研究ノー ト
最近 にお ける CSR 経営会計 ブームの背景
柳 田 仁
1.問題 の所在
2.CSR経営会計 の周辺 3.各種ガイ ドライ ンの公表 4.ステー クホル ダー とのかかわ り 5.むすびにかえて
1.
問題の所在本年度 も、 日本経営学会、 日本会計諸学会の 大会テーマ として、CSR経営、社会的責任会計、
環境会計、共生経営等 の論題 を多数見かけた。
近年、雑誌 ・経済記事 、報道 において も、 これ らの事項 を しば しば耳 目す るよ うになった。
最 近 のCSR経 営会計 の隆盛 は、
1 9 6 0, 7 0
年 代 を第一次のブーム と呼ぶな らば、第二次ブーム と呼んで よい。第一次ブーム以来、CSR経営会 計の灯は脈 々 と燃 え続 けてきたが、何故 に2 0 0 0
年代初頭 に この よ うなブームが再来 したのであ ろ うか。2. CSR
経営会計の周辺CSRが経営上、最近 、特 に注 目され るよ うに なった理 由 としては、企業の度重なる不祥事、
多様 なステー クホル ダーの出現、GRIガイ ドラ イ ンの公表等、社会性 を重視 したガイ ドライ ン の公表、環境 問題 の深刻化 、企業活動のグロー バル化、その他企業 を取 り巻 く環境 の変化等が 挙げ られ るが、それ らに関 して以下例示的に紹 介す る。
2‑1
多発する企業の不祥事近年、米国では、エ ンロン、 ワール ドコム等 の大企業 における粉飾決算の摘発が国際的経済 ニュース として大き く取上げ られた。 また、我 が国で も食 品等の偽装表示、 自動車 ・家電の リ
コール、建設業界等の談合、金融業界の不正会 計等、 日常茶飯事の よ うに報道 されている。 そ の度 に当該企業の経営首脳 が深 々 と頭 を下げ、
2度 とこの よ うな不祥事は起 こさない と詫び る 姿は、見慣れた ものになった。 しか し、 この よ うな不始末は、浜の真砂の よ うに尽 きることは ない。特 に最近、マス コミを賑わ した不祥事の 一部 を取上げれば、以下の ものがある。
エ ンロン社 の粉飾 :
1 9 8 5
年創 立の同社 は、急 成長 によってエネル ギー卸売業界 における最大 手企業 とな り、1 9 9 6
年か ら2 0 01
年までアメ リカ で最 も革新的な企業 としてランクされた。 しか し、1 0
余年 にわたる粉飾決算による株価操作で、2 0 01
年 に破綻 、負債総額 は約 2兆円であった。次の ワール ドコム と同様、アメ リカ経済界に多 大な損害 をもた らした。
ワール ドコム社の粉飾 :
1 9 8 3
年創 立 し、短期 間にアメ リカ第 2位 の長距離通信会社 になるま でに成長 した。 しか し、株価維持のための会計 操作で約3兆6千億 円 とい うアメ リカ史上最悪 の負債 を抱 え倒産す る。食品業界の偽装表示 :食品による食 中毒事件、
晶質 ・保持期限不 当表示、無許可添加物使用等 が挙げ られ る。す なわち、異物 の混入 ・賞味期 限経過 による食 中毒、ブラン ド品偽装、牛肉補 助金の不正受給、賞味期限の経過 した原材料の
最近における
CS R
経営会計ブームの背景1 2 9
使用 ・製品の販売、法律上許可 されていない添 加物 を製造工程で使用 し、社会か ら糾弾 され る
ことになった。
自動車業界の リコール :ここで リコール とは、
自動車が道路運送車両の保安基準に適合 しな く なる可能性があ り、その発生原 因が設計 ・生産 過程 にある場合、国土交通省 に届 け出て無料修 理す るものである。例 えば、ある自動車会社の よ うにブ レーキ故障を知 りなが ら長い間隠蔽 し、
大事故 を引き起 こ した結果、その企業 自体の評 判 を大幅に下げた ところもある。
家電業界の リコール :マスコ ミを騒がせた欠 陥 ファンヒー ター、発火電池等の リコールが現 在 も続 け られてい る。製 品回収 は、迅速 に行 う
ことが肝要である。
建設業界の談合 :特 に、大規模建設会社間の 談合による公共事業請負業務の独 占は、繰 り返
し行われ、後 を絶たない。
金融業界の不正会計 :証券会社 ・銀行 ・保険 会社等による不 当表示や粉飾決算で、時には監 査法人 を巻 き込む ほ どの大規模 なもの もある。
不正会計等 によ り企業 自体の信用 を落 とし、一 時は上場廃止のニ ュースが流れ、外資系企業の 傘下に人 らざるを得な くなった もの もある。
以上のよ うな不祥事 によって、当該企業は一 定業務 の禁止、 トップマネ ジメン トの総入れ替 え、上場廃止等迫 られ、更には企業 自体の存亡 が危 うくなることさえある。
この よ うな状況か らCSR経営 を実施す ること が企業存続、また繁栄‑の道 であるとい う考 え 方が、最近では一般に認識 され るよ うになった。
2‑2
多様なステークホルダーの出現ここで、ステー クホル ダー
( s t a k e h o l d e r )
と は、一般 に企業 を取 り巻 く利害関係者 と解 し、具体的には、株主、債権者、従業員、税務 当局、
仕入先、顧客、地域社会お よび 自然等 を含む も の とす る。最近では、 これ らのなかの
○
○ファ ン ド、○
○年金、NPO法人、外国人投資家等、もの言 うステー クホル ダーが増加す ることで、
秘密裏に不当な企業内処理が許 されな くなった。
このよ うな多様 なステー クホル ダーの影響力増 加 によって、ます ます企業の社会的局面が重視
され るよ うになってい る。
例 えば、米国系投資 ファン ドであるステ ィー ル ・パー トナーズ ・ジャパ ン ・ス トラテジック ・
ファン ド (以下、ステ ィール ・パー トナーズ と 呼ぶ)は、今後株価の上昇が見込める投資先 と して即席麺 シェア一第4位 の明星食 品 (発行済 株式総数 の23%保有) のTOB(公 開買付)を2006 年10月27日に宣言 したが、 これ に対 して明星食 品側 は、同月31日に反対表 明を し、敵対的買収 に発展 した。 明星食品は、同業界最大手の 日清 食品に資本提携を打診 し、合意に達 した。スティー ル ・パー トナーズに対抗 した 日清食品 (ホワイ トナイ ト)は、友好的な株式取得 となる。買付 価格 は、ステ ィール側 の1株700円に対 して明 星側 は870円を提示 し、株 式取得 に成功 した。
ステ ィール は、買付 けには失敗 した ものの、結 果 として莫大 な譲渡差益 を得 ることとなった1 のである。
ステ ィール ・パー トナーズは、過去 にもユ シ ロ化 学 工業 、 ソ トー等 に もTOBを仕掛 け、 ま た最近ではサ ッポ ロビール (同18%保有)、ブル ドック ソース (同10%保有)等 に もTOBを宣言 し、いずれ も仕掛 け られた側か ら反発 を受け、
TOBに失敗 してい る2。 ステ ィール の思惑 は、
株式の高値売 り抜 けではないか との うわ さも流 布 している。
その他 、もの言 うステー クホル ダーが挙げた 投資 目的には以下のものがある。例えば、スパー クスはペ ンタ ックスに新取締役 の選任 、ザ ・チ ル ドレンズは中部電力等 に増配、楽天はTBSに
Ihttp:ⅥW .yomiuri.co.jp/mnews/20061030mhO8.htm.2007/04/13
2 そのほか発行済株 式総数 の14%を保有す る江崎 グ リコには増配 を要求、また、アデ ランス(同25%保有)等 に も仕掛 け てい る。
130国際経営論集 No.34 2007
買収防衛策の決議要件厳格化 ・自社か らの社外 取締役 の選任等がある。
2‑3 企業活動のグローバル化
グローバル化 による先進 国 と途上国 との格差 は増大 しつつある。例 えば、一国の予算規模 よ
り大きな先進国のグローバル企業が、途上国に 進出 して利益追求過程 で低賃金過剰労働 、児童 労働等 を強い ることに もなる。 当該 グローバル 企業は、社会的責任 を配慮 して企業運営 を行 っ ていても、その企業の子会社、孫会社、仕入先 企業、請負企業、得意先企業等のサプライチェー ンにおいて上述の よ うな反社会的な事態 を引き 起 こす こともある。
また、逆の場合 も考 え られ る。す なわち、C
S R
に関心 を持 つ多国籍 企業 の進 出に よって国 内企業の反社会的行動が防止 され ることもある。2‑4
環境問題の深刻化環境問題は深刻の度を年々高めてお り、国家 ・ 企業 ・個人等の利害が対立す る場合、予断の許
さない状況にきている。最近では特 に、グロー バル な問題 として京都議定書遵守等、温暖化ガ ス削減問題 が重要視 されている。 これ に関 して は、別稿 に譲 る。
2‑5
その他、企業を取 り巻 く環境の変化規制緩和、情報化 の進展等 によ り強者 と弱者 の格差がます ます大 き くなっている。例 えば、
規制緩和によって従来、全 く考 え られなかった 異業種か らの当該部門‑の進出、また情報機器 ・ 技術 で進んでいる先進国企業ほ ど利益獲得の機
会が多い。
更 に、EU圏では ドイ ツ、 フランス、 ポル ト ガル等の よ うに失業問題 が、社会的にも、経済 的にも深刻な影響 を及ぼ した国々もある。また、
ベル ギーの よ うに
CS R
関連 ロ ビス トが4
万人以 上 もいる国もあ り3、企業を取 り巻 く環境は国 ・ 地域等によって種 々雑多である。3. 各種ガイ ドライン等の公表
3‑1 GRlガイ ドライン(1) 2002年版ガイ ドライン
GRI( Gl o b a lRe p o r t i n gI n i t i a t i v e )
は、 1997年 に ア メ リカ の 非 営 利 組 織 で あ る セ リ‑ ズ( CERES: Co a l i t i o nf わ rEn v i r o n me n t a l l yRe s p o n s i b l e Ec o n o mi e s )
との合 同事業 と して、持続 可能性 の報告書 における質、厳密 さ、利便性の向上を 目的 と して発 足 した4 。GRI
の発 表 したガイ ド ライ ンの使命 は、組織が活動内容や製品 ・サー ビスの経済 ・環境 ・社会的局面について報告す るために活用す るものである5。本 ガイ ドライ ンは序文、ガイ ドライ ンの使 い方、報告原則、報告書の内容、用語集 と付属文書の5部か ら構 成 されている。
2002年版 の枠組みにおける指標 として経済的 影響、環境、労働慣行 ・公正な労働条件、人権、
社会、製品責任 が挙げ られてお り、社会的局面 も経済 ・環境 と同様 に重視 され た ところに特徴 がある。以下では、本ガイ ドライ ンが挙げてい る社会的局面のみについて簡単 に触れ る。
労働慣行 と公正な労働条件 :次の人権 と共に、
I LO
の 「多国籍企業 と社会政策 に関す る原則 の 三者 宣言 」 や経 済協 力 開発機 構( OECD)
の「多国籍企業ガイ ドライ ン」等 が取 り入れ られ
3拙稿 「ヨー ロッパ諸国の経済、環境政策
・cs R
経営等 を現地に見 る (2)」、『産業経理』 vol.67 No.1 2007年、産 業経理協会、1 1 1
頁。4河野正男他監訳 『GRIサ ステナ ビ リテ ィ リポーテ ィング ガイ ドライ ン 2002』 (2002 GlobalReportingInitiative) 4頁。
5 同上、7頁。
最近 にお ける
CS R
経営会計ブームの背景1 3 1
ている。す なわち、雇用 においては労働力、雇 用創 出総計、平均離職率お よび従業員の福利厚 生 を指標化 してい る。 労働/労働 関係 において は労働組合等の割合、運営上の変更情報の提供 お よび従業員の意思決定‑の参画規定の指標化 である。安全衛生においては労働 災害お よび職 業性疾病 に関す るILO行動規範‑の適合性 、合 同安全委員会の従業員構成割合、一般的な疾病 ・ 病欠 ・欠勤率 ・業務上の死亡率等 を指標化 して
いる。教育研修 においては従業員別 の職位 ・職 域別年平均研修時間、雇用適正維持のための従 業員支援お よび職務終了‑の対処プ ログラムの 指標化である。多様性 と機会 においては機会均 等お よびその監視 システム、上級管理職お よび 企業統治機 関の男女構成比率等、多様 な文化的 指標化である6。
人権 :方針 とマネジメン トにおいては業務上 の人権問題 に関す る方針 ・ガイ ドライ ン ・組織 構成 ・手順 に関す る記述、投資 ・調達に関す る 意思決 定の 中にお ける配慮 、scや請負 業者 に おける人権パ フォーマ ンス‑の考慮等の指標化 である。差別化対策 においては業務上のあ らゆ る差別 の撤廃 のための監視 システム等の指標化 が必要である。その他、組合結成 と団交の 自由、
児童労働 の撤廃、強制 ・義務労働 の撤廃 、懲罰 慣行、保安慣行、先住民の権利 の指標化が挙 げ
られている7。
社会 :地域社会 においては組織 の活動 によ り 影響 を受 ける地域‑の配慮、贈収賄 ・汚職 に関 す る方針 ・マネジメン トシステム、組織 と従業 員の遵守 システムの指標化である。政治献金 に おいては ロビー活動 ・献金 に関す る方針 ・マネ ジメン トシステムお よび遵守 システム、更に競 争 と価格設定の指標化 も挙げ られている8。
製 品責任 :顧客の安全衛生においては製 品 ・ サー ビスの使用における顧客の安全衛生の配慮、
製品 とサー ビスにおいては商品情報 ・品質表示 に関す る方針 ・マネ ジメン トシステム ・遵守 シ ステムの指標化である。その他広告、プライバ シーの尊重の指標化 も挙げ られている9。
(2) 2006年版ガイ ドライ ン(第3版) GRIは2005年12月 にガイ ドライ ン第3版 ドラ フ トを発表 し、各界の意見の聴取 を行 い、2006 年10月にガイ ドライ ン第3版 を発行 した。 この 改訂版 の構成 は、経済 ・環境 ・社会 とい う3本 柱 を継承 し、本体 には大 きな変化はないが、特 に、 「社会」的観点に比重がおかれている10。
ガイ ドライ ンの具体的構成は、その本体であ るサステナ ビリテ ィ レポーテ ィング ガイ ド ライ ン(RG)、GRIアプ リケーシ ョンレベル (AL)、 IP(指標 プ ロ トコル) か ら構成 され てい る。IP は、更に経済 (EC),環境 (EN)、製品責任 (pR)、 労働慣 行 とデ ィーセ ン トワー ク (LA)、 人権
(HR)、社会 (so)か ら成 っている。
本体、IP, 業種別補足文章 を一体化 したた めに、全てに準拠す ることは不可能 とな り、準 拠条件 は取 り除かれ、アプ リケー シ ョン レベル に留まることとなった11。 RGの内容 は、序文、
持続可能な発展お よび透 明性 の責務、導入、サ ステナ ビリテ ィ報告の概要、パー ト1:報告内 容、品質、バ ウンダ リ‑ (報告組織範囲) を確 定す る、パー ト
2
:標準開示、一般的な報告留 意事項か ら構成 されてい る。第3版 の報告内容の確定に関す る報告原則で は、従来の網羅性か らマテ リア リティ (重要催)、
す なわち経済的 ・環境的 ・社会的影響の著 しさ
‑ と重点移動 した。 なお、ステー クホルダー包 含性 、サステナ ビリテ ィ ・コンテ クス トもそれ
h同上、57頁。
7同上、58頁。
8同上、59頁。
9同上0
10NPO法人GRI日本 フォー ラム 「サステナ ビリテ ィ レポーテ ィング ガイ ドライ ン」 (和訳暫定版Vo1.2)0
1‑後藤敏彦 『GRIガイ ドライ ン第3版改定ポイ ン ト解説』
132国際経営論集 No.34 2007
と並んで 中心課題 と してあげ られ てい る12。 また、品質確 定のた めの報告原則 では、バ ラ ンス、比較 可能性 、正確性 、適 時性 、明瞭性 、 信頼性 の7つ の原則 を挙 げ、その遵守 を要請 し てい る。 更 に、バ クンダ リー の設 定 に関す る報 告 ガイ ダ ンスにつ いて も言及 してい る。 この よ うなガイ ドライ ンを作成す るこ とで、報告書 の 内容 の定義 、報告 され る情報 の品質確保 お よび 報告書 のバ ウンダ リ‑設 定 に関す る報告原則 と そのガイ ダンスを提供 してい る1
3
。3‑2 1 SO26000
ISOにお ける 社 会 的 責任 (sR)の認 識 は 、 1992年 の 「リオデ ジャネイ ロ地球環境サ ミッ ト」
お よび 「持続可能 な開発 に関す る世界首脳会議』
(WSSD)で、既 に表 明 され ていた14。
ISO理 事 会 は 、2001年 に消 費 者 政 策 委 員 会 (COPOLCO)で の検 討 後 、企 業 の社 会 的 責任 に関す る国際規格 を開発す るこ とを決定 した。
また2003年 には、ISO高等諮 問 グル ー プ (SAG) は所 定 の勧 告 が充足 されれ ば、ISOはSRに関す る国際規格 開発作業 に着手すべ きで ある とい う 結論 を出 してい る。更 に、 これ らの勧告 を うけ、
ISO技術 管理評議 会 (TMB)は、社会 的責任 に 関す るガイ ダ ンス とな る国際規格作成 のた めの 作 業 グル ー プ (wG)の設 置 を提案 し、共 同議 長 国 と してブ ラジル (ABNT)とス ウェーデ ン
(SIS)の標 準化機 関 を選 出 した。
社会 的責任 に関す るガイ ダンス規格 の適用範 囲 として、
① 社会責任 に対応す る組織 を支援す るこ と
② 次 の点 に関連す る実用 的なガイ ダンスを提 供す るこ と
一 社会 的責任 の運用 の実現
‑ ステー クホル ダー の特 定お よび参画
一 社会 的責任 に関す る報告 と主 張の信頼性 向上
③ 実際の成果 とその改善 を強調す るこ と
④ 顧 客の満 足度 と信頼 を向上 させ る こと
⑤ 社会的責任 に関す る共通 の用語 を普及 させ るこ と
⑥ 既 存 の文 書 、条約 お よび他 のISO規格 と首 尾一貫 し、矛盾 しない こ と15を挙 げてい る。
以上 の よ うに、本 ガイ ドライ ンは、その適 用 範 囲等 を詳細 に記載 して、啓発的 な部分 も多い。
3‑3
その他 のガイ ドライ ン等EMAS改定案 :EUにお いて は、CSRに限 らず 加盟 国間の見解 を強要せず 、協調 ・調和 を図 っ て い る16。 csR問題 は、2000年3月 に リスボ ン 欧州理 事 会 で討議 され、2001年1月 には、OEC
D
「多 国籍企 業 ガイ ドライ ン 改訂版 」 で採択 され て い る。 この 改 定 は、 ISO26000に対応 す るものであ る。AAIOOOS17 :GRIのRGを補 完 し、 ステ ー クホル ダー ・エ ンゲー ジメン トを通 じて説 明責任やパ フォーマ ンスを改善す るこ とを 目的 と した、説 明責任 につ いての基準であ る18。
SA8000:1997*米国のCEPAA(CouncilonEconomic PrioritiesAccreditationAgency、現・SAI)によっ て策 定 され 、 これ はSocialAccountability 8000 の略称 である。SA8000は、国際労働機 関 (ILO) のほか、世界人権 宣言や子供 の権利 条約 を基礎 として策定 され た、基本 的 な労働者 の人権 の保 護 に関す る規範 を定 めた規格 で ある。 これ は具 体的 には、児童 ・強制労働 の撤廃 、労働者 の健 康 ・安全、結社 の 自由 と団交の権利 、差別撤廃 、
12同上
13NPO法人GRI日本 フォー ラム、前掲 書、6‑18頁。
14 日本 工業標 準調 査会 ・日本 規格 協会仮訳 :lSO小冊子(2006年11月)、3頁。
15同上、4頁。
16「環境 会計 か らCSR経 営会計‑ の展 開」、『企業会計』、2007年4月号 、 中央経 済社、69頁。
17AccountAbility1000Series.
18http://www.accountabilityability.org.uk/default.asp.
最近におけるCSR経 営 会 計 ブ ー ムの背 景 133
マネ ジメン トシステム等、8つの主要分野か ら 構成 されている19。
この他に、GlobalCompact20、GlobalCorporate Responsibility原則21、ETI22等 が あ り、 国際的 に
も社会的局面を更に重視す る方向に進んでいる。
4. ステークホルダーと社会的かかわ り
企業が資本主義社会のなかで競争 に打勝 ち生 き残 るためには、一定の満足利益 を獲得す るこ とが重要な企業 目標 になる。 しか し、現代資本 主義社会では、それだけではな く社会関連的局 面にも配慮 しなけれ ば、企業の長期持続的存立 は危 うい。消費者指向の企業において初めは渋々、
あるいは温情主義的にCSRを実施す るところも あった。その結果 、当該企業のイメージア ップ に貢献 し、業績 向上に好影響 を与 えることが確 認 され るよ うになった。以下では、現代企業が、
ステー クホル ダー と社会局面 とを どのよ うに関 連付 けているかを考察す る。
4‑1
取引先 との関連特に、現代企業 において川上か ら川下に連な る企業連鎖は重要であ り、種 々の問題 を包含 し ている。
例 えば、三井物産では、アパ レル メーカーか らの製造委託 によ り、国内外の工場で衣料 品の 生産 を行 っているが、生産工場選定の際に、特 に厳 しい工場選定基準 を設 けてい るとい う。す なわち、価格 ・品質 ・納期 といった基準ばか り
でな く、就業規則の有無、若年労働者、労働 時 間、給与支払、保険等の労務面、建物建設証明、
メンテナ ンス記録 、各種設備許可証等の安全 ・ 衛生面等 を確認 している。 更に、 自社の関係会 社担 当者が現地 を訪問 し、現地各種法規お よび アパ レル メーカーの基準に合致 しているか否か を書面 と現物 との整合性 か ら、また従業員‑の イ ンタビュー等 によ り実地調査 をす る。基準 を 満た していない点については改善指導 を行い、
約3ケ月 をめ どに実施状況 を確認す る。 改善指 導 を繰 り返 し、それが確認 できた段階で、起用 を決定す るとい う。更に、同項 目では、コー ヒー の生産 ・加 工に関す る国際基準 を設定 してい る ウツカ フェ (Utz Kapeh)とい うコー ヒー認証 機 関の認証 コー ヒー取扱 について も紹介 してい
る 2 3 。
また、東芝 グループでは、各社の生産 とサー ビス提供 に重要な役割 を担 っている調達取引向 けに、CSR調達方針 の理解 と協力 を得 るために
「東芝 グループ調達方針 について」 を作成 し、
各国の継続取引のある調達先すべてに 「調達方 針
」
の理解 と協力 を要請 している24
。4‑2
株主 ・投資家 との関連株主 ・投資家 との関連では、企業の重要な経 営情報 を適時に伝達す る と共に、投資家価値の 最大化 を図 ることが必要である。
例 えば、東芝 グループ行動基準においては、
「お客様 、株 主 をは じめ とす る投資家、地域社 会等か ら正 しい理解 と信頼 を得 るため、経営方 針、財務デー タ等の企業情報 を、適時適切 に開
19http://www.csrjapan.jp/wording/S.htm12007/09/ll.SA8000は、企業が制御 で きる、あるいは影響 を与 える問題 をマ ネ ジメン トす るための方針や手段 を開発 し、管理 し、強化で きるよ うにす るための社会的責任 に対す る基準である。
また、 この基準は、企業の方針 、手順 、活動が合致 しているか否かをステー クホル ダーに示す役割 も担 ってい る。
コ0 この中で、アナ ン前国連事務総長 は、各事業活動 の中で9つの原則 を 自発的 に受 け容れ、公共政策 をサポー トす る ことを要請 してい る (http://w w.unglobalcompact.org/)0
2】これはICCR(InterfaithCenteronCorporateResposibility)の発行 したCSR全範囲を包含 した原則である.
22EthicalTradingInitiativeBaseCode.
23三井物産 『三井物産CSRリポー トー社会 と会社2006』37‑38頁。
24TOSHIBA 『csR報告書2006‑社会的責任 ・環境経営報告』29頁。
134 国際経営論集 No.34 2007
示」す ると定め、基本方針 としてい る。す なわ ち、金融商品取引法、その他 の法令お よび上場 している証券取引所の定める適時開示規則 に沿っ た情報開示 は もとよ り、各種法令 ・規則 に該 当 しない情報であって も、投資判断 に影響 を与 え ると思われ る重要な情報 を、で きるだけ速やか にかつ公正 に開示 し、経営の透 明性 を向上 させ てい る。 その他 、国内外 の機 関投資家 ・アナ リ ス トの訪 問取材 に積極 的に対応 、個人投資家 向 けのサイ トを充実 させ 、 よ り理解 しやすい よ う に工夫 してい る とい う25。
資生堂では、 「成長性 の拡大 と収益性 の向上」
に よ り企業価値 ・株 主価値 の最大化 をめ ざす と ともに、株 主の理解 と信頼 を得 るために、適時 適切 な情報開示や対話 な ど、 コ ミュニケー シ ョ ンの充実 を図ってい る。 そ して具体的 に、質の 高い成長 を通 した株 主還元、適時適切 な情報 開 示 、具体的 にはSRI(Socially Responsiblelnvestm ent)、積 極 的 なIR (Investment Relation)‑ の 取 り組み、株 主 との コ ミュニケー シ ョン (株 主 総会、株主 ビューテ ィー フォー ラム、株主優待) を挙 げてい る26。
4‑3
従業員 との関連我 が国企業 においては、元来、人材 こそが基 本 、最大の資産である とい う考 えを持つ ところ が多い。 かつ て、 「人本 主義」 とい う書名 の経 営文献がベ ス トセ ラー になった こともある。
例 えば、三井物産 では、次の3項 目を挙 げて、
社員一人ひ とりが能力 を最大限に発揮 し成長 で き る、働 きや す い職 場 環境 づ く りを進 めて い る27。
(1)
人事制度 ・人材育成 に関する考 え方 (∋人事制度 を 「企業 の使命 、理念 を実現す るための もの」と位 置づ け、社員一人ひ と り
25TOSHIBA、前掲報告書、28頁。
26資生堂 『資生堂csRレポー ト2006』31頁。
27三井物産、前掲 リポー ト、39‑41頁。
28東芝、前掲 レポー ト、30‑32頁。
が生 き生 き と働 ける会社 にな るための人材 開発 を 目指 し、 「職群 」 に よる人事制度 を 導入
②個人能力評価 では、価値創 造 を行 う過程 で 発揮 され た行動や 、仕事 に取 り組む姿勢 を 新 しい評価基準 として導入
③ 自己啓発 、OJT(現場教育)、OFFJT(隻 合研修)の三位 一体 に よ り、個人能力 を極 大化す るための人材 開発 の推進
④各階層 の社員 を対象 とした様 々な人材 開発 プ ログラムの準備
( 2)
働 きやす い職場環境づ くり①社員の ワー ク ・ライ フ ・バ ランスを支 える 制度の整備
②長時間労働 の改善 ・計画休暇制度 の導入
③契約社員 の正社員‑の採用制度 の導入
④社員満足度調査 の実施
(ア)多様 な人材 の活用 を推進
① 「ダイバー シテ ィ推進委員会」創設 による 人材活用
②性別 に関係 な く、職務 と能力、適性 に応 じ た配置
③海外拠点 スタ ッフの研修
④障害者雇用 の促進
また、東芝では、初 めに前年度 の 目標 に対す る実績 を掲載 し、その後 に6項 目の 目標 を挙 げ てい る28。
(1)人権 の尊重 (2)多様性 の尊重
① ワー ク ・ライ フ ・バ ランスの実現
②障害者雇用
( 3 )
従業員 の声 を聞 く仕組み (4)人材 の活用 と育成G)人材 の適材適所 の配置 と公正 ・公平な評 価
②多彩 な教育研修
最近におけるCSR経営会計ブームの背景 135
(5)健全な労使 関係 (6)職場の安全衛生向上
①安全 と健康
②労働 災害の防止
③健康管理の充実
(彰アスベ ス ト、HIV ・AID等課題 ‑ の取 り 組み
更に、資生堂では、人材育成の基本 フレーム、
多様性 の尊重の他 にメンタル‑ル ス‑の取 り組 み を挙げてい る29。
以上の よ うに、各社 とも社員‑の厚遇 は共通 しているが、その関連や程度 は各社 によって多 様である。
4‑4
顧客 との関連現代企業において、あ らゆる企業活動の原点 は、顧客にある といって も過言ではない。資生 堂CSRレポー トでは、顧客の要望 を全社員 が共 有 し、商品やサー ビスに生か している。具体的 には、顧客 との コミュニケー シ ョンとして ウェ ブサイ ト、顧客 ウオ ッチプ ログラム、顧客窓 口 を設 けている。 また、顧客満足に向けた取 り組 み としては顧客満足度ア ップ活動、フィール ド
トレーニングチー ム活動、ユニバーサルデザイ ン推進 、顧 客 の声 を商 品作 りに反 映 させ てい る30。
東芝では、顧客の声 をすべての発想の原点 と し、顧客に満足できる製品、システム、サー ビ スを提供す ることを理念 として、以下の項 目を 目標 として挙げてい る31。
(1) 「CSR推進方針」 に基づ き、顧客満足度 の向上
(2) 品質管理 と向上‑の取 り組み (3)顧客が求 める情報の提供 (4)顧客 との接点の重視
コq資生堂、前掲 レポー ト、33‑34頁。
30資生堂、前掲 レポー ト、28‑29頁。
31東芝、前掲報告書、25‑27頁。
32 三井物産、前掲 リポー ト、43‑45頁。
136 国際経営論集 No.34 2007
(∋顧客相談窓 口にお ける取 り組み
②顧客サポー トの取 り組み
③個人情報保護 と情報セキュ リテ ィの取 り組み
(5)顧客の声 を生かす :顧客の声の共有 と活 用の仕組み
(6) ユニバーサルデザイ ンを推進
特に、生産過剰の時代、顧客至上主義でいか ざるを得 ない。
4‑5
社会 との関連企業 と社会 との関連は、国際社会か ら地域社 会まで種 々雑多である。企業は、経営活動 をす る過程で社会 における様 々な社会的問題 に遭遇 す る。
三井物産では、その課題解決 のため本業を越 えた社会貢献活動 に取 り組み、以下の よ うな考 え方 を示 してい る。 同社 で は、 その経営理念 (MW )に基づいた 「社会貢献活動方針」 を定 め、その社会 にお ける存在意義や本業 とのかか わ りをよ り強 く意識 し実践 を 目指 している32。 社会貢献活動方針 :
基本理念 として、三井物産の経営理念 に沿っ て、地域社会 ・国際社会 との調和を図 りなが ら、
ステー クホル ダー との友好 関係 を築 き、大切 な 地球 と、そ こに住む人々の夢溢れ る未来作 りの ために積極的に貢献す る としてい る。
行動方針 として、(ヨグローバル連結ベースで の浸透 を図 り、国際交流 ・教育 ・環境の領域 に 重点 を置 く。②経済的貢献のみな らず従業員の 参画 も視野に入れた社会貢献活動 を 目指す。③ 社 内外の情報 を積極的に発信 し、そのフィー ド バ ックを受 けて継続的な活動内容の改善 を図 る
としてい る。
更にこの項では、社会貢献活動実績 、ボラン
ティア紹介週間、在 日ブラジル人指定教育支援、
三井物産環境資金/2006年助成案件 、助成案件
‑の社員参加やセ ミナー開催 、北京大学三井冠 講座 、米国での様 々な活動か ら、豪州 と日本の 架 け橋 に とイ ン ドネ シア奨学生の支援 に関 して
も挙げている。
また、東芝では、 「地球内企業」 として、 「人 と、地球の、明 日のために」のスローガ ンの も と、世界の様 々な国や地域の文化 ・慣習 を尊重 しなが ら社会 に貢献す るとしてい る33。
社会貢献活動 :
基本方針 として、 自然環境保護 、科学技術教 育、社会福祉、国際親 善、スポー ツ ・文化振興 の5重点分野 を定め、社会貢献活動 を進 めてお り、その活動‑の支出 (総額約30億 円)内訳 を 円グラフで示 している。 それ によると科学技術 教育40%、スポーツ ・文化振興24%、 自然環境保 護3%、社会福祉3%、国際親善1%、災害支援等2 9%となってい る。創業130周年 を記念 した活動
を展 開、 「社会貢献賞」創設 、 について も言及 している。
子供たちの未来のための項では、学校や子供
‑の支援活動 を行 ってい る。その具体的な活動 としてフイリッピンの小学校‑の教科書の寄贈、
イ ン ドネ シアの小学校支援、中国では毎年 2校 の小学校建設等 を挙 げてい る。 「自然環境 を学 ぶ」の項では、御殿場市に 「東芝の森」をオー プ ン、 (財) 日本 自然保護協会 との協業で 自然 観察指導員の育成 、また、災害支援の項では、
米国‑ リケ‑ ン、フイ リッピン ・レイテ島地す べ り被災地支援活動 を挙げている34。
更に、資生堂ではその固有の文化財産 をもと に、地域社会 との連携 、国際社会 との調和 を図 りなが ら、多 くの 「モ ノ」や 「コ ト」 を社会 に 発信す るとしてい る。す なわち、社会活動の領 域 においては、美 しい生活文化の創造、 ノウハ ウ ・人材等 を生か した活動、社会全体または地
33東芝、前掲 レポー ト、33‑35頁。
34東芝、前掲報告書、33‑35頁。
35資生堂、前掲 レポー ト、35‑36頁。
域社会のニーズ ・問題 に対応す る活動 を挙げて いる。学術支援 においては、皮膚科学領域等の 支援、大学薬学部等‑の講師派遣等、本業 と関 連 した領域での支援活動が多い。 災害支援活動 では、ハ リケー ン 「カ トリーナ」お よびパ キス タン地震‑の義援金支援等がある。海外での本 業 を通 じた支援では、ラオス女性 自立のための 利用技術習得支援、シンガポール乳がん撲滅キャ ンペー ン協賛、ニュー ジー ラン ドがん協会のセ ミナー活動資金提供等 を挙げてい る35。
以上、三井物産、東芝、資生堂における社会 関連活動 を紹介 したが、本業に関連 した活動が 多いよ うである。社会的責任 の本 旨か らして、
各企業には本業 を超 えた社会貢献にも更に力 を 入れ るべきである。
5.
むすびにかえてCSR経営会計ブームが再来 した背景には、多 発す る企業の不祥事、社会情勢の変化 に伴 う多 様 なステー クホル ダーの出現、環境問題 の深刻 化 、GRIガイ ドライ ンの公表等が挙 げ られ る。
また、企業が、社会か らの批判 を受 ける前に予 防措置 を講 じるとい うこともある。更には、ス テー クホル ダー とのかかわ りを配慮せず して、
企業の存続 と持続的発展はあ りえない ことを、
他社の失敗例か ら学習す るよ うになった ことに もある。
現代企業は、短期的な利益第‑主義に拘泥 し、
社会 とのかかわ りも顧慮 しなけれ ば、 もはや生 き残 ることは出来ない状況に直面 しつつある。
CSR経営会計では、企業活動 とその社会的責任 との調和 を探求 し、企業活動 を間接的に支援 し なければな らない。
最近におけるCSR経営会計ブームの背景 137