博 士 ( 医 学 ) 竹 林 徹 郎
学位論文題名
NF‑kB‑dependent induction of cyclin Dl by retinoblastoma protein (pRB) family proteins and tumor‑derived pRB mutants
(pRB 癌抑制蛋白ファミリーならびに癌細胞由来変異pRB 分子による NF‑kB 依存的なサイクリンDl の転写誘導)
学位論文内容の要旨
緒言
RB遺伝子は遺伝性小児悪性腫瘍である網膜芽細胞腫(retinoblastoma)の発症に決定的に関与する遺伝子 としてWeinbergらにより単離された初のヒト癌抑制遺伝子であり、分子量105キ口ダルトンのpRB蛋白 をコードする。その後、pRBと構造的に相同性を有する2種類の蛋白質、p107とp130が同定され、こ れら3分子種はpRB癌抑制蛋白ファミリーと総称されている。その遺伝的/機能的不活化が細胞の癌化 に直接っながることから、pRBファミリーは細胞増殖に対し抑制的に機能すると考えられている。事実、
これまでの研究からpRBファミリーは細胞周期におけるG1期一S期移行、特に制限点通過のブレーヰ分 子として働くことが明らかにされてきた。低リン酸化型のpRBファミリ一分子はポケットと呼ばれるド メイン構造を介して転写因子EZFと結合し、E2F特異的な転写を抑制する結果Gl期・S期進行に必要な 遺伝子群の発現が阻止される。こうしたpRBファミリーの細胞増殖抑制活性は、Gl期後期の制限点にお けるGlサイクリン(サイクリンD/サイクリンE)‐サイクリン依存性キナーぜ(Cclk)複合体を介する りン酸化の結果不活化され、細胞周期はGl期からS期へと進行する。
本研究では細胞周期制御に大きな役割を果たしているpRBファミリ一分子の新たな機能について解析 することを通して癌化のメカニズムの解明に貢献することを目的とした。申請者はpRBが自らの細胞増 殖抑制活性を不活化するサイクリンDlを誘導するという現象に注目レ、この現象を解析することがpRB ファミリ一分子の新たな機能を見出すことにっながる可能性があると考え以下に述べる実験を行った。
実験結果
機能 的RB遺伝子 が欠損 している ヒト骨肉腫細胞株SAOS‑2にRB遺伝子およびp107遺伝子、p130遺 伝子を強制発現させたところ蛋白レベルおよび転写レベルでサイクリンD1の発現量の増加を認めた。こ の現象が生理的な細胞内でも起きている事を証明するためにRB遺伝子を保持している骨肉腫細胞株U2‑
OSの内 因性pRBをsiRNAを用いて発現抑制した前後のサイクリンDlの発現レベルを解析した。U2‑OS 細胞はp161NK4Aを欠損するため、発現するpRBはすべて増殖抑制活性を欠く高リン酸化型であったにも かかわらず、siRNA特異的にpRB発現を抑制した細胞におけるサイクリンDlの発現量は低下し、pRBフ
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アミリ一分子が内因性サイクリンDiの発現・維持に関与していること、またこのサイクリンDl誘導活 性がpRBファミリーのりン酸化によって不活化されない新規の生物活性であることが明らかとなった。
次にpRBファミリ一分子が、サイクリンD1のプ口モ一夕一上のどのシス領域に作用し転写を活性化 す るか をレ ポ一 夕一アッセイ等を用いて解析レ、転写開始点 近傍のNF‑kB結合部位が重要 な役割 を 果 た し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 ま たNF‑kBの 核 移 行 を 阻 害 す るIkBdをpRBと と も にSAOS‑2細 胞 に 共 発 現 さ せ た と こ ろ サ イ ク リ ンDlの 発 現 量 が 低 下 し た こ と か ら 、 pRBに よ るNF‑kBの 機 能 的 活 性 化 に よ ル サ イ ク リ ンDlが 誘 導 さ れ て い る こ と が 明 ら か に された。
サ イ ク リ ンD1の 誘 導 に 必 要 なpRBの 分 子 内 貰 任 領 域 に つ い て の 解 析 を 進 め た 。 ポ ケ ッ ト 構 造 はA‑box、B‑boxと そ の 間 の ス ペ ー サ 一 領 域 、 お よ びC端 領 域 か ら 構 成 さ れ て お り 、 い ず れ に 変 異 な い し 欠 失 が あ っ て もE2Fと の 結 合 能 を 失 う 。pRB‑E2F複 合 体 形 成 を 競 合 的 に 阻 害 す る ア デ ノ ウ イ ル ス 癌 遺 伝 子 産 物EIAをpRBと と も にSAOS‑2細 胞 に 共 発 現 さ せ た と こ ろ サ イ ク リ ンDlの 発 現 は 完 全 に 阻 害 さ れ た 。 さ ら に 、 ポ ケ ッ ト 構 造 を 全 く 持 た な いN端 領 域 の み のpRB欠 失 変 異 体 分 子 が サ イ ク リ ンDlを 誘 導 で き な か っ た こ と か ら 、 こ の 現 象 は ポ ケ ッ ト 構 造 に 依 存 し て い る こ と が 結 論 づ け ら れ た 。 一 連 のpRB 欠 失 変 異 体 分 子 を 用 い た 解 析 か ら 、 サ イ ク リ ンDlの 誘 導 に お い て ポ ケ ッ ト 構 造 内 のA‑
boxとB‑boxの 両 方 に 結 合 す る 部 位 と 、C端 領 域 に 結 合 す る 部 位 の 少 な く と も2つ の 独 立 した ポケ ット 結合 部 位を 有す る分 子の 存在 が示 唆さ れた 。ま た癌 細胞に由来するpRB△22、 pRB706CFと い う ニ つ の 変 異pRB分 子 も サ イ ク リ ンDlを 誘 導 す る こ と が 見 出 さ れ た 。 これ らの 実験 結果 よ りpRBフ んミ リ一 分子には、NF‑kBのアクチベ一夕一としてサイク リンDl をポケット構造依存的に誘導するという新たな生物活性があり、その活性はりン酸化によって不活化さ れないことが明らか,にされた。
考察
本 研究 を通 して 、pRB、p107な らび にp130か らなるpRBファミリ一分子がサイクリンD1を誘導 す る 能 カ を 有 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 サ イ ク リ ンDlはCdk4あ るい はCdk6と 複合 体を 形 成 し 、pRBの 細 胞 増 殖 抑 制 能 を 不 活 化 す る こ と か ら 両 者 の 聞 に は 複 雑 な 機 能 的 相 互 作 用 が あ る と 考 え ら れ 、 本 研 究 成 果 はpRBフ ん ミ リ‑‑NF‑kB‑サ イ ク リ ンDl経 路 の 存 在 を 示 す も の で あ る 。pRBの 強 制 発 現 な ら び に ノ ッ ク ダ ウ ン 実 験 か ら 、 同 分 子 が サ イ ク リ ンDl の 発 現 レ ベ ル 維 持 に 積 極 的 に 関 与 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の こ と はpRBを 欠 損 し て い る 細 胞 に お い て サ イ ク リ ンD1の 発 現 量 が 抑 制 さ れ て い る と い う 現 象 に 分 子 レベ ルで の根 拠を 与え るも のと 推察 さ れる 。本 研究 では さら に、pRBフ んミリ一分子によるサ イクリンDlの発現増大はcyclin D1遺伝子の転写活性化により起こり、この活性化に転写因子NF‑kB が 関 わ るこ とを 示し た。 現時 点でpRBフ ァミ リ一 分子 がど のよ うな 分子 メ カニ ズム でNF‑kBを 活 性 化 す る の か は 不 明 で あ る 。 し か し な が ら ア デ ノ ウ イ ル スEIAがpRBに よ る サ イ ク リ ン Dlの 発 現 誘 導 を 阻 害 し た こ と か ら 、 サ イ ク リ ンDl誘 導 に はpRBフ ん ミ リ ー が 共 有 す る ポ ケ ッ ト ド メ イ ン と 物 理 的 に 相 互 作 用 す る 何 ら か の 細 胞 性 分 子 の 存 在 が 示 唆 さ れ る。
U2‑OS細胞におけ る高リン酸化型pRBのノック ダウン実験および癌細胞に由来する変異pRB分子が
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サ イク リンDl誘 導能 を保 持 して いる とい う実 験結 果か ら、pRBファミリ一 分子のサイクリンDl 誘導活性は、従来から知られている細胞増殖抑制活性とは全く独立した活性と考えるぺきものである。
本研究成果は、pRBファミリ一分子が細胞周期制御において低リン酸化状態では細胞周期抑制分子とし て働き、一旦リン酸化を受けると細胞周期促進へと変換されるというきわめて興味深い可能性を示唆す る。この可能性が正しいならぱ、細胞癌化に関わる変異pRB分子は細胞増殖抑制能を欠くばかりでなく、
サイクリンDlを発現誘導することにより細胞癌化に二重に促進的に働いている可能性が推察される。
本研究は癌化のメカニズムの解明にまったく新たな知見を提供するものであり、新たな癌の治療法開発 に大きく貢献することが期待される。
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