建築材料の調湿性能の評価
古賀賢一*1
The evaluation of humidity-control performance of the building materials.
Ken’ichi Koga
近年,カビ・ダニによるアレルギーや,慢性的な多湿化による住宅の短命化等が問題となっている。建築材料メ ーカーは,調湿性能のある材料を開発・生産することでこれらの問題に対処しようとしている。しかし,その性能 の評価はそれぞれが独自に行っているものであり,互いの優劣を判断することはできないため,材料開発の鈍化や 市場形成の妨げになっている。本研究では材料の調湿性能について検討し,より適切で定量的な材料評価ができる ようにすることを目標とした。
1 はじめに
最近の住宅設計は省エネルギー政策の為の高断熱高 気密化が顕著になっている。これにより年中通して快 適な気温を保つことは容易になったが,日本家屋で重 視されていた換気の良さを犠牲にすることになり,カ ビ・ダニの発生によるアレルギー疾患を生み出すこと になった。また屋根裏や外壁-内壁間で慢性的な多湿と なり,材料が劣化し住宅寿命を縮めるという弊害もあ る。
このような問題が顕在化してきたため,建築材料メ ーカーは,調湿性能のある材料の開発・生産を進めて いる。材料による調湿は,古くから紙と木と土の家に 住んできた日本人には受け入れやすい概念であり,実 際効果があることも経験的に理解されている。
従来の調湿性能の測定では,湿度を変化させたとき の試料の重量変化を測定する方法(吸放湿量測定)1)
と,実際に評価する試料を用いて建物を造り,室内の 湿度の変化を実測する方法(モデルハウス試験)2)が 代表的である。しかしながら,吸放湿量測定は相対湿 度で 75⇔35・90⇔50(%)等の大きな湿度変化の雰囲 気で,試料の重量を恒量にして測定するといった非常 に極端な測定である。これは実際の調湿されるべき環 境とは大きく異なり,また試料による湿度の変化を測 定しているわけではないので参考値にしかならない。
モデルハウス試験は大規模かつ長期の測定が必要であ り,材料開発の為の試験には不向きである。
2 研究,実験方法
材料の評価にB値法を用いたものがいくつか報告さ れている3,4)が,この方法は実際に材料が湿度を調整し ている現象を測定しており,より実際の状況を反映し ているといえる。本研究においてもB値法を測定の手段 として用いた。その手順は以下の通りである。
① 吸放湿が殆ど無い密閉容器(今回はガラス製デシケ ーター 内容積 2.85ℓ を用いた)の内部と試料を,
20℃ 相対湿度 55%の条件で一昼夜安定させた。
② 試料と温湿度計を入れ密閉したもの(図−1)を恒 温水槽に浸漬し,温度を 30→10℃に 5℃刻みで変化 させ,容器内部の温度と湿度の平衡値を測定した。
図−1 B 値法の測定
③ 得られた相対湿度(%)の対数値 Log R.H.(%)を温度 T(℃)でプロットし,次の(1)式で相関した。(図−
2)
Log R.H.(%) = B・T(℃)+C (1)
*1 生物食品研究所
1.40 2.00
5 15 25 35
1.60 1.80
図−2 B 値法の測定例
傾きは容器のみでは-0.023 であったが,試料が吸放 湿して容器内部を調湿することにより,より絶対値の 小さな値となり,この傾きの値を B 値としている。
なお基準とした 20℃ 55%については一般的に快適な 温湿度であると考えられる値にした。また基準点が多 少異なる場合でも,得られるB値には大きく影響しない ことが解っている。4)
得られた B 値の絶対値 Abs B により調湿性能を定量 的に評価することができるが,同じ試料を用いた場合 でもその量に応じて B 値も変化するはずであり,異な る試料を比較するには条件を揃えなくてはならない。
この問題を検討するため,試料の量を変化させて B 値を測定した。
3 結果と考察
図−3 はB 値法において,試料の量を変えて測定した 結果である。B 値は体積・重量といった物質量に対応 して変化することが解った。なおシリコンコーキング 剤で試料を被覆し,その表面積を変化させても B 値は 変化せず,図−3では同一の点にしか見えない。
0 0.01 0.02 0.03
0 0.01 0.02 0.03 0
0.01 0.02 0.03
0 0.01 0.02 0.03 試料と容器の体積比
調湿性能高い 調湿性能低い
Ab s B
図−3 B 値と試料−容器の体積比の関係
図−3 でも調湿性能が高い○と低い△を比べること はできるが,その違いの程度を定量的に評価すること はできない。
容器のみ B=-0.023 R.H.=30〜80%
Log R.H. (%)
図−3の傾向より Abs B と試料と容器の体積比 v/V の 関係が指数関数で相関できると予想し,Abs B を対数 軸でプロットした。(図−4) その結果プロットに直線 性が見られ,(2)式の適用が可能であることがわかっ た。
試料あり B=-0.0030 R.H.=50〜60%
0.001 0.01 0.1
0 0.01 0.02 0.03 0.001
0.01 0.1
0 0.01 0.02 0.03 試料と容器の体積比
調湿性能高い 傾きB’v=320
T(℃)
調湿性能低い 傾きB’v=82
Ab s B
図−4 B 値(対数軸)と試料−容器の体積比の関係 Abs B = 0.023・exp (-Bʼv×(v/V)) (2)
なお(2)式のB
’
vは図−4 の直線相関の傾きに対応する 値である。また図−4のx軸を試料の重量と容器の体積 の比w/V(Kg/m3)とした場合にも,同様の取り扱いがで き,その傾きはB’
wとした。この B’v・B’w は B 値の試料の量に対する感度を表す ものであり,この値が大きいほど調湿性能が高いとい え,材料の性能を定量的に評価できる。(B’v・B’w 値法 と呼ぶことにする)
B’v・B’w 値法により,代表的な内装用建材ボードを評 価した結果は表−1のようになった。
表−1 各材料の Bʼv・Bʼw 値
Bʼv Bʼw
石膏系 82 0.11
ケイ酸カルシウム系 1 320 0.31 ケイ酸カルシウム系 2 290 0.32
セメント系 470 0.37
調湿性能に乏しいといわれている石膏系ボードが,
その他のボードに比べ極端に低い B’v・B’w となってお り,この手法が調湿性能の評価に有効であることを示 している。
また,B
’
w は B’
v に試料の比重を掛けた値になってい るので,その順列は B’v の場合とは一致するとは限ら ない。材料の用途によって B’v・B’w の使い分けをすること で,より適切な評価が可能となる。
4 まとめ
調湿性能について定量的な測定方法を見出し,より 一般性の高い性能指数の評価方法も定めることができ た。この評価方法が普及すれば,建築材料メーカーの 研究開発に役立ち,住環境配慮型の製品の市場形成を 促すことができると期待している。
今後,この手法を用いて材料の構造・組成と調湿性 能の関係について研究を進める予定である。
5 参考文献
1) 建材試験センター規格(JSTM):H6302 2) 開発工学:Vol.17, No.1 1998
3) 木質環境の科学:p341-346 海静社 1987
4) Journal of the Ceramic Society of Japan:108 [2]
202-205 (2000)