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最適化手法に基づく誤り訂正符号の 復号アルゴリズムについて

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(1)

61

巻 第

1

123–134 2013 c

統計数理研究所

[総合報告]

最適化手法に基づく誤り訂正符号の 復号アルゴリズムについて

和田山 正

(受付

2012

6

28

日;改訂

8

28

日;採択

9

5

日)

近年,線形計画法などの連続最適化に基づく誤り訂正符号の復号法が登場し,符号理論研究 者の注目を集めている.本稿では,著者の提案する内点法に基づく

LDPC

符号(Low-Density

Parity-Check

符号)の復号法の概要とその特徴を紹介する.この復号法(内点復号法)は,LDPC

符号の復号問題を凸計画問題として定式化し,バリア関数に基づく主パス追跡内点法により近 似的にその凸計画問題を高速に解く,という考え方に基づいて構成されている.本復号アルゴ リズムは,線形ベクトル通信路の範疇に入る定常無記憶通信路,シンボル間干渉通信路,

MIMO

通信路,マルチプルアクセス通信路など様々な通信路に適用が可能であり,幅広い応用が期待 されている.

キーワード: 内点法,凸計画問題,低密度パリティ検査符号.

1.

緒言

誤り訂正符号の復号法に最適化の考え方が導入されたのは比較的最近(2002年頃)であり,

その先駆的な仕事として

Feldman

ら線形計画法に基づく復号法(LP復号法)(Feldman, 2003;

Feldman et al., 2005)が挙げられる. Feldman

らの仕事に刺激され,

Vontobel and Koetter

(2006),

Koetter and Vontobel

(2003),Burshtein(2008)などの線形計画復号法の改良,および理論的検 討がなされてきており,それらは符号理論研究における新しい潮流となりつつある.

著者のグループでは,近年,凸最適化手法に基づく

LDPC

(Low-Density Parity-Check;低密 度パリティ検査)符号(Gallager, 1963)の内点復号法(Wadayama, 2010)を中心にして,主パス追 跡内点法に基づく線形計画(LP)復号法(Wadayama, 2009),2次計画法に基づく

CDMA

方式に おけるマルチユーザ検出アルゴリズム(伊藤・和田山, 2011),ニュートン法に基づく

2

次元シ ンボル間干渉通信路に適した等化アルゴリズムの開発など連続的最適化手法に基づく通信系の 復号・検出アルゴリズムの開発と性能評価を進めている.特に研究の方針として重視している のは,内点法やニュートン法といった連続最適化手法を通信系のアルゴリズムに適用するとき に生じる諸問題について深い理解を得ること,そして,その理解に立脚して最適化の見地から 高速かつ復号・推定性能の高い復号・信号検出アルゴリズムを開発することである.

本稿では,凸最適化問題に基づく

LDPC

符号の復号法に関して,論文

Wadayama

(2010)の 概要を紹介するとともに,連続最適化技法の誤り訂正符号の復号アルゴリズムへの応用の可能 性について論じる.

名古屋工業大学:〒466–8555 名古屋市昭和区御器所町

(2)

論文

Wadayama

(2010)で提案された内点復号法は,凸計画問題に対する主パス追跡内点法に 基づき構成された

LDPC

符号の復号用アルゴリズムである.この復号アルゴリズムは,受信 器の処理である等化(equalization),誤り訂正処理など全てをまとめて凸最適化問題として定式 化し,内点法により一気にその最適化問題を解くことによって復号結果を得る.シンボル間干 渉等化,MIMO処理などを凸最適化(2次計画問題)として扱う手法に関する研究はすでにいく つかある.本研究の新規な点は,符号に関する凸多面体を導入し誤り訂正符号の復号も含めて 最適化を行う点にある.

内点法の

LDPC

符号の復号問題への応用には,著者らのグループによる研究以外にも

Vontobel

(2008)による内点法の応用 や

Taghavi et al.

(2008)による主双対内点法の研究 などがあり,こ れらの研究は最適化の見地から符号理論の研究を進める研究者の関心を集めている.

実数空間における最適化問題という視座から受信器における受信処理を統一的に眺めること により,連続最適化に基づく推論計算がコンポーネントベースの受信器アルゴリズム設計に代 わる新しい受信器の構成原理を与える可能性が見えてくる.復号問題に対する連続最適化アプ ローチの通信伝送分野における適用範囲は広く,線形ベクトル通信路の範疇に入る定常無記憶 通信路,シンボル間干渉通信路,MIMO通信路,マルチプルアクセス通信路など様々な通信路 に適用が可能であり,幅広い応用が期待されている.

2.

基礎的事項

連続最適化に基づく復号法の原理である,緩和推定問題について解説したのち,本稿の以下 の部分で必要とされる記法・定義などを導入する.

2.1

低密度パリティ検査(LDPC)符号

低密度パリティ検査符号,あるいは

LDPC

符号は,1960年代に

R. Gallager

により開発され た線形符号である.この符号の大きな特徴は,疎な検査行列により定義される線形符号であり,

sum-product

復号法(または,loopy belief propagation)と呼ばれる確率推論アルゴリズムによ り復号処理が効率良く実行できる点にある.その強力な誤り訂正能力から,LDPC符号は,近 年デジタル放送やハードディスクドライブ向けの誤り訂正符号として実用化されており,より 強力な誤り訂正能力が求められる次世代の誤り訂正符号の主力として注目されている.

LDPC

符号は,非常に疎な検査行列に基づいて定義される

2

元線形符号である.また,同時

LDPC

符号は,疎な

2

部グラフに基づいて定義される符号と見ることもでき,疎グラフ上で 定義される様々なメッセージパッシング型の復号アルゴリズムにより復号することができる.

LDPC

符号の代表的な復号法である

sum-product

復号法では,受信語から送信シンボルの周辺 事後確率の効率の良い近似計算が行われる.

適切に設計された

LDPC

符号と

sum-product

復号法の組合せは非常に強力な誤り訂正能力 を持つことが知られている.例えば,誤り訂正符号の性能限界として知られるシャノン限界に 非常に近い復号性能を持つ

LDPC

符号も構成されている.

2

元体

F

2上の検査行列

H

= { h

i,j

} (i [1, m], j [1, n])

に対して,2元線型符号

C(H)

(2.1) C(H ) =

{x F

n2

: H x = 0

m

}

と定義する.なお,この定義の行列ベクトル積

H x

は,2元体

F

2上の計算に従う.なお,2

F

2

{ 0,1 }

の元を有し,実数体と異なり加法について

1 + 1 = 0

が成立する.記法

[a, b]

は,

整数の集合

{a, a + 1, . . . , b 1, b}

を意味する.なお,本稿では,ボールド体の英文字は列ベク トルを表すものとする.また,0mは,長さ

n

のゼロベクトルである.ここで,検査行列

H

疎行列である場合,C(H)

LDPC

符号となる.疎行列の定義は文脈により異なるが,符号長

(3)

に対して検査行列中の列に含まれる

1

の個数が定数で押さえられる場合に疎行列と呼ぶことが 一般的である.

2.2 2

元線形符号の復号問題

送信信号を確率変数

X

で,受信信号を確率変数

Y

で表すとき,定常無記憶通信路

S

の確率 的な振る舞いは,条件付き確率分布

P

Y|X

(y|x)

により与えられる.いま,S

n

回利用して,

X = (X

1

, X

2

, . . . , X

n

)

Tを送信し,Y

= (Y

1

, Y

2

, . . . , Y

n

)

Tを受信するものとしよう.ここで,S 無記憶性より,n回の

S

の利用に関わる条件付き確率分布は

(2.2) P

Y|X

(y | x) =

n i=1

P

Yi|Xi

(y

i

| x

i

)

となる.また定常性より,すべての

i [1, n]

に対して

P

Yi|Xi

(y

i

| x

i

)

は同一分布となる.

符号化通信システムは,符号化器と復号器の組から成っている.符号化器は,送信したいメッ セージを

2

元線型符号

C(H )

の符号語に符号化するのが,その主たる役目である.一方,受信 ベクトル

y

から,送信符号語を推定し推定語

x ˆ

を出力するのが復号器の役目である.

ブロック誤り率

Pr[x = ˆ x]

の最小化を考えるとき,ブロック単位最大事後確率を最大化する 最大事後確率復号法が最適である.通信系の応用では,すべての符号語は等確率に選択される と仮定することが自然である.事前確率が等確率の場合,最大事後確率推定は最尤推定と一致 する.

最尤推定に基づく復号則である最尤復号則は

(2.3) x ˆ = arg max

x∈C(H)

P

Y|X

(y | x)

と与えられる.ここで,C(H)に含まれる符号語の個数は,符号長

n

に対して指数関数的に増 大することに注意したい.この最尤推定則を復号アルゴリズムとして単純に適用するならば,

その復号アルゴリズムは指数時間アルゴリズムとなる.この計算量の壁を破るためには,符号 または復号法に何らかの工夫が必要である.

2.3

緩和推定問題

具体的な例を挙げて,本稿で紹介する復号法の考え方について説明する.

検査行列

H

により定義される線形符号

C(H )

のひとつの符号語

x C(H)

が加法的白色ガウ ス通信路(AWGN通信路)に送出されたものと仮定しよう.送信の際には,バイナリ

(0,1)・バ

イポーラ

(+1, 1)

変換が行われるものとする.すなわち,受信ベクトル

r

(2.4) r = (1 2x) + z

と与えられる.ここで,zは白色ガウス雑音ベクトルであり,1はすべての要素が

1

であるベ クトルである.

上述の通信系に対する最尤復号則は,

(2.5) x ˆ = arg min

x∈C(H)

|| r ( 1 2x

) ||

2

と与えられる.ここで,

x ˆ

は推定ベクトルであり,|| · ||は,ユークリッドノルムである.この 最尤復号則は,雑音項に関する多次元ガウス分布に対応する尤度関数の最大化と等価である.

一般の

2

元線形符号の場合,この最尤復号則に基づく最尤復号アルゴリズムは符号長

n

に関す る指数時間アルゴリズムとなる.

この最尤推定則に基づく最尤復号問題は,一種の組み合わせ最適化問題と見なすことができ る.元問題の実数緩和問題を考えるというアプローチは,計算量的に困難な組み合わせ最適化

(4)

問題に対する近似解法として組み合わせ最適化の分野でしばしば利用される

Schrijver

(2003).

上記の最尤推定則を緩和して得られる緩和推定則

(2.6) x ˆ = arg min

x∈Conv(C(H))

||r (1 2x

)||

2

を考えよう.ここで,

Conv(C(H))

は,F2の元

(0, 1)

を実数の

(0, 1)

と見なした上での符号語の 凸包である.この最適化問題の目的関数は

2

次関数であり,実行可能領域は有界凸多面体(符 号語の凸包)であることから,この緩和最尤推定問題は

2

次計画問題となっている.したがっ て,この問題は,実数体上の最小化問題となっており,連続最適化手法により効率良く解くこ とができる可能性がある(Boyd and Vandenberghe, 2004).

2.4

基本多面体

2

元線形符号

C(H )

の凸包は,符号長

n

に対して指数的な数の面を持つため,そのまま最適 化問題に利用するのは計算量の点で得策ではない.Feldmanらは,LDPC符号の線形計画復号 の定式化(Feldman, 2003; Feldman et al., 2005)において,実行可能領域を基本多面体とするこ とにより,この問題を解決した.

基本多面体は

2

元線形符号

C(H)

の凸包を包含する緩和凸多面体であり,その頂点集合は

C(H )

の符号語を包含する.基本多面体の重要な性質として,LDPC符号の場合には基本多面 体の面の数は符号長

n

に対して多項式的に増加することが知られている.

いま,Ai

= { j [1, n] : h

i,j

= 1 },i [1, m]

と定義する.また,Ti

(i [1, m])

A

iに含まれる すべての奇数サイズの部分集合とする.すなわち,

(2.7) T

i

=

{ S A

i

: | S | is odd }

である.実ベクトル

x R

nに関する制約

(2.8) i [1, m], S T

i

, 1 +

t∈S

(x

t

1)

t∈Ai\S

x

t

0,

(2.9) j [1, n], 0 x

j

1

はそれぞれパリティ制約式 とボックス制約式と呼ばれる.

パリティ制約式は,検査行列

H

のパリティ検査式と関係している.この関係を例を用いて 説明する.ひとつの

A

i

S T

iを固定しよう.また,x

= (x

1

, . . . , x

n

)

T

x

i

=

1, i S 0, i / S

と定義する.いま,x

2

元体

F

2の元であると考えると

Hx = 0

mとなる.なぜならば,S サイズが奇数であることと

x

の定義より

n j=1

h

i,j

x

j

=

j∈Ai

x

j

=

j∈S

x

j

+

k∈Ai\S

x

k

= 1

となるからである.なお,この式の和は,2元体上の和である.一方,今度は,xを実ベクト ルと見なして,パリティ制約式の左辺の量を評価すると

1 +

t∈S

(x

t

1)

t∈Ai\S

x

t

= 1

(5)

となり,このベクトル

x

はパリティ制約式を満足しないことが分かる.すなわち,パリティ制 約式は,2元体上のパリティ検査式が排除する奇数重みの

2

元体系列を実数体上で排除する不 等式条件となっている.

基本多面体

P (H )

(2.10) P (H)

= { x R

n

: x satisfies constraints (2.8) and (2.9) }

と定義される多面体である(Koetter and Vontobel, 2003; Feldman et al., 2005).基本多面体

P(H )

の内部集合を

P

(H)

と表記する.

LDPC

符号のひとつの検査シンボルに注目すると,その検査シンボルに関連するビットシン ボルの集合は単一パリティ検査符号(偶重み符号)を構成していると見ることができる.基本多 面体は,すべての検査シンボルに対応する単一パリティ検査符号の凸包の共通集合である.基 本多面体の頂点は,符号語となっている 符号語頂点(整数頂点)と非整数成分を持つ非符号語 頂点に分類される.

2.5 LP

復号法

本節では,

Feldman

らの提案した

LP

(線形計画)復号法の概略について説明する.このFeldman らの仕事は,連続最適化と復号問題を結びつけた最初の仕事である.本稿で後に述べられる内 点復号法において直接的に

LP

復号法が利用されるわけではないが,我々の研究の出発点とな る復号法という意味で簡潔に説明を行う.

2

値入力対称出力(BIOS)通信路に関する条件付確率密度関数

P

Yi|Xi

(y

i

| x

i

)(i [1, n])

が与え られていると仮定する.例えば,AWGN通信路は

BIOS

通信路の一例である.確率変数

Y

i

X

iはそれぞれ,第

i

受信シンボルと

i

送信シンボルを意味している.対数尤度比ベクトル

λ = (λ

1

, λ

2

, . . . , λ

n

)

T

(2.11) λ

i

= ln

P

Yi|Xi

(y

i

|0)

P

Yi|Xi

(y

i

|1) , i [1, n]

と与えられる.Feldmanらにより提案された

LP

復号法は線形計画問題(Feldman et al., 2005)

ˆ

x = arg min

x∈P(H)

n i=1

λ

i

x

i

として定義される.ここで,ˆ

x

は推定語であり,これはこの線形計画問題の解となるため基本 多面体の頂点となる.基本多面体は,上で述べたように非整数頂点(疑似符号語と呼ばれる)を 持つ場合があるため,一般には,LP復号則は最尤推定則とは同一ではなく,近似最尤復号則 となっている.LDPC符号の場合には,LP復号法は経験的に比較的良好な復号結果を与える ことが知られている.

2.6

線形干渉通信路

本稿で紹介する内点復号法の主たる対象となる線形干渉通信路を定義する.

送信者は,2元線形符号

C(H )

の符号語

x

を受信者に向けて送信する.受信者は受信語

(2.12) r = V x + b + z,

を受け取る.ここで,

V

は正則な

n × n

実行列(干渉行列),bは長さ

n

の実ベクトルである.

これらの

V

b

は受信者にとって既知である.ベクトル

z R

nは雑音ベクトルである.この 通信路モデルを線形ベクトル通信路モデルと呼ぶ.適切に

V

b

を定義することにより,シン ボル間干渉のある通信路や

MIMO

通信路は,この線形ベクトル通信路の一例と考えることが できる.

(6)

上記の線形ベクトル通信路における最尤推定問題を緩和することにより,緩和最尤推定則

(2.13) x ˆ = arg min

x∈P(H)

f(V x + b, r)

が得られる.ここで

f( · , · )

は,雑音の統計的性質に基づいて決められた適切な距離関数である.

ここで,距離関数

d(·, ·)

は最尤推定において利用される負対数尤度関数に基づき決定される.

例えば,雑音ベクトルが加法的白色ガウス雑音である場合には,この距離関数はユークリッド

2

乗距離関数となり,緩和最尤推定則は実数体上の

2

次計画問題

(2.14) x ˆ = arg min

x∈P(H)

||r (V x + b)||

2 となる.

3.

内点復号法

本節では,内点復号法の考え方と概要について述べる.

3.1

内点法に基づく復号法

通信への連続最適化アルゴリズムの応用を考える場合に重要になるのが計算速度である.例 えば, 多くの通信系応用分野において

1

つの復号問題は数マイクロ秒以下という非常に短い 時間内に解く必要がある.そのため,復号に最適化技法を利用する場合には,通信伝送路の性 質,LDPC符号の特徴を十分に利用した高速な復号アルゴリズムを構成し,かつ並列実行可能 なハードウェアとしての実現可能性を持つ方式を考案することが重要になる.

以下では,前述の緩和最尤推定則により与えられる

2

次計画問題を

LDPC

符号の特徴を生 かした主パス追跡内点法を利用して解くことを考える.

まず準備として,基本多面体に基づいて次のように対数バリア関数を

B(x) =

i∈[1,m]

S⊂Ti

ln

1 +

t∈S

(x

t

1)

t∈Ai\S

x

t

j∈[1,n]

ln [ ( x

j

)]

j∈[1,n]

ln [ (x

j

1)]

と定義する.

この対数バリア関数の第

1

項はパリティ制約に基づくバリア項であり,第

2,3

項はボックス 制約に基づくバリア項である.このバリア関数は基本多面体の内部集合において定義される関 数であり,xが基本多面体の境界に接近していくとバリア関数値は+

に向けて増大していく.

緩和推定則における目的関数

f(V x + b,r)

とバリア関数に基づき,メリット関数を

(3.1) ψ

(t)

(x) = tf(V x + b, r) + B (x)

と定義する.ここで,tは正実数のパラメータであり,スケールパラメータと呼ぶ.

内点復号法は,主パス追跡型内点法によりメリット関数

ψ

(t)

(x)

を最小化することにより,緩 和最尤推定問題の近似解を得るという考えに基づき構成されている.内点復号法の基本的な流 れは次のとおりである.

(1)tの初期値を設定する.探索初期点を基本多面体の中心点

x = (1/2,1/2, . . . , 1/2)

T と設定 する.

(2)勾配降下法,またはニュートン法を利用して,ψ(t)

(x)

を最小化する(中心点の探索処理).

(3)探索点に対して,min-sum復号法を適用し,一次推定語を作成する.

(7)

(4)t

:= αt

(αは正の実数)として,tの値を増加させる.

(5)ステップ(2)に戻る.

内点復号法の各ステップは,符号長について線形時間で計算が終了するように設計されている.

以下では,内点復号法の各ステップについて説明する.

3.2

メリット関数の勾配ベクトルとヘッセ行列

内点復号法のステップ(2)では,与えられたパラメータ

t

に対応する中心点を見いだすため に勾配降下法,またはニュートン法を利用する.数値最適化の文脈では内点法の中心点探索部 に勾配法が用いられることは無いが,文献

Wadayama

(2010)では,計算量削減の観点から勾配 降下法の利用も検討している.

勾配法を利用するためには,探索点におけるメリット関数の勾配ベクトルが,ニュートン法 を利用するためには,勾配ベクトルとヘッセ行列の計算が必要となる.

メリット関数の勾配ベクトルは

(3.2) ψ

(t)

(x)

=

∂x

1

ψ

(t)

(x),

∂x

2

ψ

(t)

(x), . . . ,

∂x

n

ψ

(t)

(x)

T

と与えられる.第

k

シンボルの導関数は

∂x

k

ψ

(t)

(x) = t

∂x

k

f(x) +

∂x

k

B(x)

= t

∂x

k

f(x) +

i∈[1,m]

S∈Ti

τ

k(i,S)

(x) 1 x

k

1

x

k

1

となる.ここで,

(3.3) τ

k(i,S)

(x)

= I[k A

i

\S] I[k S]

1 +

l∈S

(x

l

1)

l∈Ai\S

x

l

,

(i [1, m], S [1, n])

である.記法

I[condition]

は,指標関数を表しており,もし,condition 真ならば

I[condition] = 1

となり,一方,conditionが偽ならば,I[condition] = 0となる.

パリティ制約に関するバリア関数の偏導関数は

2

wr−1

m

個の項を含んでいる.したがって,

∇ψ

(t)

(x)

のナイーブな評価には,検査行列の行重み

w

rについて指数時間の計算が必要となる.

もし,検査行列の行重みが大きいときには,この部分の計算量が内点復号法全体の計算量を支 配することになる.全体の計算量削減のために,ここでは真の勾配ベクトルを正確に評価する のではなく,その近似値をより少ない計算量で評価するという方策を用いる.

近似勾配ベクトル

g

= (g

1

, . . . , g

n

)

T

(3.4) g

k

= t

∂x

k

f(x) +

i∈[1,m]

τ

k(i,S(i))

(x) 1 x

k

1

x

k

1 , k [1, n], x ∈ P

(H)

と定義される.ここで集合

S

(i)

(3.5) S

(i)

= arg max

S⊂Ti

1 +

l∈S

(x

l

1)

l∈Ai\S

x

l

, i [1, m]

と定義される

T

iの部分集合である.近似勾配ベクトルは,真の勾配ベクトルの中に現れる和 に関する支配項のみを足して得られる近似量と見ることができる.論文

Wadayama

(2010)で は,動的計画法に基づく

S

(i)を求める効率の良い手法が提案されており,その手法を利用すれ

S

(i)

w

rに比例する時間で算出が可能である.すべてのチェックノードを考えると,近似

(8)

勾配ベクトルの評価計算量は

O(w

r

m)

となり,この計算量はナイーブな真の勾配ベクトルの評 価に対して十分に高速である.

中心点の計算にニュートン法を用いる場合には,勾配ベクトルに加えて,探索点におけるヘッ セ行列の算出が実行時の反復ごとに必要となる.LDPC符号ではヘッセ行列が疎行列になるこ と,近似勾配ベクトルの計算の際に利用した近似計算などを組み合わせることで,近似ヘッセ 行列の高速計算が可能となる.近似ヘッセ行列の詳細は論文

Wadayama

(2010)を参照されたい.

3.3 min-sum

復号法

内点復号法の目標は目的関数

f(x)

の最小値を正確に評価することではなく,推定ベクトル

x ˆ

を高速に算出した上で十分に小さい誤り率を達成することにある.そこで,内点復号法のステッ プ(3)では,LDPC符号の復号法として知られる

min-sum

復号法を符号語の推定に利用する.

min-sum

復号法は,sum-product復号法のチェックノードにおける更新式を計算がより容易

な近似更新式に代えて得られる

LDPC

符号の復号アルゴリズムで広く実用的に利用されてい る.近似チェックノード更新式は,加算・乗算・絶対値・最小要素選択の基本演算からなり,

(3.6) α

ci→xj

=

k∈Ai\j

sign(β

xk→ci

)

k∈A

min

i\j

| β

xk→ci

|

という形をしている.ここで,ci

i

番目のチェックノードを表し,xk

k

番目のビットノー ドを表す.また,αci→xj はチェックノード

c

iからビットノード

x

jに送られるメッセージであ り,βxk→ci のビットノード

x

kからチェックノード

c

iに送られるメッセージである.図

1

min-sum

復号法におけるビットノード処理とチェックノード処理を図示している.図中の

B

i

B

i

=

{j [1, m] : h

i,j

= 1}, i [1, n]

と定義される.アルゴリズムの詳細については,例えば,和田山(2010)を参照されたい.

min-sum

復号法は,tanhの計算など複雑な処理を含まないためハードウェア実装に向いて

いる.min-sum復号法の復号性能は,sum-product復号法の復号性能に若干及ばないが復号中 にメッセージのスケーリングを行うことにより,多くの場合,両者の性能差はほとんど無くな ることが知られている.

緩和推定問題の最小解に十分に収束していない段階でも,min-sum復号法を併用することに より送信符号語を正しく推定できる場合が多くある.そのため,min-sum復号法の利用により 内点復号法の反復処理(ステップ(1)から(4))の回数を大きく減らすことができる.

1. min-sum

復号法におけるビットノード処理とチェックノード処理.

(9)

3.4

ニュートン方程式の求解

内点復号法のステップ(2)において,ニュートン法を利用する場合には,ニュートン方程式

Gd = g

を解く必要がある.ここで,G

d

はそれぞれ探索点における近似ヘッセ行列と近似勾 配ベクトルであり,

d

は探索ステップとして利用されるニュートンステップである.このニュー トン方程式の求解が復号法全体の計算量に対して支配的な影響を与えるため,適切な求解手法 を利用することが求められる.論文

Wadayama

(2010)では,コレスキー分解と前進後退代入を 組み合わせる求解手法,ならびにヤコビ法に基づく求解手法の検討が行われている.また,文

Wadayama

(2009)においては,前処理付共役勾配法の利用が検討されている.共役勾配法の

前処理としては,単純なヘッセ行列の対角近似が利用されている.

LDPC

符号を定義する検査行列が疎であることから,ヘッセ行列

G

も疎行列となる.LDPC 符号の復号問題に関しては,ヘッセ行列の疎性を容易に利用することのできる前処理付共役勾 配法が計算量の点から,他の方法よりも有利である傾向にある(Wadayama, 2009).

4.

むすび

本稿では,論文

Wadayama

(2010)にて提案された内点復号法において,そのアルゴリズムの 考え方と概略を紹介した.復号アルゴリズムの性能や振る舞いの詳細については,同論文を参 考にされたい.現時点で主流であるビリーフプロパゲーション(BP)に基づく結合メッセージ パッシング復号器と比較して遜色のない復号性能が内点復号法により得られることが同論文で 報告されている.

現在,符号理論の分野では,LDPC符号など疎グラフに基づいて定義される符号を

BP

によ り復号するアプローチが最も標準的なアプローチとなっている.本稿で紹介した連続最適化技 法に基づく復号手法は,その意味では非主流派のアプローチということになる.しかし,非主 流派のアプローチにもいくつかの優れた点がある.

連続最適化技法に基づく復号手法の考え方は,組み合わせ最適化の緩和解法と共通する部分 が多い.そのため,連続最適化アルゴリズムや組み合わせ最適化などの関連分野の優れた技術 を復号性能向上のために利用できる可能性がある.特に組み合わせ最適化分野で利用されてい る整数計画問題に関する技法は復号性能改善のために重要である.例えば,LP復号法の復号 性能の改善のために,(1)混合整数計画法の利用,(2)制約条件の付加による基本多面体の緊密 化といった工夫が近年提案されてきている.

Draper et al.

(2007)では,LDPC符号の

LP

復号問題において,(1)の混合整数計画の利用に 基づくアプローチにより

BP

復号性能を上回る復号性能が得られることが報告されている.こ の手法の概要は次のとおりである.LP復号の結果として非整数ベクトルが得られた場合に非 整数要素の位置の変数が整数であるという制約を新たに導入する.そして,再び

LP

問題を解 き直すという処理を行う.2回目の処理では,最初に得られた解とは異なる解が得られるため,

整数解(すなわち符号語)が得られる可能性が生じる.2回目の解が再び非整数解の場合,同様 のプロセスを反復する.計算量は通常の

LP

復号法よりも大きくなるものの,この反復により,

符号語を発見できる可能性が高まることが計算機実験の結果として報告されている.

(2)の制約条件の付加による基本多面体の緊密化アプローチでは,実行可能領域である多面 体に適切な線形制約条件(超平面)を追加することにより多面体緩和の緊密化を行う.緊密化さ れた実行可能領域で最適化を行うことにより,元の場合と比べて質の良い解が得られる可能性 が高まる.

例えば,切除平面法に基づく

LDPC

符号の復号法(Tanatmis et al., 2009)では,復号中に得ら れた非整数解を削除する切除超平面を追加しながら線形計画問題を解き直すという復号プロセ

(10)

スを実行する.一方,我々のグループが開発した切除平面法に基づく検査行列改良手法(Miwa

et al., 2009)は,符号の検査行列の行の線形結合として得られる冗長行の生成する切除超平面

を利用する.復号結果に悪影響を与える基本多面体における非符号語頂点を切除することによ り,LP復号法の復号性能改善が得られることが示されている.緩和復号問題においては,組 み合わせ最適化の緩和解法と同様に少ない計算量で整数解を得ることが特に重要であり,現在,

著者のグループでは整数頂点を選好するペナルティ関数を利用した非線形最適化手法の検討を 進めている.

本稿で扱った問題は,「情報通信の文脈において,連続最適化技法に基づき信頼性の高い推 論を実現する」という問題であった.この問題は組み合わせ最適化や連続最適化,推論,符号 理論にまたがる問題であり,学際的色彩の濃いものである.情報通信,信号処理,確率推論の 世界における,特にリアルタイム性が要求される用途での連続最適化技法の応用には今後のさ らなる進展の可能性があると考えられ,分野の枠を超えた研究の推進が求められている.

謝  辞

本研究の一部は,科学研究費 基盤

C No. 22560370

の支援を受けた.

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伊藤慎吾,和田山正(

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. 2

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2010

.

『誤り訂正技術の基礎』,森北出版,東京.

(12)

A Review of Decoding Algorithm for LDPC Codes Based on Numerical Optimization Techniques

Tadashi Wadayama

Nagoya Institute of Technology

This paper reviews a decoding algorithm for low-density parity-check (LDPC) codes based on convex optimization according to the reference Wadayama (2010). The decoding algorithm, called interior point decoding, is designed for linear vector channels. The linear vector channels include many practically important channels such as inter-symbol inter- ference channels and partial response channels. It is shown that the maximum likelihood decoding (MLD) rule for a linear vector channel can be relaxed to a convex optimization problem called a relaxed MLD problem. The decoding algorithm is based on the primal path-following interior point method with a barrier function. Approximate variations of the gradient descent and the Newton methods are used to solve the convex optimization problem.

Key words: Interior point method, convex optimization, low-density parity-check codes.

参照

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