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生物物理化学 2009 ; 53 : 18 ルゲン, 酵素異常症など ) は含まない 1, 7). 2) 症状食物アレルギーの症状は, 標的臓器組織別に分類すると, 皮膚組織の場合, 皮膚症状として瘙痒感, 潮紅, 蕁麻疹, 血管浮腫, 紅斑, 湿疹などが生じるが, 添加物を含む食品のアレルギーでは

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〔シンポジウム 1:食物アレルギー研究の最前線〕

食物アレルギーの現状と課題

池 澤 善 郎

SUMMARY

In this paper, at first the definition and epidemiology of food allergy, relationship

between type of food allergy and the onset, and route of food sensitization were explained.

Then, the pathomechanism of oral allergy syndrome (OAS) of IgE-mediated class 2 food

allergy, late-onset natto anaphylaxis and enhancement effect of NSAIDs on food allergy

were discussed as topics of recent food allergy.

Key words: oral allergy syndrome (OAS), IgE-mediated class 2 food allergy, late-onset

natto anaphylaxis, enhancement effect of NSAIDs on food allergy.

はじめに 一般に IgE 伝達性の即時型食物アレルギーと T 細胞伝達 性の遅延型(非即時型)食物アレルギーの 2 つに大別され る.後者の非即時型食物アレルギーの実態と動向は疫学研 究が少なく不明であるが,前者の即時型食物アレルギーは これまでの疫学調査からその増加傾向が指摘されている1) 最近,花粉症やラテックスアレルギーの増加と共にこれら のアレルギーとの交差反応により食物摂取時に口腔粘膜を 中心に生ずる口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome; OAS)が増えている2).最近,私達は,IgE 伝達性のアレ ルギーであるにも関わらず通常摂取後数分から 1 時間以内 に発症しないで,摂取後約半日後に発症する特異な納豆ア レルギーを数例経験した3).また小麦摂取だけでは誘発さ れない潜在性の IgE 伝達性即時型小麦アレルギーが運動を 加えることで誘発されることは,小麦依存性運動誘発アナ フィラキシー(wheat dependent exercise-induced anaphylaxis: WDEIA)として知られるが,この小麦アナフィラキシーが 運動の代わりにアスピリンのような cycloxigenase(COX)-1 阻害選択性の NSAIDs や同様の効果を示す食品添加物の同 時摂取により誘発され4),しかも小麦プラス運動では誘発

されない症例でも誘発されることから,小麦依存性アスピ

リン誘発アナフィラキシー(wheat dependent aspirin-induced anaphylaxis; WDAIA)/ 小麦依存性サリチル酸製剤誘発性 ア ナ フ ィ ラ キ シ ー(wheat-dependent salicylate-induced anaphylaxis; WDSIA)なる過敏症の概念が提案されている5, 6). そこで,本稿では,食物アレルギーの現状と課題と題して, まず,食物アレルギーについて,食物アレルギーの定義, 症状,疫学,分布,食物アレルギーのタイプと発症時期, 感作経路の違いによる食物アレルギーの亜分類(クラス 1 &クラス 2)を簡単に解説し,次いで,話題の食物アレル ギーとして,特に,クラス 2 食物アレルギーとしての OAS, 遅発性の納豆アナフィラキシー,食物アレルギーに対する NSAIDsの増強効果を取り上げ,その機序と治療について 解説する. 食物アレルギーについて 1)定義 食物アレルギーとは,厚生労働科学研究班(主任研究者  海老澤元宏)作成の「食物アレルギーの診療の手引き 2008」よれば,原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介 し生体にとって不利益な症状(皮膚,粘膜,消化器,呼吸 器,アナフィラキシーなど)が惹起される現象」と定義さ れ,食中毒,毒性食物による反応,食物不耐症(仮性アレ

Topics of recent food allergy.

Zenro Ikezawa; 横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学教室

Correspondence address: Zenro Ikezawa; Dpt of Enviromental Immuno-Dermatology, Yokohama City University Graduate School of Medicine, 3-9 Fukuura, Kanazawa-Ku, Yokohama, Kanagawa 236-0004, Japan.

Fax: 045-790-3086

E-mail: ik4512@med.yokohama-cu.ac.jp 第 59 回日本電気泳動学会総会・シンポジウム

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ルゲン,酵素異常症など)は含まない1, 7) 2)症状 食物アレルギーの症状は,標的臓器組織別に分類すると, 皮膚組織の場合,皮膚症状として瘙痒感,潮紅,蕁麻疹, 血管浮腫,紅斑,湿疹などが生じるが,添加物を含む食品 のアレルギーでは稀に蛋白尿や血尿,腹痛や血便などを伴っ て血管炎の症状を呈することもある.皮膚に隣接する粘膜 組織の場合,皮膚粘膜症状又は単独の粘膜症状として花粉 症様の結膜の充血や浮腫を伴う瘙痒感や流涙,眼瞼湿疹と 眼囲皮膚炎,鼻水と鼻孔周辺の発赤・皮膚炎,そして後述 する口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome: OAS)に 見られるような口唇腫脹,口腔粘膜や舌の違和感と腫張, 喉頭の絞扼感と浮腫,嗄声,喉の痒みとイガイガなどが生 じる.消化器の場合,消化器症状として腹痛,悪心,嘔吐, 下痢,血便,肝機能異常などが,呼吸器の場合,呼吸器症 状として上気道 ではくしゃみ,鼻汁,鼻閉,下気道では呼 吸困難,咳嗽,喘鳴などが生じる.ほかに血液循環に及ぶ と全身性症状として,頻脈,虚脱状態(ぐったり),意識障 害,血圧低下を起こしてアナフィラキシーショックを来たす. 3)疫学 日本における食物アレルギーの有病率は,乳児が約 10%, 3歳児で約 5%,学童以降が 1.3–2.6%程度と考えられ,全 年齢を通して推定 1–2%程度の有病率とされている8–10) 先に述べた臓器組織別の食物アレルギー症状の頻度は,即 時型に限れば,皮膚症状が 88.6%,呼吸器症状が 26.8%, 粘膜症状が 23.8%,消化器症状が 13.4%,ショック症状が 10.9%と皮膚症状が最も高い11). 4)分布 前述した食物アレルギーの皮膚粘膜症状は通常汎発性で あるが,接触蕁麻疹や OAS のように原因アレルゲンとなる 食物に接触した皮膚や口腔咽頭粘膜部位に限局して IgE 伝 達性の即時型(I 型)アレルギー反応が生じ,反応が激し い場合は,皮膚や口腔粘膜の接触蕁麻疹症候群として汎発 性蕁麻疹,花粉症様症状,腹痛,アナフィラキシーショッ クなどの stage II/III から IV に至る全身症状を発する. 5)食物アレルギーのタイプと発症時期 食物アレルギー症状の発症時期は,アレルギーのタイプ とその他の様々な要因により次のように異なってくる.I 型 の IgE 伝達性即時型アレルギー反応の場合,通常,即時相 の早発性反応として蕁麻疹,血管浮腫,花粉様症状などが 出現し,時に数時間遅れて遅発相の蕁麻疹・紅斑反応が生 じる.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIA)の場 合,即時相の早発性反応でありながら,原因食物の摂取だ けではアレルギー反応が誘発されず,運動負荷を加えて誘 発されるためその発症は運動負荷の時期に左右される.こ れに対して,納豆による遅発性アナフィラキシーの場合, 後で述べるように即時型アレルギー反応でありながら,恐 らく納豆に含まれるネバネバ物質が一種の徐放剤として働 くため遊離されるアレルゲンがアレルギー反応誘発に必要 な用量に到達されるまでに数時間から十数時間かかるため に遅発性の発症となると考えられる.こうした IgE 伝達性 即時型(I 型)アレルギー反応は,少なくとも原因となる 食物抗原を含有したアレルゲンを用いるならば,食物特異 的 IgE 抗体と prick test(PRT)が陽性となる.IV 型の T 細 胞伝達性遅延型反応の場合ミルク誘導性の湿疹・紅斑のよ うに原因食物摂取数時間後から 24–48 時間後に出現・悪化 することが特徴であり,原因食物を診断する上では感度は 余り高くないが食物を用いたパッチテストやリンパ球刺激 試験(lymphocyte stimulation test; LST)が参考になる. 6)感作経路の違いによる食物アレルギーの亜分類(クラ ス 1 &クラス 2) 卵・牛乳・ソバ・小麦などによる通常の食物アレルギー は,熱や消化酵素に安定な完全食物アレルゲンが原因となっ ているために経腸管的感作により誘導され,クラス 1 食物 アレルギーに分類される.これに対して,果物・野菜によ る OAS は,原因となる食物抗原が熱や消化酵素に不安定 で,加熱や消化で抗原性が消失され易い不完全食物アレル ゲンであるため,交差反応性のある花粉抗原やラテックス 抗原にそれぞれ吸入感作と接触感作され,non-sensitizing elicitorの食物によって引き起こされる IgE 伝達性即時型ア レルギー反応であり,従来のクラス 1 食物アレルギーから 区別してクラス 2 食物アレルギーに分類されている12) 話題の食物アレルギーとその課題 1)クラス 2 食物アレルギーとしての OAS 最近,野菜や果物などを食べたときに唇が腫れる,喉が イガイガする,口内がしびれる・かゆくなる,鼻水がでる などの症状が発現する OAS が,花粉症とともに増加してお り話題になっている.OAS は IgE 伝達性即時型アレルギー 反応であるが,通常の即時型食物アレルギーと異なり,感 作食物抗原と誘発食物抗原が同じでないという違いがある. これは,OAS の原因食物となる野菜や果物に含まれる抗原 の多くが,消化酵素により変性・失活し易いために感作能 が弱く,それと交差反応する花粉抗原やラテックス抗原で 経気道感作されるか接触感作され,交差反応により誘発さ れる.Fig. 1 はクラス 1 食物アレルギーとクラス 2 食物ア レルギーを模式的に図示したものである12).その症状は, 食物摂取した 5–15 分後にアレルゲンが口腔粘膜から吸収 され,まず前述したような口唇腫脹,口腔内違和感,咽喉

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頭閉塞感が生じ,進行すると stage 2 の鼻炎・結膜炎症状, 気道症状(喘息)と消化器症状(腹痛・下痢),stage 3 の 全身性の蕁麻疹・血管浮腫,stage 4 のアナフィラキシー ショックを惹起するため口腔粘膜の接触蕁麻疹症候群とも 言える.IgE-伝達性クラス 2 植物性食物アレルギーの果 物・野菜による OAS は,交差アレルゲンが花粉抗原かラ テックス抗原かによって Pollen food allergy syndrome (PFAS)と latex-fruit syndrome(LTS)の 2 つのサブタイ プ に分類される.Fig. 2 は両者の違いを模式的に示したも のである2).PFAS ではシラカンバ花粉やハンノキ花粉と りんご,桃,いちご,キュウイなどとの交差反応が,LFS ではラテックスとクリ,アボガド,バナナ,キュウイなど との交差反応がよく知られる.Fig. 3 は交差反応性の食物 抗原分子による経口感作能と経口誘発能の相違を模式的に 示したもので,果物・野菜中の抗原分子が脂質輸送蛋白の ように経口感作能がある場合,吸入感作や接触感作なしに 食物アレルギーが成立するために花粉症やラテックスアレ ルギーの合併がないクラス 1 食物アレルギーとしてモモ・ リンゴ・カシューナッツなどによる OAS が生じることに留 意するする必要がある2, 13, 14) OASの自然治癒については,Amlot らの報告によれば, 魚,ナッツ,卵で 21 例中 4 例に耐性がみられたという報 告があるが,花粉症に関係した OAS の場合花粉症の自然寛 解が少ないため症状が消失することは少ない.従って基本 的には原因食物の除去食と抗アレルギー薬の使用が治療の 中心となる.また OAS は他のアレルギー疾患と同じように ストレスにより症状が悪化することも多いので生活上の指 導も重要である.初発症状が口腔内違和感のみであっても, くりかえし摂取するうちに症状が重篤になり,ついには ショックを来すこともあるので,症状の軽微な OAS でも患

Fig. 1. Class 1food allergy & Class 2 food allergy.(矢上 健.ラッテクスアレルギーの 基礎.アレルギーの臨床 1999;19:749–753 の図の改変)12)

Fig. 2. Subtype of fruit/vegetable-OAS of IgE-mediated class 2 plant food allergy. (矢上 健.ラテックス果実症候群と花粉症に伴う口腔アレルギー症候群と

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者さんへの啓蒙教育が必要である.一般に果物・野菜類は 抗原性が不安定なため加熱処理により摂取可能になること が多く,白樺花粉症やハンノキ花粉症と交叉するリンゴの OASは口腔咽頭症状だけで終わることが多いが,栗やセロ リの OAS は重篤な症例が多いので注意が必要である.また 花粉の飛散期のみに鼻症状と OAS を来し,鼻症状の薬物治 療やアレルゲン対策により OAS の症状も軽快することがあ るので,こうした症例には花粉症の治療と合わせて抗アレ ルギー薬の使用が薦められる.花粉症の減感作療法や脱感 作療法は,花粉症だけでなく OAS の症状を軽減し食物摂取 が可能になるので,花粉症に伴う難治な症状の重い OAS に 対しては根治的な治療としてこの療法が薦められる.将来 の治療法としては抗原量が一定せず種々の蛋白質が含まれ る粗抗原の代わりに精製抗原を用いた減感作療法やペプチ ド療法の開発研究の発展が期待される. 2)遅発性の IgE-伝達性納豆アナフィラキシー 最近,私達は IgE 伝達性の反応が推定されるにも関わら ず,遅発性にアナフィラキシー症状を呈してくる納豆アレ ルギーを発見した.教室の松倉らは 2001 年 5 月に第 13 回 春季アレルギー学会(横浜)において食物摂取から約半日 後に症状が生じる特異な遅発性の納豆アナフィラキシーの 症例を初めて報告した15, 16).引き続き同様の症例を 2 例経 験し,計 3 例を報告した17).さらに 4 例が追加され,当教 室で経験した症例は計 7 例となり18, 19),他施設からも同様 症例が 4 例報告され20–23),合計 11 例となっている.これ らの症例は,全例男性で,摂取した約 5 時間~ 13 時間後 に蕁麻疹や血圧低下などの症状が出現するという特異な遅 発性の発症に特徴があり,納豆そのものを用いた as is PRT が強陽性の膨疹反応を示し,血清中に納豆と反応する IgE 抗体が検出されるため,IgE 伝達性即時型アレルギー反応 と考えられる.PRT で納豆の材料となる大豆や納豆菌は陰 性で,ボイルした納豆に納豆菌をかけて発酵したものでは 陽性となることから,発酵により新たに生成された納豆蛋 白質が原因アレルゲン分子になると推定されるが,松倉ら が報告した第 1 例目の PRT の結果を良く見ると,納豆 as isが 3+ の強陽性で,12 時間経過後も著明な発赤と腫脹が 残存し,納豆抽出液のろ過・非ろ過成分共に 3+ の強陽性 で納豆菌と大豆は陰性であったにも関わらず,大豆だけで なく小豆(アズキ)を納豆菌と 1 日培養しても 2+ の陽性 で,さらに納豆菌だけを Agar 寒天培地で 1 日培養しただ けでも 2+ の陽性であるため,原因アレルゲン分子が納豆 菌だけの培養で生成される可能性が高く14, 15),原因抗原は 納豆由来でなくて培養納豆菌由来かもしれない.経口負荷 試験によって納豆摂取 13 時間後に症状出現時に血漿中の ヒスタミン値やトリプターゼが一過性に上昇したことから, その時点では肥満細胞や好塩基球が活性化され脱顆粒して いると考えられるので,発症が通常の即時型アレルギー反 応より遅くなるというだけで納豆アナフィラキシーの機序 そのものは IgE 伝達性の即時型アレルギー機序と何ら違い がないと考えられる24).それではこの納豆アナフィラキ シーはどのような機序により遅発性となるのであろうか. 納豆のネバネバ物質には徐放作用のあるポリガンマグルタ ミン酸(PGA)が多量に含まれているので,アレルゲン分 子がその徐放作用によって腸管内に徐々に放出され,吸収 されるためと推定される25, 26).その点で,納豆摂取後に運 動した症例において摂取後 4–6 時間後と比較的早く症状が 発現しているのは興味深い20).腸管からの食物の吸収が運 動により促進されるためと解釈できる.Fig. 4 は,納豆ア レルギーにおける遅発性発症のメカニズム(仮説)を模式 的に図示したものである3).納豆アナフィラキシーは納豆 摂取から症状出現までに約半日もかかるため,納豆が原因 であると気付かない患者さんが多い.その上,納豆は大豆 アレルギーの患者さんでも摂取可能な大豆加工食品である という利点があり,最近では骨粗鬆症の予防,高脂血症の 予防,血栓溶解作用,抗酸化作用,癌予防作用,腸内病原 菌に対する抗菌作用など多様な効能が報告され大変人気が あるため,摂取量がもっと増える可能性が高く注意を要する.

Fig. 3. Difference of perioral sensitizing and provocating activity of the cross-reactive food antigen.

Fig. 4. A probable pathomechanism of late onset anaphylaxis to Bacillus natto-fermented soybeans (natto).

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3)食物アレルギーに対する NSAIDs の増強効果 近年,食物や薬物などを含めて環境中の各種化学物質の 非アレルギー様作用により誘導される非ステロイド系消炎 鎮痛剤(NSAIDs)の不耐症,ホルマリンなどによるシック ハウス症候群,各種化学物質に過敏反応を示す化学物質過 敏症の増加が注目されており27–29),ここでは食物アレル ギーに対する NSAIDs の増強効果を取り上げて解説する. アスピリンに代表される NSAIDs とそれに関係した食品添 加物は不耐症として蕁麻疹や血管浮腫を引き起こし29),こ れらの不耐症は慢性蕁麻疹に合併し易く,この不耐症合併 の有無に関わらず慢性蕁麻疹を高率に誘発・増強する. NSAIDsや食品添加物は,また WDEIA を誘発・増強し5, 6, 30), 食物摂取だけで生ずる小麦アレルギーや果物・野菜による 口腔アレルギー症候群に対しても増強効果がある31, 32).運 動誘発の明らかな病歴がある WDEIA であるにも関わらず, 小麦摂取に運動負荷を加えても症状が誘発されないことは しばしばあり,それにアスピリンの内服を加えて初めて症 状が誘発されることがある.最近,私達は,病歴からも運 動誘発が明らかでなく,アスピリンや食品添加物を摂取し て症状が誘発され,それが入院による負荷誘発試験で確認 された症例を経験した5, 6).このように小麦摂取のみ又は 小麦摂取と運動の組み合わせでは誘発されず,小麦にアス ピリンやサリチル酸製剤などの食品添加物の摂取を組み合 わせると誘発されるため,先に述べた WDAIA/WDSIA なる 過敏症の概念が提案されている5, 6).実際,私たちが経験 した WDAIA の症例の病歴を詳細に調査すると,これまで 通常のうどんや食パンなどの小麦食品を食べて運動しただ けで症状が出現したことはなく,症状出現前の食事歴をよ く調べるとパン摂取後イブプロフェン内服,ラーメン摂取 後,コンビニのサンドイッチを摂取後,カレーライス摂取 後,市販の調理パン摂取後と,症状が出現した時はいつも 外食の時とか食品添加物が含まれる小麦食品を摂取した時 とか,或いは小麦食品摂取後に NSAIDs 服用していたこと が判明している.こうした WDAIA/WDSIA に合致する症例 は,自験例の 2 例を含めて現在 7 例報告されており5, 6, 33–37) さらに増えることが予想され,WDAIA/WDSIA なる疾患概 念を支持するものである.またアスピリンのような NSAIDs による即時型小麦アレルギーに対する増強効果は,負荷誘 発試験による全身的な即時型アレルギー反応だけでなく, 局所的な即時型アレルギーの皮膚試験反応でも認められ, このような NSAIDs の増強効果は NSAIDs 不耐症と同様に COX-1阻害選択性の NSAIDs で認められ易く COX-2 阻害選 択性の NSAIDs では認められにくい傾向がある29, 38) 私達が実施した小麦が 20 g の比較的少量負荷では症状が 誘発されないのに,小麦が 100 g の比較的多量負荷で症状 が誘発される小麦アレルギーにおいて,小麦 20 g の少量負 荷でも WDEIA と同様に運動負荷を加えると症状が誘発さ れ,COX-1 選択性阻害薬のアスピリンの投与によっても用 量依存性に症状が誘発されたが,COX-2 阻害薬の NSAIDs を投与した場合症状が誘発されなかった.この誘発試験で 小麦由来の血中グリアジン濃度は 5 倍の小麦 100 g を摂取 した時よりも 2 倍に高くなった39).Matsuo H らは,NSAIDs, 特に,COX-1 選択阻害薬の NSAIDs は腸管粘膜を障害して 食物アレルゲンの腸管吸収を促進すると報告しており40) 自験例は COX-1 選択性阻害薬のアスピリンの投与によって 小麦由来の血中グリアジン濃度が約 10 倍上昇する程度に 腸管からの小麦抗原の吸収が促進されたと解釈出来る.こ のような NSAID の食物アレルギーに対する増強促進効果 に関しては,当初 NSAIDs 不耐症による蕁麻疹や喘息の場 合と同じように,COX-2 選択性阻害薬の NSAIDs のエトド ラックやメロキシカム及び塩基性の NSAID の塩酸チアラ ミドではこの増強促進作用が見られにくいことから,NSAID 不耐症と同じ様な非アレルギー機序の関与が推定される. しかしながら,気道型 NSAIDs 不耐症の NSAIDs 喘息の仮

Fig. 5. The same principle functions in the latent and overt wheat allergy and chronic urticaria exercerbated and promoted by exercise and NSAIDs.

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説である COX-1 阻害によるリポキシギナーゼの活性化とそ れに伴うロイコトリエン過剰産生説では,食物依存性運動 誘発アナフィラキシーや即時型食物アレルギーと慢性蕁麻 疹に対する NSAIDs の誘発・増強効果は説明できない.そ れはこれらの誘発・増強効果は抗ロイコトリエン拮抗薬で 阻害できず,通常血漿ヒスタミン値の上昇を伴って抗ヒス タミン薬(H1拮抗薬)で抑制されること,また COX-1 阻 害活性や対称性のリポキシナーゼ活性の上昇に必ずしも一 致しないためである.その点では,先に紹介した小麦に由 来するグリアジンの血中濃度を約 10 倍も上昇させるよう な小麦の経腸管的吸収促進効果に加えて,抗原特異的プリッ クテスト膨疹反応に対する増強効果,in vitro のアレルゲン 特異的ヒスタミン遊離に対する増強効果,さらにはヒスタ ミン遊離抑制作用があるプロスタグランジン E2 の産生低 下を介したヒスタミン遊離の促進作用が NSAIDs の誘発・ 増強効果を説明してくれる39–44).したがって,こうした NSAIDの潜在的・顕在的即時型食物アレルギーに対する誘 発増強効果には,少なくとも NSAIDs の抗原特異的ヒスタ ミン遊離促進作用と食物抗原の経腸管的吸収促進作用の 2 つが関与しており,自己免疫性の即時型アレルギーとされ る慢性蕁麻疹の誘発増強作用にも同じ様な機序の関与があ ると推定される.そのため汗成分や血清成分に対する自己 免疫性のアレルギー機序が推定されるコリン性蕁麻疹も同 じ様に NSAIDs やその関連物質の投与によりその誘発・増 強がみられるかもしれない.Fig. 4 は,こうした考えから 即時型食物アレルギーに対する運動や NSAIDs の誘発・増 強効果の仮説的機序を模式的に示したものである.WDEIA, 小麦アレルギーの誘発・増強に,恐らく自己免疫性の慢性 蕁麻疹やコリン性蕁麻疹の発症・増強にも同じ原理が働い ていると考えられる. 尚,本研究は,平成 19–20 年度科学研究費補助金「難治 性アレルギー性皮膚疾患の新規バイオマーカーと新規治療 法の開発研究」(19591320: 研究代表者 池澤義郎)並びに 平成 20 年度厚生労働科学研究費補助金「NSAIDs 不耐症の 病態解明と診断治療指針作成に関する研究」(研究代表者 谷口正美)の分担研究「即時型食物アレルギーに対する NSAIDsの増強効果に関する研究」(分担研究者 池澤善郎) により部分的に支援された. 文 献 1) 海老澤元宏(主任研究者).厚生労働科学研究班による 食物アレルギーの診療の手引き.2008:1–14. 2) 矢上 健.ラテックス果実症候群と花粉症に伴う口腔 アレルギー症候群との類似点.アレルギーの臨床 2000;20:854–860. 3) 池澤善郎,猪又直子,松倉節子.納豆アレルギー.感染・ 炎症・免疫 2007;37:74–81. 4) 松倉節子,池澤善郎.食物依存性運動誘発アナフィラキ シーにおける NSAIDs の増強効果.アレルギーの臨床 2007;27:209–214. 5) 菅原万理子,相原道子,小島実緒,猪又直子,和田秀文, 池澤善郎.アスピリン負荷にてアナフィラキシーを誘 発した小麦アレルギーの 1 例.日皮アレルギー 2005;13: 8–12. 6) 松倉節子,國見裕子,松木美和,井上雄介,松山阿美子, 蒲原 毅,山口展弘.小麦による食物依存性サリチル酸 誘発性アナフィラキシーの 1 例.第 19 回日本アレル ギー学会春季臨床大会.横浜,アレルギー 2007;56:307. 7) 食物アレルギー委員会報告.日本小児アレルギー学会 誌 2003;17:558–559.

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Fig. 2. Subtype of fruit/vegetable-OAS of IgE-mediated class 2 plant food allergy. (矢上 健.ラテックス果実症候群と花粉症に伴う口腔アレルギー症候群と
Fig. 4. A probable pathomechanism of late onset anaphylaxis to Bacillus natto-fermented soybeans (natto).
Fig. 5. The same principle functions in the latent and overt wheat allergy and chronic urticaria exercerbated and promoted by exercise and NSAIDs.

参照

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