近代信託の進展と信託受益権の本質について
著者 浅野 裕司
学位授与大学 東洋大学
取得学位 博士
学位の分野 法学
報告番号 乙第159号
学位授与年月日 2004‑12‑20
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00003979/
第7節 企業担保法の改正問題と信託法理
序説
わが国の企業担保法は、英国浮動担保制度(floating charge)がその 基礎とされている,昭和24年頃からそれまでの財団抵当制度の欠陥が 指摘されはじめ、全面的改正の要望が実務界から出されていたc
企業担保法は、紆余曲折の後、昭和33年4月30日法律106号をもっ て制定された。企業担保法により認められた企業担保権は、株式会社の 発行する社債または特定の債権の担保として、株式会社を組成する会 社の総財産を浮動状態のまま、一体として担保権の目的とするもので あり、こうした企業担保権の容認は従来の民法上の権利概念の枠を超 えた、それとは別種の、企業を中心とする権利概念の容認であって、広
く企業の上の権利概念の肯定に連なる新しい私権概念の定立として注
目されてきた。
しかし、企業担保法にいう総財産とは、民法306条における一般の先 取特権の対象とされる総財産と同様に、現行法において強制執行の対 象となり得るもののみを包含し、消極財産は勿論のこと、暖簾、商号な
どは担保の目的の範疇外と解すべきであろう。この点において、本来、
純理論的に意図する企業担保とは相当の距りのあることは否定できな
い。
本来、企業担保制度は、すべての企業について認められるべきである が、株式会社以外の企業にあっては企業自体の客観性が薄弱とされ、企
業財産の範囲が実際上不明確になる恐れがあるとされてきた.しかし、
個人企業も含め、合名会社、合資会社、有限会社などの企業についても、
その必要性と相まって改善すべき問題である。
財団抵当制度に対する批判が、企業担保制度へと結びついている。昭 和20年代のわが国の基幹産業の実情は、第二次大戦後の荒廃した設備 では産業復興は困難であった。従来の財団抵当制度では、とてもなし得 ないと判断したものが、昭和24年の経団連による要望書に現われてい る。企業担保法施行後、10年間で同法の適用を受けた企業は、当時、超一 流の株式会社と社会的に認められていた企業16社であり、同法を利用 して社債を発行している、しかしながら、近年は経済情勢も大きく変わ り、社債も無担保化が一般的となってきた。さらに、財団抵当制度の欠 陥の一つとして指摘されていたのは、その組成ならびに管理のため煩 項な手続と高額な費用を要する点であった。財団目録の作成や財団所 有権の登記登録は、企業担保法制定当時とは、各企業の事務機能も比較 できないところであって、コンピューター、コピーなどの機器は、こう
した欠陥を除去している。
企業担保法は、一時期、その利用は低迷状態にあり、その改正につい ても論議がなされるとはほとんどなかった。しかしながら、最近この企 業担保法の見直しも企業経営者から聞かれるところとなったe社債以 外の債権をも担保するような活力ある担保制度にし、国際経済取引の 実情も考慮した企業担保法に改正する必要がある。
英国における担保付社債の発行については、一般的に信託の法理が 活用されている。こうしたことも、わが国の企業担保法の改正と再生
に必須条件となろう。
わが国の企業担保法の基礎研究は、昭和20年代に、日本興業銀行に在
職なされていた水島廣雄博士により行われており、経団連による財団 抵当制度の全面的改正を図るために関係当局に建議した昭和24年の要 望書も、強い影響を受けたものである。詳細は後述するが、昭和28年、日 本学術会議の推薦による水島博士の「浮動担保の研究」に対する毎日学 術奨励金授与の経緯がそれを物語っている。昭和32年に、法務省ならび に最高裁の委嘱を受けられ、浮動担保制度研究のため渡英され、わが国 の企業担保法の基盤となる調査研究に責務を果たされ、以後、法制審議 会民法部会委員として、立法に尽力された功績を忘れてはならない、企 業担保法は、水島博士の意図された理論とは立法上やむを得ず隔たる
ものとなったとも伝えられている。御自身も早くから企業担保法の改 正を示唆されておられた。
そこで、企業担保法の基盤となった浮動担保の理論と財団抵当から 企業担保への経緯に触れ、さらに、現行企業担保法の問題点と改正への 検討を試み、大方の御叱正を仰ぎたい。
第1項 企業担保法の概要
企業担保権と担保の目的財産の範囲については、企業担保権の目的 財産は株式会社の一体としての総財産であり、その被担保債権は社債 であること、企業担保権の法的性格を物権とすることを1条は規定して
いる。
企業を担保の目的としているが、企業の法的性格については画一的
な定義はなく、したがって、それを対象とする法律関係によって自ら制 約されるべきものであり、さらに、執行手続などの部面からの拘束をも 考慮せざるを得ない.企業担保権を設立しうるものは、株式会社の総財 産であって、株式会社以外の企業にあっては、その総財産の上に企業担 保権を設定することができない。1条1項にいう会社の総財産とは、民 法306条において一般の先取特権の対象とされている総財産と同様の 意義に解すべきであろう。企業担保権の被担保債権は、原則としてその 会社の発行する社債に限定されている(1,。
1条2項は、企業担保権を物権とするとしている。それは、企業を構成 する会社の総財産を包括的に一個の担保権の目的とする排他的な権利 であり、企業担保法は物権法定主義(民法175条)に則してこれを物権と し、もって企業担保権の法的性格を明確化している。したがって、物権 ないし担保物権(約定)としての特性を原則的には有するものである。
2条は、企業担保権の目的たる総財産の浮動性および企業担保権の優 先弁済権について規定している。企業担保が株式会社の総財産を一体
として担保の対象とする限り、企業を構成する個々の物権の浮動性を 認めざるを得ない.すなわち、企業担保制度における客体財産の一括的 な把握とともに、この担保制度の特異性を示すものである。企業担保権 者は、現に会社に属する総財産につき、他の債権者に先だって債権の弁 済を受けることができると、2条1項は規定するが、現に会社に属する 総財産に担保の効力の及ぶことは、一面において企業の経営途上にお けるその構成財産から離脱したものに対する追及力のないことを意味 するとともに、他面、企業の運営過程において取得した企業を構成する 財産は、あらためてなんらの意思表示をまつことなく、担保の客体の範 疇となることを意味するものである.しかし、この場合、問題となるの
は、企業の一括担保を認容することはそれ自体、客体財産の浮動性を認 識することであるとしても、このような制度を従来の物権確定主義と いかに調和していくかということにある。
3条は、企業担保権の設定または変更を目的とする契約は公正証書に よらなければならない旨を規定している。企業担保権iの目的となるべ き会社の総財産の範疇に入るものの複雑多岐なることに鑑み、その成 立および内容を明確ならしめ、かつ、担保設定後、とくに企業担保権の 実行の際の紛争を未然に防止し、もって実行手続を可及的すみやかに するための措置と考えられる,しかし、企業担保が原則として社債の担 保とされる限り、担保附社債の発行について一定の様式が要求されて いるので、企業担保を社債の担保として利用することについてその契 約は公正証書によらなければならないことの実質的な意味は乏しい、
とする見解もある,企業担保権は物権であるから、その設定または変更 は民法の一般原則によれば、意思表示のみで効力を生じ(民法176条)、
特別の様式を要しないのであるが、企業担保権の目的となるべき会社 の総財産の関係と被担保債権が通常巨額な社債であり、かつ、その権利 の実行には債務名義を必要としないから、あらかじめ実体的権利を明 確にして、企業担保権の設定後、とくにその権利の実行の際の紛争を未 然に防いで実行手続を適正にできるようにするためである。
4条は、企業担保権の得喪および変更は登記をもって効力発生要件と し、登記手続は政令で定める旨を規定している。企業担保権は、物権で あるからその得喪および変更は原則として会社の本店所在地において、
株式会社登記簿にその登記をしなければ効力を生じない(同条1項前 段)。すなわち、民法においては、一般に登記をもって物権変動の対抗要 件としているが(民法177条)、企業担保権の効力発生の時点を明確にし、
かつ法律関係を画一的にするため、民法の一般原則に一歩前進して登 記をもって効力発生要件としたものである。
5条は、企業担保権の順位についての規定であるc物権たる性格から 同一会社の総財産を対象とする数個の企業担保権相互の順位は、その 登記の前後によることにした。すなわち、会社の本店所在地における株 式会社登記簿にする登記の前後によって定めることとしている,なお、
数個の企業担保権の設定を同時に申請することにより、同一の順位で 企業担保権の設定の登記がなされるから、同順位の数個の企業担保権 の成立することも可能となる。
6条は、企業担保権の目的たる会社の総財産の上に存する権利と企業 担保権の関係を規定したものである。その権利は、企業担保権の登記の 後に対抗要件を備えたものでも、企業担保権者に対抗することができ
る。会社財産の上に存する権利としては、一般の先取特権、特別の先取 特権、留置権、質権、抵当権、地上権、永小作権、地役権、賃借権または採 石権のような用益権、買戻権、仮登記または仮登録された権利、鉱業権 の上の租鉱権、知的所有権の上の実施権などが考えられる,こうした権 利については、企業担保権の設定後に対抗要件を備えたものでも企業 担保権者に対抗できるが、企業担保権者に対抗することができる結果、
これらの権利は原則として企業担保権の実行によっては消滅すること なく、会社の当該財産の競落人または買受人にも対抗できることとな
る。
7条は、企業担保権と、会社の総財産に対する一般の先取特権、および 会社の総財産に属する個々の財産を目的とする特定担保権の優劣関係 を規定している。一般の先取特権は、企業担保権に優先する旨を定め(同 条1項)、個々の財産を目的とする権利は、企業担保権の設定登記の前後
にかかわらず、常に企業担保権者に対抗することができるか、またはそ の権利に優先する。
8条は、会社の合併と企業担保権の関係を規定している,企業担保権 は、その実行に至るまでその設定会社の総財産より離脱する財産に及 ばないが、企業担保権設定会社が他の会社と合併して法人格が消滅し た場合に、企業担保権者はその被担保債権について、何等の優先権をも っことができないとすることは担保制度の本質に反するので、このよ
うな場合には合併した会社の企業担保権者は合併後の存続会社または 合併によって設立された会社の総財産に対して担保の効力を有するこ
ととした(同条1項)。また、合併する会社の双方の総財産が企業担保権 の目的となっているときは、合併後の企業担保権の順位に関して、企業 担保権相互の協定がととのわない限り当該会社は合併することができ ない(同条2項)。もしも、この協定をしないで企業担保権設定会社が合 併した場合には、企業担保権者は商法415条の規定による合併無効の訴 を提起することができる(同条3項)。
9条は、民法の規定の準用について定め、企業担保権は、多分に抵当権 に類似する性格をもつものであるから、民法中の担保物権に関する規 定を準用することとしている.すなわち、民法372条により抵当権に準 用せられる留置権についての不可分性の規定(296条)、抵当権の順位に 関する規定(373条2項、3項)、抵当権の被担保債権の範囲に関する規定
(374条)、抵当権の処分に関する民法375条のうち順位の譲渡および放 棄に関する部分、および抵当権の処分に関する対抗要件(376条)、なら びに抵当権の消滅時効についての規定(396条)の準用がそれであるL 以上のように1条から9条までは、企業担保権の実体規定であるL2。
10条から59条までは、企業担保権の実行と手続について特別の規定
を設けている。
企業担保法は、担保の目的を会社の総財産としているので、その内容 としては、不動産、動産、債権、知的財産権などの各種の権利を含んでい る。したがって、その担保権の実行のためには従来の競売法の規定に依 存することができないため特別の規定を設けた。
実行手続の概要は、企業担保権の実行に関しては、会社の本店所在地 の地方裁判所が専属管轄権を有するものとし、その実行の開始は企業 担保権者の申立てにより裁判所の決定により開始されるcその決定に おいては、会社の総財産の差押えを宣言するとともに、裁判所は申立ノ、
の意見を徴して担保の客体たる会社の総財産を管理するための管財人 を選任する。
そうして、実行開始の決定があった場合には、裁判所はその開始決定 を官報および新聞紙上に公告し、また、管財人は会社登記簿に企業担保 権の実行開始の登記をしなければならない。この公告および登記をし
なければ差押について善意の第三者に対抗することができない。これ らのほか、管財人は登記または登録の制度のある財産にっいて、企業担 保権の実行開始の登記または登録をしなければならない。そうして、実 行手続開始の決定があったときは、既になされている会社の財産に対 する強制執行、仮差押、仮処分、競売法による競売、国税徴収またはその 例による滞納処分は、実行手続に対しては、効力を失なう。管財人が会 社の総財産を換価することについては、入札の方法によって一括売却 するかまたは企業担保権者および裁判所の認可を受けて適宜の方法に より、会社の総財産を一括または個別に売却する。しかし、商品および 有価証券については、上記のいずれの場合かを問わず、管財人が適宜に 売却することができる。管財人は、また売却による権利移転の登記、そ
の他、買受人が権利を取得するために必要とするすべての手続をしな ければならない。
このようにして、管財人は会社の総財産の売却代金およびその保管 する金銭を裁判所に引渡すものとし、裁判所は、実行手続の費用を控除
して、企業担保権者およびこれに優先する債権者に配当し、なお残りの ある場合には一般の債権者に配当するc
(1)水島廣雄・増補特殊担保要義(1991・八千代出版)129−147頁,
(2)小林英雄「企業担保法」特別法コンメンタール(昭和47年・第一法 規)8−27頁。
第2項英国浮動担保の観念
企業担保法の基盤となったのは、英国浮動担保制度(floating charge or且oating security)とされている。企業の担保化を承認しているのは、
他に米国のブランケット・モアゲージ(Blanket Mortgage)ないしゼネ ラル・モアゲージ(General Mortgage)があり、また、フランスの営業質 制度やドイツの企業財団抵当制度もある。しかし、そのなかで最も発達
しているのは英国の浮動担保制度である。
英国では、会社が社債の担保として特定財産担保のほか、会社の営業 および一切の財産その他、未払込資本金をも担保に供する条項を社債
に記載することが多いが、これが浮動担保の設定である。企業担保制度 としての浮動担保の起原は古く、1870年のPanama,New Zealand and Australian Royal Mail Co.,(1870)LR5ch.app.318.事件において、営業
(undertaking)なる文字は会社の現存ならびに将来における総財産を含 むと判示された(1)。この事件の判決理由について、ギファード判事
(Giffard,LJ.)は「本件の趣旨は会社はそのまま営業を継続すべく会社 が元利金の支払を怠るまでは社債権者は会社の営業に干渉できないと いうことにある。これ営業を担保とするの意義より当然推考すること ができる」と述べている〔2、。パーマ(Palmer)は、この判決が営業に一定 の解釈を与えたのみならず、浮動担保の方法により現在ならびに将来 の会社財産一切に対し、包括的に担保(ageneral charger)を設定し得る ことの法律的有効性(the legal vahdity)を明瞭に認容した点で最も重要 な判決であると述べ、さらに、これは「多くの国において承認されざる
ことを承認したものである」と力説しているc3) c
なお、浮動担保の観念を要約したものとして最も有名なのは、
Government Stock and Other Securi七ies Investment Co.v.Manila Railway Co.,(1897)A. C.81事件におけるマグノートン郷(Lord Macnaghten)の判示である。「浮動担保は、生きた企業のその時の財産
についての衡平法上の担保である。それは、時から時へと変化する状態 で担保される客体に付着する.この担保の本質は、企業が営業を停止し、
または担保権者が介入するまで睡眠状態(dormant)にあることである、
担保権者の介入権は、もちろん契約によって停止されうるuしかし、停 止について契約がなければ、担保権者は債務不履行後、何時でもその権 利を行使することができる」と論述し(、}、また、lllingworth v.
Houldsworth(1904)A. C.355.事件において、特定担保に対し「浮動担保
は、不確定な、かつ、変化する性質のものであって、浮動担保権を行使す べき財産について一定事件が発生するまで、または一定行為がなされ るまで浮游する。そしてその事件、その行為が浮動担保の目的物の範囲 を決定し、その上に浮動担保を定着せしめるものである」と述べている
,,,これは要するに、浮動担保は、会社の総財産を経済的に一個の生き た綜合(企業)体(agoing concern)として把擬しf61、それをもって利潤 追求活動をなさしめつつ担保の客体となす制度である。企業自体の担 保といわれるのもこの理由によるc7,,
(1)Magnus&Estrin, The Companies Act,1948.p.94;Goitein,
Company Law,1949.p.245;Topham, Principles of Company Law、
1949.p.153.
(2)Palmer, Company Law,1949.p.295;Simonson, Debentures and Debenture Stock,1899.pp.14,15.
(3)Palmer, Company Law,1949.p,295.
(4)Charlesworth, The Principles of Company Law,1949.p.188:
Farrar, Company Law,1937.p.231;Magnus & Estrin、
op.cit.p.279;Goitein, op.cit p.245.
(6)Goitein, op.cit.p.346.
(7)Coote,Law of Mortgage,1927.vo1.Lp.506.水島廣雄・前掲書19
−20頁。なお、水島博士の「浮動担保の研究」に対する毎日学術奨励 金の推薦理由には「浮動担保とは従来我国に行われている財団抵 当と異なり、担保物を固定せしめない特殊な謂わば企業そのもの を担保とする制度である。この制度によれば担保設定会社に債務
の不履行、事業の停止、解散等のことがあればその時に会社の総財 産が担保物として特定するが、それまでは従来の財団抵当と異な
り担保設定会社は自由にその財産を処分し得ると同時に新たに取 得した財産が自動的に担保の目的物に繰入れられることとなるの で浮動担保と称せられている。要するに担保物権を固定せしめる 財団抵当に比し、はるかに機動的で且つ企業が順調に行われてい る限り、担保権の設定によってその経営に何らの制約を受けない 所がこの制度の特徴で英法系に発達した制度である,」としているc 昭和28年10月26日、毎日新聞参照,水島廣雄「イギリス浮動担保 の素描一企業担保の理論一」中央大学70周年記念論文(昭和30年)、
関口雅夫「イギリスにおけるfloating chargeの成立」法学新報81 巻1号(昭和49年)95頁以下。
第3項浮動担保の特質
浮動担保の特徴は、まず、企業の総財産すなわち客観的意義の企業を 単一的に把握し、これを担保としたことである。企業財産の一部の個々 的な物的把握方法は考慮しないで、収益体自体を対象とし、利潤よりの 償還に重点をおいたことであり、利潤の産出に関与する物、権利などは すべて担保の対象となる(1},
次の特徴は、浮動性である。担保の対象が収益体としてσ)企業である かぎり、当該企業は利潤獲得のために経営途上、っねに財産の更新、た
とえば工場の改築、機械の交換を図らなければならない、浮動担保は、
現存財産にさえ定着せず目的財産は永続性をもたない(non
permanence)といわれるのもこのためである.
さらに、浮動担保の睡眠(the charge remains dormant)による特徴が ある。この現存担保財産の自由なる処分権〔、、、ならびに、将来、獲得財 産が当然に担保の客体となることなどの浮動性は、各国の制度に比し
ここにおいてもまた顕著な特異性を示すものである。
しかし、こうした特質もすべて客体の総括性から当然に導かれる理 論であって、会社の現存および将来の総財産を担保とするかぎり、確定 担保と異なり、この浮游性(float over)は必然的の帰結である。なぜなら ば、追求権を認め処分性を否定すれば企業は1日たりとも運営すること はできず、企業担保の企図を根底から覆すこととなるからである、,
このようにして、浮動担保は変転していく財産の上に、つねに移動して いくという観念から一面において、移動担保(shifting charge)とも呼ば れる。こうしたことから、企業担保を考慮するかぎり、客体の総合性と 浮動性は表裏の関係にあり、しかも、これらは絶対的不可欠なものと解
さなければならない〔、)。
浮動担保の性格は、衡平法的性格がある、目的財産に対する直接
(immediate)かっ継続的(continuing)な担保である。ただし、目的物に未 だ定着していないのであるから、会社は営業過程において(管理人の選 任、解散などにいたるまで)、自由にその財産を処分することができる、
浮動担保は、衡平法上の担保である、51,会社企業が順調であって、仕 債の元利が遅滞なく支払われる間は浮動担保は睡眠を続け、目的物件 の処分に対しても優先権、追求権も有しないため、人的(personal)性格 のものと呼ばれ、特定担保のように、1egal mortgageでないといわれる
が、しかし、普通法上の権利の上に設定された衡平法的担保権
(equitable mortgage of legal right)であることに相違ない。なぜならば、
学究者は衡平法上の担保権の設定には一般に三個の設定形式があると いうことを説明しているが(6)、それは結論的には、衡平法上の権利
(equitable interest)を目的とするものと、目的たる権利は普通法上のも の(1egal right)であるが設定契約の締結があるか否かにかかわらず、未 だその権利を担保権者に移転されていないため、衡平法上の法律関係 と目される場合の二っに大別される・・,浮動担保は、その性質からみ て後者に属することが明白であるからである。
(1)水島廣雄「各国における企業担保制度の概観」法律時報26巻10 号。水島・前掲書47頁以下cなお、企業担保の基本原理は、判例から もうかがい知ることができるように、担保の客体を企業の総財産 にまで拡張すること、企業運営中に必要に応じて担保物の新陳代 謝を自由ならしめることの二つの点から出発しなければならない.
ローマー判事(Romer L.J.は、Yorkshire Woolcornbers Association,
Ltd事件において、次の特徴をもつ担保は、浮動担保であると指摘 している.すなわち、会社の現在および将来の財産の一部(aclass of assets)の上の担保であること、財産の種類は、会社の営業の通常 の過程において、ときに応じて変化するものであること、担保の利 害関係人によって、または利害関係人に代わる者が将来なんらか の手続をとるまで、会社は当該担保財産に関して通常の方法で営 業を継続するものと考えられること、などであるとしている
((1903)2ch.App.284,at 294・295(C.A.))。
(2)Lindley, Law of Commpanies,1902. vo1.1、 p.318;Stiebel,
Company Law and Precedents,1927.vo1、1.p.384.
(3)水島・前掲書・48頁。
(4)水島廣雄「企業担保としての英国浮動担保にっいて」私法13号
(1955)44頁。小林秀年「イギリス浮動担保の理論と実状」東洋大学 大学院紀要18集8頁以下(昭和57年)c黄宗楽「イギリス浮動担保 に関する研究」阪大法学91号(1974)41−43頁.
(5)Buckley, Companies Acts.1949. p.225;Farrar, op. cit. p.231;
Strahan,The Principles of the General Law of Mortgage.1925.
pp。56−58.et seq.
(6)Stiebe1,0p.cit.P.384;Lindley, op,cit.P.318.
(7)Blyth, An Analysis of Snell,s Principles of Equity. 1926.p.151;
W且sher, Principles of Equity.1920.p.171;Fisher and Lightwood,
1.aw of Mortgage.1931. pp.15,16;Snell, Principles of Equity 1954.p.387;Topham, Real property.1947. p.315;Cheshire, The Modern Law of Real Property 1949. p.582.水島廣雄「イギリス浮 動担保制度の素描」中央大学70周年記念論文集(1955・11)所収・10
頁以下。
第4項 浮動担保の被担保債権と設定
浮動担保の被担保債権は、原則として、社債にかぎられているCl・ 。な
ぜならば、社債の特質にっいては多額にして長期の債務をめぐる不特 定多数の債権者などにかんがみて、社債権者の保護と企業者の利便と を考慮し、衡平的観念から特に認められた担保制度であるからである、
浮動担保の設定については、社債の担保と信託の法理に触れなければ ならない。イギリスにおける担保附社債の発行については、一般的に信 託の法理が利用されている.すなわち、社債の担保は個々の債権者に対 し、これを設定することなく、社債発行会社(委託者trustor)は総社債権 者(受益者cestui que use,beneficiaries)のために信託会社(受託者 trustee)を介在させるのである、すなわち、社債権者保護のために、会社 財産は一般にmortgageの方法によって、受託者に移転するeもっとも
この場合、浮動担保と特定担保とは設定方法に違いがある{2)。この効 力を保持する捺印証書が信託証書(trust deed)である。このように、信託 証書を使用することになったことは、信託制度の確実(security)と運用 の簡便(convenience)とを期待したもので、社イ責権者の享受する利益は 大きいといえる(3)。社債の発行形式として、debenturesとdebenture stockとの重要な違いの一つは、受託会社の介在の必要か否かにある すなわち、後者の場合は、担保は受託者名義となり、社債券所持人に対
して担保を設定することは考えられないdebentureという用語は、
1900年のcompanies Actに現われて、1985年のCompanies Act,744条 において定義され、この規定で、社債には会社財産上の担保の存在に関 係なく、debenture stock,bonds,securitiesを含むとされている〔、)。
浮動担保設定の時期については、浮動担保は原則として社債の成立 と同時に設定されるが、1948年の会社法322条によっては担保設定後、
会社がただちに支払能力があることを証明しなければ、会社解散の開 始から12カA以内に設定された浮動担保は効力がないものとされてい
るrしたがって、この場合、社債は無担保債権となる1,、。
浮動担保設定の方式は、浮動担保と特定担保(Fixed or speci丘c charge)との間にはその設定方法に若干の違いがある。特定担保の場合
は、社債発行会社と信託会社との間に信託契約によって設定され、その 設定文言は信託証書に記載されるのみであるLしたがって、社債券には 単に所持人が享受し得る信託上の効果をいうにすぎない,しかしなが
ら、浮動担保にあっては、社債(debentures)の担保設定文言は信託証書 ならびに社債券の双方に記載される。すなわち、ここにおいて債券所持 人は信託上の受益者であることはもちろん、さらに、これらの文言によ って直接、担保上の権利者にもなる。debentureの場合は、信託の客体は 担保権のみであって、主たる債権は社債権者に残存する.ただし、社債 がdebenture stockの形式で発行される場合は、浮動担保の設定はただ 単に信託証書に記載するだけで社債券(debenture stock certificate)に は、所持人が信託証書により設定された担保にっいて受益権のみを有 する旨を規定するにすぎない。debenture stockの場合は、会社が社債 所持人に対して、元利の支払義務を負わない。debenture stock certificateには、単に当該証券所持人が会社の統一的債務の一定額にっ いて、権利を有することを証する旨を記載するのみで支払文言がない から担保関係についても、これを設定することはあり得ない。要するに debenture stockの場合は、信託が徹底し、担保権のみならず主たる債 権も受託者に帰属する。
浮動担保の客体の表示形式にっいては、浮動担保は企業継続中の総 財産を担保とする(charge on the undertaking)ものであるから、その客 体の表示にも、この趣旨が表現されなければならないことはもちろん であるが、その表示形式には、なんらの制約も存しない16・。必ずしも
且oating charge,shifting securityの文言やundertakingの文字を使用
する必要はない〔,、。
浮動担保は、会社に特有な担保であって、その利用は実際上、会社に 限定されている。そして法定の形式で登記(register)されなければ会社 の清算人と他の債権者に対しては無効となるので、登記方式などから、
設定者は会社(incorporated company)に限定されているc,、したがっ て、浮動担保の公示方法は、会社の本店所在地の登記所における会社登 記簿になされるc登記は、担保設定後、一定期間内(21日以内)に債務会社 の申請に基づいてなされる。登記事項は、担保権者、社債総額その他、被 担保債権の内容および特約事項のほか、主要な財産を登記すべきもの とされている。また、会社の本支店においても担保権の内容を明記した 契約書副本などを備付け閲覧に供することとしている(,)。
(1)Connell&Purse, Companies and Company Law.1949.p,180;
Waldock, The Law of Mortgage,1950,p.152;Simonson,op.cit、pp.
15・26.
(2)水島・前掲書・50頁以下、
(3)受託者は信託違反(breach of trust)の免責条項は無効とされて いる。Connell&Purse, op. cit. p.180;Palmer, op. cit. p.332;
Simonson,op.cit.p.37;Topham,op.cit.p.159.
(4)Palmerは、「社債という用語は、きわめて融通のきく性格のもの であって、その意味は非常に広範囲であるが、会社が債務を負いま たは認めるすべての文書が社債であるとするのは行き過ぎであ
る」と論述している。Palmer s,Company Law(2nd ed.1968),p.365.
Penningtonは、「社債の形式は会社が一人または複数の融通者か ら資金を借入れる場合、特に短期の銀行貸付と当座貸越を担保す るためにも使用され、特定担保と浮動担保が設定される」としてい る。Pennington, Company Law(2nd ed. 1967), p.340. Gowerは
「当座貸越に浮動担保が設定される」としている。Gower,The
Principles of Modern Company Law(3rd ed.1969),p.70.note12.
Sealyは、「会社は借入(borrowing)に際して浮動担保を設定する abihtyを有する」としているSealy, Cases and Materials in
Company Law(1989).note(31). p.365.
(5)Palmer,op.cit.p.297;Charlesworth、op.cit.p.190..
(6)Hamilton,Company
Law.1910.p.258;Palmer,p.296;Palmer,Company Precedents.1952.Part3.pp.48・49;Simonson,op.cit.p.17.
(7)Fisher and Lightwood,op.cit.p.94.
(8)Palmer s, Company Law,(2nd ed.1968). p.395;Gower, op. cit。
p.420;Companies Act 1985,Part XIIs.395;Sealy, op.cit.p.369.
(9)なお、Waldock,The Law of Mortgages.1950.p.167.
第5項 不動担保の効力
一般債権者に対する優先権については、浮動担保は会社の普通債権 者に対し、会社が解散した場合であると否とにかかわらず、っねに優先
して弁済を受けることができる権利を有している川。ただし、この優 先弁済については会社法の制限がある。執行債権者に対する効力にっ いては、浮動担保は強制執行をした会社債権者に対抗することができ る。ただし、執行債権者が財産を占有した場合はこの限りではない。た とえば、執行が差押の後、競売になった場合、または債権者が会社に対 し、絶対的債権差押命令書(absolute garnishee order)を得た場合、もし くは差押財産の競売阻止のため執行官に現金を支払った場合のような ものである、2、。会社債務者の相殺との関係については、浮動担保は会 社が会社の債務者との協議によって債務者に相殺権(right of set−off)を 与えることを妨げるものではない〔3)。地主との関係にっいては、地主 は収益管理人(receiver)が選任されるまでの間、地代について、土地の差 押をすることができる。また、その後も普通法によっては差押ができる,
しかし、裁判所が管理人を選任した場合は、その許可を得なければなら ない(、).割賦購買の目的である動産に対する効力にっいては、会社が ある動産を買取権付物品賃貸借契約(hire purchase agreement)すなわ ち、なしくずし販売契約により、占有する場合には、所有権はまだ会社 に移転していないから会社が設定した浮動担保が固定しても、所有権 者に優先することができない〔,)。この関係は、これらの使用契約が押 動担保の設定後になされた場合も同様である(・)。
財産の自由処分については、会社は浮動担保を設定後、その結晶前に おいては通常どおり企業を継続するから、原則として、その財産を自由 に処分して会社の発展を期待することができるのは、浮動担保の本質 からみて当然のことであろう。もし、自由処分が不可能とすれば、営業 の適切な運営は難行し、会社債権者の有する浮動担保権が結晶し、かつ 実行される結果を招きかねない.浮動担保の下においては会社財産を
自由に処分できるという原則には、理論が分れる。パーマは、会社は営 業の正常な道程において浮動担保財産を取引ならびに処分(to deal with and dlspose)する自由を有する。したがって、会社は、担保財産を 売却、賃貸、交換することはもちろんのこと、さらに特定担保の設定後 など、もっとも都合のよい方法で処分できると論述しているc71。
しかし、自由処分といっても本来、企業の維持発展ということがその 目的の根底となっているわけであるから、この原則には自から一定の 限界が存在しなければならない。すなわち、会社財産の処分は、その企 業の目的遂行上、必要にしてかつその企業の継続と矛盾しない範囲の 行為に限定されるべきである.こうして、従来の判例は、会社営業の通 常の過程における取引(dealings in the ordinary course of the company s business)という表IX ,s)で、この限界を画している,ただし、
この制限はあまりにも狭すぎるとする学説もあるcg,。こうした理論に 対して、浮動担保は結晶まではいかなる財産にも特別に担保権が結び つかないという事実によって、財産を取引する権限が会社に留保され ているとする説もある,この理論に基づくと、浮動担保が結晶するまで は、貸主は会社財産について、特定の権利を有しないから介入すること を拒否されることとなる(1。)。浮動担保相互の関係にっいては、既存の 浮動担保と同一順位の浮動担保の設定は許されない。また、既存の浮動 担保に優先する第二の浮動担保は許されない、ll。会社の合併と浮動担 保の効力にっいては、浮動担保を設定した会社が他の会社と合併をし た場合の浮動担保の効力については、判例は二つに分れているが、浮動 担保の効力は合併後の会社の総財産に及ぶとする立場。、、。考慮した方 がよいように考えられる。
(1)水島・前掲書・61頁以下。Palmer,Company Law.1949.p.297.
(2)Palmer,op.cit.pp.296−297;Charlesworth,op.cit.p.189;執行に関 してはOpera(1891)3ch.(C.A)260;Taunton v. Sheriff of War Wickshire(1895)2ch.319;Standard Manufacturing Co.,(1891)
1ch.627;公売差止めのため金銭が支払われた場合については
Heaton&Dugard,Ltd.v.Cutting Bro s.,(1925)IKB.655.
(3)Lindley, op.cit.p.321;Palmer,Company Precedents.1952.Part 3.
p.53;Biggerstaff v. Rowatt,s Wharf(1896)2ch.93.
(4)Palmer,Company Law.1949.p.298;General Share and Trust
Co.,v. Wetley,etc,co.,(1882)20ch.p.260.
(5)Morrison Jones and Taylor,Ltd.,(1914)lch.50.
(6)Wilson、v. Kelland(1910)2ch.118;Connolly Bro s,Ltd.,(1912)
2ch.25.
(7)Palmer, op. cit. p.296&p.299;Florence Land Co.,(1878)10ch.
D.530;Simonson,p.14;Buckley,p、225;Stephen s Commentaries on the Laws of England,1950.voLII.p.579;Halsbury,op.cit.p.473.
(8)Standard Manufacturing Co.,(1891)1ch.627;Hubbuck v.
Helms(1887)56 L. T.232;Foster v. Borax Co.,(1901)1ch.326;
Nelson&Co.,v. Faber&Co.,(1903)2 KB.367;Hamer v. London City and Midland Bank(1918)118 L.T.571;Palmer,p.296.
(9)Lindley, op. cit. p.319;Gower, The Principles of Modern Company Law.(1954).p.410.
(10)Pennington,Company Law(2nd ed 1967),pp.344・346.
(11)Lindley, op. cit. P.320;Palmer, oP. cit. PP.277.278;Coote A
Treatise on the Law of Mortgage.1927.p.507&p、1300.
(12)水島廣雄「企業担保法案について(二)一イギリス浮動担保よ り観て一」法学新報62巻2号18頁。水島・前掲書・69−70頁c
第6項浮動担保の結晶
浮動担保にとって、その論点の一つが結晶(crystallization)である、浮
動担保は、睡眠を続けていても将来の担保でなく現在の担保(an
existing charge)である以上(1)、一定の時期に、一定の原因により睡眠 から醒めて会社総財産の上に具体的に凝固し(to become fixed)、ここに、
特定担保として完全に物件的性格を発揮するにいたる、この現象を結 晶または固定もしくは、浮動または睡眠の終止(to cease to且oat or to be dormant)というc2)。浮動担保の結晶原因として、(イ)会社が営業を 廃止したとき、(ロ)会社が解散を開始したとき、(ハ)管理人の任命があっ たとき、の三つの原因の発生をみたときであるc3・。すなわち、浮動担保 はこれらの原因のいずれかが発生したときは必然的に固定する。した がって、これらの三つの原因のいずれかの事由が発生しないかぎり、た
とえ、会社が経営困難におちいったとしても、また社債の元本もしくは 利息が遅滞することがあろうとも、さらに、社債権者が元本償還ならび に利息支払請求の判決を獲得することがあっても、浮動担保は特定す ることなく依然として睡眠を継続するものであるt4・ Q結晶の効果は、
従来の浮動担保が凝固して確定担保となることに尽きるほ・、すなわち、
浮動担保が特定担保に転化して物権的効力を発揮すること、結晶後に 会社が取得した財産にも効力が及ぶこと、強制執行命令および債権差 押命令が実行される前に浮動担保が結晶した場合には、原則として浮 動担保の結晶の方が優先すること、結晶原因が管財人の選任による場 合には、第三者に対する効力は、選任の公示によって生ずること、であ
る。
浮動担保の実行については、結晶の結果、普通の特定担保となった浮 動担保実行は特に触れることはないが、社債権者の申請により裁判所 が選任した管理人、または社債信託証書により、あらかじめ、指定され た管理人により会社財産の取立、換価の上、その代価をもって優先的に 社債元利が弁済される。信託証書にあらかじめ管理人を指定しなかっ たときは受託者がみずから取立、換価をなす。裁判所は会社を継続、更 生しようとしてmanagerを選任することがあるが、このmanagerも取 立、換価をなし得る。解散の場合は、清算人は会社財産の取立、換価をな
し、管理人は清算人の得た代価を受領し、社債元利の弁済をなし得るに
すぎない(,}。
(1)Lindley, op. cit. p.232;Farrar, op. cit. p.231;Winfield, Jenks English Civil Law,1947.vo1.2.p.857.
(2)Topham,op.cit.p.153;Goitein,op.cit.p.247;Farrar,op.cit.p.232;
Palmer,op.cit.p.298;Re Griffln Hotel Co.,Ltd.(1941)1ch.129.
(3)水島・前掲書・74頁.Hodson v. Tea Co.,(1880)14ch.p.859;
Waldock,op.cit.p.146;Coote,op.cit.p.507;Robson v. Smith(1895);
Foster v. Borax Co.,(1901);Metropolitan Bank VH.H.Vivian&
Co.,(1900);Government Stock v. Manila Railway Co.,(1897):Lee v.Roundwood Colliery Co.,(1897)1ch.373;Wallace v. Universal Automatic Machines Co (1894);F. Gorr−Browne,Handbook on the Formation,Management and Win(五ng Up of Joint Stock
Companies,1952,p.270;Lindley, op.cit.p.325;Palmer, op.cit. pp.
300,301;Charlesworth,op.cit.p.19;Lindley,Law of Companies
(6th ed 1902).pp.325・326.
(4)Lindley, op.cit.p.325.
(5)Halsbury,op.cit.p。476;Coote,op.cit.voL 1.p.508.水島・前掲書・77 頁。
(6)水島・前掲書・77頁。Gower,The Principles of Modern Company Law.(3rd ed 1969).pp.435−437.黄宗楽「イギリス浮動担保に関する 研究」阪大法学96号(1975)84−87頁。
なお、浮動担保の基礎理論を含めた有意義な論文として、小林秀 年「企業担保法の理論一企業担保法改正論」東洋法学31巻1・2合 併号(1988)70頁以下「企業担保法の課題一イギリス浮動担保を 礎として一」東洋法学28巻2号(昭和60年)138頁以下がある。
第7項 スコットランドにおける浮動担保
浮動担保に関しては、ノルマン・コロニーの影響を受けていなかった ため、スコットランドの浮動担保はCompanies (Floating Charge)
(Scotland)Act1961が制定されるまで周知されていなかった(1)。さら に、1972年会社法(浮動担保および収益管理人)(スコットランド)〈The Companies(Floating Charge and Recivers)(Scotland)Act1972>が、浮 動担保と収益管理人制度によるその実行という、以前にはスコットラ ンド法には存在しなかったイングランド法の概念をスコットランド法 に導入したことにより、会社法に関する両者のコモン・ロー上の重要な 相違は除去された。しかし、同法がスコットランドのみに適用されたこ とにより、いまやスコットランド法のほうが浮動担保を成立させ発展 させてきたイングランド法よりも、明瞭にして完全に法典化された浮 動担保に関する法体系を有するものであると指摘されるようになって
いる〔2)。
1948年会社法には、106A条から106条K条の追加により、固定担保・
浮動担保の登記についての手続が許可された(3)。Scots Lawでは、スコ ットランドにおいて登記した会社(incorporated company)は、現在そし て将来の金銭債務(debt)を担保するために、その時々の会社の財産およ び企業に含まれる不動産・動産のすべて、あるいは一部にっいて、その 債権者のために浮動担保を設定することができる(、、.浮動担保の登記 については、Floatng chargeに優先する(in priority)、または同一順位
(ranking pari passu)の担保を設定する権限についての制限を登記に記 載することを必要としている(,〉。
浮動担保の効力については、会社が会社登記所に提出すべき担保明 細書(particulars)には、会社の権限に関する制限を記入しなければなら ないことから、この明細書に記入された制限は、推定悪意(constructive notice)が働く.浮動担保と特定担保の関係は、特定担保はっねに浮動担 保に優先するが、浮動担保が特定担保の設定前に登記されたとき、およ
び浮動担保設定証書が浮動担保に優先するまたはこれと同一順位の特 定担保の設定を禁止したときは、この限りではない〔,).浮動担保相互 の関係にっいては、同一財産上に二個の浮動担保が設定されている場 合は、その順位は登記の前後により、それぞれの担保設定証書(the instruments creating the charges)がそれらの浮動担保を同一順位に することを規定している場合はこの限りではない、と規定している(,、。
執行債権者と浮動担保により担保されている社債権者との優先関係に っいては、浮動担保は担保財産の全部または一部にっき有効な強制執 行(deligence)をなした者の権利に劣後すると規定している〔,、。
浮動担保の結晶については、浮動担保の結晶原因は会社の解散であ るとし、会社が浮動担保により担保されている財産を処分する権限を なお継続保有することが、債権者の利益からみて不合理であると認め られるような事件が生じたか、あるいは現に生じようとしている、と裁 判所が確信した場合には、債権者の担保が危険状態におかれたものと 看倣し、浮動担保により担保されている債権者は、裁判所に強制解散命 令を申請する権利が付与されていると規定している(・.)。
1972年法は、スコットランドにおいて登記している会社(1948年会 社法による登記の有無に関係ない)は、浮動担保を設定することができ
る。イングランドにある会社によって設定された浮動担保の客体(目的 物)にスコットランドにある財産についても承認をしている(1。・cこの担 保制度は、会社の金銭債務や他の債務(保証人の債務も含む)を担保する ために用いられており、会社や他の人によって設定したり、設定された
りしているCll, 。浮動担保は、会社の財産やアンダーティキングさらに は、未払込資本金〔,21(uncalled capital)を含んでおり、これらは、時とし て全部または一部が浮游(fioat over)しているu3)。
収益管理人の選任は、控訴裁判所が解散の管轄権を有する会社によ って設定された浮動担保についてのみすることができる。この範囲内 において、スコットランド法、イングランド法と同様に、裁判上の選任 そして裁判外の選任も認めているu・〕。Joint Receiverの選任もイング ランド法と同様に認められている(15)。法人およびスコットランド法に 基づく組合(firm)は、収益管理人となる資格が与えられていない(lc)。収 益管理人選任の事由としては、担保設定証書にその旨を明記すること ができるとともに、別段の定めが存在しないときは、浮動担保権者は直 接に収益管理人を選任することができる〔、7・、さらに裁判所も収益管理 人を選任することができる〔18。なお、収益管理人の選任は、会社登記官
(]g)および会社(2。)に通知されなければならず、その旨は担保登記簿iに 記載される〔2D.収益管理人が選任されると浮動担保は結晶して特定担 保となる②。以上のように、スコットランド法における浮動担保につ いて概観してきたが、いまやイングランド法よりも明瞭で完全な法典 化〔23)がされ、内容的にも進化している面を多く含んでおり、今後、わが 国が企業担保法を改正するに際して、参考になると思料される,
(1)Gower,The Principles of Modern Company Law.472(4th ed,
1979).小林秀年「スコットランドにおける浮動担保の素描」比較法 25号(東洋大学百周年記念)(1988年)91−161頁。同「比較企業担保 法」比較法27号(1990年3月)81−95頁。同「比較企業担保Za 一日 本、イギリス、スコットランドー」比較法28号(1991年1月)153
−173頁。
(2)Gower,op.cit.pp.472・473.
(3)Palmer,Company Law.note 1.p.495.
(4)Companies(Floating Charges)(Scotland)Ac七,1961.s.1(1).
(5)ss.106A(7)(e)and 106D(1)(b)(v).
(6)Companies(Floating Charges)(Scotland)Act,1961.s.5(1)(2).
(7)Companies(Floating Charges)Act,1961.s.5(3).
(8)Companies(Floating Charges)(Scotland)Act,1961.s.1(2)(a).
(9)Companies(Floating Charges)(Scotland)Act,1961.s.4.なお、
1961年法は1972年10月17日に制定され、同年11月17日に施
行されたthe Companies(Floating Charges and Receivers)Act 1972によって廃止された(ただし、section7(b),(c)and(d)を除いて)c
(10)Palmer,op.cit.note 7,p.496.
(11)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act,
1972.s.1(1).
(12)小林秀年「企業担保制度の客体」東洋法学27巻2号64頁以下。
(13)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act,
1972.s.1(1).
(14)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act,
1972.ss.11(1),(2).黄宗楽「イギリス浮動担保の実行にっいて」阪大
法学96号137頁以下(昭和50年)。
なお、スコットランド1972年法は、イギリスのCompanies Act 1985Part XVIIIにFloating Charges and Receivers(Scotland)と
して採り入れられている。また、スコットランド法は、1989年の Colnpanies Actにより一部改正されているが、基本的には変わっ
ていないf,
(15)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act、
1972.s.11(5).
(16)ld.ss.11(3)a.c.
(17)ld.s.12(1).
(18)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act,
1972.s.12.
(19)Companies(Floating Charges and Receivers)(Scotland)Act、
1972.ss.13(1),14(3).
(20)ld.s.25(1)a.
(21)ld.ss.13(5),14(5).
(22)ld.ss.13(7),14(7).
(23)担保の登記についても、Companies Act 1985.Part XII,
Chapter II(Scotland).ss.410・424.などで詳細な規定を設けている、
それは基本的にはChapter I(England&Wales)と同様であるが、異 なる点は、優先担保と同順位担保の禁止または制限、および順位の 変更または規制に関する特約は、記名調印後21日以内に登記され なければならず、登記によって対世的効力を与えられる点であり、
さらに、登記は公開され、本社事務所ですべての契約証書の謄本と 登記が公開され、会社債権者と株主は無料で、その他の者は有料で 登記を調査することが許されている。
第8項 企業担保法と改正問題
企業担保法は、制定から44年の歳月が過ぎようとしている。同法は、
昭和33年の制定当時は画期的な法律だといわれた.それは法理論的に 従来の観念を超越したものであったからである。法律観念として、担保 は契約の当初から「物権の確定性」を原則とするという従来の法原理か
らすれば、まさに民法理論の革命というべきものであった。企業という 概念すなわち、動産、不動産、特許、暖簾、継続的契約関係などを含む複 雑多岐なものを法的に一体として掌握し、さらに、担保の目的物として 考えることは理論的に可能であるか、この間題は大陸法的見地からす れば理論的に解明が不可能に近い。この立法に関与された諸先生の悩 みはそこにあったと側聞している。結局これを解決するには、英法の浮 動担保制度から導き出す以外に方法がなかったとされている。
現時点で、当時の経済状況、企業の実態を考慮しなければ、簡単に批 判や感情論をむき出しにして椰楡することもできよう。昭和20年代の 荒廃していた産業界を復興させるには他に何をもってなせばよかった か、当時の財団抵当制度の全面的改正という意図も、企業の資金の事情 から無理であったことは周知の通りである。一部の大企業の社債のた めの担保法という批判もあるかもしれないが、わが国の基幹産業であ った鉄鋼、ガス、電気といった16社の企業が企業担保法による社債を発 行し、10年目に見事に、わが国の経済の再建にその礎となっている、効 力的にイギリスの浮動担保に比し弱く、柔軟性や実効性の面で問題が あることも事実である。しかし、わが国の法体制からこれ以上の立法を することは不可能に近かった。わが国の法学者の概念は絶えず大陸法 的見地からのみのもので、昭和29年秋の日本私法学会総会での「イギリ ス浮動担保制度」の発表(水島廣雄博士)における質問もみなそうであっ て、司会役の我妻栄博士が質問打切りをされた記録もあるほど、学会の
趨勢は企業担保制度の立法化に理解を示すまでに至っていなかった。
たしかに、企業担保法は、民法と比較した場合、弱い特質を有してい
る。
「担保の客体は会社の総財産」としているが、これは株式会社の総財 産を一体として担保の目的とする旨を定めている。しかし、ここに大き な改正問題を包含している。企業担保制度の狙いとするところは、企業 を構成するすべての財産を一括して担保の目的とすることによって、
個々の構成財産の価値の総和以上の担保価値を利用し得ること、およ び担保権実行の場合における企業の崩壊を防止し、もってそれを維持 することにある。したがって、企業担保制度は「個人企業」、「会社などの 法人企業」の別なく、すべての企業について認められるようにしなけれ ばならない。現行の企業担保法は、企業を一括担保の目的とする点で法 制上、画期的なもので、企業の客観性が最も強く、その企業財産の範囲 を容易に確定することができ、しかも公示制度を簡単にできる株式会 社にっいて当初実施したことは既に周知のところである.経済界や企 業の実態、情報化、国際化の観点からすれば、この際、法改正により株式 会社だけでなく、1条において「企業の総財産……」と改正し、他の法人、
または個人にまた拡大する必要がある.反対される民法学者は、個人ま たは合名会社、合資会社、有限会社などの企業にあっては人的色彩が強
く、企業自体の客観性が薄弱であり、企業財産の範囲が実際上、不明確 になる恐れを指摘する。また、企業担保権の公示方法が現行法上、問題 とする。ならば、公示制度や登記制度を改正すれば問題は解決する。ま して、コンピューターなどの発達により記録に関しても従来とは比較 にならない企業実態も理解する必要がある。また、会計制度も年々改正
して各企業の実態の開示も進化している。
企業担保権が抽象的には企業を担保権の目的とするとしても、本来、
企業の法的性格には一定の定義は存在しない。それぞれの場合に応じ て企業を対象とする法律関係によって自らを制約しており、かっ、企業 を担保権の目的とすることについては、実行手続の部面からの拘束を も考慮しなければならないが、このような前提からすれば、企業担保法 1条1項にいう会社の「総財産」とは、民法306条において、一般の先取 特権の対象とされている「総財産」と同様の意義に解すべきである、し たがって、「総財産」の範囲を改正しなければならない。財産権としては、
不動産、動産、用益権、知的所有権、鉱業権、漁業権などのすべてを包含 するのが一般的である。しかし、現行法上、強制執行の対象とされてい ない営業権、商号、企業特有の技術または熟練ないし暖簾などの経済上 の利益は包含しないものと解されている。これは、「企業」そのものを担 保とすることにはならない。企業担保が営業の担保というについては、
純理論的には、その客体は営業自体でなければならない。これは営業は、
人的物的の総合価値以上に独自の高い価値を有し、それはまた、同種の 他の営業にまさる超過価値を有している。したがって、企業担保には、
暖簾が包含されて当然である.たしかに、わが国では、暖簾の財産的価 値と営業権としての価値を認めたがらない傾向がある.イギリスでは 営業とともにするgoodwil1の売買が認められ、これに関連する競業禁 止の判例は多数存在する。
企業担保法改正についての批判のなかに、企業担保法における被担 保債権が社債にかぎられているため、銀行借入金などは、財団抵当など
によって担保されることになり、実際上,企業担保附社債を発行してい る企業にあっては、社債権者保護の立場から借入金などについて原則 として特定担保を設定することができないで無担保としているのを指
摘している。たしかに、財団抵当制度も融資するか否かは、まさに銀行 を中心とした金融会社側の態度にあり、これは、企業担保法の改正で指 摘される論点でもある.これは、わが国の金融法制の欠陥ともいえる点 があり、銀行の体質の改善ばかりでなく、企業に対する融資上の法制を 厳しく改正しなければ、いくら企業経営に関する法律を立法もしくは 改正しても効果は望めない。
今後、情報産業が飛躍的に発展しても、たとえば個人的企業がコンピ ュー^ー関連でソフトの開発で注目すべきものを有していたとしても、
また、学術上の開発技術をもったとしても、これを財産権として認め、
担保とすることができるかという問題がある。
総財産の意義とその一体性の論議を深め、具体的に答えを出さない かぎり、企業担保権の実行方法は決まらない。
被担保債権の範囲の拡充の問題もある。現行企業担保法一条は、被担 保債権を社債に限定している。被担保債権は民法は債権の種類を問わ
ないが、企業担保は民法と異なりその会社の社債に限るとしている。企 業担保権は、実行開始の決定によって会社の総財産が差押さえられる までは、具体的な権利の確定をみない。したがって個々の財産に対する 追求力をもたないから、所詮、その担保権の効力は弱くなるといわざる をえない。こうした観点から、企業担保権が約定担保物権とはいえ、そ れを利用することにっいては制限が設けられているが、ここをまず改 正する必要がある。他の約定担保権については、第三者の債務のために 担保提供するいわゆる物上保証が認められているが、企業担保権はそ
の会社の発行する社債を担保するものであり、物上保証は認めていな い。企業担保法9条は、企業担保権によって担保される被担保債権の範 囲について抵当権に関する民法374条を準用することを規定している