企業横断的調整活動に関する一考察
──スウェーデンの調整活動を通じて──
西 村 純
(社会学研究科産業関係学専攻博士課程後期)
は じ め に
本稿の目的は,調整型市場経済と呼ばれるスウェーデンにおける産業別組合 の調整活動を,賃金交渉を通じて観察することである。ホール・ソスキス
(2007)によれば,各国の経済活動は,市場経済によって動いているという部 分は共通しているものの,それぞれ固有の制度を抱えているがゆえに,一様に ならないものとされている。彼らは,その違いを大きく調整型市場経済と自由 な市場経済の二つに分類している。彼らの言う調整型市場経済と自由な市場経 済の違いは,次のようにまとめることができるであろう。
すなわち,市場メカニズムと一企業組織内(hierarchy)におけるルールによ って雇用のルールを決定しているのが自由な市場経済であるのに対して,それ ら二つに加えて,企業横断的な集合体(association)のルールによっても雇用 のルールを決定しているのが,調整型市場経済である(ホール・ソスキス
2007 ; 9−10)(1)。したがって,彼らの視点を基に調整型市場経済の特徴を端的
に言えば,市場と組織(hierarchy)のルールの間に企業横断的な組織(associa- tion)のルールが組み込まれているということになる。
彼らは上のような視点に基づきアメリカ,イギリス,ドイツ,スウェーデ ン,日本などの先進諸国をそれぞれ振り分けた。彼らの分類は以下のとおりで ある(表1)(2)。
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このように,スウェーデンは,調整型市場経済に分類されているわけである が,具体的な調整活動については,ホール・ソスキスでは述べられていない。
また,ホール・ソスキス編著(2007)の中に所収されているセーレン(2007)
においても,交渉形態の変化を通じてスウェーデンの調整活動が存在している かどうかが述べられているのみである。それゆえ,ホール・ソスキス(2007)
やセーレン(2007)からは,企業横断的な組織が行っている調整活動の手続き や実態が曖昧なままとなっている。
そこで,本稿では,彼らの枠組みにおいて調整型と呼ばれる所以がどこにあ るのかを明らかにするために,スウェーデンの賃金交渉における調整活動の一 部を紹介する。そして,それを通じて,スウェーデンにおける調整活動を知る ために必要な今後の研究課題を提示したい。
ところで,スウェーデンにおける調整活動は,日本の研究者の間ではどのよ うなものとして述べられてきたのか。ここでは,宮本(1994)と篠田(2001)
を取り上げて考察してみたい。
宮本(1994)は,まずスウェーデンの労使関係の特徴として,「集権的で強 力な組織をもった経営者団体と労働組合,労使の中央交渉,政府と労組の緊密 な関係と成長戦略」の三つをあげている(宮本1994 ; 37)。また,スウェーデ ンの労働組合の特徴として,「高い組織率と集権的な組織構造,集権的な団体 交渉,積極的な政策参加」の三つをあげている(宮本1994 ; 37)。そして,そ れらの特徴,特に集権的な組織構造や団体交渉が,脱産業化と国際化を契機と して,多元化,分権化といった方向へ変容していると主張している。
本稿とのかかわりで重要なのは,集権的な組織構造や集権的な団体交渉と述 表1
自由な市場経済 ・オーストラリア ・カナダ ・イギリス ・アメリカ 調整型市場経済 ・オーストリア ・ベルギー ・デンマーク
・フィンランド ・ドイツ (・日本) ・オランダ
・ノルウェー ・スウェーデン ・スイス 出所)ホール・ソスキス(2007);68より作成
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べていることからも分かるように,宮本氏が,スウェーデンの組合が企業横断 的な組織によって労働力を取引してきた,と認識していることである。では,
氏が明らかにした集権的な団体交渉とは一体どのようなものだったのであろう か。宮本氏の明らかにしたところによると,スウェーデンの労使関係における 主要なアクターとそれらの関係を図示すると図1のようになる。
上図から分かるように,スウェーデンには横断的組織として,まず労働側に LO(ブルーカラーの労働組合),TCO(ホワイトカラーの労働組合),SACO/SR
(大卒エンジニア労働組合)の三つの主要組織があり,さらにこれらの三つ は,民間と公共部門の両方を統括している(3)。また,経営側には,SFO(国営 企業連盟),SAF(経営者連盟),KFO(協同組合経営者連盟)の三つの主要組 織がある(4)。
以上のように,宮本氏は,スウェーデンの諸アクターとその交渉関係を明ら かにした。このようにスウェーデンに存在する諸アクターを紹介されると,こ れらの組織が何をどのようにして調整してきたのかが気になる点である。しか しながら,宮本氏はそれらのことには触れず,紹介したアクター間の交渉関係 が複雑化し,多元化していったことを述べるのみである(図2)。
図1
出所)宮本(1994);38を転載
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このように,宮本は労使当事者の関係の一端を明らかにしている。しかしな がら,彼の研究は,労使の上部団体,下部団体の名称,及びそれらのアクター がどのアクターと交渉しているのかを明らかにしたのみであり,具体的にどの ような調整活動が行われていたのかについては,述べられていない。また,賃 金交渉においてどの団体にどれだけの権限があるのかも明らかにされておら ず,よって,どの団体が賃金交渉の中核を担っていたのかも分からないままと なっている。
次に,篠田氏は,Traxlerが提示した「組織化された分権化」という概念(5)を 基に1990年代以降の賃 金 交 渉 を 概 観 し て い る ( 篠 田2001)。 氏 は , 篠 田
(2001)において,スウェーデンの労使関係が,1997年にスウェーデンの産業 界の労使によって締結された産業協約(6)によって,産業レベルを超えた調整活 動を再開していると主張している。本稿とのかかわりで重要なことは,篠田氏 が,産業協約の締結によって,スウェーデンの労使関係は,中央集権的な体制 から組織化された分権化へと変化した,と結論づけていることである(篠田
2001)。しかしながら,彼もまた,産業協約が締結されたこと,およびその協
図2
出所)宮本(1994);39を転載
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約の内容に簡単に触れるだけで終わってしまっており,新たに生まれた産業レ ベルの調整活動の実態にまでは入り込めていない。よって,結局のところ組織 化された分権化とは一体何なのかという肝心要の部分が,よく分からないまま になっている。
また,先行研究で全く触れられていない部分として,産業別組合内における 調整活動がある。従来の研究では,上部団体が下部団体を調整していることが 強調されてきたが(7),産業別組合内にも複数のセクターがあり,したがって,
彼らがそれぞれ結ぶ産別協約の内容をいかにして調整するのかも重要な調整活 動の一つだと思われる。
このように,これまでの研究では,調整型市場経済と呼ばれているスウェー デンの労使関係における上部団体と下部団体における調整活動や産業別組合内 における調整活動が不明瞭なまま残されているといえる。こうした問題点を少 しでも改善すべく,本稿では,スウェーデンで行われている調整活動につい て,賃金交渉を素材にして,できるかぎり明らかにしたい。
なお,本稿では,1997年以降の労使関係を対象としている。その理由は,
一般に分権化が進んだと言われる80年代以降のスウェーデンにおいて,大き なターニングポイントが1997年だったからである。1983年にLOとSAFに よる中央体制が崩壊して以降,新たな労使関係の形を見いだせていなかったス ウェーデンの労使関係が,新しい安定的な労使関係の形態を構築したのが,1997 年であった。本稿では,まず,現在のスウェーデンの労使関係を明らかにする ために,対象時期を最新の労使関係が構築された時期にしている。
本稿の流れは,まず,1節で産業横断的な調整活動を担っているアクターに ついて述べる。次に,産業内調整について,現状で明らかになっていることを 述べる。そして,最後に,それらの事実発見を高梨(1965)や氏原・仁田・松 崎(1981)の枠組みを参考にすることで,スウェーデンにおける調整活動を考 察するとともに,今後の課題を提示する。以上の三つの作業を通じて,調整型 市場経済の実態に迫っていきたい。
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1.上 部 団 体
本節では,まず,産業横断的組織のアクターについて見ていく。その後に,
産業横断的調整の成果について若干の考察を行う。
1−1.アクター
(1)LO
賃金交渉には参加しなくなったとはいえ,今でもLOでは,傘下の組合の団 体交渉を調整している。ただ,今回の調査(8)では,LOに関しての調査は行え なかった。それゆえ,調整を担っている組織の紹介のみにならざるを得ない。
簡単に紹介だけすると,以下の三つがあげられる(9)。 漓 団体協約委員会(Council for Collective agreement)
LO内には団体協約委員会という組織があり,傘下の組合からそれぞれ 一人ずつの16人とLOの事務員から構成されている。この場で傘下の組 合同士が,意見交換を行っている。
滷 小グループ(Small group)
上の団体協約委員会とは別に,LO傘下の各セクターの代表が集まって 協議を行う小グループがある。構成は,傘下の民間部門と公共部門の代表 の5人とLOの事務員一人の計6人からなっている(10)。
澆 REPS
これは全ての組合から150人が集まり行う会議で,一年に二回行われる。
以上の三つの組織が,民間部門と公共部門を含めた全ブルーカラー労働者の 組合間の調整を担っている。
(2)スウェーデン産業組合(Swedish Union Within Industry)
これは,サービスセクターや公共部門を除くスウェーデンの産業界の産別組
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合が,作ったグループである(11)。スウェーデン産業組合(Swedish Union Within
Industry以下SUWI)は,スウェーデン産業の発展のためにできることで,産
業別組合の意見が一致する事柄について産業を超えて協力していくことを目的 としている。SUWIには,次の三つの代表的な組織がある。
漓 委員会(Council)
SUWIの最高意思決定機関であり,加盟している全ての組合の代表とチ ーフネゴシエーターから成る組織である。委員会の議長は,加盟している 組合から一年毎に持ち回り制で決められる。委員会は,最低月に一度開催 されている。
滷 ALI(Agreement, Legal issues, Industrial unions)グループ
これは,各産別組合のチーフネゴシエーター(12)から成る組織であり,委 員会への議題を提出するために集まる他に,産別交渉中に各産別の調整の 場として週に一度,会合が開かれることになっている(13)。
澆 The Political Economist Group
組合に所属している経済学者や調査者から構成されている。このグルー プの中にはさらに12人程度の小グループがあり,彼らは年に8から10回 程度の会合を開いている。政治経済学者のグループ全員が集まる会合は,
年に数回開催される。彼らは,ALI Groupと同様に委員会で取り扱う議題 を準備する他に,年に一度,賃上げ率,雇用状況,インフレ率,競争力な どを独自に分析した報告書を作成している。
以上の三つが代表的な組織である。特に重要なのは,各産別組合のチーフネ ゴシエーターで構成されるALI グループであろう。この組織は加盟組合が産 別交渉を行っている間,週に一度の会合を開いていることから,産業横断的な 調整活動の一端を担っている組織と言える。ただ,IF-Metall 中央交渉部のR 氏の発言から判断すると,ALIグループは,情報交換の場のようであり,賃金 交渉中に提携している産業別組合に対して具体的に何かを行っている組織では ないようである(14)。
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(3)産業の発展と賃金形態に関する協約(協調協約)
この協約は,スウェーデン産業組合の呼びかけで民間の主要産業の労使(15)が 1997年3月17日に締結し(16),その後,1999年8月18日に改訂され現在にい たっている(17)。この協約は,産業の発展のために行わなければならないこと と,賃金交渉の手続きに関する事柄が定めており,スウェーデンの労働力の1 /5(約80万人)をカバーしている(EIRR 1997 a)。
賃金交渉の調整活動との関係で重要なことは,産別交渉に何らかの影響を与 えると思われることが,この協調協約の付帯規則として制定された交渉協約に よって定められたことである。その中でもとくに重要なことは,(ア)賃金交 渉のスケジュールを前もって労使に決めさせることを協約で規定していること と,(イ)産別交渉に影響を及ぼす組織や委員会が新たに作られたことの二つ である。
まず,(ア)賃金交渉のスケジュールを前もって労使に決めさせることとは 一体どういうことなのか。この規則は,交渉協約第5条において定められてお り,具体的には,労使当事者は,新しい協約締結に向けた労使交渉のスケジュ ールを前もって決めなければならないことを定めている。そして,もし,当事 者でスケジュールの作成について合意できなければ,少なくとも現協約の終了 日の3ヶ月前にお互いの要求を提示しなければならないことが定められてい る。また,それ以降に新しい要求を提示することは,仮にもしその要求をその 時期に提示することに合理的な理由がない場合,禁止されている。
次に,現協約の有効期限の一ヶ月前になっても新しい労働協約が締結できて いない場合,Impartial Chair(18)によって,交渉が仲介されることが定められて いる。また,労使には,争議行為を行う前に,Impartial Chairへ事前にその旨 を通達することも,あわせて義務付けられた。
このように,交渉協約は,要求の提示時期や交渉の進め方を規定しているの であるが,どうして,このような規定を定めなければならなかったのであろう か。一つの理由として,それまでの産別交渉では,労使がなかなか要求を提示 しなかったことがあげられる。要求を提示しなければ交渉が行えないので,交
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渉協約締結前のスウェーデンは,なかなか労使交渉がはじまらないという問題 を抱えていた(19)。このことによって,新しい協約の締結が以前の協約終了時期 から半年以上遅れるということも珍しいことではなかった(20)。こうした事態を 解決するために,定められた規則が,交渉協約第5条であったと考えてよいと 思われる。
次に(イ)の産別交渉に影響を及ぼすと思われる新たなアクターであるが,
この協約によって三つのアクターが新たに誕生した。その三つとは,漓産業委 員会(Industrial Committee),滷産業経済委員会(Economic council for Indus- try),澆Impartial Chairの三つである。以下で順次見て行こう。
漓 産業委員会(Industrial Committee)
この組織は,協調協約の締結と同時に作られた労使の中央組織の代表か らなる組織である。産業委員会の役割は,協調協約で定められたことを傘 下の団体に遵守させることと,スウェーデン産業の発展やそこで働く労働 者の生活向上を促進させるために存在する問題について,話し合いを行う ことである。そのために,産業委員会は,通常一年に最低二回開催される ことになっている。また,労使のどちらか一方が要求すればいつでも開か れることになっている。さらに,産業委員会は,協調協約の遵守に対して 責任を負っているので,協調協約に付帯している交渉協約の遵守に対して も責任を持つことになる(21)。彼らが行う業務の中で賃金交渉に影響を及ぼ すと思われるものに,産業経済委員会のメンバーの任命とImpartial Chair のメンバーの任命がある。
このように,産業委員会には,産業経済委員会とImpartial Chairのメンバー を任命する権限が与えられている。それゆえ,この二つの組織が,賃金交渉で 果たしている役割が重要になってくる。なぜなら,これらの組織の果たす役割 が大きければ,そのメンバーを任命する産業委員会の賃金交渉に対して及ぼす 影響も大きいと思われるからである。ただ,本稿では,この点について深く入 り込むことはできていない。それゆえ,本稿では,組織の簡単な説明に限定せ ざるを得ない。
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滷 産業経済委員会(Economic council for Industry)
産業経済委員会は,組合や経営者連盟に雇用されていない経済学者4名 からなる組織である。産業横断的調整とのかかわりで重要だと思われるこ とは,彼らが,賃金交渉に先立って,直近の財政や経済状況(The prevail- ing financial and economic condition)に関するレポートを発行しているこ とである(22)。
澆 Impartial Chair
これは,協調協約を締結している労使が,交渉協約で定められている通 りに労使交渉が行えるようにサポートする機関である。Impartial Chair は,最小で五人,最大で十人からなり,メンバーは,産業委員会によって 任命される。Impartial Chairは,主に現在はリタイアしているかつての組 合代表や経営者団体の代表が任命される。彼らの役割で重要なこととして 次の二点がある。
! 賃金交渉の仲介
彼らは,労使の当事者の話し合いで合意することが困難な時に,労使 の合意がなくても自身の判断で,労使に対して自身の解決案を提示し,
労使が新しい協約を現協約が終了するまでに結べるように交渉の仲介を 行うことができる。実際に仲介を行う中立委員は,Impartial Chairのメ ンバーの中から,Impartial Chairの代表が任命する。
ただし留意点として,彼らの出す解決案には何ら拘束力はなく,それ を受け入れて新しい協約を締結するのか,それとも現協約の終了をもっ て労使紛争に突入するのかの選択は,労使当事者に任されている(23)。
" 紛争予告から最大2週間のクーリングオフ期間の設定
彼らには,労使から紛争予告を受けた時(24),最大2週間のクーリング オフ期間を設定する権限が与えられている。このことは,彼らには,労 使が紛争を伴わずに自主的に新しい協約を締結できるような環境を整え る権限が,与えられていることを意味している。
スウェーデンでは争議行為を行うためには,相手側に一週間前に通知するこ
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とが義務付けられているので,このクーリングオフ期間を入れると,実際に労 使が争議行為を行う前に,Impartial Chairは,最長3週間の交渉期間を設ける ことができることになる。クーリングオフ期間中に行われるストライキやロッ クアウトは違法となるので,Impartial Chairには,労使関係を平和的で友好的 なものにするために一定の権限が与えられていると言える。
以上,産業横断的な調整活動を行っているとされている組織について見てき た。これまでに述べたことから,労働者側に限って言えば,スウェーデンには 産業横断的な調整を行っている組織が二つと調整を規定している協約が一つあ る。二つの組織とは,LOとSUWIであり,一つの協約とは協調協約のことで ある。このように,上部団体が存在し,そこで話し合いがもたれているという 意味では,スウェーデンでは産業横断的な調整活動が行われていると言えるか もしれない。では,これらの組織が実際にスウェーデンの労使関係にどのよう な影響を及ぼしているのか。以下で見て行こう。
1−2.調整の成果
スウェーデンには産業横断的な調整を担う主体がいることが,確認できた。
では,それらのアクターが行った調整活動は,実際にどのような影響を傘下の 産業別組合に与えていたのか。この点が確認されなければならない。以下で は,漓交渉のスケジュール,滷産別協約の賃上げ率及び協約締結日の二つを通 じて,調整の成果について考えてみたい。
漓交渉のスケジュール
協調協約の箇所で少し触れたことであるが,協調協約締結以降,産業レベル の労使交渉のスケジュールは大きく変化した。具体的には,現産別協約が終了 する前に,新たな協約が結ばれることが多くなったようである。この点に関し ては次の組合の方の話が,端的に協調協約の影響の大きさを物語っていると思 われる。
「(協調協約の…筆者)重要な成果の一つは,(2004年協約の終了期限で
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ある…筆者)2007年の4月1日までに新しい協約を締結できたことで す。……以前の交渉では,皆が他の産業がどのようになるのかを見てお り,締結されている協約の期限が過ぎてから,交渉が行われていました。
例えば,私が,IF-Metallの中央組織に赴任した1986年などは,交渉が8 月に行われていました。労働協約の期限は何カ月も前に終了していまし た。ですから,協調協約が締結された1997年以来,協調協約は,よく機 能していると思います。」(25)
このように,協調協約締結以前は,協約の期間が終了してから,新たな協約 を締結するための団体交渉が行われていた。そして,団体交渉中は,期間の終 了した協約の内容が維持され,新たな協約が結ばれた段階で,遡及効果が発生 するという仕組みになっていた。こうした流れの下では,各産業別組合は,お 互いの条件を比較しながら団体交渉に望むので,要求案がなかなか提出されな い事態によく陥っていたようである。
こうした悪循環を断ち切るために締結された協調協約によって,各産業レベ ルの労使は,現協約が終了する前に交渉をスタートし,現協約期間内,もしく は終了直後に新たな協約を締結するようになった。このように,協調協約が交 渉スケジュールの調整に関して果たした役割は,非常に大きいものであったと 言えよう。
滷産別協約の賃上げ率及び協約締結日
次に,労使が合意した賃上げ率や協約が締結された日時から,産業横断的な 調整の成果を考察してみよう。本来賃上げ率による比較を行う場合は,各産業 毎の産別協約と上部団体の要求案の比較が不可欠なのであるが,残念ながら,
手元に実際の協約を持ち合わせていない。したがって,ここでは,交渉ラウン ド毎に独自のレビューを行っているEuropean Industrial relations review(以下 EIRR)の出している資料を基に行うこととする。実際の協約を用いることよ りも精度がおちることは否めないが,現状で手に入れることができる資料を基 に,調整活動の実態に迫ることは,意味のあることであろう。また,そこで発
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見された事実を基に,スウェーデンの産業横断的調整の姿を描いてみること も,少なからず意味のあることであろう。
ただ,成果を実際に見る前に,EIRRを用いて考察を行う際の限定に触れて おかなければならない。後述するように,産業別組合には複数のセクターがあ り,セクター毎に協約が結ばれる。それゆえ,一言に金属産業の協約といって も,それがどのセクターの協約なのかが明らかにされなければならないのであ るが,EIRRの資料ではその点に対する踏み込みが甘い。
しかしながら,交渉アクターや協約がカバーしている人数に関するEIRRの 記述から,当該産業における主要セクターの協約を扱っていることが予想され る。それゆえ,表2で取り扱っている三つの協約は,当該産業の主要セクター の産別協約を扱っていると見て良いと思われる。以下で見て行こう。
産業横断的な調整活動の結果,各産業の交渉のスケジュールや賃上げ率は標 準化しているのか。ここでは,LO傘下で,協調協約を締結しており,かつ,
SUWIにも加盟している,つまり,最もよく調整活動を行っていることが予想 される金属産業と製紙産業の二つと,LO傘下ではあるがSUWIには加盟して いない流通産業の三つの組合を対象に見ていくことにする。三つの産業の協約 締結日,協約の期間,そして賃上げ率をまとめたものが表2である(26)。
まず,三つの組合の協約の期間と締結日を見てみると,いくつかの興味深い 点をあげることができる。第一に,金属産業と製紙産業の産別協約の期間が,
交渉ラウンドを経るごとに同一化傾向にあることが分かる。1995年の交渉ラ ウンドでは,金属産業が三年協約を締結した一方で,製紙産業は二年協約を締 結していることからも分かるように,両者の間で調整活動はほとんど行われて いなかったものと思われる。しかしながら,協調協約の締結とスウェーデン産 業組合の誕生以降の1998年ラウンドから,両者の協約の期間や締結日は,近 づいていき,ついに2004年度には協約期間,締結日ともに同じものとなって いる。このことは,SUWIや協調協約が産業横断的に交渉のスケジュールの標 準化に寄与している可能性を示していると言えよう。ただし,2004年ラウン ドでSUWIが一年協約を要求しているにもかかわらず,実際には金属産業も
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表2 1995年交渉ラウンド1998年交渉ラウンド 協約締結日期間賃上げ率備考協約締結日期間賃上げ率備考 LO(要求のみ)複数年を要求?産業横断的な交渉を望む も失敗3.5% (一年間)
協約期間に関する要求は出さ ず。(傘下の団体で複数年協 約が結ばれることが確実視さ れていたから。) スウェーデン産業 組合 金属産業 (Metalworking)1995・5/231995年〜1998年 (三年)9.0%1998・3/81998・3/1〜2001 ・1/318.50% 製紙産業 (Paper)1995・5/7: 1997・2/6
・1995・4/1〜1997・3/31 (二年) ・1997・4〜1997・12月 (一年)
計10.2%=7.6% (二年協約)+2.6 %(一年協約)
交渉ラウンドのパターン セッターとなる1998・1/21998・1/31〜 2000・12/317.80%交渉ラウンドのパターンセッ ターとなる 流通産業 (Wholesaleandretail)1995・6/131995年〜1998年 (三年)13.40%2週間の争議行為の後に 締結1998・41998・4/1〜2001 ・3/319.30%過去15年間ではじめて紛争 の予告や仲裁なしで協約を締 結 2001年交渉ラウンド2004年交渉ラウンド 協約締結日期間賃上げ率備考協約締結日期間賃上げ率備考 LO(要求のみ)3.80%
低賃金者への一層の賃上 げを行うことを傘下の組 合に提唱。低賃金者向け の施策が傘下の組合で実 際に行われれば,賃上げ 率は4.8%になる。
?(要求は している) スウェーデン産業 組合?3.0% (一年間)スウェーデン産業組合が 要求を提示一年協約を要求3.2% (一年間)
最低保証賃上げ額を設定し, 低賃金者へ賃上げ原資が十分 に配分されることを要求する。 金属産業 (Metalworking)2001・2/82001・2/1〜2004・3/316.30%2004・3/182004・4〜2007・37.30%三年で675クローナの最低保 証賃上げ額 製紙産業 (Paper)2001・1/232001・2/1〜2004・3/317%2004・3/182004・4〜2007・37.30%三年で800クローナの最低保 証賃上げ額 流通産業 (Wholesaleandretail)2001・4/62001・4/1〜2004・4/3011.40%2004・3/19三年9% 出所)EIRR(1995a,b,c),EIRR(1997a,b),EIRR(1998a,b,c,d),EIRR(2000a,b),EIRR(2001a,b,c,d),EIRR(2004a,b)より筆者作成。
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製紙産業も三年協約を締結していることから,SUWIによる調整が,加盟組合 に対して拘束力をもった統一要求を作成している段階にまでは達していないこ とがうかがわれる。
第二に,スウェーデン産業組合に所属していない流通産業を見てみると,2001 年交渉ラウンドまでは,同じLO傘下の組合でも協約の締結日に,金属産業と 製紙産業に見られるような同一化傾向が,あまり見られないことが分かる。こ のことは,LOによる調整活動は,実質にはそれほど機能していないことを予 想させる。ただ,2004年にはわずか1日違いとなっており,こうした事実 は, 交渉のスケジュールや協約の期間の調整が行われていることを予感させ る。
しかしながら,このことをもって,2004年ラウンドにおいて LOが,傘下 の組合の労使交渉のスケジュールを良く調整していると結論付けることはでき ない。なぜなら,2000年に政府は,仲裁法(Mediation act)を制定し,それに 伴い仲裁機構が新たに作られたからである(EIRR 2000 c)(27)。この仲裁法によ って定められた仲裁機構は,仲裁委員を任命することができ,任命された仲裁 委員は,労使の合意がなくても紛争の可能性がある場合,自身の判断で仲裁を 行うことができる。また,仲裁機構は,協調協約におけるImpartial Chairと同 様に14日間のクーリングオフ期間を設定する権限を与えられており,仲裁機 構には労使関係の安定化のためにそれなりの権限が,与えられている。それゆ え,2004年ラウンドの協約締結日の急速な接近は,LOによる調整活動と言う よりは,仲裁法によって新たに作られた仲裁機構による部分が大きい可能性が ある。この点は,より詳細な調査を必要とするところであろう。
以上の二つから,第三に,スウェーデンでは,交渉スケジュールについて は,産業横断的な調整が良く行われている,と言える。ただ,こうした傾向が 続くのかどうかを判断するには,いささか年数が足りない。もう少し見守って いく必要があるであろう。
次に,賃上げ率について見てみるとどのようなことが言えるのか。まず,第 一に,金属産業と製紙産業の賃上げ率は,どのラウンドでも似たようなものに
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なっている。ただ,このことが,調整活動によって生じたものなのか,お互い の比較によって結果的に同じようなものになっているのかは,賃上げ率を見る だけではわからないことである。
第二に,流通産業の賃上げ率は,金属産業や製紙産業の賃上げ率に若干上乗 せしたものとなっている。ただ,表2の賃上げ率の部分を見れば分かるように 流通産業の賃上げ率と他の二つの組合の賃上げ率の関係に何らかの規則性を見 つけることは出来ないように思われる。したがって,賃上げ率の標準化に関し てLOが果たしている役割は,思いのほか小さいのかもしれない。
第三に,産業横断的な調整団体と傘下の労働組合の関係で注目すべきことと して,産業横断的な組織が提示した要求案が,産別協約にそこまで反映されて いないことがあげられる。特に,金属産業と製紙産業では,産業横断的な組織 が要求している賃上げ率よりも低い賃上げ率で協約を締結しており,このこと は,かつてLOとSAFの締結する中央協約が,傘下の組合への賃上げのフロ アー(下限)レベルとなっていたことを考えると,非常に興味深いことであ る。1995年のLOの要求案が,不明なのが惜しいのであるが,1998年以降の 上部団体と産別組合の関係から,LOやSUWIが提示する要求案は,傘下の組 合を拘束するものではないことに加えて,傘下の産別組合は,自身の産業の状 況に応じて自由に協約の内容を決定していたことがうかがわれる。
以上の協約締結日,協約期間,賃上げ率,及び上部団体の要求案と産業レベ ルの労働協約の内容から,SUWI(スウェーデン産業組合)と協調協約は,交 渉のスケジュールの標準化に一定の寄与を果たしていることがうかがわれる。
その逆に,LOが果たしている役割は,思いのほか小さいことが予想される。
また,金属産業と製紙産業の賃上げ率の関係は,SUWIが傘下の加盟組合の賃 上げ率の標準化にも一定の寄与を果たしている可能性を示している。ただし,
交渉のスケジュールや賃上げに関するSUWIの要求と実際に各産業で締結さ れている協約の内容を比べると,SUWIは,拘束力のある統一要求を作成でき ていないことが予想される。
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小括
本節では産業横断的調整について,それを担っていると思われる組織を中心 に見てきた。既に明らかなように,本稿では産業横断的な調整の仕組みを描け ているとは言い難い。アクターの紹介にとどまってしまっている。しかしなが ら,組織のどの部門が調整を行っている主体なのかが明らかになったことで,
今後深めていかなければならない点が,ある程度明瞭になったのではないだろ うか。その点とは,すなわち,
! LO内で調整活動を担っているとされている漓団体協約委員会,滷小グ ループ,澆REPSという三つの組織に参加しているメンバーが明らかにさ れなければならない。
" スウェーデン産業組合のALIグループに参加しているIF-Metall以外の
メンバーが明らかにされなければならない。
# !と"のそれぞれで,何が話し合われているのかが,具体的に明らかに
されなければならない。
$ SUWI(スウェーデン産業組合)の中のThe Political Economist Groupや 協調協約で設置が定められている産業経済委員会が出す統計データが,産 別組合の要求案にどの程度考慮されているのかが,明らかにされなければ ならない。
% 上部団体が提示する要求案は,どのような手続きで作成され,下部組織 をどの程度規定しているのかが,明らかにされなければならない。
こうした点が明らかになれば,産業横断的調整活動の実態も少しは明瞭にな るのではなだいろうか。
また,本節の最後に強調しておきたいこととして以下の点がある。たしか に,LOでは調整活動が行われていると言われているし,SUWI(スウェーデ ン産業組合)のパンフレットでも,要求を調整しているということが謳われて いる。また,2001年度や2004年度の交渉ラウンドではSUWIで共同して要求 を提示していた。こうした事実は,スウェーデンにおける調整活動の存在を示 す証拠となりうるものである。しかしながら,それが本当にうまく機能してい
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るのかについては,一定の留保が必要だと思われる。次のIF-Metall中央交渉 部のR氏の発言は,そのことを強く感じさせる。
「(調整といっても…筆者)それぞれの人間が異なる意見を持っています し,それを統一していくのは難しいのです。IF-Metall内でも調整は難し いのに,ましてLOで調整しようなど一層困難な,,,といいますか不可 能なことなのです。ですから,他の産業は,IF-Metallがどんな要求を出 すのかを待っているし,見守っているのです。彼らはその後で活動し始め るのです(笑)」(28)。
こうした発言を心に留めれば,産業横断的な調整を行う組織があるからと言 って,それが実際にどの程度機能しているのかについて,すぐに判断すること はできないのである。この点については,先述したように,産業横断的な組織 に参加しているメンバーの構成や,そこで行われている話し合いの内容がより 詳しく明らかにされなければならないであろう。
また,R氏発言は,彼がIF-Metall に属していることを割引いても,スウェ ーデンの労使関係におけるIF-Metall 内部の調整活動の重要性を十分に物語っ ているものと思われる。次節のテーマである。
2.産業内調整
これまでのスウェーデン研究で一番語られてこなかったことは,産業別組合 内における調整活動である。一言に産業別協約と言っても,一つの産別組織の 中には複数のセクターがあり,例えば,IF-Metallの場合,41のセクターが存 在し,それぞれのセクターがセクター協約を結んでいる(29)。このように,産業 別組合には複数のセクター協約があるので,産業別組合は,セクター間の調整 を行っていく必要がある。以下では現在の時点で明らかになっていることを述 べて行きたい。
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2−1.IF-Metallの概要
IF-Metallは,2006年1月1日に工業組合と金属産業組合が合併してできた
LO傘下で二番目に大きい産業別組合である。ストックホルムにある中央本部 と各地域にある52の地域組合からなり,スウェーデン国内にある13500の事 業所や企業にあるClubを組織している(30)。
IF-Metall内には,エンジニアリングセクター,化学セクター,鉄鋼・金属
セクター,マイニングセクター,自動車修理セクターなど計41のセクターが あり,産別協約(National Agreement)は各セクター毎に締結される。したが って,IF-Metallには41の産別協約がある。組合員数が最大のセクターは,エ ンジニアリングセクターで,約135000人のメンバーが所属している。次に大 きなセクターは,化学セクターと鉄鋼・金属セクターでそれぞれ約23000人の メンバーが所属している。この三つのセクターが,IF-Metall の主要なセクタ ーである。その中でもエンジニアリングセクターは,組合員数の数が135000 人と群を抜いて多いことに加えて,ボルボ,サッブなどスウェーデンの主要企 業と交渉を行っていることから,IF-Metall の内において最も重要なセクター と言える。
(1)組織
漓中央本部の組織形態
中央本部は,約150人の職員からなり,委員長と二人の副委員長からなる President Secretariatを頂点に,事務局(Secretariat),組織部(Organization Depart- ment),中央交渉部(National Bargaining Department),財務部(Financial Depart- ment)の四つの部門からなる。その他,President Secretariatの付属機関とし て,広報(Press secretary),調査部,国際部,人事部がある(図3)(31)。
産別交渉に責任を負っている部署は,中央交渉部である。ここの長は,IF-
Metallの意思決定機関の一つであるエグゼクティヴコミッティー(32)のメンバー
でもあるし,また,ALIグループのメンバーでもある。したがって,中央交渉 部の部門長は,IF-Metall内のセクターの賃金交渉の責任者であると同時に,
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President Secretariat
・President
・First Deputy President
・Second Deputy President Press Secretary
Research Department International Department Personnel Department
Secretariat
Information Technology Department
Facilities Department
Organization Department
Negotiation Department
Working Conditions Department
Finance Department
Audit and membership Department
Organization Department
Financial Department
Information Department
Education Department
National Bargaining Department
産業横断的な調整を進めていく上でも重要な役割を担っている人物と言える。
もう少し詳しく中央交渉部について見てみると,中央交渉部は,中央交渉部 の事務局(small secretariat),交渉課(Negotiation Department),職場環境課
(Working conditions Department)(33)からなる部門であり,部の人員は,2008年 現在で,部門長(National bargaining department secretary),中央交渉部の事務 局(5人),交渉課(18人),職場環境課(13人)の計37名である(図4)(34)。 この中で部門長,中央交渉部の事務局,交渉課に所属する15人のネゴシエー ター(35)が,産別交渉における主要なアクターとなる。
滷意思決定機関
(ア)大会
IF-Metallの意思決定機関は,図5の通りである。最高意思決定機関は,3年
に一度開かかれる大会である(36)。
(イ)エグゼクティヴコミッティー(Executive committee)
次の大会までの三年間は,大会の代わりに,エグゼクティヴコミッティー
(Executive committee以下EC)が意思決定機関となる。ECは,中央本部の代 図3
出所)IF-Metallから渡された資料より筆者作成。
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National Bargaining Department Secretry(1)
small secretariat (5)
Negotiation Department (18)
Working Conditions Department (13)
Head Office(約150人) Executive Committee(19人)
Bargaining Council Trade Union Council Members(約440000人)
Congress(300人)
Drafting Executive Committee(?人)
表者6名と事業所や職場の代表の13人の計19人からなっている。ECは,労 働協約の承認や労働協約期間中における労働協約の破棄に関する議決を行って いることから,重要な意思決定機関といえる。
ECには,付属機関として交渉委員会(Bargaining Council以下BC)と労働 組合委員会(Trade Union Council)がある。労働組合委員会は,52の地域組合 の代表とECメンバーで構成される組織で,年に少なくとも一回は開催され る。ここでは,運動方針や単年度の予算など賃金交渉以外の問題が扱われてい
図4
※括弧内の数字は人数をさしている。
出所)IF-Metal中央交渉部R氏への聞き取りより筆者作成。(2008年9月10日)
図5
出所)IF-Metall国際部M氏への聞き取りより筆者作成。(2008年9月3日)
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る(IF-Metall 2007)。BCと労働組合委員会は,ECに助言を行う機関として位 置づけられており,BCに関しては,賃金交渉に直接関係する機関なので後述 する。
(ウ)ドラフティングエグゼクティヴコミッティー
今回の調査では,ドラフティングエグゼクティヴコミッティーに関して,十 分な聞き取りを行うことができなかった。ここでは次のことだけを述べておき たい。先に述べたECの中央組織の代表者は,このドラフティングエグゼクテ ィヴコミッティーから選ばれる。その6人とは,委員長(President),第一副 委員長(First deputy president),第二副委員長(Second deputy president),事務 局,組織部,及び中央交渉部の各部門長の6名である。
(エ)中央本部
文字通り,ストックホルムにあるIF-Metall の本部であり,その組織形態 は,先述したとおりである。
(オ)交渉委員会(Bargaining Council)
BCは,三年に一度行われる賃金交渉に合わせて召集されるアドホックグル ープであり,各地域から職場代表者が集まり,賃金交渉の際にセクター間の調 整を行う機関である。また,各セクターの産別協約の承認,否認に関する提言 をECに行う機関でもある。ちなみにIF-Metall中央交渉部のR氏の話では,
BCはIF-Metallに特有の機関であり,他の産業別組合には存在しないもので
ある(37)。BCは170人からなる組織で,実際に産別交渉を行うメンバーはBC から選ばれる。
2−2.賃金交渉
以下では,賃金交渉をIF-Metallにおける2007年度の賃金交渉を素材にして 述べていく。まず,アクターであるが,産別交渉を担当するのは,ストックホ ルムにある中央本部であり,地域組合は,BCに参加することを除けば,産別 交渉の主体となることはない(38)。加えてBCに参加することも稀なので,産別 交渉に参加する当事者は,ECメンバー,中央本部の職員,そしてBCに参加
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2006年3月
5月 3月
10月 3月16日
12月 3月23日 BCが協約を承認
ECが協約にサイン Impartial Chairによる 仲裁
交渉が合意にいたる Negotiation Bodyの
メンバーの選定
メンバーからの要望の 取捨選択、要求案作成
第一回目交渉
BCメンバーの選定 2007年1
月〜2月 交渉
する170人の組合員と考えてよいであろう(39)。
先に簡単な流れを示すと図6のようになる。なお,3月以降はIF-Metall 内 のエンジニアリングセクターの動きとなっている。
このように,賃金交渉が始まる約8ヵ月前に交渉担当者が決まり,交渉の2 カ月前に要求案が作成され,12月から交渉が開始される。それらの流れをも う少し詳しく見て行こう。
(1)交渉アクターの決定(2006年3月〜5月)
漓 BCメンバーの選定
賃金交渉が行われる前年度にまず,次回の賃金交渉のBCメンバーが選ばれ る。BCメンバーは各地域組合毎に選挙によって選ばれる。BCメンバーは,
主に事業所や企業レベルで組織されているLocal Clubの代表で構成される。
地域組合の職員が,BCのメンバーになることは稀で,いても170人のうちで 2, 3人程度だという(40)。
滷 Negotiation Bodyのメンバーの選定
次に行われるのが,Negotiation Body(以下NB)のメンバーの選定である。
NBは,実際に経営側と賃金交渉を行う主体であり,NBはECが指名した交 渉担当者とBCの選挙によって選ばれたBCのメンバーから構成される(41)。EC
図6
出所)IF-Metall中央交渉部R氏への聞き取りより筆者作成。(2008年9月8日)
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が指名する交渉担当者は,主に中央本部の職員がなり,NBの責任者(チェア マン)となる。NBの総人数は,125名であり,各セクター毎のNBの人数 は,セクターの大きさによって異なる(42)。例えば最大規模のエンジニアリング セクターでは,13人で構成され,組合員数が1000人から2000人ほどの規模 の小さいセクターでは,3人から5人で構成される。また,規模の小さいセク ターの場合,中央本部の職員が複数のセクターのチェアマンを掛け持ちするこ ともあるようである。
また,BCメンバーは,自身が所属しているセクターのNBにのみなること ができる。したがって,エンジニアリングセクターに所属している者は,エン ジニアリングセクターのNBメンバーにのみなることができる。
以上のような手続きでNBのメンバーが決定されるわけであるが,中央本 部のどの地位にいる人間が,どのセクターの交渉責任者になるのかについて,
厳密な決まりはないようである。ただ,慣行として,セクターの大きさと組織 上のポジションには関係性を持たせているようである。例えば,最大セクター であるエンジニアリングセクターの交渉責任者は,IF-Metall の委員長が担当 することになっており,交渉責任者の中央本部上での地位とIF-Metall内のセ クターの重要性に関係性を持たせていることがうかがわれる(43)。
(2)要求案の作成(10月〜11月)
漓 メンバーからの要望の選択
産別交渉では,要求案作成にあたってメンバーからの提案を受け付ける。組 合員で次回の賃金交渉に対して何か要望のあるものは,自らの意見をBCに提 出することができる。出された提案書は,BCで全てをチェックした上で,彼 らが考慮に入れる価値のあるものと判断したものは,実際の要求案に組み込ま れる。2007年交渉では,300通の提案が行われ,その内の150が正式な要求と して認められた。要求として認められたものは,さらに,セクター全体の要求 と個別セクターに限定する要求とに分けられる(44)。メンバーからの提案が要求 として採用されるまでの流れを簡単に図示したものが次頁の図である(図7)。
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Neglect (150) Approved (150) Menber Propsals
(Motion) (300)
EC Collective Bargaining Department
BC
Demand (Common)
Demand (eachNB)
このように,メンバーからの要望は,一端ECに預けられ,中央交渉部の事 務局員の一人に回される。事務局員が一通り目を通した後に,ECは,300の 提案をBCに回す。この時に,ECとしてどの提案を承認すべきかに関する意 見も,BCに提出される。そして,BCで各々の要望を正式に要求として採用 するかどうかが,判断される。こうした過程を経て,各セクター毎に経営側に 提出される要求が作成されていく。ここで重要なことは,メンバーからの提案 を取捨選択するのはBCでありECではないことである。EC はあくまでBC に対して意見を述べるだけに留まっており,したがって,メンバーからの要求 案を正式に要求案として採用するのか否かの判断は,BCに強い権限があると 言える。
(3)交渉
漓 交渉のアクターとその間に行われる調整活動
12月から翌年の3月にかけてNBと当該セクターの経営者団体の代表が,
新しい協約の締結に向けた交渉を行う。2007年度の交渉では12月6日に労使 が各々の要求を提示し,交渉が開始された。実際に経営側との交渉を行うの
図7
出所)IF-Metall中央交渉部R氏への聞き取り中に,R氏 が書いてくれたものを転載。(2008年9月10日)
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は,主にNBのチェアマンとNBメンバー1名の計2名であり,全てのNB メンバーが,交渉テーブルにつくのは稀なことであるという。経営側との交渉 回数に特に決まりはないが,4ヵ月の間に15回から20回の交渉が行われるよ うである。
また,交渉期間中には通常BCが3回〜4回開催され,そこで各セクター間 で意見の交換などが行われる。交渉期間中に行われるBCでは,全てのBCメ ンバーに発言権があり,BCメンバーは自由に自分の意見を述べることができ る。
滷 Impartial Chairによる仲介
Impartial Chairは,先に述べた協調協約によって誕生したアクターである。Im-
partial Chairは,協調協約の中の交渉協約に従い,2007年ラウンドでは3月に
交渉の仲介に入った。具体的な仲裁内容は今回の調査では明らかにすることは できなかったので,ここでは,2007年度交渉においてIF-Metall内で起こった 出来事を通じて彼らの権限の範囲について若干ではあるが考察を試みたい。仲 介の際に,以下のような出来事が起こった(45)。
! 3月に入りImpartial Chairが召集される。
# 製造業セクター(46)や建設セクターなどでは,Impartial Chairが提示した 仲介案を受け入れることに合意したが,三年協約ではなく一年協約を望む マイニングセクターは,仲介案を拒否した。
" 後日ECがマイニングセクターを説得することで,マイニングセクター
は,仲介案を受け入れ,三年協約を締結する運びとなった。
以上がごく簡単な仲介時の出来事である。ここで重要なことは,仲介案の受
け入れをIF-Metall 内のセクターが拒否した場合,ECがその説得にあたって
いることである。したがって,Impartial Chair自体には,賃金交渉における論 争を解決する権限は付与されていない一方で,ECにはかなりの権限が与えら れていることが,予想される。このように,後述する労働協約を承認する権限 に加えて,IF-Metall内のセクターの説得にもECがあたっていることから,
産業内調整活動においてECの担う役割は,非常に大きいものと思われる。
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(4)労働協約の承認
12月からの約4ヵ月の交渉を経て,NBは,3月16日に新しい協約を締結 することに合意した。しかしながら,この段階では,協約はまだ仮協約であ り,正式な労働協約ではない。仮協約が,正式な労働協約となるためには,以 下の手続きが必要となる。
! BCでその内容が新しい協約として妥当なものかが問われる。
$ BCメンバーの過半数以上の承認が得られれば,BCはECに対して,BC の立場としてその協約を承認する旨のことを伝える。
# その後に,ECにおいて協約を承認するかどうかの会議が開かれる。
" ECメンバーの過半数の承認によって,協約に署名がなされ,正式な労
働協約となる。
2007年度の交渉では,BC, ECとも協約案を承認し,3月23日に新しい三 年協約が締結される運びとなった(47)。ところで,協約の承認における,ECと BCの関係はどのようになっているのであろうか。
結論を先に述べると,NBが締結した仮協約を正式な労働協約として承認す る権限は,ECにのみに与えられている。BCの決定は,あくまでEC への提 言であり,BCに協約を承認する権限があるわけではない。したがって,BC で仮協約が承認されなかったとしても,ECで承認されれば仮協約は正式な労 働協約となる。逆に,たとえBCで仮協約が承認されても,ECにおいてそれ が承認されなければ,仮協約が正式な労働協約となることはない。BCの決定 とECの決定の関係を示したもの
が表3である。協約の否決が確定 した場合,当該セクターは労働争 議へと進むこととなる。このよう に,労働協約の締結は,EC のみ が行えることである。
表3
EC BC 協約
セクター 協約とし て承認す るか否か
承認 承認 労働協約として承認 承認 否認 労働協約として承認 否認 承認 労働協約として否認 否認 否認 労働協約として否認 出所)IF-Metall中央交渉部R氏への聞き取 りより筆者作成(2008年9月8日)。
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(5)協約の解消
本節の最後に,協約の解消の手続きについて少しだけ触れておきたい。2007 年協約の有効期間は,2007年4月1日から2010年3月31日までの三年とな っている。ただ,労使には協約を途中で破棄し,残りの期間のための新しい協 約を締結することができる権限が与えられている。労働協約の規定は以下のよ うになっている。
「労使は(Either party),2008年の9月30日までならば(no later than 30th September 2008),2009年3月31日をもって協約を破棄することができ る。……破棄した後に行われる再交渉は,協調協約の付帯規則である交渉 協約に沿って行われる。」(48)
上のように協約を破棄できることが協約で規定されているのであるが,協約 の破棄を決定するための手続きは次のようになっている。まず,漓中央交渉部 の部門長がECやBCに対して自身の意見を表明する。次に,滷BC内で協約 の破棄に関するBCの意見を採択し,それをECに提言する。最後に,澆EC で協約を破棄して,新しい協約を締結するかどうかの判断がなされる。
ここでのBCとECの関係は,協約を承認する際と同様の関係にある。よっ て,BCが協約の破棄を提言したとしても,ECが協約の維持を選択すれば,
協約がそのまま維持されることになる。逆にBCが協約の維持を提言しても,
ECが協約の破棄を選択すれば,協約は破棄され新しい協約締結に向けた交渉 が始まることとなる。
小括
以上で見てきたように,労働協約の締結及び破棄は,EC の19人のメンバ ーの手に委ねられているといえる。さらに,協約の最終的な承認のみならず,
Impartial Chairの仲介案を拒否したセクターの説得にもECがあたっていた。
こうした意思決定に関するECの果たす役割を考えると,団体交渉における
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IF-Metallの意思決定方法は,中央集権的と言えるかもしれない。また,他の 産業にはBCがないので,IF-Metall以外の産業別組合の意思決定は,さらに 中央集権的に行われているかもしれない。
こうした実態を考慮すると,ECのメンバー構成が非常に気になるところで ある。というのも,ECの意向一つで労働協約が締結されない可能性があるこ とから,ECの性格を決定づけるEC内の職場から参加している13人の代表 の意向が,協約の内容に大きな影響を与えることはもちろんのこと,それによ って,個々の労働者の雇用そのものにも大きな影響を与えると思われるからで ある。しかしながら,残念なことに今回の調査では,ECのメンバー構成や,
選び方を調査することができなかった。他日を期して行いたい。
まとめにかえて
まとめにかえて,今後の研究を進める際に用いる分析方法を提案してみると ともに,そのために必要となるであろう今後の課題を提示したい。
(1)上部団体の関与の程度を知るための分析枠組み
これまでに述べてきたように,スウェーデンではいくつかの上部団体が,個 別企業における労働者と雇用者の間で結ばれる雇用契約に何らかの影響を与え ている。この点が従来の国際比較研究においてスウェーデンが集権的労使関係 であると特徴づけられる際の論拠となってきた(49)。しかしながら,ここで重要 なことは,上部団体による下部組織への規制の程度である。この点を無視し,
企業横断的な組織の存在と上辺だけの活動を根拠にスウェーデンの労使関係を 集権的と見なすのは,やや早計であろう。また,そのことを通じてスウェーデ ンを調整型市場経済の代表と結論付けるのも,やや早計であろう。そこで,以 下ではまず,氏原・仁田・松原(1981)の枠組みを参照しつつ,規制の程度を はかる際の視点を提示したい(50)。そして,その枠組みを通してスウェーデンの 調整活動を見てみたとき,スウェーデンはどのような姿になるのかを現状で分
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