93 1.研究目的 本研究は高校運動部のコーチと競技者の間の人間関係に関するものである。近年、高校運動部の教 諭兼コーチの暴力的指導が社会的問題になることがある。そのような問題の裏にはコーチと競技者の 人間関係の問題も潜んでいるのではないかと思われる。この人間関係の良好さは、競技者の運動部生 活を楽しいものにするだけではなく、コミュニケーションをよくすることで指導内容も適切に伝達さ れ、結果として成績の向上という成果にもつながると考えられる。 20 世紀から 21 世紀にかけてのスポーツ心理学の発展の歴史を振り返ると、運動学習やメンタル・ トレーニングやコーチのリーダーシップなど個人心理学的な研究が主流であった。たとえば、近年の コーチングの心理学のテキストを見ても、その内容は、競技者に対して「目標設定」や「精神集中」 をどのように教え、「ソーシャル・サポート」をどのように与え、チームの「団結力」をどのように 高めるかというような問題が紙幅の大部分を占めており、コーチ―競技者の人間関係についてはわず かのページ数が割かれているに過ぎない。 日本ではコーチ―競技者の人間関係の研究は始まったばかりである(山口、岡田、増地、市村、
A Study on Human Relationships between Soccer Players and Coaches
in High School Extracurricular Activities
木 幡 日出男
*岡 田 弘 隆
**石 井 辰 典
***夏 原 隆 之
****市 村 操 一
*****Hideo KOWATA
Hirotaka OKADA
Tatsunori ISHII
Takayuki NATSUHARA
Soichi ICHIMURA
*Hideo KOWATA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
**
Hirotaka OKADA 筑波大学(University of Tsukuba)
***
Tatsunori ISHII 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
****
Takayuki NATSUHARA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
*****
94
2015; 岡田、山口、金丸、市村、2015)。山口ほか(2015)は英国の Jowett & Ntoumanis (2004)によっ て作成されたコーチ―競技者の人間関係質問紙(CART-Q)を用いて高校柔道部員を対象にした調査 結果を発表した。その結果を 7 か国の調査結果と比較すると、コーチ―競技者の人間関係は著しく弱 いことが示された。岡田ほか(2015)の研究では競技者が感じているコーチに対する信頼感の調査が 行われ、日本の高校柔道部員のコーチに対する信頼感はニュージーランドの大学スポーツクラブ員よ りも有意に低いことが示された。これらの研究に続いて、競技レベルによって人間関係の強さは違う のではないかという仮定の下に、400 名以上の高校柔道部員のデータが集められて分析された。しか し、インターハイ出場チームとそれ以外のチームの部員の間には、コーチ―競技者の人間関係におい ても信頼感においても大きな差はなかった。 これらの結果を受けて、「柔道部のコーチ―競技者の人間関係は他のスポーツ種目と比較してどう なのだろうか」「国際的な比較で劣っているのは柔道だけなのだろうか」といった疑問が起こってきた。 柔道の研究とほぼ同時進行的に進められていた本学の川北ほか(印刷中)によるバスケットボールに おけるコーチ―競技者の人間関係の研究では、コーチが感じている競技者との人間関係に焦点が当て られていた。彼らの印刷中の論文では英国の同じような研究結果との比較が行われ、日本のコーチ― 競技者の人間関係が極めて低調である結果が示された。 本研究では、コーチ―競技者の人間関係の上記のような発展の流れのなかで、集団スポーツである 高校サッカー部員の感じているコーチ―競技者の人間関係とコーチに対する信頼感の調査結果を示 し、先行研究で示された英国をはじめとする 7 か国の結果および高校柔道部員の結果との比較が行わ れる。 2.研究方法 1)調査対象と実施手続き 本調査は、 機縁法により選んだ地区大会予選に出場する 3 高校サッカー部のコーチに調査協力を依 頼した。所属する男子生徒 126 名のうち、無効回答 1 名を除く 125 名が集計対象とされた。調査対象 者の内訳は、1 年生 39 名(31.2%)、2 年生 64 名(51.2%)、3 年生 22 名(17.6%)であり、競技経験 年数は 7.4 ± 2.7 年であった。チームは地区大会予選出場の競技レベルであり、3 月のオフシーズン と高校の主要な大会が終了し新チームとなった夏休みに実施された。コーチとの人間関係等を問う内 容のため、コーチのいない教室にて調査者が実施し回収を行った。 2)質問紙
本研究で用いられた質問紙の一つは、Jowett & Ntoumanis (2004)の「コーチと競技者間の人間 関係」(CART-Q)である。CART-Q の測定項目は 11 項目あり、その内訳は「関わり」に関する 3 項目、「親密さ」に関する 4 項目、「相補性」に関する 4 項目である。これはコーチ―競技者関係に関 する感情・思考・行動を回答者に「自分はどの程度当てはまるか」を 1(まったく当てはまらない)、 4(どちらでもない)、7(きわめて当てはまる)までの7段階評定尺度で回答が求められた。
また、本研究の調査票と同時に、Zhang & Chelladurai (2013) による「競技者のコーチへの信頼 前提条件と結果」(Antecedents and consequences of athlete’s trust: ACAT)を調査する用紙が配
95 布された。この質問紙は三つの領域から構成されている。(1)コーチへの信頼感の程度、(2)信頼の 前提条件としてのコーチの性格特性、(3)信頼感が及ぼすと考えられる結果。1 番目の信頼感への程 度は 2 項目の質問で測定される。2 番目の領域は信頼感に影響を与えると思われる前提条件であり、 「公正」「善意」「誠実」「有能」の四つの下位領域を測定する質問項目が含まれる。3 番目の領域はコー チへの信頼感の変化によって影響を受けると考えられる領域であり、「コーチへの献身・関与」「コー チへの協力」「成績向上」の 3 つの下位領域を測定する質問項目が含まれる。ACAT 質問紙は 3 つの 領域に関して合計 24 項目から構成されていた(表 4)。 この質問紙は、CART-Q 同様、それぞれの項目に対して、「まったく当てはまらない」から「きわ めて当てはまる」までの 7 段階で評定された。 なお、「コーチと競技者間の人間関係」(CART-Q)と「競技者のコーチへの信頼前提条件と結果」 (ACAT)の両調査用紙は、山口ほか(2105)と岡田ほか(2015)により実施された調査用紙をサッカー に置き換えて修正され、質問調査が用意されたものである。 3.結果 (1)コーチと競技者との人間関係(CART-Q) 1)人間関係の各項目と 3 特性の平均値と標準偏差 CART-Q の 11 項目と 3 特性「関わり」(項目 1-3)、「親密さ」(項目 4-7)、「相補性」(項目 8-11) の平均値と標準偏差値、ならびに各スポーツ種目間の検定結果を表 1 に示した。 日本人高校サッカー競技者の 11 項目それぞれの項目の評定は、最低値 1(まったく当てはまらない) から最大値 7(きわめて当てはまる)まで広く分布していた。中央値 4 は(どちらでもない)に対応 しているが、11 項目の平均値はそれより少し高い値を示しており、最大値は項目 10(私はコーチに 指導されるとき私は全力を出すつもりでいる)の平均値 4.79 であり、最小値は項目 3(私は私のコー チと競技することで明るい将来が開けると感じている)の 4.03 であった。11 項目を 3 特性(関わり、 親密さ、相補性)に分類して平均値を求めた数値が、表 1 の下段の 3 行に示されている。これを見る と、「親密さ」の評定点が高く、「関わり」が低くなっている。 また、3 群間での比較であるため、Bonferroni 法に準拠し有意水準α =1.67% として t 検定を実施 した。その結果、日本人高校生サッカー競技者と高校柔道競技者との比較における質問 1(私は私を 指導しているコーチと親密だと感じる)、質問 4(私は私のコーチが好きだ)、質問 11(私はコーチに 指導されるとき私は友好的である)では評定値間に差が認められなかった。この 3 項目を除いてほと んどの項目において有意な差が認められた。 表 2 には 11 項目と 3 特性の評定点の相関係数行列が示されている。特性の評定点は、Jowett & Ntoumanis (2004)によって示された 3 特性を測定していると考えられる項目の評定点の平均値であ る。項目 1 では「関わり」の特性得点との相関係数は 0.93 であり、「親密さ」の特性得点との相関係 数は 0.59 より大きなものとなっている。 項目 1-3 は「関わり」と高い相関関係を示し、項目 4-7 は「親密さ」と高い相関関係を示し、項目 8-11 は「相補性」と高い相関関係を示している。このことは合成得点と合成された下位項目の相関関
96 㻵㼠㼑㼙㼟㻌㻒㻌㼀㼞㼍㼕㼠㼟 㻹㻿 㻰 䠄㻹 㻿 㻰 䠅 㻨㻹 㻿 㻰 㻪 䡐 㼜 㼠 㼜 㼠 㼜 㻯㻝 㻝 ⚾䛿⚾䜢ᣦᑟ䛧䛶䛔䜛䝁䞊䝏䛸ぶᐦ䛰䛸ឤ䛨䜛 㻠㻚㻝㻢 㻝㻚㻠㻟 㻡㻚㻞㻢 㻝㻚㻟㻝 㻠㻚㻠㻢 㻝㻚㻠㻢 㻙㻣㻚㻞㻞 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻝㻚㻢㻥 㻚㻜㻥㻞 㻡㻚㻡㻣 㻨㻚㻜㻜㻝 㻯㻞 㻞 ⚾䛿⚾䛾䝁䞊䝏䛸῝䛟䛛䛛䜟䛳䛶䛔䜛䛸ឤ䛨䜛 㻠㻚㻜㻤 㻝㻚㻟㻞 㻡㻚㻤㻜 㻝㻚㻝㻠 㻠㻚㻡㻞 㻝㻚㻠㻤 㻙㻝㻞㻚㻢㻟 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻞㻚㻡㻠 㻚㻜㻝㻞 㻥㻚㻡㻢 㻨㻚㻜㻜㻝 㻯㻟 㻟 ⚾䛿⚾䛾䝁䞊䝏䛸➇ᢏ䛩䜛䛣䛸䛷᫂䜛䛔ᑗ᮶䛜 㻠㻚㻜㻟 㻝㻚㻢㻝 㻡㻚㻞㻡 㻝㻚㻟㻢 㻠㻚㻢㻡 㻝㻚㻡㻠 㻙㻣㻚㻠㻟 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻟㻚㻞㻜 㻚㻜㻜㻞 㻟㻚㻥㻥 㻨㻚㻜㻜㻝 㛤䛡䜛䛸ឤ䛨䛶䛔䜛 㻯㻠 㻠 ⚾䛿⚾䛾䝁䞊䝏䛜ዲ䛝䛰 㻠㻚㻠㻟 㻝㻚㻢㻝 㻢㻚㻝㻢 㻝㻚㻜㻞 㻠㻚㻤㻠 㻝㻚㻤㻜 㻙㻝㻞㻚㻝㻜 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻝㻚㻥㻠 㻚㻜㻡㻟 㻥㻚㻞㻣 㻨㻚㻜㻜㻝 㻯㻡 㻡 ⚾䛿⚾䛾䝁䞊䝏䜢ಙ㢗䛧䛶䛔䜛 㻠㻚㻡㻣 㻝㻚㻤㻞 㻢㻚㻜㻞 㻝㻚㻝㻟 㻡㻚㻞㻜 㻝㻚㻤㻠 㻙㻥㻚㻜㻥 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻞㻚㻤㻝 㻚㻜㻜㻢 㻡㻚㻠㻢 㻨㻚㻜㻜㻝 㻯㻢 㻢 ⚾䛿⚾䛾䝁䞊䝏䜢ᑛᩗ䛧䛶䛔䜛 㻠㻚㻡㻠 㻝㻚㻤㻤 㻢㻚㻞㻡 㻝㻚㻜㻝 㻡㻚㻞㻥 㻝㻚㻥㻟 㻙㻝㻜㻚㻥㻠 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻟㻚㻞㻞 㻚㻜㻜㻞 㻢㻚㻠㻢 㻨㻚㻜㻜㻝 㻯㻣 㻣 ⚾䛿䝁䞊䝏䛜⚾䛾㐍Ṍ䛾䛯䜑䛻ᡶ䛳䛯 㻠㻚㻠㻥 㻝㻚㻣㻢 㻡㻚㻢㻠 㻝㻚㻟㻟 㻡㻚㻟㻤 㻝㻚㻤㻟 㻙㻢㻚㻤㻜 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻠㻚㻜㻞 㻨㻚㻜㻜㻝 㻝 㻚㻢㻞 㻚㻝㻜㻣 ດຊ䛻ឤㅰ䛧䛶䛔䜛 㻯㻤 㻤 ⚾䛿䝁䞊䝏䛻ᣦᑟ䛥䜜䜛䛸䛝ⴠ䛱╔䛔䛶䛔䜛 㻠㻚㻝㻜 㻝㻚㻢㻞 㻡㻚㻥㻣 㻝㻚㻞㻟 㻡㻚㻜㻞 㻝㻚㻢㻤 㻙㻝㻞㻚㻜㻝 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻠㻚㻡㻡 㻨㻚㻜㻜㻝 㻢 㻚㻠㻝 㻨 㻚㻜㻜㻝 㻯㻥 㻥 ⚾䛿䝁䞊䝏䛻ᣦᑟ䛥䜜䜛䛸䛝䝁䞊䝏䛾ᣦᑟ䛻 㻠㻚㻟㻠 㻝㻚㻡㻟 㻡㻚㻥㻡 㻝㻚㻜㻜 㻡㻚㻟㻥 㻝㻚㻢㻢 㻙㻝㻝㻚㻣㻝 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻡㻚㻟㻟 㻨㻚㻜㻜㻝 㻠 㻚㻝㻣 㻨㻚㻜㻜㻝 䜘䛟ᚑ䛳䛶䛔䜛 㻯㻝㻜 㻝 㻜 ⚾䛿䝁䞊䝏䛻ᣦᑟ䛥䜜䜛䛸䛝⚾䛿ຊ䜢ฟ䛩 㻠㻚㻣㻥 㻝㻚㻥㻞 㻢㻚㻜㻤 㻝㻚㻝㻠 㻡㻚㻢㻞 㻝㻚㻣㻡 㻙㻣㻚㻣㻤 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻟㻚㻢㻥 㻨㻚㻜㻜㻝 㻟 㻚㻝㻠 㻚㻜㻜㻞 䛴䜒䜚䛷䛔䜛 㻯㻝㻝 㻝㻝 ⚾䛿䝁䞊䝏䛻ᣦᑟ䛥䜜䜛䛸䛝⚾䛿ዲⓗ䛷䛒䜛 㻠㻚㻝㻢 㻝㻚㻡㻤 㻢㻚㻜㻤 㻝㻚㻜㻤 㻠㻚㻠㻠 㻝㻚㻤㻟 㻙㻝㻟㻚㻞㻤 㻨㻚㻜㻜㻝 㻙㻝㻚㻟㻟 㻚㻝㻤㻢 㻝㻝㻚㻝㻢 㻨㻚㻜㻜㻝 㻚㻨 㻡 㻞㻚 㻢 㻜 㻝 㻜㻚 㻥 㻡㻚 㻞 㻙 㻝 㻜 㻜㻚 㻨 㻠 㻞㻚 㻥 㻙 㻥 㻠㻚 㻝 㻠 㻡㻚 㻠 㻣 㻞㻚 㻝 㻟 㻠㻚 㻡 㻞 㻟㻚 㻝 㻥 㻜㻚 㻠 䠅 ್ ᆒ ᖹ 䛾 㻟㻘 㻞㻘 㻝 䠄 䜚 䜟 㛵 㻜㻜㻝 㻡㻚 㻡 㻞 㻜 㻜㻚 㻥 㻜㻚 㻟 㻙 㻝 㻜 㻜㻚 㻨 㻢 㻜㻚 㻜 㻝 㻙 㻣 㻤㻚 㻝 㻤 㻝㻚 㻡 㻞 㻝㻚 㻝 㻞 㻜㻚 㻢 㻠 㻢㻚 㻝 㻝 㻡㻚 㻠 䠅 ್ ᆒ ᖹ 䛾 㻣㻘 㻢㻘 㻡㻘 㻠 䠄 䛥 ᐦ ぶ 㻢 㻨 㻚㻜㻜㻝 㻝 㻜 㻜㻚 㻨 㻣 㻢㻚 㻠 㻙 㻝 㻜 㻜㻚 㻨 㻤 㻟㻚 㻞 㻝 㻙 㻢 㻟㻚 㻝 㻞 㻝㻚 㻡 㻝 㻝㻚 㻝 㻞 㻜㻚 㻢 㻢 㻟㻚 㻝 㻠 㻟㻚 㻠 䠅 ್ ᆒ ᖹ 䛾 㻝 㻝㻘 㻜 㻝㻘 㻥㻘 㻤 䠄 ᛶ ⿵ ┦ 㻣㻚㻜㻥 㻨㻚㻜㻜㻝 䠄㻹䚷㻿㻰䠅ෆ䛿ⱥᅜ䛾䝕䞊䝍䚷䠄㻶㼛㼣㼑㼑㼠㻌㻒㻌㻺㼠㼛㼡㼙㼍㼚㼕㼟㻌㻘㻌㻞㻜㻜㻠䠅 䠘㻹䚷㻿㻰䠚ෆ䛿㧗ᰯᰂ㐨㑅ᡭ䛾䝕䞊䝍䚷䠄ᒣཱྀ㤶㻌㻘㻌㻞㻜㻝㻡䠅 㻖㻌㻟⩌㛫䛷䛾ẚ㍑䛷䛒䜛䛯䜑䚸㻮㼛㼚㼒㼑㼞㼞㼛㼚㼕ἲ䛻‽ᣐ䛧᭷ពỈ‽䃐㻩㻝㻚㻢㻣㻑䛸䛧䛶㼠᳨ᐃ䜢ᐇ䛧䛯 䝃䝑䜹䞊㻌㼢㼟㻚㻌ⱥᅜ 䝃 䝑䜹䞊㻌㼢㼟㻚㻌ᰂ㐨 ⱥᅜ㻌㼢㼟㻚㻌ᰂ㐨 ᪥ᮏ䠄㧗ᰯ䝃䝑䜹䞊䠅 ⱥ ᅜ ᪥ᮏ䠄㧗ᰯᰂ㐨䠅 表1 CART-Q の各項目と3特性の平均値と標準偏差(N = 125)
97 係であるから当然のことである。各グループの項目が当該の特性との相関関係では高い値を示してい ることは、あたかも因子分析の結果の 3 因子の負荷量行列のようになっている。したがって、本研究 で用いた「コーチと競技者間の人間関係」(CART-Q)は、コーチと競技者間の人間関係を三つの特 性の側面から測定できると考えられる。 2)人間関係の他国との比較 本 調 査 で 得 ら れ た 調 査 結 果 を 比 較 す る た め に、 他 の ス ポ ー ツ 種 目 集 団 の デ ー タ(Jowett & Ntoumanis、2004)で得られた結果の平均値を利用した(表 1)。日本の高校サッカー競技者を英国 での調査結果と比較することは慎重でなければならないが、「関わり」「親密さ」「相補性」いずれの 特性においても、それらの下位項目でも本研究での競技者の評点は英国よりも低い傾向を示している。 (平均値の差の検定結果は「関わり」で t= − 9.24、「親密さ」で t= − 10.06、「相補性」で t= − 12.38 で英国の方が有意に大きかった。)
また、山口ほか(2015)による高校柔道競技者や Yang & Jowett (2012)による他種目のスポーツ 競技者からのコーチ―競技者関係の評定の結果が報告されている。比較のために本研究の参加者の結 果を加えて、8 か国の回答者の 3 特性の平均値を作成した(表 3)。本研究の結果を追加して各国の資 料と比較すると、日本の高校サッカー競技者が経験しているコーチとの人間関係は三つの特性ともに 低く、さらに、高校柔道競技者よりも低いことが分かる。「関わり」も薄く、「親密さ」も淡白で「相 補性」も浅いという傾向が見られた。 表2 11 項目と3特性の評定点の相関係数行列 㡯┠ 㛵䜟䜚 ぶᐦ䛥 ┦⿵ᛶ 㻝 㻜㻚㻥㻟 㻜㻚㻡㻥 㻜㻚㻠㻤 㻞 㻜㻚㻥㻞 㻜㻚㻡㻠 㻜㻚㻠㻞 㻟 㻜㻚㻤㻤 㻜㻚㻢㻟 㻜㻚㻠㻤 㻠 㻜㻚㻢㻣 㻜㻚㻥㻞 㻜㻚㻢㻣 㻡 㻜㻚㻢㻟 㻜㻚㻥㻡 㻜㻚㻣㻝 㻢 㻜㻚㻡㻠 㻜㻚㻥㻡 㻜㻚㻣㻜 㻣 㻜㻚㻡㻣 㻜㻚㻤㻥 㻜㻚㻣㻞 㻤 㻜㻚㻠㻜 㻜㻚㻢㻡 㻜㻚㻤㻞 㻥 㻜㻚㻟㻣 㻜㻚㻢㻞 㻜㻚㻤㻥 㻝㻜 㻜㻚㻠㻜 㻜㻚㻣㻣 㻜㻚㻤㻤 㻝㻝 㻜㻚㻠㻥 㻜㻚㻟㻥 㻜㻚㻢㻢 ᅜྡ 㛵䜟䜚 ぶᐦ䛥 ┦⿵ᛶ ᪥ᮏ䠄䝃䝑䜹䞊䠅 㻠㻚㻜㻥 㻠㻚㻡㻝 㻠㻚㻟㻠 ᪥ᮏ䠄ᰂ㐨䠅 㻠㻚㻡㻠 㻡㻚㻝㻤 㻡㻚㻝㻞 ⱥᅜ 㻠㻚㻡㻠 㻡㻚㻠㻢 㻡㻚㻝㻞 ୰ᅜ 㻡㻚㻢㻠 㻢㻚㻞㻠 㻢㻚㻜㻝 䝧䝹䜼䞊 㻡㻚㻞㻥 㻡㻚㻜㻟 㻡㻚㻝㻟 䜼䝸䝅䝱 㻡㻚㻥㻥 㻢㻚㻠㻢 㻢㻚㻜㻟 䝇䝨䜲䞁 㻡㻚㻞㻣 㻡㻚㻢㻣 㻡㻚㻣㻣 䝇䜴䜵䞊䝕䞁 㻡㻚㻟㻡 㻡㻚㻥㻠 㻢㻚㻝㻞 䜰䝯䝸䜹 㻡㻚㻝㻠 㻡㻚㻤㻢 㻡㻚㻤㻤 ཧຍ⪅䠖᪥ᮏ㻔䝃䝑䜹䞊㻕㻺㻩㻝㻞㻡䚸᪥ᮏ㻔ᰂ㐨㻕㻺㻩㻝㻠㻝䚸ⱥᅜ㻺䠙㻟㻟㻥䚸୰ᅜ㻺䠙㻞㻜㻜䚸䝧䝹䜼䞊㻺䠙㻞㻜㻜 䚷䚷䚷䚷䚷䜼䝸䝅䝱㻺䠙㻝㻝㻡䚸䝇䝨䜲䞁㻺䠙㻝㻞㻜䚸䝇䜴䜵䞊䝕䞁㻺䠙㻝㻢㻥䚸䜰䝯䝸䜹㻺䠙㻝㻣㻣 䚷䠄ᒣཱྀ䜋䛛㻘 㻌㻞㻜㻝㻡㻘㻌㼅㼍㼚㼓㻌䠃㻌㻶㼛㼣㼑㼠㼠㻘㻌㻞㻜㻝㻞䠅䜢ᇶ䛻సᡂ 表3 コーチと競技者関係の 3 特性の平均値の国際比較
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(2)競技者のコーチへの信頼前提条件と結果(ACAT) 1)競技者のコーチへの信頼感
Zhang & Chelladurai (2013)による「競技者のコーチへの信頼前提条件と結果」(ACAT)の調査 結果の平均値と標準偏差は、表 4 に示されている。コーチに対する信頼に関する回答には 7 段階評定 尺度法が用いられた。全体の項目の平均値と標準偏差を見ると、平均値が極端に偏った値は見られず、 標準偏差も 1 以上あり、この質問紙は競技者の個人差を判別していたと考えられる。
項目 1、2 は Zhang & Chelladurai (2013)によって「信頼」そのものの程度を測る項目とされてい たが、本研究の結果ではその平均値は低い 3.97 であった。一方、項目 17 の平均値が最も高い値(4.57) を示している。項目 17 は「コーチが仕事について豊富な知識を持っているか」を聞いている。項目 1、2 は「コーチと自由に話し合えるか」「気軽に相談できるか」を聞いている。項目 1、2 と項目 17 の相関係数はそれぞれ 0.13 と 0.12 と低い値であった。このことから、高校サッカー競技者はコーチ の能力では信頼するが、コーチに対し心情的には気を許せないと感じているようである。 また、「協力」の項目 20「コーチの仕事がうまくいくように協力するか」と項目 21「コーチとすす んでコミュニケーションをとるか」の平均値も 4.07 と項目全体では低い値となっている。このこと から、高校生競技者がすすんで協力し、コミュニケーションをとることが低い傾向は、指示待ち状態 を想起させるものである。 「成果の評価」を測る項目では、3.81 と最も低い値であった。その内訳としては、項目 22「コーチ の指導によってチーム成績が向上したか」、項目 23「コーチの指導によってシーズンの目標が達成で きたか」、項目 24「コーチの指導で以前と比べて自分の成績が向上したか」である。 2)信頼感の他国との比較
Zhang & Chelladurai (2013) は、ACAT をオーストラリア中西部の大学運動クラブ員 215 名(男 子 110 名、女子 105 名)に実施している。その結果と本研究の結果との比較を表 5 に示した。競技者 のコーチに対する評定平均値は、すべての特性で本研究の標本の方が低かった。統計的検定(tテス ト)の結果は、すべての特性評定で有意差(p<1%)があり、オーストラリアの方が高い値を示した。 日本の高校サッカー競技者のコーチに対する信頼は、数値そのものも 3.97 であり、オーストラリア の大学スポーツクラブ員との比較でもかなり低いものである。 「信頼」の結果と考えられる「コーチに協力」という特性の下位項目には、項目 20「コーチの仕事 がうまくいくようにすすんで協力している」と、項目 21「コーチとすすんでコミュニケーションをとっ ている」を加えた。2 項目の平均値は「コーチに協力」の評定点(4.07)となった。さらに、日本の「成 果の評価」の評定点がかなり低い。そのことが、競技者はコーチの指導でチームや競技者自身の成績 が向上したと考える程度の低さを示している。 「信頼」とその「先行条件」や「結果」とどのような相関関係があるかを表 6 に示した。先行条件 の 4 つの特性と「信頼」の相関関係を見ると、日本では「善意」が最も高く(r=0.51)、「能力」が最 も低く(r=0.27)なっている。オーストラリアの結果では、「公正さ」が最も高く(r=0.60)、「善意」「誠 実さ」が低く(r=0.55)なっている。有意差の検定はオーストラリアの原データが不明のため実施で
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100 きなかったが、岡田ほか(2015)の資料を参考にすれば、両国の間で差のある特性は、「公正さ」と 「能力」が推測される。つまり、「信頼」につながる先行条件の特性で「公正さ」と「能力」がオース トラリアのほうが日本よりも明らかに強い影響を持っていると思われる。 4.考察 (1)競技者が感じるコーチとの人間関係 本研究の結果は、高校サッカー競技者の感じているコーチとの人間関係は、「関わり」「親密さ」「相 補性」においては必ずしも満足すべきものではないことを示唆するものであった。同じ質問紙を使用 した 7 か国のデータばかりでなく、日本人の高校柔道競技者との比較においても本研究結果はその評 定点が著しく低く、高校サッカー競技者とコーチは薄い人間関係であることが確かめられた。 このような関係は競技者の発達上の問題によるものか、コーチの人間性による問題なのか、両面か ら研究を積み重ねていかねばならない。コーチの側からみてみると、人間関係を深めることができな い要因に、コーチの置かれている社会環境や状況も一因と考えられる。一部の外部コーチ採用による 課外活動運営をしている高校サッカー部を除いて、コーチは職務上、教員が担い職務の一つとしてス ポーツ活動を指導している。競技者は生徒である。教員と生徒の力関係の中で、教員の生徒との向き 合い方や姿勢が影響を受ける可能性は十分に考えられる。競技者である生徒との人間関係が不十分で も教員は失職せず、一方で、競技者である生徒も教員との人間関係に関りを持たないことも推測され る。 一方、北米や西欧のクラブに所属しているコーチの置かれている状況は日本の教育制度とは同じで はない。彼らはプロのコーチである。競技者はコーチにとって顧客であり、顧客を満足させるように 人間関係を維持しながらコーチングを実践していくことが求められている。教員としてのコーチとプ ロのコーチの違いが、人間関係の違いに表れてくる可能性もある。そのような点で、コーチ(高校教 員)の考えている人間関係やその実態についてさらに調査をし、競技者の感じている人間関係と比較 する課題が残されるだろう。 また、高校柔道競技者(山口ほか 2015)との比較でも本調査結果は低かった。個人スポーツ種目 の柔道では、コーチと競技者との 1 対 1 の練習状況が頻発し、否応なしに個別の練習環境となる。そ れに対して高校サッカー競技者はチームスポーツ状況での練習環境が多く、直接コーチとの接触を伴 わない状況も生じる。チームスポーツ種目と個人スポーツ種目との比較を通して、高校サッカー競技 䝁䞊䝏䛻ᑐ䛩䜛ホᐃ ඛ⾜᮲௳ බṇ䛥 㻜㻚㻠㻢 㻜㻚㻢㻜 㻡 㻡 㻚 㻜 㻝 㻡 㻚 㻜 ព ၿ ௳ ᮲ ⾜ ඛ ඛ⾜᮲௳ ㄔᐇ䛥 㻜㻚㻠㻞 㻜㻚㻡㻡 㻣 㻡 㻚 㻜 㻣 㻞 㻚 㻜 ຊ ⬟ ௳ ᮲ ⾜ ඛ ⤖ᯝ 㛵䞉⊩㌟ 㻜㻚㻟㻞 㻜㻚㻢㻠 㻤 㻡 㻚 㻜 㻝 㻡 㻚 㻜 ຊ ༠ ᯝ ⤖ ⤖ᯝ ᡂᯝ䛾ホ౯ 㻜㻚㻡㻝 㻜㻚㻡㻞 ᶆᮏᩘ䠖᪥ᮏ䠄䠍䠎䠑䠅䚸䜸䞊䝇䝖䝷䝸䜰䠄䠎䠍䠑䠅 㻖㻌᭷ពᕪ᳨ᐃ䛿䜸䞊䝇䝖䝷䝸䜰䛾ཎ䝕䞊䝍᫂䛾䛯䜑ᐇྍ ᪥ᮏ䠄䝃䝑䜹䞊䠅 䜸䞊䝇䝖䝷䝸䜰 表6 「信頼」と「先行条件」「信頼の結果」の相関係数の日本とオーストラリアの比較
101 者の低い評定点の原因を確かめるため新たな研究計画を立て、実証する必要がある。 (2)競技者のコーチへの信頼感 本研究の目的は、コーチと競技者の間の信頼感について客観的なデータを収集することでもあった。 高校サッカー競技者を対象にした調査の結果は、競技者からコーチへの信頼は高いものではなかった。 このような結果からいくつかの仮定的結論を想定することができる。高校サッカー競技者はコーチを 信頼していないのではないかという不安が推測される。信頼そのものの評定の平均値は 7 段階評定で 3.97 である。そして、コーチによってチームと自分の成績が伸びたと感じる評定は 3.81 とさらに低かっ た。また、文部科学省(2013)の「運動部での指導のガイドライン」の項目に「指導者と生徒の信頼 関係づくり」があり、コーチする側とコーチを受ける側の信頼関係は、「両者の信頼関係づくりが活 動の前提」となることが明記されている。コーチは競技者からどのような評価を受けているのか認識 しておくことが大切であろう。この不一致の有無の研究は今後の一つの課題となるだろう。 オーストラリアの大学スポーツクラブ員との比較では、日本のデータはかなり低い信頼関係を示し ている。この差異の解釈には慎重でなければならない。差異を生み出すと考えられる一つの要因は調 査対象者の年齢の違いである。日本は高校生で、オーストラリアは大学生である。発達段階を考える と、高校生は児童期を過ぎて心理的に未発達の時期であろう。高校生のコーチへの不信の原因の一つ になっているとも考えられる。 もう一つの問題は、競技者の所属している状況の違いである。日本の高校競技者は部活動に所属し ており、少なくともコーチングを受ける指導者に意見を言うことのできる環境にはないことが多い。 コーチと意見が合わないときには話し合って解決するという方法よりは、建前では従い内面では反発 するという裏面交流を行って対応していることもあろう。個人の心理や行動はその人の置かれた社会 的状況の影響を受けるから、オーストラリアの大学生選手の置かれた状況を理解することなしに、安 易な結論を導き出すことはできない。しかし、本研究のデータ比較を念頭に置き、日本の高校運動部 でのコーチ―競技者の信頼関係を調べ続ける必要があると考えられる。 以上、本研究結果から今後の検討課題がいくつか明らかになった。本研究のキーワードである「人 間関係」と「信頼関係」は短時間で形成されるものではない。日々の練習やミーティング、さらに各 授業を通してコーチと競技者との関係が構築されていくものと考える。高校運動競技者が 3 年間とい う時間のなかで、最上級生の 3 年生が卒業すると同時に新 1 年生が入部してくる。このシステムのな かでどれだけの人間関係づくりがなされ、同時に、コーチと競技者との信頼関係が構築されていくか が問われる。各学年の調査対象者の実数と割合を増やす必要があろう。そうすることで学年の傾向と 比較が可能になる。また、コーチの属性のなかで、コーチの指導者ライセンスの有無、練習頻度と練 習時間、チームの成績、これらがコーチとの人間関係や信頼関係に直接的な関係だけでなく、さまざ まな間接的関係が存在するのではないかということが一つの仮説として考えられる。また、異なるス ポーツ種目(チームスポーツと個人スポーツ)間での比較も検討に値するだろう。 以上のような先行条件を考慮すると、競技者のコーチへの信頼の内容とレベルはサッカー部の競技 レベルによって異なってくる、という仮説を立てることは可能であろう。このような仮説を実証する ためには調査する高校の数と競技レベルを増やすことが必要である。
102 5.結論 本研究では、二つの調査が行われた。まず、高校サッカー部員が感じている、競技者とコーチとの 人間関係が、「コーチ―競技者関係質問紙(CART-Q)」によって調査された。その結果、高校サッカー 部員である競技者の感じているコーチとの「関わり」「親密さ」「相補性」のいずれにおいても高い評 定点は得られなかった。また、同じ質問紙による他国との比較においては、極めて低い順位となった。 さらに、同じ高校柔道競技者との比較においても低い得点となった。この人間関係の薄さが、コーチ の人間性によるものなのか、コーチの置かれた状況の違いによるものなのか検討された。 次に、高校サッカー競技者のコーチに対する信頼について、「競技者のコーチへの信頼前提条件と 結果」(ACAT)が実施された。その結果、高校サッカー競技者はコーチに対して信頼度が低く、「成 果の評価」に関しても低い評価であった。また、「信頼」と「信頼の先行条件」、「信頼の結果」の評 定を調べた結果、「能力」評価よりも「公正」「善意」「誠実さ」があるほうが「信頼」が得やすいこ とが分かった。 オーストラリアの大学スポーツクラブ員との比較では、信頼に関するすべての項目で日本の高校 サッカー競技者のコーチに対する評定のほうが低かった。この差異の原因についての討論が行われ、 コーチと競技者の置かれている状況による可能性が示唆された。 コーチと競技者の信頼関係の実態を理解するためには、さらに計画された調査が必要であることが 認められた。 参考文献
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