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近江八幡をあるく・みる・きく −町家を拠点とした研究

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Academic year: 2021

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近江八幡をあるく・みる・きく

−町家を拠点とした研究・教育活動の実践−

中 島     智

Graduate School of Policy and Management, Doshisha University

概要

 同志社大学大学院総合政策科学研究科および 政策学部の井口貢研究室では、滋賀県近江八幡 市の旧市街を対象に、町家を拠点とした研究・

教育活動を

2012

年度から開始した。地域で多 くの人びとと共に学ぶフィールドワークを重ね ながら、報告者を含む参加した学生は、地域に おける文化政策の現実に触れることができた。

また、活動の過程における福祉やアーツに関わ る活動を行う多様な主体との出会いから、こう した主体との連携を視野に入れた学生と地域の 協育による文化開発への展開可能性についても 言及している。

1.本報告の趣旨

 本稿は、同志社大学大学院総合政策科学研究 科および政策学部の井口貢教授による

2012

年 度の演習の中で、2012年4月から

10

月にかけ て実施された近江八幡市旧市街における町家を 拠点とした研究

教育活動の報告である。なお、

本報告は、以上の演習にティーチング・アシス タントとして関わった報告者の見聞をとりまと めたものであり、井口教授の閲読を頂いてはい るが、文責は報告者に帰属することをお断りし ておく。

2.風景を誇るまち―近江八幡

 近江八幡市は、近江商人発祥の地のひとつと して知られ、1991年に滋賀県下初の重要伝統

的建造物群保存地区に選定された旧市街の界隈 には、古い商家のまち並みを見ることができる。

また、1972年から市民が主導した八幡堀の保 存・修景の取り組みは、まちづくりの代表例と して有名となった。この八幡堀周辺の地区には 白壁の町家が並んでいる一方、それらとは対照 的ともいえる、W

・M ・

ヴォーリズ(1880-1964)

の設計した西洋風の建築を見ることもできる

写真1

】。他にも同市では、

琵琶湖最大の内湖

西の湖周辺に見られる水郷風景の保全などが進 められている。2005年には「市内すべての風 景は先人から受け継がれた大切なもので、市民 みんなの共有財産である」とした「近江八幡市 風景づくり条例」を制定、都市計画ならぬ「風 景計画」を施行したことでも話題になった。

 このように、近江八幡のまちづくりを見ると き、「風景」がキーワードとなっていることに 気づく。風景計画においても表層的な景観形成

写真1 2・3 回生合同フィールドワーク演習     (ヴォーリズの設計した旧八幡郵便局前)

撮影: 郭育 仁〔総合政策科学研究科博士課程(後期課程)・

TA〕(2012年7月29日)

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中 島     智

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ではなく、あくまでも市民の自主的な風景づく りを通してまちの文化を継承していくことが強 調されている。近年では「文化的景観の保存と 活用」といった文脈で語られることの多い、こ うした一連の「風景」へのこだわりは、結果と して交流人口の増加をもたらすこととなり、国 内有数の観光地となるに至っている。現在、ま ちの、とりわけ旧市街の風景に関わる課題のひ とつに点在する空き町家の活用があり、これに 井口貢研究室も関わっている。地域の社会福祉 水準の向上に資する文化政策やまちづくり、そ うした発想をベースとした観光のあり方を研究 テーマとしている我々には、たいへん魅力的な まちなのである。

3. 町家を拠点とした研究・教育活動の 実践

 町家は、伝統的なまち並みを構成する重要な 要素であり、まちの固有価値の淵源である文化 資源のひとつだ。その活用にあたっては形式的 に外観を維持するだけでなく、町家がまちの中

に存在する意味や価値に関わる次元から考察す る必要性を痛感していた筆者であるが、今年度 から町家を拠点とした研究事業に関わる僥倖に 預かった【表

】。その事業とは、井口研究室が

近江八幡市から同市多賀町の築

100

年の町家

「旧吉田邸」を無償で借り受け、ここを拠点と

してまちづくりや観光、町家の活用について研 究し、具体的な解決策を提案する、というもの だ。既に春学期からフィールドワークを実施し ており、今回は福祉文化の問題に焦点があてら れた。目下、滋賀県が同市にあるボーダレス・

アートミュージアム

NO-MA(滋賀県社会福祉

事業団)との連携のもと推進中のアール・ブ リュット1の取り組みについて、滋賀県職員で 総合政策科学研究科博士課程(前期課程)に在 籍する四塚善弘氏を介して同ミュージアムを訪 問し、関係者の方々からお話を伺った。

 また、学部の演習では、市民団体「八幡まち や倶楽部」(近江八幡市仲屋町)と連携して活 動を開始した。これは、空き家となった築

250

年になる酒蔵を大学生と地域が連携して活用す るプロジェクト「まちなか国際交流・大学連携 拠点づくり」に参画し、地域政策に関する問題

表 2012 年度の活動内容(2012 年10 月現在)

1 Art(芸術)とBrut(ワイン等が生(き)のままである様子)の合成語で「生の芸術」という意味のフランス語。1945年に画家のジャン・

デュビュッフェが考案した概念である。正規の美術教育を受けていない人が自発的に生み出した既存のモードに影響を受けていない絵 画や造形のことを指す。http://info.art-brut.jp(閲覧:201210月1日)

実施日 場所 概要 主な協力先

2012/4/8

旧吉田邸 下見、活動打合 近江八幡市

2012/4/15

旧吉田邸・旧市街 町家ゼミ、実地調査(予備調査)

2012/5/20

かわらミュージアム

NO-MA

町家ゼミ、アール・ブリュットの

取組に関する調査 滋賀県社会福祉事業団

:斉藤誠一氏・滋賀県

2012/6/9

近江八幡まちや倶楽部

旧吉田邸 第1回(まちなか国際交流・大学

連携拠点づくり) 近江八幡まちや倶楽部

:宮村勲氏(代表)

2012/7/12

近江八幡市役所・旧吉田邸他 大韓民国・忠北大学校 視察案内 近江八幡市他

2012/7/29

近江八幡まちや倶楽部

旧市街 学部2回生・3回生合同

フィールドワーク演習

近江八幡まちや倶楽部、工房安土 夢、NPO法人エナジーフィールド

:中田洋子氏(常務理事)

2012/9/6

旧吉田邸 清掃・草刈 近江八幡市

2012/10/7

井口教授自宅(米原市)

10

13

日の打合せ

NPO

法人

NPO

ぽぽハウス

:井口淳子氏・高瀬瞳氏

2012/10/13

旧吉田邸・NO-MA・旧市街

NPO

法人

NPO

ぽぽハウス 障害をもつ子どもたちとの交流

NPO

法人

NPO

ぽぽハウス

:福井久美子氏

69日および729日は学部の演習、107日・13日は院・学部の合同。

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近江八幡をあるく・みる・きく

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写真 2  地域住民の方々と施設(酒蔵)内の清掃活 動を行う本学学生)

撮影: 郭育仁〔総合政策科学研究科博士課程(後期課程)・TA〕

(2012年6月9日)

写真 3  清掃後の交流会(ミシガン州立大学の学生 と歓談する本学学生)

撮影: 郭育 仁〔総合政策科学研究科博士課程(後期課程)・

TA〕(2012年6月9日)

の発見、解決のプロセスを実践的に学ぼうとい うものである。地域住民の方々や他大学の学生 と一から事業を立ち上げ、対話しながら積み上 げる作業は机上の知識ではなく、各自の経験と して政策的思考を身に付ける格好の機会となっ ている【写真2・3

】。また、近江八幡市と隣

接する東近江市でアーツを通じて町並みの魅力 を発信する国際芸術祭「BIWAKOビエンナー レ」を主催する

NPO

法人

「エナジーフィールド」

にもお世話になり、町家の活用ならびに風景づ くりを検討するひとつの方法論について、現場 の苦労とあわせて理解しえた。

4.学生と地域の協育による文化開発へ

 表題の

“あるく・みる・きく”

とは民俗学 者宮本常一の学問の姿勢を示した言葉である。

それは、調査の方法であるばかりでなく、真 に生きる力となる政策的想像力を磨いていく

「コンヴィヴィアリティのための道具」(Illich,

1973)なのだととらえたい。当然ながら、我々

の目指すフィールドワークは、悪しき経験主義 に陥ることでも、座学で学んだ理論を現実に当 てはめることでもない。様々な経験、出会い を積み重ねつつ個別具体的な事実を比較類推 し、自分なりのものの見方や考え方、フィロソ フィーを養っていくことである。

 一方、文化開発の研究は様々な分野からアプ ローチされ始めているが、その体系的な整理や 理論構築といった作業は、今後の課題である。

もちろん今回の事業でも、上述した福祉文化と 融合した形での町家の利活用による地域活性化 モデルの開発を目指している。さらに、大学間 連携事業に採択されたため、近江八幡市内外の 多様な主体の連携を視野に入れた文化開発の実 践が可能となった【写真 4

】。その際、一方的

に何かを教える/教えてもらうのではなく、互 いに学びあう姿勢を大切にしたいと考えてい る。教育でなく、あえて「協育」(井口,2007)

と呼ぶゆえんでもある。学生と地域の協育・学 びの相互交流が、いかなるまちの文化の創造へ とつながるだろうか。限定的な文化(財)行政 から、総合的な文化政策への転換に向けて我々 のチャレンジは、始まったばかりである。

写真 4  旧吉田邸で障害をもつ子どもたちと交流す る本学学生

撮影: 井口 貢教授〔政策学部・総合政策科学研究科〕(2012 1013日)

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中 島     智

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参考文献

井口貢、2007「地域で協育し、地域を協育する観光文化」井口 貢編『まちづくりと共感、協育としての観光』水曜社 中島智、2011「観光政策の現状と課題」井口貢編『観光文化と

地元学』古今書院

近江八幡市・建設部 都市・風景づくり課、2006『近江八幡市  水郷風景計画 概要版』

Illich, I.,1973 Tools for Conviviality,New York: Harper Colophon paperback edition.

参照

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