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みつ症の発生とその防止に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 猪 俣 雄 司

学 位 論 文 題 名

ニホン ナシ (Pyrzts serotiTza var . culta) 豊 水 における

みつ症の発生とその防止に関する研究 学位論文内容の要旨

  ニホンナシ(Pyrus serotina var. culta)のー部の品種では、果実の成熟過程で みつ症 と呼ばれる生理障害が発生する。本研究は、みつ症が発生しやすい 豊水 ( Housui )を対 象として、その発生要因、防止技術および非破壊診断法について検討したもので、内容は次の ように要約される。

1.果実熱度、温度および樹冠内着生条件とみつ症発生との関連

  ニホンナシ 豊水 の果実熟度とみつ症発生との関連にっいてみると、果実熟度が進むに従 ってみつ症発生が増加したことから、その発生は果実熟度と密接に関連していることが明らか になった。しかし、発生頻度に年次間差があるため、他の要因も関与していると推察された。

そこで、生育期間の平均気温、果実比重および硬度とみつ症発生果率との関連について調べた ところ、満開80日後〜 100日後における平均気温が低いほど、収穫始期および盛期の果実にお いてみつ症発生が多く、また、その期間の気温が低いほど果実比重は低くなった。さらに、樹 を7月に昼温23℃―夜温15℃の低温条件に遭遇させた場合、みつ症が発生し、そのときの果実 は、比重および硬度が低い果肉先熱型であった。同時期に昼温33℃一夜温25℃の高温処理を行 うと、みつ症発生が抑制されたことから、7月期の温度はみつ症発生に大きな影響を及ぼすこ とが明らかになった。

  みつ症発生と樹冠内着生条件との関連にっいてみると、みつ症発生果は樹冠内の特定の位置 に着生し、主枝よりも下方にある果台に着生した果実ほどその発生が多いことが明らかになっ た。

2.果肉組織における細胞膜透過性とみつ症発生と,の関連

  果肉組織の発育度の指標となる果肉組織から溶出するカリウムイオンの量(細胞膜透過性)

の測定条件について検討した結果、抽出液中のグリセリン濃度は0. 3MまたはO.5Mが適切であ り、抽出時の温度は25℃が最適と判断された。

  みつ症発生組織では、健全組織に比べて、カリウムイオン溶出速度が大きいことから、成熟 が進んでいると判断される。っぎに、みつ症発生を促進する低温条件(7月期昼温23℃―夜温 15℃)に 豊水 樹を遭遇させると、果実ていあ部の地色発現が2(発育前期;未熟果)およ び4(発育後期;成熟果)の果実、および、収穫期前の早い時期の果実では、無処理区の果実 よルカリウムイオン溶出速度が大きいことから、7月期の低温条件は果肉組織の成熟を促進さ せることが明らかになった。また、無処理区の果実でも、7月の気温が平年よりも低く推移し た年には、通常年よりも早い時期から、果肉組織におけるカリウムイオン溶出速度が上昇する こと、すなわち果肉組織の成熟が進んでいたことから、7月期の低温条件は、果肉組織の成熟

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を早 め果 肉先 熱型 の果 実に すると とも に、 みつ 症発 生を 助長 させ るも のと判断される。

3.みつ症発生とエチレンおよびジベレリンとの関連

  ニ ホン ナシ 果実 の1− アミ ノシ クロ プ口 パン‑1ー カル ボン酸 (ACC) とエチレン生成酵 素群 (EFE)活 性の 測定 法を 検討 し、ACC活 性はAdamsらの方法によるものが適切であり、

EFE活性にっいては、マンニトール0.5M、リン酸緩衝液lOmM、ACC ImMを含む溶液を用い、

25℃で2時間振とうしたのち、果肉組織の一定の部位から試料を採取する方法が最適であると 判断された。

  みつ症発生とエチレンとの関連についてみると、果実へのエチレンの外与|ま果実熟度を促進 させるとともにみつ症を増加させたが、みつ症発生を促進する7月期低温処理、またtま、その 発生を抑制する7月期高温処理を行ってもエチレン生成には影響を及ぼさなかったことから、

エチレンはみつ症発生の直接的な要因でないと判断された。

  ジベレリンとの関連についてみると、果実へのジベレリン外与は果実の成熟を促進し、みつ 症を増加させること、ならびに、みつ症発生を促進する7月期低温処理は果肉組織のジベレリ ン様物質活性を高め、みつ症の発生を抑制する7月期高温処理はその活性を抑えたことから、

ジベレリンはみつ症発生の要因のーっであると考えられる。

4.ジベレリン生合成阻害物質処理によるみつ症発生の抑制

  みつ症発生を抑制することを目的として、ジベレリン生合成阻害物質による処理を行ったと ころ、パクロプトラゾールでは、500ppm液を、満開1か月後から8月19日までに約10日間隔で 合計13回、果実に塗布すること、プロヘキサジオンカルシウムでは、1,OOOppm液を満開2週間 後から2週間隔で合計4回散布することによって、みつ症の発生が顕著に抑制された。しかし、

果実品質に悪い影響が認められたため、さらにプロヘキサジオンカルシウムを用いて最適な処 理条件を検討したところ、果実品質や樹体生育に悪い影響を与えず、みつ症発生抑制効果のあ る処理として、1,OOOppmまたは2,OOOppm液を、満開6週間後と8週間後の合計2回散布するの が最適であることがわかった。このときの抑制効果は、果肉組織の成熟の進行を抑制したこと に起因していると推察された。

5.炭酸カルシウム水和剤散布によるみつ症発生の抑制

  みつ症発生と果実蒸散量との関連からみつ症発′生の要因を検討すると、ポリエチレン袋被覆 による物理的な果実水分蒸散抑制処理ぬみつ症発生を増加させ、さらに、果実表面温度と外気 温との較差が大きい、すなわち、果実表面からの水分蒸散が少ない果実ほどみつ症発生が多か ったことから、みつ症発生には、果実からの水分蒸散が密接に関連していると推察された。

  炭酸カルシウム水和剤を散布すると、みつ症発生は抑制されることが明らかとなった。この 場合、果実品質や樹体生育に悪影響を及ぼさなぃ満開2週間後から2週間隔で合計5回散布す るのが最適であると判断された。炭酸カルシウム水和剤を散布した果実では果実表面温度と外 気温との較差が小さかった(果実表面からの水分蒸散が多い)ため、散布による抑制効果は、

カ ル シ ウ ム 剤 とし て で は な く 、 果 実 の 水 分 蒸散 を促 進し たこ とに よる と考え られ る。

6.非破壊検査法によるみつ症の診断

  みつ症の非破壊診断法について検討するため、超音波探傷器を利用した検査を試みたところ、

みつ症発生部分が多くなるに従って、縦波超音波の伝搬速度が速くなったが、正確な判定には 至らなかった。ー方、産業用のX線CTスキャナを用いた場合には、みつ症発生程度に関わら ず、実際の果実横断面のみつ症発生部位と、同じ横断面を産業用X線CTスキャナを用いて撮 影し、CT値十0020〜十0050の範囲を抽出し白い点として表した場合のみつ症発生部位とがほ ば 一 致 し た こ と か ら 、 産 業 用 X線CTス キ ャ ナ が 有 効 で あ る と 考 え ら れ る 。   本研究において明らかになった事象および得られた知見は、ニホンナシ 豊水 果実のみつ

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症発生を栽培的側面から防止する技術を開発するための基礎として、重要な役割を果たすもの と考えられる。

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学 位 論文 審 査 の 要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

原田 喜久田 伊藤 増田

    隆 嘉郎 和彦     清

     学位論文題名

ニホンナシ(Pyrz,ts serotiTza var .culta) 豊水 における み つ 症 の 発 生 と そ の 防 止 に関 す る 研 究

  ニ ホ ン ナ シ(Pyrus se,'oとina var.cu]とa) の 一 部の 品 種 では 、 果 実に み つ 症 と ぃ わ れ る 生 理 障 害 が 発 生 し 、 果 肉 が 黒 褐 色 と な り 、 食 味 が 悪 く な っ て 、 商 品 価 値 が 低 下 す る 。 本 研 究 は 、 み つ 症 ¨ が 特 に 発 生 し や す い 品 種 豊 水 を 対 象 と し て 、 そ の 発 生 条 件 、 防 止 法 な ら び に 非 破 壊 検 査 法 な ど に つ い て 検 討 し たも の で 、内 容 は 次の よ う に要 約 さ れ る 。

1. 果 実 熱 度 、 温 度 お よ ぴ 樹 冠 内 着 生 条 件 と み つ 症 発 生 と の 関 連

  果 実 の 成 熟 が 進 む に 伴 っ て み つ 症 が 増 加 し た こ と か ら 、 そ の 発生 は 、 果実 熟 度 と密 接 に 関 連 し て い る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 満 開80目 後 〜100日 後 の 気 温 が 低 い ほ ど 、 み つ 症 の 発 生 が 多 く 、 果 実 比 重 は 小 さ く な っ た 。7月 期 に 昼 温23℃ . 夜 温15℃ の 条 件 に 遭 遇 さ せ る と 、 果 肉 先 熱 型 の 果 実 と な り 、 比 重 お よ び 硬 度 が 低 く な る と と も に 、 み つ 症 が 発 生 し た が 、 同 時 期 に 昼 温33℃ . 夜 温25℃ の 高 温 処 理 を 行 う と 、 み つ 症の 発 生 が抑 制 さ れた こ と か ら 、7月 期 の 温 度 が 大 き な 影 響 を 及 ぼ す こ と が わ か っ た 。 ま た 、 み つ 症 は 、 樹 冠 内 の主 枝 よ り も 下 方 に あ る 果 台 に 着 生 し た 果 実 に 多 く 発 生 す る こ と が 確 認 さ れ た 。

2. 果 肉 組 織 に お け る 細 胞 膜 透 過 性 と み つ 症 発 生 と の 関 連

  み つ 症 が 発 生 し た 果 肉 組 織 で は 、 成 熟 が 健 全 組 織 より 進 ん でお り 、 細胞 膜 透 過性 ( カ リ ウ ム イ オ ン 溶 出 量 ) が 大 き か っ た 。 ま た 、7月 期 が 低 温 で あ っ た 年 の 果 実 で は 、 平年 よ り 早 く 成 熟 が 進 み 、 早 期 か ら カ リ ウ ム イ オ ン 溶 出 速 度 が 上昇 し 、 みつ 症 が 多く 発 生 する こ と が わ か っ た 。

3.み つ 症 発 生 と ェ チ レ ン お よ び ジ ベ レ リ ン と の 関 連

み つ 症 の 発 生 と エ チ レ ン と の 関 連 に つ い て み る と 、 果 実 へ の エ チ レ ン の 外 与 は 、 成 熟 を

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促進し、みつ症を増加させたが、みつ症の発生を促進する7月期低温処理、または、その 発生を抑制する7月期高温処理を行っても、エチレン生成に変化が現れなかったことか ら 、 エ チ レ ン は み つ 症 発 生 の 直 接 的 な 要 因 で は な い と 判 断 さ れ た 。   っぎに、みつ症発生とジベレリンとの関連についてみると、果実へのジベレリンの外与 は、成熟を促進するとともにみつ症を増加させること、また、みつ症の発生を促進する7 月期低温処理が果肉組織内ジベレリン様物質の活性を高めたこと、さらに、発生を抑制す る7月期高温処理はその活性を低下させたことなどから、みつ症の発生にはジベレリンが 関与しているものと推測される。

4.ジベレリン合成阻害物質処理によるみつ症発生の抑制

  バクロブトラゾー丿レ500ppm液を、満開1か月後から8月中旬まで、10日間隔で、合計13 回果実に散布すること、または、プロヘキサジオンカルシウム1,OOOppm液を、満開2週間 後から2週間ごとに合計13回果実に散布することによって、みつ症の発生が顕著に抑制さ れろことがわかった。これを基にして、さらに実用的な方法について検討し、プロヘキサ ジオンカJレシウム1,000〜2,OOOppm液を、満開6週間後と8週間後の2回散布することに より、十分なみつ症抑制効果があることを明らかにした。また、この場合、果肉組織の成 熟が過度に進むのを抑えることにより、みつ症の発生が抑制されたものと推測される。

5.炭酸カルシウム水和剤散布によるみつ症発生の抑制

  みつ症発生と・果実水分蒸散量との関連について検討し、ポリエチレン袋被覆による果実 水分蒸散抑制処理はみつ症を増加させること、さらに、果実からの水分蒸散の少ない果実 においてみつ症の発生が多いことを明らかにした。

  っぎに、炭酸カルシウム水和剤を散布すると、果実からの水分蒸散量が多くなり、みつ 症が減少することを見出し、実用的には、満開2週間後から2週間おきに合計5回散布す るのが最適であることを実証した。

6.非破壊検査法によるみつ症の診断

  超音波探傷器による検査を試み、みつ症発生部分が多くなるに従って、縦波超音波の伝 搬速度が速くなることを見出したが、みつ症を実用的に判定できるまでには至らなかっ た。

  一方、 産業用X線CTスキャナ を用いた場 合には、CT値(+0020〜+0050の範囲)とし て表されたみつ症発生部位と、実際に果実を切断してみた場合のそれとが一致したことか ら、産業用X線CTスキャナが、みつ症の実際的な非破壊検査法として有効であることを 明らかにした。

  以上のように、本研究において得られた事象および知見は、ニホンナシ果実のみつ症発 生を栽培的側面から防止する技術として利用できるとともに、果実生理障害の研究に役立 っものとして高く評価される。

  よって、審査員一同は、猪俣雄司が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。

参照

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