熱力学的世界観の図的構成一. 資料5 紫外線の観察一クロスカリキュラム「大気と環境の問題」 …………………169 資料6 自己評価用紙一大気と環境の問題一……………・…・…・……………… 171 謝 辞・・…・… ……… ……・……… …・・…………・・……・………………・・172.

(4) 第1章 本研究の背景と概要 1.1 本研究の背景 1.1.1 物理学習の実態 (1)理科学習における課題. 1996年8月に中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方につ いて」が出され、今、子どもたちに最も求められる事柄として、「ゆとり」のなかで「生 きる力」を育むことが重要課題として提言されたのは記憶に新しい。そして、育成される べき「生きる力」については、変化の激しいこれからの社会において、子どもたちに必要 となることであるとして、. ・自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりょく問題 を解決する資質や能力 ・自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな 人間性. ・たくましく生きるための健康や体力 の3点が示された1)。そして、1998年7月に、教育課程審議会答申「幼稚園、小学校、中 学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」が出さ れ2)、新学習指導要領の骨子が固まっていった。答申では、現行の教育課程のもとにおけ る子どもたちの学習状況は全体としてはおおむね良好であるとしている。その根拠として、. IEAの国際調査結果などで見ると、日本の子どもたちの学力は国際的に見ても高い水準 にあることがあげられている。しかし、この調査結果のほか、研究指定校等における実践 や各種の資料・調査などを含めて総合的にみると、次のような問題もあると指摘している。 ①教育内容を十分に理解できない子どもたちが多いこと。 ②自ら調べ判断し、自分なりの考えをもちそれを表現する力が十分育っていないこと。 ③多角的なものの見方や考え方が不十分であること。 ④積極的に学習しようとする意欲等が(諸外国に比べて)低いこと。 これらは、子どもたちの理科の学力や学習状況の背後にある一般的傾向であるとともに、. 過度の受験競争の影響で多くの知識を詰め込む授業になっている現場の実態を浮き彫りに している。こうした状況から、学習内容の厳選による「ゆとり」の確保、基礎・基本の徹 底、総合的な学習の時間の設定による「生きる力」の育成といった内容の教育課程が示さ れることになったと考えられる。前年の1997年11月に出た教育課程審議会の中間まとめ「教. 育課程の基準の改善の基本方向について」では、子どもたちの理科の学習状況についての. より具体的な分析が行われた3)。そのなかで、各教科の内容における、「4理科 ア現 状と課題」において、次の3点が課題として示されている。 ①(植物の名称や化学変化で生じる物質名のような)単純な自然現象についての知識は 身に付いているが、知的好奇心や探究心が十分育っていない。 一1一.

(5) ②観察や実験は従前に比べてよく行われるようになってきているが、実験結果に基づい て考察し、根拠を考えたり、自分で課題を見出し解決する力や科学的な思考力が十分育 っていない。. ③学校段階が進むにつれて、抽象的な学習内容の増加や観察・実験の機会の減少などに より、理科に関する興味・関心が薄れている状況も見られる。. ①の探究心や科学的思考は、「生きる力」の中核とも考えられ、次期の理科教育において 十分に育成されるべきものと考えられる。②の科学的な思考については、1999年に実施さ. れたIEA(国際教育到達度評価学会)の第3回国際数学・理科教育調査の第2段階調査 (38ヶ予約18万名の中学生、日本では約5000名の中学2年生が参加)の結果において同様 の指摘がある4)。このように、日本の理科教育が行き詰まっている現状が垣間見られる。 以上のことから、今日の子どもの理科学習に求められる事柄は、月並みではあるが、 巨]知識を得る過程を大切にする理科学習であること. 回自然に関する関心・興味を深めさせる理科学習であること といった2つの問題に集約される。なぜなら、子どもたちの科学的(論理的)な思考力・ 表現力は、知識を獲得する過程で育てられるからである。また、子どもたちが自然に関す る興味・関心を深めていくことがベースになり、理科における知的好奇心や探究心、自分 で課題を見出し解決する力も育つと考えられるからである。すなわち、子どもたちが、知 識を得る過程を大切にしながら自然に関する関心・興味を深めていけるような理科学習の 再構築が求められるのである。 (2)物理学習における問題. 日本物理教育学会物理教育実状調査研究委員会は、1990∼1992年度大学入学者(約3万 6千人)を対象に、「高校物理についてのアンケート」と題し、物理の履修状況、授業に. おける実験の有無、学習内容などについて調査を行った5)。その結果、教室の7∼8割の 生徒が理解できず、実験もあまりなく、面白みを感じない授業であるということが明らか. になったとされている。こうした実態からも、q)で指摘された教育課題である、知識を 得る過程を大切にする理科学習、自然に関する関心・興味を深めさせる理科学習の必要性 が痛感される。. 次に、高等学校の物理選択者の減少について検討する。理科離れの最も深刻な断面であ る。2001年度の全国の理科教科書需要数(物理、化学、生物)は図1の通りである6)7)。. 図1で物理IBの需要数が、生物IB、化学IBに比べて少ないのは、ほとんどの高等学 校では2年次より文理のコースに分かれるが、過密な教育課程のなかでたいていは(受験 を意識し)文系コースに物理が位置づけられておらず、文系で物理を選択することがほと. んどないためである。また、大学入試でも受験科目が減り、物理か化学のうち1科目を選 択して受験できる理工学部も多くなっている。このように、物理は現在はあまり学ばれな くなってきているといわれるようになっている。 一2一.

(6) 図2理科教科書需夏奈良県内比較. 図1理科教科書需要全国比較 葺20. 1.2. 100. 1. 醇8。. 蕗a8. 綴. 蚕q6. 660 離40. 一. 燦。.4. 20. 0. 0.2. 0. 物理IA物理IB 物理皿 化学IA化学IB化学π 生物IA生物IB生物∬. 物理IA物理IB物理口 化学IA化学IB 化学皿 生物IA生物IB 生物∬. 文献6)より作成した、奈良県の理科教科書需要数(物理、化学、生物)を図2に示す。. 奈良県内の高等学校でも、全国(図1)と同様の傾向だが、化学IB、生物IBに対する 物理IBの比率は全国よりも低い、つまり物理履修率は全国よりも低いという現状である。 唐木 宏は、1969∼1989年までの20年間の物理履修率を報告し、旧課程における激減を物. 理教育の危機ととらえている8)。1969∼1972年では物理Bと物理Aの和で9割強、1977∼ 1980年では選択必修の物理1を8早強の生徒が学んでいた。1986年から実質的に始まった 旧課程では選択物理の履修率が35%弱と激減している。ここで、物理履修率は、物理教科 書需要数を全国高校生数の1/3(1学年分の数に相当する)で割って算出している。 物理履修率=物理教科書需要数/全国高校生数の1/3. 現行の物理履修率については報告がないので、旧課程の選択物理の流れをくむ物理IBの 履修率を文献6)と文部科学省の統計要覧から算出したが30%程度であった。これらを唐木 の計算値とともに図3に示した。. 旧課程では、物理生地の基本的な内容で構成したとされる理科1が4単位の必修であっ た。理科1物理分野は、力学と熱力学の内容になっていて波動や電磁気は含まれていなか. ったが、理科1物理分野の履修を(4分の1として)25%の物理履修率に読み替えたとし ても、選択物理の35%を加えて60%弱にしかならない。また、図3の1990年代の値(現行). は物理IBの履修率であるが、現行で新たに作られた生活との関連を重視した内容とされ. る物理IAを含めても約50%弱となる。これらの結果を表1に示す。表1のように、理科 1物理分野や物理IAを加えて楽観的評価を下したとしても、学習指導要領改訂の度に物 理履修率の10∼20%程度の減少が認められる。この割合で下がり続けると、2010年には実. 質30%になってしまうであろう。なお、図3や表1において、時代区分でとんでいるとこ ろは移行期間である。. 高等学校学習指導要領では、改訂の度に理科の単位数や科目選択のさせ方が大きく変化 してきた。1960年改訂の高等学校学習指導要領では、理科の必修単位は12単位であった。. 1970年改訂で6単位に激減し、現行および1999年改訂の次期学習指導要領では4単位にま で減っている。選択制が定着・普及したために、理科の全ての科目について履修者が減少 している。そのあおりで物理履修者は激減した。選択制について、第17期日本学術会議物 一3一.

(7) 理学研究連絡委員会報告「物理教育・理科教育の現状と提言」では、「…. 1970年改訂. 以来、改訂のたびに進められてきた高等学校教育課程の選択の拡大は、全体を見ると幅広 くカバーしているように見えて、その実、一人一人の生徒は極端に偏った内容しか学ばな い制度である。これが果たして日進月歩の科学技術の発展に対応できるものであり、国民 の利益にかなうものかどうか…. 」真剣に検:討する必要があると指摘している9)。. 図3物理履修率. 竃. 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0. 1960. 1970. 1980. 1990. 2000. 2010. 年度. 時代区分. 1969∼1972. 履修率[%]. 91∼93. 備 考. 物理A・Bの和. 1977∼1980. 60. 50. 選択物理と理科1 ィ理分野の和. 物理IBとIA. 82∼87. 物理1のみ. 1996∼2000. 1986∼1989. フ和. 表1 物理履修率の変遷 1.1.2 物理学習の再構築に向けて一子どもの探究的態度を育むために一 現行の学習指導要領による教育課程が定着しはじめた平成5年、全国理科センター研究 協議会(全理セ)は、東京都立教育研究所と大阪府教育センターの提案により、「何故、 物理履修者は減少したのか、履修者を増加させるにはどうしたらよいか。」をテーマに、 全国の教育センターなどにアンケート調査を行っている’0》。この調査の価値は、テーマ の重大性に加えて、教育現場を知悉している(物理の)指導主事がいる各県の教育センタ ーに対する全国調査であることが挙げられる。この調査によると、物理履修率低下の要因 は次のように整理することが可能である。 ・社会的に物理(を含む理科)が軽視されている状況がある(社会的要因)。 ・生徒が物理を身近なものと感じていない(生活的要因)。. ・学校の効率的な知識注入のためのカリキュラムの現状(教育的要因). 一4一.

(8) これらの要因から、物理教育と「生活」との乖離、物理学習と生徒の人間的成長の分断が 見える。一般に、現在の初等・中等教育では、教科制の枠内で上級学校の入試を意識した 学習指導における「学問のマニュアル化」がまねく孤立した知識の一面的な理解の弊害な どが指摘されて久しい。そして、学習者の体験不足や学びの受動的態度といった問題がは びこっている。学校という閉じた空間でのみ通用する知識は、「学校知識」という言葉で よばれるようになった。学校知識は、社会とつながっていないので孤立している。したが って、学びの強制力がなくなればすぐに忘れ去られてしまうことが多い。. 今流行りの「生きる力」という教育的キーワードが流布していなかった1984年、元兵庫 教育大学教授・同附属中学校長の杉浦美朗はデューイの問題解決学習に関連して次のよう に述べている1D。. 『「学習の主体」としての「子供」が「科学の方法」そのもの一「探究の方法」そのも の一を身に付けること(to organize)一「自分自身の生き方とすること」一こそ「問題 解決学習」と呼ばれるデューイの「教育方法」論の狙いとするところであります。』. また、ICU高校の滝川洋二は、1996年のイギリスでの「科学教育研究大会」で、同国の 教育研究者が次のように指摘したと引用している12)。. 「国際調査によると、日本の理科の得点は高いがイギリスは低い。しかしそれは、イギ リスの教育が探究中心で、知識の定着を必ずしも優先していないからではないか。それに 比べて日本の子どもの知識の定着は早い。しかし、その知識は表面的でテストで高得点を あげるのに役立っているに過ぎない。本当の意味の科学的な理解や創造的な能力は、探究 にじっくり取り組むことで開発できる。その点で、日本は大変遅れている。」. これらの引用の中で、「探究の方法そのものを身に付けること」、「探究にじっくり取り組. むこと」は、1.1.1で指摘した理科学習における課題(知識を得る過程を大切にし、自 然への関心・興味を深めること)が学習者の人間的成長という観点から幅広く表現された ものである。学習者が探究にじっくり取り組み、探究の方法そのものを身に付けることを 可能にするような物理学習はどのような教育方法により可能となるのか。. このような物理学習は、社会から孤立した「学校知識」を、学習者の経験とつながった 意味のある”学び”につくり換えること、即ち物理学習を再構築することによって成立す ると考えられる。そのために、学習者の生活や現実の延長上にあり、また関心も高い環境 問題やエネルギー問題など、全人類が直面している課題を見据えながら、物理的な考え方、. 問題解決能力を身につけさせるような物理学習による指導を提案する。このような指導の 在り方を、「環境教育的教材化」とよぶ。ここでいう教材化とは、ハード面としての具体 的な実験装置などの教材の開発と、ソフト面である指導法の研究を含む教育的営みを示す 概念である。そして、『環境教育的教材化に基づく物理学習は、学習者の探究的な態度の 育成を可能にし、学習者の現実や生活(の延長としての人間環境)とつながつた意味のあ る学習となり得る。』という教育上の見通し(仮説)を主張する。その仮説は教育実践に 一5一.

(9) よって意味のある検証が行われなければならない。. 1.1.3 物理学習における環境教育的教材化の重要性 「環境教育的教材化」の重要性が主張される根拠として. (D全地球的に求められている持続可能性に向けた教育内容の再構成 (2)教育の問題と環境問題の背後にある共通原因の存在 (3) 「経験の再構成」としての学習論から. の3点が挙げられる。これらは、物理のみならず全ての教科・科目に適用される性質のも のである。. (1)全地球的に求められている持続可能性に向けた教育内容の再構成. 1997年12月に、ユネスコとギリシャ政府によってテサ直轄キにおいて、「環境と社会に 関する国際会議一持続可能性のための教育とパブリックアウェアネスー」が開催された。. 政府機関、NGOなど83力国からの参加者で採択された宣言の中には、学校教育に直接関 係するものとして次のようなものがみられる13)。. ・環境教育は今日までトビリシ環境教育政府間会議の勧告の枠内で発展し、進化して、. アジェンダ21や他の主要な国連会議で議論されるようなグローバルな問題を幅広く取り 上げてきており、持続可能性のための教育としても扱われ続けてきた。このことから、 環境教育を「環境と持続可能性のための教育」と表現してもかまわないといえる。. ・持続可能性に向けた教育全体の再構築には、全ての国のあらゆるレベルの学校教育・ 学校外教育が含まれている。持続可能性という概念は、環境だけではなく、貧困、人口、. 健康、食糧の確保、民主主義、人権、平和をも包含するものである。最終的には、持続 可能性は道徳的倫理的規範であり、そこには尊重すべき文化的多様性や伝統的知識が内 在している。. 2000年11月には、ユネスコによって、「環境に関する国際専門家会議」がスペインのコ ンポステーラにおいて開催され、環境教育については、持続可能な未来のための教育の必 要性のなかで、学習者中心の参加・活動型の教育方法の促進などが確認された14)。前後 するが、1999年12月には中央環境審議会答申「これからの環境教育・環境学習一持続可能 な社会を目指して一」が出された15)。同答申は、テサ君影キ宣言の内容の踏まえ、環境 教育・環境学習は持続可能な社会の実現を目指して行うものであるとの基本的認識が見ら れる。持続可能な社会の実現のためには、環境問題のみならず現在のライフスタイルや社 会システムを構成している様々な事柄に目を向けていく中で、社会システムのあるべき姿 やそれに至る道筋について、国民一人ひとりが自ら考え、答えを出していくプロセスも環 境教育・環境学習の重要な要素であるとしている。そして、こうした一人ひとりの意識の 深化・発展が、ひいては社会全体のパラダイムの転換につながり、環境問題の本質的解決 の道を開くともの考えている。 一6一.

(10) (2) 教育の問題と環境問題の背後にある共通原因の存在. 2000年6月8日に、第17期日本学術会議声明『「人間としての自覚」に基づく「教育」 と「環境」両問題の統合的解決を目指して一新しい価値観に支えられた明るい未来の基盤. 形成一』が、第132回総会において発表されている。その中で、『20世紀は、物質とエネ ルギーを中心として、豊かさを追求する文明がほぼ頂点を究めた世紀であった。この「物 質・エネルギー志向」という根本価値から派生した多くの価値観に支えられて到来した大 量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムは自然や環境の破壊をもたらし、人類の将来. に大きな不安を投げかけている…. 』と問題を提起し、r…. 最近社会的関心が高ま. っている教育問題も、実は「物質・エネルギー志向」という狭隆な根本価値への追求が破 綻してもたらされたものであると反省される…. 』として、心の荒廃が生む教育問題と. 生物・物質的資源の荒廃が生む環境問題との間にある(これまで見過ごされていたとされ る)深い関係の認識のもとに、両問題の解決の方途を『…. 今日、我々にとって必要な. ことは、新しい世紀における人類の安全を保障するために、次世代への視点をもって脱「物 質・エネルギー志向」へと根本価値の転換を図ること…. 』に求めている16)。また、『・. ・・「教育」の一部に「環境」を入れ、あるいは「環境」の一部に「教育」を入れるとい う局所的な試みだけでは解決につながらない…. 』17)、『…. 教育課程の全ての領域. に”人間と地球・自然は如何にあるべきか”について、歴史の事実(人類の過去の経験、. 古典)を踏まえた考察を導入する…. ”知識”を与えるだけでなく、理念と論理構造お. よび推理と創意工夫など、”智恵”の育成に重点を置かなければならない…. 』18)な. ど、教育の一分野としての環境教育観が否定され、教育者も学習者も”人間と地球・自然 のあるべき姿”をともに希求するような教育の必要性を主張している。つまりは、環境理 解(知識)は行動への意欲(智恵)につながるべきものであるして、全ての教科に学習の 再編成が強く求められている。. 新しい世紀における人類の安全保障といった意味での持続可能性を見通し、学習者が指 摘された脱「物質・エネルギー志向」の価値観に向かうような学習内容の再構築が、物理 を含むあらゆる教科教育に求められている。そのような文脈のなかで、環境問題やエネル ギー問題など、全人類が直面している課題を見据えた内容で、物理的な考え方、問題解決 能力を身につけさせるような物理学習が、人類の視点から見て重要になると考えられる。 (3) 「経験の再構成」としての学習論から. 物理の教師ならば誰でも、探究的な学習といえば観察や実験を思い浮かべるであろう。 物理では、理科の他の科目と同様、学習指導要領に「…. 仮説の設定、実験の計画、実. 験による検証、実験データの分析・解釈、法則性の発見など探究の方法を、それぞれの観 察・実験を通して習得させる。また、…. 」19)とあるように、観察・実験が探究の必. 要条件のように考えられている。しかし、学習している内容が、日常の生活と分断されて いると学習者が考えたり、自己との関わりのないものと判断されるならば、探究はそもそ 一7一.

(11) も成立しないのではなかろうか。杉浦美朗は、探究の成立について次のように述べている。. r…. 「学習の主体」として「子供」が「自ら探究を展開すること」を通して「科学の. 方法」そのもの一「探究の方法」そのもの一を「身に付けること」一「自分自身の生き方 とすること」一が期待されております…. 』20)デューイは、教科や教材(に含まれる. 事実や真実)が(子どもの経験の)外部から提示される場合の弊害を3っ指摘している21)。 それらは概要次のようになる。 ①事実や真実を獲得する方法(=「事実を解く鍵」)が得られない。 ②子どもが学ぶための動機が欠如する。. ③主体(学習者)と環境(教材)との相互作用という教育の特質そのものを見失う。 物理教育の場合においては、学習者は教材をイメージできないので学ぶ意義を見いだせず、. 学ぶための動機がないままに学習を進めようとする。そして、記憶以外の学びの方法が得 られないので理解ができない。このように先述した、知識を得る過程を大切にする物理学 習(理科学習)、自然に関する関心・興味を深めさせる物理学習(理科学習)とは正反対 の学習になってしまう。このように、学習者と教材の相互作用(という経験)が成り立た ないところでは、デューイのいう「経験の再構成」としての学び(デューイはこれを”探. 究(inquiry)”とよんでいる)が成立しなくなるのである。よって、子どもが「自ら探 究を展開する」ということも期待できない。そして、このような状況から脱出するために、. デューイは「…. 教材を子どもの生活の一連の領域内や活動範囲内で取り上げ発展させ. ることであると、今一度説明しておきたい。…. 」22)と述べている。子どもの経験や. 生活を含む「人間環境の問題」と教材を結びつけることにより、学習者は学ぶ意義や価値 に気付き、探究的な学びも「自ら」行われるようになると考えられる。. 1.1.4 環境教育における物理の位置付け 理科学習では、環境教育の視点を生かした学習指導が重要視されてきた23)。特に、現. 行の理科においてはIAを付した科目に内容が豊富である。文献23)によると、理科にお ける環境教育では、人間の生存と働きを支える諸条件(=人間環境)の一つである自然環 境についての認識がその基本となる。そのため、. ①自然のありのままの姿を正しく把握し認識すること ②自然のつくり・仕組み(自然現象の背後にある法則)を正しく理解すること が重要になってくる。こうした方向性は普遍的なものであり今後も変わらないであろう。 したがって、「総合的な学習の時間」で行われる環境学習などと連動し、それを現象の把. 握や法則の理解といった2つの視点から深化・補完する学びが、理科における環境教育と して期待されるのではないかと考えられる。そして、これは理科本来の方向でもある。. それでは、物理における環境教育の今後の方向性や実践の望ましい在り方はどのような ものなのか。これまでまったく意識されてこなかったが、桐山信一は高等学校の物理にお 一8一.

(12) ける環境教育には、図4のような2つの方向性が存在し得ることを示し、環境教育的教材 化の方向性とした24)。以下、これを説明してみたい。. 個々の現象把握から行う環境教育 ・…原子力と放射線、燃料電池、紫外線などの個々. 環境理解の2つの方向性 (環境教育的教材化の方向性). のテーマのなかで、環境問題と関連させながら 物理現象を理解する。 熱力学法則の理解から進める環境教育 ・…熱力学領域の再編成により、環境問題と関連さ. せながら2つの熱力学法則を学習する。. 図4 物理における環境教育的教材化の2つの方向性 (1)自然のありのままの姿を正しく把握し認識する方向性. 物理も化学・生物と同様、具体的な事象に則して、自然のありのままの姿を正しく把握 し認識していこうとする方向性をもっている。電磁波、放射線に関する学習や、紫外線の 観察のように、環境理解(自然環境・生活環境への関わりの考察を通して、学習者が環境 主体としての意識を育むこと)に直接結びつき易いものが考えられる。この方向性による 学習方法(教育方法)を、物理における「現象把握から行う環境教育」とよぶ。普通、環 境教育といえば、この方向性の実践を意味する。一般に、理科における環境教育教材は、 生物・化学・地学に広く存在し、物理では教材・実践事例共に少なく内容的にも「原子力」. などに偏っている(日本環境教育学会のデータベース)25)。2000年11月に、桐山が奈良 県内の理科教員(物理・化学・生物・地学)対象に実施した、環境教育実践に関するアン ケートでも、授業で環境教育を実践している科目の有無については、物理を専門とする教 員が「ある」とする割合が、化学や生物に比べて低いこと、化学と生物の多様な実践に比 べて、物理は原子力に関する内容に集中しているなどがわかっている26)。よって、物理 においては「原子力」など現在行われている教材化の他に、「現象把握から行う環境教育」 のための幅広い教材研究が求められている。. (2)自然のつくり・仕組み(自然現象の背後にある法則)を正しく理解する方向性. しかし、理科における環境教育の2つの方向性から考えると、もう一つの在り方が見え てくる。物理で学習する熱力学第1則(エネルギー保存則)、同第2則(エントロピー増 大則)は、学習者の自然観形成に深く関わると考えられる。これらは、自然環境を統一的 に理解する視点となる。このような学習は、環境理解に直接結びつきにくいかもしれない. が、熱や物質の拡散・廃棄という環境問題の物理学的本質と関連させながら、熱力学第1 則、第2則を理解させようとするものである。この方向性による学習方法(教育方法)を、. 物理における「法則理解から進める環境教育」とよぶ。また、2つの熱力学法則と密接な 一9一.

(13) 関係にある熱機関の学習が物理で行われていることから、「法則理解から進める環境教育」. は物理固有の学習であり、物理における環境教育の独自なアプローチとして、教材・指導 法などの進展が期待される。 (3)熱力学領域と環境問題の関連性. 熱力学では、高熱源一系(熱機関) 一低熱源という概念装置の枠組みの中で、廃 熱を捨てて系を元の状態に回復させるための低熱源の必要性は、熱力学第2則として結実 している。普通、廃熱は必ず気体や液体などの物質を伴って捨てられる。しかも、自動車 や火力発電などの現実装置では、低熱源は高熱源と並置されるものではなく、低熱源の存 在のもとに、つまり少なくとも低熱源がさらに温度の低い大気空間(あるいは海水などの. 水空間)に接続され、それらは変化し得るという状況の中に、関係「高熱源一熱機関 一低熱源」が成立している。その意味で、我々が環境とよんでいる水や大気に直接接続 された低熱源を、広い意味で「環境」と考えることが可能である。このような考え方を進 展させ、熱機関の理論を原点に戻って整理し、熱化学機関、生命、生態系、地球環境など の持続的活動に必要不可欠な法則を導こうとするエントロピー論が生まれた。勝木 渥に よると、「環境」とは、「人間活動の結果生じた高エントロピーの物やエネルギー(廃物 ・廃熱)の拡散する空間」あるいは、「生命系に低エントロピー物質を供給し、生命系か ら熱と高エントロピー物質を排出される外界」であるとしている27)。その空間に存在す る物やエネルギーのエントロピーが低いほど、廃物や廃熱を引き受ける能力(容量)が大 きく、「良い環境」ということができる。さらに、時間の流れを考慮に入れると、「良い 環境」とは、低エントロピー状態を定常的に保証できる安定したエントロピー廃棄機構を 備えた系といえる。人類の行う産業活動は、長年地中に蓄えられてきた太陽光によるエネ ルギー資源である石油・石炭と、地球の生成時から蓄えられている放射性元素や他の鉱物 資源を短時間に消費してエントロピー生成を行うという特徴を持っている。地球には物質 循環(水・大気循環)をともなったエントロピー廃棄機構が備わっている。物質循環は、. ミクロなレベルでは呼吸・解糖過程におけるクレブス回路や光合成暗反応におけるカルビ ン回路、中規模では血液循環や植物における水分の移動、大規模なものでは水・大気循環 や炭素循環、大洋・大陸間の物質循環、地球内部の物質循環にいたるまでさまざまなレベ ルで現れ、小さな循環が大き循環に含まれるエントロピー廃棄の多重構造をつくりあげて いる。もしも、最終的な環境である宇宙空間へのエントロピー廃棄が追いつかなくなると、 地上にエントロピーが蓄積され地表の無秩序化が進行する(物汚染・熱汚染)28)。. 環境教育の対象としての「環境」は、客観的実在としての自然とは異なり、「主体」概 念なしには説明できないものである。周りにあるもの(自然)ではなく、周りにあって自 分(主体)と関わりをもつものとして説明されている。林 智は、環境を「主体の存在と 機能を支える諸条件」として定義している29)。そして、主体としてのヒトと相互作用す る自然を「自然環境」、ヒトと自然環境からなる系を生態系とよんだりする。さらに、ヒ 一10一.

(14) トが自然環境へ働きかけ、文明や社会が形成されたときヒトは「人間」となり、人間の存 在と機能を支える諸条件としての「人間環境」が意味をもつようになってくる。人間環境 は自然環境より大きい概念である。杉浦美朗はデューイを引用して、r…. 人間は自ら. を脅かす自然の諸力を「技術」を用いて逆に利用することによって、自らの現実の生活の 「安全」を確保してきました。…. 』と述べている3ω。ヒトは、技術にまず「安全の確. 保」を求めたことは間違いない。林 智は、文明の2本柱である科学と技術にヒトが追い 求めた価値のうちで、. ・文明の初心「安全」をかえりみず、「利便」の追求が構造的に人類社会において暴走 しつつある状況が原因となり、自然環境における廃棄物問題として顕現しているのが現 代の環境問題の構造である。. と指摘している3D。このような指摘は、物理学上も全く正鵠を得ている。廃棄物問題は、. 物理学上はエネルギー消費にともなって、熱力学的「環境」において生じる熱や物のエン トロピーの蓄積問題として再把握される。このことは、(物理教師が)環境教育を進める. 上での1っの基本的認識となる。こう考えると、環境教育は物理学上のエントロピー問題 とつながってくる。熱力学分野は環境教育にとって見過ごせない領域である 1,1.5 熱力学法則の理解から進める環境教育 (1)高校生が持うている熱の概念. 小学校では、第4学年の単元「物質とエネルギー」の中で、物を温めたときの変化と温 まり方を学習する32)。金属板の熱伝導の様子の観察や材質による熱伝導の違いなど、熱 が伝わる現象における規則性を学ぶ。そして、伝わる熱量の大小は、(熱)膨張の度合い で見積もられる。ここでは、「熱が動く」という熱物質論的理解である。. 中学校では、理科第一分野において単元「温度と発熱」があり、熱量は「温度変化を起 こす原因」としてとらえられている33>。水などの加熱実験から「質量×温度上昇量」に 比例する量が熱量であるとして、単位カロリー[cal]とともに熱量概念が導入される。次 に、単元「電流の働きと電子の流れ」、単元「仕事とエネルギー」へと続く。ここでは、. 熱量(=熱物質論的理解)から、定性的にエネルギーへと導く。したがって、高校入学時 の生徒のもっている熱の前概念は、「物質的な」熱量概念である場合が多いと考えられる。. (2)熱力学第1則(エネルギー保存則)を理解するために必要な教材は何か?. 現行課程における高校の物理や化学では、計量法改正の影響を受けて、熱量をジュール 単位で教えることになっており、このことは必ずしも教育的とは言えない場面がある。「熱 とエネルギー」の単元で単位[ca1]が使われないために、熱の仕事当量が本文からはずさ れた。水の比熱が4.2」/gKというのは、何が基準になっているのかはっきりしないので、. 教科書でも脚注や補足を設け、単位[cal】や熱の仕事当量を取り上げている現状である。. しかし、熱の仕事当量は力学と熱力学の接点でもあり、エネルギー保存を理解する上で必 一11一.

(15) 要な教材であることが教育実践の立場から導かれている34)。. 熱も含めたエネルギー保存を理解するためには、. 国 熱がエネルギー(の移動量)であるという実験事実 回 熱運動論的理解による理論的な意味付け が必要である。1として、熱の仕事当量(ノ値)の測定実験がある。 普遍定数. mの存在. ⇒. ュ生. ⇒. i実験). ノよる. モ味付け. 熱機関. 内部エネルギー. 熱運動論. 熱の. ⇒. T念の演繹的. ア入. ⇒. E等温変化 E定積変化 E定圧変化 E断熱変化. 熱力学第1則 ⇒. Eエネルギー保存. M力学第2則 Eエネルギー消費と. @劣化. よって、上記のような、学習者の熱量概念を熱エネルギーへと転換させるための指導計 画が求められる。しかし、熱の仕事当量については、次のような不要論がある。 ①SI単位系の推奨という立場から、「… [」}と[cal]の関係は、いわば、[N]と[kgw]. のような基本単位と補助単位の関係に過ぎない…. わざわざ熱の仕事当量などを持ち出. して 罪=ノ’Q と表す必要はないので 確=Q として一向に差し支えない…. 」35). と指摘される。. ②1ca1の定義を熱的に与えることの困難さからくる、ノの値を統一できない事情を理由 に、「現在は熱がエネルギーの一一種であることを疑う人はいないと思うので、エネルギー. という言葉が神秘的ひびきをも6ていた時代の実験を現代の学生に行わせることは不必要 のように思われる。熱はジュールという単位で測ることで十分である。」36)という指摘 もある。. これらに対し、筆者は、. ③学習者のもつ「熱量的な考え方」を、どのように「熱エネルギーの概念」に変容さてい くのか。. ④熱力学第1則を体験を通して理解させるには、どのような実験が必要なのか。 という教育実践の視点から、熱の仕事当量という概念そのものの価値ではなく、「教材と しての熱の仕事当量」の必要性を主張し反論するものである。一方、上のような不要論は、. 国際度量衡総会の決定の尊重、学問的事実の立場から導き出されたものと考えられる。ど うしても、ノ≒4.2J/calが受け入れられないのであれば、ノ’=1J/J (分子のJはエネル. ギー単位、分母のJは熱の単位)としてすすめることができる。その場合、上記の反論点 ③に工夫を要する。熱がエネルギーの一種であることを疑う人はいない現代であっても、. 熱の移動や伝導という生活経験を踏まえ、エネルギー概念形成に向かう指導法が求められ ている。. 一12一.

(16) アインシュタインとインフェルノが、「(熱の仕事当量の発見という)一度この重要な 仕事がなされてからは、以降は(エネルギー保存則の確立は)急速に進歩しました。」と 述べているように37)、熱の仕事当量が理解されたことによりエネルギー保存則が急速に 確立されたとする歴史的事実も教育上忘れられてはならない。 (3)物理教科書に見る熱の学習の変遷 学習の順序 ①熱量の学習. 学習内容 比熱、熱容量、熱量保存則. ↓. ②仕事と熱. 摩擦発熱、熱の仕事当量. ↓. ③内部エネルギー. 熱力学第1法則、エネルギー保存則. ↓. ④自然現象の不可逆性. 拡散、熱伝導などの分子論的説明. ↓. ⑤熱機関. 熱効率. 表2. 熱の学習の順序(1). 教育課程を遡れば、1970年代の物理1・Hの時代には、熱の学習は大きく分けて2つの 流れがあったように見受けられる。一つは、表2のような順序による学習である。ただ、 「⑤熱機関の学習」が 「②仕事と熱」の後に行われるといったように、学習には様々な バリエーションがあった。表2の学習順序は、 (ア)熱量学から熱運動論、エネルギー保存則へと発展した熱の概念進化の歴史的経緯 を踏まえたものであり、また、. (イ)温度変化の原因としての熱の理解や小中学校で習得する熱量概念. といった学習者の経験が重んじられていたと考えられる。 (イ)については(1)でも述べたとおりである。以上を踏まえ、表2の学習順序を「経験型」 とよぶ。. もう一つは、熱量の学習を行わず、最初から熱をエネルギーであるとして通す立場のも のである(表3)。それには、次のような理由があるとされている38)。. (a)分子・原子という「原子論的な見方」が生徒に定着しているので、その状態の上に 高校教育を展開する。. (b) 「巨視的」な見方1本で進めると、生徒の理解を支える”物質的背景”が弱く、結 果的に理論が浅いとの教育体験をよく聞く。. (c)案外に「微視的」立場というのはわかり易く、一応わかったという気持ちにさせる 要素をもっている、という声もよく聞く。. 一13一.

(17) (d)物理の基本概念である”仕事”や”熱”をenergy flowとして位置づけるには、. energyの宿る場所をはっきりさせ、”分子の運動エネルギー”を導入するのがよい。. これらの理由は、当時の理科教育現代化運動の影響を受けていると考えられる。また、教 育現場の声や生徒の実態を印象的に反映したものでもあり、その意味では評価できるが、 以下のような問題も認められる。(a)については、次のように考えることが妥当であろう。. 学習の順序 ①熱運動と温度. 学習内容 熱の分子運動論的説明(定性的). ↓. ②内部エネルギーと熱. 絶対温度と内部エネルギー. ↓. ③熱と仕事 内部エネルギーの変化 熱力学第1法則、エネルギー保存則 ↓. ④自然現象の不可逆性. 拡散、熱伝導などの分子論的説明. ↓. ⑤熱機関. 熱効率. 表3. 熱の学習の順序(2). (Dで述べたように、高校入学時の生徒の理解は、「温度変化の原因としての熱」である。. また、原子論的な見方が基礎になる化学を履修した後の物理の履修であったとしても、そ. れは物質の構造や化学的性質の説明に使われており、化学の1分野である熱化学での反応 熱の扱いは必ずしもエネルギー的ではない。よって、(a)のように「原子論的な見方」が 生徒に定着しているとは言えない。(b)については、「経験型」の学習順序であっても「巨. 視的」な見方1本で進めることはあり得ない。(C)は、現象の力学還元的説明のし易さで あると考えられるが、(b)とは逆に「微視的」な見方1本で進めることは学習者の生活経 験を無視することにもなりかねない。(d)も(b)と同様、「経験型」の学習順序においても. ”分子の運動エネルギー”は導入される。表3のような学習順序は生徒の学習履歴や生活 経験よりも熱の理論が先行していると判断されるので「理論型」とよぶ。筆者は、「経験 型」の学習順序をそのまま肯定するわけではないが、「理論型」の学習順序は生徒の学習. 履歴や生活経験を踏まえて再構成されなければならないと考える。物理1・Hの時代が過 ぎて、理科1・選択物理の時代になると、熱の学習順序は「経験型」に変わっていった。. そして、現行の物理IB・Hでは、(2>で述べたように、「経験型」の学習順序に熱量を はじめからエネルギー単位で導入し、熱と仕事の関係の説明を後にもってきて補足すると いう(苦心は認められるがやや整合性のない)学習順序が示されているのである。 (4)熱力学法則の理解から進める環境教育の課題. これまでに述べたように、熱の学習1頂序にはさまざまなパターンが考えられる。学習順. 一14一.

(18) 序は、学習者が熱力学法則を理解していく道筋である。既に述べたように、「持続可能性」. という人類の立場から、熱力学領域においても学習の再構成が求められている。それは、 「経験の再構成」としての学習を人間環境との関わりの考察としてとらえ直すことであり、. ここでは「経験型」や「理論型」の学習順序を環境教育の理念のもとに再編成していく過 程であると考えることができる。そのために、以上の議論を踏まえ、下記に示すような2 つの課題を設定し、次にその克服に向けた学習内容を検討するための研究課題を示すこと としたい。. 1 学習者の熱量概念を、どのように熱エネルギー概念に変容させていくのか。 既に示したように、高校生の熱の理解はエネルギーではなく熱量的である。したが. って、はじめから熱はエネルギーであるとして、単に、1calニ4.2J という単位換 算の問題ですますことはできない。. H エネルギー保存則と、通常のエネルギー消費の考え方をどのように結びつけるのか。. 物理学的な「エネルギー」とエネルギー問題の「エネルギー」の意味の違いをどの ように理解させるのか。エネルギー消費はエネルギーがなくなることではなく、エネ ル跡地が不断に劣化することであるという認識、その結果、エネルギー(資源)を使. うと、必ず環境に影響を与えることになるし元には戻らない。つまり、1.1.4で述 べたようにエネルギー問題はエントロピー問題(廃棄物問題)であるということをど のように学習させるのか。. 次に、.課題に基づいて研究テーマを具体化し、課題解決に向けた方途を探りたい。課題 1の学習者の熱量概念を熱エネルギー概念に変容させるような教材化に向けて、. ①エネルギーとしての熱の「普遍性」を示す熱力学第1則(エネルギー保存則)を理解す るために必要な「熱の仕事当量」の実験に関する教材研究及びその実践的検証 にある。. 課題Hのエネルギー保存則をエネルギー問題と関連させ、エネルギー消費や熱汚染の意 味を考えさせるような学習のためには、. ②2つの熱力学法則を体験的に理解するための教材開発(熱機関の製作)と指導方法の確 立及び教材・指導法の実践的検証 ③カルノー効率という制約をもつ熱の「特殊性」を示す熱力学第2則(エネルギー劣化則). を環境問題と関連させながら理解するための教材研究とその実践的検証 が必要である。これらの研究課題①②③を、テーマ「エネルギー」とよぶことにする。. 1.1.6 物理教育をテーマにした総合化における環境教育 学習者に環境理解を踏まえ、環境主体としての意識を深めさせるためには、物理学習に 総合的な視点をもたせなければならない。また、地球的な環境問題の解決に向けて、環境 教育・環境学習を進めるにあたっては、総合的な視点が必要とされている。そこで、環境 一15一.

(19) 教育的教材化の第3の方向性として、複数教科の統合的指導の形態をとる、物理を核(中 心)にした環境教育クロスカリキュラムを提案する。その理由は、以下に示すように、日 本の学校教育では各教科で行う環境教育が主流であるからである。環境教育のように複数 の教科に関連する教育カリキュラムは、ゆるい連携型、クロスカリキュラム型、統合型の. 3タイプに分けられる39)。統合型の環境教育は、現行では地域・学校・生徒の実態に応 じて学校独自に設置することのできる「その他特に必要な教科」40)として、高校で実施 されているが、その数は少ない。また、環境教育は教育そのものであり環境科のような教 科を作るべきでないとの指摘もある41)。国立教育研究所の教師調査では、各教科におけ る環境教育のための教材の充実を望む声が大半であり、現行あるいは新課程の時間数削減 から見ても、各教科で行う環境教育が現実的かつ息の長いものとして判断され実践されて いる現状が見えてくる42>。一般に、環境問題は、様々な側面(構造)を持っている。ク ロスカリキュラムでは、問題のいくつかの側面をそれぞれに最も有効と考えられる複数の. 教科・科目から学習させる。図5に、オゾン層破壊の問題を一例として示す。このような 授業では、学習者は異なった複数の視点からの考察を通して対象となる問題の構造を理解 すると考えられる。そして、一面的な学校知識の注入を越えて、生活や現実とつながった 意味のある学習を展開し、探究的な態度の育成を可能にすること、ひいては環境問題を解. 決する1つの力となることが期待される。さらに、第17期学術会議声明「人間としての自 覚に基づく教育と環境両問題の統合的解決を目指して」において述べられた「物質・エネ ルギー志向」の価値観が共通底辺となって発生した2つの問題(図6)を解決するために、 「新しい価値観形成」の1つの動機となることを願うものである。. 国. 環境. 環境問題 社会科 (地歴・公民}. 理科(物理). 難灘1零細量. 価値観「物質・エネルギー志向」. 図6教育問題と環境問題のつながり. (当事者としての疑似体験). 図5 複数の視点からの学習. 1.2 本研究の概要 1.2.1 本研究の目的と方法 (D本研究の目的 これまで、今日の子どもの物理学習に求められる事柄として、. ・知識を得る過程を大切にする物理学習であること 一16一.

(20) ・自然に関する関心・興味を深めさせる物理学習であること. という2っの問題を指摘することから出発し、持続可能性の観点から、環境問題やエネル ギー問題など全人類が直面している課題を踏まえ、物理的な考え方や問題解決能力を身に つけさせる物理学習(環境教育的教材化による物理学習)の必要性を示した。本研究の目 的は、「環境教育的教材化に基づく物理学習は、学習者の探究的な態度の育成を可能にし、. 学習者の経験あるいは現実や生活(の延長としての人間環境)とつながつた意味のある学 習となり得る。」という仮説を教育実践によって検証することにある。. 図7 本研究の目的 仮説「環境教育的教材化に基づく物理学習は、学習者の探究的態を 育成し、学習者の経験とつながった意味のある学習となる。」. 環境教育的教材化. ◎学習者の探究的態度の. (1)テーマ「紫外線」. (2)テーマ「エネルギー」. 教育実践 (物理学習). (3)環境教育クロスカリキュラム. 育成. ◎現実や生活とつながっ た意味のある学習. まず、そのための教材研究として、1.1.4で示したように物理における現象把握から 行う環境教育では、「原子力」「放射線」などをテーマにした環境教育的教材化は比較的 広く行われているが、新課程を目前に今日的課題を含む他のテーマに関する環境教育的教 材化はほとんど行われていない。本研究では、教材研究のテーマを「紫外線」とすること にした。このテーマについては、 ・学習者の関心が高い(日常生活と深い関係をもつ問題)。. 日焼け、UVカット、発ガン、 DNA損傷など ・物理として実施可能である。. 紫外線の観察、測定器の製作、データがいつでもとれる ・社会的重要性が高い。. 紫外線の生態系影響、フロンガス普及の社会問題など、今日的課題に結びついている。. などが、取り上げた理由として挙げることができる。次に、物理における熱力学法則の理 解から進める環境教育のテーマ「エネルギー」に関連する教材研究である。その具体的課 題は、1.1.5で示したように、. ①エネルギーとしての熱の「普遍性」を示す熱力学第1則(エネルギー保存則)を理解す るために必要な「熱の仕事当量」の実験に関する教材研究及びその実践的検証. ②2つの熱力学法則を体験的に理解するための教材開発(熱機関の製作)と指導方法の確 立及び教材・指導法の実践的検証 ③カルノー効率という制約をもつ熱の「特殊性」を示す熱力学第2則(エネルギー劣化則). を環境問題と関連させながら理解するための教材研究とその実践的検証 一17一.

(21) の3点にある。そして、最後に、物理教育をテーマにした総合化のための教材研究である。. これについては、1.1.6で示したように、複数教科の統合的指導の形態をとる、物理を 核(中心)にした環境教育クロスカリキュラムの開発にある。本研究の目的は、以上の教 材研究をもとに、教材を多様な教育実践にかけて、上述の仮説を検証することにある。以 上の説明を図示すると、本研究の目的を図7のように示すことができる。 (2)本研究の方法. 本研究において、持続可能性に向けた物理学習の再構築例として、第2章では、テーマ 「紫外線」、第4章では、テーマ「エネルギー」を扱い、その教材研究を示す中で、 (ア)現象の背後にある物理学上の原理の実験的検証 (イ)物理学上のモデルや関係を物理教材として加工する作業. を行う。第3章では、テーマ「紫外線」に関する教育実践、第5章では、テーマ「エネル ギー」に関する教育実践を示し、その中で、授業や部活動、研修講座などの (ウ)教育実践を通した教育的有効性の検証、指導方法の研究. を行う。教育的有効性については、学習者の探究的な態度の育成を意味することとしたい。. ここで、探究的な態度については、具体的には次のような学習者の在り方・態度を意味す るものとする。. ・現象についての関心・興味の喚起される(関心・興味)。. ・知識を獲得する過程を大切にする態度が育成される(思考・判断、技能・表現)。. ・経験(の延長である人間環境)とつながつた意味のある知識が習得される(知識・ 理解)。. ・学習を生活に生かそうとする態度が生まれる(意欲・態度)。. ( )内は、学習指導要領における観点別評価項目である。また、教育的有効性の検証に. ついては、学習者の自己評価、使用した学習プリント類の記述、学習状況の観察などの分. 析を通して検討する。第6章では、物理教育をテーマにした総合化のための教材研究を示 し、物理を核にした環境教育クロスカリキュラムの実践を通した教育的有効性の検証を行 う。最後に、第7章で総括的結論を述べたい。 1.2.2 本研究と先行研究との関連及び本研究の独自性 ここでは、高校物理の指導法に関連する先行研究などを挙げた後、それらの本研究との 関連性を示すなかで本研究の位置付けや独自性を示したい。. (Dテーマ「紫外線」に関連して 最近の環境意識の中でも、オゾン層の減少に伴う人体や生態系に有害な紫外線(UV沼) への不安がクローズアップしている。新聞紙上でも、1980年代の値に対する90年代の著し い増加が報道されたりした。. 高校物理の教科書では、紫外線に関する実験が出てくるのは、物理Hで、よく磨いた亜 一18一.

参照

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