図
像
学
の
効
用
栂
尾
祥
瑞
宗 教 図 像 学 の 志 向 す る と こ ろ は、 そ の 図 像 の 意 味 す る と こ ろ を 正 当 に 理 解 す る こ と に よ っ て、 そ の 背 後 に あ る 宗 教 に、 よ り 深 く 関 与 す る こ と で あ る。 関 与 の 度 合、 方 法 は、 宗 教 の タ イ プ に よ っ て 異 な る。 密 教 図 像 学 の 場 合 は、 法 身 の 遊 戯 神 変 の 標 幟 で あ り、 そ の 意 味 を 解 明 す る と い う こ と は、 標 幟 ( 三 昧 耶、 印) の 信 解 に ほ か な ら ず、 そ れ に よ っ て 法 身 の 里 に 参 入 せ ん と す る の で あ る。 換 言 す る と、 図 像 は 宗 教 シ ン ボ ル で あ っ て、 そ れ を 通 じ て 人 間 は 法 身 を 求 め、 法 身 は 図 像 即 ち 宗 教 シ ン ボ ル を 仮 り て、 人 間 に 説 法 す る こ と が 出 来 る。 こ れ が 密 教 図 像 学 の 志 向 す る 本 義 で あ り、 あ る べ き 姿 で あ る。 し か し な が ら、 現 状 は 著 し く 異 な っ て い る。 ﹁ 宗 教 学 ( S c ience of Religion) の 父 ﹂ と 呼 ば れ る マ ッ ク ス ・ ミ ュ ー ラ ( M a X Muller) 及 び そ の 弟 子 達 に 依 っ て 仏 教 理 解 の た め に 成 立 さ れ た ﹁ 仏 教 文 献 学 ( p h ilology of Buddhism) ﹂ が、 仏 教 不 在 の 文 献 学 と し て、 大 道 を 闊 歩 し て い る よ う に、 密 教 図 像 学 も 密 教 を 研 究 対 象 の 外 部 に 置 い て、 図 像 の 示 す 意 味 を 問 う こ と な く、 図 像 が 示 す 多 様 な 形 相 の 知 解 や、 そ の 知 解 に 基 づ い て、 研 究 対 象 を ア イ デ ン テ ィ フ ァ イ す る こ と な ど に 主 眼 が 置 か れ る よ う に な っ た。 更 に 研 究 対 象 と 研 究 者 の 世 俗 化 が 進 み、 研 究 対 象 が 骨 董 品、 或 は 美 術 作 品 と し 図 像 学 の 効 用密 教 文 化 て、 世 俗 的 価 値 を 持 つ に 至 っ て、 図 像 学 も、 そ の 真 贋 の 価 値 を 決 定 す る 一 役 を 担 う こ と に な っ た。 表 題 の ﹁ 効 用 ﹂ と は、 そ う 言 っ た 意 味 合 い で あ る。 図 像 学 の 効 用 の 対 象 と し て 一 枚 の 仏 画 を 取 り 上 げ る。 こ れ は、 ボ ス ト ン 美 術 館 の 諮 問 委 員 長 で も あ り、 イ ス ラ ム 美 術 の 研 究 員 で も あ っ た 富 豪 ジ ャ ン ・ ゴ ウ レ ッ ト (John Goelet) が 購 入 し、 千 九 百 六 十 七 年 九 月 十 三 日 ボ ス ト ン 美 術 館 に 寄 贈 し た ネ パ ー ル の 彩 布 ( Skt:pata, newari: p aubha) で あ る。 パ タ は 布 地 に 彩 色 を ほ ど こ し た も の の 総 称 で、 仏 画 も こ れ に 含 ま れ る か ら、 以 下 こ の 語 を 用 い る こ と に す る。 さ て、 ネ パ ー ル の パ タ は、 十 一 世 紀 初 葉 か ら 知 ら れ る も の で、 そ れ も 仏 典 (主 に ﹃ 八 千 類 般 若 ﹄) の 写 本 の 両 端 と 中 央 に 描 か れ た 装 飾 図 を 含 め た ネ パ ー ル の 絵 画 は パ ー ラ 時 代 の 美 術 を ル ー ツ に し て い る。 パ ー ラ 時 代 は イ ン ド 仏 教 美 術 の 最 後 の 開 花 で あ っ た。 ナ ー ラ ン ダ、 オ ー ダ ン タ. フ リ ー、 ヴ ィ ク ラ マ シ ラ ー な ど の 大 寺 院 ( m a ha-vihar a) の 影 響 は 多 大 で あ っ た。 こ れ ら の ヴ ィ ハ ー ラ は、 唯、 大 学 或 は 神 学 校 と し て 役 だ っ た の み で は な く、 そ れ ぞ れ に 写 経 室 と 仕 事 部 屋 を 持 っ て お り、 そ こ で 稿 本 を 写 し、 仏 画 を 描 写 し、 そ し て 青 銅 像 を 鋳 造 し た。 南、 東 の ア ジ ア の あ ら ゆ る 方 面 か ら 学 生 や 巡 礼 者 が 論 議、 教 導 を 授 か ら ん が 為 に 集 ま り、 そ れ ぞ れ の 国 へ 帰 る に あ た っ て、 パ ー ラ 仏 教 美 術 の 軽 便 な サ ン プ ル、 即 ち ブ ロ ン ズ 像 と 写 本 を 持 ち 帰 っ た。 そ し て、 マ ハ ー ヴ ィ ハ ー ラ か ら の 使 節 団 も 又、 パ ー ラ 様 式 の 美 術 を ネ パ ー ル、 ブ ル マ、 セ イ ロ ン、 ジ ャ ヴ ァ へ 運 ぶ の を 手 伝 っ た に 相 違 な い。 現 存 し て い る パ ー ラ 時 代 の 装 飾 図 入 り 写 本 は、 殆 ど 例 外 な く 仏 教 経 典 で 特 に 金 剛 乗 で 神 聖 視 さ れ た も の で、 最 初 期 の も の は 例 外 な く ﹃ 八 千 頬 般 若 経 (astasaha p r ajn a-par a m ita) ﹄ で あ り、 パ ー ラ 朝 絵 画 と ネ パ ー ル の 絵 画 の そ れ と の 間 に は 本 質 的 な 様 式 の 差 異 は な い。 且 つ ネ パ ー ル の 全 て の 絵 画 は、 貝 葉 で あ れ、 紙 で あ れ、 木 或 は 布 で あ れ、 全 て 所 謂 ゴ ム 水 彩 画 法 (グ ワ ー シ ュgou a che) で あ る。
( 1 ) さ て、 此 処 で 実 際 に 最 初 期 の も の (1028 A. D.) と 目 さ れ る ﹃ 八 千 頬 般 若 ﹄ 來 板 の 装 飾 図 と、 我 々 の 対 象 で あ る パ タ (2) と の 比 較 か ら 出 発 し よ う。 最 初 期 の 西 紀 九 百 年 か ら の 日 付 の あ る パ タ で 敦 煤 で 発 見 さ れ た も の も あ る が、 サ イ ズ も 異 な り、 中 央 ア ジ ア の 影 響 を も 見 ら れ 不 適 当 な の で 今 は 割 愛 す る。 (3) 本 論 で 用 い た 挿 図 は、 残 念 な が ら モ ノ ク ロ ー ム で、 色 調 は 判 断 す る す べ も な い が、 両 者 に 共 通 す る も の と し て、 細 密 な 画 法、 優 雅 な 形 態 の 調 和、 前 面 描 出 (frontality) と 左 右 均 整 の 画 法、 原 則 と し て 色 は 原 色 の み が 用 い ら れ、 そ の 中 で 特 に 多 く 赤 色 が 用 い ら れ る。 ネ パ ー ル の 赤 色 は 特 別 の 豊 か な 色 調 を 持 ち、 イ ン ド、 チ ベ ッ ト 絵 画 に 用 い ら れ る 赤 色 と は 容 易 に 区 別 さ れ る。 そ し て、 強 烈 な 青 色、 深 い 緑 色 に 加 え て 明 る い 黄 色 が 異 常 な ま で の 暖 か さ と 豊 か さ を 全 体 と し て 醸 し 出 し て い る。 自 然 の 対 象 は シ ン ボ リ ッ ク に 表 現 さ れ る。 実 際 の 自 然 の 形、 色 な ど は 問 題 で は な く、 蓮 華 は 純 粋 に シ ン ボ リ ッ ク に 多 彩 に 色 づ け さ れ て 描 か れ、 木、 花、 台 座、 ア ー チ な ど は 装 飾 的 に 描 か れ、 動 物、 鳥 な ど は コ ミ カ ル に 表 現 さ れ る。 (4) 此 拠 で 対 照 さ れ る ﹃ 八 千 顛 般 若 ﹄ ネ パ ー ル 写 本 は、 上 下 木 製 の 來 板 の 内 外 に 彩 画 さ れ て い る の で あ る が、 外 側 は 完 全 に 汚 垢 さ れ て い る。 従 っ て 内 側 の 二 面 が 観 察 可 能 で あ る。 一 面 は 三 つ に 分 け ら れ る。 つ ま り 写 本 を 束 す る 為 の 二 つ の 孔 の 左 右 と、 中 央 の 三 つ の シ ー ン で あ る。 観 察 可 能 な も の は、 六 シ ー ン で、 そ の う ち ニ シ ー ン を 掲 載 し た。 第 一 面 は 右 の ル ン ビ ニ -園 の 仏 陀 降 誕 図 か ら 始 ま る。 摩 耶 夫 人 ( m a yadev i) が 樹 下 に 三 屈 身 (tribhanga) の 姿 勢 で 立 ち、 彼 女 の 右 手 は 樹 枝 を 掴 み、 左 手 を 妹 マ ハ ー プ ラ ジ ャ ー パ テ ィ ( m a haprajapati) の 肩 に か け る。 こ の 図 の 左 に 摩 耶 夫 人 の 右 脇 下 よ り 誕 生 し た シ ッ ダ ル タ 童 子 の 聖 浴 の 図 が 画 か れ て い る。 三 重 の 蓮 華 (左 右 に 二 重 の も の あ り、 合 わ せ て 七 蓮 華) の 上 に 立 つ 童 子 に 竜 王 が 空 か ら 浄 水 を か け て お り、 左 か ら (向 か っ て) 列 を な し て 歩 み 寄 る 三 尊 の 立 像 が 描 か れ て い る。 一 番 最 初 の 尊 は 梵 天 で、 身 黄 色、 四 面、 四 管 で、 中 央 の 二 管 は 鹿 皮 を 持 ち、 他 の 二 管 は 右 は 念 珠、 左 は 梵 策 を 持 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 つ。 次 の 尊 は 帝 釈 天 で、 身 桃 色、 額 に 水 平 に 第 三 眼 が あ り、 二 骨 の 右 手 は 説 法 印、 即 ち、 大 指、 頭 指、 相 捻 じ て、 余 指 堅 立 の 指 勢 を な し、 左 手 は 腰 に 沿 っ て 優 雅 に 下 に 垂 れ る。 最 後 の 尊 は シ ヴ ァ 天 で 身 白 色、 四 瞥 で 中 央 の 二 膏 の 右 手 は 智 印 (jnana-mudra) 即 ち、 大 指、 頭 指、 相 捻 じ て 余 指 堅 立、 掌 を 内 方 に 向 け、 左 手 は 腰 に 安 ず る。 他 の 二 管 の 右 手 は 念 珠 を 持 ち、 左 手 は 三 叉 戟 を 持 つ。 三 体 と も 右 足 の 踵 を 地 か ら 浮 か し、 身 体 の 重 心 を 前 に か け、 三 段 屈 に し て、 た ゆ と う よ う な 歩 み 方 を し て い る。 こ れ は 我 々 の パ タ の 中 尊 の 左 右 立 像 の 二 脇 侍 も 同 様 に 重 心 の か け 方 が、 や や 後 方 で は あ る が 同 じ ポ ー ズ を し て、 左 右 か ら 中 尊 に 歩 み 寄 る 態 を な し 説 明 説 明
て い る。 又、 以 上 の 五 尊 と も 全 て 透 明 な 刺 繍 の 腰 衣 を つ け、 そ の 襲 が 腰 の 線 に 沿 っ て 優 雅 に 翻 っ て い る。 更 に、 梵 天、 帝 釈 天、 シ ヴ ァ 天 の 左 に 安 楽 坐 し て い る 文 殊 菩 薩 ( 右 手 は 胸 前 に 外 に 向 け て 説 法 印、 左 手 は 蓮 上 に 経 を 持 す) と 同 じ 來 板 の 厳 飾 図 に 画 か れ て い る 中 央 の 般 若 仏 母 (Pr ajna-Paramita) の 四 侍 者 と 我 々 の パ タ の 中 尊 を 取 り 巻 く 安 楽 坐 の 六 菩 薩 を 比 べ て み る と、 坐 し 方、 腰 の ひ ね り 具 合 い、 色 合 い 等 々、 そ の 類 似 は 大 変 に 明 瞭 で あ る。 又、 般 若 仏 母 と 我 々 の。 パ タ の 中 尊 を 比 較 す る 時 も 印 相 こ そ 異 な る が、 根 本 的 な 相 似 が 明 白 で あ 説 明 図 像 学 の 効 川
-21-密 教 文 化 る。 そ し て、 こ れ ら の 相 似 性 は、 両 画 が ほ ぼ 同 時 期 か、 少 な く と も 同 世 代 に 造 ら れ た 物 で あ る 事 を 暗 示 す る が、 そ れ は そ れ と し て、 我 々 の 当 面 の 課 題 で あ る 図 像 学 に 眼 を 転 じ よ う。 先 ず 中 尊 は、 身 赤 色 で、 三 重 宝 冠 を 著 す。 三 重 と は、 一 重 は 三 葉 宝、 二、 三 重 は 二 葉 宝 で あ る。 宝 髪 は 五 股 金 剛 杵 の 上 半 節 に つ く る の が 本 義 で あ る が、 五 股 金 剛 杵 の 上 半 節 が 宝 冠 の 上 に の っ て い る よ う に 見 え る。 左 右 の 耳 の 上 に 羽 翼 が あ り、 そ の 下 に 宝 練 を 翻 ず る。 耳 に は 大 き な 耳 環 を つ け る。 上 半 身 は 裸 で 頸 飾、 胸 飾、 管 厳 と 釧、 腕 厳 と 釧 を つ け、 装 飾 的 意 匠 を 加 え た 神 線 ( y ajna-upavi t a 祭 紐) を 左 肩 か ら 右 脇 下 に か け る。 下 半 身 に は、 ド ー テ ィ (d ho t i, d hut i) を つ け、 そ の 装 飾 の 襲 の 部 分 を 後 ろ に 廻 し、 短 く 腰 部 に ま と わ し め て い る。 そ し て、 そ の 襲 が 結 蜘 朕 坐 の 足 の 下 か ら 現 わ れ て い る。 吉 祥 結 蜘 朕 坐 は 醤 飾 と 同 じ デ ザ イ ン の 足 厳 を つ け、 跣 上 に は 宝 玉 婁 の 環 を つ け て い る。 一 点 非 の 打 ち ど こ ろ の な い 菩 薩 形 の 主 尊 で あ る。 主 尊 の 台 座 は、 背 僑 椅 子 を 有 し、 蓮 華 を 形 式 化 し て、 反 花 の 二 重 形 と す る 蓮 華 座 と 賢 座 を 組 み 合 わ し た 台 座 で、 そ の 正 面 反 花 の 真 下 か ら 受 座 に か け て、 布 端 が 垂 れ て い る。 こ れ は 中 尊 の 二 立 脇 侍 尊 の 繰 絹 の 下 衣 の デ ザ イ ン と 同 じ で、 そ の 前 部 に 小 蓮 華 台 上 に 宝 玉 に 囲 ま れ た 満 開 の 白 蓮 華 を 描 き、 そ の 左 右 に 鹿 を 描 く。 白 蓮 華 は ア ミ タ ー バ の 頂 飾 の シ ン ボ ル で あ り、 鹿 は 鹿 野 苑 の シ ン ボ ル で あ る。 垂 下 し た 布 の 左 右 の 敷 茄 子 に あ た る 部 分 に 孔 雀 を 一 羽 つ づ 描 い て い る。 こ れ は こ の 台 座 が 孔 雀 座 を 示 す も の で、 そ の 上 の 尊 像 は ア ミ タ ー バ 系 で あ る こ と を 示 し て い る。 中 尊 ア ミ タ ー ユ ス の 背 碕 椅 子 と 頭 光 の 周 囲、 つ ま り 中 尊 と 仏 寵 の 周 り を 飾 る 形 で、 光 座 (prabha-mandal a) が め ぐ (5) ら さ れ て い る。 ﹃ 量 度 経 ﹄ に あ げ ら れ た 背 光 の 制 と し て あ げ ら れ た 六 整 具 に 更 に 一 摯 具 を 加 え た 七 肇 具 で、 上 か ら 翼 を つ け た 両 手 を 拡 げ、 右 の 蛇 女 の 方 を 向 き、 両 足 で 胡 座 を 組 む 勢 の 擬 人 化 し た ガ ル ダ、 右 下 (向 か っ て 左) は 蛇 頭 を 持
つ 蛇 女 の 擬 人 化 し た も の で、 蛇 体 は、 竪 膝 を し た 下 か ら 仏 寵 に 沿 っ て、 と ぐ ろ を ひ と つ 巻 い て 下 へ と 描 か れ (左 下 は 蛇 男 で 同 じ 姿 態 に 描 か れ て い る)、 完 全 に 意 匠 化 し た 金 色 の 蓮 枝 文 様 の 中 に 没 し、 宝 僑 の 上 は 天 を 仰 い で 口 中 か ら 宝 を 吐 く ピ ン ク 色 の マ カ ラ (摩 端 魚) を 描 き、 宝 碕 の 下 に は、 青 色 で 翼 と 嚇 を 持 つ 山 羊 の 背 に 乗 る 童 男 (向 か っ て 左)、 童 女 (向 か っ て 右) を 描 き、 次 に 金 色 の 蓮 華 文 様、 そ の 下 に 半 身 半 鳥 で 横 笛 を 吹 く キ ン ナ リ ー (kimnari)、 そ の 下 は 象 王 の 上 に、 右 前 肢、 左 後 肢 の 二 肢 で 立 ち、 他 の 右 肢 を 挙 げ る 擬 人 化 し た 獅 子 王、 そ し て 最 後 に 下 の 宝 碕 上 に 象 王 の 前 半 身 が 描 か れ て い る。 六 學 具 完 備 の 背 光 の 実 在 で も 稀 で あ る の に、 こ の パ タ は 七 具 で、 し か も 全 て が コ ミ カ ル な 意 匠 で 描 か れ、 金 蓮 文 様 も 下 か ら 発 生 し て ガ ル ダ の 上 で 華 開 く と い っ た 連 続 的 な も の で は な く、 別 個 に マ カ ラ、 キ ン ナ リ ー の 尾 の デ ザ イ ン と し て 取 り 扱 わ れ、 特 に マ ヵ ラ の そ れ か ら は 三 華 の 蓮 華 が 垂 れ 下 が っ て、 中 尊 の 顔 と の 空 間 を 埋 め、 独 特 の 効 果 を 創 っ て い る。 中 尊 ア ミ タ ー ユ ス と 背 光 の 左 右 を 台 座 に 平 行 に 三 段 に 区 切 っ て、 上 段 に 二 尊、 中 段 に 一 尊、 下 段 に 一 尊 つ つ 総 じ て 八 尊 の 菩 薩 が 描 か れ て い る。 仏 籠 の 外 部 を 水 平 に 区 切 っ て、 諸 尊 を 配 す る の は、 パ ー ラ 朝 の 様 式 の 継 承 で あ り、 こ れ ら の 菩 薩 は 無 量 寿 を 取 り ま く 八 大 菩 薩 で あ る。 聞 法 の 為 に 集 ま っ て 来 た 無 数 の、 即 ち 倶 砥 (koit 数 目 で 兆 の 上 の 京) の 中 か ら 八 菩 薩 を 選 び、 そ れ ら を 上 首 と し て、 倶 砥 の 菩 薩 衆 を 代 表 さ す か ら、 八 大 菩 薩 と 云 い、 大 蔵 経 の 中 で も 八 大 菩 薩 を あ (6) げ て い る 経 典 は 十 指 に 余 り、 且 っ 其 れ ら 八 大 菩 薩 が 各 々 に 異 な っ て い る。 こ れ は 主 と し て、 そ の 経 典 成 立 当 時 に 多 く の 人 々 に 礼 拝 さ れ て い た 菩 薩 の 名 目 を あ げ た も の に 過 ぎ な い よ う で あ る が、 普 通 に 八 大 菩 薩 と 言 え ば、 ﹃ 八 大 菩 薩 曼 ( 7 ) ( 8 ) 茶 羅 経 ﹄ 不 空 訳 に あ げ た も の、 或 は 清 代 の ﹃ 造 像 量 度 経 ﹄ の 訳 者 で あ り、 ﹃ 量 度 経 続 補 ﹄ の 著 者 で あ る 蒙 古 の 官 人、 ( 9 ) (10 ) 工 布 査 布 (mgon-po sk abs) の 云 う ﹁ 八 大 適 子 ﹂ で、 其 れ ら は、 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 観 世 音 菩 薩、 或 は 蓮 華 手 (avalokitesvara, p ad m a pan i) 弥 勒 菩 薩 ( m a itre y a) 虚 空 蔵 笠 口薩 ( akasagarbha) 並 日 賢 笠 口薩 ( S a m antabhadra) 金 剛 手 (v ajrapani) 文 殊 菩 薩 ( m anjusri) 除 蓋 障 笠 口 薩 ( s arvanivaranaviskambhin) 地 蔵 菩 薩 (ksi t igarbha) の 八 尊 で あ る が、 身 色、 坐 勢、 印 相、 標 幟、 等 々 そ れ ぞ れ に 多 種 で、 一 様 で は な い。 従 っ て、 こ の パ タ の 或 る 尊 は 確 定 的 な 査 定 が 非 常 に 困 難 で あ る が、 ネ パ ー ル 及 び 工 布 査 布 の 云 う 梵 式 の 諸 造 例 と を 比 較 検 討 し、 可 能 な 限 り の 妥 当 性 を 持 っ た 尊 名 を 見 い だ し た い と 思 う。 此 処 で 云 う 梵 式 と は、 元 の 世 祖 ( kubila khan 126-1294) が、 北 イ ン ド、 ネ パ ー ル の 工 匠 ア ニ コ を 招 聴 し て 造 像 に 従 事 せ し め た の に 始 ま り、 そ の モ デ ル に な っ た も の は、 パ ー ラ 王 朝 の イ ン ド 仏 教 像 で あ る。 八 大 菩 薩 を 中 尊 の 向 っ て 左 下 の 尊 か ら 時 計 ま わ り に 観 察 し よ う。 (12 ) 第 一 の 尊 は 身 黄 色 ( 金 色)、 立 像 で、 三 屈 身 で ゆ ら ゆ ら と、 中 尊 の 方 に 歩 み ょ る 勢 を 示 し、 左 手 は 下 に 垂 ら し て ヴ ァ ラ ダ (varada) の
印 を な し、 肩 の 高 さ の 未 開 の 紅 蓮 (p ad m a) を 持 ち、 右 手 は 胸 前 に ヴ ィ タ ル カ (v it ark a) の 印 を 結 ぶ。 ヴ ィ タ ル カ ・ ム ド ラ ー は 大 指 を 以 て 無 名 指 頭 を 押 し、 余 の 三 指 を 堅 立 す る。 人 に 何 か を 尋 門 す る 時 に 用 い る 印 で、 後 生 の ネ パ ー ル、 チ ベ ッ ト 尊 像 に は 多 く 見 ら れ る。 こ の ヴ ィ タ ル カ ( 思 惟) の 印 か ら、 肩 の 高 さ に 半 開 の 黄 蓮 華 (kumuda) を 持 ち、 そ の 中 心 か ら 赤 色 の 軍 持 (kundik a) を 持 つ。 蓮 華 は 三 昧 耶 形 を 執 る 方 便 の 仲 介 と し て、 八 尊 全 て に 用 い ら れ て お り、 軍 持、 即 ち 浄 瓶 は 弥 勒 菩 薩 特 有 の 契 印 で あ る か ら、 こ の 尊 が 弥 勒 菩 薩 で あ る と 断 定 し て 誤 り は な い。 (13 ) 次 の 尊 は 身 赤 色 で、 安 楽 坐 し て 左 手 は 胸 前 に、 内 に 向 け て ヴ ィ タ ル カ の 印 を 結 び、 右 手 は、 右 膝 の 後 に 身 を 支 え て、 蓮 茎 を 持 ち、 そ こ か ら 右 肩 よ り や や 高 く 伸 び て、 紅 蓮 の 開 花 す る 蓮 茎 を 握 り、 蓮 華 の 上 に は 三 昧 耶 形 の 宝 珠 あ り、 工 布 査 布 に よ れ ば、 こ れ は 普 賢 菩 薩、 不 (14 ) 空 訳 ﹃ 八 大 菩 薩 曼 茶 羅 経 ﹄ に よ る と、 観 音 と 意 見 は 大 き く 分 か れ る。 (15) 次 の 尊 は 身 青 色 (工 布 査 布 に よ れ ば 緑 色) 安 楽 坐 し て、 左 手 は 胸 前 に 胸 に 向 け て ヴ ィ タ ル カ 印 を 結 び、 右 手 は、 右 膝 の 後 ろ に ま わ し て 身 を 支 え、 そ こ か ら 黄 蓮 の 茎 が 伸 び て 上 に 三 昧 耶 形 の 金 剛 杵 を 載 し て い る。 こ れ は 不 空 訳、 工 布 査 布 師 に よ っ て も、 金 剛 手 で あ る。 (16) 次 の 尊 は 身 黄 色、 安 楽 坐 し て、 左 手 は 左 膝 の 後 に 身 を 支 え て、 蓮 茎 を 持 ち、 茎 は 左 肩 の 高 さ に 紅 蓮 を 開 き、 華 上 に 三 昧 耶 形、 梵 筐 を 持 つ。 右 手 は 胸 前 に ヴ ィ タ ル カ 印 を 結 ぶ。 三 昧 耶 形 か ら し て、 文 殊 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 (17) 菩 薩 で あ る。 (18) 中 尊 の 向 か っ て 右 側 の 上 段 の 左 側 の 尊 は、 身 白 色、 安 楽 坐 し て、 面 を 中 尊 に 向 け、 右 手 は 右 膝 の 後 ろ に 支 え て 蓮 茎 を 持 ち、 茎 は 尊 の 顔 の 前 に 紅 蓮 の 花 を 開 き、 上 に 摩 尼 宝 珠 を 保 ち、 左 手 は 胸 前 に 大 指、 小 指 を 捻 じ て 掌 を 胸 に 向 け て 保 つ。 此 の 尊 は 身 色 は 異 な る が ア ー カ (19) -シ ャ ガ ル バ (akasagarbha) と 推 察 し う る。 図 相 は 月 光 ( c andra-(20) p r a b h a) に 一 致 す る。 (21) 上 段 の 右 側 ( 向 か っ て) の 尊 は、 身 緑 色、 安 楽 坐 し、 右 手 は 胸 前 に 大 指、 小 指 を 捻 じ て 保 ち、 左 手 は 左 膝 の 後 ろ に 支 え、 そ こ か ら 顔 の 高 さ に 黄 蓮 が 伸 び、 三 昧 耶 形 と し て 掲 磨 金 剛 を 持 つ。 謁 磨 金 剛 を 持 つ 尊 は、 我 々 が あ げ た 八 大 菩 薩 の 中 に は 無 く、 賢 劫 十 六 大 菩 薩 の 中 の ヴ ィ シ ュ ヴ ァ パ ー 二 (v isv apan i) の 可 能 性 が 強 い。 又、 此 の 余 り 明 瞭 で は 無 い 三 昧 耶 形 が グ リ ュ ー ン ヴ ェ ー デ ル (Grunwedel) の 如 き も の で あ れ ば、 除 蓋 障 菩 薩 ( S arvanivarna-viskambhin) の 可 能 性 が あ る。 (22) 中 段 の 尊 は 身 藍 色、 安 楽 坐 し て、 左 手 は 触 地 の 印、 右 手 は 胸 前 に 蓮 茎 を 持 ち、 茎 は 尊 の 右 に、 如 意 樹 (kalpavr) の 上 に 壷 を 載 せ た 三 昧 耶 形 を 持 つ。 身 色 は 異 な る が、 触 地 の 印 を 結 ぶ の は 地 蔵 菩 薩 の 特 徴 で あ る。
(23) 最 後 の 尊 は 中 尊 の 右 側 か ら 立 勢 で 優 雅 に 歩 み 寄 る。 身 白 色、 両 手 は 胸 前 に 説 法 印 を 結 び、 そ こ か ら 両 肩 の 左 右 に 満 開 の 白 蓮 を 発 生 す る。 身 白 色、 白 蓮、 共 に 観 音 の 三 摩 耶 で あ る が、 両 蓮 に 法 輪 (cakra) が あ る か ら、 そ れ に 主 眼 を 置 く と 此 の 尊 は 八 大 菩 薩 の 首 位 の 普 賢 菩 (24) 薩 と 査 定 さ れ、 第 二 の 身 赤 色、 紅 蓮 を 持 つ 尊 は 蓮 華 手(pad m a pan i) と 考 え ら れ る。 此 の パ タ の 八 大 菩 薩 の 査 定 に 関 し て は、 こ れ を 購 入 し、 美 術 館 に 寄 贈 し た ゴ ー レ ッ ト、 元 東 洋 部 の イ ン ド 美 術 の 主 任 で あ り、 現 在 ロ (25) ス ア ン ゼ ル ス ・ カ ウ ン テ ィ 美 術 館 の 東 洋 部 の 部 長 で あ る パ ル を は じ め、 ハ ー バ ー ト ・ グ ル ー。 フ の 諸 学 者 達 に よ っ て、 色 々 の 試 み が 為 さ れ た が、 決 定 的 な 結 論 に 至 っ て い な い。 そ の 理 由 の 一 つ は 資 料 の 不 足 も あ る が、 図 像 の 曖 昧 さ が 主 因 で あ る。 観 察 を パ タ の 上 辺 に 転 じ よ う。 向 か っ て 左 側 に、 偏 祖 右 肩、 結 珈 跣 坐 (吉 祥 坐) の 比 丘 形 の 四 如 来 が、 描 か れ て い る。 最 左 端 の 如 来 は 身 金 色、 胸 前 に 説 法 印 (両 手 印 を や や 離 す)。 次 は 身 黄 色 で 降 魔 の 印 を 結 ぶ。 次 の 尊 は、 両 手 印 を 胸 前 に 並 び 立 て る 説 法 印 を 結 び、 最 右 端 の 尊 は 定 印 を 結 び、 上 に 鉄 鉢 を 安 ず る。 こ れ ら の 尊 は 各 々 に 異 な っ た 印 相 を 持 つ 釈 迦 如 来 を 並 列 し た も の と 考 え る べ き で、 第 一 と 第 三 の 若 干 異 な っ た 説 法 印 は、 そ の 理 由 が 不 鮮 明 で あ り、 四 仏 を 並 列 し た 意 図 も 又、 さ だ か で は な い。 金 剛 界 四 仏 で は 勿 論 な い。 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 パ タ の 上 辺、 向 か っ て 右 上 の 四 尊 の 第 一 尊 は、 十 一 面 観 音 (eak d as a muk h a -avalokitesvar a) で、 パ タ に 見 え る の は 十 一 面 の 中、 九 面 だ け で、 三 面 つ つ 三 段 す べ て 微 笑 相 の み で、 第 十 面 の 瞑 怒 面 と、 そ の 上 の 第 十 一 面、 即 ち 阿 弥 陀 の 化 仏 面 を 欠 く。 十 一 面 観 音 は、 普 通 に 立 像 だ が、 こ れ は 結 蜘 鉄 坐 ( 吉 祥 坐) で、 身 白 色、 八 曹 で 中 心 の 二 管 は 合 掌 印 (namaskara-mudra)、 右 第 一 手 は 念 珠、 第 二 手 は 矢 (普 通 は 法 輪)、 第 三 手 は 与 願 の 印。 左 手 の 第 一 手 は 仏 像 ( 普 通 は 蓮 華)、 第 二 手 (26) に は 弓 ( 普 通 は 弓 と 矢)、 第 三 に は 法 輪 ( 普 通 は 甘 露 壷) を 持 っ て い る。 次 の 尊 は、 身 青 色、 念 怒 面 で、 三 眼 二 腎、 展 左 勢 で 立 つ。 二 腎 の (27) 右 手 は 剣 を 掲 げ、 左 手 は 期 剋 印 を 結 ん で 羅 索 を 持 っ ( tarjani)。 こ れ は 普 通 に 青 不 動 金 剛 (nila-acal -vajra) と 称 さ れ る 尊 で あ る。 次 の 尊 は、 身 青 色、 菩 薩 形 で、 一 面 二 腎 で 結 跡 跣 坐 し、 二 膏 の 中、 右 手 は 触 地 印、 左 手 は 禅 定 印 を 結 び、 上 に 金 剛 杵 を 立 て る。 こ れ は (28) 阿 閤 ( aksob h y a) で あ る。 最 後 の 右 隅 の 菩 薩 形 の 尊 は、 身 白 色、 安 楽 坐 で、 肥 満 体、 二 管 の 持 物 は 摩 擦 に よ る 絵 具 の 剥 落 の た め、 不 分 明 だ が、 右 手 に ジ ャ ン バ ラ (jambbhara チ ト ロ ン 果 実) 左 手 に ナ ク ラ (nakur a モ ン グ ー ス) を 持
図 像 学 の 効 川
密 教 文 化 (29) つ 白 ジ ャ ン バ ラ ( sita-jambhara) と 見 な し て 良 い で あ ろ う。 観 察 を 台 座 の 下 に 一 列 に 描 か れ た 七 尊 に 移 そ う。 此 処 に は、 尊 勝 仏 母 (usnisavijaya) を 中 心 に、 向 か っ て 左 側 に 三 尊 の 仏 母 と 右 側 に 二 尊 の 仏 母 と 白 タ ー ラ を 描 い て い る。 左 の 三 尊 の 仏 母 と 右 の 二 尊 は 合 わ し て 五 尊 の 五 救 護 仏 母 ( p anca-raksa) で あ る。 こ れ ら 七 尊 は、 同 じ く ゴ ー レ ッ ト 氏 の 購 入、 寄 贈 の チ ベ ッ ト ・ ゴ ル 派 の 仏 画 ( タ ン カ) と し て、 ボ ス ト ン 美 術 館 所 蔵 の も の (縦、 七 三 ・ 六 糎。 横、 五 (30) 五. 八 糎) が あ る の で、 こ れ か ら 特 に 中 心 部 の 七 尊 を 挿 図 と し て 此 処 に 収 載 し、 パ
タ と タ ン カ の 七 尊 を 比 較 し て 各 々 の 図 像 を 観 察 し て み よ う。 パ タ の 七 尊 は、 全 て 背 侑 板 を 有 す る 台 座 に 坐 し、 向 か っ て 最 左 端 の 尊 は、 独 立 尊 の 大 千 催 仏 母 ( m a ha-sahasrapramardani) で、 身 白 色、 一 面 六 管 で、 結 蜘 鉄 坐 す る。 身 白 色 は 大 日 如 来 か ら の 発 生 を 示 し、 六 管 の 中、 右 第 一 手 は 胸 前 に 剣 を 持 し、 第 二 手 は 与 願 の 印 を 結 び、 第 三 手 に は 矢 を 持 つ。 左 第 一 手 は 胸 前 に 絹 索、 第 二 手 は 斧、 第 三 手 は 弓 を 持 つ(31)。 タ ン カ の 大 千 擢 仏 母 は、 中 尊 の 向 か っ て 左 下 に 描 か れ る 五 救 護 仏 母 の 一 (32) つ と し て の 尊 で、 象 蓮 台 上 に 安 楽 坐 す る 尊 で 身 青 色、 四 面 八 膏 の 愈 怒 形 で、 四 面 の 主 面 は 身 色 と 同 じ 青 色、 左 面 は 白 色、 右 面 は 赤 色 と 黄 色 (後 面) で、 八 管 の 中、 右 第 一 手 は 与 願 の 印 に 金 剛 杵 を 持 ち、 第 二 手 は 剣、 第 三 手 は 矢、 第 四 手 に は 鉤。 左 第 一 手 は 胸 前 に 絹 索、 第 二 手 は 蓮 枝、 第 三 手 は 弓、 第 四 手 は 棒 を 持 つ。 パ タ の 次 の 尊 は、 独 立 尊 と し て の 密 呪 随 時 仏 母 ( maha-m antranusarini) で、 身 青 色、 一 面 四 骨 で、 遊 戯 座 ( 左 艀 相) す る。 身 青 色 は ア ク シ ョ ー ブ ヤ の 発 生 で あ る。 四 膏 の 中、 右 第 一 手 は 胸 前 に 金 剛 杵 を 持 し、 第 二 手 は 与 願 の 印、 左 第 (33) 一 手 は 左 膝 上 に 斧 (parasu)、 第 二 手 に は 羅 索 を 掲 げ る。 図 像 学 の 効 川
密 教 又 化 (34) 五 救 護 仏 母 の 一 尊 と し て の タ ン カ の 密 呪 随 持 仏 母 は、 中 尊 の 向 か っ て 右 上 方、 身 赤 色、 三 面 十 二 管、 孔 雀 蓮 華 台 上 に 安 楽 坐 す る。 正 面 が 赤 色、 右 面 が 緑 色、 左 面 が 白 色 で、 十 二 管 の 中、 左 右 第 一 手 は 胸 前 に 説 法 印、 左 右 第 二 手 は 膀 前 に 定 印、 余 の 右 第 三 手 は 与 願 印、 第 四 手 は 期 剋 印、 第 五 手 は 金 剛 杵、 第 六 手 に は 矢 を 持 つ。 そ し て 左 第 三 手 は 下 に 掌 を 伸 ば し て 羅 索、 第 四 手 は 薬 草 壷、 第 五 手 は 宝 樹、 第 六 手 は 弓 を 持 つ。 (35) パ タ の 次 の 尊 は 独 立 尊 と し て の 大 随 求 仏 母 ( m a ha -pr a tisara) で、 身 黄 色、 宝 生 如 来 よ り の 発 生 で、 遊 戯 坐。 四 面 八 腎、 正 面 は 黄 色、 右 面 は 白 色、 左 面 は 赤 色、 青 色 (後 面) で、 八 腎 の 中、 右 第 一 手 に は 胸 前 に 剣、 第 二 手 に 矢、 第 三 手 に 三 叉 戟、 第 四 手 に 宝 輪 を 持 ち、 左 第 一 手 に は 勝 前 に 金 剛 杵 を 持 ち、 第 二 手 に は 斧、 第 三 手 に は 羅 索、 第 四 手 に 弓 を 持 つ。
(36) タ ン カ の 五 救 護 仏 母 と し て の 大 随 求 仏 母 は、 中 尊 で、 身 白 色、 四 面 八 骨、 獅 子 蓮 台 上 に 結 蜘 蹟 坐 す る。 四 面 の 正 面 は 白 色、 右 側 は 青 色、 左 面 は 赤 色、 黄 色 ( 後 面) で、 入 管 の う ち 右 第 一 手 は 胸 前 に 説 法 印、 第 二 手 は 金 剛 杵、 第 三 手 は 矢、 第 四 手 は 剣。 左 第 一 手 は 胸 前 に 金 剛 索、 第 二 手 は 三 叉 戟、 第 三 手 は 弓、 第 四 手 は 斧 を 持 つ。 パ タ の 中 央 の 尊 は、 尊 勝 仏 母 (usnisavijaya) で、 身 白 色、 三 面、 八 膏 で 結 吻 鉄 坐 す る。 大 日 如 来 の 発 生 で、 ネ パ 一 ル で 最 も 人 気 の あ る 尊 で、 殆 ど の 寺 院 に は、 こ の 像 が 安 置 さ れ て い る。 三 面 の 正 面 は 白 色、 右 面 は 黄 色、 左 面 は 青 色 で、 八 曹 の う ち、 右 第 一 手 は、 胸 前 に 掲 磨 金 剛 (visvavajra)、 第 二 手 は 与 願 の 印、 第 三 手 は 矢、 第 四 手 は 蓮 台 上 に 仏 陀 像 (b a q m a s t h a -buddha) を 掲 げ る。 左 第 一 手 は 期 克 印 に 羅 索、 第 二 手 は 膀 前 に 宝 瓶、 第 三 手 は 弓、 第 四 手 は 施 無 畏 (37) 印 を 結 ぶ。 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 タ ン カ の 尊 勝 仏 母 は、 中 尊 の 向 か っ て 左、 三 面、 三 眼、 入 管、 蓮 台 上 に 結 蜘 跣 坐 す る 尊 で、 図 相 は パ タ に 同 じ で あ る。 (38) パ タ の 次 の 尊 は 独 立 尊 と し て の 大 孔 雀 仏 母 (m aha -ma yuri) で、 身 黒 色、 三 面 六 腎、 遊 戯 座 す る。 不 空 成 就 の 発 生 で あ る。 三 面 の 正 面 は 黒 色 ( 緑 色)、 右 面 は 青 色、 左 面 は 赤 色 で、 六 管 の う ち 右 第 一 胸 前 に 孔 雀 の 羽 を 持 ち、 第 二 手 は 矢 を 持 ち、 第 三 手 は 水 瓶 を 持 っ て い る 。 (39) タ ン カ の 五 救 護 仏 母 と し て の 大 孔 雀 仏 母 は、 中 尊 の 向 か っ て 左 上 の 馬 蓮 台 上 に 安 楽 座 す る 身 黄 色、 三 面 八 膏 の 尊 で 三 面 は 正 面 が 黄 色、 右 面 が 青 色、 左 面 が 赤 色、 八 暦 の う ち 右 第 一 手 は 胸 前 に 法 瓶、 第 二 手 は 与 願 印、 第 三 手 は 剣、 第 四 手 は 法 輪 を 持 つ 0 左 第 一 手 は 胸 前 に 鉄 棒 ( 薬 壷) 第 二 手 は 幡、 第 三 手 は 掲 磨 金 剛 鈴、 第 四 手 は 孔 雀 の 羽 を 持 つ。 (40) パ タ の 次 の 尊 大 寒 林 仏 母 ( m a hasitavati) で、 身 赤 色、 一 面 四 管 で 遊 戯 坐 す る。 阿 弥 陀 如 来 の 発 生 で、 四 管 の 中、 右
-34-第 一 手 は 胸 前 に 念 珠 を 持 ち、 第 二 は 与 願 の 印 を な す。 左 第 一 手 は 胸 前 に 梵 経 を 持 ち、 第 二 手 は 金 剛 鉤 (vajrankus a) を 持 つ。 (41) タ ン カ の 五 救 護 仏 母 と し て の 大 寒 林 仏 母 は、 中 尊 の 向 か っ て 右 下 に 位 置 し、 身 緑 色、 三 面 六 管 で、 キ ン ナ ラ の 蓮 台 上 に 結 蜘 跣 坐 す る。 三 面 の 正 面 は 緑 色、 右 面 は 白 色、 左 面 は 赤 色 で、 六 管 の う ち 右 第 一 手 は 胸 前 に 金 剛 杵、 第 二 手 は 矢、 第 三 手 は 施 無 畏 印 を 結 び、 左 第 一 手 は 胸 前 に 摩 尼 珠、 第 二 手 に 弓、 第 三 手 に 羅 索 を 持 っ て い る。 パ タ の 最 後 の 尊 は 身 白 色、 一 面 二 曹、 安 楽 坐 す る 仏 母 で、 右 手 は 胸 前、 左 手 は 膀 前 に 各 々 の 持 つ 契 印 が 摩 滅 の た め 不 明 な の で、 尊 名 の 査 定 は 困 難 で あ る が、 女 性 尊 で あ る こ と に 誤 り は な い。 一 方 タ ン カ で は 中 尊 の 向 か っ て 右 方 に 配 せ ら れ る 身 白 色、 一 面 二 管 で、 蓮 台 上 に 結 蹴 跣 坐 す る 尊 は、 白 多 羅 ( Sita-図 像 学 の 効 用
-35-密 教 文 化 ta r a) で、 右 手 は 膝 上 に 与 願 印、 左 手 は 胸 前 に 施 無 畏 印 を な し て、 各 々 の 膝 か ら、 両 肩 の 辺 り に 青 蓮 (水 蓮) が 開 く 蓮 茎 を 持 っ て い る。 以 上 細 々 と 記 述 し た 図 相 よ り 明 ら か な よ う に、 パ タ に 描 か れ た 諸 仏 母 は、 尊 勝 仏 母 と 査 定 不 明 の 白 色 仏 母 を 除 い て、 独 立 尊 の 図 像 で、 五 救 護 仏 母 と し て グ ル ー プ 化 さ れ た 尊 の 図 像 で は な い。 五 救 護 仏 母 の マ ン ダ ラ 内 の 配 列 の 順 序、 又、 図 像 も 必 ず し も 一 定 し て い る と は 言 え な い。 併 し、 こ の パ タ の よ う に、 独 立 尊 の 図 像 を 以 て、 五 尊 全 て を 尊 勝 仏 母 と 共 に 描 く こ と は、 他 に 例 を 見 な い。 五 救 護 仏 母 は ネ パ ー ル に 於 い て は、 そ の ダ ー ラ ニ -と 共 に、 非 常 に 古 く か ら 信 奉 さ れ て い た。 グ ル ー プ と し て 五 救 護 仏 母 の 各 尊 を 各 々 の ダ ー ラ ニ ー と 共 に 描 い た 貝 葉 版 は、 カ ト マ ン ド ゥ の ビ ル 図 書 館 に は、 西 紀 一 二 四 七 年、 又、 個 人 蔵 の 物 で は 一 一 三 八 年 の 日 付 け を 持 つ も の が あ る (42) か ら、 ネ パ ー ル に 於 い て は 十 二 世 紀 中 葉 か ら 十 三 世 紀 中 葉 に は、 す で に 知 ら れ て い た と 考 え ら れ る の が 自 然 で あ る。 此 処 で 大 き な 疑 問 が 生 ず る。 何 故 に、 ネ パ ー ル 仏 画 の 初 期、 す な わ ち 貝 葉 に 描 か れ た 厳 飾 図 の 様 式 と の 相 似 点 か ら、 殆 ど 同 時 代 か、 或 は 同 世 代 に 造 型 さ れ た と 目 さ れ き た っ た 此 の パ タ に は、 当 時 す で に 成 立 し て い た 五 救 護 仏 母 と し て の 五 仏 母 が 描 か れ ず、 独 立 尊 と し て の 五 仏 母 が 描 か れ た の で あ ろ う か ? 更 に、 こ の パ タ の 下 辺、 向 か っ て 右 側 の 白 色 の 尊 が チ ト ロ ン 果 実 (jambhara) を 胸 前 に 持 ち、 左 手 を 左 膝 の 上 に モ ン グ ー ス ( n akur a) を 掴 ん で い る ジ ャ ン バ ラ (jambhara) の
よ う に 観 察 さ れ、 こ れ は 乳 房 の 大 き さ か ら し て、 明 ら か に 女 尊 ・( 仏 母) で あ る 此 の パ タ の 尊 ・と、 大 変 に 矛 盾 す る の で あ る。 儀 軌 に 通 暁 し た 阿 闊 梨 に よ っ て、 或 は そ の 指 南 に 従 っ た 画 工 に よ っ て、 造 形 さ れ た 優 れ た 作 品 に は、 豊 か な 宗 教 性、 芸 術 性 と 同 時 に 図 像 の 厳 正 さ が 見 ら れ る の で あ る。 そ れ 故 に こ そ、 そ の 作 品 の 真 贋 の 問 題 が 生 じ る 場 合 に は、 そ の 選 択 の 基 準 と し て、 図 像 学 が 大 き な ウ エ イ ト を 占 め る の で あ る。 換 言 す る と、 少 し で も 図 像 学 的 に 誤 り が あ り、 又、 不 明 の 点 が あ る 作 品 は、 ﹁ 真 ﹂ で あ る こ と を 主 張 し 得 な い の で あ る。 一 九 八 八 年 一 月 三 十 一 日 高 野 山 に 於 て 証 ( 1) S te
in. Aurel, Serindia.vol. IV.Plate, Oxford
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ndon Press, 1921. PL.LXXXVII,
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heupper half.
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alit Kala, No.6 Oct.1959.p.57
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trated Cover of a MS of a MS of the Ash
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a Prajnaparamita in a private Collection. b
y M o ne tosh Mookerjee. 此 は 個 人 ( S. K. Sar asw a t i) 蔵 の 物 で あ る が、 Oxford の Bodleian Librara y 所 蔵 の も の (1075-1100) が 有 名 で あ る。 Of.Treasures of Asia P a i en t i
ngs of Tibet. Text bu Douglas Barratt and
B a S il Gray. 又、Cf.Nepalese Paintings b y St.Kra-m r i S c
h. Journal of the Indian Society
A l t. Vol. 1, No. 2. De c. 1933.pp. 129-149. ( 3) 栂 尾 祥 瑞 著 ﹃ チ ベ ッ ト ・ ネ パ ー ル の 仏 教 絵 画 ﹄ 一 九 八 六 年 臨 川 書 店 刊、 図 判 II -1、 解 説 七 頁。 ( 4) 前 掲 書。Lalit t Kala No.6.p.57 ( 5) 逸 見 梅 栄 訳 ﹃ 仏 説 造 像 量 度 経 ﹄ 四 二 〇 頁。 同 著 ﹃ 印 度 に 於 け る 礼 拝 像 の 形 式 研 究 ﹄ 東 洋 美 術、 昭 和 五 七 年、 三 〇 四 頁。 ( 6) 栂 尾 祥 雲 著 ﹃ 理 趣 経 の 研 究 ﹄ 九 三 頁。 ( 7) 大 正。 第 二 十 巻、 一 一 六 七 番、 六 七 五 頁 以 下。 ( 8) 大 正。 第 二 十 一 巻、 一 四 一 九 番、 九 三 六 a -九 五 六 b 頁。 ( 九) ( 10) 逸 見 梅 栄 著 ﹃ 満 蒙 の 剛 嚇 教 美 術 ﹄ 法 蔵 館 昭 和 十 八 年 解 説 七 九 頁。 ( 11) 大 正。 二 十 一 巻、 九 三 九 a 頁。 ( 12) 以 下、 挿 図 と し て 用 い た も の はGrunwedell, 図 像 学 の 効 用
密 教 文 化 Buddh ic a VI. の 八 大 尊 で、 こ れ は 九 八 二 番。 ( 13) 前 掲 書 九 八 八 番。 ( 14) 及 びBhattachar y y
a B.The Indian Buddhist Icono
-gr a p h y. 3rd ed.Calcatta, 1968.p. 以 下、BB lSt, BB 3rd で 示 す。 ( 15) 前 掲 書 九 八 三 番。 ( 16) 同 上、 九 八 九 番。 ( 17) BB 3rds. p .95, 102. ( 18) 前 掲 書 九 八 四 番。 ( 19) BB 3rd. p p .85 -86. ( 20) BB 3rd. p p.89 -90. ( 21) 前 掲 書 九 八 五 番。 ( 22) 同、 九 八 七 番。 ( 23) 同、 九 八 六 番。 ( 24) ( 25) ( 26) ( 27) 同 上 書、 p .309 (b.338) ( 28) 同 上 書 p .138 (4B 26) ( 29) 三 百 尊 図 像、 二 六 五 番、Bibliothe c a Buddhica V.P.89A.BB.3rd. ( 30) 栂 尾 祥 瑞、 前 掲 書 III 5 -1。 解 説 二 九 頁。 ( 31) ( 32) ( 33) ( 34) ( 35) ( 36) ( 37) ( 38) ( 39) ( 40) ( 41) ( 42) 栂 尾 祥 瑞 ﹁ 随 求 菩 薩 の 展 開 ﹂ ﹃ 勝 又 俊 教 博 士 古 稀 記 念 論 文 集 ﹄ 五 〇 三 頁。