近 視
に
対 す
る
鍼 施 術
の
効
果
1
穴刺
鍼
に よ る
視力改 善効 果
に
つ いて
坂
口俊
二 *・山 本 真 理 子
*・藤 川
治
*・和
田
清
吉
*1
.
緒 言近 視 者の 数は年々増 加1 )し てい る。 その 原因 は遠 方の もの を 見 るこ と よ り も
,
眼 前20cm
か ら200cm
の もの (本,
狭い 環 境 内で の テ レ ビな ど)を 長 時 間 見る現 代の 我々 の 生 活 習慣
にある と考え ら れる2)。近視 と は 遠見 視 力 障 害 (低 下
)
を来 すことであ り,眼部の屈 折 異 常が引き起
こ し た疾 患である。 す なわち 近 視の眼 球におい ては, 平 行 光 線 が 網 膜の前方
で焦点
を結ぶ結 果,
網 膜 面の像は不 鮮 明と な る3 >。これ ま で 近 視の鍼治
療
に よ る視 力 改 善 効 果に 関して は,
内田 ら4 )が中 谷 眼 点 刺 鍼での効
果を 検 討 してい る。 また中 村 ら 5)は ,GgLCiliare
刺 鍼,
風池穴,
太陽穴を 選 び,
視 力 改善
に対 する 効 果 を 検 討 してい る。 大 矢 6 ),
大 山 ら7 )『
s)は数 穴を組み合わ せ た効 果 を検 討 して い る。今回我々 は
,
視 力 改 善に有 効 とさ れ る多
くの 経 穴の中 か ら使 用 頻 度の高い3
穴 を選び,
そ れ ぞ れ1
穴の みの鍼 通 電 刺 激に よる視 力 改 善 効 果 を比較 検討
した の で報
告 する。2
.
方 法実験の 主 旨 を説明 して 同意を得た裸眼視 力
O .
02
〜1.5
を有 する健 康な 成 人(20 〜47
歳)
を被 験 者 とし た(
表1
)。刺 激 効 果 を検 討 し た経穴 は, 太陽,
風池,
光明の3
穴であり,
そ れ ぞ れ 同一
の被 験 者につ い て1
週間の間 隔をあ けて1
穴ご とに3
回実
験 を行
っ た。各
経 穴へ の刺
激 順序
は クロ スオー
バー
デ ザインで行っ た。 鍼は ア サヒ 技 研工業KK
製の50mm ,20
号の ス テ ン レ ス 鍼を 用い た。 鍼 刺 入方法
は管
鍼法
で弾
入 切皮後,皮
膚 面に 垂 直に 送 り込 み刺 法 に よっ て 深さ約15mm
まで刺
入 して保 持 し た。 通 電刺 激は ノイ ロ 医 科工 業KK
製ノイロ メー
ター
D401 型 を用 い て, 陽 極 不 関 導 子 を握らせ,
両 極 短 絡 時,
直流12V ,200
μA
と し,0 .
5
秒 間 隔の不 連 続 鍼 通 電 (陰 極)
刺 激 を計7
秒 間 行っ た。視 力の 測 定 に は,
DR .LONDOLT
’
S
INTER ・
NATIONAL
RING
TEST −TYPE
CHART
(5m
用 )を用い
,
時 刻と照 度 を一
定 と した 条 件の も とで 施 術の直 前と直 後の2
回測 定 した。 なお測 定 結 果 の判定 基準
7 )は, 視力 表
に お ける同一
視 力を 示 す5
表 示 すべ て を用い ,5
表 示中4 表
示の 正答率
をもっ て該当
視 力と し た。 ま た別に,
被 験 者には近 視に なっ た年齢 ,
両親
の視 力の状態,
鍼刺
激 に起 因 する被 施 術 感 覚 (い わ ゆる響 き 感 覚)
,
施 術 後の身
体 状況等
につ い て内 省報 告を 求め た。3
.
結 果 *関 西 鍼灸短期大 学 太陽 穴,
風 池 穴,
光 明 穴 それぞれの刺 激 後,
視 力の上昇が認め られ た もの は, 太陽穴の場 合 左 眼4
例,
右 眼3
例 (表2
)。
風 池 穴で は左 眼5
例,
右眼6
例(
表3
)
。
光 明 穴 で は 左 眼2
例,
右 眼2
例 (表4 )
であ っ た。
し か し 逆に太 陽 穴で は 左眼1
例 (表2
),
風 池 穴では左 眼1
例,
右 眼2
例(
表3 )
, 光明 穴で は両 眼 と も3
例 (表4
)の視 力 低下 が そ れ ぞ れ認め られた。1
一
Kansai College of Oriental Medicine Kansai College of Oriental Medioine
近 視に対 する鍼 施 術の効 果 表 1 被験者の
一
覧匯
性 別 年 齢 (歳)
近 視 に なっ た 時 期 (歳) 家 族 歴1
男21
13
一
母 親の み が近 視 男 20 王5
両 親 共 近 視で ない 女 2010
父 親の み が近 視 男 20 16 両 親 共 近 視で ない 女 47 「16
両 親 と も近 視 男20
12 両 親とも近視 男20
17
両親共 近 視でない男
23
18
i
両 親 共 近 視でない1 男
旨
21
18
両親 共 近 視でない 佐 眼) 表 2 太 陽 穴 刺 鍼 に よる裸 眼 視力の変化(右眼
〉
被験 者 施 術 直 前 施術 直後 増 減 i 被 験 者 施 術 直 前 施 術直後 増 減0.
60 0.
80 : 0.
.
20i 0.
90 0.
900.
00
O,
20
…O。
30
1.
0.10
0.
20
0
.
30
0.
10
0.
60
…
。.
40
…− 0・201
0つ6 0
.
06 0.
00
」
0.
30
10.
30
0.
。ol
ト
0.
30
曜ド
0.
04 0.
04 0.
ool IIo
・
04
0.
04
10.
00
0.
06I
O.
080.
02
鐸
0.
06
ト0.
06
0,
00
0.
30
0.
30
0.
OO
1
・.
矧
1.
・・ 0.
301
0.
IO
0.
10
0.
00
旨0.
10
0.
10
0.
00
一
1.
50 2.
00
0.
50
F
0 ,
60 0.
70 0.
101表
3
風 池穴 刺鍼 に よ る裸 眼 視 力の変 化 (左 眼 ) (右 眼 〉 被験者 施術 直前 施術 直後 増 減 被 験者 施術 直前 施 術 直後 増 減1.
00
0 .
80
一
〇.
20
1
.
00
1.
20
0.
20
020
0 .
30
0 ,
10
0
.
20
0 .
30
0,
10
0
.
10 0.
100 .
000.
04
0.
06
0.
020
.
400
.
500
.
100.
50
0.
40一
〇.
100
.
06 0.
06 0.
000
.
06 0.
06 0.
000
.
02
0
.
06
0
.
04
0
.
02
0
.
06
0
.
04
0.
20
0.
20
0.
00
0
.
600.
700.
100
.
20
0
.
30
0
.
10
0 .
20
0.
30
0.
10
1
.
20
2,
GO
0.
80
0 ,
50
0.
40
一
〇.
10
(左 眼 )表 4
光 明 穴 刺 鍼に よ る裸 眼 視力
の変化
(右 眼 ) 被 験 者 施 術直
前 施 術直
後 増減
被験者 施術直前 施術直後
増減
1.
20
1.
20
0 .
00
LOO
0 .
90
一
〇.
10
0 .
10
0 ,
20
0 .
10
0 .
10
0 .
20
0.10
0 .
30
0 .
30
0 .
00
0 .
06
0 .
06
0.
00
0 .
40
0 .
40
0 ,
00
0 .
20
0 .
20
0 .
00
0
.
06
0
.
06
0
.
00
0
.
04
0
。
08
0
.
04
0 ,
04
0
.
060.
020 .
04 0.
04
0 .
00
0
.
30
0
.
20
一
〇.
10
0
.
30
0
.
30
0
.
00
0,
50
0.
30
一
〇.
20
0 .
40
0 .
30
一
〇.
10
2
.
00
1,
20
一
〇.
80
0 .
50
0,
30
一
〇.
20
3
Kansai College of Oriental Medicine Kansai College of Oriental Medioine
?
fi
力 2.
0 L5 訂、
o 0.
50.
0
一 近視に対 する鍼 施 術の効 果 視 力 2.
0 (左眼 ) 1.
5 1.
0 0、
5 p r e/
二
2.
o 1.
5 1.
o 0.
5 0.
0 視 力 (右 眼)o.
o
Post p re 図 1 太 陽 穴 刺 鍼に よ る裸眼 視 力の変 化 視 力\
一∠
(左 眼 ) 2,
0 1.
5 Lo 0,
5 p r e post三
2.
o },
5 1,
0 0.
5 視 力 (右 眼 ) O.
O poSt p te 図2 風 池 穴 刺鍼に よ る裸 眼 視 力の変 化 視 力 2,
0 (左眼) 1,
5 1.
O o.
5 p o s t 一丶
一 (右 眼 )表5 3週にわ た る裸 眼視 力の経 過 (左 眼 〉 各 週の施術 直 前の視 力 施術穴の順序 (A :太 陽 B:風池
C
:光明) 1週 目 2週目 3週目3
週目 の施術 直後の視力 増 減 (3
週 目の 施 術 直 後一
1週目の施術直前の視 力)A→ B
→
C 0,
601.
001
.
20
1.
20
0.
60
C →
A→
B0.
100
.
200
,
20
0.
30
0.
20
B→ C→ A0.
100
.
300
,
60
0 .
40
0.
30
C → A →B
0.
400
.
300
。
40
0 .
50
0.
10
C→ B→ A
0.
060
,
060
.
04
0 .
04
一
〇.
02
B
→A
→C
0.
020
,
060
.
04
0 .
06
0 .
04
A →
C
→ B0,
300
.
300
,
20
O .
20一
〇.
10 A →B
→C
0.
100
.
200
.
50
0 .
50
O .
40
B→C →A
1.
202
.
001
.
50
2.
00
0 .
80
(右眼〉 各週の施 術 直 前の視 力 施 術 穴の順 序 (A
:太陽B
:風池C
:光 明) 1週 目 2週 目3
週 目3
週 目の施術 直 後の視力 増減 (3
週 目の施 術直 後一
1週 目の施 術直前の視力)A
→B
→C
0.
901
.
001
.
OO0.
90
0.
00
C
→ A → B 0.
10O.
200.
20 0.
30 0.
20 B→C
→ A0,
040
.
060
.
06
0 .
06
O.
02
C−
→ A→ B0.
200
.
300
.
50
0 .
40
0.
20
C→ B→ A
0.
040
.
060
.
04
0.
04
0 .
00
B →A → C
0 ,
020
.
060
.
04
0,
04
0.
02A
→C
→B
0 .
700
.
300
,
60
0.
70
0 .
00
A → B → C
0 .
100.
200
.
40
0.
40
0.
30
B→C →A
0.
500
,
50O
.
60
0.
70
0 .
2
5
Kansai College of Oriental Medicine Kansai College of Oriental Medioine
近 視に対 する鍼 施 術の効 果 視 力 2
.
0 !.
5 1. 0
0.
5 ・・
o1
週 目 2 逓 目 3 週 目 視 力2 .0
15
1.
0 0,
5一
(右 眼 )O .
0 置週 目 2 34
.
考察
刺 激 穴 の 採 用 に あ たっ て は 過 去 の 文 献3 )’
9 )’
10 )’
11 )を参 考に し, さ らに我々 の 臨 床 経 験 を取 り入 れて決 定 した。 太 陽 穴は眼の周 囲,
特に頬 骨 弓の上,
眼 鏡の 軸にあた る部位
4 )で, 中谷 点とほ ぼ同一
部位
に ある経 穴で ある。 眼 が 疲 れる と自然に手に行 く と こ ろ で,
眼の保
健体操
12)に も欠か せ ない経
穴であ
る。 風池
穴は後
頚部
に位置
し, 眼科
疾 患 の鍼 施 術に頻 繁に用い ら れ る経 穴3>’
9)110
)’
11)で あ り,
ま た近 視 者が愁 訴に挙 げる頭 頚 部の痛み や肩 凝 りに効 果を 上げる経 穴で もある。太陽穴, 風池
穴の効
果につ い て中村ら5)は , 裸 眼 視 力の 上昇 効 果 を得てい る。 光 明 穴は眼か ら遠 く離れ た下 肢に存 在 する経 穴である。 しか し光 明 穴の穴
名
の 由 来1 ω は, 眼 疾 患 を 治 し, 活 絡 明 白の 効 能 を持つ とこ ろか らで ある。 ま た経 絡 学 説に よ る と足 少 陽 胆 経は 上っ て眼に通 ずる。 光 明 穴 は足 少陽 胆経の絡穴で あ り, さ ら にこ こか ら別 れ て足 厥 陰 肝 経が分 岐し て い る。 ま た肝は眼に 開竅
する と さ れ てい る。太陽穴, 風池 穴, 光 明 穴の他にも, 古 来よ り 眼の疾 患に
多
く用い ら れて い る経 穴に は睛 明 穴,
承 泣 穴3}’
9)’
10)がある。 し か しこれ らの 経 穴へ の刺
鍼は,熟練
度に応じ て効 果に差がある と考
えら れ, また 被 験 者に恐 怖 感 を与 える部 位 で ある こと か ら,
今 回の実 験に は採用 し な か っ た。
経 穴へ の通 電 条 件につ い て は中 谷の報 告13) に従っ た が
,
刺 鍼手
技に よ る効果の差 異 を最 小 限 に し,
刺 激 条 件 を一
定 化 するため に雀 啄 操 作 を 行わず 単 刺 法を採 用し た。 直流12V ,
200
μA
の7
秒 間 鍼 通 電は,
内田 ら4 )が価値
ある治 療法
であると報 告して い る。1
穴刺 鍼に よ る視 力 改 善 効 果につ い て は,
結 果よ り太 陽,
風池,
光明の3
穴中,
風 池 穴へ の 刺 激が視 力の改 善と密 接な関 係を有 し てい る も の と考
えら れ る。表
4
に示 し た光明 穴の 刺 鍼に おい て視 力の低 下を 多 く得たこ と は,
以 下の 理 由に よ る と推 定 さ れ る。 光 明穴
へ の刺 鍼は他の経 穴 刺 激と比 較 して強い 響 き感 覚を得た ようで あっ た。 ま た被
験者
の中 に は,
光 明 穴へ の刺 鍼 後,
一
瞬 目の 前 がパ ッ と 明る く見 える現 象 が あ り , 今 後の臨 床 及び研 究の参考資料
と して注
目 して い る。 こう
し た強い 鍼の響
き感覚力
が,
自律神
経系
あるい は痛覚神経系
を介 し て,
眼の調 節 系 ま たは網 膜 を含 む視 神 系に何 らかの影 響 が あっ た もの と考 えら れ る。光
明 穴が古
来よ り夜
盲 症の治 療に用 い ら れ てい る11)こ とか ら,
こ の 経 穴は 視 細 胞 の色 素 代 謝に関 係があるように思わ れ る。表 5
に示 し た3
週 に わ た る裸 眼 視 力の 経 過に つ い て は,
実 験 を進め る に した がっ て多
くの例 におい て視 力 上 昇 が 認 め られ た。 例 えば被 験 者 (以下N
・.
で 表 示 する),
で は,
両 眼 共にO .
2− O .
8の 視力
上昇が得 られた。
N・.
,
に つ い て も両 眼 共に
0 .
1− 02
の視 力上昇 を 示 し た。No .
,,
,
に おい て 共 通 する条 件 は表1
に示 すよう
に,
両親共
に視力
の状態
が良 い とい うこ と。
近 視になっ た 時 期 が3
〜 5
年 前 とい うこ とで ある。 これは遺 伝が大 き く関 与 さ れる14)こ とを 示 唆 する ものである。 ま た視 力 低下後,
この 実 験に至るまでの 期 間 が 短い 者ほ ど改 善 率 も高 く, 鍼 施 術の効 果が期 待で きる と 考え ら れ る。No ,
,
共に,
近 視になっ て か ら8 〜10
年 を経て い て,
なお かつ 両 親の う ち一
方が近 視で ある。 し か し今 回の実 験で は,
左 眼だけで は あ る がO .
3 − O .
6
の 視力
上昇 が認め られ た。No .
,
共に,
近視に なっ て か ら8
〜
31
年
を経てい る。 さ ら に 両親
と も近 視で 現在
の被 験 者の裸 眼 視 力が0 .
1
未 満で ある。 これ ら被 験 者 に対 する鍼刺激
に よ る改善
は ほ とん ど得
ら れな か っ た。 被 験 者の実 験 後の内省 報 告と して,
太 陽, 風 池,
光 明の3
穴 に 共 通 し て,
“
目の 前が 明 る く 感じ た”
,
“
物が は っ き り見える感じ が し た”
,
“
瞼 が軽 くなっ た”
,
’L 皮むけた感 じが し た”
を得 た。す な わ ち実際の視 力とは別に,
鍼 刺 激によっ て,
“
明る く”
,
“
は っ き り”
と物 を見る こ とが で きる とい う 印 象を与 える 結 果 を得た。 これは7
Kansai College of Oriental Medicine Kansai College of Oriental Medioine
近 視に対 する鍼 施 術の効果 視