植物防疫 第
73
巻第10
号(2019年)59
抵抗性誘導剤(プラントアクチベーター)は じ め に
抵抗性誘導剤は,プラントアクチベーターとも呼ば れ,植物の病害抵抗性を高めることで防除効果を発揮す る タ イ プ の 農 薬 で あ り,
FRAC
(Fungicide Resistance Action Committee)の作用機構コードでは「グループ P
(宿主植物の抵抗性誘導)」に分類される(農薬工業会,
2019;表―1)。通常の農薬が対象病害虫を標的とするの
に対し,抵抗性誘導剤の防除効果は,植物が本来有して いる自己防御機構の活性化に基づいており,耐性菌の発 生リスクは低いと考えられる。また,非標的病害虫への 作用も低いことを含めて,生態系への影響が低いことか ら,通常の農薬の概念とは異なる防除剤である。このよ うな特徴を有する抵抗性誘導剤の開発研究は,病原菌に 対する宿主植物の防御機構の解析研究と併行して行われ てきたが,国内で抵抗性誘導剤が普及しているのは,イ ネいもち病防除場面にほぼ限定される。本稿では,抵抗 性誘導剤の創製の経緯,処理方法と普及,安全性,薬剤 抵抗性,推定される作用メカニズムについて解説する。I 創 製 の 経 緯
抵抗性誘導剤が実用化されたのは,プロベナゾールが イネいもち病防除剤として
1974
年に登録されたのが最 初である。その当時のイネいもち病防除剤は,抗生物質 や有機リン系の薬剤が主流であり,いもち病菌に抗菌活 性を示さないプロベナゾールの作用メカニズムは不明 で,当然ながら抵抗性誘導剤との言葉は存在しなかった。登録翌年の販売から
45
年ほど経過したプロベナゾール であるが,現在でもイネいもち病防除剤として基幹薬剤 の地位を保っている。この理由として,①イネいもち病 に対して長期間にわたって高い防除効果を示す,②耐性 菌が未発生である,③省力化への対応をはじめ,現場で求められる製剤が適宜開発された,こと等が挙げられる。
表―2に示すように,プロベナゾール〔FRACコード:
P02〕が開発されて約四半世紀を経たころから,新たな
抵抗性誘導剤が国内で開発されるようになり,1998
年 にアシベンゾラルS
―メチル〔P01
〕, 2003
年にチアジニ ル〔P03〕,2010
年にイソチアニル〔P03〕が,いずれも イネいもち病防除剤として登録された。抵抗性誘導型の イネいもち病防除剤の開発が国内で進んだのは,イネい もち病防除剤の市場規模が大きいことに加え,プロベナ ゾールの有効性が広く認知されたためと考えられる。そ の中で,アシベンゾラルS
―メチルは,国内登録より2
年前の1996
年に,ムギうどんこ病防除剤としてヨーロ ッパで登録され,現在でもフランス,イタリア,英国,米国,ブラジル等で,ベと病や各種バクテリア病に登録 されている。また,国内でも
2018
年までにキャベツや ハクサイの黒斑細菌病で登録を取得する一方で,イネい もち防除剤としての登録は,2006
年にすべての含有製 剤が失効している。このため,現時点での抵抗性誘導剤 型のイネいもち病防除剤は,プロベナゾール,チアジニ ル,イソチアニルの3
剤である。いもち病防除の主たる 防除法である育苗箱への薬剤処理では,播種時〜移植当 日の期間中に薬剤を処理することで,本田移植後からい もち病の発生しやすい梅雨明けの期間まで薬効を持続さ せる必要があり,必然的に薬剤選択圧が長期化する。こ のため育苗箱処理剤として開発されたMBI
―D
剤(シタ ロン脱水酵素阻害型のメラニン生合成阻害剤)やQoI
剤(ストロビルリン系薬剤)では,その普及に伴って耐 性菌が発生した。一方,抵抗性誘導剤では耐性菌の発生 が認められていないため,現在の育苗箱処理における抵 抗性誘導剤の使用は7
割を超えている(梅村,2016)。欧米では,
P01
〜03
の化学合成系抵抗性誘導剤で登録 されているのはアシベンゾラルS
―メチルのみであるが,化学農薬の各種規制強化に伴って天然物を利用する流れ を受けて,
10
年程前から抵抗性誘導剤でも天然系の薬剤 が開発されるようになった。2009年にラミナリン〔P04〕 , 2013
年にオオイタドリ抽出物〔P05〕,2014
年に酵母LAS11
株細胞壁〔P06〕,2017
年にバチルス・マイコイReview of Plant Activators
(FRAC Group P : Host Plant Defense
Induction
).
By Kenji U
MEMURA(キーワード:抵抗性誘導剤,プラントアクチベーター,宿主植 物の抵抗性誘導,プロベナゾール,アシベンゾラル
S
―メチル,チ アジニル,イソチアニル,全身獲得抵抗性(SAR
),サリチル酸
(
SA
),エリシター,プライミング効果)
抵抗性誘導剤(プラントアクチベーター)
梅 村 賢 司
Meiji Seika
ファルマ株式会社農薬編―