物への感情移入に影響を及ぼす要因の検討 Factors affecting empathy to non-living objects
1W153100-2 手塚 萌結 指導教員 渡邊 克巳 教授
TETSUKA Moyu Prof. WATANABE Katsumi
概要: 人は,人間以外の「物」にも共感を示し感情移入することがある(物への感情移入)。本研究では,共 感性,アニミズム,Highly Sensitive Person(HSP)の3点が「物への感情移入」に影響を与えるという仮説を たてた。この仮説を検討するために,本研究では「物への感情移入」と共感性・アニミズム・HSPの尺度得点 の高低との関係についてオンライン調査を行った。調査では,非生物物体の6枚の写真について「どのくらい かわいそうに感じるか」を評定させ,さらに共感性,アニミズム,HSPの尺度への回答を求めた。調査の結果,
共感性の下位因子である「他者指向的反応」とアニミズムの下位因子である「所有物の擬人化」の2因子が特 に「物への感情移入」へ影響を与えていることが明らかになった。これらの結果は,「物への感情移入」には,
物を人とみなし,その擬人化物体の心的状態に対して共感するプロセスが関与することを示唆する。
キーワード:共感性,アニミズム,highly sensitive person, 個人差 Keywords: empathy, animism, highly sensitive person, individual differences
1. はじめに
乱暴に扱われた人形を見たとき子どもが「人形が 痛がっている」と考えるなど,日常の中で物に対す る共感はたびたび観察される。本研究ではこのよう な現象を「物への感情移入」と呼び,どのようにし て成立しているのかを検討する。
「物への感情移入」に関連する概念として,共感 性,アニミズム,Highly Sensitive Person(以下HSP) が考えられる。共感対象が「人」に限らず「物」に も起こるとすれば,物への共感ともいえる「物への 感情移入」と共感性の高さは関係しているかもしれ ない。また,物へ感情移入が起こる際,物にも人間 と同様の心的機構を有していると見なしている可能 性がある。アニミズムとは,まさに無生物にも心や 魂が宿ると考える傾向であり,このような内的特性 が高いと物へ感情移入しやすいかもしれない。加え て,HSPの特徴の1つに「全体的に感情の反応が強 く,特に共感力が高い」がある[1]。つまり,HSP の 程度が高いと共感性も高くなるため,「物への感情移 入」が起こりやすくなることが推測される。
本研究では,「物への感情移入」と先述の共感性,
アニミズム,HSP の関係性を探索的に検討した。こ れらの特性と「物への感情移入」が関連するならば,
各尺度得点と「物への感情移入」の程度の間に有意 な相関が見られるだろう。
2. 実験方法
Yahooクラウドソーシングを通して集められた16歳
から72歳の男女382名(男性234名,女性148名,
平均年齢 ± SD = 43.5 ± 10.0)が調査に参加した。
刺激には6枚の写真(壊れた傘,壊れたゲーム機,
棒が刺さったぬいぐるみ,捨てられた自転車,折れ た観葉植物,落ちているハンカチ)と,日本語版 Highly Sensitive Person Scale(HSPS-J),成人用アニミ ズム尺度,短縮版多次元共感性尺度(短縮版 MES) を使用した。
調査にはGoogleフォームを使用し,参加者は,最
初に各画像刺激について「どのくらいかわいそうに 感じるか」を 7件法で回答した。写真の評価後に参 加者は,HSPS-J(7件法), 成人用アニミズム尺度(5 件法),短縮版MES(5件法)の順に回答した。
写真の評価について参加者ごとに全ての値を合計
して「物への感情移入」指標として使用した。また,
HSPS-J,成人用アニミズム尺度,短縮版MESについ
ては,各因子の尺度得点を算出して分析に使用した。
3. 結果と考察
「物への感情移入」指標と各因子の尺度得点間の 相関を調べるために,ピアソンの相関分析を行った。
その結果,他者指向的反応,所有物の擬人化,美的 感受性,易興奮性,被影響性,所有者の分身化,自 己指向的反応の 7 つの因子が「物への感情移入」と 有意な正の相関が見られた。
さらに,「物への感情移入」へ特に影響を与えるも のを絞り込むために,これら7因子を独立変数,「物 への感情移入」指標を従属変数とした最尤推定によ る階層的重回帰分析を行った(図1)。その結果,他 者指向的反応(β = .293, p < .001)と所有物の擬人化
(β = .128, p = .013)の2因子が「物への感情移入」
指標を有意に正の方向に予測した。「所有物の擬人化」
とは,物も人間のように感情を抱くとする傾向[2]であ り,「他者指向的反応」は,他者に焦点づけられた情 緒反応の傾向を表している[3]。よって,物へ感情移入 する際には「物を人間と同様に感情を抱くとみなす」
プロセスと「物が抱いたと推測される感情と対応し た感情が喚起される」プロセスが重要であることが 示唆される。
ここで,この 2 因子が「物への感情移入」へどの ように影響を与えているか調べるために 2 種類の概 念的モデルを想定し媒介分析を行った。「他者指向的 反応」が「所有物の擬人化」を媒介して「物への感 情移入」に影響を与えるモデル(モデル1:図2)と,
「所有物の擬人化」が「他者指向的反応」を媒介し て「物への感情移入」に影響を与えるモデル(モデ ル2:図3)を想定した。分析の結果,2因子はどち
らも,「物への感情移入」に直接影響を与えながらも,
もう一方を媒介する部分媒介モデルであることが判 明した。ゆえに,「他者指向的反応」と「所有物の擬 人化」は相互に影響を与えながら,「物への感情移入」
へ関与することが示唆される。
4. まとめ
本研究の結果から,共感性の下位因子である「他 者指向的反応」とアニミズムの下位因子である「所 有物の擬人化」の 2因子が特に「物への感情移入」
へ影響を与えていることが明らかになった。今後,
「物への感情移入」を成立させる要因をより明らか にするため,「物への感情移入」と関連がありそうな 他の概念を挙げ,それらとの関連を調査していくこ とが必要である。
参考文献
[1] Aron, E. N. (2002). The highly sensitive child:
Helping our children thrive when the world overwhelms them. NewYork: Harmony. (明橋大二 (訳) (2015). ひと いちばい敏感な子 1万年堂出版)
[2] 池内 裕美 (2010). 成人のアニミズム的思考−−自 発的喪失としてのモノ供養の心理−− 社会心理学研 究, 25(3), 167-177.
[3] 鈴木 有美・木野 和代 (2008). 多次元共感性尺度 (MES) の作成 教育心理学研究, 56(4), 487-497.