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  信託の有効性に関する準拠法は、当該法律又は信託のうち分離可  能な部分の準拠法を他の法律に置き換えることができるか否かを決  定する。

 条約のポイントの一つは第2条の信託の定義である。同条では、信 託とは財産が受益者のため又は特定の目的のため受託者の管理下に置 かれる法律関係で、①独立の基金を構成し、受託者の固有財産に属し ない、②受託者又は受託者のための第三者の名義となる、③受託者は 信託条項又は法律により信託財産を管理処分する義務、権限、責任が ある、という特徴があげられている。この定義から判るように、信託

条約はアングロアメリカの信託に限定せず、遺言信託、生前信託等の 区別することなしに広く対象とし、受益者を保護する考え方に立って いるといえる。我が国の信託もこの定義にあてはまり、条約が批准さ れても信託法の手当は要しないものと考えられる〔1、。

 通常の国際私法の条約ではこのような規定は見られないが、信託が 世界的に普遍的な法制度でないことに鑑み、信託と法性決定すべき法 律関係の内容の理解を助けるためにこれらの規定が置かれた。この規 定方法は、法選択規則構造論の観点からきわめて重要な意義をもつも のといえる。というのは、法選択規則における単位法律概念は多くの 場合、実質法上の文言を借用しており、国際私法独自の文言を使用し ている場合はほとんどない。その結果、法性決定の際に各国実質法の 内容に引きずられ、国際的に統一的な法的処理を行なうことの障害の 一因となっていると考えられる。本条約は、法選択規則が適用される 法律関係の具体的特徴を列挙することにより、このような弊害を回避

しているのである。

 信託条約の考え方は、我が国の信託とオーバーラップするところが 多い。そのため、仮に信託条約を批准するとしても信託法や関連法の 抜本的な手当は不要であろう。しかし、第三者名義の信託等条約に採 り入れられている考え方と国内法等との関係など疑義の生じないよう 慎重な検討が必要である。

準拠法については第6条〜第10条に定められているが、基本的な考え として、①委託者の明示又は黙示の選択により、②選択がなければ、

最も密接に関係する法律によるものとし、その法律で有効性、解釈、

効力、信託事務を規律する、との考え方に立っている。実務からみて 最も妥当な結論といえる。

 8条1項は「第6条および第7条により決定された準拠法は、信託 の有効性、解釈、効力および信託事務を規律する」として、準拠法の 適用範囲について規定している。伝統的な法選択規則においては、こ のような準拠法の適用範囲を明示する規定はみられない。法選択規則 構造論の観点からも注目すべき規定である。準拠法の適用範囲を明示 することは、裏からいえば、その範囲内の事項については当該準拠法 選択規則が適用されることを意味する。したがって、準拠法の適用範 囲を詳細に規定すればするほど法性決定の必要性が減少する。法性決 定の必要性の減少は、本来的には単位法律関係を個別的に詳細に規定 することにより図られるべきであるが、概括的・包括的な規則であっ ても準拠法の適用範囲を詳細に規定すれば、その実現は可能である。

 8条1項だけでは適用範囲が抽象的に過ぎるので、明確にするために 2項が置かれている。2項の列挙事項は例示にすぎず、それ以外の事項 に対する準拠法の適用を妨げるものではない。また、この規定は同時 に、具体的にいかなる問題が信託をめぐって生じるかをも示し、2条に 言う「信託」の持つべき特徴をも間接的に示している。

 本条約は、行為能力や方式の問題を条約の適用範囲から除外し、信 託準拠法とは別に各国国際私法によって準拠法を決定するものとして おり、広い意味での準拠法の分割を認めている。また、9条で「本章の 適用において、信託のうち分離可能な部分、特に信託事務に関する事 項は、別の法律によって規律することができる」と規定し、少なくと も信託事務に関しては信託の有効性とは別の準拠法を認めることを明 確にしている。

 ここで注意すべきは、客観的連結の場合にも準拠法の分割は例外的 に許されているのではなく、原則的に認められていることである。こ

の点、例えば契約債務の準拠法に関するEEC条約が、当事者自治の 場合には原則的に認めているのに対して、客観的連結の場合には例外

としているように、客観的連結における準拠法の分割に対して、大陸 法諸国はより否定的である。

 11条および12条は、信託の承認について規定する。ここでいう信託 の承認とは、準拠法の適用結果をそのまま受け入れるという意味であ る。一般に、準拠法を指定することは、その準拠法の適用結果を認め ることを内包しており、このような承認の規定は不要である。しかし、

信託が普遍的な法制度でないことに鑑み、信託制度を有していない国 の理解を助けるためにその効果を具体的に規定したのである。これら の規定は、法選択規則構造論の観点からもきわめて特徴的な規定であ る。準拠実質法の適用結果を具体的に規定することは、渉外的法律関 係に対する抵触法的規律ではなく実質法的規律につながるからである。

例えば、「承認とは、少なくとも、信託財産が単独の基金を形成するこ と、受託者が受託者としての資格で訴えることができかつ訴えられう ること、および受託者が公証人または公的資格において行為する者の 前において受託者としての資格で出頭しまたは行為をなしうること、

を意味する」と規定する11条2項および「受託者が、動産、不動産を 問わず財産またはそれらに対する権原を登録することを希望する場合 には、登録希望地の国の法律が禁止している場合または当該法律と相 容れない場合を除き、受託者の資格または信託の存在を公示する他の 方法で登録することができる」と規定する12条は、信託準拠法によっ て有効とされた信託がもっている実質法的効力を規定したものであり、

信託の効果についての国際的な実質法規定であるといえる。

 また「信託準拠法が命じまたは規定する限りにおいて、承認とは以

下のことを意味する。(a)受託者個人の債権者が、信託財産に対して強 制執行ができないこと、(b)受託者の支払不能または破産の場合に、信 託財産が受託者の財産の一部を構成しないこと、(c)信託財産が受託者 またはその配偶者の夫婦財産の一部を構成せず、かつ受託者が死亡し た場合に受託者の財産の一部を構成しないこと、(d)受託者が信託に違 反して信託財産を自己の固有財産と混合しまたは信託財産を譲渡した 場合、信託財産が復旧されうること。ただし、当該財産の所持人であ る第三者の権利および義務は、裁判所の法選択規則によって決定され る法律にしたがって規律される」と規定する11条3項も、信託準拠法 が認める範囲内でとの限定がつくが、やはり実質法規定である。この

ような、渉外的法律関係に対して国際的な合意が可能な範囲から実質 法的規律をすることは今後の進むべき方向として評価すべきである。

というのは、抵触法的規律の場合には、法選択規則(抵触法)の適用 と準拠実質法の適用の二段階が必要であり、各々の段階で各国および 各当事者の解釈が異なる可能性があり、したがって結果の統一性・判 決の国際的調和、当事者の正当な期待の保護、予測可能性、法的安定 性等の確保が困難iであるからである。一方、国際的に統一された実質 法による規律の場合には、当該実質法の適用という一段階のみであり、

各国および各当事者の解釈が異なる可能性が低いからである。

 15条1項および16条は、法廷地および第三国それぞれの強行法規 および直接適用法の優先的適用を定めている。優先される法目的とし て、例えば15条は「(a)未成年者および制限能力者の保護、(b)婚姻の 身分的および財産的効力、(c)遺言によるものであるか否かを問わず相 続権、特に配偶者および親族の遺留分、(d)財産に対する権原の移転お よび担保権、(e)支払不能の場合の債権者の保護、(f)その他、善意の三

者の保護」の4つを例示する。また、16条のいわゆる直接適用法には 文化遺産、公衆の健康、一定の重要な経済的利益、労イ動者の保護、労 働契約以外の契約における弱者保護等に関する法規が該当するとされ

ている。これらは、弱者保護とか、取引の安全・保護とか、家族法秩 序の維持であるとかの実質法の法目的を優先させるものであり、価値 志向的なものである(2、。

(1)Actes et Documents 233.

 このことを示すために、条約前文において「……コモンロー 諸国の衡平法裁判所において発展し、若干の修正を受けながら他

の諸国において継受されたものである信託が、特異な法制度であ ることを考慮し、信託の準拠法についての共通の規定を制定した い……」との文言を置いた。この文言との関係で、本文前述の(d)

に該当する信託類似制度が適用範囲に入るか否かについて問題と なるが、コモンローと無関係に発展したものでも、2条の基準を満 たしさえすれば条約の適用範囲に入ると考えられる。von

Overbeck,supra note 1,at 375;Caillard/Trautman,supra note 1,

at 318.

 したがって、日本法上の信託は、2条に規定する構造・特徴を有 するため、原則として条約の適用範囲に入るものといえる。新井 誠「比較信託法の問題点について」信託法研究12号107頁(1988 年)。なお、本会議第15会期において、日本代表である池原教授

もその旨発言している。Actes et Documents 232.

なお、2条3項は「委託者が一定の権利および権限を自己に留保し

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