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物 権 概 念 の 意 義 と 機 能 に つ い て

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(1)高. 島. 平. 蔵. 物権概念の意義と機能について ーいわゆる﹁物権的権利﹂論への序説としてー. 論. 物権概念の意義と機能について. ︵3︶. 三九. てきわめて活発に︑多くの問題をはらみながら機能している非典型担保をどのように規制するかという解釈学上の課. とりのこした慣行的権利をいかに復権させるべきかという法政策的な問題に関連しているし︑また現在担保制度とし. ける重要な法的間題を形成している︒慣習法上の物権のとりあつかいは︑わが国の近代的物権制度が国家法の枠外に. 権物権化の現象も指摘され︑物権法の領域の拡張ともいうべき方向があらわれている︒これらはそれぞれ︑現代にお. うけており︑さらにまた︑物権以外の権利に対する物権的効力︵とくに原状回復請求権︶の承認が問題とされ︑賃借. ︵2︶. とも物権的な権利として理解されているし︑いわゆる非典型担保も︑物権的な担保権の一種としてのとりあつかいを. ︵1︶. 現在︑制定法によって承認された物権とならんで︑水利権や温泉権などが慣習法上の一種の物権︑あるいは少なく. 序.

(2) 論. 説︵高島︶. 四〇. 題につながるものであった︒また物権的請求権を物権以外の権利に対しても承認することは︑債権︑とくに不動産賃. 借権の保護の強化と密接にむすびつく問題であった︒しかしこのような現象は︑以上の場合にとどまるわけではな ︵4︶ い︒変転する社会規制の必要にもとづき︑物権的効力の付与は︑さらに問題とされるであろうし︑右の方向は︑いっ. そう推進されるべきものであろう︒つまり現在の問題は︑なにが物権かということから︑どのような権利︵または法. 的手段︶に︑どのような要件のもとに物権的効力を付与すべきかということに移行しつつあるといってよいのであ. る︒そうして︑これに応じて︑物権的効力を付与された権利は︑やがてそれじたい︑ひとつの独自な類型としてあら. われてくることも考えられる︒それはいわば︑近代的︑国家法的物権の解体を意味するものということもできよう︒. そうすると︑現在すでに物権的効力を付与されてきた諸権利︵かりにこれらを物権的権利とよんでおく︶は︑この近. 代的物権の解体の役割を担いつつあるといえるのであり︑したがってまた︑この方向を推進するための足がかりとし. ての意義を与えられていることを認識する必要がある︒それゆえこのような現象を自覚しながら︑いわゆる物権的権. 利に対してあらたな構成を与え︑これに関する規範定立をこころみていかなければならないとおもわれる︒しかし慣. 習法上の物権的権利の承認にしても︑その他の権利に対する物権的効力の承認にしても︑そのおのおのが︑別個な領. 域において︑個別的な解釈によって推進されてきたため︑全体としての統一的な意義の把握やその法的構成や将来の 展望は︑必ずしも充分におこなわれているとはいえない︒. 本稿は︑右に概観してきたような物権的権利の実体に即した構成︑その役割を自覚しての規範定立のための︑ひと. つの手がかりをもとめようとするものである︒そしてそのための手段として︑物権概念の意義と機能という観点か.

(3) ら︑これら物権的権利の承認をめぐる問題を概観してみたいとおもう︒その趣旨は︑つぎのとおりである︒. 現在︑物権的権利の承認は︑理論的には︑本来の物権法の立場から︑とくに物権概念を基準としておこなわれてい. る︒そこでは︑物権という権利をどのように構成すべきか︑どのような権利を物権として認定すべきか︑物権につい. てみとめられている諸効力のうち︑どれが︑どのような場合に︑どのような権利について承認されるべきか等が︑問. 題を処理するための基準となるからである︒この場合︑もし従来の物権概念が︑右のような基準として充分に機能し. ているならば︑物権的権利は︑たしかに︑物権法の旧来の体系を動かすことなく︑そのうちに包みこまれることにな. るであろう︒しかしもしそうだとすれば︑物権的権利を本来の物権と並んでかなり広範囲に承認し︑物権的効力を他. の権利に対しても付与することに対する要求と︑従来の物権概念を基準とする構成の間には︑深刻な緊張を生じ︑物 ︵5︶. ︵6︶. 権概念そのものの修正が問題になってくるはずだったとおもわれる︒しかし︑それにもかかわらず︑現在もなお︑た. とえば﹁一定の物を直接に支配しうる権利﹂とか︑﹁一定の物を直接に支配して利益を受ける排他的の権利﹂という. ような物権概念が依然として維持され︑そこには特別な変化がみとめられない︒そうすると︑ここでは︑かような物. 権概念による諸権利の規制と︑物権的権利の承認との関係が︑あらためて検討の対象とされてくることになるのであ る︒. だが︑従来一般に用いられてきた物権概念が︑物権的権利のとりあつかい等において︑はたしてどれだけの役割を. 担いえていたのかということじたい︑ひとつの問題だと考えられる︒現に︑従来の物権概念を検討してみると︑それ. 四一. が︑とくに実際的︑技術的機能に乏しいものであることがあきらかとなってくるのであり︑したがって慣習法上の物 物権概念の意義と機能について.

(4) 論. 説︵高島︶. 四二. 権的権利の承認のためにも︑必ずしも適切に作用しえなかったことが推測されるのである︒そうすると︑少なくとも. 理論上︑物権概念の適用というようなかたちをとっておこなわれてきた物権的権利の承認にあっては︑実はこのよう. な外観とはちがった︑別個の作業がおこなわれていたのではないかということが考えられてくる︒そして物権概念の. 適用という外観は︑この概念の機能の乏しさとあいまって︑右のような作業の実質的内容をおおいかくし︑承認され. た物権的権利の意義や性格をあいまいにし︑さらにはこの種の権利の承認が︑他の法規制に対してもつべき役割の正. 当な評価を妨げているのではないかとの疑いをも生ずるのである︒それゆえ︑物権的権利についての問題を究明する. ためには︑物権概念がこれらの権利の承認において充分に機能しえなかった事情をあきらかにしながら︑物権概念の. 適用という外観のもとでおこなわれた作業の実体をあかるみにだし︑これを自覚的に構成することによって︑将来の 規範定立を展望することが必要になるのである︒. 以下においては︑とくに慣習法上の物権的権利に焦点を合わせ︑いままでみてきたような問題をふまえて︑まず従. 来の物権概念を︑その技術的機能という観点からみなおし︑それが物権的権利の認否における基準として作用する場. 合の問題点を吟味し︑さらに︑この概念が慣習法上の権利の承認において果たした役割を具体的︑個別的に検討し︑. 判例・学説によっておこなわれた解釈上の作業の実質をあきらかにし︑これら権利をむしろ﹁物権﹂概念からひきは. なし︑これを手がかりにして︑あらたな規範定立に対する展望をおこなってみたいとおもう︒. したがってここにいう物権概念は︑民法の適用によってある権利の物権性を認定し︑これに対して物権的効力を付. 与するというプ・セスに奉仕するものとして︑つまりその技術的な側面からとらえられる︒たしかに温泉権や水利権.

(5) ︵7︶. などについては︑その物権性の判断は︑法社会学的な研究から︑総有的︑あるいは人役権的な性格の認定にもとづい. ておこなわれている︒しかしこのような作業も︑これら権利の承認や物権的効力の付与という実際的︑技術的作業と. しては︑そこで究明された諸性格を物権概念という抽象的な基準のうちに集約し︑これを適用しての物権性の認定︑. さらにこれにもとづく諸効力の付与というかたちをとらざるをえないであろう︒またこれらの権利に対し︑非典型担. 保などのとりあつかいにおいては︑実質的な物権性認定の事情が異なってくるのである︒それゆえわれわれが︑制定法. ︵国家法︶の適用による慣習法的な物権的権利の承認という側面から問題をとらえようとすれば︑やはりこの作業を. 前述のような技術的プロセスに還元して検討する必要があるとおもわれる︒さらに︑制定法上の物権についてみとめ. られた効力を他の権利に対しても付与していくことが︑現在における解釈上の問題であることを考えるとき︑実質的. な物権としての認定をうける温泉権等についても︑なおこれらが︑制定法上の物権に対立するものであるという側面. を重視すべぎであり︑廣権的な権利が物権的効力を与えられた場合などとも一括して︑ヒれを物権的権利という独自 な権利類型としてとりあげることが可能であるといってよいであろう︒. このように︑判例・学説がおこなってきたところを︑物権概念の技術的機能の観点から検討することは︑法技術学. としての民法解釈学の観点から︑解釈的作業の技術学的性格を明確にし︑そのプ・セスをより明白に自覚し︑反省す. ることを可能にするであろう︒そしてまたこのことは︑一方において︑民法解釈学における概念構成︑とくに定義な どの技術学的な意昧を再考することにも役立つであろうとおもわれる︒. 四三. ︵1︶ たとえば︑慣習法上の流水利用権と温泉専用権は︑﹁判例によっても排他的効力のあるものと認められているから︑慣習. 物権概念の意義と機能について.

(6) 論. 説︵高島︶. 四四. 法上の一種の物権と見るべきである﹂と説明される︵我妻栄・物権法三一頁︶︒私はこのような把握の意義につぎ︑ かつて. ︵3︶. ︵2︶. たとえば不動産賃借権以外の債権の保護につき︑あるいは代理受領の物権化など︵揺稿﹁代理受領の効力﹂銀行判例百選. 不動産賃借権にもとづく妨害排除請求権を想起すべきである︒. 勝本正晃・担保物権法上一一頁など︒. 疑問を提起したことがある︵拙稿﹁慣習法と物権﹂演習民法︵総則・物権︶三〇五頁以下︶︒. ︵4︶. 舟橋諄一・物権法七頁︒. ︵改版︶一四四頁参照︶︒. 川島武宜﹁近代法の体系と旧慣による温泉権﹂法協七六巻四号四二六頁以下︑渡辺洋三・農業水利権の研究︑水本浩﹁慣. 我妻・前掲 書 九 頁 ︒. ︵5︶ ︵6︶. 物権概念の技術的機能. 習法上の物権﹂判例演習︹物権法︺一頁以下など︒. ︵7︶. 二. 1 右に概観してきたような問題を考えるためには︑まず物権概念の機能をふりかえってみなければならない︒そし. てここでは︑物権概念の観念的な構成や︑これを出発点とする論理的な体系整序ということではなく︑その現実的︑. 技術的な機能が検討される必要がある︒すでに指摘したとおり︑物権的な権利を承認するというような場合には︑当. 然︑物権とはなにか︑どんな効力をもつべきか等が考えられ︑これが基準となって問題が処理されるはずなのだが︑. そこでおこなわれるわれわれの法的作業は︑法技術学的には︑物権概念の二つの現実的︑技術的機能の実現としてと. らえることができる︒ここで技術的機能というのは︑物権概念それじたいが︑ひとつの規範として直接に適用され︑.

(7) 社会関係の規制のために使用されることである︒そしてこのような技術的機能には︑さらに二つのもの︑すなわち識. 別機能と内容決定機能とが考えられるが︑これは︑およそ民法解釈学における概念構成に関して一般にみとめられる ところのものである︒. まず識別機能は︑物権概念でいうと︑これを基準として︑ある権利が物権であるか否かを識別する機能にほかなら. ない︒慣習法上の物権的権利の承認において︑これが問題となることは︑容易に想像しうるであろう︒また内容決定. 機能は︑ある権利が物権とされる以上︑物権概念のうちに示される内容︑たとえば物の直接支配という内容が承認さ. れるということである︒そしてこれは︑識別機能とむすびつぎ︑慣習法上の物権的権利を承認する場合にも︑これら. 権利についてみとめられる効力の決定に役立つものと考えられる︒そこでつぎに︑物権概念を︑これらの機能︑とく. に識別機能について検討し︑それが物権的権利の承認のために作用すべぎ基準として︑どのような問題点をもつかを 探ることにする︒ ︵1︶. 2 およそ民法解釈学における定義とか概念とかいうものは︑技術的には︑なんらかの形での識別に奉仕すべき法的. 手段であるということができる︒物権概念もその例外ではない︒ただ︑物権概念については︑必ずしもこの機能が明. 白に自覚されていないこと︑したがって︑このような機能を意識しての概念構成が自覚的におこなわれていないこと. が︑物権的権利の承認においても︑とくに問題となる︒そしてこれには︑概念構成一般に共通な理由と︑物権概念に 特有な事情とが考えられる︒. 四五. 一般に︑民法解釈学において︑定義を下したり︑基本概念を構成したりする場合︑そこでは︑識別のための基準を 物権概念の意義と機能について.

(8) 論. 説︵高島︶. 四六. 設けるという規範定立的な要素︵ここでは規範定立的要素とよんでおく︶よりも︑観察による客観的な認識や説明と いう要素︵認識的要素とよんでおく︶の方が強くあらわれるといってよい︒. 物権を定義し︑物権概念を構成するという解釈上の作業をふりかえってみると︑それはかなり多様な要素をふくん. だ複合的な行為であることが知られる︒しかしそのうちで︑われわれがおこなってきた中心的な作業は︑物権とされ. た諸権利を客観的に観察し︑そこから共通の特徴を帰納的にみちびいて抽象的︑一般的な物権の概念を構成すること. であったといってよい︒物権概念構成のうちには︑もちろんこのほか︑識別機能を発揮しうる基準を︑一種の規範定. 立として設定する等の作業もふくまれるべぎなのだが︑このような作業は︑それほど自覚的におこなわれているとは. いえない︒そしてこれは︑ひとつには︑民法解釈学において︑これを規範定立のための技術学として構築するという. 方向が徹底しなかったことによるものであろう︒またそこでは︑従来認識的に構成された基本概念を出発点とする論. 理的な体系構築という︑むしろ理論科学的なモデルによる作業がおこなわれてきたのであり︑現在も︑とくに基本概 ︵2︶ 念の構成などについて︑このような方法にさして抵抗が感じられなかったためであろうとおもわれる︒だが場合によ ヤ. ヤ. っては︑概念構成における識別機能がとくに意識され︑そこに規範定立的な要素が強くあらわれることもある︒たと. えばその例を﹁物﹂概念の構成にみいだすことができよう︒﹁物﹂概念は︑そのまま物の要件としてあらわれ︑自覚的. に物権の対象の取捨選択のために基準として用いられていたことを想起すべきである︒しかしこのことは︑実は︑物 概念による識別の実際上の必要性によるものだったのである︒. 右にみてきたような一般的な理由のほか︑とくに物権概念においては︑その識別機能を意識することを妨げるよう.

(9) な特別な事情が存在していた︒それは物権法定主義の採用により︑識別の必要性が減少していたことである︒近代的. 物権制度の規制として︑わが民法もこの原則を宣明しており︵一七五条︶︑したがって物権とされるべぎ権利があらか. じめ制定法で限定され︑その内容も法定され︑物権の創設はみとめられないから︑なんらかの基準を用いてある権利. が物権であるか否かを識別する必要は︑法定の物権以外の権利を判定する場合以外には存在しなかった︒いいかえれ ば物権概念の識別機能は︑制度的にその実現を抑えられていたということができる︒ ︵3︶. ︵4︶. もっとも法定の物権についても︑物権概念の識別機能がまったくみとめられなかったわけではない︒たとえば︑占. 有権の物権性が問題とされたり︑担保物権の物権としての特殊性が論じられたりする場合がそれであった︒だがこの. 場合も︑本当の意昧で識別機能が発揮されたとはいえない︒物権か否かの認定は︑法技術学の観点からすれば︑識別. の結果その権利について物権としての効力をみとめられるというように︑内容決定機能とむすびついて︑はじめて意. 味をもつことになる︒ところが占有権の物権性を否定しても︑民法によってみとめられた諸効果に対して影響を生ず. るわけではない︒またこのことは︑物権の規制一般についての規範定立に対しても︑とくに実際的意義をみとめられ. ていなかったのである︒このような事情は︑担保物権の物権性の論議においても︑基本的には同様であったといって よい︒. このようにみてくると︑物権概念というものが︑認識的要素を濃厚に示し︑識別機能︑さらには内容決定機能を充. 分意識することなく構成されていること︑それは近代法の解釈にむしろ一般的な現象であると同時に︑近代的物権法. 四七. の特徴に対応する特殊な現象であることが理解されるのである︒したがってまた︑このような事情のもとに構成され 物権概念の意義と機能について.

(10) 論. 説︵高島︶. 四八. た物権概念が技術的役割に充分適合しなかったことも推測されるのであり︑それゆえにこそ︑この概念を用いての物 権的権利の承認につき︑特別な検討が必要とされることになるのである︒. についてこの観点から検討をこころみたものとして︑拙著・民法総論㈲一七頁以下︒. ︵1︶ 法解釈学すなわち法技術学においては︑概念構成はこの機能を意識しておこなわれるべきである︒たとえば法律行為概念. 現在の民法解釈学が方法的にこれを克服してきたこと︑いうまでもないが︑なお不徹底であることを承認せざるをえない. であろう︒従来のような体系を修正して︑機能的な観点から説明を工夫することもおこなわれてきているが︑これらも︑さ. ︵2︶. たとえば舟橋・前掲書二七七頁−二七八頁など︒. らに技術学的な自覚にもとづいて推進されるべきである︒ ︵3︶. 石田文次郎 ・ 投 資 抵 当 権 の 研 究 ︑ 柚 木 馨. ︵1︶. 物権概念の構成は︑これをおこなう個人によっても異なり︑立法による構成にも差異がある︒しかし現在︑前述. 高木多喜男・担保物権法六頁など︒. ︵4︶. 3. したような構成︑すなわち﹁一定の物を直接に麦配しうる権利﹂というような構成が︑一般に︑しかも特別に修正さ. れることなく︑おこなわれてきている︒後述するように︑慣習法上の権利の物権性の識別のために判例が用いた概念 にも︑やはり同様のものがあった︒. ところがこのような物権概念の構成の仕方には︑とくにその技術的機能について問題を生ずるつぎのような特徴が. みとめられる︒まずここでは物権の内容として﹁支配﹂という観念が中心になっている︒つぎに︑この概念構成で. は︑排他性を別として︑とくに効力による特徴づけがおこなわれていない︒そして実はこれらの点に︑やはり物権概. 念を用いての慣習法上の権利のとりあつかいにおいて生ずる問題の源があるようにおもわれる︒つぎに右の二つの点.

(11) を︑さらにたちいって検討してみよう︒. まず右の概念構成は︑物権を﹁麦配﹂という作用によって特徴づけている︒しかしこの支配ということは︑実は高. 度に法技術的な︑特別な効力にむすびついた観念であり︑単なる事実上の状態ではない︒事実上の支配を承認される. ことは︑必ずしも物権に特有な内容とはいえないし︑法的に間題となるのは︑支配できることそれじたいではなく︑ ヤ. ヤ. ヤ. 支配を実現し︑保障するための法的手段︑つまり特別の効力にほかならないのである︒それゆえ︑支配というイメー. ジそのものは︑物権を特徴づける法的な観念として不充分であり︑識別のためにも適切に機能するとはいいがたいの である︒. この点は︑従来︑﹁直接に﹂という限定によって法的基準として明確化されると考えられていたとおもわれる︒し. かしこの基準にも︑やはり問題がある︒これは要するに︑他人の行為を媒介とすることなく支配でぎるか否かという. 基準として作用することになる︒しかし︑このように支配しうるかどうかということは︑少なくとも用益権などの場. 合にあって︑事実的には識別基準となりえないであろう︒なぜならこのことは︑まさしく特別な政策的意図にもとづ ︵2︶ いた法的構成によって︑はじめて決定されるのであって︑事実的な状態における区別はきわめて困難だからである︒ ︵3︶. このことは︑土地利用契約が地上権か賃借権かを識別することの困難さ︑それが終局的には法政策的な考慮によって. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. 決せられる事実のうちにみとめられるであろう︒つまり直接支配という特徴づけは︑むしろ法律が地上権や賃借権を. 四九. 区別していることを前提として︑両者の差異︑おのおのの特徴を認識し︑説明するためにその効能を発揮するもの ︵4︶ で︑識別基準としては適切なものでないということができよう︒ 物権概念の意義と機能について.

(12) 論. 説︵高島︶. 五〇. また右のことは︑内容決定機能についてもあてはまる︒ある権利が物権と判定された場合︑権利者は直接に物を支. 配してよいということをみとめるだけでは︑法的効果として不充分だとおもわれる︒これは︑第三者に対しても権利. 内容の主張がそのままみとめられたり︑当該権利の自由な処分がみとめられたりするというような具体的な効力とむ すびついて︑はじめて実際上の機能を発揮しうるであろう︒. これに対し︑﹁排他的﹂支配という特徴をもりて物権像をえがき︑これを識別基準とするとき︑このことは︑同一. 目的物上に同一内容の権利が成立できないという状態の有無を基準とするから︑識別のためにより有効に機能しうる. ことにもなるし︑物権とされた権利の内容としてこの効力をみとめることにも︑それだけでただちに実際的な意味が. あるといってよいであろう︒この特徴は︑支配の法的保障の方法を示しているからである︒ただ︑これのみをもって. 識別基準としてよいかどうか︑また物権と判定された権利の効力は︑排他的効力のほかにもみとめられるはずだが︑. どのような効力を内容として承認すべきか︑排他的効力とこれら諸効力付与の関係はどうなるかなどの問題は︑依然. として残されることになる︒いずれにしてもこのようにして︑排他性という基準についてなおみとめられる問題点. は︑とくに物権法定主義の枠をこえた慣習法上の権利のとりあつかいにおいて︑重要な意義をもってあらわれてくる のであり︑ここに両者のつながりがとくに問題とされる理由がみいだされるのである︒. なお︑﹁物﹂の支配という特徴づけは︑当該権利が物を対象にしているかどうかという識別基準としてたしかに作. 用しうるが︑この特徴は︑効力における特徴にくらべればむしろ従たるものであり︑とくに担保物権においてみられ. るようにその意義に乏しく︑また内容決定としても︑原則として物以外に物権の成立をみとめないというように︑む.

(13) しろ一種の成立要件として︑消極的に作用しうるにとどまっているのである︒. さらに︑右のような概念構成については︑つぎの特徴にも注意しておかねばならない︒すなわち︑物の直接︵排他 ︑︑︑︑. ︵5︶. 的︶支配というような物権概念は︑従来︑認識の結果とはまた別に︑物権の諸性質や諸効力をみちびき︑これを根拠. づける論理的な前提として機能したものとおもわれる︒そしてこのような︑物の支配と諸性質・諸効力の論理的なむ. すびつきは︑これら性質・効力を物権特有のものとして意識させることになり︑これらを物権以外の権利についても. 承認するということに対する障害となった︒だとすればこのような物権概念の作用は︑物権的権利の承認というあら たな法規制の推進にとっては︑マイナスに働いたことになる︒. しかし︑このような論理的むすびつきは︑これら性質や効力を︑物権規制のための技術的な要請︑技術的な妥当性. の観点から把握することによって解消され︑したがってまた︑同様の技術的考慮は︑これら効力を物権以外の権利に. 対して付与することを容易ならしめるであろう︒われわれはこのプロセスを︑あの賃借権に対する妨害排除請求権の. 承認という解釈上の努力のうちに︑明白にみいだすことができる︒そしてこの点は︑ひろく︑物権的権利といわれる. 権利類型の承認と物権概念の関係を考えるうえで︑やはり重要な意味をもつものといえるであろう︒. とし︵財産編二条一項︶︑学者は︑右の万人に対する対抗から︑侵害者に対する救済をみちびいている︵磯部四郎・民法釈. ︵1︶ たとえば旧民法は︑﹁物権ハ直チニ物ノ上二行ハレ且総テノ人二対抗スルコトヲ得ヘキモノニシテ主タル有リ従タル有り﹂. 義財産編第一部第一編︶二八頁︒ ことを示すものといえよう︵大判大正九年一〇月四日民録二六輯一四二三頁︶︒. 五一. ︵2︶ 賃借権の物権性が争われたケースにつき︑判例が六〇六条や六〇五条にもとづいてその物権性を否定しているのは︑この. 物権概念の意義と機能について.

(14) 説︵高島︶. 地上権か賃借権かの判定における一種の循環論法を想起すべきであろう︒. 論. 43 ヤ. ヤ. ヤ. ち. ヤ. ヤ. め. も. ヤ. ヤ. ち. ち. ヤ. ヤ. ヤ. ち. ヤ. ち. ヤ. ヤ. ち. ヤ. ヤ. ヤ. ち. も. め. ち. ヤ. め. ち. ち. ヤ. ち. ヤ. ち. ち. 五二. む. ち. ヤ. ヤ. ち. ヤ. 梅博士は︑﹁物権ハ物ノ上二直接行ハルル結果トシテ優先権︵U8津冥陳恥窪8︶ト追及権︵U8詫号窪εトノニ効力ヲ. ヤ. コトヲ得サルヘシ︵傍点高島︶﹂︵松波仁一郎 仁保亀松H仁井田益太郎.民法正解︵物権編︶九九頁−一〇〇頁︶︒. ろであった︒. 生ス︵傍点高島︶﹂とする︵梅・民法要義︵巻之二︶一頁︶︒このような思考のプ冒セスはその後も一般におこなわれたとこ. なるのである︒. 三. 慣習法上の物権的権利と物権概念. ら権利の承認のために作用した︑右のような物権概念それじたいもまた︑再検討の必要に当面せざるをえないことに. 化し︑慣習法上の権利の意義・性質・効力などについての検討を要求するにいたるのであり︑これとの関係で︑これ. よって規律されていない慣習法上の権利の物権としてのとりあつかいが問題とされる場合には︑これら諸問題が顕在. し︑したがってまた︑充分に自覚されることもなかった︒ところが︑物権法定主義の厳格な枠が緩和され︑制定法に. ったが︑さきに指摘したとおり︑このような問題点は︑本来の物権法定主義の枠内では︑具体化することがなかった. 表現が︑それじたいその技術的機能においてさまざまな問題点をもち︑その有効性に疑問のあることがあきらかにな. 4 以上のような検討により︑現在一般に用いられている物権概念︑いいかえればわれわれがえがいている物権像の. ︵5︶. 如何二因リテ物権︑債権ヲ説明スルヲ通常トスレトモ是唯物権︑債権ヲ説明スル一一過キス決シテ之二依テニ者ノ区別ヲ為ス. ヤ. この点に関連して︑古い注釈書のうちに︑ つぎのような序述があるのは興味深い︒﹁此ノ如ク権利ノ対抗ヲ受クヘキ人ノ. (( )).

(15) ー. 物権概念を用いてある権利の物権性を識別し︑これにどのような効力を付与すべきかを決定するという作業は︑. 本来の物権法定主義の枠外において︑はじめて意義をもつと考えられること︑前述のとおりである︒そしてこの作業. の必要性は︑慣習法上の権利のとりあつかいにおいて︑われわれの前に明白な姿をもってあらわれてくるのである︒. それゆえこの間題に当面する場合︑物権法を運用しようとする者は︑否応なしに自らの物権像を表明することを強制. されるのであり︑またこの場合各自のえがく物権像は︑直接に︑ひとつの規範として︑現実の社会規制の役割を担当. することになるのである︒そこで︑つぎに︑さきに指摘したような物権概念の技術的機能の観点から︑この問題をと りあげていくことにする︒. 慣習法上の権利に物権的な効力を付与したり︑あるいはこれを拒絶したりする判例は︑かなりの数にのぼっている. が︑そこには必ずしも統一性が明白にみとめられるわけでもないし︑ここで用いられる理論構成も︑一貫していると. はいえない︒学者は一般に︑これを物権法定主義の緩和の問題としてとらえ︑判例は慣習法上の物権︑あるいは物権. 的権利をみとめている︑というようなかなり不明確な理解を示すにとどまることも︑さぎに指摘したとおりである︒. しかしこれが︑法定の物権以外に︑物権的効力をもつ権利の類型を承認していくという︑重要な意義をもった法的作. 業であることを考えると︑さらにたちいって判例の態度を解明︑整理し︑とくにここでおこなわれた技術的作業を自. 覚的にあきらかにすることが必要だし︑これによって将来の規範定立への手がかりをみいだすことも可能になるとお もわれるのである︒. 五三. しかし一口に慣習法上の権利といっても︑そのうちには性格を異にし︑またその物権性について︑異なった問題を 物権概念の意義と機能について.

(16) 論説︵高島︶. 五四. 生じさせるものがある︒そこで︑まず水利権等︑とくに民法典制定以前より存在していた用益権的な性質のものと︑. とくに民法制定後にさかんに用いられるにいたった担保権的性質のものとに分け︑おのおのについて考えていくこと にする︒. 2 水利権等の慣習法上の権利の規制を︑民法一七五条との関係から考えると︑問題処理の順序として︑まずその物. 権か否かが判断され︑物権であるとされた場合︑物権法定主義の立場からこれを承認し︑そのまま物権としての効力. をみとめてよいかどうかが決定される︑ということになるであろう︒そうすると︑物権概念は︑右の第一の段階にお. いて︑その識別機能を発揮するものと考えられる︒しかし判例を概観すると︑そこでは必ずしもこのプ・セスが一貫. して示されているわけでもなく︑物権概念の識別機能も︑必ずしも有効に︑また決定的なものとして発揮されている. とはいえない︒そしてこれを自覚することによって︑慣習法上の権利の︑あらたな︑独自な権利類型としての性格 が︑明白にうかびあがってくるのをみとめうるであろう︒. まず︑右にあげた典型的なかたちで物権概念が使用された例として︑いくつかの判例をとりあげれば︑左のとおり である︒. 明白に物権概念を前提とし︑これを適用して慣習法上の権利の物権たることをみとめたものとしては︑東京控訴院. の左の判例をあげることができる︒ここでは︑物権を︑﹁特定ノモノヲ直接支配シ収益ヲ為ス排他性ヲ有スル権利﹂. であるとし︑これを用いてつぎのような判断をみちびいている︒﹁湯殿山ナル特定ノ地域ヲ直接支配シ︑該地上二碑. ヲ所有シテ土地使用ヲ為スノ︑・・ナラズ︑湯殿山大権現ノ祭典費二充ッル為メ︑該地域内二生育セル立木其ノ他ノ毛上.

(17) ヲ売却シテ利益ヲ享受シ得ベキ内容ヲ有シ︑而モ該権利ガ排他性ヲ有シ︑同一内容ノ他ノ権利ノ並存ヲ許サザルモノ ︵1︶ ナルコトハ︑控訴人等ノ主張自体二徴シ明白ナルヲ以テ⁝⁝民法上所謂物権二該当スルモノト謂ハザルベカラズ﹂︒こ うして本判例は︑一七五条にもとづき︑この権利の承認を拒否した︒. また判例は︑同様の物権概念を用いて︑逆に流木権の物権性を否定している︒すなわちつぎの大阪地裁判例は︑物権. を︑﹁直接二物夫自体ヲ支配シテ利益ヲ享受スル絶対権ニシテ排他性ヲ有スル﹂ものと定義し︑この排他性や直接支. 配性の欠除というところから︑その物権性を否定して︑つぎのようにのべている︒まず第一の点につき︑﹁本件庄川. 二於テハ原告以外ニモ幾多ノ同業者存在シ是等業者モ亦流材ノ慣行アリトセバ︑之二基キ各自独立シテ同一流域二同. 一内容ノ流木権ヲ有スベキヲ以テ︑是等数個ノ流木権ハ併存シテ相互二侵犯スルコトナク︑他ヲ絶対的二排斥スルモ. ノニ非ズ﹂とする︒つぎに第二の点については︑﹁元来流木権ハ流水夫自体ヲ直接二支配スル所謂支配権ノ性質ヲ有 ︵2︶ セズシテ流水ヲ使用スルノミナレバ﹂︑これに該当しないものとする︒. しかし︑すべての判例が︑このように物権概念を明白に使用して結論をみちびいているわけではない︒たとえばあ ︵3︶. の上土権を承認することを拒否した判例は︑より具体的に︑それが一種の所有権であることをみとめたうえで︑一七. 五条にもとづいてこれを否定した︒また︑もう少し不明確に︑﹁物上的権利﹂という観念を用い︑これを根拠に物権. としての承認を拒否した判例は︑ つぎのようにのべている︒﹁被告等ハ︑慣習二依テ其所有権ヲ制限セラレ︑叉ハ他. 五五. 一七五条よりしてみとめら. ノ部落村民ハ︑慣習二依リ︑被告等所有地ノ上二其権利行使ヲ制限スベキ物上的権利ヲ取得シタルノ趣旨ナリトスル 時ハ︑慣習ヲ基礎トスル斯ル所有権ノ制限又ハ斯ル物上的権利ノ認メ得ベカラザルハ﹂︑ 物権概念の意義と機能について.

(18) 論 ︵4︶. 説︵高島︶. れるところであるとしている︒. 五六. ︵5︶. これに対して︑一般に温泉権や水利権については︑物権概念の適用という作業は明白におこなわれず︑当該権利の. 性格からただちに諸効力をみちびいているのである︒たとえば︑﹁渓谷ノ流水使用権二付テハ︑殊二井手ヲ設ケテ田. 用水若クハ飲用水等二用ヰタル場合ハ勿論︑公共物タル渓流其モノト難モ一旦或者二於テ其流水ヲ専用スル慣習ヲ生 ︵6︶. ジタルトキハ︑蚊二其者ノ権利ヲ生ジ︑他人ノ之ヲ侵スコトヲ容サザルハ我国一般二古来ヨリ認ムル所ノ原則ナリ﹂. 東控判昭和七年八月三一日新聞三四八六号九頁︒なおこのうちに﹁直接支配﹂の認定がおこなわれているが︑これが具体. とした判例がこのことを示す︒ ︵1︶. 大阪地判昭和八年三月七日新聞三五二八号一七頁︒なおここでも直接支配の認定基準がかなり不明確であることに注意す. 的にどのようにみちびかれたかは不明である︒ ︵2︶ ︵3︶. ただし判例には物権概念の適用とみられるものもある︒鉱泉採取権につき︑﹁地盤二付着シ其土地ガ直接二承役義務ノ関. 大判明治三七年三月七日刑録一〇輯四二九頁︒. 大判大正六年二月一〇民録二三輯二二八頁︒. べきである︒ ︵4︶. 係を有スルモノナルガ故二之ヲ人権ト云フヲ得ズ﹂とし︑独特な物権概念を基準したものがこれに属する︵大判明治二八年. ︵5︶. 二月六日民録一輯八三頁︶︒. 大判明治四二年一月一コ日民録一五輯一四頁︒なお大判明治三八年一〇月一一日民録一一輯二三二〇頁など︑同趣旨のも. さて︑以上のようにみてくると︑一般に一種の物権とか︑物権的権利とかいわれているものがみとめられる場. のが多い︒. ︵6︶. 3.

(19) 合︑判例上︑必ずしもあの物権概念︑いいかえればわれわれが構想している物権像が︑その物権性の識別のために機. 能していなかったことを知りうるのである︒さらにそこでは︑物権概念を用いての識別の結果︑物権と認定されたも. のが︑結局慣習法上の物権として公認されず︑また物権でないと断定されたものが︑しかも排他性がないという理由. によってそう断定されたものが︑かえって︑学者のいわゆる物権的効果を承認されているという事実もみとめられる. のである︒そうすると︑学説が︑はたしてどのような理由から︑これが物権だとか物権的権利だとかいうように性格. づけているのかが疑問とされることになる︒そうして︑いずれにしても︑ここでは物権概念の識別機能が︑実質的に. は充分にその意義をもちえていないことがあきらかになってくるのである︒しかしこのような問題点をさらにうかび. あがらせるためには︑こんどは︑右のような諸権利に対するさまざまな効力の付与あるいはその拒否という角度か. ら︑もう一度判例・学説の態度を検討してみなければならない︒そしてこれは︑物権概念の内容決定機能とも密接に 関連した問題だということができょう︒. 4 慣習法上の物権的権利のとりあつかいについての判例を概観してみると︑そこには︑前述したところからも知ら. れるように︑大変興味のある現象がみとめられる︒それは︑明白な物権性が承認された場合は︑一般に︑一七五条と ︵1︶ の関係において︑これを物権としてみとめないとする結論がみちびかれており︑逆に物権的効力といわれているよう ︵2︶. な効果を承認する場合には︑その物権としての認定が明白におこなわれず︑あるいはさらにすすんで︑物権性がはっ. きりと否定されていたことである︒それゆえ︑物権概念の識別機能からみると︑これを用いて物権であるとの認定を. 五七. おこなったとしても︑それは物権的効力をみちびくための前提としては作用していなかったことになる︒つまりここ 物権概念の意義と機能について.

(20) 論. 説︵高島︶. 五八. では︑物権であることの認定と︑物権的効力とのむすびつきが失なわれているということもできるのである︒判例の. 態度を全体としてみた場合︑これが物権としての認定と物権的効力とのむすびつきを考える学説との問の︑重要な差 異であるということができる︒. 右にみたように︑判例は︑その理論構成において︑必ずしも一貫しているとはいえないが︑これらを実質的に整理. すると︑そこにはある統一的な基準が働いていたようにおもわれる︒すなわち︑慣習法上の権利のうち︑物権的効力. を否定されたのは︑法定の物権と内容において重複し︑あるいはこれと衛突するような性質のものだったといってよ. い︒これに対して︑物権的効力を承認されたものは︑法定の物権と重複せず︑制定法的物権制度と両立しうるような. 内容の権利であった︒そうすると︑判例は︑ある種の慣習法上の権利につき︑それが物権と認定されるか否かという. こととは別に︑物権的効力を付与することの妥当性を考えていたといわねばならない︒したがってこのような権利を. 物権と認定することは︑むしろ一七五条を用いてこれを否定するための根拠づけとして作用していたともみることが. できる︒これに対し︑物権的効力を付与した慣習法上の権利については︑物権性を明示しないことにより︑一七五条. によって否定されることを避けるという意義もあったものとおもわれる︒ここでは物権概念が︑識別機能よりも根拠. づけの機能を発揮し︑同時に︑物権的効力の付与に対する判例の政策的な判断がうかがわれてくるのである︒. このように︑判例において︑物権概念の使用による慣習法上の権利の物権性の認定と︑これに付与されるいわゆる. ヤ. ヤ. ヤ. 物権的効力とがたがいにきりはなされていたとすると︑そこでは︑一体どのような効力が︑どのような根拠にもとづ. いてみとめられていたのか︑これら効力が物権的だというのはどのような意昧か︑これら効力の承認は︑実質的に︑.

(21) どのような規範定立としてとらえられるべきか等が問題となる︒この点についても従来必ずしも充分な検討がおこな われていなかったようにおもわれる︒つぎにこれをやはり判例についてたしかめてみる︒. 前掲の大阪地裁の判例は︑流木権という権利が物の直接支配とか排他性とかの性質をもたないものとしながら︑結. 局︑権利の不可侵性︑対世的性質を根拠として︑これにもとづく妨害排除請求権を承認している︒その論旨はつぎの. とおりである︒﹁何人モ他人ノ権利ヲ侵害スルコトヲ得ザルハ︑法律生活並二社会生活二於ケル一大原則ニシテ︑筍. モ権利タル以上其ノ権利ノ種類如何ヲ問ハズ︑反対ノ規定ナキ限リ凡テ対世的性質ヲ有スルモノニシテ︑対世的性質. ヲ有スルモノハ単二物権ノミニ限ルベキニ非ラズ︒従テ本件流木権ハ︑物権ニモ債権ニモ人格権ニモ非ラザル一種ノ. 財産権タルニ過ギズト難モ︑其ノ対世的性質ヲ有スルコトニ於テハ︑他ノ権利ト何等異ル処ナシ︒然ラバ流木権ト難モ. 故ナク他人ノ行為ニヨリ侵害セラルルトキハ︑其ノ権利夫自体二基キテ其ノ妨害ヲ排除シ︑以テ其ノ権利ニヨッテ利 ︵3︶. 益ヲ享受シ得ベカリシ従前ノ状態二恢復セシムルコトヲ求メ得ル法律上ノカナカルベカラズ︒是即流木権モ亦妨害排. 除請求権ヲ有スル所以ナリトス﹂︒すなわちここでは︑妨害排除請求権が︑物権とのむすびつきを断たれ︑権利の不. 可侵性そのものに結合せしめられている︒したがってこの解釈は︑広く他の権利への適用の可能性をもっていること. になる︒いずれにしても妨害排除請求権は︑意識的に物権的効力たることを否定されたことになる︒. 右と異なり︑より端的に︑慣習それじたいからかような効力をみちびいた左のような判例もある︒﹁他人ノ所有地. 五九. ヨリ湧出スル流水ヲ永年自己ノ田地二灌慨スルノ慣行アルトキハ︑之二因リテ其田地所有者二流水使用権ヲ生ジ︑水 ︵4︶ 源地ノ所有者ト難モ之ヲ侵スコトヲ得ザルハ古来本邦ノ一般二認メラレタル慣習法ナリ﹂︒﹁多年河川ノ流水ヲ田地二 物権概念の意義と機能について.

(22) 論. 説︵高島︶. ︵5︶. 六〇. 灌概シタル慣行アルトキハ︑其ノ使用者二流水使用ノ権利ヲ生ジ︑他人ノ之ヲ侵スコトヲ容サザルハ古来我国ノ慣習 上認メ来タリタル所ナリ﹂︒. なお︑きわめて興味のあるのは︑不法行為による侵害を理由として︑温泉権に対し妨害排除をみとめたケースであ ︵6︶. る︒すなわちこの判例は︑﹁不法行為ノ状態ノ存続スルモノアルトキハ︑被害者二於テ其ノ不法行為ノ現状ノ除去ヲ. 請求シ得ル権利ヲ有スルヤ論ナシ﹂とする︒これは︑他の権利に対する同様の救済の承認への方向を︑きわめて明白. に示している︒そしてこのような意義は︑もしわれわれがこれを慣習法上の物権に対する物権的効力の付与として当. 大判昭和一五年九月一八日民集一九巻一六二頁は︑温泉専用権を﹁排他的支配権﹂であることから﹁一種ノ物権的権利﹂. 然視した場合には︑ほとんど失われてしまうことになるであろう︒. ︵1︶. と断じ︑その結果一七七条の類推をみちびいている︒しかしこれを一七五条との関係での物権的効力承認の問題とまったく. 川島教授は判例の態度を分析され︑﹁旧来の慣行にもとづく流水使用権や温泉権は裁判所によって﹃物権﹄として承認さ. 同視してよいか否かはさらに検討を要するであろう︒ ︵2︶. れている﹂とされ︑﹁判例は︑原則として旧慣上の物権を承認し︑その場合には第一七五条との関係を問題とせず︑これに. がでぎるようである﹂とのべられている︵川島・前掲論文四三四頁︶︒しかし判例が︑物権概念を用いて物権性を認定し︑. 反し旧慣上の権利を承認しない場合には︑第一七五条を法律構成の前面にもちだして理由とする︑という傾向を認めること. そこから物権的効果をみちびいたかどうかを基準として考えると︑本文指摘のような特徴を示すことになるとおもわれる︒. すなわち判例は︑流水利用権等について明確な物権概念へのあてはめをおこなわず︑逆に積極的にこれを用いて物権性を否. の承認を意味しないこと︑本文に説くとおりである︒つまりここでは︑これら権利が物権であると認定されて︑そこから妨. 定したものさえあった︒またこれらについて判例はたしかに物権的請求権同様の効力をみとめたが︑これがただちに物権性.

(23) 5. 害排除請求権などの効果がみちびかれたのか︵もしそうなら他の諸効果も原則としてみとめられることになる︶︑それとも︑. ている︶が問題だとおもわれる︒また判例が一七五条をもちだして旧慣上の権利を承認しなかった場合には︑さらにこれら. この効力を個別的に承認したことが物権をみとめたことになるのか︵しかし判例はむしろ別の根拠からこの効力をみちびい. 場合には︑その前提として︑あえて物権概念へのあてはめをおこなわなかったところが特徴的なのである︒ここでも﹁物権. 権利の物権概念への適合が強調されていたところに特徴がみとめられよう︒したがって︑一七五条との関係を間題にしない. 前掲昭和八年大阪地判︒. とする﹂ということの意味が問題だといえよう︒ ︵3︶. ︵4︶ 大判大正六年二月六日民録二三輯二〇四頁︒. ︵6︶. 大判昭和七年八月一〇日新聞三四五三号一五頁︒. ︵5︶ 大判昭和九年一二月一二日新聞三七九〇号一四頁︒. さて︑以上みてきたような判例の作業を︑物権概念の技術的な機能との関係で︑実質的な観点から再検討したい. とおもう︒そうすると︑そこには︑物権概念による物権性の認定をおこなったうえで︑一七五条にもとづいて物権と. しての公認を拒否する場合と︑慣習法上の権利に対していわゆる物権的効力がみとめられる場合との二つの類型があ るので︑そのおのおのについて考えてみる︒. まず第一の場合について︒ここでわれわれが知りうるのは︑慣習法上の物権あるいは物権的権利の認否は︑物権概. 念のあてはめによって形式的におこなわれるわけではなく︑物権法定主義からは当然のことであるが︑それを前提と. したうえで︑政策的︑技術的な判断にもとづいて実現していた︑ということである︒さらに︑前述したように︑物権. 六一. 概念のあてはめじたい︑物権的効力付与の是非の判断に対する根拠づけという性格さえみとめられた︒いいかえれ 物権概念の意義と機能について.

(24) 論. 説︵高島︶. 六二. ば︑そこでは︑物権的効力の付与が妥当であるか否かの実質的な判断が最終的に働いていたことになる︒また︑慣習. 法上の物権が否定されてしまうために実際上表面にあらわれなかったが︑この権利がもし物権として承認されたとし. た場合︑その結果どのような効力が全体としてみとめられるべきかは︑あきらかにされていない︒つぎに︑いわゆる. 物権的効力がみとめられる場合について︒この場合慣習法上の権利に与えられる効力は︑全体としてではなく︑やは. り個別的に考慮されていることに注意すべきである︒そしてこれは︑判例の性質上当然ではあるが︑このようにして. 問題とされた効力以外に︑それぞれの権利につき︑いかなる効力を付与すべきかは︑あきらかにされていない︒これ. らはやはり個別的に考慮されることになろう︒なぜなら︑ここではさまざまな根拠が示されてはいるが︑すでに指摘. したように︑これら効力は︑当該慣習法上の権利が物権と判定されることから当然にみちびかれているのではなく︑. 権利ごとに︑これら効力を与えることの実質的な妥当性が︑個別的に考えられていたからである︒このような点に︑ 判例のとった態度の特徴がみとめられる︒. 要するにここには︑三つの注意すべぎ点があるとおもわれる︒第一は︑これら慣習法上の権利の物権性は︑物権概. 念を用いて識別されることにより︑当然にみとめられるものでないこと︑第二は︑これら権利のいわゆる物権的効力. が︑権利の物権性の認定とは別に︑これら効力を付与することの実質的妥当性の個別的な考慮によって承認されてい. ること︑第三は︑ここで問題とされる諸効力が︑個別的にみとめられており︑他の効力とともに総合的なものとして. 予想されていないことである︒そしてわれわれは︑これらの点から︑この場合の慣習法上の権利は︑一種の物権とか. 物権的権利とかいわれているにもかかわらず︑そのとりあつかい方が︑制定法によって承認された物権のとりあつか.

(25) い方︑その考え方といちじるしく異なり︑対照的でさえあることに気づくであろう︒そしてこのことから逆に︑法定. の物権の︑従来の概念構成の蔭に隠されていた技術的性格がうかびあがってくる︒それは︑物権が︑物権的効力とさ ︵1︶. れるさまざまな効力を︑特別の考慮を必要とせずに︑当然に発生させる前提としての地位をもつことであり︑またこ. れら諸効力は︑総合的なものとして︑物権にむすびつけられているということである︒したがって物権法定主義は︑. このような特徴をもつものとされる権利の公認を︑法律によって限定することだったと考えられるのであり︑このこ ︵2︶. とは︑物権法定主義の再検討︑慣習法上の物権の承認とこの原則との関係を理解するうえで︑重要な意義をもつとお もわれるのである︒. このようにみてくると︑慣習法上の物権あるいは物権的権利をみとめたことの実質的な意義があきらかとなるであ. ろう︒近代的物権制度における物権法定主義の確立は︑物権の効力とされるものを︑他の権利︑たとえば慣習法上の. 権利からとりあげ︑これらを総合的なものとして独占することを意味した︒それゆえ︑ふたたび他の諸権利に対して. この物権的効力を付与しようとするとき︑なんらかの形で物権概念を使用し︑それにあてはめるというような操作を. 必要とすることになった︒つまり︑民法の態度に忠実である以上︑総合的な効力の一部︑たとえば妨害排除請求権を. 付与しようとする場合︑この効力を付与された慣習法上の権利を物権としてみとめようとする態度をとるべきだった. のである︒学者が慣習法上の物権とか物権的権利の承認というかたちでこの問題を把握してきたのは︑ひとつにはこ. のような理由によるものと考えられる︒つまりそれは近代的物権制度の立場にたった︑物権本位の理解の仕方だった. 六三. のである︒しかし︑そこで判例によっておこなわれた実際の作業は別のものであり︑それは︑法定の物権によって独 物権概念の意義と機能について.

(26) 論. 説︵高島︶. 六四. 占されていた諸効力を︑個別的に︑実質的妥当性を考慮しながら︑他の権利にも分ち与えてこれを保護しようとする︑. きわめて実質的なこころみであった︒それゆえここにみとめられてきたものは︑物権概念にとりいれられた権利で. はなく︑内容においても︑とりあつかいにおいても︑法定された物権とは異なる独自な権利の類型だったといわねば. ならない︒判例の作業は︑物権という統一的な権利と︑総合的な物権的効力とのむすびつきを断ち︑個々の効力を独. 立させることを意味した︒それゆえ慣習法上の権利は︑このようにみれば︑物権とは異なる特殊な権利類型の姿をと. って︑民法制度のうちに復権をみとめられたことになる︒そしてこの作業は︑これを一般的な観点からみると︑法定. の物権の諸効力を︑物を直接支配する権利という論理的な出発点からきりはなして一本立ちさせ︑これを他の権利に. 付与することを可能ならしめるという方向を示していたのである︒だとすればこのことは︑近代的物権制度にとって. はその解体を︑他の諸権利にとっては必要に応じた強力な保護を意味する注目すべき現象だったといわねばならな. い︒なぜなら慣習法上の権利についてのこのようなとりあつかいは︑さらに広く︑他の諸権利に対する同様の措置を. 前掲拙稿﹁慣習法と物権﹂のうちで︑私はこの点をつぎのようにのべた︒﹁近代民法において︑物権という権利は︑原則. 推進するための出発点︑その有力な根拠︑先例としての役割をもちうるものというべきだからである︒ ︵1︶. たとえば一七五条も︑このようなものとして構成される物権は創設しえないとの意味に解することも可能となる︒そうす. て︑それゆえ直ちに物権になったとはいえないわけである﹂︵前掲書三二一頁︶︒. だから︑ある権利が︑このような効果のうちのあるものを︑個別的に︑特別な実質的配慮に基づいて承認されたからといっ. めるにつき︑特別な考察や根拠づけを必要としないというのが︑まさに物権観念のもつ実用的な意味だったといってよい︒. としてこのように統一的な内容のものとして構成されるところにその特徴をもち︑また︑物権である以上︑ 一定の効果を認. ︵2︶.

(27) 6. れば︑慣習法上の物権的権利の承認は︑それが法定の物権と重複・衝突しないかぎり︑物権法定主義に反しないことにもな るであろう︒. ヤ. ち. つぎに︑慣習法上の担保物権の場合について考えてみる︒これも前述したように︑譲渡担保や代物弁済予約や所. 有権留保などは︑一般に慣習法上の物権的な担保権であるとされている︒しかしまた︑同時に︑これらがなぜ物権. 的なのか︑これを物権的と判定した基準はなんなのか︑などは︑必ずしも充分に説明されているとはいえない︒そし. ヤ. 物権概念の意義と機能について. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. 六五. あらわれてこなかったことを想起すべきであろう︒そして非典型担保にあっては︑物権性の承認ということよりも︑. におもわれる︒たとえば譲渡担保などの有効性の判断において︑その物権としての承認と一七五条との関係が明白に. ヤ. めに︑物権法定主義に衛突する物権をみとめるかどうかという問題としては︑充分に意識されることがなかったよう. ヤ. 利は︑独自な権利というよりも︑公認された物権や仮登記の効力などを利用した担保の手段としてまず把握されたた. ヤ. 関係もまた︑充分明白にあらわれてこなかったという特殊な事情がみとめられる︒いまみてきたように︑これら諸権. 物権として公認すべきか否かという間題だけが残ることになる︒しかしこの種の担保にあっては︑物権法定主義との. 点︑水利権等の諸権利の場合と事情を異にしている︒そうすると︑あとは︑このような物権的効力をもった権利を︑. 物権概念にあてはめてその物権性を認定し︑ここから物権的効力をみちびきだすということは必要でなかった︒この. 上物権的効果をもたらすものを︑その効力実現の手段としていることである︒したがってこれらの権利については︑. 非典型担保が︑水利権等と異なる点は︑これら担保権が︑すでに公認された物権︑あるいは仮登記のように︑実質. てこれは︑やはりこれら権利の物権としての認定に問題のあることを示すものといえよう︒. ヤ.

(28) 訟醐 ヤ. ヤ. ヤ. 説︵山尚島︶. これを担保権として構成することが実質上の問題であったのである︒. 六点ハ. このように︑水利権等の場合に比較して︑非典型担保の物権性の認定には︑特別な問題があったが︑それにもかか. わらず︑これら権利のとりあつかいと物権法定主義の関係は︑基本的には同様だったといえるのである︒. まず︑物権的効力を︑公認された物権等を手段として実現することが担保のためにおこなわれている場合︑これを ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. ヤ. 担保権として構成し︑承認しようとするときは︑制定法上の担保物権との関係において︑まさしく物権法定主義の緩. 和という問題を生ずることになる︒そしてこの場合︑物権的な効力をもった担保権を承認するためには︑このような. 効力を︑かような担保手段に付与することの妥当性が個別的に考えられるわけであり︑しかも個々の効力についてそ. の付与が考慮されることになる︒したがってここでも︑実は本来の意味での物権が創設されたわけではなく︑やはり. 物権の効力を付与された権利が承認されたことになるのである︒非典型担保の承認は︑こうして︑物権概念の適用と. いう点で事情を異にしたにもかかわらず︑その実質においては︑水利権等の承認と同様の意義をもっていたものとい. うことができるのであり︑そこには物権の解体と物権的効力を付与された権利類型の形成がみとめられるのである︒. 四 総. が︑物権の場合とはちがった方法でおこなわれてきたこと︑したがってそこにはむしろ独自な権利類型が形成された. その機能を実現しえなかったこと︑物権であるか否かの認定とは別に︑物権についてみとめられてきた諸効果の承認. 慣習法上の権利のとりあつかいを中心とし︑そこで物権概念がどのように機能したかを概観し︑物権概念が充分に. 括.

(29) とみるべきであり︑これが将来︑他の諸権利に物権的効力を付与するためのひとつの先例たる意義をもちうること︑. これが物権概念の構成じたいに対しても反省を促していること︑等をたしかめてきた︒そこで最後に︑このような検. 討をもとにして︑物権概念と︑物権的効力を付与された独自な権利の公認に関する若干の問題を簡単に要約して︑将 来の研究のための覚書としたいとおもう︒. a まず︑従来のような内容をもって構成された物権概念は︑たとえ慣習法上の権利のとりあつかいを考えたとして. も︑物権の識別や内容決定のため︑つまり技術的には︑特別な役割を果たさないことを自覚すべきである︒それが識. 別のために意味をもたなかったこと︑いままでみてきたとおりであり︑また内容決定機能としても︑むしろその効力. を列挙して概念構成をおこなうことが適切であるのだが︑これは結局︑性質や効力を掲げることと重複するからであ. る︒これらすべてが規範定立としての意味をもつ以上︑あとは︑定義・要件・性質・効力など︑いかなる名目のもと ︵1︶ にそれを表示するかの問題が残るにすぎない︒これに対し︑社会規制の技術的な観点からは︑物権による規制の技術. 的特徴によって︑そのイメージをえがくべきである︒つまり︑排他的効力・優先的効力・物権的請求権・追及効など. の効力を総合的に付与して物の支配を法的に保障すること︑これら諸効力が︑原則として︑特別の考慮を必要とせず. に当然に承認されること等の特徴によって物権という権利を把握すべきであり︑またこれをもって足りることになる︒. 要するに物権法体系の出発点としてはこのような物権像をえがくことで充分であり︑またこれが適切とおもわれる︒. b ある権利の構成において︑その権利をまず物権と認定し︑そこから物権的効力を当然にみちびくというテクニッ. 六七. クと︑別個の根拠にもとづいて物権的効力のあるものを承認するテクニックの差異を確認すべきである︒そして慣習 物権概念の意義と機能について.

(30) 論. 説︵高島︶. 六八. 法上の権利のとりあつかいを全般的にみると前老が学説型︑後者が判例型だといえよう︒前者は認定基準︑方法の不. 明確さあるいは不統一のゆえに︑擬制的性格を帯び︑またこの認定から︑総合的な効果を当然にひきだすべきことと. なり︑これはかえって︑多種多様な権利の規制に適合しないとおもわれる︒また実質的に︑個々の慣習法上の権利に. ついて個別的に諸効力を認定するものとすれば︑物権としての構成は︑法制度の認識は別として︑技術的意味に乏し. いものというべきであろう︒ここに︑なお充分に整理されてはいないが︑実質的に考えた場合︑物権概念からの離脱. を志向する判例型の処理の意義がみとめられ︑またこれは将来の法規制にも役立つとおもわれる︒. c 右のような物権概念の再検討にもとづき︑慣習法上の物権とか物権的権利とかの性格づけを︑より明確化すべき. である︒その場合︑物権との類似を漢然と承認するよりも︑むしろこれら権利と制定法上の物権との差異が明白に自. 覚されるべきであろう︒そして物権的というのは︑もっぱら︑物権の効力として総合的にみとめられているものの一. 部が承認されているという意味において理解されるべきであり︑法的とりあつかいにおいて︑この権利が物権と対照. 的であることを確認すべきである︒いいかえれば︑これら慣習法上の諸権利は︑一七五条の解釈をとおして公認され. たものであっても︑権利としての特徴においては物権と異なり︑ただそれぞれの権利に独自の理由から︑特別の考慮. にもとづいて︑物権の効力の一部をみとめられているという︑効力の点においてだけ︑物権に類似するものにすぎな. いのである︒このようにしてはじめて︑これら諸権利を不明確な物権概念の拘束から解放し︑理論的なあいまいさを. 清算し︑さらに物権の効力を広く他の諸権利に付与することへの途を用意することになるであろう︒. d さてつぎに︑物権とその諸効力とは︑特別な技術的配慮によってむすびつけられているにすぎず︑したがって︑.

(31) これをやはり技術的な必要から分離できること︑そしてこの効力を︑他の権利の効力としても︑個別的に承認できる. ということを︑これら物権的権利の実例にもとづいてひとつの規範として定立すべきである︒慣習法上の諸権利のと. りあつかいは︑まさにこのことの根拠として︑あるいはモデルとして役立てられるであろう︒同時に︑これら諸効力. が︑どのような場合に他の権利についてみとめられるべきかを考え︑その要件を︑やはりひとつの規範として定立し ておくべきである︒. e 物権について︑総合的なものとしてみとめられた諸効力を︑個別的に︑ある権利に付与した場合︑このような効. 力を承認された諸権利を︑ひとつの独自な類型として︵その権利の従来の分類とは別に︶確認しておくべぎである︒. たしかにこれら諸権利は︑その内容において多様であり︑またこれらについて統一的な概念を設けることの意味も︑. とくにみとめられない︒前述したとおり︑これら権利は概念のあてはめによって識別されたものではなく︑個別的. に︑妥当性の実質的判断によって物権的効力を付与されるべきものだからである︒しかしこれら権利の実際的な意義 ︵2︶. を考えると︑これをひとまず統一的に把握しておくことが便利である︒ここでは便宜上︑これら権利の総括的な名称. として︑物的権利の語を用いておくことにする︒このような権利類型のうちに︑従来個別的に処理されてきたものを. 統一的に包含させ︑物権的効力の付与ということを一括して承認しておくことは︑将来︑さまざまな権利についてこ. のような処理を必要とする場合の有力な根拠となり︑これを推進するために機能しうるであろうとおもわれる︒. f このような物的権利を︑本来の物権から区別することが必要であること︑前述のとおりであるが︑他方において. 六九. は︑本来の物権の承認についての考え方が︑実質的には︑この物的権利の場合と同様であることをも確認し︑むしろ 物権概念の意義と機能について.

(32) 論説︵高島︶. 七〇. 物権は︑物的権利の一種であり︑その特別な形態であるとして理解すべきであろう︒このことは︑たとえば担保物権. について︑左のような実際的な意味をもつことになる︒すなわち︑担保物権については︑現在︑非典型担保をもふく. めて担保物権法の体系を構築することがおこなわれるが︑両者の関係は必ずしも充分整理されているとはいえない︒ ヤ. ヤ. しかしこの場合︑物権的効力をもち︑これを手段として債権担保の目的を実現する権利を︑ひろく物的担保権として. 総括し︑制定法上物権として構成された担保物権をこのような物的担保権のひとつの特殊な種類として位置づけるこ. とが適当であろう︒このことは︑一方において︑将来も物権的効力を付与された担保権を承認しうる途を用意し︑ま. ヤ. ヤ. ヤ. たこれを承認するための要件についての規範を定立しておくことになる︒さらにこのような考え方は制定法上の担保. 物権をモデルとし︑これに則って担保権としての構成をおこなうことを適当とするような制度を︑一定の基準によつ て限定するためにも役立ちうるであろう︒. 以上概観してきたような事項は︑いうまでもなく︑そのうちにさらに検討を要し︑明確化すべぎ問題をふくんでい. る︒これらを究明するためには︑広く民法の各分野についてより具体的︑総括的な研究が必要となるが︑これはなお 将来の課題である︒. ︵1︶ 法技術学における規範定立という観点からみれば︑いわゆる意義・性質・要件・効力などの区分は︑実際上さして意味を もたない︒たとえば留置権にあって︑その意義はそのまま要件として機能していることを想起すべきである︒. ︵2︶ これはひとつには︑物権の側からの名称たる物権的権利に対し︑その独自性を自覚するためであるが︑同時に︑物権的効 力を付与された以上︑当該権利の従来の法体系上の分類いかんにかかわらず︑いわばこれと重複させて︑このような効果の 点から総括するための用語としての意義をもつ︒なお物的権利の観念については︑さらにその明確化が必要なこと︑もちろ んである︒.

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