• 検索結果がありません。

公立文化施設の新たな潮流 吉祥寺シアターにおける公設小劇場の試み

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "公立文化施設の新たな潮流 吉祥寺シアターにおける公設小劇場の試み"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

公立文化施設の新たな潮流

吉祥寺シアターにおける公設小劇場の試み

1.リーディングプロジェクトとしての吉祥寺シアター 2005年5月21日、武蔵野市立吉祥寺シアターがオー プンした。

吉祥寺シアターは、 「現代演劇やダンス等、同時代の 舞台芸術の上演に適した劇場施設と長期上演を支援する 運営方式を備えた公立ではめずらしい単館小劇場」 (武 蔵野市立吉祥寺シアター「施設と運営の概要」記者発表 用資料。 2005年2月9日)である。

吉祥寺シアターの施設面での最大の特徴は、最大定員 239名のブラックボックス型の小劇場と付属するカフェ、

稽古場及び管理部門から構成される施設が単独の建物と して建設されたことである。こうした200席程度の小規 模な劇場は、大ホールに併設されているか、あるいは他 の機能との複合ビルに組み込まれているのが一般的であ る。また、機能面でも市民利用を想定した多目的ホール であることが多く、吉祥寺シアターのように「現代演劇 やダンス等、同時代の舞台芸術」に特化した劇場機能を 持つ例は少ない。

管理運営面での最大の特徴は、長期上演を支援する運 営方式を備えている点であり、 「公の施設」である公立 文化施設の劇場・ホールの場合には、公平性・平等性を 担保するために連続使用を制限する方向であるのに対し て、吉祥寺シアターではむしろ推奨している。

こうしたハード、ソフト両面からの特徴を重ね合わせ ると、吉祥寺シアターは「公設小劇場」という新しいタ イプの公立文化施設として位置づけることができる。

ここでは「小劇場」という用語は単に客席数の少ない 劇場という意味ではなく、 60年代に起こった「小劇場演 劇」あるいは「小劇場運動」というときに用いられてき た「小劇場」を起点とする劇場形式を指す言葉として使 用している。

筆者が1983年に発表した論文、 「「可能性」としての 小劇場」 (建築知識1983年8月号、 「特集・小ホール」

pp.74‑77)において、小劇場を建築計画学的に分析し ている。小劇場の定義として、 「60年当時の小劇場を分 類すると、ひとつは他の用途に使われている空間、例え ば喫茶店や集会場を一時的に劇場として使用するもの、

もうひとつは劇団の活動拠点である稽古場を公演時に劇 場として使用するものだった。稽古場といっても工場や 倉庫、地下室の空間を改装したものだったわけで、いず れにしろ小劇場とは、本来劇場として計画されたのでは ない空間を劇場化したものである」としている。また小 劇場が劇場種別のひとつであることについては、 「小劇 場が誕生した最大の要因は、なんといっても新しい演劇

伊 東 正 示

運動の担い手たちの経済力の乏しきであり、消極的に選 びとられた空間に過ぎなかった。彼らが自分たちの稽古 場兼劇場として手に入れることができた小空間で最初に 行った作業は、既成の劇場概念に基づいて、この空間を 劇場化していくことであった。しかし、小劇場の空間に はプロセニアム劇場の論理は全く当てはまらなかった。

舞台上に劇的なイリュージョンの世界を構築し、観客は それをプロセニアムアーチを通して覗き見るという関係 を成立させるためには、小劇場の空間はあまりにも小さ 過ぎた。小劇場ではなにもかもが見え過ぎてしまうため、

プロセニアム劇場のように、虚構の世界にリアリティを 与えることができないのである。結局、彼らが選びとっ たのは、元の通りの何もない空間だった。しかし、その 空間は意識の上で明らかに変質したのである。小劇場は 消極的な理由で選びとられた空間であったが、そこに積 極的な価値を兄い出したとき、小劇場は確立されたと見 なすことができる。」としている。その後、常設の貸し 劇場としても小劇場が登場することにより、さらに普及

していくことになるが、この時点で「小劇場とは、本来 劇場として計画されたのではない空間を劇場化したもの である。」という当初の定義が成立しなくなる。つまり、

最初から小劇場として計画された劇場空間が登場したと いうことであり、極論をすれば、 「小劇場とはどのよう な空間であろうとも演劇公演を行うために作られた小空 間および演劇公演が行われる小空間のこと」となる。そ こでは、従来のプロセニアム劇場にとっては重要である 舞台袖やフライズを含めた舞台空間あるいは舞台機構、

音響、照明といった舞台特殊設備も、上演を支える舞台 裏の空間も重要ではない。逆に、最も重要となるのは上 演空間としての魅力であろう。前出の論文では、 「劇場 建築の視点から眺めると、小劇場のもたらした最大の功 績は、どのような空間でも劇場となり得ることを示した ことであろう。多くの小劇場では、観客の鑑賞条件は劣 悪であり、舞台裏と呼べるようなスペースもないのだが、

それらの欠点を補っても余りある魅力的な個性を持ち得 ていることによって、既に小劇場は劇場としての市民権 を得ている。それは見方を変えると、劇場としての個性 を持つことがいかに重要であるかを示しているともいえ る。」と記述している。

この論文は建築界に向けたものであり、小劇場の存在 を知り、理解してもらうことを主眼としたものであるが、

ひとつの小劇場の捉え方を示しているものであろう。

また、この論文は20年以上も以前に書かれたもので あり、現在では演劇界も劇場建築も、またそれらを取り 巻く環境も大きな変革を遂げているが、吉祥寺シアター

(2)

を60年代に誕生した小劇場の系譜に位置づけ、当時の 若き演劇人たちが目指した演劇運動の延長線上にある劇 場として捉えたい。かつて、演劇人の手によって作られ た小劇場が、これからは自治体によって設置される「公 設小劇場」の時代へと展開しているのである。

大都市においてはすでに劇場・ホールが飽和状態と なっており、新たな公立文化施設の設置については多く の議論があるところである。また、小劇場は民間によっ て支えられてきたという日本の演劇界の流れもあり、民 業圧迫という批判の声もある。一方、吉祥寺シアターに よって提示された「公設小劇場」という新たな公立文化 施設の形態は、他の自治体が計画している芸術文化施設

にも同類のものが現れ始めている。

それは、杉並区で計画を進めている新高円寺会館や川 崎市が新百合ケ丘に建設する川崎アートセンターなどで あり、 200席規模の小劇場とそれに付随する舞台芸術の 創造空間を設置し、運営についても従来の市民利用の貸 館主体とは異なる、新たな運営組織のあり方や事業展開 などが検討されている。こうした傾向は、吉祥寺シア ターをリーディングプロジェクトとして、 「公設小劇場」

という公立文化施設の新たな潮流が起こる可能性を示し ているといえる。

本稿では、吉祥寺シアターを題材として、公設小劇場 の建設がどのようなプロセスによって進められたのかを 紹介し、公立文化施設の今後の可能性について検討する

材料としたい。

また、筆者は吉祥寺シアターの計画にあたり、計画の 始まる時点から完成に至るまで、株式会社シアターワー クショップ(以下、TWとする。)の主宰者としてハード、

ソフト両面の計画に関わってきた。したがって、本稿で はTWが作成した資料を数多く引用しているが、それら の資料は担当者の大津寅雄、黒揮淑子、小林徹也、平山 瑞絵などTWのスタッフと共に作成したものであり、筆 者の責任のもとにTWが発表したものであることをお断

りしておく。

2.吉祥寺シアターの演劇空間

吉祥寺シアターの計画は、吉祥寺東部地区にある市政 センターの移転計画から生まれた。

武蔵野市では吉祥寺駅周辺再開発計画を進めており、

吉祥寺駅周辺は4つのブロックに分けられている。吉祥 寺シアターの建設地である吉祥寺東部地区は、長い間

「近鉄裏」と呼ばれ、低利用の土地が多く、商業集積の 遅れや風俗営業の店舗が密集していることから環境浄化 問題が課題となっているゾーンである。武蔵野市は環境 浄化のために吉祥寺図書館を設置するなどの対策を講じ てきたが、さらに市政センターの跡地に文化発信の拠点 施設を設置することで、商業の活性化を図り、健全で安 心できる生活環境の創出を図りたいと考えていた。そこ で構想されたのが、吉祥寺シアターである。

劇場の建設においてはソフト先行が望ましいと云われ るが、今回は建設地が決定しており、かつ敷地条件が厳

しいことから、事業内容や運営組織といった管理運営計 画の検討を行う前に、そもそもこの敷地にどのような劇 場施設が建設可能であるのかというハードの検討から始 められた。

計画のスタート時点で想定されていた敷地面積は、

777.03mfとかなり狭く、用途地域が近隣商業地城であ るため、劇場を建設するには客席面積を200m'未満と し、かつ高さについても10m未満に抑えることが条件 であった。これらの条件を加味しながら、 TWでは2つ のタイプの素案を作成し、検討を行った。

ひとつの案は客席部分を完全に地下に埋めて、舞台の フライズ部分のみが地上に飛び出すプロセニアムステー ジ形式の劇場であり、もうひとつの案は舞台上部にフラ イズを持たないブラックボックス形式の劇場である。い ずれの形式でも客席面積の条件から、客席数は200席程 度とした。

プロセニアムステージ形式案は劇場の主要部分が地下 になるため、一階部分は開放的な空間とすることが可能 であり、さらに2、 3階部分に関連機能の諸室を設置で

きるという利点がある。反面、舞台が地下になるために 搬出入用リフトの設置が必要なことや遮音性能としては 有利だが、防板のためには地中連壁で隣地との間を区画 しなければならないなど、地下に設置することによる工 事費の大幅な増加が見込まれた。

ブラックボックス形式案は、最大高さを10mに抑え ながら劇場部分を地上レベルに設置する案であり、地下 部分が少なく、建設費が軽減でき、工事期間も短くて済 む。また、舞台と客席の可変性を高めることによって、

ワークショップスペースとしても活用できるなど、 21世 紀型の小劇場として新たな舞台芸術の創造に寄与する劇 場空間になり得る。反面、従来の劇場という既成概念と は異なる空間となるために、利用者が限定される傾向が ある。特に、地域で芸術活動を行っているアマチュアの 人々にとっては使いにくい施設となる可能性がある。小 劇場が市民権を得たといっても、一般には劇場イコー ルプロセニアムステージ形式という固定概念が存在して おり、ブラックボックス型の劇場は市民の芸術文化活動 団体には認められない傾向が強い。しかし、都内の劇場 では200席以下のものが半数を超えており、それらの劇 場はほとんどすべてがブラックボックス型であり、若手 劇団などの演劇公演はこうした小劇場空間で行われてい る。また、公立文化施設の小ホールはむしろ集会施設と

しての性格が強く、舞台芸術に特化することはなく、平 土間として展示等にも使用できる多目的ホールが多く なっている。

そうした状況を踏まえながら、吉祥寺シアターは演劇 上演を目的とする施設であり、かつ用途地域や高さ制限

といった建築条件と建設コストを出来る限り抑えたいと いう行政からの要望により、ブラックボックス型の小劇 場を基本案とした。

設計者の選定は′IWの提案に基づき、指名プロポーザ ル方式とし、市民の理解を深め、認知度を高めるために

(3)

公開ヒアリングを実施した。

設計候補者として6名の若手建築家がノミネートされ たが、今後の活躍が期待される若手の建築家たちだけに、

それぞれが独創性に富んだ斬新な提案を行った。基本的 にはブラックボックス型ではあるが、より自由度の高い 演劇空間を求めており、舞台と客席という密室空間を開 放する試みが数人の建築家から提案された。例えば、舞 台と客席の境を失くすだけではなく、舞台と客席を取り 囲む壁も失くして、演劇空間とホワイエとが一体となる 提案や、さらにはストリートとも連続した空間として演 技が街路へと拡がったり、逆に道行く人びとを自然にパ フォーマンスに引き込む空間構成なども提案されてい た。建築家の発想はとても自由であり、形に捉われるこ となく演劇の本質に迫るものや、新たな社会と演劇との 関係を構築しようとする積極的な提案などが登場した。

厳正な審査の結果、佐藤尚巳氏が設計者に選定された。

佐藤尚巳氏はラフアユルビイニオリ建築士事務所に在籍 していたときに、東京国際フォーラムの設計監理統括を 務めた経験を持っている。佐藤尚巳氏の提案は、おおま かには建物を3つの部分に分節化している。中央に位置 する劇場はからくり回廊によって二重の壁に囲まれた空 間とし、観客動線と出演者動線を確保すると共に、遮音 性能を高めている。また、前面道路側には二層の都市回 廊を設け、まちとのつながりを演出するという案であっ m

基本設計、実施設計を通してカフェの位置など若干の 変更は行われたが、ほぼプロポーザル案に準じた施設構 成と配置になっている。ローコストにするため、機能重 視とし、形態はシンプル、装飾は排除というデザインコ ンセプトは、むしろ爽やかな魅力を持つ空間を作り出す ことに成功している。劇場空間の特徴としては、以下の 5点が挙げられる。 (前掲、武蔵野市立吉祥寺シアター

「施設と運営の概要」記者発表用資料より)

・舞台への集中力、劇場内の一体感を増すブラックボッ クス型の劇場空間

・舞台の見やすさを重視した段床の客席

・演出の可能性を広げる多様な舞台/客席の配置(組立 て式)

・劇場を取り囲む裏方多用途空間(からくり回廊)

・設備更新や持込を想定しインフラに重点を置いた舞台 特殊設備

3.吉祥寺シアターの設置日的

TWでは、検討のためのモデルプランを作成した後に、

策定業務を受託するための営業ツールとして「吉祥寺東 部地区活性化計画内公共施設計画基本計画策走業務企画 提案書 2001年8月9日)」を作成した。この企画提案 書が、その後の吉祥寺シアターのコンセプトや管理運営 計画を作り出す基礎になっており、重要な役割を果たす

ものであった。

また、重要なポイントのひとつは、業務名称でも明ら かなように吉祥寺シアターの計画は吉祥寺東部地区の活

性化計画の中に位置づけられていることである。つまり、

完成後の劇場は芸術文化面での評価が大きく取り上げら れるが、計画段階においてはむしろまちづくりの視点の 方が上位であり、芸術文化振興や普及といった劇場本来 の機能に関わる目的が第一義ではないという点である。

この事は劇場という施設が舞台芸術のためにあるという 以前に、まちづくりやひとづくりといった都市機能ある いは社会機能のひとつでなければならないと考えるべき であることを示している。公設小劇場はすべての市民に 開かれた施設として、舞台芸術関係者や愛好家のためだ けではなく、人々の福祉の向上に貢献する施設としての 役割を担うという認識が重要なのである。

TWが作成した企画提案書でも、その点を配慮した内 容となっている。

第1章の「本計画のフレーム」では、武蔵野市の都市 計画マスタープランを引用し、将来の市民生活像として

「身近な場所で憩い、遊び、学ぶことができる」 「多様な 人々が集い、交流が盛んになる」という方針と「文化活 動、生涯学習、コミュニティ活動の場と機会」が望まれ ている現状を示している。さらに、吉祥寺地区は「中央 線沿線の成熟した"大人の文化"を土壌に、井の頭線沿 線の活気ある"若者の文化"が合流する街」であり、駅 周辺には大型の商業施設が集積し、沿線の教育施設が充 実していることから、学生を中心とする若者が集まる活 気ある姿を現していると分析している。一方、建設予定 地である東部地区には、 「周辺住民がより安心して暮ら せる良好で快適な環境づくり、にぎわいが溢れるコミュ ニティづくり」と「周辺地域における子供から高齢者ま でが気軽に訪れることができ、芸術文化を媒介とした世 代間や地域間の交流が生まれる場と機会」が望まれてい ることを指摘している。さらに本計画の目的として、「吉 祥寺東部地区内公共施設に、幅広い市民に対する芸術文 化を媒介としたコミュニティの形成、地域に根差した生 涯学習と社会活動の活性化」を目的とした新たな文化施 設を提案している。つまり、吉祥寺東部地区に公共施設 を設置するのは、芸術文化に関する振興や普及が目的な のではなく、芸術文化を媒介としたコミュニティの形成 及び生涯学習と社会活動の活性化こそが目的であるとし ている。

しかし、コミュニティの形成及び生涯学習や社会活動 の活性化が目的であるなら、芸術文化を媒介としなくて も多くの別の選択肢があるのであって、なぜ芸術文化が 最も有効なのかを示すことが重要になる。そして、芸術 文化がある特定の人々のためだけのものではなく、すべ ての市民にとって有効であることを示さなければならな い。そのことは第2章において示している。

第2章は「計画全体の考え方」とし、前章での全国、

武蔵野市、吉祥寺、建設予定地という広域から敷地に至 る現状や傾向を受けて、 「芸術文化を取り巻く全国的な 傾向や、市内の地域的特色、文化施設等の状況を考慮し た上で、 21世紀の武蔵野市にふさわしい、都市生活者が 求める新たな文化施設と行政の試み」を計画全体の考え

(4)

方とし、次の3つの提案にまとめている。

第1の提案は、市民が親しみをもつことのできる魅力 的な文化活動の拠点とすることである。すなわち、 「居 住者だけでなく、通勤、通学者を大きな意味の市民とし て捉え、それらの市民が生活、仕事、勉強等の合間に、

日常的に立ち寄ることができるアメニティ施設」であり、

「訪れた市民が芸術文化に関する情報を入手したり、気 軽に参加できる場を提供することで、明日への活力と刺 激を享受できるような施設」であり、 「芸術文化活動に 関わる人だけでなく、幅広い市民が"居心地がいい" "莱

しいことが見つかる" "新しい仲間が見つかる"といった 気持ちになるような、親しみのある魅力的な施設」とす

ることを提案している。

第2の提案は、地域住民が主体となって、地球市民と しての活動を展開する場所とすることである。それは

「芸術文化を媒介とする"知縁"の形成のために、市民 主体のネットワークや自主的な活動の展開を支援する場 所」を意味している。そこで行われる活動は、 「特に大 学、各種学校、高校等の若者が、学校という枠を越えて 交流し、地域に根差した継続的な活動」であり、 「そこ から優れた人材養成に繋げること」を提案している。ま

た、 「地域住民が主体となり、地域内外や国内外の芸術 文化に関する情報を集積、創造、加工、発信することで、

多様な価値観を認め合い、共有できる地球市民としての 活動」を提案している。

第3の提案は、多様な芸術文化に、多様な形で出会う 場所とすることである。具体的には、 「従来の公共ホー ルの中心であった鑑賞型事業だけでなく、芸術文化につ いて学び、練習し、創造し、交流するといった、多様な ふれあいの機会」を作り、 「若者を中心としながら子供 から高齢者まで、また、居住者以外の通勤通学者にも、

積極的に芸術文化活動‑の参加を促す仕掛け」を施し、

「舞台芸術や音楽のみならず、現代芸術、伝統芸能、サ ブカルチャー等、芸術文化の領域を拡大し、市内在住の 優れた人材に協力を求めながら、多様な芸術文化に多様

な形で出会う場所」とすることを提案している。

これらの提案は、施設の設置日的がまちづくりやひと づくりであったとしても、芸術文化を媒介とする必然性 を明確にするためのものであり、芸術文化の持つ特性が いかにまちづくりやひとづくりに有効であるかを示すた めのものとなっている。

第3章は「基本計画の考え方」であり、計画を具体化 するために必要となる、基本計画段階での各項目ごとの 基本的な考え方を示している。

施設計画では、敷地条件に適合した施設計画、基本設 計へのスムーズな移行。事業計画では、地域住民のニー

ズに応え、ニーズを開拓する事業。組織計画では、民間 との連携、協力、委託等の効率的で開かれた組織。管理 計画では、利用者サービスを第一義とする利用規則や管 理体制。収支計画では、公益性の重視と経営的戦略によ

るアーツ・マネジメントをそれぞれの基本的な考え方と し、さらに各項目ごとに説明を加えている。基本計画段

階では大きな方向性を示すだけで、詳細な検討は次の段 階としている。しかし、将来的な事業実施計画や条例・

規則を制定する場合の拠り所となるため、具体的な展開 を見据えた提案が求められる。ここでは、市民や芸術文 化活動を行う個人や団体に開かれた運営を提案している が、これを具体化することによって従来は希薄であった 演劇人と市民との交流を生み出すことが可能になり、演 劇人には施設利用の優遇や補助金などの税金を財源とし た支援をもたらすことを示唆する表現としている。

2001年9月に武蔵野市と′IWは業務委託契約を結び、

基本構想の策定作業に入った。策定作業を進めるにあ たって、市は同年10月に「吉祥寺東部地区文化施設基 本構想検討委員会」を組織した。

委員会は6名の委員で構成され、委員長には福田重雄 氏(武蔵野文化事業団理事・日本女子体育大学大学院客 員教授) 、副委員長は富永一矢氏(前俳優座劇場支配人)、

委員は高萩宏氏(世田谷パブリックシアター制作課長)、

美山良夫氏(慶庵義塾大学文学部教授)、山崎靖明氏(劇 団影法師代表取締役)、吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究 所主任研究員)が就任した。

武蔵野市第三期長期計画第二次調整計画(平成13年 度から6カ年の計画期間)では、吉祥寺東部地区の整備 について、 「吉祥寺図書館を一つの核とし、吉祥寺市政 センター跡地を文化発信の拠点に利用するなど、都市文 化の発信エリアとして新たなイメージの創出を推進す る。」として、吉祥寺市政センター跡地を文化発信拠点 に利用することが位置づけられた。

委員会は、それを受けてどのような文化発信拠点とす るかを検討し、その基本構想を答申することが求められ た。委員会の進め方としては、 TWと市の担当課が作成 した資料に基づいて協議を行う方式とし、 3回の委員会 の中で、各委員から出された意見や協議結果に基づいて 資料を修正し、 2002年2月に報告書をまとめた。

武蔵野市は、委員会の答申にさらに具体的な内容を加 え、 12月に基本計画案とし、市民や市内の劇団・ダンス カンパニーからの意見や要望を加えて、翌2003年2月 に基本計画を公表した。

2005年2月9日の記者発表用資料「武蔵野市立吉祥寺 シアター 施設と運営の概要」では、設置目的をさらに まとめ直して、以下の3項目としている。

(1)市民交流の拡大と深化

・舞台芸術を通じて、市民の交流を促進すること

・感動を共有することで、人々の交流の輪を拡げること

・多様な価値観を認め合いながら国際交流に繋げること (2)新たな都市文化の発信

・吉祥寺の新たなイメージを舞台芸術によって市内外に 発信すること

・様々な人々の関心を得、人々にとって魅力あるまちと すること

(3)日常的なまちの活性化

・多くの来場者や利用者が日常的に施設に訪れること

・市内外の人々に、吉祥寺東部地区の情報を伝えること

(5)

・吉祥寺東部地区の賑わいと活性化を牽引すること この時点で初めて設置目的の中で舞台芸術に関わる項 目が先頭に置き換えられた。演劇担当の演劇担当のこの ことは、吉祥寺シアターのオープンを間近に控えた記者 発表用の資料であるとしても、検討委貞会報告書では設 置目的の中に「舞台芸術」という言葉さえなかったとこ

ろから出発し、舞台芸術を提供する場としての重要度が 増大したと解釈することができる。

4.小劇場の管理運営

2002年8月に社団法人日本芸能実演家団体協議会が発 表した「劇場事業法(仮称)の提案‑舞台芸術の振興の

ために「劇場」の基盤整備を‑」は、指定管理者制度や 拠点劇場を予見する記述があり、たいへん興味深い資料 であるが、検討の論点として「劇場」を再定義している。

すなわち「劇場」とは、 「舞台芸術に携わり、舞台作品 の創造に関わってきた者にとっては、ごく当然のことと して、創造の場であり、作品が生まれ、観客によって育 まれ、発信される拠点であり、人が集まる場所である。」

と定義している。

小劇場を劇場の一形態として認知させる要因として は、上記の劇場としての要件を満たしていることであり、

事業や組織における専門性が求められる。

吉祥寺シアターの検討委貞会報告書では、公設小劇場 としての管理運営のあり方として、下記の基本方針を示 している。

事業方針としては、 「"同時代の舞台芸術"を提供する」

ことが挙げられており、 「同時代の舞台芸術とは、現代 演劇やダンスなど、その時代における文化の新しい方向 性を生み出す舞台芸術のこと」と定義している。また、

事業プログラムを具現化する手法としては、上演活動の 誘致や上演団体による事業運営の参画、舞台芸術の流通 ネットワークの形成と活用といった、開かれた運営によ る事業展開を提案している。

運営主体については、市直営、既存の財団法人武蔵野 文化事業団、新たを非営利組織の設立という3つの形態 とそれらの組み合わせを提示し、今後の検討としている。

ただし、組織の構成については、より明確なヴィジョン を提示し、 「上演団体や市民など民間との協働体制をつ くり、シアターを核とする交流の活性化に繋げる。その ため、組織の内部は弾力的で柔軟性のあるコンパクトな 体制」であることを求めており、プロデューサーやテク ニカルディレクターなどの「劇場運営に必要な知識や技 術を持つ専門的人材を配置する」こととしている。

もうひとつの重要なポイントは、管理計画の中で、 「優 れた舞台芸術の上演団体に対しては、一定期間の連続利 用等の優遇も検討」することとし、自主事業においては、

「新たに提携事業等のシアターと上演団体との多様な協 力体制を検討」することを提案している。また、管理の 手法として、自主事業と舞台芸術利用の優先、優れた上 演団体による長期連続利用、舞台芸術に適した柔軟な規 則、利用者との共同管理の4項目を提案している。

これらの基本方針を具現化する手立てとして、条例や 施行規則が制定されたが、舞台芸術の上演を目的とする

5日以上の長期利用を優先的に受け付けることや、その 場合には劇場使用料金、設備使用料金が共に2割引とな る規則が作られている。申し込みの受付は2ケ月ごとに 行われるが、ほぼ2ケ月単位での連続使用も可能であり、

これまでの公立文化施設が公平性・平等性の名のもとに 定めていた連続利用の制限とは逆方向の規則となってい る。連続利用の制限という考え方は、地方自治法244条 の「公の施設」に関する条文にある「住民が公の施設を 利用することを拒んではならない」あるいは「不当な差 別的取り扱いをしてはならない」という規定に基づく解 釈であるが、吉祥寺シアターの規則は「住民の利用とは、

施設を借りて使うことではなく、文化的サービスを受け ることが利用であって、 「貸し館」として貸し出すこと だけが利用ではない。」 (前述、 「劇場事業法(仮称)の 提案」)という考え方と同じ解釈によるものである。

運営組織については、武蔵野市の既存文化施設の管理 運営を行っている財団法人武蔵野文化事業団が管理運営 主体として指定管理者となったが、開館に先立って吉祥 寺シアターの支配人の公募を行っている。武蔵野市では 市立図書館でも図書館長を公募した実績があるが、吉祥 寺シアターの支配人として、舞台芸術や劇場経営の経験 者、あるいは民間の芸術文化活動を支援している企業・

団体において、芸術文化関連部署での管理職の経験など を有することを応募条件として募集を行った。また、 「舞 台芸術や劇場経営を通じたまちづくりに関心と熱意」を 持っていることもまた条件となっており、ここでもまち づくりの重要性が示されている。

支配人に選ばれた箕島裕二氏は夢の遊眠社、劇団四 季、松竹、 Bunkamuraなどでの豊富な演劇制作の経験を 持ち、日本大学芸術学部が江古田のまちぐるみで行った 演劇公演のプロジェクトにも参画するなど、まちづくり にも深い関心を持つ日本の演劇界でも数少ない存在であ る。箕島支配人のもと、劇団あるいは劇場での実績を持 つ制作と技術の専門職員が配置され、少人数ながらも経 験豊富なスタッフ構成が確立されている。

事業については、自主事業として鑑賞・普及、参加・

交流、創造・育成の3つのプログラムを核として展開す る方針としており、 2005年6月にスタートしたオープ ニングステージでは2本の演劇公演と1本のダンスと演 劇の枠組みを超える新たなパフオーミングアートの公演 を行っている。これらの公演は事業団の単独主催ではな く、制作会社あるいは上演団体との共催という形式を とっており、構想段階での「提携事業等のシアターと上 演団体との多様な協力体制」を具現化している。共催と することによって、観客動員やリスク分担さらには他の 劇場・ホールとのネットワークを図る可能性も生まれて おり、効率的で効果的な事業の実施が行われている。ま た、創造・育成プログラムは主催事業として取り組んで いるが、 「夏休み子どものための体験型ワークショップ」

として、小学校高学年から中学生を対象とした「演劇講

(6)

座〜ことばとからだで表現してみよう〜」と「ダンス講 座〜自分のからだを感じる〜」を開催した。また、 10月

には初心者を対象としたダンスワークショップとして

「コンテンポラリーダンス体験〜感じる、向きあう、ダ ンスする身体〜」も行っている。

貸館事業の考え方は、市内外の劇団等に対する積極的 な貸館を行うこととし、 「自主事業と貸館事業が共に劇 場の特色を形成する大切な要素」と位置づけている。 4 つの道営方針のひとつとして、 「新たな劇場ブランドを

目指します。」としているが、その方法としてはすべて を自力で行うのではなく、協働やネットワークという手 法を駆使して行うところに21世紀型の新しいスタイル がある。

組織や事業に現れる吉祥寺シアターの管理運営の姿勢 は、劇場と呼ぶにふさわしい内容であり、施設的な特徴 と合わせて、吉祥寺シアターを公設小劇場と呼ぶことが できるだろう。

5.今後の展開

吉祥寺シアターは開館したばかりであり、その成果が 明らかになるのは今年度末あるいは一年間の通年での利 用が終了する来年度末になると予想されるが、計画段階 から長い期間をかけて、多くの専門家と共に検討してき た公設小劇場という新しいタイプの公立文化施設には多

くの可能性が潜んでいると考えられる。

東京のような大都市圏に限らず、市町村合併に伴い突 然複数の劇場・ホールを持つことになった地方自治体で も、文化施設の機能分担などの新たな課題が生まれてい る.吉祥寺シアターは、そうした近未来的な日本の芸術 文化施設のあり方に対するひとつの方向性を示すプロ ジェクトであり、吉祥寺シアターが提示した「公設小劇 場」は公立文化施設の新たな潮流になる可能性が大きい。

既に新高円寺会館や川崎アートセンターの計画が進行し ている状況がそれを証明している。

筆者はTWの主宰者として、吉祥寺シアターの計画 の発端から参加し、ハード、ソフトの両面からコンサル ティングを行ったことからも、吉祥寺シアタ‑の今後の 展開と日本の芸術文化環境に与える効果などに注目して いきたい。

(7)

吉祥寺シアター施設概要

○敷地面積

○建築面積

○延床面積

○階数・高さ

○用途地域

○前面道路

○設   計

876.34 m' 720.86 m2 1,450.79 m'

地上3階・高さ9.9m 近隣商業地域・準防火地域 南側幅員4m/東側幅員7.2m (樵)佐藤尚巳建築研究所

参照

関連したドキュメント

る、というのが、この時期のアマルフィ交易の基本的な枠組みになっていた(8)。

また適切な音量で音が聞 こえる音響設備を常設設 備として備えている なお、常設設備の効果が適 切に得られない場合、クラ

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し

我々は何故、このようなタイプの行き方をする 人を高貴な人とみなさないのだろうか。利害得

だけでなく, 「家賃だけでなくいろいろな面 に気をつけることが大切」など「生活全体を 考えて住居を選ぶ」ということに気づいた生

Q7 

これも、行政にしかできないようなことではあるかと思うのですが、公共インフラに