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18 Fight Cancer with a Ketogenic Diet Chapter 1 ます 本書が目指すのは がん患者が食事法の選択を通して自分に合った治療を見つけ出す道を示すことです 最後に ケトジェニック食を取り入れたがん治療に関する研究結果はまだ確立されておらず ケトジェニック食がど

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ます。本書が目指すのは、がん患者が食事法の選択を通して自分に合っ た治療を見つけ出す道を示すことです。

 

最後に、ケトジェニック食を取り入れたがん治療に関する研究結果は まだ確立されておらず、「ケトジェニック食がどのように、そしてなぜこ れほど効果をあらわすのかを、専門家たちが突き止めようとしている途 上なのだ」ということを覚えておいてください。

本書の情報は、毎月のように発表されている新しい研究論文で示され た「最先端」のものです。ケトジェニック食は、多くの動物実験でがん に対処する有効な方法であることが示されているものの、私はケトジェ ニック食を実践すればがんを食い止められると保証はしませんし、する こともできません。

私が言えるのは、現在までに行われている、人間を対象とした少数の 研究で、ケトジェニック食は疾患の進行を遅らせ、化学療法や放射線 治療の不快な副作用の軽減にも有効であると示されていることです。

これらの結果だけでも、がんと診断された人々の生活の質を顕著に改善 することがわかります。

日々新たに、健康になっていく自分を感じることができると私は信じ ています。本書の情報が、皆さんがそれぞれの目標を実現する助けにな ることを願ってやみません。

《 体験者の声 》

こうして私たちは 克服した がんを

Personal Stories

Chapter 1

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Chapter

1

 《 体験者の声 》こうして私たちはがんを克服した

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“いつも覚えておかなくてはならないことがある。

きみは自分で思っている以上に勇敢だし、

見た目より強いし、

意外と頭がいいってことを”

クリストファー・ロビンがクマのプーさんに言った言葉

『くまのプーさん:クリストファー・ロビンを探せ!』より

ここでご紹介するのは、がんと診断されて治療を受け、

その後ケトジェニック食を知って実践した方々の体験談です。

自らの体験を寄せてくれた方々は、

この食事法により標準治療の効果が高まり、

生活の質や健康状態が良くなったと語っています。

❖ 体験者の声

アリックス・ヘイデン (カナダ)

 

私は 2012 年に、37 歳で悪性度の低い脳腫瘍(グレードⅡの混合細胞 性乏突起星細胞腫)と診断され、生検後、監視的待機(訳注:症状が出現あ るいは変化するまで、治療は控えて、状態を綿密に監視していくこと)となりました。

6カ月おきにMRI検査を受ける以外は、「普通の生活に戻っていい」と 言われました。もちろんその「普通」は、私にとって全く別のものになっ てしまいました。

代謝の研究をしている会社で 15 年間働いていたので、代謝や栄養が健 康や病気に大きな影響を与える要因だということは知っていました。私 は、監視的待機を積極的に何かに取り組む時間にしたいと考えました。

生来の疑い深い性格から、いくつかの代替医療を調べて結局時間の無 駄に終わり、やっと巡り合えたのがケトジェニック食についての研究で した。読めば読むほど、「ついに見つけたのだ」と確信しました。

そこには信用のおける非臨床研究の裏づけと、人間を対象とした進行 中の臨床試験、そしてがん細胞の代謝の弱点を突けそうだと期待できる データがあったのです。2013 年5月にこの食事法を始め、それ以来ずっ と続けています。

この食事法を始めてからは、今までになく健康になったと感じていま す。ワクワクするような素晴らしい経験だったので、「こんな方法もある のだということをもっと多くの人々に知ってもらわなくては」と、ブロ グを始めました(www.greymadder.net)。がんと診断されケトジェニッ ク食を実践した経験を紹介し、信頼できる情報源を集めていますので、

みなさんは私が調べたときよりも早く答えを見つけられるでしょう。

2015 年春のMRI検査で、腫瘍が大きくなり、進行しているようだと わかったので、医療チームは治療を始める時期だと判断しました。ケト ジェニック食を標準治療と組み合わせることで、どんな効果があるかを

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理解していたので、次の段階へ進む覚悟はできていました。2015 年9月 に覚醒下開頭手術を受けましたが、この手術の様子はカラー写真つきで、

食事や心の準備と併せてブログに掲載しています。

手術からの回復は、治療に当たってくれた医師全員から褒められるほ どでした。手術当日の夜には起き上がって歩き、丸二日も経たないうち に退院できたのです。手術中、外科医は腫瘍の境界がとてもはっきりし ていて、それが動物実験で示されているケトジェニック食の効果の一つ だと言っていました。

手術後、私は放射線と経口化学療法の併用治療を6週間受け、その後 は定期的な化学療法を6カ月間受けました。治療期間中もずっとケトジェ ニック食を続け、そのおかげである程度の活動ができるだけのエネルギー を保ち、治療の副作用も最小限にできたのだと信じています。数週間前 に化学療法も終わりましたが、回復を助け、健康を保ち、「できれば再発 を遅らせたり防いだりできるように」と願って、ケトジェニック食を続 けるつもりです。

今もがんと診断されケトジェニック食を実践した経験を紹介する食事 と、併せて摂っているサプリメントでうまくいっているかどうかを確か めるために、血液中のケトンと血糖値の測定を続けています。手術後は 3カ月おきにMRI検査を受けていますが、最近の2回の検査ではまっ たく異常がありませんでした。

❖ 体験者の声

アンドリュー・スキャボロー (イギリス)

ウェストミンスター大学で修士取得を目指して栄養療法を学んでいた 2013 年4月 13 日、私は電車の中で脳出血を起こし、その後悪性脳腫瘍

(退形成性星細胞腫)と診断されました。腫瘍と脳に受けた損傷のために、

後天性のてんかんを患うようになりました。

腫瘍の大部分を取り除く手術を受け、命にかかわるような大発作も何 度か経験した後、私は担当の神経科医から、高用量の抗けいれん薬を数 種類、(何歳まで生きようとも)一生飲み続けなければならないと言われ ました。これらの薬は部分的な効果があるだけで、いろいろな副作用を 伴います。

繰り返し起こる発作と先の希望のない診断で、しばらくの間はひどく 落ち込み、打ちのめされた気分になっていました。私はがんの標準治療 をやめ、注意深く考慮されたケトジェニック食を始めました。すると、

多くの専門家の見解に反して、薬物治療を完全にやめることができたの です。

うれしいことに、そして驚くべきことに、標準治療をやめた後、スキャ ン検査の結果に改善の兆候がみられ、完全寛解にまで至ることができま した。治癒とは言えませんが、以前より希望がもてるようになっています。

目に見えない不調であれほど気力や体力を奪われていたのに、食事と ライフスタイルを変えた今ではうまく対処できるようになり、とても救 われた気分です。

きちんとしたサポートなしに独力で実践することはお勧めできなかっ たので、エレンが最近本を出したと知って素晴らしいことだと思いまし た。「さまざまな症状が次々に起こってもうまく対処したい」、あるいは

「何となく健康でいたい」という目的で読む人もいるでしょうが、それら に代謝という側面からアプローチする一つの方法として、ケトジェニッ

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Chapter

1

 《 体験者の声 》こうして私たちはがんを克服した

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ク食は試す価値があることの証として、私の経験談を役立てることがで きるようになったのだと感じています。

予想もしなかったのですが、ケトジェニック食は私を見事に解放して くれました。まるで人生を再び取り戻したようです。もっとも、計画を 立てたり、あれこれ考えたりするには時間がかかるものです。

この本には、エレンの情熱、専門知識、そして配慮が詰まっています。

生活にケトジェニック食を取り入れようと決めた人々にとって、すべて の過程が実践的で楽しみに満ち、勇気を与えてくれるものになると、私 は確信しています。

❖ 体験者の声

サラ・カラン (アメリカ)

乳がんだと言われたときには、茫然としてしまいました。統計的に見 れば男性の2人に1人、女性の3人に1人が一生のどこかでがんになる のですから、本当は驚くようなことではなかったのでしょう。

診断を受けたのは 2012 年 12 月の終わりだったこともあり、その後の 状況はより恐ろしいものになってしまいました。主治医に紹介された腫 瘍専門医と担当の外科医の両方が、その時期に冬休暇を取ることになっ ていたのです(本当は不幸中の幸いなのに、それに気づかないこともあ るものです。もし状況が違っていたら、がんが見つかってから数日後に は、私は通常の標準治療を始めさせられていたでしょう)。

 

医師たちが戻って来るのを待っていた2、3週間の間、私はパニック と恐怖にさいなまれ、インターネットでこの先自分に何が起こりそうな のかを調べ始めました。私にはどんな選択肢があるのだろうかと。

私のがんはHER2遺伝子に増幅が認められる、悪性度の高いもので、

再発は例外的ではなく普通に起こるとわかりました。化学療法にハーセ プチン(訳注:HER2遺伝子に増幅が認められる乳がんに用いられる抗がん剤)

を加えても、治療結果は芳しくないようでした。治療を始めて3カ月後 には、患者にハーセプチンに対する抵抗性があらわれ始めるおそれがあ るというのです。

幾晩も眠れず、次から次へと調べて、読めば読むほど落ち込んでしま いました。そして、ついにトーマス・サイフリッド博士の論文「Cancer as a Metabolic Disease(仮邦題:代謝疾患としてのがん)」に出合っ たのです。一筋の光が差しました。そこには、がんが遺伝子の変異によ る病気ではなく、ミトコンドリアの損傷がきっかけで始まるのだという 説得力のある証拠が、いくつも示されていました。

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私は、自分のがんに「代謝療法を試したい」と心から思いました。で もどうすればいいのでしょう? 

ケトジェニック食は実践するのが不可能なくらい難しく見えましたし、

直感的にはとても納得できませんでした。私がずっと考えていた健康的 な食事とは、あらゆる点で正反対でした。

主治医は、「そんなにたくさんの脂肪を食べたら心臓発作を起こしてし まう」と心配しました。結局、私はコレステロールを下げる薬と中性脂 肪を下げる薬を、両方飲むことになりました。

それから、私はエレンの本を見つけ、始めから終わりまで読んで「こ れならできる」と思ったのです。その時点では、手術も化学療法も放射 線治療も受けないというのは難しい決断でしたが、いろいろと調べて、

通常行われる標準治療では良い結果が望めそうにないとわかっていまし たから、容易に決心がつきました。

ケトジェニック食を実践したおかげで、私のがんは飢えて休眠状態に なり、(3年半後の)今も体調は良好でありがたく思っています。メトホ ルミン(私は糖尿病ではありませんが)、DCA(訳注:ジクロロ酢酸。腫瘍 縮小効果があるとされる)、クルクミン(訳注:ウコンに含まれるポリフェノール。

コレステロール分解作用、抗腫瘍作用などが研究されている)などの代謝作用薬 も飲んでいますが、これらはがんへのさまざまな栄養供給路を阻害する 作用があります。その結果は、私の担当医である腫瘍専門医の言葉を借 りれば、「驚くべき」ものです。

前回のMRI検査のとき、放射線技師に「私にくれた結果報告がなぜ そんなに短いのか?」と尋ねました。腫瘍の大きさが何ミリくらいかを 知りたかったからです。

すると彼は、「腫瘍はなくなっていて、残っているのは乳腺の歪みだ けなので、もう大きさは測れない」とのことでした。もし私ががんと診 断され治療を受けたと知らなければ、これを見て「所見なし」と判断し ただろうということでした(著者注:サラはこの経験をブログに書いて います。http://www.kosherketogenic.com/)。

ケトジェニック食 がんと

Cancer

Ketogenic Diets and

Chapter 2

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Chapter

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 がんとケトジェニック食

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ケトジェニック食とは何か?

晴らしい体験談をいくつかご紹介したところで、ケトジェニック 食はどんなふうに効果をあらわすのか、がん細胞はどうやって生 きているのか、そしてケトジェニック食やさまざまな食事ががん細胞や 腫瘍の増殖を抑制できるしくみとは何か、についてのお話に移りましょう。

また本章では、ケトーシス(訳注:体内にケトン体が増加・蓄積した状態)に あると、がんと診断された人々の治療の成果がどのように改善されるの か、についても説明します。

水、そしてビタミンやミネラルといった微量栄養素に加えて、私たち の体は、生命を維持するためのカロリー、つまりエネルギーを供給して くれる主要な3種類の栄養素を必要としています。それは脂肪、タンパ ク質、炭水化物です。

◦油脂

(訳注:脂肪のうち常温で液体のものは油、固体のものは脂と呼ばれる。

本書では、原文で fats を「脂肪」、fats and oil を「油脂」とした)は、バター、

アボカド、ココアバター、ココナツオイル、ラード、オリーブオイ ルなどの食品に含まれます。1グラムあたりの熱量は、およそ9キ ロカロリーです。

◦タンパク質は、牛肉や豚肉、鶏肉などの肉類、魚、卵といった食品に

含まれています。量は多くないものの、豆類、ナッツ類、種子類に も含まれます。1グラムあたりの熱量は、およそ 4 キロカロリーです。

◦炭水化物は、豆類、小麦粉類、糖類、ジャガイモ、パン、パスタ、果物、

野菜など、甘いものやデンプン質の食品に含まれます。1グラムあ

たりの熱量は、およそ4キロカロリーです。

ケトジェニック食では、天然の脂肪やタンパク質の多い食材を摂る ように心がけ、炭水化物の多い食材を制限します。特に、がん患者が 行うケトジェニック食療法では、脂肪をさらに多くし、タンパク質はほ どほどに摂り、炭水化物はほんの少ししか摂取しません。

アトキンスダイエット(訳注:炭水化物の摂取量を1日 20g 以内に抑え、タン パク質と脂肪の摂取量を増やす食事療法。英国の医師ロバート・アトキンスが提唱した)

と比べてタンパク質の摂取許容量が低く、またケトン体レベルを上げる ために、ココナツオイルなどの中鎖脂肪酸を摂るようにします。

炭水化物(糖やデンプン)を含む食品は、消化され、ブドウ糖まで分 解されて血液中に吸収されます。血糖値が高いことは人体に有害となる おそれがあるため、代謝のはたらきでブドウ糖は細胞に取り込まれ、エ ネルギーに変えられます。

このようにして取り込まれたブドウ糖が分解されて初めて、人体は食 物から摂取し貯蔵していた脂肪を使ってエネルギーを得るようになりま す。

炭水化物の摂取を減らせば、血糖値が下がるだけでなく、肝臓にある グリコーゲン(グルコースの貯蔵物)の量も少なくなります。そうすると、

私たちの体内ではたらいている生化学的な経路は、脂肪を代謝し、それ によってできた物質を使ってエネルギーを生み出すようになります。

このとき、脂肪から作られる物質が「ケトン体」と呼ばれるもので、

本書に登場する主なケトン体は「アセト酢酸(AcAc)」「β - ヒドロ キシ酪酸(BOHB)」、そしてより揮発性の強い「アセトン」です。

これらの物質が人体のはたらきに与える作用はそれぞれ異なるのです が、全体に共通するのは、人体が主なエネルギー源としてケトン体を使 うようになると、健康に対していくつかの重要で有益な効果があらわれ ることです。

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ケトジェニック食は減量にはとても有効ですし、胸やけや関節痛といっ た軽度の不調を和らげます。しかもケトジェニック食は、よく耳にする これらの効果をはるかに凌ぐパワーを秘めているのです。

言い換えるなら、この食事法は一時の流行ではありません。代謝障害 を正常に戻すことができ、正しく処方され実行されれば、がん治療とし て非常に効果的なものとなり得ます。本書では、この食事法を詳しく紹 介し、それがどうやって効果を発揮するのか、なぜ効果があるのか、そ してどのように実践すればいいのか、を検討していきます。

がん細胞は 実は糖が大好き

生化学者でノーベル賞を受賞した医師、オットー・ワールブルク博士は、

1928 年に発表した論文の中で、「がんは代謝性疾患である」という説を 提唱しました1。ワールブルク博士は、正常な細胞は酸素を使ってエネル ギーを作り出すのに対し、がん細胞は酸素があってもエネルギー源とし て糖(ブドウ糖)を好んで使うことを、自らの研究で示したのです。

1966 年のノーベル賞受賞者会議(訳注:毎年 20 名程度のノーベル賞受賞者 と数百名の若手研究者が集まり、講演やディスカッションが行われる)で、以下の ように述べています2

「がんには数えきれないほど多くの二次的な原因があり、それは他 のどの疾患よりも多い。しかし、そのがんでさえ、主な原因はただ 一つである。簡潔に言えば、がんの主因は、人体の正常な細胞が行っ ている呼吸が行われなくなり、代わりに糖の発酵が行われるように なることである」

最近まで、ワールブルク博士のこの仮説(「ワールブルク効果」として

知られる)は顧みられることがありませんでした。それは、腫瘍学の分 野ではがんは遺伝子の異常によって起こる病気だと信じられてきたから です。

ところが、トーマス・サイフリッド博士は自身の研究と著書『Cancer as a Metabolic Disease: On the Origin, Management, and Prevention of Cancer(仮邦題:がんは代謝疾患である─原因、マネジメント、予 防の新たな視点)』の中で、ワールブルク博士の考えは正しく、「がんは 遺伝子疾患ではなく代謝性疾患だ」と主張しました3

さらにサイフリッド博士は、がん研究者たちが強い関心をもっている 遺伝子マーカー(訳注:ここではがん患者に特有の DNA 塩基配列のこと)は、が ん細胞で起こっている代謝異常の結果として生じたものだとしています。

このことは、数百万ドルを費やし、全世界が協力して行った「がんゲ ノムアトラス計画(Cancer Genome Atlas Project =CGAP)」がう まくいかなかったことからもわかります。CGAPでは、あらゆる種類 のがんにみられる遺伝子変異の特徴を解明し、薬物治療で標的とするこ とのできる遺伝子を見つけようと試みました。

実際に明らかになったのは、文字通り数百万ものランダムな遺伝子変 異が、それぞれのがんと関連して起こっていて、これらの変異には、全 体に共通する、これががんの特徴だと言えるようなパターンはないとい う結論でした。

がんゲノムアトラス計画の顛末と、がんの遺伝子原因説の明らかな 誤りは、トラビス・クリストファーソンが名著『Tripping Over the Truth: The Return of the Metabolic Theory of Cancer Illuminates a New and Hopeful Path to a Cure(仮邦題:がんの真実 ─ 代謝説の再 評価がもたらす新たな希望)』の中で詳細に述べています。クリストファー ソンは、腫瘍学研究の資金提供先を、遺伝子原因説から代謝的側面から のがん治療へと転換するべきだと考えられる理由をはっきりと示す、素 晴らしい仕事をしています。

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Chapter

2

 がんとケトジェニック食

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代謝が行われているとき、

がんは何をしているのか?

「がんが代謝性疾患である」とは、実際のところどういう意味なのでしょ うか? 

代謝とは、私たちが食事で摂取したものからエネルギーを作り出す ことですが、これが壊れている、あるいは何らかの異常をきたしてい る状態が「代謝性疾患」です。正常な細胞では、食物と、呼吸で取り込 んだ酸素を利用して、正常な細胞「呼吸」を行い(訳注:ここでの「呼吸」

は、細胞が酸素を使って栄養分を分解し、エネルギーを作り出すこと)、細胞の主な エネルギー源となるATP(アデノシン3リン酸)という物質を合成す ることができます。

このエネルギー産生過程の一部は、細胞の多くを占める細胞質基質で 行われますが、エネルギーのほとんどは、細胞の「発電所」として知 られている細胞小器官のミトコンドリアで作られます。

細胞がエネルギーを作り出すために利用できる主な食物成分は2つあ ります。細胞のエネルギー源の1つめはブドウ糖で、血糖として知られ ています(訳注:血糖とは血液中に含まれるブドウ糖)

ブドウ糖は、食事で摂ったデンプンや糖類(炭水化物)から得られ、

細胞内で解糖と呼ばれる反応過程によりエネルギーに変えられます。

正常な細胞では、解糖は代謝の最初で起こる過程で、細胞質基質で行 われ、この過程でできる分子がミトコンドリアに移動して、より効率の 良い「酸素を用いる」細胞呼吸で完全に分解されます。

2つめは脂肪酸です。脂肪酸にはさまざまな種類があり、食物中の脂 肪や、脂肪細胞に蓄えられている脂肪から得られます。血糖値が下がっ てくると、脂肪酸が肝臓で分解されてケトン体あるいはケトンと呼ばれ る物質になります。

ケトンは、ほとんどの細胞のミトコンドリアで利用でき、エネルギー

が作られます。肝臓でケトンが作られる過程は「ケトン生成(ケトジェ ネシス)」と呼ばれ、ケトンを主なエネルギー源として利用している代謝 の状態を「栄養性ケトーシス」と呼びます。

ケトジェニック食ががんと戦う手段となれるポイントはここにありま す。正常細胞のほとんどは、エネルギー源としてブドウ糖もケトン体も 利用できます。血糖値が下がってくると、ケトン体が代わりのエネルギー 源として使われるので、ケトン体のおかげで、正常な細胞の代謝はいわ ば融通の利くものになっているのです。

グルコースに依存する傾向が強い脳などの神経細胞でさえ、ケトン 体をエネルギー源とすることができます。ほとんどの正常細胞が(ブド ウ糖が不足すると)ケトン体を利用する能力をもつことは、それらの細 胞のミトコンドリアが健全で、正常にはたらいていることを示している のです。

 

対照的に、ほとんどのがん細胞ではミトコンドリアが壊れていて、代 謝の融通性があまりありません。ミトコンドリアで行われるエネルギー 産生経路が機能しないとがん細胞は酸素を利用できず、ケトン体を代 謝できないのです。

そこで仕方なく、がん細胞はブドウ糖を使った解糖などのあまり効率 の良くないエネルギー産生に頼ることになります。事実、急速に増殖す るがん細胞は、正常な細胞の 200 倍もの速度でブドウ糖を分解すること もあるのです

ところが、がん細胞はミトコンドリアが壊れていて、代謝に融通性 がなく、そしてブドウ糖に依存しているため、ケトジェニック食は腫 瘍組織の増殖抑制効果をもつ可能性があるのです。血液中のブドウ糖を 減らしケトンを増やすことで、ケトジェニック食はがん細胞のアキレス 腱を狙い撃ちにします。解糖からエネルギーを得られなくなってしまう からです。

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血糖値を調節するのが インスリンの役目

私たちの正常な細胞は、代謝に複数のエネルギー源を使うことができ ます。脳細胞は必要なエネルギーの一部をブドウ糖に頼っていますし、

赤血球のような細胞はブドウ糖だけに頼って生きています。

従って、いくらかはブドウ糖を利用しなければ、私たちは生きていけ ません。そのため、何らかの代謝過程がはたらいて、血糖値を最適に保っ ています。そのようなしくみの一つに関わっているのが、「インスリン」

です。

インスリンは、体内で血糖値の調節に関わっている主要なホルモンで す。インスリンは主に、炭水化物を含む食事をとることで起こる血糖値 の上昇に反応して、すい臓の細胞で作られます。

インスリンのはたらきは、過剰なブドウ糖を血液中から細胞内へ取り 込ませることで、ブドウ糖は細胞内で解糖により代謝され、エネルギー となります。食後数時間は、このような反応が活発に行われます。

インスリンがその役目を果たし終えると、血糖値は下がり始めます。

もしも(食事を抜いたり、次の食事まで時間があいたりしたために)血 糖値が最適なレベルよりも下がってしまうと、別のホルモンである「グ ルカゴン」がはたらいて、肝臓に貯蔵してあるグリコーゲンを分解して グルコースにし、血液中に放出するようにという指令を出します。肝臓 は、「前駆物質」の分子から糖新生と呼ばれる過程を経て、新たにグル コースを作り出すこともあります。

いずれにしても、グルカゴンが分泌されることで血糖値は上昇し、脳 の機能が低下せずに済むのです。

食事は血糖値とインスリンに どう影響するのか?

血糖値とインスリンレベルは、私たちが何を、どのくらい食べるかに よってある程度は調節されます。3つの主要な栄養素は体内で消化され ますが、血糖値とインスリンに与える影響は異なります。

油脂は血糖値やインスリンにほとんど影響しませんが、タンパク質は いくらか影響を与え、多く摂れば摂るほど影響が大きくなります。さらに、

アミノ酸の中には血糖値やがん細胞の代謝に大きな影響を与えるものが ありますが、これについては後でふれることにします。

 

炭水化物は、血糖値やインスリンに大きく影響します。私たちの消化 器系は食事に含まれる炭水化物を直接ブドウ糖に変え、ブドウ糖は速や かに血液中に吸収されます。血糖値が上がるたびに、すい臓はそれに反 応してインスリンを作り、血中に放出します。

血中のインスリンが増えると、より多くのブドウ糖が細胞に取り込ま れます。がん細胞はこのようなブドウ糖の急上昇をうまく利用するよう になっているので、炭水化物の摂取を減らして血糖値やインスリンを増 やさないようにし、がん細胞の得意技を封じることが何よりも重要にな るのです。

ほとんどの未加工の食材には、これら3つの主要な栄養素がすべて含 まれていますが、大抵はそのうちのどれかが多いものです。しかしドー ナツやフライドポテトのように加工度の高い食品は、そうではありません。

加工食品は脂肪と炭水化物がどちらも多いのが普通で、これはとりわ け不自然な組み合わせです。

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36 Fight Cancer with a Ketogenic Diet

食べる前に

栄養素の比率をチェックする

いっぽう、未加工食品では、栄養素の比率がより健全です。例えばア ボカドのような食品なら、脂肪が多く、タンパク質や炭水化物はあまり 含まないことが多いのです。ステーキ用の牛肉や鶏の胸肉はほとんどが タンパク質で、いくらか脂肪はありますが炭水化物はあまり含みません。

食材は私たちに、それぞれが偏った「比率」で栄養素を与えてくれる ので、この比率がわかれば、血糖値とインスリンの低く保ち続けられる ような献立を立てるために役立つことでしょう。実際の食品に含まれる 栄養素の比率の例を、いくつか挙げてみましょう。

◦オリーブオイル:オリーブオイルは脂肪 100%、炭水化物0%、タ

ンパク質0%。

◦ベイクドポテト:素材のジャガイモは炭水化物 80%、不消化性の繊

維 10%、タンパク質 10%、脂肪0%。

◦鶏の胸肉:焼いた鶏肉はタンパク質 62%、脂肪 38%、炭水化物0%。

◦生のホウレン草:生のホウレン草は炭水化物 30%、不消化性の繊維

30%、そして意外にもタンパク質が 40%含まれる。

ケトジェニック食が目指すのは、全体的に言えば脂肪の摂取量を最大 にし、タンパク質を「組織や細胞の修復と維持」に必要な量に制限し、炭 水化物の摂取を制限することです。食品の栄養比率を理解し管理すると、

何を食べればいいかがわかり、この食事法をうまく行えるようになります。

炭水化物とタンパク質の摂取量を制限し、脂質を摂るようにすること で、血液に入って全身をめぐるブドウ糖とインスリンを低く保ち続ける ことができ、それに伴ってケトン体の生成が増えます。栄養性ケトーシ スという代謝状態は、血中のケトンが上昇し、かつ血糖値とインスリン が低い状態と定義されますが、私たちはこれを目指しているのです。

科学が語る 証拠

The Scientific Evidence

Chapter 3

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がんの「代謝原因説」の 信憑性は?

んは遺伝子の変異による病気なのか。それとも代謝異常なのでしょ うか? 

「健全な細胞で核内にある遺伝子が変異し、細胞の活動が異常になるた めにがん化するのだ」というのが、腫瘍学の主流派の主張です。前章で も触れた通り、がんゲノムアトラス計画では、あらゆるがんの原因とな るような、決定的な遺伝子変異は見つかりませんでした。

対照的に、がんの「代謝原因説」では、「ミトコンドリアに異常が生じ、

呼吸の障害が起こった細胞ががんになるのだ」と考えます。

まだそうだと言い切ることはできない、というのが腫瘍学界の多くの 人の言い分で、代謝という側面からのがんへのアプローチを支持する新 たな研究へと舵を切る動きはとても緩慢です。

サイフリッド博士は、腫瘍細胞の(変異して異常となった遺伝子を含 んでいるはずの)核を、正常なミトコンドリアをもつ健全な細胞に移植 しても、その細胞ががん化することはないことを示しています。

反対に、損傷を受けたミトコンドリアを含む細胞質を、正常な核内遺 伝子をもつ細胞に注入すると、その細胞はがん細胞へと変化し始めるの です

わかりやすく言えば、がん細胞はゾンビのようなもので、普通の細胞 なら死んでしまうような傷を負っても生きているのです。ミトコンドリ アが壊れてしまえば、普通なら細胞は自ら死に向かう(アポトーシス)

ようにプログラムされているはずなのですが、そうならないのががん細 胞です。

解糖をより速く、強力に行うようになるので、より多くの乳酸が産生 され、この酸性物質をリサイクルして再び解糖に送り込みます。

見事な悪循環です。まるでターボエンジンさながらに、燃料を送り込 まれた解糖はエネルギーを生み出して細胞に供給し、生成される過剰な 乳酸は腫瘍組織の環境を酸性化して、それが炎症と「血管新生(腫瘍細 胞がより多くの血管を発達させることで、これによってより多くの栄養 が得られるようになる)」を増やします。

がんの遺伝的マーカー(訳注:遺伝子にみられる、それぞれのがんに特有の塩 基配列)はさまざまで一定ではありませんが、すべてではないにしてもほ とんどの腫瘍が壊れたミトコンドリアをもっていて、すべての腫瘍が 乳酸を産生しているのです。さらに、乳酸の産生が増えれば、腫瘍は増 殖し、どんどん広がっていくことを示した研究があります

このように、がんの代謝原因説を支持する証拠はいたるところにあり、

それらは同時に、がん細胞の代謝に起こるこれらの特徴をうまく利用す るには、ケトジェニック食を実践すべきであることを支持しているのです。

ケトジェニック食が 効果を上げるしくみ

ケトジェニック食は、いくつかの異なる側面からがんと戦います。前 述のように、ケトジェニック食はブドウ糖とインスリンを得られなくす ることでがん細胞の代謝を邪魔します。

また、ミトコンドリアの機能とエネルギー産生を修復することで腫瘍 細胞が酸化障害を受けやすくし、また腫瘍の成長を抑制する遺伝子を発 現させます。簡潔に言えば、ケトーシス、つまりケトン体が存在するこ とは、細胞の内外の環境をがんが進行しにくいものに変えることです。

本章では、ケトジェニック食ががんに及ぼす効果の一部を詳しく説明し ます。

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がん細胞の 代謝を妨げるもの

前述の通り、栄養性ケトーシスの状態にあると、血液中のブドウ糖と ケトンの量はがん細胞が代謝を行えないような比率になります。炭水化 物の摂取を減らすと、血液中のブドウ糖とインスリンは少なくなり、こ れによって解糖は抑制されケトン産生が増加します。解糖の速度が遅く なると、乳酸の生成量が少なくなり、がん細胞がエネルギー源を手に入 れることがさらに難しくなります。

さらに、炭水化物摂取の制限は、人体に断食やカロリー制限と同じよ うな効果を及ぼし、これは断食やカロリー制限がもたらす生化学的な状 態によって、血液中のケトンが増え、血糖とインスリンが減るためです。

このことは着目に値します。断食やカロリー制限ががんに与える効果を 調べた数多くの研究が発表されているからです。

断食もカロリー制限も、炎症、腫瘍の血管新生と成長、増殖速度、そ して遠隔転移(がん細胞が人体のある場所から別の場所へ移動すること)

を減らすことが示されています。ケトジェニック食の、がんのマーカー に対する効果についての研究は限られていますが、同じような結果なの も驚くことではないでしょう。

ケトンが増えることががん細胞に与える直接の影響のメカニズムは、

まだ解明されていませんが、ケトン体そのものががん細胞にとって有害 であることを示す研究もあります。将来の研究で、このことについて より多くの知見が得られると、私は確信しています。

少ない酵素でも よくはたらく

ケトン体があると、細胞のミトコンドリアで行われる反応過程がより 効率的に進むことを示した研究もあります。ケトンによって、細胞は同 じ量の酸素でより多くはたらくことができるようになるのです。

このことは、1945 年に発見されました。ウィスコンシン大学の科学者 たちが家畜のウシの繁殖をより容易にできるようにしようと試み、ウシ の精子を時間がたっても使えるように保存する培地を試していました。

そして、ケトン体の一種であるヒドロキシ酪酸(BOHB)をウシの生 きた精子のサンプルに添加すると、精子はより活発に活動するようにな り、しかもその間の酸素の消費量は減っていたのです

50 年後、これと同じ効果が米国国立衛生研究所のリチャード・ヴィー チ博士のチームによって報告されました。ラットの心臓の細胞をケトン で飽和状態にすると、ケトンを潅かんりゅう(訳注:組織、器官、細胞などに液体を 流し込むこと)させた細胞では酸素の体積当たりの仕事容量(訳注:心臓が 一度収縮した際の仕事量。仕事当量指数は、<心臓の一回拍出量×動脈圧>÷体表面 積で求める)が、ブドウ糖だけを与えた細胞と比較して 28%上昇したので す10

インスリンレベルの低下

血液中のインスリンが少なくなることも、がんの進行に間接的な影響 を与えます。インスリンが減ると、その他のがんを助けるホルモンも少 なくなります。酸素が少ない状態で自分に血液が行き渡るようにするた め、がん細胞が分泌するTAF(腫瘍血管新生因子)という物質11や、

細胞の増殖を促進するIGF - 1(インスリン様成長因子1)というホ

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ルモン12があります。

このような波及効果を明らかにするには、さらに研究が必要ですが、

血液中のインスリンが少ないと、がんの発生と進行の速度が遅くなるこ とは明らかなのです。

酸化ストレスは 何を引き起こすのか?

酸化ストレスとは、酸素からでき、化学反応性の高い「フリーラジカ ル」分子が、近くにある分子から電子を奪い、奪われた分子がまたフリー ラジカルとなって他の分子から電子を奪う、という連鎖反応が起こって、

細胞に広範囲にわたる損傷を与えることです。

がん細胞は、自分を酸化ストレスから守るために大量のブドウ糖を使っ ていますが、血糖値が低くケトンが多いと、この保護メカニズムがうま くはたらきません。解糖の速度が遅くなると、がん細胞の防御機構が阻 害され、がん細胞はフリーラジカルによって致命的な損傷を受けやすく なります。

例えば、従来の放射線治療はがん組織の周囲でフリーラジカルを増や すことで効果をあらわしますし、栄養性ケトーシスの状態にあると、こ のフリーラジカルによる腫瘍破壊効果を高めることが研究で示されてい ます13。いっぽうで、正常な細胞は、ケトーシスの環境の方が身を守る のに有利です。

事実、エネルギー源としてケトンを使うようになると、正常細胞で は酸化によるダメージが起こる速度が低下しますが、これはケトンの おかげで細胞が酸素をより有効に使えるようになるからです。つまり、

がん細胞を脅かすだけでなく、フリーラジカルによる正常細胞へのダメー ジは少なくなるので、ケトジェニック食を実践すると健康状態が良くな るのです14

他のほとんどの生物と同じく、人間に受け継がれる遺伝情報はDNA

(デオキシリボ核酸)と呼ばれる分子の中に収められています。人体のほ とんどすべての細胞は核をもち、DNAはその中にあります。

細胞の核は、収められているDNAの長さにしては小さいので、DN Aはきっちりと撚り合わされて染色体と呼ばれる紐状の構造物をつくっ ています。

染色体は、タンパク質に覆われていて、このタンパク質によって染色 体に含まれる遺伝子が発現するかしないかが調節されています(訳注:遺 伝子の発現とは、その遺伝子の遺伝情報に基づいてタンパク質などがつくられること)。 これがヒストンと呼ばれるタンパク質で、別のタンパク質である酵素の 分子によって化学的な構造を変えられることで、制御されています。

例えば、ヒストンタンパク質にアセチル基が結合したり、離れたりす ることがあります。ヒストンはこのような構造変化によって、細胞内で 行われているあらゆる反応をどう制御するかを指示しているのです。

ケトンとヒストン

脱アセチル化酵素(HDAC)

研究では、ケトン体がヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)

としてはたらくことを示した研究もあります。HDACiは、ヒストン の構造変化に関与する分子の一種です。

がんとの関連でいえば、ヒストンアセチル化がもたらす結果の一つが、

特定の腫瘍抑制遺伝子の発現を優勢にすることです。この遺伝子が発現 すれば、細胞内で、がんの成長と増殖を促進する因子を抑制するのです。

HDACiはアポトーシスのスイッチを入れる遺伝子も発現させます。

アポトーシスとはプログラムされた細胞死のことですが、がん細胞はこ れを起こさないようにして生き延びることができます。

グラッドストーン研究所とカリフォルニア大学サンフランシスコ校で

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ニューマンとヴェルディンが書いた論文では、ケトン体であるBOHB の分子が数種類のタイプのHDAC分子を抑制する代謝物としてはたら くしくみを再検討しました。

その結果、ケトジェニック食、断食、カロリー制限はケトジェネシス を起こすという点で共通していて、このことが遺伝子の発現を高め、病 気のリスクを下げるような因子による代謝シグナル伝達の改善につなが るのだと考えました15

代謝原因説の証拠は こんなところにもある

過去 40 年間、がん研究の全般的な方向性は、遺伝子要因の方へ大きく 偏っていました。治癒、あるいは効果があり毒性のない管理方法すら、

あまり進歩していないのは、この腫瘍遺伝学にこだわった結果でしょう。

サイフリッド博士をはじめとする研究者は、「がんは遺伝子によって起 こる病気ではなく、代謝に関連して起こり、代謝に焦点を当てた治療法 で対処できる」と主張しました。この主張は、ブドウ糖に類似した物質 を使って体内のがんを見つける、よく知られた検査法からも裏づけられ ています。

ケトジェニック食が最も効果のあるがんは、一般的にFDG - PET スキャンで見つけやすいがんでもあります。FDGとはフルオロデオキ シグルコースという物質のことで18、この物質は一般的に体内のがんを 見つけだすために使われます。ブドウ糖類似物質ですが代謝されること がなく(細胞はこの物質を取り込むことができるが、普通のブドウ糖の ように完全に分解することができない)、この物質に放射性同位体で印を つけます。

がん細胞は(「ブドウ糖に飢えている」と言ってもいいほど)ブドウ糖 を好むので、注入されたFDGは腫瘍に集まり、印としてつけた放射線

がPET(陽電子放出断層撮影)スキャンで容易に検出できます。一般 的には、あるタイプのがんでブドウ糖の取り込みが多くみられるほど、

血糖値を下げるケトジェニック食ががん細胞の代謝に負担をかけ、がん の成長を止める、あるいは遅らせる可能性が高いようです。

とはいえ、ブドウ糖に飢えているがんのすべてが、PETスキャンで 鮮明に映し出されるわけではありません。例えば、脳腫瘍はPETスキャ ンとは異なる方法で検査をします。

脳細胞はどれもブドウ糖に飢えているので、ブドウ糖と似た物質を使 うと、FDG - PETスキャンで腫瘍と正常な細胞を見分けることが難 しいのです。脳腫瘍を見つけるためには、PETではなくMRIスキャ ンを使いますが、ここで使われる造影剤は血流が多くなっている部分を 見つけるもので、これも腫瘍組織でよくみられる特徴の一つです。

ケトジェニック食は

がんを食い止められるか?

1

995 年、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のリンダ・ネベリング 博士とその研究チームは、「食事からの摂取する炭水化物を減らせば 腫瘍がブドウ糖を利用できなくなり、かつ患者の栄養状態を改善するこ ともできる」と考え、脳腫瘍を患っていた二人の少女にケトジェニック 食を実践させました。結果は素晴らしいものでした16

二人とも、わずか8週間で腫瘍の部位でのブドウ糖の取り込みが 21.8%減少していることが、FDG - PETスキャンでわかったのです。

これは、ケトジェニック食ががんの進行を遅らせる可能性があることを、

はっきりと示していました。さらに、二人とも機能と栄養状態が良くなっ

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ていたのです。

2012 年には、アルベルト・アインシュタイン医学校のユージン・ファ イン博士が実現可能性調査(フィジビリティー・スタディ)を行い、そ の中で 10 名の進行がん患者への治療としてケトジェニック食を使いまし た。

ここでも、期待を抱かせる結果が得られました。ケトジェニック食の 安全性プロファイル(訳注:治療などによって得られた有害事象(副作用))に関 する情報一覧が作成され、次は人間を対象とした試験を次の段階へ進め てもよいとされたのです。

参加した患者のうち少なくとも5名はインスリンレベルが大きく下が り、ケトンのレベルが上がり、病状の安定あるいは寛解の状態になり、

しかも誰にも有害な副作用は起こらなかったのです。また、栄養性ケトー シスの状態になると標準的な放射線治療や化学療法の辛い副作用が和 らぐという患者自身の声もありました17

 

栄養性ケトーシスが放射線治療や化学療法といった主流のがん治療の 副作用を軽減し、効果を上げることを示した研究は、他にも数件ありま す19。また、ケトン体はミトコンドリアの酸化ストレスによって引き起 こされる炎症を減らす効果があるので、正常な細胞を保護する作用もあ る程度もつことが示されています20

トーマス・サイフリッド博士のチームは、ケトジェニック食と併せた カロリー制限が以下のような効果をもつことを繰り返し明らかにしてい ます21

◦血管新生(腫瘍の成長に必要な栄養を供給する血管ができていく

 こと)を減少させる。

◦がん細胞で正常なアポトーシス(細胞が自ら死んでいくこと)を

 復活させる。

◦腫瘍組織のDNAを不安定化し、がん細胞に損傷を与える効果を

 引き出す。

◦腫瘍の大きさを時間と共に縮小させる。

◦インスリンと、発がんを促進するホルモンであるインスリン様成

 長因子1(IGF - 1)を減少させる。

◦炎症を軽減する

22

サイフリッド博士の研究については、『Cancer as Metabolic Disease

( 仮 邦 題: 代 謝 疾 患 と し て の が ん )』 と、 学 術 誌『Nutrition and Metabolism(仮邦題:栄養と代謝)』に掲載された同タイトルの記事23 に詳しく述べられています。2016 年にオックスフォード大学出版会から 出版された、スーザン・マシノ博士の編集による書籍『Ketogenic Diet and Metabolic Therapies(仮邦題:ケトジェニック食と代謝療法)』

では、さらに情報が追加されています。

小児がん治療にも 効果があった

「ケトジェニック食はがんを患う子どもたちにもさせていいのだろう か?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。答えはズバリ、「イエス」

です。

ケトジェニック食は、子どものてんかんの治療として、100 年近く行 われています。「薬や手術で効果がなかったのに、この食事法がうまくいっ た」という症例がたくさんあります。

この素晴らしい食事法は、薬による副作用や手術に伴う損傷を被るこ

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とがないので、ただ効果があるという以上に子どもたちのためになるの です。

(前述の)ネベリング博士の研究には、脳腫瘍患者である子どもも含ま れており、これはこの治療法の効果について検討した初めての試みでし た。医学的に経過観察とされている患者では、ケトジェニック食は「単 独で用いることのできる」治療法になることがあります。

見えてきた がん撲滅の全体像

全体像をイメージするならドミノ倒しのようなもので、ケトジェニッ ク食が発端となって次々に起こる現象が、がんに打撃を与えます。血糖 値の平均値を下げ、これが血中のインスリンレベルを下げます。

インスリンが減れば、インスリンによって増えるその他のがん成長促 進因子、例えばTAF(腫瘍血管新生因子)などの産生を効果的に阻害 します。さらに、血中のケトンが増えれば正常な細胞が保護され24、いっ ぽうがん細胞の遺伝子発現をより正常に近づけます。

そうなるとがん細胞は、すべての損傷した細胞がすべきことである細 胞死を起こしやすくなるのです25。そのうえ、血糖値の低下と血液中の BOHBの増加は、がん細胞がフリーラジカルによる損傷に抵抗したり、

損傷を修復したりする能力を阻害します。最終的にはケトンは細胞の遺 伝子発現に影響を与え、がん化につながりにくくすることができるの です。

これらの効果のすべては、がん細胞の生き伸びる能力を損なわせます。

栄養性ケトーシスによる保護効果こそ、カロリー制限や断食、そしてケ トジェニック食(ケトンを生成させ、空腹感はなくても断食と同じ状態 をつくる)が、これほど人間の健康に効果がある理由なのです。実際、

栄養性ケトーシス、そしてケトン体そのものが、多くの代謝性疾患の治

療法として、幅広く研究されています。

生命維持の バックアップシステム

さまざまな病気と関連づけた、ケトジェニック食やケトン体の抗炎症 効果についての研究論文はますます増えつつあります。それらの病気に は、てんかん、多発性硬化症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、パーキン ソン病、アルツハイマー病、頭部外傷、2型糖尿病、心血管疾患、自閉症、

片頭痛、脳卒中、うつ病、そしてもちろんがんも含まれます。

事実、人体がエネルギー源をブドウ糖からケトンに切り替える(すな わち栄養性ケトーシスにする)能力はとても重要な適応で、そのおかげ で人類は地球上で生き延びてきたとも考えられるのです。

ケトン体は、飢餓や炭水化物の制限によって血糖値が下がったとき の、バックアップシステムとしてはたらきます。これができなければ、

旧石器時代人からこの時代に遭難して漂流する人まで、人類は食糧難に 直面したら命を落としていたでしょう。

この項では専門的な話が多くなってしまいましたので、簡単にまとめ ておきましょう。代謝という側面からがんと戦うには、血糖値を下げる こと、そしてインスリンを減らし、血液中を巡るケトン体を増やすこと が不可欠です。

そして、ケトジェニック食こそがこれを実現させます。

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実用化に向けた 新たな研究

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016 年の段階で、人間を対象とした研究に基づくエビデンスはまだ 少なく、この食事法の有効性についてというよりも、研究資金はど こから得られ、承認はどう受けたかに関するものにとどまっています。

それでも現在、米国国立衛生研究所を通じて資金提供を受けている臨床 試験があることには勇気づけられます。

これらの臨床試験では、さまざまな種類のがんに対して、標準的な放 射線治療や化学治療と組み合わせてケトジェニック食を実践することの 効果を調べています。

さらに、ドイツのシュヴァインフルトにあるレオポルディーナ病院の ライナー・クリメント博士のチームが最近発表した論文では、放射線治 療を受けながら自分でケトジェニック食を実践した6名の患者の症例が 詳しく紹介されています。患者の血液検査結果、生活の質、体重と体組 成がモニタリングされました。

ケトジェニック食による副作用はなく、患者はこの食事法を実践して いるときは気分が良かったと報告しています。早期のステージだった5 名の患者で腫瘍の退縮がみられました。

1名は進行し転移のある肺がんで、3サイクルの化学療法を受けてい た間ケトジェニック食も実践したところ、がんの進行はわずかでした。

残念なことに、ケトジェニック食が終了した後、この患者のがんは急速 に進行してしまいました26

ケトジェニック食で 免疫力が高まる

ドイツのナタリー・ジャンセン博士が発表した別の論文の研究では、

ケトジェニック食で治療を受けた 78 名のがん患者の状態を、開業医に通 院してもらいながらフォローしました。この論文では、「ケトジェニック 食を厳格に守った患者では明らかな改善傾向がみられ、1名では腫瘍の 進行が停滞し、他の患者でも病態が改善した」と報告しています27

動物を使った研究も続いていて、さまざまながんのモデルマウス(訳注:

人間に類似した疾患を呈するように人為的に操作されたマウス)で、ケトジェニッ ク食による好ましい効果が示されています。

モデルマウスを使ったケトジェニック食の抗腫瘍効果に関する、現在 までの研究をまとめたメタアナリシス(訳注:過去に行われた複数の研究のデー タを収集・統合し、統計的方法を用いて解析すること)の結果が 2016 年5月に 発表されました28

著者は、マウスの集団で、ケトジェニック食に腫瘍の成長を遅らせる 効果があることを諦めず、強力な証拠があることを見出しましたが、こ れはディアゴスティーノ博士とサイフリッド博士が行った研究と同じよ うな結果です。

2016 年、バロー神経学研究所のエイドリアン・シェック博士のチーム は、グリオーマ(神経膠腫)というがんのモデルマウスで、治療を目的 としたケトジェニック食が生存期間を延ばしたという過去の研究29をさ らに推し進めています。

マウスの免疫系に対するケトジェニック食の影響を調べる中で、シェッ ク博士らは、ケトジェニック食がマウスの免疫反応を高めることを発見 しましたが、これによってがんを排除する作用がより強くなります30

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ケトジェニック食と 併用できる治療法

現在、ケトジェニック食とがんに関する多くの研究が着目しているの は、ケトジェニック食を主流の治療法と併用した場合の効果です。また、

ケトジェニック食と併用すると相乗効果を発揮して、がん細胞の代謝を 阻害できるようなさまざまなサプリメントや代替療法もあります。

2001 年、ケトン研究のパイオニアであるリチャード・ヴィーチとジョー ジ・ケーヒルは、「合成エステルまたはBOHBのポリマーの経口摂取」

によってケトンを摂取すれば、ケトーシスの効果を生かして臨床に応用 できるとする論文を発表しています。その6年後、南フロリダ大学のド ミニク・ディアゴスティーノ博士は、米国海事研究局(ONR)から、

米国海軍特殊部隊のダイバーが循環式酸素呼吸器を使用中に、酸素中毒 の発作を起こしてしまう問題を研究して欲しいと依頼されました。

関連する代謝経路を調べるうち、ディアゴスティーノ博士はヴィーチ の研究やその他の論文を見つけ、血液中に多くのケトンが含まれると、

脳がよりうまく酸素中毒に対処できるため発作の症状がやわらぐことを 知りました31。これがきっかけで、博士はケトンエステルのサプリメン ト摂取の効果に関する興味深い研究に足を踏み入れたのです。

ケトンエステルとは、体内で自然につくられるケトンと同じ性質をも つ化合物で、経口摂取すると、すぐに一時的なケトーシスの状態をつくっ てくれます。ケトンのサプリメントの利用は幅広く行われています。

例えば、ケトジェニック食を始めた直後の2~3週間では、自然な栄 養性ケトーシスの状態へと代謝が変わっていく過程でいろいろな症状が あらわれますが、ケトジェニック食を始める段階でケトンサプリメント を摂取すると、これらの症状を最小限に抑えることができるのです。

重要なことは、アセトアセトン、β - ヒドロキシ酪酸、アセトン(ラ セミ混合物として処方、訳注:ラセミ混合物とは、構造が鏡像関係にある分子を 等量混合したもの)のケトンエステルで自然なケトーシスを補えば、がん やてんかん、頭部外傷などの神経障害に良い影響を及ぼす可能性がある ことです。

治療効果を上げるためにはこれら3つのタイプのケトンがすべて必要 なため、こういった目的で使うのなら、この条件を満たしたサプリメン トを使うようにしてください。

さらに、ディアゴスティーノ博士は、サプリメント摂取は自然なケトー シスの状態にまだ達していない段階でも効果があるとしています。博士 はポッドキャストで、『「週4時間」だけ働く。』(青志社)の著者として 知られるティモシー・フェリスと対談し、ケトンサプリメントについて さまざまなことを語っています。

ケトンサプリメントに 効果はあるのか?

ケトンサプリメントは、パフォーマンスを高めたいアスリートたちの 間でも知られていて、いろいろな商品がアスリート用として市販されて います。ディアゴスティーノ博士が開発した商品は特許化され32、南フ ロリダ大学は 2014 年に、さまざまな民間企業向けにケトンエステルサ プリメント製品のライセンスを提供しました。

現在では、違ったタイプのさまざまなケトンサプリメントが市販され ていて、その多くがアスリートのパフォーマンスを向上させるためのもの です。「ケトカナ」「ケトフォース」「プルーヴィットOS」などのブラン ドがあり、MCTオイル、ココナツオイルやパウダーもいろいろあります。

これらのケトン製品は、推奨量を守って摂取する限り安全です。私は これらの製品の多くを試してみました。使った結果や消化器系に起こる 問題は一様ではありませんでしたが、どれも短期間で血中のケトンレベ

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