• 検索結果がありません。

観光リスクマネジメント論授業プログラム構築と 実践の一考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "観光リスクマネジメント論授業プログラム構築と 実践の一考察"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

観光リスクマネジメント論授業プログラム構築と 実践の一考察

髙 橋 義 郎

(1 章、2章、3 章−1、4 章、5 章)

杉 山 大 輔

(3 章−2)

キーワード:観光リスク、リスクマネジメント、国内観光リスク、

      海外観光リスク、ニューツーリズムリスク、観光危機管理

1 章 問題意識と観光リスクの位置づけ

1.問題意識

本学ビジネスマネジメント学群では、2019 年度から観光リスクマネジメント論を開講 した。授業の開講準備として、観光リスクマネジメントのテーマを冠する先行研究や他大 学での開講状況を中心に事前調査を進めてきたが、意外にもそれらの事例や情報は多くな かった。先行研究では観光リスクというよりも観光危機管理の領域に属する内容の公開情 報が多く、また、他大学でも開講の事例は少なかった。ただ、観光に関わる書籍や文献、

それに授業科目の中の一部に、観光リスクや観光リスクマネジメントを包含しているもの は散見されている。

それらの事前調査を通じて感じた問題意識としては、観光学に属する書籍や文献は多い にもかかわらず、なぜ観光リスクマネジメントについての資料は少ないのか、という疑問 であった。2つ目の問題意識としては、観光リスクや観光危機管理の文献や資料にはリス クマネジメントの国際標準規格である

ISO31000 が引用されているにもかかわらず、リス

クや危機管理の要因特定、分析、評価、対応といった一連のリスクマネジメントへの適用 が十分とは言えない事例が多く見られたことである。そして 3 つ目の問題意識としては、

昨今、注目を集めている各種のツーリズムにおける観光リスクの分析の事例が少なかった ことであった。

これらの問題意識を踏まえて、本研究ノートでは、サービスサイエンスとリスクマネジ メント国際標準規格

ISO31000 のフレームワークを授業プログラム構築のベースに位置づ

けた「観光リスクマネジメント論」授業のプログラムを構築し実践してみた。本稿は、そ の試みについて報告するものである。

(2)

2.観光リスクの定義

リスクマネジメントの国際標準規格である

ISO31000 では、リスクとは「目的に対する

不確かさの影響」と定義し、「影響とは、期待されていることから乖離すること」として いる。(日本規格協会編[2019]p.23)そこで本稿では、ISO31000 の定義に準じて観光リ スクを定義することとし、「観光リスクとは、観光に関わる行動や状況における不確かさ が与える影響により発生した観光目的・目標・期待との乖離の結果」とした。(図表 1︲1)

この定義に従えば、目指す観光の目的・目標・期待が決まらないと、観光リスクは特定 できないということになる。また、観光目的・目標・期待との乖離の結果が量で把握でき るとすれば、図表 1︲1 に示すように、リスクにはプラスとマイナスの両方のリスクが存 在することになる。プラスのリスクは促進要因であり、マイナスのリスクは阻害要因であ る。一般的なビジネスで言えば、プラスのリスクは価値創造に結びつくリスクであり、事 業投資、提携・M&A、業務改革などのように、リスクをとることによってリターンが生 まれる。一方、マイナスのリスクは価値を毀損するリスクであり、業務ミス、コンプライ アンス(法令順守)違反などの阻害要因を指し、その対応策としては、回避、低減、分 散、移転、保有などが挙げられる。

以上の例を観光リスクに置き換えれば、観光の目的を増進させ感動の旅を生み出すよう な要因がプラスのリスクであり、反対に、こんなはずではなかったというような失望や不 満足がマイナスのリスクと言えよう。

図表 1−1 本稿における観光リスクの定義出所:筆者作成

出所:筆者作成

(3)

3.観光リスククラスターと観光リスクマネジメント機能

観光リスクを被る当事者には、3つのクラスターが存在する。観光客、観光事業者、そ れに観光地及び地方自治体である。いわゆる、観光産業に関わるステークホルダーのメイ ンプレイヤーである。旅行者や観光客のリスクとしては、災害などのクライシスによる死 傷、病気、交通機関トラブルによる旅行中断や帰宅困難、通信不能、誘拐などによる拘 束、盗難、イベント中止などがあり、観光関連産業や地域のリスクとしては、観光施設の 損壊、観光客(利用者)や従業員の人的及び物的被害と関係する法的責任、宿泊などの予 約キャンセル、交通障害、ライフラインや物流の障害と営業休止などが考えられよう。観 光産業は、危機や災害のリスクによる影響を受けやすい。それは、この度の新型コロナウ イルス禍で痛烈に感じるところである。

ちなみに、本稿では観光危機管理は観光リスクマネジメントに包括されているという考 えをとっている。リスクマネジメント機能を、戦略的、業務的、危機管理の3つの機能領 域に分類しているためで、観光危機管理は上記の危機管理機能に属するクライシスマネジ メントと位置づけている。(三菱総合研究所[2010]p.34)観光リスクの分野では、危機 管理をリスクマネジメントとして表出されることが多いが、前述した観光リスクの定義を 適用すれば、図表 1︲2 に示すように、観光に関わる行動における業務のトラブルによっ て観光目的・目標・期待の実現が阻害されることもあるし、その業務トラブルが新たなク ライシスを生み、ひいては観光に関わる当事者の戦略的リスクを引き起こすことも十分に ありうることである。以上に述べた 3 つの観光リスククラスターと 3 つの観光リスクマネ ジメント機能との関係づけについては、図表 1︲3 にまとめた。

図表 1−2 観光リスクマネジメント機能

戦略的リスクマネジメント機能

<観光に関わる事業への波及リスク>

持続可能な観光ビジネスの実現

業務的リスクマネジメント機能

<観光に関わる諸業務のリスク>

観光目的を実現するリスクのマネジメント

(促進要因増大、阻害要因の回避・低減)

(観光目的達成計画の準備、実行、管理)

危機管理クライシスマネジメント

<観光に関わる危機管理のリスク>

観光における安全・安心、防災・減災 BCP、人財育成、組織的な4R、等

観光に関わる旅客、事業会社、地域・自治体

観光の目的 は何か?

それは実現・

達成できたか

出所:三菱総合研究所実践的リスクマネジメント研究会編著[2010]『リスクマネジメントの実践ガイド』日本規 格協会、p.34 より筆者作成

(4)

図表 1−3 観光リスククラスターと観光リスクマネジメント機能の位置づけ

観光リスクにかかわる クラスター

観光戦略的リスク マネジメント機能

危機管理クライシス マネジメント機能

観光業務的リスク マネジメント機能 観光客・旅行客

観光事業会社 観光地・地域・自治体

出所:筆者作成

2 章 授業プログラムの立案

前述した問題意識を踏まえて、観光マネジメントリスク論の授業プログラムを立案し、

実際に授業での適用を試みた。図表 2︲1 に、2020 年度の授業計画を示す。授業の概要と しては、「観光の目的を実現しようとする時、受講者が観光業者や観光客であった場合、

どのようなリスクを考え対応していくのか。単に思いつきでリスクを特定するだけでは適 切なリスク対応はできず、サービスサイエンスやリスクマネジメントのフレームワークに 基づいて観光リスクを特定し、評価し、適切な対応策を立案することが、観光目的を実現 し満足度を高めるために必要であるとの考えから、観光リスクの特定・評価・対応の手法 を学び、その手法を使った演習を通じて観光リスクのマネジメントを実践的に理解し体得 していく」こととした。また、到達目標は、「観光リスクの特定、評価、対応の手法を理 解し説明ができること、その手法を使って観光リスクマネジメントの計画立案ができるこ と、観光事例のリスク分析を行いリスク対応の提案書を作成することができること」など を挙げている。なお、図表 2︲1 の第 1 講と第 2 講は、新型コロナウイルス禍による休講 のため、課題提出とした。

図表 2−1 2020 年度「観光リスクマネジメント論」授業計画 第 1 講  観光リスク概論

第 2 講  観光体験でのトラブルとリスクの抽出と振り返り 第3講  観光、観光リスク、リスクマネジメントの基礎知識 第 4 講  観光リスクの特定と評価方法

第 5 講  観光リスクの対応方法

第 6 講  観光リスク対応提案レポート作成方法 第 7 講  国内観光におけるリスクマネジメント 第 8 講  海外観光におけるリスクマネジメント 第 9 講  最終提出課題の説明と関連する振り返り 第 10 講  医療ツーリズムにおけるリスクマネジメント 第 11 講  フードツーリズムにおけるリスクマネジメント

第 12 講  コンテンツツーリズムにおける観光リスクマネジメント 第 13 講  祭礼文化観光における観光リスクマネジメント

第 14 講  総括、これからの観光リスクマネジメント 出所:筆者作成

(5)

3 章 リスクマネジメント ISO31000 とサービスサイエンスの適用

1.リスクマネジメント ISO31000 の適用

国際標準規格

ISO31000 は、リスクマネジメント指針として 2009 年に発行された。そ

の中に組み入れられているリスクマネジメントの実践プロセスは、いわゆるリスクアセス メントであり、組織の状況の確定、リスクアセスメント(リスクの特定、分析、評価、対 応)、モニタリング及びレビューという

PDCA

サイクルを回す仕組みで、PDCAのダブル ループでフレームワークが設計されている。

本稿で報告する観光リスクマネジメント論の授業プログラム立案では、このフレーム ワークを取り入れて「観光リスクマネジメントツール」として作成し、受講者には、その ツールを使って観光リスクの特定、分析、評価、対応の演習作業を行ってもらうこととし た。そして、受講者それぞれが決定したリスク対応策において

PDCA

サイクルを回し、

観光リスクマネジメントを実践する手法を体得してもらう授業プログラムとした。観光リ スクマネジメントツールは、「観光リスクアセスメント表」と「リスク対応行動計画表」

の 2 つで構成され、前者を図表 3-1 に、後者を図表 3︲2 に示す。

図表 3−1 観光リスクアセスメント表   図表 3−2 観光リスク対応行動計画表

観光リスクの名称

①発生の事象

②発生の損害

③リスク低減の 事前対策

④発生時の対応

⑤事後の対応

⑥対応の検証

⑦対応の評価

観光リスク対応策行動計画表

出所:筆者作成

観光リスクアセスメント表

観光目的 観光当事者

行動 プロセス

具体的 アクション

想定リスク 特定

リスク分析

リスク評価 リスク対応 影響度 頻度

⑨ ・・・・・

リスク分析(影響度、頻度)の基準例

(4段階評価)

・非常に高いレベル 4点

・やや高いレベル 3点

・やや低いレベル 2点

・低いレベル 1点

出所:筆者作成

観光プロセスの「見える化」が観光リスクアセスメントの第一歩とすれば、観光リスク アセスメント表では、①観光行動プロセスを書き出す、②それぞれの観光行動プロセスの 具体的アクションを書き出す、③具体的なアクション毎に想定観光リスクを書き出す、④ 想定観光リスク毎にリスク分析を行う、⑤観光リスク分析結果をリスクマップで評価す る、⑥その評価に基づき必要な対応策を決める、⑦対応策実施結果をレビューしリスクア セスメントを見直す、という観光リスクのアセスメントプロセスを考慮しなければならな い。観光企画はリスクマネジメントそのものであるから、優れたリスクマネジメントが優 れた観光業者と賢明な観光客を創るといっても過言ではない。

(6)

2.サービスサイエンスとしての観光価値とリスク

観光は、学問領域としてのサービスサイエンスの典型的な適用業種であり、観光価値は サービスサイエンスが取り扱う経験価値のことである。そして、観光リスクは、事前期待 と実現された知覚品質とのギャップであると定義している。

経済のサービス化が進んでおり、GDP・ 就業人員の 70%超がサービス産業に帰属する 経済構造となっている。製品に埋め込まれた機能の交換から、モノからコトへ、と言われ るようなコト消費に転換している。すなわち顧客は製品や給付行為により経験価値を享受 する。こうしたサービスの特性を構造化し分析することがサービスサイエンスの中核課題 である。経験価値とは、参画者の感動や思い出といった感性的な価値を実現するものと定 義される(Pine et al[1999])。「モノより思い出」というキャッチコピーに代表されるイ ンタンジブルズ(無形資産価値)を創出する。さらにこうしたサービスの領域では、近年 サービスドミナントロジック(Vargo et al[2004]pp.1-17)による価値創出のメカニズム としての価値共創や使用価値の議論が盛んになされており、サービスマーケティングの概 念や手法を大きく変えつつある。

観光はこうした経験価値を主目的とするサービス価値実現の典型的な分野である。観光 の領域では、観光主体(観光客)・観光客体(観光資源)・観光インフラ(事業ステークホ ルダー)の共創により、如何に主体・客体の価値が増殖されていくかを意図する。その中 で観光サービスの価値と観光リスクの関係は、サービスへの事前期待と顧客参画後の知覚 品質との差、として以下のように定義される。

  事前期待<知覚品質  =顧客満足・感動(ポジティブリスク)  ⇐価値共創   事前期待>知覚品質  =期待外れ・失望(ネガティブリスク)  ⇐価値棄損 観光に関するさまざまなネガティブリスクを分類・解析し、コントロールすることで、

全体の価値向上に資することができる。そのため、従来の観光リスクマネジメントの議論 は、ネガティブリスクのコントロールの方法が中心的テーマであった。こうしたネガティ ブリスクには、自然災害(地震・津波・水害ほか)、社会リスク(テロ・感染症・銃乱射 等犯罪ほか)、文化リスク(伝統文化・風土・景観・芸術ほか)が存在する。特に日本は 災害大国であることから自然災害のリスクを中心に語られることが多かった(東北大震災 や現在予測されている首都圏直下型地震・南海トラフ地震等)。しかしながら近年では日 本でもオウム真理教事件を発端としたテロや足下の

COVID-19 等感染症の問題が顕在化し

大きな社会課題となっている。

さらに従来は文化リスクに関してはあまり多くは語られてこなかったが、インバウンド の急激な増加や地方再生 ・ 活性化等の要請に応じ、以下のような社会課題が顕在化しつつ ある。第一に、インバウンドの増加に伴う異文化の交流は新たな発見や気づき ・ 内省の機 会等の貴重な体験を提供すると同時に、オーバーツーリズムによる地域社会 ・ コミュニ ティ ・ 環境等の価値棄損リスクも顕在化している。急速なインバウンドの増大に地元の対 応や既存ルールを理解してもらう仕組みの整備が追い付けない実態があると思われる。ま

(7)

た第二に、マスツーリズムといわれる観光の大衆化の結果、さまざまな疑似現実化と呼ば れる現象が顕在化しつつある。例えば、「おわら風の盆」や観光記念行事の一環としての フェスティバル等の地域に根差した風土 ・ 祭りのイベントに関しては、開催当日の天候に 左右されて訪問する顧客の観光機会が実現しないリスクが存在する。これを回避するため に屋根のある公会堂等の施設にイベントの出し物を集めて観光客に提供するといったツ アーが企画されている。これを顧客にとっての観光の利便性向上や移動の効率化、ないし 地域に埋もれがちな貴重な文化資源保存のために有効な手段と捉えるか、人工化された真 正でない疑似現実による文化 ・ 風土の棄損リスクと捉えるかは議論のあるところである。

今後その境界設定とリアルとバーチャルの組合せの可能性を議論していく必要がある。第 三に、ICTの急速な進展により、類似の価値拡張 ・ 価値棄損リスクも発生している。ICT の発展は

VR(Virtual Reality)や AR(Augmented Reality)・MR(Mixed Reality)ないしド

ローン等の普及に伴い、バーチャルな時間 ・ 空間を超えた知覚可能性の拡張を実現してい る。高齢化とともにハードな移動が困難なケースや、車椅子等での旅行の可能性をリアル の領域で拡張することは従来も行われてきた。さらに昨今では「お家でオンラインバスツ アー」「バーチャルバスツアー」等の名称で、バーチャルに楽しめる旅の体験が新たな サービスとして開発されている。とりわけコロナ禍の下での非接触要請の高まりがこうし た動向のきっかけとなり拍車をかけている。今後は

ICT

の活用により、さらに現実感を 高めたサービスの開発が促進されるものと考えられる。マスツーリズムとともにリアルと バーチャルの棲み分けや融合の問題として、疑似現実の品質が上がるに従い対象領域が拡 大することが予測される。宇宙旅行や南極観測地への訪問等難易度の高いケースへの適用 だけでなく、日常の延長にあるケースでも時間ビジネスの観点から広まる可能性もある。

疑似体験とリアルの価値との境界設定や組合せの問題として、今後も検討を継続していき たいと考えている。

4 章 授業プログラムの実践報告

1.授業の実践プログラムと学生からの評価

2020 年度の授業は、毎回、教員の海外出張で観察された観光リスクの体験談から始め、

前回の授業内容の振り返り(簡単な復習)、受講者の整理演習回答からピックアップした ハイライトの共有、そして授業の本題に入り、講義と途中での整理演習設問を提示して

WEB

提出の指示を出すなどで 100 分の授業が終了する運びとした。リアクションペー パーでのコメントを見ると、上記体験談は学生に海外でのビジネスへの関心を高め、前回 の振り返りは毎週の授業をシームレスにつなぐ工夫として歓迎されている。また、整理演 習も学生自身が授業のポイントを自ら確認し、考える習慣が身につく取り組みとして、そ のプログラムは評価されてきた。

本題となる観光リスクマネジメントの講義では、書籍要約や公開資料を紹介しながら、

(8)

観光リスクマネジメントの基本的かつ実践的な知識を習得してもらい、加えて観光行政や 観光産業の現場で使われている実資料を読み込みながら、観光リスクマネジメントツール を使って特定から対応までのマネジメントを実践する学習手法で進めてみた。これらの演 習作業は、かなりの時間を要する事例も多く、そのため、整理演習の提出を授業後の課題 として指示することも少なくなかった。WEB提出された整理演習の回答は一覧表に集計 され、評価点がつけられる。

2.観光リスクマネジメントツールの活用

教員が授業で紹介する事例を聴き、単にノートに筆記するだけでは理解度は低い。その ため、観光リスクマネジメントの事例について、学生自身が観光リスクをアセスメントし マネジメント計画を立案することは、学生自身の考えを整理し習慣づける重要なプロセス と考える。

たとえば、図表 3︲1 の観光リスクアセスメント表を用いてビジネスの商談を目的とし た海外出張の観光リスクを考えてみると、観光目的は「ビジネス商談を目的とした出張」

となり、観光当事者は「個人旅行者」となる。そして、観光行動プロセスとして考えられ るのは、計画→準備→手配→出発→移動→滞在→活動→移動→帰宅といったような行動が 記入され、それぞれの行動プロセスにおいて、具体的アクション、想定リスク特定、リス ク分析(影響度、頻度)、リスク評価、リスク対応の順で該当する情報を記入していくと、

海外ビジネス出張に行く個人旅行者の観光リスクのアセスメントが実践体験される。そし て、そこで決定された対応策について、図表 3︲2 の観光リスク対応行動計画表に落とし 込むことにより、観光リスクマネジメントの

PDCA

サイクルが回っていくことになる。

観光事業者の場合も同様のプロセスで観光リスクマネジメントを実践することができ る。そのケースの一例として、観光目的が「観光ツアービジネス(添乗業務)」で、観光 当事者は「観光業者」とすると、観光行動プロセスは、募集→準備→連絡→集合→出発→

移動→滞在→移動→帰国→解散のようになろう。

また、様々なツーリズムでも活用することができ、その一例として、整理演習の設問に した事例を図表 4︲1 に紹介する。そして、図表 2︲1 の授業計画にあるように、国内観光 や海外観光、医療ツーリズムをはじめフードツーリズム、コンテンツツーリズム、祭礼文 化観光などのニューツーリズムの観光リスクマネジメントにも、普遍的に活用できるツー ルとなっている。

5 章 まとめ

リスクマネジメントは「未来の指標づくりである」とも言われている。目指す目的や目 標を実現するために、その促進要因と阻害要因を予め想定して対策を立案し、未来を切り 開く行動を推し進めていくことこそ、リスクマネジメントの本質である。本稿で取り上げ

(9)

た観光リスクマネジメントも、同様の視線で実践していく必要があると筆者は考えてい る。そのため、本学の観光リスクマネジメント論にはリスクマネジメントの国際標準規格

である

ISO31000 のフレームワークを適用してみた。また、観光というサービス業におい

ては、単に接客マナーや「おもてなし」などの顧客接点に注視することのみならず、サー ビスサイエンスの考え方を取り入れたマネジメント思考が重要な成功要因につながるはず である。

以上に観光リスクマネジメント論の授業実践の試みを報告したが、受講した学生の評価 について言及すると、毎回の整理演習の平均点は約 2.8 点(3 点満点、80 名受講)で、記 述された授業評価も良好だったことを報告し、本研究ノートを締めくくりたい。

<参考文献>

・一般財団法人日本規格協会編[2019]『対訳ISO31000:2018 リスクマネジメントの国際規格<第 1 版>』一般財団法人日本規格協会

・株式会社三菱総合研究所実践的リスクマネジメント研究会編著[2010]『リスクマネジメントの実 践ガイドーISO31000 の組織経営への取り組み<第1版>』財団法人日本規格協会

・Pine B. Joseph Ⅱ,James H. Gilmore, (1999), The Experience Economy, Harvard Business School Press,

(岡本慶一,小高尚子訳,「経験経済」ダイヤモンド社(2005)).

・Vargo, Stephan L., Robert F. Lusch, (2004), Evolving to a New Dominant Logic for Marketing, Journal of Marketing, 68

図表 4−1 観光リスクマネジメントツールの活用例(医療ツーリズムの場合)

観光目的 医療ツーリズム 観光当事者 医療事業者

行動 プロセス

具体的 トラブルリスク

リスク分析 リスク評価 リスク対応

影響度 頻度

患者居住地 での契約

理解相違

渡航中

(往路移動)

容態悪化

受診地での コミュニ ケーション

誤訳発生

受診地での 習慣・文化 の違い

食事ミスマッチ 院内トラブル 感情的対立

違法行為 渡航中

(復路移動)

容態悪化

患者居住地 での再診・経 過治療

現地病院が治療 拒否

整理演習 設問2

リスク分析、リスク評価、リスク対応の 空欄に、あなたの考えを記入し、

その回答を授業課題( 回答)の 整理演習回答記入欄に書いて下さい。

参照

関連したドキュメント

Japan Advanced Institute of Science and Technology JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ Title

域発の観光は「成功」である。来訪した観光客が地域

 中国人観光客の買物行動やその背景を分析している先行研究として,卿,杜,劉 (2015)

 本稿では、地域における資源を外来者に呈 示することをその主な活動内容とする「観光

外資本によって行われる。この段階が進むにつれて,観光地としての集客力は地域を基盤とする

継あるいは録画映像で体験することができるだろう。日本人

∼戦略的リスクマネジメント策定と組織設計プロセスに関連して∼ 井戸賀 文 生

2 附属養護学校,幼稚園 附属小中学校の教室設置型システムとは異なり,移動 型システムとしている。このシステムでは,画像は」旦