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音楽教育における本質知と行動知に関する実践的研究 一美的音楽教育とプラクシス的音楽教育の考察を通して一
教科・領域教育専攻 芸術系コース(音楽) 金 套 道
目的
教育課程改訂の際には,その時代と文化に要 求される教育思想、と哲学に基づいて,教育目標 や指導内容が設定される。従って,音楽教育を 行うためには,音楽教育のカリキュラムと実践 を支える原理を哲学的に論究する必要がある。
このような音楽教育哲学の代表的な2つの音 楽観がある。「美的音楽教育Jは,旋律,リズム,
強弱などの音楽の構造を理解すること,すなわ ち,概念的アフ。ローチから音楽的感受性を高め ていくことで 1970年代のアメリカを始め,世 界に広がっていった。しかし, 1990年代からリ ーマーの美的音楽教育に対する反省と批判が出 てきて,エリオットはリーマーの「美的音楽教 育Jの批判と共にその対案として「プラクシス 的音楽教育J という新しい音楽教育哲学を提案 している。プラクシスによると,音楽は反応す る対象ではなく,実現させる対象であると主張 し,音楽的経験の本質も聴こえる音楽に対する 美的知覚一反応によって決められるのではなく,
音楽を実現する過程を通して経験できる実践的 経験であると主張している。
本研究では,音楽科カリキュラムを条件づけ る諸要因の中で,哲学的要因の立場から韓国と 日本の小学校の音楽科カリキュラムを考察する ことによって音楽教育の理解を深める。その手 掛かりとして「美的音楽教育J と「プラクシス 的音楽教育J の理念を,今日の音楽教育実践の
指導教員 西 園 芳 信
一つの示唆を与えるものとして取り上げる口ま た音楽教育の哲学的研究における授業実践の 位置について検証し,音楽教育をどう捉えてい
るかについて考察する。
結果
理論的検討から,以下の内容が明らかとなった。
1.音楽科カリキュラムは,その変遷の背後に ある教育思想・美学思想によって,目標及び指 導内容が変わっていった。
2.既存の音楽教育に対する反省的考察とこれ からの音楽教育の在り方を考える際には,哲学 的研究が必要である。
3.美的教育は,芸術作品を美的対象として価 値づけ
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感じるJr
味わうJなどの美的経験から感受性を高めていくことに意義をもっ。従っ て,美的音楽教育の目標は,音楽の構造を理解 することによって,音楽を感覚的,意識的に認 識する「本質知Jを増し,音楽的感受性を洗練
させていくことである。
4.プラクシス的音楽教育のpraxisの意味は,
理論的知識と技能的知識の中間的な実践知識を 指す。それは,表現・演奏中心教育だけでなく,
音楽する行為の中での意図的活動,価値指向を 伴う活動も含む。このように目的や価値観に向
けた活動を「行動知J とよぶ。
5.音楽に対する理解が優先するのが美的音楽 教育であり,人間の意図とそれに基づく行動が 大事に扱われるのがプラクシス的音楽教育とい
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える。つまり,両方の違いは音楽中心か,人間 中心かということなのである。
実践的検討により,表現(歌唱)と鑑賞の授業 実践から「本質知J と「行動知J の結び、つきが 明らかになったD 指導内容としては,音色,リ ズム,音の重なりなどの音楽の表現的特質を知 覚し,それに反応することから,音楽を自分に とって価値あるものとして認識し,有意義な活 動ができるようにすることまで,幅広く考えた。
また,楽曲によって或いは個人の経験によって 両者の往来があったり,それが同時に表れる場 合もあった。
方法
まず,理論的検討では,音楽科カリキュラム を歴史的に概観し,背景となる教育思想を明ら かにした。次に,音楽教育のカリキュラムと実 践を支える原理を哲学的に論究するため,リー マーとエリオットの音楽教育哲学に対する論争 を取り上げた。そして,音楽教育が美的教育か プラクシス的教育かという対立の構図を「本質 知Jと「行動知Jとして捉え,現行の音楽科カ
リキュラムに当てはめてみた口
最後に,実践的検討からは,
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本質知jと「行 動知jの統合を目指した記号論システムによっ て音楽学習の在り方を明らかにした。内容
第1章では,音楽科カリキュラムの変遷を哲 学的観点から分析した。その結果,時代ごとに 国の文化や事情によって,経験主義や系統主義 などと教育課程の基盤が大きく異なることが明
らかになった。
第2章では,音楽教育哲学の2つの音楽観と してリーマーの「美的音楽教育j とエリオット の「プラクシス的音楽教育J を取り上げ,理論 的に考察した。この2つの音楽観は f音楽中心J
と「人間中心jの対立として整理した。
第3章においては,音楽科カリキュラムの現 状を考えるために,日本の学習指導要領と韓国 の教育課程が掲げる目標及び指導内容を「本質 知Jと「行動知Jの観点から分析した。その結 果,両方ともに美的音楽教育の特徴が多いこと が明らかになった。
第4章では,美的音楽教育の概念的アプロー チとプラクシス的音楽教育の実践的アプローチ の特徴が統合されたラングの記号論モデルに基 づいて,新たな音楽授業を構想した。音楽学習 としての「本質知J と「行動知Jの意義と指導 内容構成について,以下のように結論づけた。
1.音楽学習においては,音楽の美しさを「感 じ取るJ
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味わうjことと,実際に子どもたちが 音楽をする「行為Jr
実践Jとの関連を考えることが重要である。
2.音楽科の指導内容は,芸術作品の享受・理 解に焦点を置いた美的教育と,子ども一人一人 の思いや意図を尊重するプラクシス的教育の両 方の立場から考えることが望ましい。
今後の課題
本研究では,小学校の4年生と 6年生の児童 を対象に,表現(歌唱)と鑑賞の新たな授業を構 想した。しかし,全学年と全領域について,
r
本 質知」と「行動知Jを系統的・発展的に整理し ていくことが必要である。そして,今回の実践 では,音楽学習としての「本質知Jと「行動知J が比較・統合された記号論システムに基づいた 授業実践に限定したが,人間の発達と認識論の 観点から捉えた見解も参考にする必要があると 考える。また,r
本質知J と「行動知Jの統合を目指した音楽科カリキュラムの在り方を明らか にしていきたいD
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