ワクチン疫学研究の原理と方法:
新型インフルエンザワクチンの免疫原性と有効性の評価
原 めぐみ *
1,大藤さとこ *
2,福島 若葉 *
2,廣田 良夫 *
2*1佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野 *2大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学
Principles and Methods for Vaccine Epidemiology:
Evaluation of Immunogenicity and Effectiveness of Pandemic H1N1
Influenza Vaccine
Megumi HARA*
1, Satoko OHFUJI*
2, Wakaba FUKUSHIMA*
2and Yoshio HIROTA*
2*1Department of Preventive Medicine, Faculty of Medicine, Saga University *2Department of Public Health, Faculty of Medicine, Osaka City University
Abstract Influenza vaccination is the most effective method of preventing influenza and its complica-tions. In the 2009 influenza A (H1N1) pandemic, monovalent strain-specific pandemic vaccines were devel-oped rapidly. However, they were only available in limited supply at the initial stage of the vaccination campaign. Thus, tiered use of vaccines, after careful prioritization and determination of dose per individual, was important to maximize the benefit of the available doses. In this study, the principles and methods of epidemiological evaluation of influenza vaccines were investigated, focusing on the immunogenicity and effectiveness. The results of the study of the 2009/H1N1 pandemic will then be detailed.
Key words: Vaccine effectiveness(ワクチン有効性),antibody efficacy(抗体有効性),
immunogenicity(免疫原性),influenza vaccine(インフルエンザワクチン)
1.は じ め に グローバル化した現代社会において,インフルエンザ は急速に地球規模で広がる感染症である。2009 年 4 月に メキシコとアメリカで感染者が確認された新型インフ ルエンザ(A/H1N1pdm)は,瞬く間に世界中に広がり, 6月には WHO より世界的流行(パンデミック)であるこ とが宣言された。わが国でも 5 月には患者が確認され, 10月~ 11 月にピークを迎えた。 感染症を制御する最も有用な手段はワクチン接種であ る。2009 年のパンデミックにおいてもただちにワクチン が開発され,10 月には厚生労働省より新型インフルエン ザワクチンの接種の基本方針が打ち出され,インフルエ ンザ患者の診療に直接従事する医療従事者,妊婦及び基 礎疾患を有する者,1 歳~小学校低学年に相当する年齢 の小児,1 歳未満の小児の保護者及び優先接種対象者の うち身体上の理由により予防接種が受けられない者の保 護者等の順に,優先的に接種することとなった (1)。接 種回数については,国民の多くが新型インフルエンザに 対する免疫を持っていないと想定される点,当該ワクチ ンが初めて使用されるものである点から,当初すべての 対象者に 2 回接種とされていたが,諸外国の動向及び臨 床試験の結果を踏まえて 1 回に見直された (2)。適切な 接種回数や量を決定することは,十分な予防効果を得る ためにも,限られたワクチンをより多くの人々に提供す るためにも重要である。 本稿では,インフルエンザワクチンの有効性評価のた めの疫学研究の原理と方法について述べたうえで,我々 が 2009 年のパンデミック時に経験した新型インフルエ ンザワクチンの免疫原性と有効性の調査研究について報 告する。 感染症対策の話題(包括的感染症制御研究会) 受付 2013 年 6 月 26 日,受理 2013 年 7 月 1 日 Reprint requests to: Megumi HARA
Department of Preventive Medicine, Faculty of Medicine, Saga Uni-versity, 5-1-1, Nabeshima, Saga 849-8501, Japan
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2.ワクチンの評価
2.1. ワクチンの有効性
ワクチンの有効性を表す表現に「Vaccine efficacy」と 「Vaccine effectiveness」があるが,両者はしばしば混乱し て用いられることがあるので,はじめに違いを整理する。 Vaccine efficacyは Greenwood と Yule により 1915 年に提 唱された概念で,ワクチン接種による発症率の低下の程 度を次式で表す (3)。 Vaccine efficacy ={(非接種者の発症率-接種者の発症率)/非接種者 の発症率}×100(%) これを変形すると, =(1-接種者の発症率 / 非接種者の発症率) ×100(%) =(1-相対危険)× 100(%) 主にワクチンの評価のために実施される二重盲検無作 為化群間比較臨床試験のように,対象者が常に研究者の 管理下にあって,発症や受療状況などについて詳細に追 跡できるような理想的な環境のもとで実施された研究か ら得られた結果について用いる。
一方,Vaccine effectiveness は,すでに高い Vaccine
effi-cacyが証明されたワクチンが,実際に一般集団の中でど
れくらい発症率を低下させるかについて観察研究におい て評価するもので,Vaccine efficacy と同様の式で求めら れる。基本的に Vaccine effectiveness の程度は,Vaccine
efficacyの程度に比例するが,調査対象とする集団の特性
やワクチン接種に関連する要因(ワクチンの保管や接種 手技など),自然感染やワクチン接種で生じた集団免疫な どの影響を受ける。
Vaccine efficacy,Vaccine effectiveness のどちらの場合 においてもインフルエンザワクチンの有効性の検討にお いて最も重要な点はアウトカムの測定である。インフル エンザの場合,ウイルス分離,血清抗体価測定,迅速診 断キットによる診断,臨床症状などを単独あるいは組み 合わせて使用する。一般に,インフルエンザ以外の疾患 が紛れ込んだり真のインフルエンザが脱落したりする と,アウトカムの誤分類を生じ有効性を過小評価してし まう。これを避けるためには,特異度の高いアウトカム を使用し,かつ観察期間をインフルエンザの最流行期間 に限定することが有用である。そのためには,インフル エンザシーズン全体を通じて対象者全員を同等に,一貫 性を持って追跡し,目的とするアウトカムについて,診 断基準に則って,標準化された方法で,漏れなく把握す ることが不可欠である。 2.2. ワクチンの免疫原性 ワクチンの有効性は,基本的には発症予防効果を主要 評価項目とするべきであるが,疾病の発生頻度が非常に 低い場合や,新型インフルエンザのように新規の感染症 を早急に制御するために接種量や回数を迅速に決定する 必要がある場合などは,発症予防効果についての有効性 を検討する事は困難である。このような場合には,発症 予防との相関性が確立されている抗体価等の代替指標 (サロゲートマーカー)を評価指標として使う。 インフルエンザワクチンの評価の場合,ワクチン接種 前血清(S0),1 回接種後 3 ~ 4 週間後の血清(S1)につ いて,同時に赤血球凝集抑制試験を用いて抗体価(HI 価) を測定し,抗体保有率(Seroprotection, SP: S1≧1:40(%)), 抗体陽転率(Seroconversion, SC: S1/S0≧4 倍,かつ S1≧ 1:40(%)),平均上昇倍数(Mean fold rise, MFR: S1/S0), 抗体応答率(Seroresponse, SR: S1/S0≧4 倍)といった免 疫原性の指標を算出し,国際的な免疫原性評価基準であ る,欧州医薬品審査庁(EMA)基準 (4)(表 1),または, 米国食品医薬品庁(FDA)基準 (5)(表 2)に則って評価 する。 新型インフルエンザワクチンの免疫原性調査は,既に 流行が始まってから実施するため,不可避的に対象者の 中に不顕性感染者が含まれることになる。不顕性感染者 は高いレベルの既存抗体を有するため,ワクチン接種後 の抗体価の上昇が頭打ちされてしまう。その結果,不顕 性感染者が多く含まれる集団を対象に免疫原性を評価し た場合には,過小評価してしまう恐れがある。この影響 を避けるためには,接種前抗体価で層化して抗体応答を 観察する必要がある。 2.3. Antibody efficacy 既存抗体の影響は,Vaccine effectiveness を用いたワク チンの有効性評価においても考慮しなければならない。 例えば非接種者の中に,自然感染によりすでに防御レベ ルの抗体を有する者が含まれる場合には有効性は過小評 価されてしまう。一方,血清診断を結果指標に用いる場 表 1 EMA によるインフルエンザワクチンの免疫原性評価基準 表 2 FDA によるインフルエンザワクチンの免疫原性評価基準 18–60歳未満:以下の 3 つのうち少なくとも一つを満たすこと 1)抗体陽転率>40% 2)平均上昇倍数>2.5 倍 3)抗体保有率>70% 60歳以上:以下の 3 つのうち少なくとも一つを満たすこと 1)抗体陽転率>30% 2)平均上昇倍数>2 倍 3)抗体保有率>60% 文献(4)より引用 18–65歳未満および 6 か月~ 8 歳:以下を満たすこと 1)抗体陽転率>40%(95% 信頼区間の下限値について) 2)抗体保有率>70%(95% 信頼区間の下限値について) 65 歳以上:以下を満たすこと 1)抗体陽転率>30%(95% 信頼区間の下限値について) 2)抗体保有率>60%(95% 信頼区間の下限値について) 文献(5)より引用
合(ワクチン接種群で流行前抗体価が高いため感染後の 抗体価の上昇が頭打ちされてしまう)には有効性は過大 評価されてしまう。また,Vaccine effectiveness を用いた ワクチンの有効性評価は,調査集団全員が接種者である ような場合には検討できない。 これらの影響を受けずに,有効性を評価する方法とし て,Longini らによって 1988 年に提唱された Antibody efficacy(6) がある。これは,流行前の抗体価が防御レベ ル以上の者における発症率(Ip)が,防御レベル未満の 者における発症率(In)に対してどの程度低下している かで評価され,以下の式で計算できる。 Antibody efficacy ={(In-Ip)/In}×100 これを変形すると, =(1-Ip/In)×100 =(1-相対危険)×100 なお,インフルエンザの場合,流行前 HI 価 1:40 以上 が防御レベルの抗体価とされている。 Antibody efficacyには接種者のみを対象者として接種 後抗体価をもとに算出する方法 (7) と,接種者と非接種 者をまとめて流行前抗体価をもとに算出する方法 (8) が ある。後者の場合,自然活動免疫とワクチンによる人工 活動免疫の差を考慮して接種・非接種の状況で補正しな ければならない。また,Antibody efficacy に達成率(ここ では,接種前に防御レベル未満の者が接種によって防御 レベル以上になる割合)を乗じた数値が Vaccine efficacy に相当すると考えることができる (9)。 Antibody efficacyは,調査対象者が全員ワクチンを接種 している場合や,自然感染やワクチンの接種により,す でに抗体を有している者が含まれる集団にも実施可能で あり,無作為化臨床試験よりも実施しやすく,対象者が ワクチン接種後の抗体価を知らない(blind)状態でアウ トカムを測定できる点で優れている。 3.新型インフルエンザワクチンの免疫原性と 有効性の評価 2009年の新型インフルエンザ流行時,当初の接種計画 では,すべての対象者に 2 回接種とされていたが,健常 成人においては 1 回で十分な免疫原性が得られるとする 諸外国からの報告等 (10–13) を踏まえて,医療従事者に 対しては 1 回接種と決定された (2)。それ以外の対象に ついては 2 回接種を前提とし,順次データを整備して接 種回数を決定することとなった。当該計画の中で,中・ 高生,妊婦およびハイリスク者について A(H1N1)pdm09 による免疫原性や Antibody efficacy を用いた有効性の評 価を行った。 3.1. 中高生における新型インフルエンザワクチンの免 疫原性 2009年の新型インフルエンザによる入院患者の半数 近くが 18 歳未満であったにもかかわらず (14),中高生 についての免疫原性を評価した報告はほとんどなかっ た。そこで,中・高生の接種回数を決定するために免疫 原性調査を実施した (15)。 大阪府・兵庫県・福井県の 12 小児科医療機関で,新型 インフルエンザの感染歴が確認されない中学生 63 人,高 校生 48 人,計 111 人を登録した。A(H1N1)pdm09 ワクチ ン(阪大微研 HP01A)0.5 ml を皮下に 3 週間隔で 2 回接 種し,接種前,1 回目接種 3 週後,2 回目接種 4 週後の血 清を用いて HI 価を同時に測定した。1 回目接種後 HI 価 の解析では,接種後にインフルエンザ感染が確認された 5人を除外し(解析対象 106 人),2 回目接種後の解析で は,更に 4 人を除外した(102 人)。 接種前に全体の 21%,中学生の 15%,高校生の 28% が 防御レベルの抗体を有していた。1 回接種後の SP% (95%CI)は全体で 91%(85–96),中学生で 92%(84– 106),高校生で 89%(80–98),SC%(95%CI)はそれぞ れ 78%(70–86),83%(74–93),72%(58–85),MFR は 表 3 中高生における 1 回接種後の抗体保有率,陽転率,平均上昇倍率 N 抗体保有率(SR) 抗体陽転率(SC) 平均上昇倍率 (MFR) n(%) n(%) 中学生 <1:10 30 26(87) 26(87) 25.9 1:10–1:20 21 20(95) 20(95) 13.6 ≧1:40 9 9(100) 4(44) 4.0 傾向性 P=0.151 傾向性 P=0.033 P=0.004 高校生 <1:10 18 14(78) 14(78) 13.7 1:10–1:20 15 14(93) 14(93) 13.9 ≧1:40 13 13(100) 5(38) 2.4 傾向性 P=0.047 傾向性 P=0.031 P<0.001 文献(15)より一部を改変して引用
それぞれ 11.9,15.6,8.3 倍であり,いずれも,EMA お よび FDA の基準を満たした。2 回目接種による更なる抗 体応答は認めなかった。 SCおよび MFR についてみると高校生は中学生と比べ て有意に低い値となっていたが,接種前抗体価で層化解 析した結果(表 3),および,ロジスティック回帰分析の 結果(表 4)から,接種前抗体価の影響による negative feedbackと解釈された。なお,重篤な副反応は認めなかっ た。 本研究により,顕性感染者を除外し接種前抗体価で層 化解析することによって慎重に判断がなされ中高校生へ の 1 回接種が決定された (2)。 3.2. 妊婦における新型インフルエンザワクチンの免疫 原性と有効性 妊婦はインフルエンザによる入院や合併症のリスク が高い集団と考えられ,米国では 10 年以上前から接種が 推奨されてきたにもかかわらず,他のハイリスク者に 比べて接種率は低い (16)。わが国では,妊婦に対するイ ンフルエンザワクチンの接種は,2008 年までは添付文書 の記述からみると実質禁忌とされていたが,2009 年の新 型インフルエンザ流行時に WHO のガイドラインで妊婦 への優先接種が推奨されたことを契機に,優先接種の 対象となった。妊婦へのインフルエンザワクチン接種を 推進するためには,妊婦における免疫原性や安全性, 有効性に関するエビデンスの蓄積が必要であるが,妊婦 を対象とした報告は非常に少ない。そこで,2009 年の新 型インフルエンザのパンデミック時に妊婦において A(H1N1)pdm09 による免疫原性 (17) および Antibody efficacyによる有効性 (18) を評価した。 対象は 2009 年 11 月に大阪市内の医療機関に通院して いた妊婦 150 人であり,チメロサール(保存剤)添加な しの A(H1N1)pdm09 ワクチン(北里研究所 NM001A) 0.5 mlを皮下に 3 週間隔で 2 回接種し,接種前,1 回目接 種 3 週後,2 回目接種 4 週後の血清を用いて HI 価を同時 に測定した。発病調査は自記式の回答によるハガキ調査 を 2010 年 3 月 28 日まで毎週実施し,呼吸器症状による 医療機関受診をアウトカムとした。150 人の妊婦のうち 1回目接種後に A 型インフルエンザに罹患した 1 人を除 いた 149 人を免疫原性の解析対象に,さらに自記式の発 症調査にはがきを返信しなかった 15 人を除いた 135 人 を有効性の解析対象とした。 接種前に全体の 7%,妊娠第 1 三半期の 15%,第 2 三半 期の 7%,第 3 三半期の 5% が防御レベルの抗体を有して いた。1 回接種後の SP%(95%CI)は全体で 89%(84– 95),妊娠第 1,2,3 三半期の SP%(95%CI)はそれぞれ 85%(71–99),87%(77–97),91%(85–97),SR%(95%CI) は全体で 91%(86–96),1,2,3 三半期はそれぞれ 92% (82–102),89%(80–98),92%(86–98),MFR は全体で 17.1倍,1,2,3 三半期はそれぞれ 12.6,17.5,18.6 倍で あり,いずれも,EMA および FDA の基準を満たした。2 回目接種による更なる抗体応答は認めなかった。 接種前抗体価やその他の交絡因子で層別解析を行った ところ(表 5),接種前抗体価が高いほど SR,MFR は有 意に低い傾向がみられた。また季節性ワクチンの接種が あり,A(H1N1)pdm09 接種までの間隔が短いほど免疫原 性が低下しており,直近の季節性インフルエンザワクチ ン接種が免疫応答に影響を及ぼす可能性が示唆された。 有効性の解析は,1 回目接種 3 週後の時点を観察開始 日とし,接種後抗体価が 1:40 未満の者と 1:40 以上の 者でアウトカム(呼吸器症状による医療機関受診)の発 生頻度を比較した。観察期間は,全期間,大阪府におけ る定点あたりのインフルエンザ報告患者数が 1 人以上の 期間(期間 A),同患者数が 5 人以上の期間(期間 B)の 3種類を定義し(図 1),接種後抗体価が防御レベル以上 のオッズ比と信頼区間を期間別に推定した(表 6)。期間 Aおよび期間 B(いずれも流行期)についてみると,第 1,2 三半期の妊婦においてオッズ比の有意な低下を認め た(調整オッズ比:0.09,95% 信頼区間:0.004–0.93)。 Antibody efficacyは(1-0.09)×100=91(%)であった。 また,接種前抗体価が 1:40 未満であった 125 人のうち 109人が接種後に 1:40 以上を獲得した(達成率 87%)こ とから,ワクチンの有効率は 91%×0.87=79(%)と推 定された。 本研究により,妊婦に対する A(H1N1)pdm09 ワクチン の接種は,いずれの妊娠時期においても 1 回接種で良好 な免疫応答が得られることが示された。また,第 1,2 三 半期の妊婦では流行期において呼吸器症状による医療機 関受診を有意に抑制することが確認され,妊婦に対する インフルエンザワクチン接種推奨の科学的根拠が提示で きた。 3.3. 肝疾患患者における新型インフルエンザワクチン の免疫原性 2009年のパンデミック時,慢性肝疾患患者は基礎疾患 を有する者として優先接種の対象となった。慢性肝疾患 患者でインターフェロン治療を受けている場合,その免 表 4 中高生における 1 回接種後の抗体陽転に対するオッズ比 単変量解析 多変量解析 * OR(95%CI) OR(95%CI) 接種前抗体価 <1:10 1.00 1.00 1:10–1:20 1.13(0.18–7.16) 1.14(0.18–7.22) ≧1:40 0.05(0.01–0.20) 0.05(0.01–0.21) 傾向性 P<0.001 傾向性 P<0.001 学校 中学生 1.00 1.00 高校生 0.55(0.20–1.54) 0.86(0.25–3.03) OR:オッズ比,CI:信頼区間 * それぞれ学校,接種前抗体価で調整 文献(14)より一部を改変して引用
疫抑制作用のためにワクチン接種による免疫応答が低下 する可能性や,多くの患者に投与されている強力ミノ ファーゲン C のステロイド様構造のために免疫応答に影 響がある可能性が考えられるが,慢性肝疾患患者におけ る免疫原性に関する報告は限られている。そこで,2009 年の新型インフルエンザのパンデミック時に慢性肝疾患 患者において A(H1N1)pdm09 による免疫原性を評価し た (19)。 対象は 2009 年 11 月に大阪市内の医療機関に通院して いた慢性肝疾患患者 79 人について A(H1N1)pdm09 ワク チン(阪大微研 HP01A)0.5 ml を皮下に 1 回接種し,接 種前,1 回目接種 3 週後の HI 価を測定した。 接種前に 5% が防御レベルの抗体を有していた。1 回接 種後の SP%(95%CI),SR%(95%CI),MFR はそれぞれ, 71%(61–81),72%(62–82),10.3 倍であり,EMA 基準, FDA基準を満たしていた。接種前抗体価やその他の交絡 因子で層別解析を行ったところ(表 7),中高生,妊婦同 様に接種前抗体価が高いほど SR%,MFR は有意に低い 傾向が確認された。また妊婦同様直近の季節性インフル エンザワクチン接種が免疫応答に影響を及ぼす可能性が 示唆された。また,肝疾患患者では,年齢が高い者,BMI が低い者,強力ミノファーゲン C 使用中の者で抗体応答 表 5 妊婦における 1 回接種後の抗体保有率,抗体応答率,平均上昇倍率 N 抗体保有率(SP) 抗体応答率(SR) 平均上昇倍率 (MFR) n(%) n(%) 接種前抗体価 <1:10 92 78(85) 89(97) 24.2 1:10–1:20 46 43(93) 43(93) 13 ≧1:40 11 11(100) 4(36) 2.9 傾向性 P=0.05 傾向性 P<0.001 P<0.001 季節性ワクチン接種との関連 接種なし 114 105(92) 108(95) 20.3 接種あり 35 27(77) 28(80) 9.8 間隔 20 日以上 17 15(88) 17(100) 15.4 間隔 19 日以内 17 11(65) 11(65) 6.8 傾向性 * P=0.002 傾向性 P=0.001 P=0.021 * 接種なし,接種間隔 20 日以上,19 日以内で傾向性の検定を実施した 文献(17)より一部を改変して引用 図 1 大阪府における定点あたりのインフルエンザ報告患者数と観察期間。文献 (18) より一部を改変して引用
表 6 妊婦における,呼吸器症状による医療機関受診に対する接種後防御レベル抗体価のオッズ比
表 7 慢性肝疾患患者における 1 回接種後の抗体保有率,抗体応答率,平均上昇倍率
全期間 期間 A(≧ 1 人 / 定点) 期間 B(≧ 5 人 / 定点) OR(95%CI) OR(95%CI) OR(95%CI) 対象者全員 単変量解析 0.27(0.08–0.96) 0.40(0.11–1.94) 0.35(0.09–1.75) 多変量解析 * 0.28(0.06–1.24) 0.47(0.09–2.84) 0.35(0.06–2.24) 第 1,2 三半期 単変量解析 0.19(0.03–1.13) 0.14(0.02–0.88) 0.14(0.02 -0.88) 多変量解析 ** 016(0.02–1.34) 0.09(0.004–0.93) 0.09(0.004–0.93) 第 3 三半期 単変量解析 0.32(0.05–2.51) NA NA 多変量解析 ** 0.36(0.05–3.30) NA NA OR:オッズ比,CI:信頼区間,NA:計算できず * 年齢,妊娠三半期,妊娠前の BMI,喫煙状況,2009/10 シーズンの季節性インフルエンザワクチン接種, 2008/09シーズンの医師診断インフルエンザで調整 ** 年齢,妊娠前の BMI,喫煙状況,2009/10 シーズンの季節性インフルエンザワクチン接種,2008/09 シー ズンの医師診断インフルエンザで調整 文献(18)より一部を改変して引用 N 抗体保有率(SP) 抗体応答率(SR) 平均上昇倍率 (MFR) n(%) n(%) 年齢 <62 24 20(83) 20(83) 16.5 62–69 28 23(82) 23(82) 16.8 ≧70 27 13(48) 14(52) 4.1 傾向性 P<0.01 傾向性 P=0.01 傾向性 P<0.01 BMI <20.2 26 17(65) 16(62) 7.0 20.2–22.5 28 17(61) 19(68) 7.4 ≧22.6 25 22(88) 22(88) 22.3 傾向性 P=0.08 傾向性 P=0.04 傾向性 P=0.02 接種前抗体価 <1:10 44 30(68) 36(82) 16.8 1:10–1:20 31 22(71) 20(65) 6.0 ≧1:40 4 4(100) 1(25) 3.4 傾向性 P=0.33 傾向性 P=0.01 傾向性 P<0.01 強力ミノファーゲン C 非投与 64 48(75) 50(78) 12.7 投与 15 8(53) 7(47) 4.2 P=0.10 P=0.01 P=0.02 インターフェロン 非投与 48 30(63) 30(63) 7.1 投与 31 26(84) 27(87) 18.3 P=0.04 P=0.02 P=0.01 季節性ワクチン接種との関連 接種なし 48 39(81) 41(85) 20.7 接種あり 31 17(55) 16(52) 3.5 間隔 21 日以上 17 11(65) 10(59) 4.5 間隔 20 日以内 14 6(43) 6(43) 2.6 傾向性 * P<0.01 傾向性 * P<0.01 傾向性 * P<0.01 * 接種なし,接種間隔 20 日以上,19 日以内で傾向性の検定を実施した 文献(19)より一部を改変して引用
が低い傾向が認められた。なお,インターフェロン投与 群で免疫応答が高い傾向が認められるが,SR や SP を結 果指標とした多変量ロジスティック回帰分析の結果から 交絡バイアスであったことが判明した。 本研究により,慢性肝疾患患者においても A(H1N1) pdm09ワクチンは 1 回接種で良好な免疫応が得られるこ とが示された。 3.4. 重症心身障害者における新型インフルエンザワク チンの免疫原性 重症心身障害児・者(以下,重障者)はインフルエン ザ感染による重篤な合併症を起こしやすくハイリスク者 と考えられるが,A(H1N1)pdm09 ワクチンについては報 告がなく,2 回接種による追加免疫についても明らかで なかった。そこで,2009 年の新型インフルエンザのパン デミック時に重障者における A(H1N1)pdm09 ワクチン 接種による免疫原性を健常成人と比較し検討した (20)。 対象は施設入所の重障者 104 人(平均年齢 40.1 歳)と 施設勤務の保健医療従事者(以下,健常者)179 人(平 均年齢 40.7 歳)である。A(H1N1)pdm09 ワクチン(阪大 微研 HP01A)0.5 ml を重障者は 3 週間あけて 2 回,職員 は 1 回,それぞれ皮下接種し,接種前,接種後(1 回接種 3週間後,2 回接種後 4 週間後)の HI 抗体価を測定した。 健常者の 8.9%,重障者の 4.8% が接種前から防御レベ ルの抗体を有していた。健常者は 1 回接種 3 週間後の SP%(95%CI),SC%(95%CI),MFR はそれぞれ 79.9% (73.3–85.5),77.9%(70.8–84.0),7.3 倍と EMA 基準,FDA 基準の両方を満たし,良好な免疫原性を示した。一方, 重障者の免疫原性は 1 回接種 3 週間後の SP%(95%CI), SC%(95%CI),MFR はそれぞれ,56.3%(46.2–66.1), 54.1%(43.7–64.2),5.4 倍と,EMA 基準は満たしたが, FDA基準は満たさず,2 回目接種しても追加の免疫原性 は得られなかった。多変量解析にて年齢や接種前抗体価 の影響を補正しても,重障者は健常者に比べ SP が 0.37 倍,SC が 0.34 倍低かった(表 8)。 重障者では,免疫原性の低下のため,A(H1N1)pdm09 ワクチンで十分な抗体が誘導されず,追加接種による効 果も得られないことが示された。今後,重障者での免疫 応答が低い原因や,接種を繰り返すことで免疫原性が改 善されるかについて更なる研究が必要である。 4. お わ り に 本稿で詳述した研究全てにおいて,接種前抗体価が高 いほどワクチン接種後の免疫原性が低いという関連を認 めた。これは,“Law of initial value” または “negative
feedback”と呼ばれる現象 (21) であり,ワクチンの免疫原 性評価の際には必ず考慮しなければならない。不顕性感 染者が多く含まれる集団や過去の接種により抗体を有す る者が含まれる集団を対象に免疫原性を評価すると,抗 体応答が頭打ちされる者の割合が多くなり,免疫原性を 過小評価してしまう恐れがある。この影響を避けるため には,顕性感染者を除外したうえで,接種前抗体価で層 化して抗体応答を観察することが重要である。2009 年の パンデミックの際も接種前抗体価を考慮せず,単に全体 として集計したならば,1 回接種でよいところを 2 回接 種が必要との誤った判断を導き,混乱を招いた恐れが あった。 また,発症予防効果を主要評価項目とするワクチンの 有効性評価の際にはアウトカムの精度および正確度が重 要である。特に後方視的調査ではバイアスを伴いやすい ので十分な注意が必要である。特異度の高いアウトカム を設定し,インフルエンザシーズン全体を通じて対象者 全員を同等に,一貫性を持って追跡し,目的とするアウ トカムについて,診断基準に則って,標準化された方法 で,漏れなく把握することが重要である。 ワクチンの有効性評価の疫学研究は,十分な知識と理 解,経験と解析能力が求められる。本稿が次のパンデミッ クの際の一助となることを願う。 利益相反なし 文 献 ( 1 ) 厚生労働省新型インフルエンザ対策本部.新型インフ ルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種の基本方針.2009. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu 091002-02.pdf. Accessed June 17, 2013. (2) 厚生労働省新型インフルエンザ対策本部.新型インフ ルエンザワクチン(国内産)接種回数の変更等につい て.2009. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/ 2009/12/dl/info1217-01.pdf. Accessed June 17, 2013. ( 3 ) Greenwood M, Yule GU. The Statistics of Anti-typhoid and
表 8 重障者における 1 回接種後の抗体保有,抗体陽転に対す るオッズ比 * 抗体保有(SP) 抗体陽転(SC) OR(95%CI) OR(95%CI) 対象者 健常者 1.00 1.00 重障者 0.37(0.20–0.66) 0.34(0.20–0.59) 接種前抗体価 <1:10 1.00 1.00 ≧1:10 4.78(2.47–9.25) 1.48(0.87–2.53) 年齢 20–29 1.00 1.00 30–39 0.92(0.37–2.31) 0.78(0.36–1.73) 40–49 0.27(0.11–0.68) 0.46(0.21–1.04) 50–59 0.26(0.11–0.64) 0.41(0.19–0.92) OR:オッズ比,CI:信頼区間 * 表中の因子で調整 文献(20)より一部を改変して引用
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