音響ストリーミングによる免疫反応促進効果を利用 した弾性表面波バイオセンサの研究
著者 小貝 崇
発行年 2017‑12
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00025236
(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専 攻: 光・ナノ物質機能 氏 名: 小貝 崇
論文題目:
音響ストリーミングによる免疫反応促進効果を利用した弾性表面波バイオセンサの研究
論文要旨:
本論文は、Xカット148-Y LiTaO3基板上のレイリー弾性表面波(R-SAW)励振による音 響ストリーミングを利用した横波型弾性表面波(SH-SAW)免疫センサについて述べる。
取り扱った免疫反応は抗原抗体反応であり、液滴への攪拌・加熱の現象を有するR-SAW励 振による音響ストリーミングを用いて、抗原と抗体の化学反応への熱力学的な促進効果を 検証した。用いた基板上はひとつの IDT(Interdigital Transducer)で異なる周波数の SH-SAWとR-SAWを効果的に励振させることができる。作製した遅延線は、100MHzの SH-SAWと88.8MHzのR-SAWの2つのSAWを励振することができ、送信IDTと受信 IDT の間にヒト血清アルブミン(HSA)抗原で覆われた伝搬領域を構成した。遅延線の表 面上の抗原と抗体の結合事象に起因する免疫反応を、R-SAW励振の有無について、SH-SAW の速度変化に基づいて検出した。その結果、R-SAW の攪拌により、抗原抗体反応による
SH-SAW速度変化が顕著に増加することが確認された。この撹拌と加熱の2つの現象は、
熱力学的な分子間の衝突確率を共に向上させる効果が期待されるため、免疫反応の促進効 果についてその現象を個別に評価した。結果、R-SAW励振に伴う加熱は室温近傍に留まり、
その加熱による促進効果は僅かとわかった。よって、免疫反応は音響ストリーミングの攪 拌に伴い促進することが確認された。
第 1 章では、在宅診療など医療への社会的な要求を背景とする POCT(point of care testing)の需要に関して、普及したPOCTデバイスからその要求を明らかにした。さらに、
POCT を構成するバイオセンサの対象を捕集するリガントとトランスデューサについて、
免疫反応を利用した構成と弾性表面波センサの構成をそれぞれ取り上げ、要求に対する課 題を明らかにした。さらに、弾性表面波の応用として報告のある音響ストリーミングにつ いて取り上げ、課題解決の効果を動機づけし、本研究の目的と課題を明らかにした。
第 2 章では、取り扱った圧電基板の伝搬方位を数多く変更したため、弾性表面波の設計 パラメータとして、圧電材料の方位決定、圧電材料の異方性に関連するパワーフロー角、
フィルタの通過帯域を決定する電極構造について説明した。次に、R-SAW と SH-SAW を
組み合わせたセンサデバイスの設計を目指し、取り扱った数値解析理論について実効誘電 率を基礎とする数値解析法を説明した。そして、用いた圧電材料での数値解析を行い、そ の電極設計条件を明らかにした。さらに、解析結果をもとにデバイスを作製・評価し、理 論解析との整合性について検証した。
第3章では、2章で得られた電極設計条件によってセンサデバイスの設計・作製した。作 製したデバイスのフィルタ特性、グリセリン溶液による粘性応答を評価しセンサデバイス としての性能を明らかにした。次に、R-SAW励振に伴う音響ストリーミングの撹拌と加熱 の現象について、R-SAWへの信号入力条件を決定した。次に、バイオ表面を構成し、R-SAW 励振による音響ストリーミング中での抗原抗体反応を評価した。
第4章では、3章での加熱現象に着目し、環境温度による免疫反応の促進効果を個別に評 価した。その際に、2 章で試作したデバイスに比べて感度の優れる水晶基板上の SH-SAW を用いて、検出対象の濃度依存性、温度による促進効果を詳細に評価した。さらに、得ら れた評価結果を、反応曲線によりフィッティングする解析を提案し、免疫反応の促進効果 を数値的に考察した。
第5章では、4章で得られた室温近傍での温度による免疫反応の促進効果が僅かであった ことから、デバイスの温度特性による変動を評価した。そこで、数値解析によりデバイス の温度特性を算出し、実デバイスでのサンプル抗体を含まない溶液での実験結果と比較し た。さらに、異方性媒質を伝搬する弾性表面波はオイラー角によって温度特性が異なるこ とから、148 度に加え 152 度のデバイスを作製した。デバイスの比較より温度特性による 変動の補正を検討し、R-SAW励振による音響ストリーミングの撹拌による抗原抗体反応の 促進効果を明確にした。
第 6 章では、本研究で得らえた結果を総括し、今後に向けた課題と将来展望について明 らかとした。