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藤 村 篤 史 Atsushi Fujimura

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Academic year: 2022

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研究の背景と経緯

 悪性脳腫瘍(以下では glioblastoma,GBM に焦点を あてる)の予後が近年の各種がん治療法の進歩を以て しても劇的な改善をみないのは,発生母地が中枢神経 系であることとその特異な細胞浸潤能にあるといえ る.すなわち手術で摘出可能な部位以外に癌細胞が拡 散しやすく,それが再発母地となるのである.それゆ え GBM の治療法の確立にはその浸潤様式の理解とそ れを基にした戦略を立てることが必要不可欠となる.

 癌細胞の浸潤を促進する因子は様々に研究されてい るが,とりわけ GBM において知見が集積しているの は低酸素環境であろう.低酸素により hypoxia inducible  factor(HIF)と呼ばれる転写因子が癌細胞内で安定化 することで浸潤に要する種々のタンパク質発現を誘導 し,結果として癌細胞浸潤を促進する.実際に,GBM の特徴的な病理所見である pseudopalisading(血管閉 塞に起因する低酸素環境から GBM 細胞が退避するた めに見られると考えられている)では HIF の核内集積 が顕著である.その一方で,細胞が動くためには細胞 骨格の制御が必要となるはずであるが,GBM の低酸 素応答性浸潤におけるその制御の詳細は不明であっ た.そこで我々は『低酸素』と『細胞骨格の調整』を 結びつける因子があるのではないかと仮説をたて,検

証することとした.

研究成果の内容

 図A,Bに仮説と検証手法の要約を示す.GBM 組 織あるいは細胞において低酸素環境に応答する遺伝子 群の中から共通項を抽出し,さらにそこからタンパク 質モチーフ予測ソフトを用いて細胞骨格調節に係るモ チーフ(例えば SH3-binding  motif など)を有するタ ンパク質を抽出するという2ステップの解析を行っ た.その結果,Cyclin G2というタンパク質がヒットし た.Cyclin  G2は図Cに示す通り,細胞骨格調節に重 要とされる各種推測モチーフを有しており,実際に in  vitro の低酸素環境下で培養された GBM 細胞株で発 現上昇することが確かめられた.さらに推測された細 胞骨格調節関連モチーフのいずれも実際に有効なモチ ーフであることが各種生化学的な解析により明らかに なった.

 では Cyclin  G2はどのように細胞骨格を制御してい るのだろうか?このメカニズムを考察する前に,

Cyclin  G2が発現上昇すると GBM 細胞の浸潤を促進 することを,GBM 細胞株を用いて検証した.非常に 興味深いことに,Cyclin  G2の過剰発現はそれ単体で 通常酸素環境下においても細胞移動能を促進すること

藤 村 篤 史

Atsushi Fujimura

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生理学

Department  of  Physiology,  Okayama  University  Graduate  School  of  Medicine,  Dentistry  and  Pharmaceutical Sciences

岡山医学会雑誌 第127巻 April 2015,  pp. 9ン11 平成25年度岡山医学会賞紹介記事  脳神経研究奨励賞(新見賞)

昭和58年生まれ

平成21年3月 岡山大学医学部医学科卒業

平成21年4月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科入学        岡山大学病院初期臨床研修開始

平成23年3月 岡山大学病院初期臨床研修修了

平成24年9月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了

平成25年2月 日本学術振興会海外特別研究員(イタリア・パドヴァ大学)

<プ ロ フ ィ ー ル>

Fujimura A, Michiue H, Cheng Y, Uneda A

, Tani Y, Nishiki T, Ichikawa T, Wei FY, Tomizawa K, Matsui H : Cyclin G2 

promotes hypoxia-driven local invasion of glioblastoma by orchestrating cytoskeletal dynamics. Neoplasia (2013) 15, 1272‑1281.

受  賞  対  象  論  文

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がわかった(受賞論文参照).さらに Cyclin G2を過剰 発現させた細胞の形態を観察すると,Cyclin G2が細胞 膜 ruffle と呼ばれる細胞移動の先端に集積しているこ とがわかった.この ruffle 形成は細胞移動・浸潤に重 要であることが知られており,各種細胞骨格およびそ の関連因子が関与している.それらのうち特に研究が 進んでいる因子として,Dynamin,Cortactin が知られ ており,細胞骨格制御因子として多くの報告がなされ ている.

 そこで筆者らは,Cyclin G2と Dynamin,Cortactin が GBM 細胞内で共局在するかどうかを検討した.

Cyclin G2と Dynamin,Cortactin は細胞内特に ruffle においてよく共局在しており,これらは複合体を形成 していることがわかった(受賞論文参照).さらに興味 深 い こ と に,Cyclin  G2の 発 現 を 減 少 さ せ る と Cortactin の膜近傍への集積が減少するとともに,

ruffle の形成が抑制されることがわかった.これらの ことは,Cyclin G2が Cortactin の機能あるいは ruffle 集積に重要であることを示している.

 Cortactin が ruffle 形成に関与する際に重要となる 因子として,Cortactin のチロシンリン酸化が知られて

いる.次に筆者らは,Cyclin G2が Cortactin のチロシ ンリン酸化に影響を与えるかどうかを確かめることに した.Cortactin は低酸素によりチロシンリン酸化が誘 導される(受賞論文参照).このリン酸化は EGFR の kinase 阻害剤である Erlotinib では抑制されないが,

Src family kinases 阻害剤である Dasatinib では抑制さ れることから,Src family kinases(SFK)が Cortactin のチロシンリン酸化の責任因子であることがわかる.

大変興味深いことに,GBM 細胞株内において Cyclin  G2を 過 剰 発 現 さ せ る と,通 常 酸 素 環 境 下 で も,

Cortactin のチロシンリン酸化が促進されることがわ かった.このリン酸化は上記同様 Dasatinib によって 阻害される.

 Cyclin G2は図Cで示した通り,SH2 domain-binding  motif および SH3  domain-binding  motif を有すると予 測されている.前者は SFK などの SH2 domain を有す るタンパク質との結合に,後者は Cortactin などの SH3  domain を有するタンパク質の結合にそれぞれ必要と されることが推測される.紙面の都合で割愛するが,

生化学的検証によって Cyclin  G2におけるこれらの motif は,ともに SFK および Cortactin との結合に必

HIFの安定化/

関連因子の発現上昇

低酸素環境

GBM細胞浸潤 の促進

細胞移動のための 統合的細胞骨格制御

低酸素に応答して発現上昇し,

細胞骨格を統合的に制御する 因子が存在するのでは?

GBM組織・細胞で低酸素に 応答して発現上昇する因子の Database Screening

タンパク質内Motif予測サイト による細胞骨格関連モチーフ の検索

Cyclin G2をターゲット の候補として推測

SH2 domain-binding motif SH3 domain-binding motif

WH2 motif

Cyclin Box PEST

低酸素

HIF活性化

Ruffle形成・

細胞浸潤

チロシンリン酸化 Dasatinib 膜近傍へ

の蓄積

図 低酸素環境における GBM 細胞浸潤機序

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要であり,これらの結合が SFK を介した Cortactin の チロシンリン酸化に重要な役割を果たすことがわかっ た(受賞論文参照).

 以上,GBM における低酸素誘導性細胞浸潤におけ る Cyclin  G2の役割をまとめると図Dのようになる.

①低酸素により HIF が活性化し Cyclin  G2の発現が 上昇する.②発現上昇した Cyclin G2は Cortactin と結 合し膜近傍へ集積する.③Cortactin が膜近傍で SFK によりチロシンリン酸化されることで ruffle 形成を促 進 す る.一 連 の 過 程 に お い て Cyclin  G2は SFK と Cortactin とを会合させることで ruffle 形成および後 続する細胞浸潤を統合的に制御していることが明らか となった.

研究成果の意義

 前述の通り,Cyclin G2によって制御される GBM 細 胞の浸潤には SFK による Cortactin のチロシンリン 酸化が深く関与しており,このリン酸化は Dasatinib によって抑制されることがわかる.実際に Dasatinib は Cyclin  G2によって誘導される細胞移動を in  vitro で抑制し,低酸素によって誘導される GBM 細胞の脳 内浸潤を in  vivo で抑制することがわかった(受賞論 文参照).これらの知見は GBM 制圧に向けた戦略を立 てる際の選択肢を拡げることに寄与すると思われる.

今後の展開ならびに展望

 Cyclin  G2の機能はまだまだ不明な点が多い.その

名の通り,細胞周期関連因子として同定された Cyclin  G2であるが,筆者らの論文やその他の既報で示唆され ている通り,細胞骨格にも影響を与えている.今後の 研究としては,Cortactin との関連の他に,Dynamin との相互作用についても解析する余地があるように思 われる.また,脳腫瘍以外においても Cyclin  G2の細 胞周期以外の報告が増えてきている.我々が,細胞周 期のみに関連する遺伝して考えていた概念を根本的に 覆すものと思われる.今後,このような他の機能とし て同定されていた遺伝子の新たな働きを発見すること により,GBM の新たな治療へと発展させていきたい と思う.

謝  辞

 本研究は筆者が ART プログラムによる卒後臨床研修で岡山 大学病理診断科を履修している際に着想されました.研究遂行 にあたり柳井広之教授,田中健大助教両氏の御指導・御協力が なければ本研究は完遂されていなかったと思います.この場を 御借りして両氏に心より深謝申し上げます.また,要所要所で 的確なアドバイスを下さった岡山大学細胞生理学教室の皆様,

さらに ART プログラム大学院生・研修医として時に藻掻いて いた私を温かく見守って下さった岡大病院卒研関連の先生に厚 く御礼申し上げます.

平成27年1月受理

〒700‑8558 岡山市北区鹿田町2‑5‑1 電話:086‑235‑7105 FAX:086‑235‑7111 E‑mail:[email protected]

参照

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