論文内容要旨
論文題名 Change in incisional design in primary unilateral cleft lip
repair under general anesthesia.(3D
カメラを用いた唇裂患者の顔面計測:体位による手術デザインの変化)
掲載雑誌名 The Journal of Craniofacial Surgery
専攻名 外科系形成外科学 津田智子
内容要旨
【序論】唇裂患者は通常生後
3~6
か月で初回手術を行う。片側唇裂における口 唇鼻形成術の目的は解剖学的に正常かつ整容的に健常人と差異のない上口唇の 再建であるが、患児の一部は術後変形をきたし修正手術を要する。術後変形を来 たす原因については手術デザインなど様々な報告があるが、我々は全身麻酔や 体位によるデザインの変化が術後変形の一因ではないかと考えた。本研究では 全身麻酔下で片側唇裂患児の手術デザインがどのように変化するか、代表的な2
種類のデザインを用いて比較検討した。【方法】
2015
年から2018
年の間に当センターで初回口唇鼻形成術を受けた患者 の中から不全唇裂10
例と完全唇裂10
例を無作為に抽出し調査対象とした。3
次元カメラ
VECTORA H-1
®を用いて手術前に患児を立位(座位)で撮影し、さらに麻酔導入後に臥位で撮影した。作成した
3
次元画像上にMillard
法およびFisher
法をデザインし,各切開線の表面距離を計測した。JMP Pro 13.0 を用いてWilcoxon
の符号付順位和検定を行った。有意水準は<0.05とした。【結果】いずれも生後
3~5
か月で初回口唇鼻形成術を受けており、月齢の中央 値は4
か月であった。手術デザインに関わらず赤唇は全身麻酔下で有意に厚く なった。Millard 法においてrotation flap
の長さは有意に短くなった。一方 で、裂側のadvancement flap
は変化しなかった。Fisher
法においては非裂側人 中と等しくなるように測定した裂測の切開線は全身麻酔下で有意に短くなった。小三角弁
c
はa-b-1(mm)で計算され、有意差は認めなかった。
【考察】我々は以前に,片側唇裂の患児では全身麻酔の筋弛緩作用により非裂測 の口唇がめくれ上がるため白唇は短くなり赤唇は厚くなること,また、一方で裂 測の口唇は麻酔の影響を受けにくいことを報告した.片側唇裂において非裂側 の口輪筋がほぼ正常な構造であるのに対し、裂側の口輪筋は非常に低形成で構 造の乱れがあることが報告されている。また、重力(体位)による顔面軟部組織 の変化は高齢者では顕著だが、組織の弾性や筋緊張が保たれている若年者では
ほとんど変化しない。以上より、片側唇裂において裂側では口輪筋が低形成のた め筋弛緩薬の影響を受けないが、非裂側では筋弛緩薬の影響を受けて口唇形態 は変化し、赤唇が厚く、白唇が短くなると考えられた。
【結語】片側唇裂の手術では体位よりも全身麻酔(筋弛緩)の影響を強く受け、
筋弛緩による口唇周囲の形態変化に伴い解剖学的基準点は移動し、手術デザイ ンは変化する。この変化により過剰な皮弁のトリミングや追加切開を行い、術後 変形の一因となっている可能性がある。しかしながらこの変化は個体差が大き く、一概に一定の変化が起きるとは言えない。術者は全身麻酔下の顔貌は可変的 であり、覚醒時の顔貌とは異なることを認識しなくてはならない。術前に覚醒時 の三次元画像を用いてデザインを行い、立体的な形態変化を認識しやすくする ことは術後変形の術中因子を減らすことにつながるとわれわれは考えている。