博 士 ( 農 学 ) 中 久 保 見
学 位 論 文 題 名
家畜ふん尿のメタン発酵における 副資材の発酵特性に関する研究
学位論文内容の要旨
家畜ふん尿は産業廃棄物としての認識が現在でも主流であり、家畜ふん尿を原因とする公害にまで 発展するケースもみられる。バイオガスプラントは処理過程で発生するメタンガスをカーボンニュー トラルなエネルギーとして利用可能であるために、近年高い注目を集めているが、その経済性の確保 には家畜ふん尿とともに他の有機性廃棄物を副資材として発酵させる共発酵技術が必要不可欠である。
しかし実規模バイオガスプラントでは、副資材の投入過剰による発酵阻害の発生は珍しくない。そこ で本研究では発酵阻害を回避するために、各種副資材の発酵特性を明らかにすると共に、発酵阻害指 標としてのVFA(揮発性脂肪酸)利用の可能性を検討した。
1食品廃棄物の共メタン発酵における発酵特性
牛ふん尿の中温発酵における食品廃棄物の基礎的な発酵特性を調べた。三大栄養素のいずれを主成 分とする共発酵資材においても発酵槽容積あたルメタンガス発生量は増加した。共発酵による発酵性 能の低下が発生しない共発酵資材の限界VS負荷は,パン粉2.4gVSfL'day,バタ'‑2.2gVS/I亅.day,プ ロテイン0.8gVSfL'dayであった。共発酵資材の投入VSあたり平均メタンガス発生量はバターが最 も大きく0.82L/gVS,次いでパン粉0.42L/gVS,プロテイン0.31L/gVSの順であった。脂質およぴ炭 水化物の 共発酵資材VS負荷l.lgVSfL'day程度での投入では,牛ふん尿の単独発酵と同等の発酵安 定性を確保したまま,発酵槽容積あたルメタンガス発生量を牛ふん尿単独発酵時と比較して脂質の投 入で約3倍,炭水化物の投入で約2倍に増加させることが可能であった。一方たんぱく質の投入では,
低 い 共 発 酵 資 材VS負 荷 (0.2gVS/L'day)に お い て も VFAの 蓄 積 が み ら れ た 。
2食 品 廃 棄 物 の 共 メ タ ン 発 酵 に お け る 発 酵 阻 害 特 性 の 解 明 お よ ぴ 発 酵 阻 害 指 標 の 検 討 副資材投入による発酵阻害特性およぴ発酵阻害指標の利用可能性を解明するために,三大栄養素を それぞれ主成分とした副資材の投入による発酵阻害実験を行った。炭水化物の投入による発酵阻害で はTVFA(揮発性脂肪酸総量)が蓄積した。副資材VS負荷の過剰によルメタン発酵が停止したと考 えられる。脂質の投入による発酵阻害ではTVFAの蓄積はほとんどみられず,脂質の分解により生成 された長鎖脂肪酸に起因した発酵阻害が発生したと考えられる。たんぱく質の投入による発酵阻害で はTVFAおよびアンモニア態窒素の蓄積がみられた。たんぱく質の分解によって生成されたアンモニ ア 態 窒 素 に よ る 発 酵 阻 害 に 起 因 し て , メ タ ン 発 酵 が 停 止 し た と 考 え ら れ る 。 炭水化物およびたんぱく質を主成分とする副資材の投入では,副資材の投入量あたルメタンガス発
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生 量 から メタ ンガ ス 阻害 率を 算出 する こ とに より ,発酵槽容量あたルメタン ガス発生量を発酵阻害指 標 と して 利用 可能 と 考え られ る。 また , 発酵 阻害 指標 とし てTVFA蓄積 率を 利 用す るこ とに より ,よ り 早 期に 発酵 阻害 を 察知 可能 と考 えら れ る。 しか し,脂質を主成分とする副 資材の投入では,発酵阻 害 の 進 行 が 急 激 で , ま たTVFAも 蓄 積 し な ぃ た め に ,発 酵 槽あ たル メタ ンガ ス 発生 量,TVFA濃 度は い ず れも 発酵 阻害 指 標と して 有効 では な かっ た。 アンモニア態窒素は発酵阻 害物質であるが,アンモ ニ ア 態窒 素蓄 積に 起 因す る発 酵阻 害指 標 とし ては 有効 では な かっ た。
3豚ぷん尿 固液分離後固形分の共メタ ン発酵における発酵特性
難分解性有機物を多く含んだ 副資材である豚ぷん尿固液 分離後固形分の発酵特性を明 らかにするため に、豚ぷ ん尿スラリーと豚ぷん尿固液 分離後固形分との共発酵実験を行った。アンモニア態窒素濃度は、
固 液 分 離 後 固 形 分 の 副 資材 投入 割合 が40% まで にお いて は4g NH4‑NL以 下、60% では5.4g NH4‑N/L であった 。このレベルのアンモニア態窒素濃度では発酵阻害が発生する恐れがある(Hansen et al.,1998) が 、本実験では安定したガス発 生量の維持が可能であった 。発酵槽容積あたルメタンガ ス発生量は、豚 ぷ ん尿 スラ リ ー単 独発 酵と 比較 し て、 固液 分離 後固形分 を副資材投入割合60%で投入 することにより 約2倍 とな った 。実 験 区に おけ る平 均有 機 物負 荷は4kgVS/m3‑ dayと、都市ゴミの高温 湿式メタン発酵 プ ロセ スに お ける 最適 有機 物負 荷 であ る6 kgVS/m3'day(Hartmann and Ahring,2006)を下回っている こ とから、実験区で発生した発 酵阻害は高いアンモニア態 窒素濃度に起因したものであ る可能性が高い と 考え られ る 。し かし この アン モ ニア 態窒 素に よる投入VSあたルメタンガス発生量の 低下は、固液分 離 後固 形分 を 投入 した 実験 区に メ イン 発酵 槽と 同容量の 中温(34aC)ポスト発酵槽を組 み合わせること により、 補うことが可能であった。
4豚 ぷ ん 尿 固 液 分 離 後 固 形 分 の 共 発 酵 に お け る 発 酵 阻 害 特 性 お よ び 発 酵 阻 害 指 標 の 検 討 豚ぷ ん尿と豚ぷん尿固 液分離後固形分との共発酵に おいて、塩化アンモニウム のパルス添加によルア ン モニ ア態 窒 素濃 度を 増加 させ 、 発酵 阻害 特性 お よび 急性アンモニア発酵阻害 における発酵阻害指標 に つい て明 ら かに した 。ア ンモ ニ ア態 窒素 濃度 と メタ ンガス阻害率との間に強 い負の相関(R2〓0.85) が み ら れ た 。 ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度11.1gNH4‑NfLに お いて メ タン ガス 阻害 率 は50%で あっ た。 家 畜 ふ ん 尿 の メ タ ン 発 酵 に お いて 最 も多 く生 産さ れ るVFAであ る 酢酸 およ びプ ロ ピオ ン酸 は、 アン モ ニ ア態 窒素 濃 度の 増加 によ り蓄 積 しな かっ た。 イ ソ酪 酸、酪酸およびイソ吉草 酸のそれぞれが発酵阻 害 指標 とし て 有効 であ ると 考え ら れる 。こ れは 酪 酸お よびイソ酪酸の組み合わ せ指標が特に優れた発 酵 阻 害 指 標 だ と す る Ahring et al.に よ る 研 究 報 告 と 同 様 の 結 果 で あ っ た 。
家畜 ふん 尿と 有機 性 廃棄 物と の共 発酵 に おい て、 各種 副資材の発酵特性およ び発酵阻害時の発酵パ ラ メ ー ター の挙 動を 明 らか にす ると いう 当 初の 目的 は達 成さ れ たも のと 考え ら れる 。VSあた ルメ タ ン ガス 発生 量理 論値 が 三大 栄養 成分 中最 も 高く 、優 れた 副資材だと考えられて いるたんぱく質が、本 研 究 で はVSあた ルメ タ ンガ ス発 生量 が最 も 低く 、ま たア ンモ ニ ア態 窒素 阻害 が 発生 する ため に限 界 VS負 荷 も最 も低 いこ と が示 され た。 脂質 はVsあ たル メタ ンガ ス 発生 量が 最も 高 い優 れた 副資 材で は あ るが 、脂 質の 過剰 投 入に よる 発酵 阻害 は 急激 に発 生す るために、その回避が 難しいことも明らかと な った 。ま た, 豚ぷ ん 尿固 液分 離後 固形 分 は窒 素含 有量 が高いため、その共発 酵では発酵阻害物質で あ るア ンモ ニア 態窒 素 濃度 が容 易に 上昇 す るこ とが 明ら か とな った 。
炭 水 化物 、た んぱ く 質を 主成 分と する 副 資材 に対 して はメ タ ンガ ス阻 害率 お よびTVFA蓄積 率が 発
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酵阻害指標として利用できることが示された。残る脂質を主成分とした副資材に対応する発酵阻害指 標の検討が今後の課題である。また、アンモニア態窒素による発酵阻害に関しては、イソ酪酸、酪酸、
イソ吉草酸が発酵阻害指標として有効であるとの結論を得た。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査 准教授 近江谷和彦 副査 教授 木村俊範 副査 教授 野口 伸
副査 教授 荒木 肇(北方生物圏フイールド 科学センター)
学 位 論 文 題 名
家 畜 ふ ん 尿 の メ タ ン 発酵 に お け る 副 資 材 の 発 酵 特 性 に 関 す る研 究
本論文は ,全
7章か らなる総頁 数121 の和文 論文であ る。論文 には図21 ,表13 ,引用 文献
91が含まれている。
家畜ふん尿は産業廃棄物としての認識が現在でも主流であり,家畜ふん尿を原因とする 公害にまで発展するケースもみられる。バイオガスプラントは処理過程で発生するメタン ガスをカーボンニュートラルなエネルギーとして利用可能であるために,近年高い注目を 集めているが,その経済性の確保には家畜ふん尿とともに他の有機性廃棄物を副資材とし て発酵させる共発酵技術が必要不可欠である。しかしバイオガスプラントでは,副資材の 投入過剰による発酵阻害の発生は珍しくない。そこで本研究では発酵阻害を回避するため に, 各 種副 資 材 の発 酵 特 性お よ び発 酵 阻 害指 標を明 らかにす ることを 目的とし た。
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食品廃棄物の共メタン発酵における発酵特性
牛ふん尿の中温発酵における食品廃棄物の基礎的な発酵特性を調べた。共発酵による発 酵性能の低下が発生しない共発酵資材の限界VS (有機物)負荷は,パン粉2.4gVS/L‑day , バタ ー
2.2gVS/L‑day,プロ テイン0.8gVS/L'day であ った。共 発酵資材 の投入
VSあたり 平均 メタンガ ス発生量は バターが 最も大き く
0.82L/gVS,次いでパン粉0.42L/gVS ,プロ テ イ ン
0.31L/gVSの 順 で あ っ た 。 た ん ぱ く 質 の 投 入 で は , 低 い 共 発酵 資 材VS 負 荷
(0.2gVS/L'day)に お い て も
VFA( 揮 発 性 脂 肪 酸 ) の 蓄 積 が み ら れ た 。
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食 品廃 棄 物の 共 メ タン発 酵における 発酵阻害 特性の解 明および 発酵阻害 指標の検 討
副資材投入による発酵阻害特性およぴ発酵阻害指標の利用可能性を解明するために,三
大栄養素である炭水化物,脂質およぴたんぱく質をそれぞれ主成分とした副資材の投入に
よる発酵 阻害実験を 行った。炭水化物の投入による発酵阻害ではTVFA (揮発性脂肪酸総
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量)が蓄積した。副資材VS 負荷の過剰によルメタン発酵が停止したと考えられる。脂質 の投入による発酵阻害ではTVFA の蓄積はほとんどみられず,脂質の分解により生成され た長鎖脂肪酸に起因した発酵阻害が発生したと考えられる。たんぱく質の投入による発酵 阻害ではTVFA およびアンモニア態窒素の蓄積がみられた。たんぱく質の分解によって生 成されたアンモニア態窒素による発酵阻害に起因して,メタン発酵が停止したと考えられ る。
炭水化物およびたんぱく質を主成分とする副資材の投入では,副資材の投入量あたルメ タンガス発生量からメタンガス阻害率を算出することにより,発酵槽容量あたルメタンガ ス発生量を発酵阻害指標として利用可能と考えられる。また,発酵阻害指標としてTVFA 蓄積率を利用することにより,より早期に発酵阻害を察知可能と考えられる。しかし,脂 質を主成分とする副資材の投入では,発酵阻害の進行が急激で,またTVFA も蓄積しない ために,発酵槽あたルメタンガス発生量,TVFA 濃度はいずれも発酵阻害指標として有効 ではなかった。
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豚ぷん尿固液分離後固形分の共メタン発酵における発酵特性
難分解性有機物を多く含んだ副資材である豚ぷん尿固液分離後固形分の発酵特性を明らか にするために,豚ぶん尿スラリーと豚ぷん尿固液分離後固形分との共発酵実験を行った。発 酵阻害物質であるアンモニア態窒素濃度は,固液分離後固形分の副資材投入割合が60 %にお いて5.4g NH4‑N/L であったが,安定したガス発生量の維持が可能であった。発酵槽容積あ たルメタンガス発生量は,豚ぷん尿スラリー単独発酵と比較して,固液分離後固形分を副 資材投入割合60 %で投入することにより約2 倍となった。アンモニア態窒素による投入
VSあたルメタンガス発生量の低下は,固液分離後固形分を投入した実験区にメイン発酵槽 と同容量の中温(34 °C) ポスト発酵槽を組み合わせることにより,補うことが可能であった。
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豚ぷん尿固液分離後固形分の共発酵における発酵阻害特性および発酵阻害指標の検討
豚ぷん尿と豚ぷん尿固液分離後固形分との共発酵において,発酵阻害特性および急性アン モニア発酵阻害における発酵阻害指標について明らかにした。アンモニア態窒素濃度とメ タンガス発生率との間に強い負の相関(j 殍= 0.85) がみられた。家畜ふん尿のメタン発酵に おいて最も多く生産されるVFA である酢酸およぴプロピオン酸は,アンモニア態窒素濃度 の増加により蓄積しなかった。イソ酪酸,酪酸および吉草酸のそれぞれが発酵阻害指標と して有効であると考えられる。
本研究では家畜ふん尿のメタン発酵における副資材の発酵特性,発酵阻害特性および発 酵阻害指標を明らかにした。その結果,発酵阻害を回避し,安定してメタン発酵を行うた めに極めて有用な知見が得られ,今後バイオガスプラント普及の促進に寄与するものと期 待される。
よって,審査員一同は,中久保亮が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。
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