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(家蚕幼虫外皮に存在するフェノール酸化酵素前駆体についての研究)

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博士 ( 地 球 環境科 学)朝 野維起

学 位 論 文 題 名

         Studies on prophenoloxidase in the cuticle of the silkworm, B07nbyx0 九 ori.

(家蚕幼虫外皮に存在するフェノール酸化酵素前駆体についての研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  昆 虫 の 外 骨 格 ( ク チ ク ル ) は 、 夕 ン バ ク 質 、 糖 、 脂 質 か ら 成 る 非 細 胞 性 の マト1」 クス であ る。 ク チ ク ル を 構 成 す る タ ン バ ク 質 の 多 く は ク チ ク ル を 裏 打 ち す る 表 皮 細 胞 に よ り 合 成 さ れ る が 、 な か に は 脂 肪 体 や 血 球 な ど で 合 成 さ れ る も の も あ る 。 非 表 皮 細 胞 由 来 の タ ン パ ク 質 は 血 液 中 に 放 出 さ れ た 後 、 表 皮 細 胞 層 を 通 過 し ク チ ク ル に 達 す る と 考 え ら れ て い る 。 し か し な が ら 、 血 液 か ら ク チ ク ル ヘ の タ ン パ ク 質 の 移 行 に 関 す る 報 告 は 少 な く 、 ま た 、 移 行 の 仕 組 み に つ い て は 何 も 分 か っ て い な い 。 一 方 、 哺 乳 動 物 に 於 い て イ ム ノ グ 口 ブ リ ンA、 ト ラ ン ス フ ェ リ ン な ど 、 上 皮 及 び 内 皮 細 胞 層 を 通 過 す る タ ン パ ク 質 の 輸 送 の 仕 組 み に つ い て は 、 詳 し く 調 べ ら れ て い る 。 脊 椎 動 物 の 上 皮 細 胞 層 に は タ イ 卜 ・ ジ ャ ン ク シ ョ ン(TJ) が 存 在 し て 、 細 胞 間 隙 に 於 け る 物 質 の 行 き 来 を 制 限 し て い る 。 哺 乳 類 に 関 し て は 、 細 胞 内 を タ ン バ ク 質 が 直 接 通 過 す る 輸 送 機 構 ( ト ラ ン ス サ イ ト ー シ ス ) が 、 上 皮 及 び 内 皮 細 胞 層 を タ ン バ ク 質 が 通 過 す る 際 に 重 要 で あ る こ と が 示 さ れ て い る 。 受 容 体 を 介 し た ェ ン ド サ イ 卜 一 シ ス に よ り 細 胞 内 に 取 り 込 ま れ た タ ン バ ク 質 は 、 目 的 部 位 に 運 ば れ た 後 に エ ク ソ サ イ ト ー シ ス で 放 出 さ れ る 。 昆 虫 を 始 め と す る 無 脊 椎 動 物 の 上 皮 に は セ プ テ イ ト ・ ジ ャ ン ク シ ョ ン(SJ)が 存 在 し て お り 、TJと 同 様 の 機 能 を 有 し て い る が 局 在 す る 部 位 や 構 造 な ど が 異 な る 。 こ の よ う な 昆 虫 上 皮 に お い て 上 皮 細 胞 層 を 隔 て た タ ン バ ク 質 輸 送 が ど の よ う に 行 わ れ て い る の か は 興 味 深 い 問 題 で あ る 。 本 研 究 の 実 験 対 象 で あ る 家 蚕 フ ウ ノ ー ル 酸 化 酵 素 前 駆 体(proPO)は 、 フ ェ ノ ー ル 酸 化 酵 素(PO) の 前 駆 体 で あ り 昆 虫 の 生 体 防 御 で 重 要 な 働 き を し て い る タ ン バ ク 質 で あ る 。 こ れ ま で に ノ ー ザ ン 解 析 な ど に よ り 、 ク チ ク ル のproPOは 血 球 細 胞 で 合 成 さ れ た 後 に ク チ ク ル ヘ 移 行 し た も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 こ のproPOを 用 い て 、 こ れ ま で に 直 接 的 な 証 明 の な か っ た タ ン バ ク 質 の 移 行 を 明確に示す ことが本研究の目的である 。

    家 蚕proPOは ヘ テ 口 ダ イ マ ー で あ り 、 両 サ ブ ュ ニ ッ ト と も 鋏 角 類 ヘ モ シ ア ニ ン に 相 同 な 銅 夕 ン バ ク 質 で あ る 。 当 研 究 室 で 用 い て い る 系 統 の 家 蚕 のproPOに はNative‑PAGE上 で 移 動 度 の 異 な る ニ つのアイソフオームが存在する。移動度の大きい順にF‑type (faster migrating)、Sーtype (slower migrating) と 名 付 け ら れ て い る 。 ま た 、 同 系 統 に は 、F‑typeS typeを 両 方 持 つ 個 体(FS‑Iarva)F‑type片 方 の み を 持 つ 個 体(F‑Iarva)2夕 イ プ の 個 体 が 存 在 し て い る 。F‑Iarvaの 血 体 腔 にS‑typeproPOを 注 入 し て 、 そ れ が 血 液 か ら ク チ ク ル に 移 行 す る の であ れば ェーS‑typeを注 入さ れた 個 体の クチ クル に は 移 行 し たS‑type proPOが 検 出 さ れ る は ず で あ る 。ま ず、 血液 から と れたF‑typeS‑type proPOの 混 合 物 をMono‑Qカ ラ ム で 展 開 す る こ と に よ り 、 そ れ ぞ れ の ア イ ソ フ オ ー ム を 分 離 し た 。 比 活 性 や 基 質 特 異 性 に は 、 ほ と ん ど 差 が 見 ら れ な か っ た が 、 両 ア イ ソ フ ォ ー ム 間 で5つ の ア ミ ノ 酸 置 換 が 存 在

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(2)

していた。S‑typeのproPOはF‑Iarvaの血体腔に注入され、2日後にそのクチクル抽出物をNative‑PAGE で調べたところS‑typeのproPOが検出された。この結果は血液中のS‑typeがクチクルに移行したこ とを示す直接的な証拠といえる。次に、組織化学的手法 を用い、proPOがクチクルを裏打ちする表 皮細 胞層のどの部分を通過しているのかを調べた。抗proPO抗体で5齢幼虫の切片を染色したとこ ろ表皮細胞内でシグナルが検出された。また、in situ hybridizationでproPOのmRNAが検出されなか った ことにより、表皮細胞中のproPOは表皮細胞で合成されたものではなく、おそらく 、proPOが 移行の際、直接細胞内を通過している途中のものだと考えられる。また、大腸菌で発現したショウ ジョウバ工proPOを抗原にし て作成した抗体では、ショウジョウバエ幼虫のクチクルにシグナルが 観察された。ショウジョウパェに於いてもproPOが血液からクチクルに移行している可能性が考え られる。

    1960年代にその存在が示唆されて以来、クチクルに 存在するproPOが精製できたという報告は なかったが、本研究では、proPOをクチクルから精製することができた。精製標品のプ口テアーゼ 消化 物をMALDITOF質 量分 析計 でマ ッピ ング する と、 ク チク ルproPOにはcDNAから 予想される 分子量よりも16 Da重いぺプ チド断片が観察された。ポスト・ソース・ディケイ法で、その断片を さらに解析した結果、ヌチオニン(Met)残基がメチオニン・スルフォキシド(Met(0))に酸化され てい るこ とが 分か った 。二 つの サブュニットの内、片方は5〜6個のMetが酸化され、もう片方で は1個だけが酸化しているこ とが分かった。Met(0)以外の修飾は見っかっていない。鋏角類ヘモシ アニンの結晶構造解析のデ一夕を用いてproPOの立体構造のモデルを導き出したが、モデルの表面 に露 出し て存 在す るMetと 、 クチクルproPOにてMet(0)として同定されたMetとがおおむね一致し ていた。特定のMetが酸化さ れているわけではなく、表面に露出しているものが押し並べて酸化を 受けているようである。proPOがクチクルに移行する際に、どこかで酸化的環境を経ることが示唆 される。現在、昆虫のクチクルに存在するタンバク質の 中でMet(0)を含むタンバク質はproPO以外 に知られておらず、クチクル内のタンバク質に見られるMet酸化の生理的意義は不明である。興味 深いことにMet(0)を含むクチクルproPOは幼虫体腔内に注入されてもクチクルには移行しない。こ れは 、Met(0)を含 むproPOと 含まないproPOを選別する機構の存在と、選別の際にMet残基が何ら かの働きをしている可能性のニっを示唆する。Met残基の疎水性がタンバク質同士の相互作用に機 能していることや、酸化による親水性の増加により結合が弱まることなどが報告されているが、も し、proPOに 対す る受 容体 が 存在するならば、proPO上のMet残基が受容体との相互作用に働いて いるかも知れない。

    本研究は、昆虫の表皮細胞層を隔てたタンバク質移行を明確に示した。また移行前後に於ける proPOの構造の違いも明らか にすることが出来た。昆虫におけるトランスサイ卜ーシスの仕組みは 全く未開拓の分野だが、もしかするとTJをもつ哺乳類゛とは異なる独自の機構を発達させてきたかも しれない。本研究は、昆虫以外にもSJを持った多くの無脊椎動物のトランスサイトーシス研究に於 ける優れたモデルになり得る。ところで、無脊椎動物の代表的なモデル生物であるショウジョウパ エやC.elegansが属する節足動物や線虫類は、共にクチクルを持ち、脱皮を重ねて成長するが、この ような特徴を持った生物は「脱皮動物」という大きなグループを形成している。脊椎動物を含む後 口動物に対比される前口動物に於ける主要なグループのーつである。しかし、ゲノムシークエンシ ングの完了しているこれらの動物種においてもクチクル形成・表皮の生理の研究は、まだ未開拓の 分野である。節足動物や線虫類は種数においても、また生息環境や生活史についても、他の動物群 には見られない際立った多様性を有しているが、このような繁栄をもたらした原因として、身体と 環境の接点であるクチクルを如何様にも変えられることの持つ意味は大きい。今後、ショウジョウ

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パエ、C.elegans双方でこの分野の研究が進み、そして両者間でのク口ストークが進んでいくことが 期待される。本研究を含め「脱皮動物」が独自に発展させてきた上皮の性質についての理解が深ま ることを期待する。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    芦田正明 副査    教授    木村正人 副査   助教授    早川洋一

    

学位論文題名

    Studies on prophenoloxidase

    in the cuticle of the silkworm

B077lbyx77lori

(家蚕幼虫外皮に存在するフェノール酸化酵素前駆体についての研究)

  

昆虫においてフェノール酸化酵素前駆体(prophenoloxidase ,

proPO)

は限定加水分解 により活性化され、フェノール酸化酵素(phenoloxidase ,PO) になる。proPO を限定加 水分 解す るproPO 活性 化酵素 (proPO activating einzyme ,PPAE )は不活性な

pro

PPAE

とし て存 在する 。

proPO

を活 性化する仕組み全体はproPO カスケ―ドと呼ばれ、

ごく微量の徹やバクテリアの細胞壁成分で引き金が引かれることが分かっている。proPO とproPO を活性化する仕組みは昆虫の血液とクチクラに存在することが証明されている。

PO

はチロシンやドーパなどのフェノ―ル性化合物を酸素の存在下で酸化してメラニンを合 成する。メラニンの合成途中に生成されるキノンは反応性に富み、細胞毒性が指摘されて いる。さらに、キノンは傷口や侵入した徹やバクテリアの周囲に形成される不溶性高分子 を共有結合で結び、傷口を塞ぎ、徽やバクテリアを体内で物理的に閉じ込めるのに役立っ ていると考えられている。このようにproPO 及びproPO カスケードは、クチクラと血液 において、昆虫が自身の体を守る生体防御機構に重要な役割を果たしている。血液の

proPO

は約30 年前に家蚕から精製され、その性質が調べられている。しかし、クチクラ のproPO につ いて は、 その存 在の 可能 性が

1960

年 代半 ばに 指摘さ れたにもかかわら ず、それ以後、誰ひとり単離、精製に成功せず現在に至っている。申請者の研究室でクチ クラタンパクの新しい抽出法が数年前に考案され、家蚕クチクラからproPO を活性化せず に抽出することが可能になった。

  

本論文では、この新しい抽出法を用いてクチクラからproPO を抽出し、研究した。研究

結果は3 章に分けて報告されている。第1 章では、クチクラから

proPO

を精製し,PPAE で

活性化してえられたPO の酵素としての性質を調べた。クチクラの

proPO

と、血液のproPO

のそれぞれを活性化して得られたPO の間には、酵素としての性質の差はほとんど認められ

なかった。さらに、血液のproPO は、表皮細胞層を横切ってクチクラに運ばれることが証

明された。逆相液体クロマ卜グラフィ―において、血液のproPO とクチクラのproPO は異

なる溶出パターンを与えることが観察された。この事実から、クチクラのproPO は血液の

proPO

が修飾されたものである可能性が指摘された。第2 章では、血液のproPO がどのよ

うな修飾を受けるとクチクラのproPO になるのかが調べられている。proPO は2 種のポり

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ベプチドから構成されるへテロダイマ―である。クチクラのproPO の1 本のボリベプチド は5 ないし

6

つのメチオニン残基がメチオニンサルホキシドヘ酸化されており、他のボリ ベプチドではメチオニン残基1 つがメチオニンサルホキシドヘ酸化されていることが示さ れている。酸化されていたすべてのメチオニン残基が特定され、それらが分子の表面に位 置している可能性が示された。クチクラから精製きれたproPO を家蚕幼虫の血体腔ヘ注入 しても、そのproPO のクチクラへの移行は認められなかった。しかし、血液から精製され たproPO を血体腔ヘ注入すると、その

proPO

のクチクラへの移行が確認された。これらの 結果から、血液のproPO がクチクラヘ移行するか否かは、proPO のいくつかのメチオニン 残基の酸化状態により決定されていることが明らかにされた。第3 章では、血液のproPO が上皮細胞層を通過してクチクラヘ移行する際、proPO が上皮細胞内部を横切るのか否か が、免疫組織化学的方法で調ぺられた。proPO は上皮細胞の液泡に取り込まれろことが確 認された。液泡への取込みや、液泡からクチクラヘproPO が分泌される仕組みの解明は、

今後の研究に待たなければならないが、、これまでに記載されたことがない新しい仕組み が存在している可能性が指摘された。1 章と2 章の内容は、それぞれ単独の論文として、

国際的に権威ある雑誌に投稿され、現在印刷中である。また、3 章の内容は投稿準備中で ある。

  

脊椎動物において、上皮細胞あるいは内皮細胞を横切ってタンパクが移行する現象(卜 ランスサイトーシス)はよく知られていおり、生理学上重要であることもよく分かってい る。ほ乳動物ではイムノグロブリンA やトランスフェリンのトランスサイ卜―シスの仕組 みがよく研究されている。昆虫などの無脊椎動物においても、卜ランスサイト―シスの重 要性は脊椎動物におけると同様であると推測されていた。しかし、無脊椎動物の卜ランス サイトーシスの仕組みは、これまで全く手付かずの研究分野であった。本論文に報告され ているproPO の血液からクチクラへの移行の証明が、昆虫における卜ランスサイト―シス の明確な証明の初めての例である。

  

本研究で報告されている、proPO の血液からクチクラヘの移行に関する研究は、昆虫に おけるトランスサイ卜一シスの仕組みを解明するための突破ロになると期待される。

  

よって、著者は博士(地球環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判 定した。

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