カウンセリング面接へのセルフモニタリング法適用 事例の検討
著者 小野田 恵
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 40
ページ 219‑224
発行年 2000
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009057/
カウンセリング面接へのセルフモニタリング法適用事例の検討
小野田 恵
(平成11年9月30日受理)
AStudy Concerning the Adoption of the Self−monitoring Method
in Counseling Interviews
Megumi ONODA
(Received on September 30,1999)
1.はじめに一問題と目的一
これまで,不登校の中学生に感情表出トレーニング
(Training for Emotional Expression)を適用し,
その効果を検討してきた。これは,犬塚が考案し稲垣 が改良を加えた不登校生徒への臨床指導に用いた手法 であるD.このトレーニングは,子どもたちがいまここ での(現在における)過去と未来に対して抱いている感 情を(肯定的なもの否定的なものいずれの感情をも含 めて)生き生きと表出できるようになることをねらいと している.このなかから, いまここで の感情を生き 生きと表出するだけにとどまらず,さらに自己省察を促
し,自己の気づきを促進する方途を検討する課題が浮上
した.
それは,クライエントが自己の感情に気づき,その思 考,行動を客観的な現実として受けとめられるよう援助 することの重要性への志向である.
そこで,カウンセリング過程でクライエントに自発的 に生じる気づきを引き起こす手助けに注目し,セルフモ ニタリング法(自己監視法)を適用し,この課題への対 応を試みようとする.坂野は,「セルフモニタリングは 患者自身が自己の行動や態度,感情,思考などを観察し たり記録することにより,客観的な気づきをもたらし,
評価可能なものとする手続きである」としている2).本 論文では,セルフモニタリング法の自己記録の一っであ る「非機能的思考記録票」を参考に,感情表出トレーニ ングの感情表出分類表を改訂して,新たな分類表を作成 しカウンセリング面接を実施した.
さらに,クライエントが「なんとなく」と表現する漠
とした感じや気分に関してはフォーカシング的な援助を 導入し,その有効性も検討する.
心理教育学科 心理教育学科資料室
2.対象と方法 1)対象
T大学2年生(女子).カウンセリング関係の授業 を履修し,クライエント体験を希望していた.
2)期間
本学カウンセリング実習室で1ggx年6月9日から 同年7月14日まで,週1回約50分計6回実施した.
3)手続き
っぎの順序で実施した. ・
①入室後,自分(クライエント)の望む位置に座る.
②目を閉じ,ゆっくりと呼吸を整え,体の感じを味
わう.
③事前の1週間のなかで,気がかりなことを3っ思 い浮かべる.
④3っのうちでもっとも気がかりなことを1っピッ クアップする.
⑤目を開け,それを付箋紙に書く.
⑥⑤から生じる感情・気分を思いつくまま付箋紙に 記入し,分類表(表1)に貼る.
⑦⑤から生じる考え・思いを思いっくまま付箋紙に 記入し,分類表(表1)に貼る.
⑧分類表をもとに約30分のカウンセリング面接を 実施する.
⑨ 面接終了後,⑥および⑦に対する今の感情・気分 および今の考え・思いを思いっくまま付箋紙に書き,
分類表(表2)に貼る.
⑩気がかりなことに対する感情・気分および考え・
思いが,カウンセリング後に変化したか否かに関し
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小野田 恵
表1 分類表(セッション前)
感
情
気
に
な
ること
考
λ・
●
心田
い
表2 分類表(セッション後)
今
の
癌 情 感
情 の 変 化
今
の
考
え
考 え の 変 化
1〜10の自己評定をおこない,分類表(表2)に記 回実施した.
入する.
3.事例の経過と結果 なお,クライエントの自己変容を客観的に捉えるため,
東大式エゴグラムを第1回面接前と第5回面接後の計2 今回の事例は,全6回のセッションである.以下に各
セッションの逐語記録・概要と分類表の結果(表3〜表 8)を示しておく.
第1回では,手続きが試行錯誤の段階であり,本論文 の手続きには至っておらず,気がかりなことを思いっい ただけ書き出すことを提示した.クライェントは,3っ のでき事と感情・考えを表明した.3年ぶりに水泳をし たというでき事から始まり,一緒に行った友人への思い,
友人と接することによるとまどいが語られた.っぎに,
野球観戦に行き,今までイライラしていたけれども,何 かすっきりとし,精神的に安定した,と話す.また,家 族全員で兄の大学の学園祭に行き,家族の会話やそこで のでき事を生き生きと話す.
第2回から,本論文で示したとおりの手続きで実施し た.兄が大学の代表として外国へ行くことになり,うら 表3 第1回分類表
・3年ぶりに水泳をした Sドームに観戦に行っ
た
・家族で久しぶりに外出 した
・以前のように泳げるか ど・うか考えた
・今日の試合はLが勝っ たらいいな
・みんなが集まるからど んな日になるのかな
・気持ちが良かった
・どきどきした
・うれしかった
・友還と2人になって どうなるか不安があ
った
・聞きたい話が聞け なくて残念だった
表4 第2回分類表
な気 兄がH に行 く 気感
.うらやましい
こが こと 分情
●すごいな
とか 思考
●私も行きたい
り
いえ
気感い それほどうらやましいと 変感 分情ま いう気持ちがなく なった 化情
8・ の の
思考い 無事に役割を果たしてき 変考
いえま てほしい 化え
5・の
の表5 第3回分類表
気
同級生に会っ
感・聞いてはいけないこと
が
たこと
情を聞いてしまったとい
か ・
う後悔
り
気
甲
,
Eどう接してよいかわか
な
分
らない不安、 とまどい
こ 考 ︐
友達につ いて考えた
と え
(どういう人を友達とい
・
うのか)
思
・中学校の同般生に会い
い
たいと思った (成人式 で会えなかった人》
幽 1
気感い 会ってよかった 変感
分情ま 化情
6︐ の の
思考い 友達についていろい 変考
いえま う と考える
ことがで 化え 4
・ の
きた
の表6 第4回分類表
な気
町中で声をか 気感
oどきっとする
こが けられること 分情
●嫌な感じ
とか
●ぞっとする
り
思考
■友達と いても私だ
いえ けに声をかけてく るのはなぜか 気感い やっぱり嫌だ 変感
分情ま 化情
1・の
の思考い 声をかけてく る人にと 変考 いえま
っ て.自分が目的にあ 化え 4
・の った人なのか
のやましさや すごいなあ という感情を表出する.幼少 からの兄との関係を語りだし,尊敬する兄,受け入れら れない兄にっいて,自分と比較しながら兄への感情を表 出した.
第3回では,旅行で同級生に偶然会い,就職したのか どうかを聞いてしまったが, 聞いてはいけなかったの かもしれない という後悔の気持ちを表出する.また,
不安やとまどいの感じを表出し,その感じをセッション
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小野田恵
表7 第5回分類表
気 お ば あ さ ん
気感
o不思議だなあ
が に 駅 が ど こ
分情
●閲わり をもちたくな
か か
たずね ら
いり
れたこと
.嫌な感じ
な
思考
o何か事件にまき込ま
こ
いえ れたらどうしよう
と
o
変な行動をする人だ 気感い ・ふにおちない 変感
分情ま ・疑問が残っている 化情
6・の ような感じ
の思考い ・何のために駅をた 変考
いえま ずねたのか 化え
7。の ・病気を もっ ている
の人なのかな
表8 第6回分類表
な気 夏休みのこ 気感 ・不安 こが
と分情 ・わくわくする とか
り
思考 ・ 自分の計画通 り に過
いえ こせるか
・いろいろなことをし
たい 気感い 不安より も期待が大き 変感
分情ま くなった 化情 8
・の
の思考い 充実した夏休みを過ご 変考
いえま せるように行動しよう 化え
9。 の の
のなかで自分にぴったりするかどうか,味わうよう促し た.やがて,ぽかんと穴があいたような感じが現れ,そ の穴がざるのような編み目状態になり,ちょっと隙間が できた感じと表明した.そして,自分にとっての本当の 友達とはいったい何なのだろうかという思いが生じ,自 分を取り巻く友人にっいて語る.セッション後にクライ エントは, 伺級生と会って,後悔や不安,とまどいが あったけれども,友達についていろいろ考えられて,会っ てよかったなと思います. と感想を述べている.
第4回では,町なかで見知らぬ人によく声をかけられ ることへの嫌な感じや,どきっとする感じを表明する.
そして,なぜ自分が声をかけられるのかにっいて考える.
主観的に嫌だ,という感情から, なぜ自分に声をかけ てくるのか を相手の立場から客観的に考えようと試み る.自分は話を聴いてくれそうに見えるのか,話しかけ やすいのか,など考えるが,やはり,嫌な感じやぞっと する感じは消えない,と言う.
第5回では,駅への道をたずねられたおばあさんのこ とが気にかかる,と話す.そのときの状況を説明するな かで,おばあさんへの嫌悪感が表明される.容貌が嫌な 印象であり,行動もどこか不可解であり,クライエント は不思議さと共に不気味さを感じた.・外見で判断してし まうことへの抵抗はあるのだが,そのときの自分が体験 した感じを終始表明するセッションであった.
第6回では,近づく夏休みへの感情や思いが語られた.
わくわくする一方,自分の計画している通りの充実した 夏休みになるかどうかの不安を表明する.今,興味をもっ ていること,やってみたいことを話すセッションであっ た.セッション終了後,今まで抱いていた不安よりも 期待が大きくなり,充実した夏休みになるように行動し ていきたい,と生き生きと表明し終了した.
他方,エゴグラムの変化を明示すると,図1のように なる.FCがやや高くなり,また, ACの上昇もみられ
る.
(得点)
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
CP NP A FC AC
図1 エゴグラム・パターンの変容
4.考察
6回にわたるセルフモニタリング法適用のカウンセリ ング・セッションにっいて,検討と考察を加え,さらに,
その効果性と問題点にっいて考察したい.
第1回では,気にかかる状況を3っあげ,セッション を実施したが,その3っすべてに関わろうとするクライ エントは,自由でありながら,実は不自由であったと思 われる.カウンセリングのセッションのなかでクライエ ントは自由に流れるまま過ごすことができたが,はじめ に3っの気がかりなことをカウンセラーに提示すること によって,そのすべてを話さなければならないという不 自由な状況を自らっくり出してしまっていた,と考えら れる.セッションでは,クライエントはカタルシスを得 るだけにとどまらず,自己に向かい,深く関わることを 目標としている.したがって,1つのテーマにしぼり,
そこからクライエント自身が広げ,深めていくことがで きるよう,自由な場を提供する必要がある,と考えられ る.そこで,第2回からは,気がかりなことを1っだけ ピックアップし,それを付箋紙に記入し,分類表を完成 させていくよう提示した.
第2回では,セッション後の感情の変化が8と,高い 評価となっている.このセッションのはじめ,クライエ ントはHへ行く兄がうらやましく,そして 代表として 行くなんてすごいな という思いでいっぱいであった.
しかし,幼少の頃の自分と兄の違いを話し,また,ライ バルとして意識していた兄から,高校生のとき,進む道 も徐々に異なり,何か別の新たな存在となった兄を見っ め,兄との距離をとることができるようになったセッショ
ンであった,と考えられる.兄とは異なる自分がいまこ こにいる,と捉えることにより,うらやましさは減少し,
客観的に兄の存在を意識できたので,感情の変化も大き くなった,と思われる.
第3回では,クライエントは約束の時間よりも15分 早く来室していた.同級生に対し聞いてはいけないこと を聞いてしまった後悔や戸惑いの感情が表明され,そこ から本当の友達とはいったい何なのかという考えをこの セッションのなかで話した.同級生に会ったというでき 事から,クライエントは, 自分にとっての友達とは何 なのか という現在の問題へと焦点化していく.知り合 いというだけではない深く親密な友達が少ないように感 じているが,唯一深い友達である中学校時代の友達に会
いたいという思いが語られた.このセッションでは感情 の変化も考えの変化も,それほど高い評価ではないが,
セッション後分類表に「会ってよかった」に変化してい ることは注目すべき変化と捉えられるであろう.セッショ ン前に,まだ絡まっていた後悔や戸惑いをセッションの なかで表明し,より深く自己へ向かった後で,改めて分 類表を前にし,クライエントはいまの自分とセッション 前の自分の変化を視覚から,そして,実感として感じと り,さらなる客観的気づきを得ている,と考えられる.
第4回では,感情の変化は非常に低い.町中で声をか けられることへの嫌な感じやどきっとする感じを表明し た.なぜ自分だけに声をかけてくるのかということにっ いて,やや客観的視点が生じ,声をかけてくる人の側に なって自分を見っめている.セッション後に,考え・思 いはやや客観的な面が見られるが,感情はセッション前 よりもさらに強まり激しくなっている.しかし,クライ エントはセッションを通じてその感情との距離をとるこ とができるようになった,と考えられる. やっぱり嫌 だ けれども,声をかけられる自分を第3者の目から見 ることができるようになったことは,そこに自己変容の 一面が見られたと考えられる.
第5回では,駅への道をたずねられたおばあさんへの 感情や考えが表明された.クライエントは,おばあさん の妙な感じの外見や嫌な感じを表明し,嫌悪感を見せて いたが,セッションのなかで少しずっおばあさんは 何 のために駅をたずねたのか なぜ聞いたにもかかわら ず駅へ向かわなかったのか 痴呆などの病気を持った 人なのか というようにおばあさんへの関心や疑問を高 めている.そして,外見で判断しようとしている自分へ の罪悪的感情を表明し,このセッションでも自己を見っ め,自己変容が促進されている.クライエント自身によ る変容の評価も数値が高くなったセッションであった.
第6回では,近づく夏休みへの不安と期待が表明され た.セッション後には,不安は減少し期待が大きくなっ ている.セッションを通じ,やってみたいことがたくさ んあり,果たしてできるのだろうかという不安も含めて 充実する夏休みとなるよう行動していこうと積極的な面 が強くなったセッションである.本人の評価も感情の変 化は8,考えの変化は9と高い.このセッションでは,
不安と期待という相反する感情が同時に生じ,そこにあ る考えや思いに触れる過程でクライエントは,自分の向 かおうとしている方向を模索し,積極的な自己変容を求
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小野田 恵
め強化していった,と考えられる.不安を感じながらも 自分の計画している夏休みを過ごし,充実させようとい う積極的自己変容の強化がみられた,と言えよう.
全体を通じ,カウンセリング面接へのセルフモニタリ ング適用の効果にっいて要約するならば,第1に,クラ イエントの自発的な気づきを促進し,その変化をクライ エント自身が客観的に捉えることにより,情緒的な落ち 着きが生じる点があげられる.何か気がかりなことが生 じたとき,問題だけに目が向き,巻き込まれている状況 を客観的にクライエント自身が観察することにより,新 たな気づきが生じやすくなり,さらに情緒的な安定がえ
られる,と言える.
第2に,気がかりなことから距離をとり,感情・考え の変化をクライエント自身が評価することにより,自己 変容の強化と自己治癒力が高められる,ということがあ げられる.気がかりなことに圧倒され,強い感情が生じ ているとき,クライエントは自分自身を見失い,直面し ている問題に埋没してしまう.気がかりなことから生じ る感情・考えを書き出し掘り下げることによって,自己 内対話をより深めていく,と考えられる.セッションの なかで,クライエントは,改めて自己の感情・考えに触 れ,しっくりと自分にあった感じなのかを照合すること により,新たな気づきを体験していく.セッション後に,
再びいまの感情・考えを書き出し,セッション前と比較 して,その変化をクライエント自身が評価することによ り,自己変容の強化がなされ,さらに自己治癒力も高め られていく,と考えられる.
第3として,セッションの中にフォーカシング的援助 をとり入れることにより,言葉にならず書き出すことも できない漠然と感じられる実感・気分を見っめ,自己の より深い内面に向かうことができる,と考えられる.
はっきりとしない感覚を大切にし,その感覚のそばに居 続けることにより,新たな体験的一歩は生まれていく.
クライエント自身が体験し模索する過程に援助的に接す ることは,それ自体まさにクライエント中心的であり,
心理療法の基本的態度の重要なひとっと捉えることがで
きよう.
ここでは,客観的指標を得るためにエゴグラムを実施 しているが,この事例ではACが上昇しており,相手の 立場に立っ客観的視点が広まった,とみることができる.
今後の課題として,客観的指標を再検討すること,ま た,体験過程の変化についてプロセス・スケールを適用
して検討することなどが必要であるように思われる.
また,セルフモニタリング法の適用の幅を広げて実施 し,その効果性にっいて比較検討することも今後の課題
となる.
引用文献
1)犬塚文雄 1989「教育相談事例の研究一感情表 出トレーニング適用事例の検討」 浜松医科大学紀 要一般教育第3号,pp..47−58.
2)坂野雄二 1995認知行動療法 日本評論社,p。21.
参考文献
1)村山正治編 1995現代のエスプリ382 「フォー カシング」至文堂
2)小野田恵 1998「カウンセリング的援助を中心と する感情表出トレーニングの適用に関する実践的研 究」 日本カウンセリング学会第31回大会発表論文
集